魔源の禁龍を宿し者《リメイク版》   作:ドラ丸2号

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この話を読む上での注意事項!!

必ずブラックコーヒーを片手に!!

でなければ、胸焼けします!!

それではどうぞ!!


第10話 崩れゆく“氷の世界”

 

 

 

『『『「俺たちは禁龍主だ」』』』

 

 

この言葉を聴いて、アウグスタはようやく先程まで追い詰めていた筈の少年は、もう既に存在せず、目の前にいる存在こそが、

 

 

世界に否定され続ける災禍の邪龍であることを理解する。

 

 

 

「アジ、悪いが俺の身体を預けるぞ(・・・・・・・・・)

『あぁ、行ってこい黎牙』

『あんまり(おせ)ぇーと奪うからな』

『約束なんてものは破る為にあるからな』

 

紫炎の巨人を拘束し続けていたアジ・ダハーカの意識を先程までとは違い、付加(エンチャント)された影から禁手(バランス・ブレイカー)によって創造された鎧の各宝玉へと移しかえる。

 

『ヒッ!』

 

まるで目の前から死が近づいて来るかの様な錯覚を覚えるアウグスタは、恐怖で顔を歪ませていく。そして、そんなアウグスタなぞ眼中にない黎牙は、全身を駆け巡る痛みを堪え、左腕に纏われた龍の頭部の形をした手甲の口から半透明の劔を顕現させる。

 

『Enchant!』

 

『わ、わたしごと、グリンダの弟子を殺すというのかい!?』

「俺が誰を殺すかは俺が決めることだ。お前程度の存在が口を挟むな。俺はただ、簡単に乗っ取られたポンコツ魔女をシバきに行くだけだ!!」

 

精一杯の虚勢を張るかの様に劔を向ける黎牙に叫ぶのだが、余計に彼の中の怒りの炎は大きくさせる。劔を構えた黎牙は、ラヴィニアの身体を乗っ取ったアウグスタごと、怪しげな文字が施された劔で刺し貫いた。

 

 

しかし、アウグスタは劔で貫かれたにも関わらず一滴も血が出るどころか、痛みすらないことに疑念を抱いていると、黎牙と自分を中心に漆黒の魔法陣が展開された。

 

『こ、コレはまさか!?私がグリンダの弟子に使ったのと同じ魔法陣!』

『そう言うことだ、ババァ。どうだ、自慢の魔法も俺達の宿主に模倣された上に、神器ですら奪われた気分は?』

『どうだ、自分の計画がことごとく破壊される気分は?』

『どうだ、なす術もなく自分の死が近づいて来る気分は?』

 

『あ……あぁ……ぁ!』

 

自分……いや彼女の中へと侵入していく“存在”を認知し、目の前にいる伝説の邪龍の言葉によって恐怖と絶望が入り乱れた表情へと染まっていくアウグスタ。

 

 

『『『どうだ、俺達によって絶望の淵へと叩き落とされていく気分は?』』』

 

 

その言葉を最後にアウグスタの意識も暗い闇へと沈んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

魂だけとなった黎牙はアジ・ダハーカ達に自らの身体を託し、ラヴィニアの魂に語り掛けることで彼女の意識がいる精神世界へ来た。そして、瞳を開けると、そこは正に“氷の世界”が広がっていた。

 

何とかアウグスタの魔法を解析し、それを霊能力に利用し、ラヴィニアの魂に干渉するまではよかった。だが、思っていた以上に、ラヴィニアのココロの現状は酷いものだった。

 

辺りを見渡すと、森の中にいることは確かなのだが、草木や岩だけでなく地面までもが氷ついていた。

 

加えて、今の自分の現状は『邪龍礼装(マリシャス・ドライブ)』の形態のままであるのだが、先程までアウグスタにつけられた傷が総てキレイに残っていた。その上、何故か自分の真横には鼻と口がなく6つ目で4腕という異形の姿を持つ、身長3メートル程の氷の姫君の形をした“永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)”がいた。

 

あまり時間を掛けてもいられないため、

 

「おい、お前の主は何処にいる?」

「……………………」

 

この氷姫に聞くこととする。

口がない氷姫は黎牙の問いの答えとして、4本もある腕を使い、ある方向を指差す。

 

「……あっちにいるのか、アイツは?」

「……………………」コクン

 

神妙な表情をしつつも、指差した方向にラヴィニアがいることに対する確認を取ると、黎牙はそのまま走り出していく。

そして、氷姫はまるで安心したかのように6つの瞳を静かに閉じ、光となってラヴィニアの“心の世界”から消滅していく。

 

 

 

 

 

 

………ドウカ…我ガ主ヲ………オスクイクダサイ………

 

 

 

 

………………サイカノジャリュウ…ヨ……………………

 

 

 

 

走り出すのと同時に聴こえた声を聞き流していると、氷の森の中で唯一凍りついていない一軒家を見つける。

 

 

「わかりやすっ!?」

 

小屋を見つけや否や、珍しく声を上げるようにツッコミを入れてしまう。

 

『…………コナイデ…』

 

そして、小屋を前にした黎牙にとても弱々しい声音ではあったが、拒絶の言葉を家の中から放つ。その言葉をトリガーとするかのように、突然地面から氷で出来た鋭い薔薇が無数に出現する。やがて、その薔薇達は家の中にいる“彼女”の意志を黎牙に見せつけるかのように、薔薇の壁を創り出していく。

 

しかし、自らの欲望(やりたいこと)を阻むモノを許さない邪龍(黎牙)は、右手を大きく広げ鋭い刺を持つ薔薇の壁を掴み、引き剥がしにかかる。刺によって、血が止めどなく出て続けるにも関わらず、黎牙は次々に氷の薔薇を着々と砕き、小屋への歩みを止めない。

 

『オネガイ…コナイデ……モウ…ダレニモ………アイタクナイ!ココカラデデイッテ!!』

 

彼女”の不安と恐怖に呼応し、砕かれ続ける薔薇の壁を形成する氷の薔薇から数本だけ黎牙へ向けて、その鋭い刺が彼を射殺さんばかりの勢いで放たれる。

 

「うるせぇぇぇぇぇぇぇ!!文句があるなら、面と向かって言え!!そんな過去の虚像に縋りやがって、もうやめだ!さっきからデリケートしてやったら調子に乗りやがって、このクソポンコツ魔女が!!」

 

しかし、“彼女”の態度に対して、とうとう我慢の限界が来たのか、黎牙は迫り来る無数の刺どころか薔薇の壁すら漆黒の獄炎を纏った右腕で焼滅させた。これで、自分の往く手を阻むモノは消えたためドスドスと凍った地面が陥没しかけないほどの足取りで進撃する。

 

そして、とうとう小屋の前に来た黎牙は、中にいるであろう“彼女”の返事を待たずに扉を引きちぎり、あらぬ方向へと投げ飛ばしてしまった。すると、中にはトンガリ帽子を深く被り目元を隠した幼い少女がいた。

 

「あ゛ぁ?」

「…………っ!」

 

部屋の中心で蹲り、ビクビクと震え続ける幼女には、僅かだが“彼女”の面影を残していることを確認する。

 

「で、いつまでお前はビクビクと震えている気だ?」

「か、帰って下さい!!」

 

「答えになってないぞ」

 

今にも泣き出しそうな声音で、拒絶の言葉を言い放つ“彼女”を面倒くさそうに見下ろす黎牙。

 

「もう……誰も、誰を信用していいのか……分からないのです……だから———」

「だから、こんな過去の虚像に縋るってか?そんなことに何の意味も無いのは………お前が1番わかっているはずだろ、ラヴィニア」

 

彼に名を呼ばれた少女————ラヴィニアは、不安と恐怖の念によって今にも泣き出しそうなほどに瞳に涙をためた顔を上げる。

 

「で、では…どうすれば、どうすればいいの…ですか………?」

 

まるで捨てられた子犬のように弱々しい彼女は、まさに救いの手を求めるかのように動かない足の代わりに黎牙へ手を伸ばす。

 

 

しかし、黎牙は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「知るか」

 

「えっ?」

 

彼女と同様に拒絶の言葉を放つ。

 

優しい彼の言葉によってラヴィニアは伸ばしていた手を止めてしまうほどのショックを受ける。

 

「お前、何か勘違いしているようだから言っておいてやるが、俺は邪龍だ。人助けなんてモノはしない!その上、今のお前は何だ!信じていた者の拒絶の言葉を一方的に告げられただけで、こんな偽りの場所に閉じこもり、過ぎ去った思い出に縋り、現実から、戦うことから逃げたオマエは何だぁ!!」

 

「た、たたかう……?」

 

黎牙にも拒絶された今の彼女は、この世の終わりを見ているかの様な表情となり、彼の言葉の中の真意を測れず、一方的に言葉の雨を受ける。

 

「確かにお前は恩師に切り捨てられたかもしれない。だか、グリンダはなぜ、お前を神滅具を抜き取らずそこまで育てた?なぜ、お前を腰抜けのメフィストの下へ行くように薦めた?なぜ、お前に自由を与えた?」

「そ、そ……それは………」

 

彼の言った様に恩師であり、育ての親とも言えるグリンダの行動には幾つもの疑問点が生じる。洗脳も、実験体にするこもせず、本当の親子のように過ごした“あの日々”なんだったのか。絶望によって止まっていた思考がいくつも彼女の頭の中を駆け巡っていく。真実がわからない彼女にとっては答えれるはずもなく、口を噤むように黎牙から目を逸らそうとしてしまう。

 

「逃げるな!!」

「っ!!」

 

しかし、幼いラヴィニアは真正面から来る怒気が含まれる言葉によって、まるで金縛りに合ったかのように目を逸らされないようにされる。

 

「真実を確かめるための闘いから逃げるな!恩師からの拒絶の言葉が何だ!オマエはそんな戯言を信じるのかぁ?面と向かって会ってもいない者の言葉を信じるのかぁ?」

「…………そ、そんなこと……」

 

黎牙の盛れ出す穢れとも言えない見る者総てを圧倒するほどの邪龍のオーラに当てられた幼いラヴィニアは、喉が枯れてゆく様な感覚になっていく。

 

 

「応えろ!ラヴィニア・レーニ!!」

 

 

身体中から流れ続けていく血など眼中にない彼は、喉が裂けんはがりに、咆哮とも言える叫びを上げる。

 

「私は——」

 

信じたくない。

 

会ってちゃんとグリンダと話したい。

 

でも、会うのがとてもコワイ。

 

両親を失い、周りに誰もいなくなった

“あの時”のように孤独となるのが、トテモコワイ。

 

でも、それでも………やっぱり。

 

 

 

「信じたくありません!!」

 

 

 

ココロの中にある彼女との思い出が、

 

目の前の現実を否定したい、

 

彼女を最後まで信じたいという気持ちがあった。

 

 

「なら、どうする気だ?一歩踏み出すことにこれ程なまでに恐怖を抱くお前に何ができる?どう闘う?」

「わかりません……真実を知るのがコワイです。1人ではコワクて震えが止まらないのです!!」

 

一歩踏み出すことはできても、まだ身体の中に巣食う不安と恐怖を拭えない自分を抱くように奮い立たせようと試みるも、瞳から勝手に流れ続けていく涙が彼女の道を阻む。

 

「黙って助けて貰うなんて都合が良すぎるぞ。助けて欲しいなら!!しっかり“助けて(・・・)”って言え!!」

 

まるで背中を押すように部屋の前にいる黎牙が、凍りついていたはずのココロに暖かさを感じさせる言葉を贈ってくる。

 

「俺はあの時のお前の言葉に救われちまった!もうオマエを拠り所に俺はしてしまったんだ!!その借りを俺に返させろ!何も信じられないのなら、オマエを信じ続けている俺を信じろ!!そして、こんな俺を信じているアイツらを……仲間を信じろ!!」

「ぅ……うぐ…………側に…いてくれるのですか?」

 

彼女の頬を滴る“冷たい涙”とは違う“熱を帯びた涙”が止めどなく溢れて続け、彼女の凍っていたココロを、世界を、氷解させはじめる。

 

そして、

ラヴィニアが大好きなこの小屋もまた例外ではない。

 

朽ち果てるように、音を立て崩れ去っていく屋根。

急いで小屋から出なければ、崩壊に巻き込まれて圧死する。しかし、涙が止まらないラヴィニアには、立ち上がるほどのチカラはなく、次々と崩れ落ちる瓦礫によって道を塞がれていく。

 

そんな危機的状況でも黎牙は、涙を流し続けるラヴィニアを待ち続ける。

 

彼女の口から直接“助けて”という言葉を聴くまでは、黎牙は梃子でも動かない気はない。

 

「………けて」

「いつもみたいに人の頭の中をかき乱す様な声を出せぇ!!ラヴィニア!!」

 

いつのまにか、元の、ダイナマイトボディへと戻っているラヴィニアに、黎牙は背中を押すように叫ぶ。その間も、小屋の崩壊は止まらず、どんどん彼女の道を塞ぎはじめる。それはまるで、この小屋から逃がさないという意思が働いているかのように。

 

もう、この……彼女との思い出が詰まった家はない。

 

 

ここは、“今の私”の居場所でない!!

 

 

叫べ!彼に、

 

 

自分の様なダメな女のために、こんな“凍りついた世界”に来てまで、手を差し伸べてくれている優しい邪龍である彼に、

 

 

 

信じ、そして叫べ!!

 

 

 

「助けて……私を助けて下さい!!!!

 

「あぁ、完膚なきまで救ってやるよ。ポンコツ魔女が」

 

 

気がついたときには、私は崩壊した家の前におり、彼の————優しくて、強い邪龍のとってもアタタカイの胸の中に、私はいた。

一歩踏み出すことが、こんなに、こんなにもコワイものだなんて………。

 

不安と恐怖が未だにココロに巣食うっているが、もう泣いてはいられないと言い聞かせようとするが、

 

「今だけは、もう一回思いっ切り、みっともなく、煩いくらいに泣け……ラヴィニア」

 

まるで駄々っ子をあやすように髪を撫で、もう離さないと言わんばかりに力強く抱き締められたことで、その決意も崩壊する。

 

 

「うぅ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

「ったく、本当に煩い…な。お前は」

 

 

胸の中で泣き叫び続ける姫君に対し、呆れた顔をしつつも、あの時彼女だけに見せた穏やかな笑みを浮かべる。

 

そして、彼女の涙が止まるまで、

 

黎牙は優しく抱き締め、

 

安心させるかのように髪をそっと撫で続ける。

 

 

あの時、自分の叫びを聴いてくれた“あの夜”の彼女の様に

 





一方その頃。
『『『暇だ』』』

黎牙の邪魔をさせないようにアウグスタの意思を封じ込め続ける以外やる事がないアジ・ダハーカであった。
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