5
「暗いよー寒いよー怖いよー・・・」
ビクビクオドオド挙動不審になりながらもソロソロと歩く。
「もう!しっかりしなくちゃ!勇者でしょリンク!」
神殿内に足を踏み入れてから変わらぬリンクのその様子に見かねてナビィが一喝した。
「んなこと言ったって怖いもんは怖いんだよ!!明らかにオバケとか出そうじゃん!!」
「逆ギレしないでよ!それにオバケが何!?今までさんざんポウもリーデットも倒して来たでしょ!?」
「モンスターそのものよりこの環境がダメなんだよ!ポウだって倒したの明るい場所でばっかりだったし!!」
「あーもう!いいから進むよ!ダーク先に行っちゃったじゃない!!」
徐々に口喧嘩に発展しかけたところで、ナビィが言ったように先行していたダークが壁に凭れ掛かりながら立っているのがリンク達の目に入る。
「え・・・待っててくれたのか?」
「遅ぇよ」
「どうしたの?」
ナビィの問いにダークの指した先には大きな穴。
ジャンプでは渡れそうにない距離に、いかにもといった的が向こう側の端に付いている。
「ああ・・・なるほど」
「フック貸せ」
「え、これ?・・・あっ」
リンクが懐から取り出したロングフックを奪い、ダークはさっさと対岸へ渡ってしまった。
「あ、ちょ!お前がそれ持ってったらオレどうするんだよ!」
「もう一本持ってんだろうるせえな」
「・・・あ、そうだった」
通常のフックショットを使いリンクも同じように渡る。
その間ダークは待っていたものの、フックを返せというリンクの要求には応じなかった。
「・・・ていうか、行き止まり?」
少し歩いた先には正面に壁。
訝しげに近付いたリンク達の耳に低く怪しい声がどこからともなく響いた。
『カカリコ村に伝わる真実の目を持つ者のみ闇は道を開くであろう』
途端にビクリと肩を震わせリンクが辺りを見回す。
「ななななななにいまのこえ」
「真実の目・・・何のことカナ?」
ビクつくリンクにはもはや構わず、ナビィは聞こえた単語を反芻した。
すると後ろに居たダークが痺れを切らしたように口を開く。
「おい何立ち止まってんだよさっさと行け」
「え?いやだって行き止ま・・・おわ!!」
背後から蹴りを食らったリンクは頭から壁に突っ込み・・・すり抜けそのまま床に顔面をぶつけた。
「んぶぇ!!」
「えっ、すり抜けた!?」
「・・・さっきから何言ってんだてめえら」
呆れたように言うダークに、ナビィは身体を半分壁に入り込ませ訊いた。
「ダーク、もしかして・・・ここの壁見えてないの?」
「は?んなもんどこにある」
実際すり抜けた訳だからここには無いようだが、リンクとナビィにはしっかりとリアルなドクロ柄の壁が見えている。
しかしダークにはどうやらそれが見えていない。
・・・これは、つまり。
ピンときたナビィはいまだ床で蹲るリンクに体当たりをかました。
「・・・い、痛い・・・・・」
「ほらリンクいつまで寝てるの!この神殿、多分ダークが居ればなんとかなるヨ!」
《境界線のハイウインド.5》
『我がクチバシを真実のドクロと対面させよ』
拓けたフロアに着いた途端リンク達の耳に響いたのは、先程と似たような重々しい声。
「ダーク、"真実のドクロ"・・・どれか判る?」
ナビィがそう訊けば、ダークは部屋をぐるりと見回し口を開いた。
「真実も何も髑髏は一つしかねえぞ」
「・・・やっぱり。ダークにはこの部屋の本当の姿が見えてるんだね」
「なーどういう事?」
未だにわけがわかっていないリンクと、恐らくダークも視線で説明を求めている。
部屋の中央には鳥の像、その周りに立つ6本の柱。
ナビィはそれをなぞるように翔びながらリンクへ問い掛けた。
「この部屋にドクロはいくつあるように見える?」
「へ?・・・6コ。」
「・・・なるほど」
リンクの答えにダークの表情が変わる。
戻ってきたナビィは解説を続けた。
「アタシもそう。けどダークにはドクロはひとつしか見えてない。多分、この神殿にはさっきの壁とか今みたいな幻覚・・・幻術か何かが多く掛けられてるんだヨ。そしてそれが何故かは知らないけどダークには効かないんだわ」
「んじゃ、真実の目ってのはそれを見破る力のこと?」
「そうでしょうね。もしかしたら、この神殿に来る前に何か手に入れなきゃいけないアイテムか何かがあったのかも」
それを聞いたリンクの顔がぱっと明るくなる。
「なんだ!てコトはダークに道案内して貰えばこの神殿すぐ終わるんぅべふっ!!」
「・・・随分都合の良い話だなぁオイ・・・」
言葉の途中で頭を傍の柱に叩き付けられ、リンクは再び奇声を上げた。
すりおろさんばかりにゴリゴリと手でリンクの顔面を押し付けるダークは見るからに不機嫌である。
よりにもよってリンクに都合のいいように利用されることをそもそも彼が良しとする筈が無いのだ。
それはナビィも既に理解していた。
「・・・素直に手を貸してくれるなんてアタシも思ってないよ。でも奥に行きたいのはアナタも同じでしょ?どうせリンクが此処で詰まってたら皆動けないんだし、ココは協力してくれない?」
ふわりと舞い正面から見詰めてくる妖精を暫く凝視した後、ダークはようやく手を離した。
「・・・いってぇー・・・」
「足手纏いになるようなら殺す」
「・・・善処はするワ」
ナビィはひとつ溜め息を溢す。
・・・リンクの様子を見ている限り、そうはならないと言い切れないのが辛いところであった。
『聖者の足を得た者だけが死者の谷を越えるであろう…』
そう書かれた看板の立つ大きな穴は"聖者の足"に該当するアイテムが何処かに在るのだろうと判断し、ダークの指示の下他の隠し通路を進んでいく。
『真実の目を得た者のみ闇に隠されしものを見るであろう』
『闇の神殿…それはハイラルの血塗られた闇の歴史…欲望と怨念の集まりしところ…』
『闇に隠されしもの…悪意に満ちたワナ…そして進むべき道も見えない…』
「だあああああもうイヤだあああああ!!!!」
リンクは堪らず半泣きで声を上げた。
・・・いちいち進む毎に、脅しの如く例の声が聞こえてくる。
「うるせえとっとと進め阿呆が」
「そうだよ、今のところ実害は無さそうだから気にしなくていいってば!」
半ベソをかくリンクの尻を蹴り上げたダークの、言葉とは裏腹にその顔は笑っていた。・・・いや、嘲笑っていた。
何だかんだで怯えまくるリンクを見ているのは思いの外楽しいらしい。
反対にナビィは激励するものの、いい加減にしろと徐々に苛立ちが募っているようだった。
・・・勇者とは一体なんだったのか。
しかしそんなリンクも、明確に姿を現す敵に対しては果敢に立ち向かっていった。
辿り着いた小部屋の中で、気味の悪い白塗りのモンスターの顔面をマスターソードでこれでもかと斬り刻む。
「ッしゃああああ!!姿さえ見えてればこっちのもんだもんね!!」
「よく言うワ。・・・それだってダークが地面から本体引きずり出すまで散々ビビってたのに」
「結果よければ全てよし!!」
誇らしげに剣を掲げて胸を張るリンクにナビィが溜め息を溢したところで、光と共に宝箱が現れた。
中には金の装飾が付いた一足のブーツ。
「ホバーブーツね。地面に浮かぶフシギなブーツ。すべっちゃうのが玉にキズ。」
「これがもしかして、聖者の足?」
「そうじゃない?多分これがあれば、さっきの穴も越えられるヨ」
「よし、じゃあ戻ろう!」
真実の目と聖者の足の両方が揃い、一行は難なく神殿の奥深くまで入り込んだ。
流石に慣れてきたのかリンクが悲鳴を上げる回数も徐々に減り、見える見えないの問題を除けば仕掛け自体もさほど難しいものではない。
単純作業はリンクが担い、方向の指示はダークと主にナビィが出す。
「・・・あ、開いた!」
死神の鎌を潜り抜け銀のルピーを回収したリンクは、扉の格子が上がったのを確認してダークを振り返った。
「もうこの部屋、怪しい所とか無いか?」
「・・・そうだな、あぁ、そこの壁」
「えーと、この奥のトコ?」
「ソコを真っ直ぐ進めば、」
「うんうん」
「穴がある。」
「ッギャアアアアアアアアアアァァァァァァァ・・・」
遠ざかる悲鳴の後にドシャリと激突したような音が響き、さらにその後に「いってぇー!!」だの「ダークのばかやろー!!」だのと罵声が飛んでくる。
音のタイミングとダーク自身が引っ張られなかったところを見るとそれほど深い穴ではなかったようだが、やがて這い上がってきたリンクの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「・・・もうやだぁ・・・」
ダークは腹を抱えて笑い転げ、ナビィがまたひとつ溜め息を吐く。
・・・終着点へ至るには、今暫くかかりそうだった。
[つづくよ]