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ゆらゆら揺れる。
ぐらぐら揺れる。
「うぇぇ・・・気持ち悪・・・」
「酔っちゃった?」
「よくわかんないけど・・・この揺れ気持ち悪い・・・」
闇の神殿、地下深く。底の見えない河を渡る、船とも呼べない船の上にリンク達は居た。
「そもそもフネって何なのさ?」
「主に水の上を移動する為の乗り物。海に面してないハイラルでは殆ど見ることはないと思うヨ」
アタシも話に聞いただけ、とナビィはリンクの頭上で羽を休めながら言葉を続ける。
「・・・まあでも、コレは明らかに普通の船とは違うと思うけどネ」
「それはオレにもなんとなくわかる・・・」
この神殿にあるのはどれもこれも不気味な仕掛けや設備ばかり。
これまでの道すがら目にしてきたそれらを思い出し、リンクはひとつ身震いした。
そんな中ナビィがいち早く異常に気付く。
「あれ・・・?リンク大変!この船墜ちちゃう、早くどこかに降りて!」
「ぅえ!?わ、わかった!」
いつの間にやらダークは一足先に行ってしまったようで、リンクも慌てて後を追い横手に見える岸へと飛び降りた。
「あっぶねー・・・」
背後を振り返れば、船の姿は既にどこにも無い。
・・・あと少しでも降りるのが遅かったら。
背筋がうすら寒くなるのを感じ、リンクはそこで考えるのをやめた。
《境界線のハイウインド.6》
「えーと・・・」
目の前にはまたもや底の見えない谷。
フックの掛かりそうな的は見当たらず、ホバーブーツでも渡れそうにない距離だった。
「んー、あっちの扉っぽいけど・・・マップ見たら行き止まりだな」
リンクは地図を仕舞い、対岸をじっと睨んでいるダークの隣に立つ。
「なんか見えた?」
「鍵付きの扉」
「あーホントだ、向こうの方にうっすらと・・・とりあえずここ渡れないじゃん。足場とか的とかは?」
「ねえな。とっとと鍵取りに行け」
「へーい・・・」
となるとやはり横手の扉。リンクはナビィを連れて中に入り、・・・十秒ほどで顔を出した。
「一緒に来てよおおおお!!!」
涙目で鼻を押さえ訴えるリンクに舌打ちを溢しダークが部屋に入れば、そこは簡易的な迷路のようになっていた。
しかしその仕切りはリンクには見えず、何も考えずに進んでいきなり顔面を強打したらしい。
もう少し打ち所が良ければ死んでくれたかな等と物騒な事を考えながら、ダークはとりあえずルートを示した。
「・・・そういやさ、お前何で奥目指してんの?」
ふいにリンクが口を開く。
勇者として賢者を目覚めさせる為に神殿を巡るリンクはともかく、ダークが今ここにいるのはどうしてだろう。
自分が引っ張ってきた事は棚に上げ、リンクは傍らを翔ぶ妖精にも目を向けた。
「ナビィも言ってたじゃん。奥行きたいのはダークも同じだって。なんで?」
「え、・・・だって、」
ナビィが答えるより先に、ダークが口を開く。
「売られた、喧嘩は、買う。」
区切られた台詞の節々で、眼前に居たフロアマスターが黒い剣に切り刻まれた。
半ば八つ当たりのようなその剣筋にリンクが若干顔を引き攣らせる。
・・・これは多分、聞かなきゃよかったと。
「大体なぁ・・・あの時てめえがいつまでも動かずボサッとしてたせいで取り逃がしたんだろうがよぉぉぉ!!あ"ァ!?」
「んぐぇ!!ごめん!それはごめん!!」
案の定ダークの機嫌は急降下した。
リンクがシークと話していたあの時、魔物に追撃をかけていたダーク側にリンクが合流していればわざわざここまで出向く必要は恐らく無かったわけである。・・・少なくともダークは、だが。
リンクは首筋を掴まれてがっくんがっくん揺さぶられた挙げ句、地面に落とされ3回踏まれた。
その辺にしてあげて、というナビィの声にダークは悪態をつき扉を開く。
リンクは呻きながら起き上がり、首をコキコキ鳴らして溜め息を吐いた。
「・・・もっかい殺されるかと思った」
「リンクが再起不能になったらダークだって動けなくなるからネ。一応あれで加減はしてるんじゃない?」
「あんまり下手な事言わない方がいいな・・・」
「そーね。モンスターの御機嫌窺うってのも癪だけど。・・・リンクの影なだけあってホント我が侭」
最後にボソリと呟いたナビィの言葉にリンクの眉根が寄る。
「・・・オレあんなんじゃないもん」
「何だかんだで中身は子供なのヨ、二人とも。」
腑に落ちないリンクがさらに口を開いたその時、扉の先から轟音が鳴り響きダークが部屋からするりと出てきた。
「・・・何してたの?」
「ハズレだ」
恐る恐る訊くナビィに、幾分落ち着いたらしいダークは一言だけそう言うとさっさと次の扉へ向かってしまう。
顔を見合わせたリンクとナビィは、なんとなくやめておいた方が良い気がして扉の中を見ることなくその後を追った。
・・・探索はまだ続く。
拷問部屋としか思えない大量の血痕が残る部屋でカギを拾い、その次の部屋では迫ってくる刺付の壁に囲まれてビビったリンクがディンの炎を暴発させて敵ごと部屋中を焼き払った。
煤こけた宝箱からボス鍵を入手し、船から降りた場所まで戻ってくる。
「これといったアイテムも無かったし、どうにかしてあっちまで渡らないとネ」
「あそこに生えてるバクダン花怪しいよなー・・・どうにかして引火させられないかな?」
リンクが指す対岸には不自然に群生したバクダン花。
試しにディンを撃つリンクだが、炎は全方向に飛ぶものの対岸までは届かなかった。
ついでに前触れなく使った為に避けなかったダークにまで当たり、一発殴られる。
ボス戦まであと少しだろうに、リンクの体力は既に点滅状態だ。
他に何かないかと見回すリンクは、岸の端に数個置いてある壷に目を留めて近寄った。
「あ、壷あるじゃん。何か入ってな・・・あっ」
しかし触れる前にダークがそれをひとつ拾い上げる。
片手で持ち上げ重さを確かめているらしいダークを、何するんだろうとリンクが黙って見ていると。
彼は一旦距離を置き、大きく腕を振りかぶり助走をつけて勢いよく壷を遠投した。
ぶん投げられた壷はリンクの視線と共に弧を描き、群生するバクダン花のひとつに命中する。
「うぉぉストライク・・・って、うわ!わ!」
刺激を加えられたバクダン花は他の花もろとも派手に爆発し、側にあった巨大な柱を薙ぎ倒した。
慌てて移動するリンクが居た位置に、柱の像の鼻先が勢いよく突き刺さる。
「・・・避けんなよ」
「そりゃ避けるよ!!!」
心底残念そうに舌打ちを溢すダークにリンクが叫んだ。
とりあえず足場は出来たものの、どうにも心臓に悪い。
寿命が縮みっぱなしだとぼやくリンクに、ナビィだけが同情して柔らかな光で擦り寄った。
カギを使い先へ進めば、目の前にボス部屋と思わしき豪奢な錠前の扉。
見えない足場をダークの後に続いて渡り、リンクはようやく神殿の再奥に辿り着いた。
「やっとボスかぁ・・・長かった・・・」
「リンク、まだ気を抜いちゃダメだヨ。」
「わかってる。・・・この下、だよな?」
最後の部屋に入れば、狭い空間の床にさほど大きくもない丸い穴。
ドドンゴの洞窟もこんな感じだったなと下を覗き込んでいると、隣からダークが先に滑り降りた。
「あ、待てよ!」
慌てて追いリンクが飛び降りれば、そこは暗闇にぼんやりと青白く浮かび上がった奇妙な足場。
「・・・なんだここ?」
すると。
ふいに現れた巨大な"手"が、ドンッと足場を叩きリンク達の足元が大きく揺れた。
「うわ!」
ドンッドッドッドッ
ドンッドッドッドッ
一定のリズムで叩かれる足場がぽよんぽよんと揺れ跳ねる。
「わ、わ、わ、何だコイツ!」
「暗黒幻影獣ボンゴボンゴ!コイツが井戸の魔物だヨ!」
ナビィの声に目をやれば、足場を叩く両手の真ん中に首から先が大きな赤い一つ目になった身体が見えた。
しかしそれは一瞬の後に両手を残し掻き消えてしまう。
「身体が消えた・・・見えなくなっただけか?」
「ち、目ぇ閉じやがった」
ダークがボソリと呟き、剣を手に疾る。
掴もうと迫る掌を潜り抜け、身体があると思わしき空間を斬りつけるが硬い音を立てて弾かれてしまった。
「ダーク!・・・ああもうこの足場動きにくいな!」
「リンク、たぶん弱点は隠れてる身体だヨ!」
襲い来る両手を躱し、リンクはナビィのアドバイスにダークを振り返る。
「さっき見えた赤い目!?」
「・・・だろうな。前に墓石投げ付けたら当たった途端に逃げに入りやがったから間違いねえ」
「は・・・ハカイシ??何やってんのよアンタ・・・」
ナビィの言葉を無視し、ダークが今一度斬り付けるもやはり剣は弾かれた。
どうにかして眼を開かせないととリンクが思考を巡らせる。
ドンッドッドッドッ
ドンッドッドッドッ
両手は攻撃の合間にもリズムを刻みながら足場を叩き、その度にリンクとダークの身体は跳ね気が散って仕方がない。
ドンッドッドッドッ
ドンッドッドッドッ
「「ッうぜええええええええええええええ!!!!」」
叫び声が重なり、リンクの撃った矢とダークの撃ったロングフックが同時に左右それぞれの掌を射止めた。
不気味な呻き声を上げ、両手は暫く掌を振った後に握り拳を作る。
「!開いた!!」
「マジ!?でも見えない!!」
突進してきた両手の間に向かいダークは嬉々として上段に剣を構えた。
そして耳障りな悲鳴が上がり、リンク達の視界にダークの剣が深々と突き刺さった赤い目玉が現れる。
「よっしゃ見えた!!」
リンクはマスターソードを振りかぶり、揺れる足場の反動を利用して高く飛び上がった。
「うおおおおおおおおおお!!!!」
ダークが剣を抜きざまにもう一撃を目玉に加える。
その直後、痙攣する身体ごとボンゴボンゴを聖剣が両断した。
「やったー!!」
ナビィが喜声を上げ、身を捩るように暴れるボンゴボンゴは次第に闇色の液体へ溶けて消えていく。
「はー・・・なんとか倒せぶふッ!!」
「・・・てめえヒトの獲物横取りしてんじゃねえぞコラぁ・・・」
一息ついた所で、脱力したリンクをダークが後ろから蹴り倒した。
わざわざこんな所まで足を運んだ挙げ句にオイシイところを持って行かれ、元から沸点の低い彼が怒らない筈がない。
「いや仕方ないじゃん!この神殿オレ全然イイトコ無かったし別にいいだろ最後くらい!?」
「知、る、か」
「うぐぇぇぇ・・・」
ギリギリと首を絞めるダークの手は緩む事なく、リンクが力尽き眩しい光が一度辺りを照らしてからも改めて数発殴り付けた。
「・・・もう!いつまで喧嘩してるの?早くこんな所出ようよ二人とも!」
「うるせえ羽虫!!」
「誰が虫よ!!」
「・・・ナビィも止めてよぉ・・・」
ナビィが見かねて怒り出すまで暴行は続き、いつまでも騒ぐ二人と一匹をよそに青い光はどこか虚しく輝いていた。
[つづく!]