境界線のハイウインド   作:こねこねこ

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8.ゲルドの砦(2)

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・・・何か、聴こえた気がする。

 

夕闇に融けるようにして影に沈んでいたダークは、浮上した意識と共に身体を引き摺り上げた。

 

辺りは茜色から宵闇へと徐々にその姿を変え、東の空からは満月が淡い光を帯びながら顔を出している。

雲はない。これならば、外に居る限りは身を隠す場所に困らないだろう。

充分に身体を休めたダークは陰から抜け出し周りを探る。

 

・・・さて。

 

追手を振り切る最中、ゲルドの女共に担ぎ上げられ運ばれていく勇者の姿を見た。

正直安否なんぞどうでもいいが、奴が拘束されたままだと自分が十分に動けないというのが非常に面倒だ。

恐らく砦の敷地外に出るか出ないかのあたりで引っ掛かるだろう。

 

「・・・・・、」

 

ウンザリした顔で舌打ちを溢し、ダークは砦の内部へと足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

《境界線のハイウインド.8》

 

 

 

 

 

 

 

「リンクまってて!アタシダーク探してくるから!!」

 

一方勇者の捕らわれた牢の中で、ひとしきり騒いだ後妖精ナビィが窓から飛び出した。

 

「・・・多分ダークもオレのこと探し・・・てくれてる、よね、たぶん?」

 

一人残されたリンクはそう呟いた後、見送った窓から目の前の壁に再び視線を移す。

 

「・・・どうにか出られないか頑張ってみよう」

 

頼ってばかりもいられない。

手持ちのアイテムを確認し、リンクは脱出の手立てを考え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

砦の中に配置された照明の位置を確認し、影に紛れてダークが駆ける。

 

コソコソと嗅ぎ回るような真似は気に食わなかったが、相手の数が数だけに今回ばかりは極力気付かれぬよう注力した。

やむを得ず姿を晒す際には相手が単独で動く隙を狙い、声を上げる間を与えず当て身で意識を奪うか迅速に首筋へ斬り込む。

 

幾度目かに遭遇した見張りの女の喉笛を切り裂き、その場を去ろうとした時ふと光るものが目に入った。

 

「・・・鍵か」

 

倒れ込んだ女が腰に提げていたらしい、小さな鍵束。

捨て置こうかとも考えたが、ふと思い直し無造作に掴み上げて懐へと突っ込んだ。

 

そのまま踵を返そうとした瞬間、影は黒剣を上空に向かって流すように滑らせる。

それとほぼ同時に、鋭い殺気と共にギラリと光る白刃が真っ直ぐにダーク目掛けて落ちてきた。

金属の擦れるけたたましい音が鳴り響き、降り立った女戦士が傍らに倒れ伏す仲間を見て激昂する。

 

「貴様・・・!!よくも!」

 

それに対して影は特に反応も返すことも無く、ただ面倒臭そうに舌打ちを溢すのみだった。

女は二振りの曲刀を構え、渾身の力をもって斬りかかる。

凄まじい速度で突っ込んでくる女に対し、ダークは僅かに眼を細めふらりとその体を後方へと傾けた。

刃が鼻先ギリギリを霞め、そのまま背中から倒れ込み・・・地に付く寸前にその姿が掻き消える。

 

「!?」

 

踏み込んだ女が狼狽え、辺りに目を走らせたその時。

"床に映り込んだ女の影"に潜っていたダークの姿は、既にその背後へと飛び出していた。

 

「!・・・なっ!?」

「ばーか」

 

振り向いた女の瞳に映るのは高く振りかぶった黒い刃。

爛々と輝く紅い眼が残像を引き、翳された剣が女の首筋目掛けて勢いよく振り下ろされる。

・・・刹那。

 

「待ちな!!」

 

突如響いた、第三者の声。

呼び掛ける制止の言葉にダークは襲い掛かる剣先を寸前で止め、・・・なかった。

しかし一瞬でも気をとられたせいか僅かに軌道が逸れ、その黒い刃が切り裂いたのは首ではなく女の肩口。

甲高い悲鳴が響き、眉をしかめる影は仕留め損ねた獲物へと再度刃を向けた。

しかしその時、横からふいに別の女が遮るように間へと割り込む。

 

「もう止めな、勝負は既についただろう!」

「・・・?」

 

険しい表情で真っ向から凝視してくる女に、ダークは一瞬の後に構えた腕を一旦下ろした。

訝しげな視線を向けるダークに対し、他の者より幾分か上等な衣服を纏ったその女は乞うように言葉を続ける。

 

「アタイはこの砦を任されている者だ。・・・アンタの強さはもう充分に解ったよ。ここらで勘弁してやってくれないかい?」

「先に手ェ出したのはそっちだ」

「悪いがそれはアンタらが砦内に無断で立ち入ったからさ。・・・一体目的はなんだい?」

 

取引しようじゃないか。

そう持ち掛ける女に対し、ダークはピタリと動きを止めた。

 

(・・・目的?)

 

反応を待つ女をよそに、ダークはふと思考を巡らせる。

そして、気付いた。

 

・・・特に、無い。

あの馬鹿と離れられないが為に同行はしているものの、世界を救うだの魔王を倒すだのといった勇者の使命に関して自分は何ら関係が無い。

他の事柄に対してもさほど興味を抱いていなかったが為に、ダーク自身の希望をいざ訊かれたところで自分は何一つ答えを持ち合わせていなかった。

 

(目的・・・・・)

 

時々頭を掠めはしたものの、いつも何やらモヤモヤした妙な感覚に邪魔されてうやむやのまま今日まで来てしまったが。

今も再び思考に立ち込める靄に眉間の皺を深め、ダークは女へと視線を戻した。

剣を背中の鞘に収め、適当な言葉を探す。

 

「とりあえず、あー・・・時の勇者を解放しろ。」

 

話はそれからだ。

そう続けようとして、ふと気配を感じ背後へ目をやると。

そこには、驚いたように動きを止めて浮かぶ薄青色の妖精がいた。

・・・まさか、今の台詞だけ都合よく聞かれたのでは。

ダークのこめかみが思わず引き攣る。

 

「ダーク・・・!アナタ、もしかしてリンクのために・・・!?」

「それ以上ふざけたこと抜かしたらその羽全部むしってやるから覚悟しとけ」

「ちょ・・・!やめてヨ!!」

 

ギン!と視線で殺しそうな勢いで妖精を睨み付けたダークは女へと顔を向けた。

 

「・・・わかった。わかったからいい加減その殺気を収めておくれよ。勇者ってのはさっき捕らえたアンタの連れだね?」

 

女は諸手を挙げ、呼び寄せた部下に負傷人の救護と牢への伝言を命じる。

 

「見たところアンタ、人じゃないようだが・・・何やら事情がありそうだね」

「死にたくなけりゃ余計な詮索はしねえことだな」

「すまない、忘れておくれ。・・・場所を移そう。アンタの連れも含めて話をしようじゃないか」

 

ダークの高圧的な態度は変わらないものの、害意はひとまず無いことを確認し女は妖精にも目を向けた。

 

「よかった・・・何とかなりそうなのネ。ダーク、アナタがロングフックを持っていっちゃったからリンクが身動き取れなくて困ってたんだヨ?」

「は?そんなもん無くてもどうとでもなるだろうが」

 

・・・半ベソをかきながら喚く馬鹿の姿が目に浮かぶ。

 

「どうって?」

「・・・例えば、」

 

ダークは呆れたように、口角を吊り上げつつ口を開いた。

 

 

 

 

 

「アイツが今までケチって溜め込んできた爆弾で所構わずぶっ飛ばす、とかな。」

 

 

 

 

 

そしてその直後。

その言葉をそのまま実行に移したかのような凄まじい轟音と地鳴りが小一時間砦を揺らし、事態を知らずに逃走した勇者によって騒動は今しばらく続いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

[つづくよ]

 

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