境界線のハイウインド   作:こねこねこ

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9.ゲルドの砦(3)

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「軽傷14名、重傷38名、内致命傷にまで至っていたものが4名」

 

あれから夜通しの逃走劇が繰り広げられた後、空が白み始めた頃。

ゲルドの戦士と一緒になって追い回してきたダークに勇者が張り倒され、ナビィの説得によりようやく落ち着いた一行は砦内のとある一室に通されていた。

設えられた椅子に落ち着きなく座るリンクの前で、砦の責任者だという女が被害状況を読み上げる。

 

「・・・まあ、アンタのお陰で奇跡的に全員命は取り留めたけどね」

「それは良かったです・・・」

 

ダークが出会い頭に斬り捨てた人間のうち、危ない状態にあった者へ向けてリンクが保有していた回復用の妖精と薬は全て提供してある。

緊急用に特に効果の高いものを選んでいたことと、死亡時に復活出来るほどの治癒の力をもつ妖精のおかげでどうにか事なきを得たらしい。

 

「そっちの黒い兄さん一人で、なおかつあの短時間でここまでやられたんだ。・・・それだけじゃない。人的損害は今挙げた通りだが、あの後アンタが暴れてくれたおかげで敷地内のおよそ5分の1が半壊以上の状態にある」

「ご、ごめんなさい」

 

自分が悪かったとはあまり思わないが、こうまざまざと惨状を改めて突きつけられるとリンクは居たたまれない気持ちになってしまい思わず謝罪を口にしてしまう。

それを見て、女は小さく息を吐いた。

 

「・・・そこの妖精から聞いた通りだね。アンタ。別に責めたいワケじゃないよ。要は、アンタ達とマトモにやり合うのは正直現実的とは言えないってことさね」

 

こっちが全滅するのは目に見えてる、と女は部屋の隅へと視線を向けた。

その先には、壁を背にじっと二人を見るダークの姿がある。

何を言うでもなくはたまた影に潜ることもなく、彼はただ部屋の中を観察していた。

それを視界の端に捉え、リンクは目の前の女におずおずと問い掛ける。

 

「・・・ええと、ということは、つまり?」

「そうだね。・・・こうしようか?」

 

女は指をひとつ立て、企むような薄笑みを浮かべた。

 

「時の勇者なんてヤツは此処へは来なかった。」

「え??」

「今ここにいるのは、盗賊団に憧れてやって来た入団志望の風来坊が二人。ちょっとやり過ぎて騒ぎにはなったけど、実力は充分に見せてもらったからね。その腕を見込んで入団を許可し、砦内のどこを歩こうが自由だ」

 

どうだい?と片目を瞑る女にリンクはポカンとした顔を向けるのみ。

代わりに隣を漂っていたナビィがおずおずと問い掛ける。

 

「えっと・・・いいの?アナタ達ってガノンドロフの一味なんだよネ?」

「さっきも言ったろう?敵対したところでこっちの死傷者を増やすだけ。かといって、ただ見逃すだけってのもツインローバ様にでも知れたらただじゃ済まない。アタイとしちゃ、このあたりが妥当な落とし所だと思うんだが?」

 

それにね、と女は身を乗り出し声を潜めた。

 

「ガノンドロフ様に心から忠誠を誓ってるヤツなんて此処には殆どいないのさ。アタイを初めとして、皆が本当に慕っているのはナボール様だ。今はガノンドロフ様の片腕として魂の神殿においでになるが・・・」

 

神殿という単語に、リンクも真剣な顔で話に聞き入る。

 

「あの方はここ数年様子がおかしい。この砦にもすっかり顔を出さなくなって、今は人が変わったように神殿に篭りきりだ。・・・アンタ、神殿に向かうために砂漠を越えたいって言ってたね?どうかあの方が無事でおられるかどうか確かめてきちゃくれないかい?それが、こっちから提示する条件だ。」

 

女はそう言い、リンクを正面から見据えた。

 

 

 

 

 

 

 

《境界線のハイウインド.9》

 

 

 

 

 

 

 

一通り話を聞き終えたリンクはナビィと見合せ、ひとつ頷いた。

 

「わかった。・・・あ、でも盗賊団に入ったからって盗みとか悪いことをするつもりは無いから!」

「ああ、そこは体面だけの話だから気にしなくていいよ。その代わりこっちも行動の自由は許すが、積極的な支援を約束するワケじゃない」

 

女は笑って、何か文字が書かれた紙片を2枚リンクへと差し出す。

 

「よし、これで手打ちだ。こいつが許可証だよ、受け取りな」

 

リンクは一度ダークのほうへと振り返り、特に異存が無いことを確かめてからそれを受け取った。

 

「ありがとう」

「礼は要らないさ、貰うものもキッチリ貰ったしね。・・・まあ、報せは出したがアンタ達を歓迎しない者もまだ中にはいるだろう。その辺りはうまくやっておくれ」

「それにしたって、ずいぶん親切にしてくれてるよね?死にたくないから仕方なくっていう感じにはあんまり見えないヨ?」

「さっきの件、頼めるのがアンタしか居ないっていうのが大きいね。ゲルドの者が下手に動くとすぐにツインローバ様にはバレちまうし、砂漠を超えられる実力のある外部の人間ってのもそうそういない。・・・それと、アタイ個人としてはアンタ達を気に入ったってのもあるよ」

「・・・どうして?」

「単純なことさ」

 

ナビィの問いに、女は片目を瞑り悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

「ゲルドの女はね、強い男が好きなんだよ。」

 

リンクはポカンとした顔をしていたが、視線を向けられたダークは嫌そうに顔を顰めて影の中へと姿を消した。

 

 

 

 

 

・・・結局一睡も出来ていない。

話し合いを終えたリンク達は、ひとまず砦の中から外へ出た。

いつの間にかすっかり日が登り、辺りには乾いた風が吹き抜けている。

 

「よう、新入り!」

 

欠伸を噛み殺すリンクへ、門衛をしている女が声を掛けた。

 

「あ、こんにちは。昨日はお騒がせしました」

「ずいぶん派手にやってくれたねぇ!あたしも遠くからだけど見てたよ」

 

カラカラと笑う女は特に悪く思ってはいないほうの人のようだ。

丁度いいや、とリンクは砦の大まかな施設の場所や行くべき所を教えて貰った。

 

出立するのは明日へまわし、今日一日はこの砦で砂漠越えの準備と必要な情報を集めることにする。

明日までは自由行動だと伝えると、地面から姿を現したダークは徐にリンクへ片手を突き付けた。

 

「弓矢貸せ」

「・・・え?なんで???」

「いいから」

「いや・・・フックと違ってコレは替えがきかないから持って行かれるとオレ困るんだけど」

「明日には返す」

「えー・・・ホントに・・・??絶対?嘘じゃない??・・・あーもーわかったわかった!!」

 

訝しげに何度も聞き返すリンクは露骨にダークの眉間の皺が深まったのを見て、慌てて取り出した弓と矢筒を押し付ける。

 

「ちゃんと返してよ!?あと壊すなよ絶対!!」

「ああ」

「・・・ホントかなあ・・・」

 

そのままどこかへ立ち去ってしまったダークを見送り、リンクはナビィと共に聞き込みを始めるべく再び砦の中へと足を向けた。

 

 

 

情報を集めつつ、自分が壊してしまった場所の復旧現場を手伝ったり怪我をさせてしまった戦士達に謝ってまわったり。

リンクが一息ついた頃には、早いもので既に陽が傾き始めていた。

夕焼けに赤く染まる砂利道を歩き、敷地内の離れにある広場へ差し掛かったリンクは馬の嘶きを耳にする。

 

「??・・・なんだろ?」

 

奥へ進んで覗き込むと、そこにはまばらに人だかりが出来ていた。

 

「アレ?ねぇ、あそこにいるのってダークじゃない?」

「え・・・??何してんのあいつ???」

 

思わず呟くリンクが見る先で、見慣れた黒い姿が馬に跨がって弓を構えていた。

猛スピードで駆ける馬の上から放たれた矢は次々に的の中心へと吸い込まれ、命中する度に周りの見物人から歓声が上がる。

 

「すごーい!ダーク、あんなに弓矢使うの上手かったんだネ??」

「もしかして、今日ずっとあそこにいたのかな」

 

一周回り終えて道の傍らに居た女から何かを受け取ったダークが、遠目に見るリンクへ気付いたのか馬から降りて歩いてきた。

 

「よ。なんか楽しそうなことしてたんだな!」

「別にてめぇの知ったことじゃねえだろ。・・・ん」

 

相変わらずの仏頂面で、ダークはリンクへ弓矢を突き返す。

 

「あれ、もういいのか?」

「次。ハンマー」

「えぇ・・・?まあ、ちゃんと返してくれるならいいけどさ」

 

懐から取り出したメガトンハンマーと交換して弓矢を受け取ったリンクは、違和感を感じて首を傾げた。

 

「あれ、なんか矢筒大きくなってない?」

「景品だとよ。やる」

「わーいやったー!ありがとダーク!」

 

本来なら礼を言われるのは自分の筈だったのだろうが、喜ぶリンクは気にせずにはしゃぐ。

ナビィはふとダークの後ろに付いてきた馬に気付いて声を上げた。

 

「アラ?ねぇリンク、この子エポナだヨ」

「へ??あ、本当だ!何でここに?ダーク・・・あ、行っちゃった」

 

話しているうちにまたもや何処かへ立ち去ってしまったようで、既に影の姿は見えなくなっている。

 

「親方さんのところに預けといたはず・・・なのに・・・ん??」

 

エポナの寄せる鼻先を撫でて、リンクはそこで思い出した。

 

「あ!お弟子さんのこと頼まれてたのすっかり忘れてた!」

「そう言えばそうだったネ。お姉さん達に訊いてみる??」

「そうだなー、聞き込みもだいたい終わったし行ってみよう」

 

練習場に併設されていた馬小屋へエポナを預け、リンクは三度砦へと向かう。

 

 

 

そして、やがて解放された個性的と言えば個性的過ぎる腰をくねらせた中年の男達に囲まれて半泣きになりながら来たことを後悔するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

[つづくよ]

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