魔源の禁龍を宿し者《リメイク版》 作:ドラ丸2号
慣れない椅子で腕を組んで眠っていた際で、身体からバキバキと骨が軋む音が部屋に鳴り響く。
こんな不安定な姿勢で眠る事になった元凶がいるベッドを睨むが、そこにはラヴィニアはいなかった。どうやら、起きて自分に部屋に戻ったのだろうと勝手に決めつけ、軋む音を出す身体を伸ばしながら着替えて部屋を出る。
部屋を出た黎牙は、昨夜集まっていた部屋へ行くと既に鳶雄、夏梅、ラヴィニアの3人は起きていた。
「あ!おはよう。黎牙」
「おはよう。黎牙」
「おはようなのです。ファング」
夏梅、鳶雄、ラヴィニアの順に黎牙に挨拶してくるが、黎牙は無言でラヴィニアの方へ歩み寄ると、両手でガッシリとラヴィニアの頭を捕まえ、ラヴィニアの頭を高速シェイクし始めた。
「ふぁ、ファング!め、目が回るのですぅ〜!!」
「ダ・レ・の・際・で・椅子で寝る事になったと思っているぅーーーーーー!!!!」
目を回しながら訴えるラヴィニアに怨嗟に満ちた声音でラヴィニアの頭を高速シェイクし続ける。
目の前で繰り広げられる光景に呆然としていた鳶雄と夏梅だが、すぐに微笑ましい顔になる。
警戒心が強く、どこかで自分と相手との間に壁を創り、一定以上の踏み込みは許さないという雰囲気を醸し出していた黎牙を鳶雄と夏梅は少しだけ怖いという印象を抱いていた。
だが、今はラヴィニアで遊んでいる(本人は絶対否定すると思うが)黎牙を見てそれが少しばかり解消できた気がしたと感じている鳶雄と夏梅。
一通りラヴィニアの頭をシェイクし終えた黎牙は、トドメとばかりにラヴィニアのおでこに
バゴーンっ!!という打撃音を出す程のデコピンを喰らわされたラヴィニアは目に涙を溜めながら、おでこを押さえて「うぅ〜」と唸りながら黎牙を睨むが当本人は完全無視。どスルーである。
「………お前等の朝飯はそんなのでいいのか?」
用意されているのはお湯が入ったポットとカップラーメンのみ。
レトルト食品が朝食なのに疑問を抱くと女子二人は頷いた。
「…………」
昨日、一度自宅に戻り、必要最低限の物として食材を持って来てよかったと密かに思いながら台所に向かって黎牙は朝食を作る。
「え? 黎牙って料理作れるの?」
「当然だ。1人暮らしなのだから料理ぐらい作れないとマズイからな」
男子の料理発言にポカンとする夏梅に黎牙は淡々と調理を進めていく中、鳶雄が黎牙の隣に立つと、
「俺も手伝っていいかな?」
「お好きに。このキッチンは俺の物ではないしな」
鳶雄、黎牙の男子二人で調理を進めていく。
そんな光景を見てラヴィニア、夏梅の女子二人はその姿を呆然と見ていた。
そして瞬く間に料理男子2人によって卓に料理は並べられていく。
男子二人によって並べられた味噌汁、焼き魚、ご飯という見事なTHE和食朝食に騒ぎ出す夏梅はとびきり喜び、二人の手をつかんで上下にぶんぶんとさせた。
「すごいわ、幾瀬くん! 黎牙! ま、まさか、あなたたちがこんなにも料理男子だったなんて! いやー、私、いい拾いものしちゃったかも!」
その言葉の反応に困る鳶雄。
目を瞑りながらどこか照れ臭そうに焼き魚を頬張る黎牙。
「黎牙は和食、好きなのか?」
「朝はいつも和食だ。そこまで大それた物は無理だが種類として和・洋・中は作れる」
「レパートリーが広い!」
「凄いな!それは!」
自分達の予想以上の料理男子だった黎牙にに驚く夏梅、鳶雄。
「あ、それじゃあこれはファングが作ったものなのですね」
三人の前に並べられている料理の中に一つだけ場に馴染めていない料理がポツンと置かれている。
「ニョッキ。イタリアの軽食料理なのです」
料理名を告げられて三人の視線は黎牙に集まるなか、本人はプイッと目線を外しながら味噌汁を啜りながら、
「………材料が余っただけだ」
逃げた。
「「「(絶対嘘(なのです)だ)」」」
と三人は思った。
口は悪いが、根はラヴィニアが言っていた通りいい人なのだ。
「ふふ、トビーもファングもありがとうなのです」
微笑みながらニョッキを口に運ぶラヴィニアは、
「ottimo」
と口にしながら食べ始める。
「あ!カップ麺の袋を開けたままにしてしまったので、あとでヴァーくんにあげるのです」
「ヴァーくん?」
聞き覚えのない名前を出されて疑問符を浮かべる鳶雄。
夏梅が嘆くように息を吐く。
「………昨夜言ったこのマンションに住む生意気な男の子よ。カップ麺ばかり食べていてね。私たちのカップ麺もその子から貰ったの。全く成長期なのに不健康すぎだわ。今度、幾瀬くんか黎牙の料理を振る舞ってあげてね!」
「幾瀬に頼め。めんどくさいから俺は作らん」
きっぱりと拒否する黎牙に苦笑する鳶雄。
食事が終えた頃、夏梅はあらためて口にする。
「さてと、今日の予定だけれど、昨夜言ったように私達チームはまず鮫島くんと合流するわ」
「それはいいけど、彼の居場所はわかっているのかい? それとも連絡すれば、ここに戻ってくるとか?」
鳶雄の問いに夏梅はケータイを取り出す。
「連絡は………ダメね。いちおう、鮫島くんの番号は無理矢理にでも手に入れたけど、電源切っているみたいで繋がらないわ。まぁ〜偽の番号を教えなかっただけまだマシなのかしら」
「もしくは死んでいるか、又は捕まっているかだ」
「それは大丈夫なのです。シャークには私の術式のマーキングを施してあるので、位置と生存をバッチリ特定できるのです」
「さっすがー魔法少女!」
ラヴィニアは小枝ほどのスティックを懐から取り出すと、その先端が青い光を発し始めた。
その場で立ち上がって、ぐるりと一回りする。すると、ある一定の方向にスティックが一層光を放つことが見て取れた。
その方角を指し示しながらラヴィニアは言う。
「こっちの方向にシャークがいるみたいなのです。ただ、反応がいまひとつ悪いのです。おそらく、私の魔法が及びにくい場所ーーーつまり敵が敷いた力場に入り込もうとしているのかもしれません」
「どっかの誰かさんと同じでとんでもない程単細胞のようだな」
それを聞いた黎牙は鳶雄を見ながら呆れた様に溜息を吐いた。対する鳶雄は、バツが悪そうな顔になっている。図星である。
相手の有利な領域にわざわざ踏み込むなんて無鉄砲もいいところだ。
「………あんのヤンキー!敵を倒すことに夢中になって、相手陣地に誘われたんじゃないでしょうね………っ!!」
夏梅は歯ぎしりしながら、拳を震わせていた。口元は半笑いをしているが、その双眸は憤怒の色と化している。
「鮫島鋼生を捕まえるわよ! 戦闘覚悟でも、彼を放っておくわけにはいかない!」
それはウツセミとの戦闘を意味していたことに鳶雄も黎牙も気付いていた。
* * * * * * * * * * * *
隠れ家を出て、街中に着いたとき、夏梅は鳶雄、黎牙にそれぞれマイクロSDカードを手渡した。
夏梅から渡されたマイクロSDカードには、行方不明となった陸空高校2年生二百三十三名の顔写真などが自動に携帯にインストールされる様だ。鳶雄は、インストールされた写真を確認していると、
「俺はいらん。『総督』とやら信用出来ない以上。そんな怪しさ満点のブツは必要ない」
「た、確かにそれは言えてるけど、行方不明の皆んなの顔が確認できるんだから、持っていて損はないわよ」
「一々確認を取っている間に攻撃される。俺には不必要だ」
相変わらずの警戒心がバリバリ高い黎牙は、夏梅の提案を断るーーーが、ここに鳶雄の援護が入った。
「でも黎牙、コレがあれば見知らぬ怪しい人物を見かけたり、接近を許してしまっと時には便利だから、持っていて俺も損は無いと思う」
「俺の
しかし、鳶雄の提案も黎牙は斬り捨てる。
昨日同様に警戒心の強い黎牙とでは意見に喰い違いは避けられないものである。今の黎牙は姿を現さない『総督』は信用ならない人物としてカテゴライズされている為、信用ならない人物からの贈り物なぞ此方の情報を盗聴する者ではと疑ってしまっているのだ。有無を言わさぬ黎牙にラヴィニアがそっと黎牙の手を握りながら、
「安心してほしいのです。『総督』さんは、確かに人としてちょっと問題がある所があるのですが、これを戦闘以外の場で事前に目を通していれば、相手より先手を取る事も可能となるのです。それに、コレにはファングが考えている様な危ない物はないのです。安心して欲しいのです」
「………わかった。入れておけばいいんだろ。入れておけば」
「はいなのです!」
「全くぅ〜素直じゃ無いわね〜」
「よかった。何かあれば遠慮なく言ってくれ」
ぶっきらぼうながらも、黎牙はラヴィニアの言葉で漸く折れた。
その後から、黎牙は表示された写真を定期的に確認しながら、周囲への警戒を全く緩める事はせず、足を進めていく。
途中でタクシーを拾い、鮫島がいるであろう敵のテリトリーへ向かう。そして、タクシーを降りた四人は住宅街の端っこにある鮫島がいる廃業したデパートまでやってきた。
周囲を警戒しながら黎牙は、出現させた
そんな黎牙をラヴィニアはじ~と見てくる。
「ファングは何をしてるのです?」
「お前には関係ない」
そんなラヴィニアの問いをバッサリ切り捨てる。しかし、それでもなおじ〜と見てくるラヴィニアをめんどくさい奴だ…と呟きながら答えた。
「コイツは触れた存在の力を吸って、剣に威力を上げる。だから、俺の体力をほんの少し吸わせて、敵に先手として斬撃を飛ばすための保険だ。俺はお前達と違って出来る範囲が限られている。それに素人だ。なら、出来る範囲で備えをする」
黎牙の
改めて、周囲への警戒心を強め、剣を強く握ろうとする。
しかし、黎牙の脳裏に両親を殺した光景が蘇ってしまった。
奇声を上げながら俺の首を絞めにきた父親。俺が生命の危機に瀕しているのに相変わらず何の反応も示さない。いや横目でこっちを見て薄く笑っている母親。2人の足元には、注射器が転がっていた。つまり、俺の両親は薬でイかれて、俺を殺そうし、逆に俺に殺された。
あの時の俺は、死への恐怖や諦めではなく両親に対する猛烈な殺意を持った。視界が赤く染まるほどに殺したいと思った。
そう思ってしまった後、気付いた時には両親はもう両親だったモノになっていたのだ。
例え、クズの親でも俺は……あの2人以上のクズだ。
人としてやってはいけない線を超えたのだ。
そして、2人を殺したのに悲しさも、殺人に対する罪悪感もなかった自分に酷い嫌悪感を抱いた。
あの時の事を思い出してしまった事で、また自分が気付かぬ内に鳶雄達を殺してしまうのではないかという自分自身に対する恐れで手が震え出し、剣に上手く力を込めれなくなった。
「クソ……」
震える手を止めようと必死で抑えるが、震えは止まらない。
これから向かう先では戦闘が起きる可能性が高いというのにどうして今更になって震えが出てくる自分に苛立ちを募らせる黎牙の手をラヴィニアがそっと握った。
「大丈夫なのです。ファングは強い子なのですから」
まるで子供をあやすように優しく話すラヴィニア。
「
剣を持っていない方の手ーーー黎牙の左手をラヴィニアは優しく両手で包み込む。
「―――想いの力。神器――――セイクリッド・ギアは想いが強ければ強いだけ、所有者に応えるのです。ファングが強く想えばきっとその
「想いの力………」
「だから絶対大丈夫なのです」
それが
黎牙のココロにはもう恐れは無くなった。
鮫島鋼生がいるであろう廃業と化した人気の無いデパートの前では、黎牙だけではなく、鳶雄や夏梅も構えてしまう。
現在、置かれている立場を鑑みれば危険な場所に他ならない。
だが、ラヴィニアのスティックの光は、デパート内に向けていっそうまばゆく輝いている。
それはつまり、このデパート内に鋼生がいるということに他ならない。
「………ウツセミの巣になっていてもなんらおかしくないわ」
意を決して夏梅が言うと二人の付近には、いつのまにか独立具現型の
剣を握りしめた黎牙は緊張を誤魔化す様に軽く息を吐いた。
「中に入るのです」
ラヴィニアは特に臆することもなく、裏の方に向かおうとしていた。正面の入り口はシャッターが降りて入ることは出来ないが、中に鋼生がいるのならどこからか入れるところがある。
四人は関係者用の入り口を探して歩を進めた。
「やっぱり、暗いわよね……」
夏江のつぶやきは小声でも店内に軽く響いた。
関係者用の入り口がこじ開けられていたおかげで容易に侵入することはできた。
だが、デパート内は流石に灯りはついておらず、ペンライトを頼りに進んでいるなかで夏梅の提案で散って捜索する。
ラヴィニアの魔法で定期的に相互連絡を取り合うという形で黎牙は鳶雄と共に鋼生を捜索を開始している。
『そっちはどうだ?』
『まだ何も。グリフォンに先を行かせているんだけど、特になしね』
互いに連絡を取り合って、状況を確認するが進展はない。
一階は何もなし、と思っていたその時に鳶雄の
コレにより警戒を強いる黎牙と鳶雄。
鳶雄がペンライトをそちらの方に向けると柱の裏側から白い猫が一匹現れる。
「ウツセミ……なのか?」
そう思い、口にした黎牙だが、初めて出会ってウツセミであるハリネズミ熊とは明らかに違う。どちらかとでいうと鳶雄や夏梅が使役している独立具現型の
すると柱の裏側からもうひとつの影が姿を見せる。
ペンライトに当てられたのは背の高い茶髪の少年。
それは目的の人物である―――鮫島鋼生だった。
鋼生は携帯電話を見てから少しすると嘆息した。
「………どうやら、このリストにない奴みたいだな。すると、生き残り組か? ったく、こんなところまで来やがってよ」
後頭部をかきながら文句を垂れる。
「おまえら、皆川や魔女っ子と一緒に来たのか?」
「………ああ、彼女たちも一階を捜索しているよ」
鋼生の問いに素直に応える鳶雄。
「………俺の動きを把握されたってーと、魔女っ子か、あの生意気な銀髪のクソガキに特定されたってところか。………ったく、当面勝手にやらせろと言ったのによ」
鳶雄の問いに1人でに毒つくように鋼生は言う。
そして、黎牙と鋼生は何かに気付いたようにエスカレーターの先に視線を送った。
子犬や猫も同じ方向を向いて、鳶雄も促されるようにそちらへ視線を送るが、暗がりだけでしか確認できず、何があるのか感じ取れなかった。
「やはり、何かいる……」
何処と無く核心を突く様にぼやく黎牙に鋼生は言う。
「へぇ〜そっちのお前はこういう経験あるのか?」
「何故かそういうのにはガキの頃から敏感なだけだ。それにこの気配は一度味わった……」
そうコレは熊のウツセミの時と同じ。
こんな背筋が凍る様な不気味なこの感覚は忘れようにも忘れられない。
否が応でも感じ取ってしまう。
二人の会話に鳶雄は鋼生の発見を二人に伝えようとしたとき―――耳から聞こえたのは夏梅の声だった。
同時に一階の奥から大きな音が鳴り響いてくる。
『幾瀬くん! 黎牙! ごめん! 襲撃されちゃった! いまラヴィニアと一緒に対応しているの! そっちは!?』
「こっちは鮫島鋼生を見つけたよ! 俺達はどうしたらいい!? 鮫島を連れて、そっちに向かったほうがいいよな!?」
その提案に鋼生は小さく笑う。
「魔女っ子がいるんだろう? なら、あの鳥頭でも心配するだけ損だぜ? 悪いが、俺は上で待っている奴らに用があるんでな」
そう言うなり、鋼生は白い猫を肩に乗せてエスカレーターを上がって行く。
「おいっ!」
制止させようとする鳶雄。
すぐさま黎牙はラヴィニアと連絡を取る。
「鮫島は俺の剣で力を吸って無理矢理拘束した方が良いか? 少なくとも動きを封じることぐらいはできると思うが」
『おそらくシャークはそれでも止まらないと思うのです。ですのでファングは、トビーと一緒に追って欲しいのです』
「わかった」
ラヴィニアと短いやり取りで終わらせると黎牙もエスカレーターを上がって行くーーー
「…………」
だが、黎牙は今から始まる命の奪い合いに緊張していた。
心臓の音も先ほどから激しく鳴っている。
これから自分が向かう先では戦いは避けられない。
命を賭して、己の力を振るい、勝たなければ死ぬ。
戦わなければ生き残れない。
死が隣合わせの戦場に足を踏み入れようとしている。
『ファング』
再び聞こえるラヴィニアの声。
『今日の晩御飯はファングの洋食料理を食べてみたいのです』
「はぁ?」
こんな状況で何を言っているのかと本気で思った。
緊張の欠片もないラヴィニアの声を聞いて少し呆れた。
『だから、ちゃんと戻ってきて欲しいのです』
「…………考えといてやる」
『約束なのです、ファング』
文句一つ言って通信を切るともう心臓の高まりは収まっていた。
まさか、俺の状況を分かっていて……と思ったがそれは考えすぎだと首を横に振る。
黎牙は鳶雄と一緒に鋼生の後を追う。