魔源の禁龍を宿し者《リメイク版》   作:ドラ丸2号

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第4話 敗北

黎牙は鳶雄、鋼生の後を追い、二階へ上がる。すると途端に周りの灯りがついた。突然の光明に目がくらむ三人だが、その灯りのおかげでフロア全体が見通せる。

そして、二階に待っていたのはーーー巨大なバケモノ達の群れ。蜘蛛、ワニ、亀、熊などの面影を残した異形の集団ーーーウツセミの群れだ。

見渡すだけでも十体はくだらない。

 

「ククク」

 

不敵に笑う鋼生は憶することなく、一歩、一歩と敵陣に踏み込んでいく。

 

「百砂、いくぞ」

 

肩に乗る猫にそう告げる。

すると、猫の長い尾がピンと立ってーーーなんと二つに分かれていった。

分かれた二本の尾はぐんぐんと伸びていき、その一本が鋼生の左腕にぐるぐると包み込んでいく。

主人の腕を包む白い尾っぽは形を変えていく。

そして、それは円錐形の巨大なランスと化した。

 

「ーーーー俺の猫はなんでも貫く槍だ。さぁ、ぶっ刺されてぇ奴からかかってこい」

 

その宣戦布告が開戦の狼煙となり、手始めとして前方から迫ってくる3メートル近い蜘蛛が飛び掛かってきた。鋼生は態勢を低くして超低空からのアッパーをする要領で見事に大蜘蛛を左腕のランスで貫いてみせた。

それを見て黎牙は密かに驚いていた。

鋼生の神器(セイクリッド・ギア)は独立具現型である白猫と共に戦うスタイル。

そういう戦い方もあるのだと納得していると大蛇のウツセミが黎牙を飲み込もうと大口を開けて迫って来たーーーが、黎牙は慌てる事はなく、

 

「『燃えさかれし焔よ我が剣に纏え』」

『Enchant!』

 

詩の一節を唱えるかのように黎牙が詠唱した。すると、剣の刀身に正に豪炎と言える程激しい炎が剣に『付加』された。そして、黎牙はそのまま炎が『付加』された剣を力強く振り下ろした。

振り下ろされた剣から放たれた豪炎の斬撃は、一瞬にして迫り来る大蛇を斬り裂き、跡形も無く焼き尽くした。

 

「まずは一匹……」

 

ウツセミに通じるまではよかった。

だが、コレで満足なぞしてはいられない。

まだまだ試行錯誤しなくてはならない。

黎牙は予め剣に『付加』させる属性は決めていた。それを発動させるための発動条件も加えることで自分の意思でその能力を使用することができる。

昨夜で能力を試し、思考錯誤を繰り返して考えて思いついたのが魔法だ。

単純な身体強化の付加だけでは、少々心許ないと感じていた。

それに中学時代に剣道をしていたとしても、敵を殺す剣は素人丸出しである。だからこそ、黎牙は魔法による『付加』で炎による炎撃と斬撃を組み合わせてみた。

想いを力に変える。

ならば、自分の強いイメージを浮かべ、それを形とする。

ぶっつけ本番だったが、上手くいった。

いや、上手くいく確信が何故かあった(・・・・・・)

そして、これは皮肉にもラヴィニアを見て閃いた。

魔法の力を付加してその力を剣と共に行使してみるのは?

魔法ならアニメや漫画で良く出てくるためにイメージもしやすいし、近距離で対応するためには落ち着いて戦えられる様にしなければならない。

 

「『神速と化せ』」

『Enchant!』

 

 

次に脚力にだけ身体強化の『付加』をかけ、黎牙を左右から挟み撃ちにしようとしてくるゴリラとカマキリ型のウツセミ。

 

「黎牙っ!!」

 

咄嗟に鳶雄は黎牙にサポートへ回ろうしたが、それは無に帰した。

先にゴリラのウツセミによる豪腕の攻撃を最低限のステップで躱した後、次はカマキリの方へ『付加』された高速のスピードでいつのまにかカマキリの背後へと回っていた。

カマキリが黎牙の方へ振り返るよりも先に、黎牙がカマキリの背中に剣を突き刺すと、

 

「コレで二匹目………」

『Absorb!』

 

瞬く間にカマキリの生命『力』は吸い尽くされ、ミイラと化し生命活動を停止した。

そして、残ったゴリラのウツセミは、ミイラと化したカマキリごと黎牙を叩き潰そうと、豪腕を振り下ろしたーーーーが、それは空振りに終わる。

 

 

「チカラを解放しろ!」

『Liberate!』

 

既に黎牙の剣から『解放』されたチカラのエネルギー波によって、左右に真っ二つにされていたのだ。

この仕組みは、単純であった。

剣に先ほど吸い尽くしたカマキリの生命『力』と戦闘前にほんの少し黎牙自身の体『力』を合わせた力を一気に剣から『解放』したのだ。

コレにより、切っ先から放たれたエネルギー波ーーーー実態を持った飛ぶ斬撃は見事にウツセミを真っ二つにする程の威力を発揮したのだ。

コレこそが思考錯誤を繰り返して思いついた黎牙の戦い方だ。

どれほどの力を吸い取れるのかは黎牙本人の技量で大きく変化する。

付加されて闘える時間も短時間なため、付加の力は一撃で敵を屠るか、緊急回避時に限定するしかならない。

取りあえずはコレで戦える。

それだけでも大分前進した気がする。

最後に残った黎牙が初めて戦った熊とハリネズミのミックスのウツセミとは別のタイプの熊のウツセミは、鳶雄の子犬が串刺した事でこのフロアーのウツセミを全滅させることに成功した。

同級生たちが魔法陣に消えていくなか、鋼生が二人に訊いてくる。

 

「ひとつ訊きてぇんだが」

 

「なんだい?」

「……………」

 

「おまえら、ここに来たってことは逃げるのを止めたってことだよな? なんでだ? こんなわけのわからねぇ、頭がおかしくなりそうなほどの理不尽が来てんのによ、どうして動ける? なんでオマエらは戦おうと決心した?」

 

鋼生に問われて、鳶雄は天井を見上げた。

 

「………俺も怖いよ。でもーーー」

 

真正面から決意の篭った瞳で鳶雄は言った。

 

「どうしても救いたいヒトがいる。どうしても助けたい友達がいる。……俺にも戦えるだけの力があるのなら、せめて抵抗してから死にたい」

 

「………へぇ、ただの愚図じゃなさそうだな」

 

「最初に言っておく。俺は自分を襲ってくる相手をぶっ潰す為の戦力補強のためにオマエと幾瀬には、生き残って貰わないと困るんでな」

 

強面な表情を和らげた鋼生に間髪告げずに黎牙は口を開く。

 

「だから、無鉄砲に敵の懐に飛び込んで死に行くようなお前らを死なせねぇ様にサポートはしてやる。あんまり勝手に行動をするようならぶった斬るからな。肝に命じておけ」

 

「俺は俺のやりたい様にやるだけだ」

 

「だったら、黒幕に辿り着けず、死ね」

 

「……黎牙……」

 

このとき鳶雄は不審に思った。

鳶雄の耳には、『お前達をサポートしてやるから、もっと警戒を持て』という風に聴こえた気がした。

昨夜からの付き合いまでで、知り合ったばかりだが、根はラヴィニアが言った様にとてもいい奴だと思ってる。

だが、自分たちと一定以上の距離を保ち、何故繋がりを持つのを避けている様にも思えた。

まだ知り合ったばかりの鳶雄には黎牙のココロの底に抱えるているモノが何なのかはまだわからなかった。

 

「……はっ!悪りーけど俺は死なねぇ。ダチを助けて、黒幕をぶっ飛ばすまではな!」

 

「なら、死なねぇ様にサポートはしてやる。それでも死んだ時は、お前の遺体を綺麗に回収してやる」

 

「くくくっ!言うじゃねぇーか!面白いな、お前ら」

 

好戦的な笑みを浮かべる鋼生に口を閉ざす。

 

「だが、そういう奴は嫌いじゃねえぜ? 俺は鮫島鋼生」

 

「幾瀬鳶雄、よろしく」

 

「阿道黎牙」

 

三人は更に上へ目指してエスカレーターを上がって行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * *

 

 

 

3人は三階、四階と上がっていき、五階へ辿り着いたときだった。

そこで3人を待っていたのはーーー三十人以上はくだらないウツセミの大群。各種様々な異形の怪物たちが、怪しい眼光で睨んでくる。

今までに見た動物や昆虫の怪物だけではなく、初めて見る巨大な植物の姿をした者までいた。

しかし、三人の視線が一点に注がれていた。

怪物達の中に明らかに場違いの男の姿があった。

背広を着た二十代後半の男性は不敵な笑みを見せながら近づいてくる。

その男性は嫌味な笑みを見せながら言った。

 

「やぁ〜これはこれは。三人も。いや、下の2人も入れて5人と言えばいいのかな?」

 

男性の視線が鳶雄と鋼生に向けられ、鋼生はドスの利いた声で問う。

 

「………黒幕か?」

 

「ーーーーの1人と言っておこうかな。私は童門計久という者だ。今回の『四凶計画』に参加している者だよ。楽しそうだからね、現場を見学しに来たんだ」

 

「………四凶?なんだ、そりゃ」

 

聞き覚えのない単語。三人の反応に童門は怪訝そうな表情となる。

 

「ほう、まだ例の『堕天の一団(グリゴリ)』からは話されていないのかな?」

 

「グリゴリ……? それは旧約聖書に記されている堕天使の一団のことか?」

 

問い返す黎牙に童門は感心した。

 

「ほぉ〜なかなかの博識だ。彼等とは違う異能を持つキミは機関には必要なしと判断されてはいたが、これまでウツセミを倒してきたキミには評価を改めなければならないのかもしれない」

 

彼等とは違う異能。

それは独立具現型の神器(セイクリッド・ギア)であるか、ないかである事は間違いなさそうだ。

そして、童門との会話で確信が得たことが二つある。

1つ目は、目の前にいる童門とその黒幕が真に欲しているのは独立具現型の神器(セイクリッド・ギア)を保持している鳶雄たち。

2つ目は、黎牙たちに手を貸しているのは堕天使達ということ。

何故、堕天使が自分達に手を貸しているのかはわからないが、コレで漸く夏梅とラヴィニアが話していた人として性格にちょっと難がある『総督』の正体が掴めてきた。

 

 

不気味な笑みを浮かべる童門は突然指を鳴らしたーーーすると、背後で待機していたウツセミたちが一斉に動き出す。

 

「何はともあれ、キミたちを奪取させていただくよ。我々はその猫と犬を持つキミたちが欲しいのだからね。『ウツセミ』など、そのための前座の実験に過ぎない」

 

「本物の神器――――セイクリッドなんたらだっけか? わけのわからねえことに巻き込みやがって! いいから、俺のダチを開放してもらおうか?」

 

「確か、キミは前田信繁の友達だったようだね。うむ、彼はウツセミと化しているよ」

 

その一言に鋼生は、憤怒の形相となる。それは打って変っての濃厚な戦意を二人も横で感じ取れるほどにだったが、

 

 

「落ち着け鮫島。返せと言ってソイツが返すわけがない。……奴の目は自分の欲望を満たすことしか考えていないクズの目だ」

 

 

剣を構え戦闘態勢を取る黎牙は淡々と告げる。

 

「ああいう手合いに言うことを聞かせるのは簡単だ。そのくだらない自尊心をへし折ればいい」

 

「つまり……力づくって事だな!」

 

鋼生の左腕に再度ランスが誕生する。

 

「下賤だ、実に」

 

「人を改造しておもちゃにするクズにはそれぐらいで丁度いい」

 

童門は吐き捨てるように口にしたーーーが、黎牙は侮蔑を持った言葉で吐き返した。

 

「……鳥頭と魔女っ子はまだ上がってこられないか? 黒幕をせっかく捉えたのにさすがにこいつは面倒だ」

 

鳶雄はうなづいて耳を押さえて二人に問いかける。

 

「皆川さん、ラヴィニアさん、そっちはどう? こっちは上階で大群と戦うことになりそうなんだ」

 

『こっちもね、外から侵入してきたウツセミと交戦中でなかなか抜けられないわ。ラヴィニアが燃やしても痺れさせても切りがないわ! たぶん、四十人ぐらい来てる!』

 

「……手回しは完了済みということか」

 

『いざとなったら「凍らせる」のです』

 

『そ、それは最後になさい! こっちも凍っちゃうかもしれないでしょ! この! 無差別氷姫(ディマイズ・ガール)!』

 

何かしらのラヴィニアにも切り札がある様だ。

 

「わかった。こっちも死なない程度に頑張ってみる」

 

『ええ、私達…チームみんなで生き残りましょう』

 

そうして、2人の連絡は途切れた。

恐らくはこのデパート内に侵入した時からどこかで監視をしていたのだろう。

ここに来て、散らばって捜索するのが今になって仇になってしまう事になった。

 

「………ま、あの鳥頭じゃ無理か。いいさ、やるだけやって勝てばいい」

 

鋼生は二人に言う。

 

「あの童門とかいう野郎だけは逃がすな。いろいろ訊きたいことがあるからよ」

 

「分かっている。お前も間違えて殺すなよ」

 

「ああ」

 

それだけを確認すると、三人は一歩を踏み出す。

それに呼応するようにウツセミの大群も動き出した。

 

 

「『穿て雷よ』!」

『Enchant!』

 

 

先制攻撃として黎牙は、剣による刺突による切っ先から放たれた轟雷は、童門目掛けて真っ直ぐ進むーーーーが、それは阻まれた。植物型のウツセミによって。

童門は、真っ直ぐ自分に向かって来た雷をウツセミで身代わりにし、その威力に観察した。雷を喰らったウツセミは、黒焦げとなり沈黙した。

 

「中々の威力だ。目醒めたばかりにしては凄まじいな」

 

 

あごに手をやり、興味深そうにこちらに視線を送ってくる童門。

こちらの戦いを観察していることに小さく舌打ちする黎牙。

そんな黎牙に背後から襲いかかって来た熊のウツセミ。鋭い爪を振り下ろし、無防備の黎牙を斬り裂こうとした。

 

 

「失せろ! 毛むくじゃら!」

『Enchant!』

 

 

しかし、熊のウツセミの両腕はバッサリと斬り落とされた。

それだけでは終わらず、続けて無防備の背中に浅く剣を突き刺すと、

 

「アイツの力を吸え!」

『Absorb!』

『Enchant!』

 

両腕を斬り落とされた熊のウツセミは、突然起き上がるとーーーー童門に襲いかかった。

 

「何っ!?」

 

それに驚愕する童門は咄嗟に懐から札を取り出して何やら呪文のような言葉をつぶやくと童門を包む結界のようなものが現れた。

熊のウツセミはそれでも執拗に童門を襲いかかる。

それに見て童門は笑みを溢す。

 

「うんうん、わかった。やはり、本物は違う。目覚めたばかりでも人工物ではとうてい及ばない差を見せつけてくれる。特にキミーーー阿道黎牙だったかな? 現状では鮫島鋼生が一番神器を扱えると思っていたが予想外のことをしてくれるよ。ウツセミに注がれている私のチカラを吸い、その上に自身のチカラを付加させる事で、命令主を自分に書き換え、ウツセミを操るとはね。驚いたよ――――――それでは、次に移行しようか」

 

 

再び懐から札を取り出して呪文をつぶやきながら、ほかのウツセミに熊のウツセミを処理させた。

 

「……土より生まれ出ずるもの、金の気を吐き、水の清めにより、馳せ参じよ」

 

札を手放すと、札が意思をもったかのように宙を漂い始め、五芒星を形成していく。札の全てが怪しい輝きを放ちながら、床に大きな影が生れて、その影が盛り上がり、形となしていく。

三人の眼前に現れたのは三メートルはあるであろう人型の土の塊。

童門は笑う。

 

「これでも由緒ある術士の家系でね、さ、私の土人形でキミたちを捕えよう」

 

童門が指を鳴らすとそれに応じて、土人形がゆっくりと動き出す。

 

「………おいおい魔女っ子の魔法といい、てめえのバケモノ召喚といい、なんでもありかよっ!」

 

「それでもキミたちの持つものに比べたら、矮小であるんだよ。まったく不愉快なことにね」

 

土人形が大ぶりにパンチを繰り出した。空気が振動するほどの勢い。直撃――――いや、かするだけでも大きなダメージが受けそうだ。

 

「『神速と化せ』!」

『Enchant!』

 

再び『付加』の能力を発動させて、動きを加速させる。

鋼生は後方に飛び退いて距離を取り、一気にランスを突き刺していくーーーが、カキーンッ!という音だけがフロアに響くだけで、ランスは土人形の体に弾かれてしまう。

今度は鳶雄の子犬が翼のように生やした背中の一対の刃で斬りかかるが、それでも土人形にダメージは与えられない。

物理攻撃が効かないのなら、と黎牙は土人形の脚に剣を突き立て、力を『吸収』しようと試みた。

 

「吸い尽くせ!!」

『Absorb!!』

 

剣の宝玉から眩い光を発させながら、土人形のチカラを吸収していると、別方向からの来るウツセミが攻撃を仕掛けてきた。その攻撃を避ける為に、土人形から離れるしかなかった。

その結果を見て童門は嘲笑する。

 

「ふふふ。どうやら、現時点では私の人形のほうがキミたちを上回っているようだ。では、仕上げといこうか」

 

童門は更に札を取り出して呪文を唱えた。札は三人の背後で展開して土人形を呼び寄せる。背後に現れた土人形と正面からも先ほどの土人形がそれぞれ鳶雄、鋼生、黎牙に詰め寄ってくる。

 

「…………くそったれ!!」

「……………くっ!」

「……クソっ!」

 

ほどなくして、鳶雄と鋼生は土人形によって取り押さえられてしまうーーーが、身体強化を付加していたおかげで辛うじて回避することに成功した黎牙。

 

「やはりキミは避けるか」

 

「なにっ!?」

 

突然聴こえきた新たなる声に驚き、声のする方向を振り返ろうとしたところで剣を握っている筈の右腕に違和感を覚えた。

 

「――――――――っっ!!」

 

視線を右腕に向けるとーーーー右腕が二の腕から先が無くなっていた。その致命的な隙を見逃さなかった土人形に取り押さえられてしまう黎牙。

 

 

「助かったよ。ギルバス君」

 

「クライアントのサポートは最低限させて貰う」

 

突然何処から来たのかは不明だが、童門の側には黎牙の斬り落とされた右腕を待っスーツを気崩して着ているた三十代前半の男が、いつのまにか立っていた。

 

右腕からドクドクと流れるモノと猛烈な痛み。

少しして冷静になった頭が漸く黎牙は自分が何をされたのか理解した。

 

 

あの男に右腕を斬り落とされたのだ。

 

 

 

「彼はこの少年達の中で最も冷静で、警戒心が強い。ならばその様な相手の武器を使えなくさせる事が1番だ」

 

突然現れた正体不明の男ギルバスは、見るからに童門の協力者である事は間違いない。腕が無くなり苦痛に顔を歪める黎牙に鳶雄たちの顔がしかめる。

 

「それでは私は戻らせて貰うぞ………」

 

「了解した。戻って休んでいてくれ。はてさて、これからどうしたものか」

 

「それでは阿道黎牙君、また逢おう」

 

正体不明の男ギルバスは、意味深な言葉を残し、足元に魔法陣を展開し消えていった。

残った童門は顎に手をやり、手元の携帯機器を見ながら何かを楽しそうに考え込む。

携帯機器をいじる手が止まった。鳶雄にいやらしい視線を送り、こう言う。

 

「ちょうど、この場にキミと縁がある者を連れていたようだ」

 

童門は背後で待機するウツセミに言う。

 

「後方にいる者は前に出なさい」

 

すると、後ろの列にいて正面からは確認できなかった者たちが複数現れる。

 

「………佐々木?」

 

それは鳶雄の友達だった。

 

「昨日、キミに一度倒された子だね。けれど、こちらの技術で、分身体を再生できるケースもあるのだよ。できない子もいるが、彼は幸運にも再生できるタイプだった。だから、パートナーを再び連れていける」

 

「やめろ!佐々木! 俺だよ!幾瀬だ!!」

 

呼びかける鳶雄。だが、佐々木は何も答えない。無表情のままその場に立つだけ。

 

「………無駄だぜ。こいつらを操る連中を叩かない限り、襲いかかってきやがるのを止めはしない」

 

童門は鳶雄たちの反応を楽しみながら、佐々木を捕われている子犬の前に立たせた。そこで佐々木の首を掴み、子犬が額に出している鋭利な刃に詰め寄らせる。

 

「まだ、ヒトを斬ってはいないのだろう?『四凶』とされるキミたちの神器がヒトの血を覚えたとき何が起こるのか、実に興味深いとは思わないかな?」

 

正に狂気に彩らされる童門の瞳。

自身の分身である子犬に友達を斬らせようとしている衝撃の行動に絶句して、土人形から抜け出そうともがくが、微動だにできない。

 

「………てめぇ!!卑怯にもほどがあんだろう……ッ!」

 

同様に暴れる鋼生が叫ぶが、童門は嘆くように息を吐くだけだった。

 

「何を言っている? もとはとえば、あの豪華客船に乗らずにいたキミたちが悪いのだ。まあ、それもキミたちのなかにいたその神器(セイクリッド・ギア)が、危険を察知して熱を出させたのだと思うがね。しかも忌々しくも堕天の一団が関与した際か、キミたちの不参加を事前に知ることすらできなかった。おかげで我々の計画は大幅に修正せざるを得なかった。よくもまあ我々を出し抜いて情報を操作したものだ、あの黒き翼の者たちめぇ」

 

そして今度は一転して苦笑する童門。

 

「いや、だからこそ、神の子を見張る者たちグリゴリと呼ばれるのだろうか。ふむふむ、神器(セイクリッド・ギア)は神からの贈り物とされるからねぇ」

 

佐々木が鳶雄に視線を送り、口を動かす。

 

「うらぎりもの」

 

「佐々木……」

 

切ない心情が鳶雄に押し寄せてくる。

 

「何が裏切り者だ!……操り人形の分際で……ッ!」

 

その際に苦痛に耐え忍びながら黎牙が言葉を投げた。

 

「おい幾瀬!!オマエも……裏切ったなんて思うんじゃねぇ!こんなのが、裏切りになるわけがあるか!………本当にそう思っているのか、その耳で聞け!!」

 

身体を抑えられているだけで、残った左腕はまだ動く。

利き腕を斬り落とされた黎牙に警戒を解いていた童門の隙を伺い、黎牙は消えていた剣をもう一度、左腕に呼び出し、鳶雄達のいる所まで投げつけーーー神器(セイクリッド・ギア)に命じる。

 

「佐々木を拘束している力を喰え!神器(セイクリッド・ギア)!!」

『Absorb!』

 

剣の宝玉から発した閃光は佐々木へ当たる。

そして、その光が佐々木の心を動かした。

 

「……………い………いくせ…………たす………けて………」

 

それは裏切ったことに対する憎しみの言葉ではない。

友達を名前を呼び、救いを口にした。

 

「そこのカス!さっきから話を聞いていたが、お前達の目的は幾瀬達であって今ウツセミになっている奴等じゃないはずだ」

 

「確かに。だけど、もともと『四凶計画』の実験体として多くの若者が必要だった。彼らの協力は必然だったのだよ」

 

どちらにしろ、結果的にはこうなっていた。

 

「なら、その『四凶計画』とやらの四凶は神器とされた四神の事か?」

 

黎牙の確信に満ちた言葉に童門の表情が一瞬強張む。

しかし、それは答えを言っているもの。

 

「キミがなかなか博識とは思ってはいたが鋭いな。何故その結論に辿り着いたのかその経緯を是非とも聞いてみたいところだが、止めにしよう」

 

「ぐぅっ!?」

 

黎牙を取り押さえている土人形の力が増していく。

 

「安心してくれ。キミが消えても『四凶計画』に支障はない。むしろ、キミという存在は邪魔だ。妨害される前に排除しておくとしよう」

 

「黎牙!?」

 

「クソがッ!!」

 

このままでは黎牙は殺される。

なんとかしようともがくが、土人形はビクともしない。

 

「…………あっけないなぁ」

 

剣をもう一度呼び出す力はもう無く、右腕を斬り落とされ、動きを封じられている黎牙は抵抗することもできずに、自身の頭がミシミシとなっている音を聞く。

このまま潰れたトマトのようになるのだろう。

奇しくもまた笑っていた。

鳶雄と鋼生は身動きが取れない。

チームのラヴィニアたちもまだ交戦中。

この場で黎牙を助けてくれる者は誰一人としていない。

 

「黎牙! 今助けるから!!」

 

「おい! さっさとどけよ!!クソ人形!」

 

必死に叫ぶ鳶雄と鋼生にうるさい奴らだと内心でぼやく。

助ける前に自分達のことを考えろと思いながら黎牙は諦めるように目を閉ざす。

 

『約束なのです、ファング』

 

走馬灯の中で何故か聴こえるラヴィニアの声。

死ぬ間際で聞く声が、何であいつの声なんだと思うとうんざりする。

死の間際くらい空気を読んでくれ。

 

所詮親殺しの俺には相応しい最期だ。

 

これでは約束は守れそうにないな。

 

何でラヴィニアの事ばかり頭に浮かぶだろう。

 

天然で無防備な恰好で男の部屋には来るし、人のベッドを占領するし、全く人の名前で呼ばず、『ファング』なんて妙なあだ名で呼ぶし、親殺しの俺の事も知らないで、勝手に優しい奴だの、強い子だの言いやがってといい迷惑だ。

 

それも…もう…それを聞くことはない。

 

死ねば何もかも終わり。

 

でもやっぱり死にたくない。

 

死にたくない…………まだ死にたくない。

 

生きて、あいつに文句の一つぐらい言いたい。

 

俺はお前の言う様な奴じゃないって。

 

双眸を開かせる。

 

その眼前には真っ暗な世界。

 

それは“あの夢の世界”

 

だが、今度はいつもと違う。

 

目の前に俺の剣がある。

 

『―――想いの力。神器――――セイクリッド・ギアは想いが強ければ強いだけ、所有者に応えるのです。ファングが強く想えばきっとその神器セイクリッド・ギアも応えてくれるはずなのです』

 

また、ラヴィニアの声が聴こえる。

 

なぁお前達は俺の想いに応えてくれるのだろう?

 

 

願えば、その力を発現させてくれるのだろう?

 

 

俺はまだ死にたくない。

 

 

チカラが欲しい。

 

 

あのクソ野郎をぶちのめすチカラが欲しい。

 

 

俺は物語の主人公みたいなスゲェ奴でもない

 

 

特殊な血統もない。

 

 

才能だってない。

 

 

平凡以下のモブキャラだ。

 

 

それでも自分の生きるのを諦めたくない。

 

 

 

俺にオマエたちの力を貸してくれーーーーー

 

 

 

 

 

『待っていたぞ。 その言葉を』

 

 

『欲望こそチカラだ!』

 

 

『さぁ! 絶滅タイムだぁ!」

 

 

 

 

最後に聴こえたあの声を最後に

 

 

 

黎牙の意識は闇に堕ち、

 

 

 

兇悪の邪龍が目醒めた

 

 

 

『GYAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!』

 

 




一瞬だけ本作のオリジナルキャラクターを出してみました。
この後も着々出てきますので。
どう言うキャラなのかは現在は不明という感じです。

それでは次回もお楽しみください。

楽しみやすくなる様なキーワードは《アナザーリュウガ》です。
次回はそれに似たキャラが出ます!
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