魔源の禁龍を宿し者《リメイク版》 作:ドラ丸2号
付いて来て欲しいのです……と正真正銘の魔法少女ラヴィニアは、黎牙を手を引きながら、日が暮れ闇夜の世界となった街を進んでいく。
そして、ラヴィニアが突然何かを発見したのか、小枝ほどのスティックを懐から取り出すと、その先端が赤い光を発し始めた。
目の前に起こる不思議な現象に黎牙は、眼を見開き、フリーズしてしまった。そんな黎牙の手を握りながら、スティックを軽く「えいなのです」と掛け声をかけながら振るった。
すると、ラヴィニアの視線の先に3人の人影がいた事に黎牙は漸く気付く事が出来た。
そして、3人の人影の近くには暗がりの路上でもハッキリと視覚に捉える事が出来るほどの明るい炎がナニカを燃やしていた。突然の発火現象を起こした人物は、自分の手を繋ぎ続けているラヴィニアであると容易に分かった。
対象が燃え尽きたのを確認したラヴィニアは黎牙の方を振り返り、明るい笑顔で、
「あの2人は、ファングの味方なのです。だから大丈夫なのです」
「あ、あぁ……」
曖昧な返事をしている中、いつの間にか3人の人影の内の1人は、足元に魔法陣の光に包まれて消えた。残る2人の近くには、鷹とツノの生えた子犬がいた。そして、改めて残った2人を確認すると男の方は、黒髪に整った顔立ちの少年で、女の方はアップにまとめた茶髪が特徴の美少女でどちらも見覚えがあった。彼女達は、どちらも元陸空高校で生き残った黎牙の同級生だ。合同葬儀の際に黎牙は顔を見ていたので、覚えていた。
ラヴィニアと茶髪の少女ーーー皆川夏梅は、現在の自分達に起こっている状況に理解が追いついていない黎牙と黒髪の少年ーーー幾瀬鳶雄に現在起こっている事を説明するため、
「2人とも行きましょう。彼らは人気のないところで襲ってくるの。逆に人気の多い場所では襲って来ないから、早く人気のある場所へ出ましょう」
夏梅の真剣な口調に、鳶雄と黎牙は頷き、ラヴィニアと夏梅の後を付いて行った。
結論から言うと現象は思っていたよりかなり危険だった。
まずはじめにウツセミと呼ばれる機関がある。
あるものを模して作った人工的な超能力者つまりは、異能使いとして識別されている者達がいる。
彼等は海上事故で行方不明とされている陸空高校二年生の生徒つまり黎牙、夏梅、鳶雄たちの同級生はその機関に拉致され、洗脳され、あの化物達を使役させられている。
化物と所有者をセットにして『ウツセミ』と呼ぶ。
機関は生き残った陸空高校の生徒ーーー黎牙達を問答無用で捕獲しようと同級生たちを使って襲いかかって来た。
何故、黎牙達が狙われるのか。
それは黎牙達が宿している
セイクリッド・ギア。
聖書の神が人間に与えたチカラ。
生まれ持って宿す異能の力を欲しているのだ。
改めて、視線をずらして黎牙は自分と同じ境遇で元々は同じ陸空高校を通っていた同級生である幾瀬鳶雄と皆川夏梅を見る。
彼等は『独立具現型』と分類されている
故にウツセミと呼ばれている機関は天然ものである独立具現型の
「ちょっと待て。俺の
今までに聞いたこともない単語と説明を聞いて何とか理解を追いつかせている黎牙は手に持った巨大な剣を見ながら、ラヴィニアが説明してくれた独立具現型の
鳶雄は犬、夏梅は鷹、そして黎牙は剣。
「ファングのは別のカテゴリーの
会ってからずっと黎牙のことを『ファング』と呼び、黎牙の事を助けてくれたラヴィニアについて行き、辿り着いたのが隣町の駅から十数分の位置にあったマンション。
ここで先程合流した鳶雄と一緒に状況などを教えて貰った。
そして同級生達は生きているという奇跡的な事実が判明した。
「で、話は変わるんだけど……私と組まない?」
笑顔で申し込んでくる夏梅。
「私と組むの。というか組んで、一緒にあのウツセミを、その背後の組織を倒すのよ。やっぱりさ、一人じゃ心許ないじゃない? 二百人以上もいるのよ? それに対して旅行に参加せずに生き残った生徒は十人もいない。単純計算でも、一人でノルマ二十人以上よ。ヘタをすると、それ以上かもしれない」
「『ヘタをすると』って、何さ?」
「何人か捕らわれてしまうかもしれないじゃない。私たち生き残りの中から」
確かにそれは合っている。
無表情で告げる夏梅の言葉に納得する鳶雄と黎牙。
この場にいる自分を含めて三人以外にもしかしたら捕まっている者もいる可能性もある。
知り合いが目の前に現れたら躊躇するのも理解はできる。
“皆を救う”
その強い意思を宿す瞳をする鳶雄も強く夏梅に同意する。
夏梅からの最大の申し出は二人に取っても心強い。
一人よりも二人の方が心強いし、戦力が増えるにもいいことだ。
その為の「力」もある。
「――――救おう、皆を」
力強く宣言する鳶雄を瞳に収めた夏梅は、今度は期待の眼差しを黎牙に向けられる。
「協力はする。だが、今の俺達で他の奴らの救出に行くのは賛成はしない」
しかし、黎牙は鳶雄達に協力はするが、ウツセミとなってしまった同級生の救出は拒否した。
「え!?どうしてなの!?」
険しい顔をする黎牙に戸惑いながらも問いかけてくる夏梅の質問に黎牙は冷淡に答えた。
「先にお前達には、今の現状、
「た、確かに私もまだ『総督』のことを完全に信用しているわけじゃなけど、近い内に会ってくれるみたいなのよ。その時に聞けば―――」
「それは何時だ? こうしている間にもウツセミは戦力を増強し、策を練っている。その間、俺達はここでただ待っているだけか?
リスクが高すぎる賭けに出るのは危険だとして、救出に反対な黎牙に鳶雄は詰め寄る。
「待ってくれ。それなら阿道だって友達がいるだろう? 心配じゃないのか? 生きているなら例え危険でも助けたいとは思わないのか?」
「無闇に行っても、アイツらが助かるとも限らない。敵の隙を伺って時間をかけて敵の戦力を少しずつ減らすしか無いと俺は言っているんだ。誰も見捨てようとは言ってない」
「確かに阿道の言う事も最もだ。俺達は戦力が不足しすぎている。それでも、俺は一刻も早く紗枝を……みんなを助けたい!例え危険でも、助けに行きたいんだ!頼む!阿道、力を貸してくれ!」
ウツセミとなった皆んなが今、この間にも苦しんでいるかもしれないという事を考えている鳶雄は、黎牙に頭を下げ、懇願する。
「馬鹿か? 死んだら何もかも終わりなんだぞ。無闇に突っ込んで死ぬのなら勝手に1人で死ね!!」
これ以上話しても無駄だと判断した黎牙は、もう話は終わりだと言って部屋を出ようとする黎牙の手をラヴィニアが止める。
「トビー……ファングの言っている事は正しいのです。ファングは、最悪の事態を想定して私達が生き残る事を第一に考えてくれているのです」
「わかってるよ。でも俺はーーー」
「でもトビーの言う事も正しいのです。ウツセミとなった皆んなは、今も苦しんでいます。だからこそ、慎重に行動して、私達はちーむとして結束し合い、迅速に敵を倒すのです」
「はぁ?」
突然の言葉に黎牙は怪訝そうにラヴィニアを見る。
「私達とファングはもうチームなのです。チーム……いえ友達ならよりもっと結束し合い、トビーの欠点をファングが、ファングの欠点をトビーがお互いに支え合うのです。それでも足りないのなら2人を私達が支えるのです。それが友達なのです」
「ふざけいるのか?いつ俺とお前達が友達になった? 魔法少女ってのは出会った者全てが友達なるのか?」
「そうではないのです。このファングの手はずっと、とても暖かいままなのです」
優しく黎牙の手を握りしめながら突拍子な事を言うラヴィニア。
「ファングはとても心の優しい人だと私は確信しているのです。だからファングは私たち……チームを…友達を助けくれると信じているのです。そして、ファングが助けてほしい時は、必ず私達が助けるのです」
全く理屈が通っていない。
どうしてそんな理由で自分が命を賭けなくてはいけない。
訳が分からない。
馬鹿々々しい。
不条理だ。
理解不能にも限度がある。
黎牙がいくら振り払おうとしてもラヴィニアはその手ーーー黎牙の手を離さない。
綺麗な蒼い瞳は真っ直ぐに黎牙を見詰める。
「………クソっ」
小さく悪態をつきながら黎牙は大きくため息を吐き、
「分かった!分かった!そこの後先考えない馬鹿に死なれても寝覚めが悪い。だから、可能な限りはサポートとしてやる。これでいいだろ」
「はいなのです!!」
「だが、余りにも危険すぎると判断した時、それに賛成しない場合は引きずってでも撤退するからな。覚えておけ幾瀬」
「あぁ、ありがとう。俺のわがままに付き合ってくれて。もし、自分の身が危険な時は、自分を守る事を優先してくれ阿道」
「当たり前だ。死ぬのはゴメンだ」
黎牙の返答にパァーッと輝くほど満面の笑顔を見せるラヴィニア、危険な真似をしようとする自分を危険を犯してまでサポートしてくれると事に有り難みを隠さず笑みを浮かべる鳶雄、黎牙と鳶雄の意見の違いで一悶着あったが、何とかなったことに安堵する夏梅は胸を撫でおろす。
「それじゃ改めて私の名前は皆川夏梅! 夏梅って呼んでよね! 黎牙!」
「俺は幾瀬鳶雄。鳶雄でいい。俺も黎牙って呼んでもいいか?」
「………勝手にしろ」
歩み寄ってくる二人に面倒くさそうな顔を見せながら答えると夏梅が今後の方針について話す。
「さーて、これで私たち……いいえチームの次の行動は決まりね!」
「次の行動?」
「ええ、もうひとつの『タマゴ』を渡した男子と合流するの。その男子もいちおうこの隠れ家に転居しているんだけど、外を出歩いてばかりなのよ。って、ウツセミの同級生も生きているわけだから、私たちが生き残りってのも変な感じよね〜」
「それって、誰のこと?」
「鮫島鋼生。とにかく、このマンションを本拠地として動きましょう」
鮫島鋼生。その名前にも聴き覚えがある。
元・陸空高校一の不良だ。
* * * * * ** * * * * ** * * * *
『隠れ家』の一室を与えられた黎牙は熊のウツセミとの戦闘の際に発現した自身の
名称は今の所わからないが、能力は初戦である程度予想はついていた。
改めて軽く片手で振るってみたが、それなりの重さはあるが片手で振るえる分に申し分なかった。
剣をだらりと下ろし、能力の1つのチカラをイメージすると、
『Enchant!』
剣の宝玉が怪しく光ると同時に機械音が鳴り響いた。
そして、自分の身体の全身をチカラが巡るのを感じた。
試しにとして、一室に与えられたベッドを片手で握り、そのまま持ち上げようと試みた。
グラッ
本来なら2人がかりで持ち上がる筈のベッドが、丸々持ち上がったのだ。全く重くなく、コップでも持っているか様な感覚を覚える程チカラが俺に付加されていた。そして、10秒ぐらいで効果が切れた。
つまり、今の『Enchant』は俺の身体に様々なチカラを付加するというシンプルな効果とみて間違いないだろう。
それなりに応用は効きそうだ…と思い、もう一つの能力の詳細を知る為に刀身に手を添えてみた。
『Absorb!』
さっきとは違う内容の機械音に聴こえた瞬間、まるで身体からチカラが吸い取られる様な感覚を覚えた。
チカラが抜けた事に驚いたが、手を添えていた刀身には禍々しいオーラが纏わり付いていた。
つまり、もう一つの能力は、刀身に触れた対象からチカラを吸い取る事の様だ。なら、あの熊のウツセミがミイラ化したのは先程の機械音が鳴り響いた直後にウツセミの生命『力』という名のチカラを吸収したという事になる。
此方は中々使いどころを間違えると自滅しかけないようだ。
自分の
「やっぱりファングは凄い人なのです」
背後から突如聴こえたラヴィニアの声に驚く。
「お前、どうやって入ってーーーー」
安全に能力を確認するため部屋の鍵は、しっかりと閉めた筈だったーーーが、声がした方向を振り返った黎牙はすぐさまラヴィニアから視線を外す。
「おまえ!なんて恰好してんだ!?」
「何かおかしいのですか?」
白いワイシャツ一丁の姿で黎牙の言葉に可愛らしく首を傾げる。
白い肌の脚や今にも飛び出しそうなほど窮屈そうにしている豊満の胸。
同年の女性と比べて、明らかに発達している女体。
少なくとも黎牙が知っている限りの知識では、こんな夜中に男の部屋にこんな無防備な恰好でくる女などいない。断じていない。
加えてシャワーを浴びたばかりなのかシャンプーの匂いが此方にまで漂ってくる。
ゴンッ!!と自分の頭を剣の刃の付いていない方で殴った。
『Absorb……ww』
変態か、俺は……と煩悩を追い払う黎牙。
刀身に触れた際で、又もやチカラを吸い取られた。
そして、何故か無情の機械音から何処と無く、俺を嗤う様な音が僅かに聴こえた気がしたーーーが、気のせいであると決め付ける事にした。
「ファング、
「誰のせいだ……誰の………」
「?」
本気でわからないのか、首を傾げて難しい顔を作った。
天然か、
いや多分コイツはバカだ。
健全な男性として苦悶する黎牙の気も知らずにラヴィニアはベッドに座る。
「………それで、こんな時間に何のようだ?」
ラヴィニアと全く目線を合わせずに要件を促す黎牙にラヴィニアは口を開く。
「ファングとお話がしたいのです」
「明日にしろ」
自分の闘い方を模索するために頭を使おうとしたが、ラヴィニアが近くにいるため集中出来ず、部屋を出て行かせようとする。
「トビーの安全の為にファングはキツイことを言ったのは知っているのです」
「俺がいつあのバカにそんなことを言った?」
「敵はトビーたちを狙っているのは明白なのです。でも、トビーたちはまだ相手の戦力がどれほどなのか知らないことも把握出来ていなかったのです。だからファングはトビーにもっと警戒心を持ち、冷静に状況を把握し、迅速かつ慎重になれ。でなければすぐにでも死んでしまうぞと言ったのですよね?」
「バカか? 俺がいつそんなことを言った? 俺は自分の命を優先にしただけだ。自分の都合よく捏造するな」
「捏造なんてしていないのです。ファングは自分も狙われているのに自分のことだけではなくトビーたちのことも心配して、警戒を促すなんて……人に優しい人しか出来ない事だと私は思うです」
『人に優しい』
そんな言葉は親殺しの自分になど似合わない。
自分が生き残る為とは言え自分の親を殺す様な人間に。
自分にそんな言葉をかけてはならない。
そう思った黎牙はラヴィニアの言葉を否定するため振り返る。
「ふざけッ――――ッ!!」
「………(( _ _ ))..zzzZZ」
当本人であるラヴィニアはいつのまにか小さく寝息を立てながら気持ちよさそうに寝ている。
「人に話しかけて置いて寝るな。ったく、寝るの速すぎるだろう………この女」
言いたいことだけ言ってこちらの話も聞かずに眠りについたラヴィニアに嘆息する。
「気持ちよさそうに寝やがって……襲われても文句言えねぇぞ…」
眠りについているラヴィニアを見てぼやく黎牙は毛布をかける。
その時、黎牙の表情はいつのまにか呆れ顔となっており、その口元はうっすらと笑みが浮かんでいた。
流石にあのままでは明日に支障を来す恐れもあるし、目の毒だ、と誰も居ないのに言い訳の様に呟きながら黎牙はあることに気付いた。
「俺の寝るところがねぇ…………」
ベッドをラヴィニアに占領されている為、流石に同じベッドで寝る訳にはいかない黎牙は、溜息を零しながら椅子に座って眠りたくのだった。
『もっとだ……もっと強い…いや破壊の力を望め』
『もっと本能を出しやがれ!!』
『いつまで鞘付けた状態で戦う気だぁ!!』
夢に出てくる声が眠りつく前に
黎牙の耳に入ったが、
幻聴であると思考を停止させ、
眠りの世界へ堕ちていく