魔源の禁龍を宿し者《リメイク版》 作:ドラ丸2号
『まだまだ、俺たちが乗っ取るには弱すぎる』
『マジでヨェー☆』
『マジでカース☆』
あの時と同じ声。
だからは分からないが、少々キレつつ呆れていることはわかる。
『さっさと強くなって貰わないと、俺たちの楽しみが無くなるからな』
『まーた、すぐに殺されるのはゴメンだぜ☆』
『まーた、ハズレを引かされるのもゴメンだぜ☆』
真っ暗な闇の中でしか聴こえない声を聞き流していると、コイツらとは違う俺を呼ぶ声に引っ張られる様に俺の意識は浮上する。
しかし、完全に意識が覚醒する前に、
『次に俺たちに会う前に、せいぜい死なないよう気をつけてることだな。黎牙!!』
『早くしねーと、小便ちびることになるぜ!宿主様よ!!』
『あんまし時間はねぇーからな!レイちゃんよぉ!!』
ボロクソに激昂?された。
「………よく生きていたなぁ」
無愛想な顔で窓の外を睨むように眺める黎牙。
しかし、今の黎牙の身体は至る所に包帯が巻かれている。
右腕が繋がった詳細は不明だが、ラヴィニアに診断してもらった結果綺麗に接合されていた。いや、元々キズが有ったのかと疑う程元に戻っていたのだ。
黎牙には、暴走状態の記憶は残っていたが、その内容はまるで映像を観ている様な他人感覚であった。自分ではない自分。その言葉が一番合っていた。しかし、この感覚には憶えがあった。コレは薬でおかしくなった両親を殺した時と同じであった。
廃業したデパートでの戦闘が終えた次の日の朝に黎牙は目を覚ました。
目覚めた直後にベッドに身を乗り出して寝ていたラヴィニアからそれからのことを話してくれた。
童門達……
五大宗家とは、「
四凶計画とは、上記にあった五大宗家の霊獣達に対抗する為に必要な四凶の怪物ーーーー「
そして、『総督』が率いる組織ーーーーーー
《
胸糞悪い話だ。組織を守るためだのと綺麗事を言い、当然のように弱い者を切り捨てて、御大層な組織のメンツを守る。
このいくつかの悪い要因が集まって今回の事件が生れたということまでも全てラヴィニアは話した。
これで事情も目的も狙いも今となっては全てが明らかとなった。
現在、黎牙は暴走による力の酷使によって身体はボロボロであったので現在黎牙は治療中である。ラヴィニアの魔法のおかげで痛みは引いて後に定期的に魔法をかけることで数日中には治ると言われた。
それでも身体のあちこちが痛む。全身が筋肉痛になったかの様で、上手く身体を動かすことが出来なかった。
この為、魔法という便利な力ならすぐに治せれるのではと思っていたのだが、魔法も万能ではないということだ。
加えて、黎牙自身の回復力に合わせて魔法をかけなければ悪化してしまう恐れがある。
不便ではあるが、自分が招いた不始末だ。これぐらいは別に何とも思わない。
それよりも抗議せねばならない事がある。
「ファングゥ〜あ~んなのです」
何故、看病しているのがラヴィニアなのか。
いや、百歩譲ってそれはいいだろう。
問題は何故ナース服を着ているのかだ!
やたら似合っている事は絶対言わないが。
なんで!ナース服なんだ!?
「………おい、その恰好はなんだ?」
「『総督』に相談したら看病にはこれを着たら男は喜ぶぞと言っていたのです」
頭を押さえる黎牙。
そして、いずれはその総督を殴り倒してやると心に決める。
「私は早くファングに元気になって欲しいのです」
鳶雄が作ったであろう食事ーーーーお雑煮を持って来てくれたラヴィニアの懇意に耐え、黎牙はしかめっ面で食べさせて貰っている。
先程まで、お雑煮を持って来てくれたラヴィニアが自分に食べさせようとして来たので、黎牙は自分で食べると抗議したのだが、身体が思うように動かない事を指摘されしまう。それでも尚1人で食べようとした際に妖しい笑みを浮かべたラヴィニアによって、ズキズキと痛む身体を小突かれることとなる。
小突かれた箇所から強烈な痛みが全身を駆け巡り、苦痛に顔歪めた黎牙はラヴィニアを睨むが、「ファングが、いいと言うまで小突くのです」と説得(脅迫)によって現在、ラヴィニアにア〜ンさせて貰っているのだ。
「しっかり食べて元気になってほしいのです。はい、あ〜んなのです」
「バカみたいに何度も同じ事を言うな。何度も」
「ムゥ〜そんなことを言う悪いファングには、オシオキなのです!」
「————ッ!!…て、てめぇ!!」
「そんなに睨むのでしたら、まだまだ続けるのですよ?」
「…………チッ、わかったから食べさせてくれ」
「はーいなのです!」
「………全く」
オシオキと称して小突かれた箇所から来る痛みに耐えつつ、口に入れて貰った米を味わいながらラヴィニアに視線を送ると、彼女の顔には明るい笑顔が浮かばられていた。
幼い頃から取り繕った笑みや、醜悪に歪められた笑みとはまるで違う悪意などが全くない暖かみを感じさせる笑み。
自分が苦手とする子供のように無邪気または無垢と言える眩しさを感じさせる笑顔。
どうして、どうしてなのか。こんな親殺しの俺なんかに彼女は、こんなにも構う上に、こんな暖かいモノを感じさせてくれる。他人なぞ敵としか、思えない俺も何故かは分からないが、彼女が持つ暖かさが気になって仕方がない。
これが鳶雄や夏梅ならまだケガに対する同情という意味合いがあると予測はできる。しかし、彼女の笑顔からはそんなものは一切感じられない。本当にココロから微笑んでくれているように思えてしまう。そんなはずはないと、何処か否定しようとする自分に対しても僅かな疑念を抱きながら食べさせ貰っていく。
そして、漸く地獄とも言える食事が終わると、ラヴィニアは空となった食器を片付けていく。
「………………………御馳走様」
そんなラヴィニアに対して、黎牙は何処か照れた様な素振りをしつつ、決して聴こえない程の食後の礼を述べてる。
「そうだ、ファング!私と一緒にシャワーを浴びるのです!」
「バカか、お前は!?一旦何を言ってる!?」
突然の爆弾発言に叫ぶも、黎牙の言動を聞いていないのかラヴィニアは着ているナース服を脱ぎ始める。
「ファングは昨日から体を洗ってないのです。でも、ファングの身体はガタガタなので私がくまなく洗うのです!!」
エッヘンと言いたげに下着姿のままダイナマイトボディとも言える胸を張る。あまりの事態に黎牙は耳まで顔を赤く染め、彼女に背中を向けてしまう。
彼女の言う通り、ボロボロな自分の体では、ハッキリと言って、自分一人では満足に全身を洗えないため、誰かに付き添いをしてもらう必要がある。
このため黎牙は、彼女の考えは確かに理解はできる。
だからといって、年頃の男女ですることではない!
「幾瀬か鮫島でいいだろう!?」
ずっと周りと壁を作り、他社を拒絶していた黎牙だが、今回は色々な意味で危機なので本気で二人のどちらかに頼もうと思う。自分の様な男の前で平然と下着姿となるラヴィニアに男女の羞恥心がないのか困惑を隠せないでいる。
「ファングのお世話は私がするとトビー達に言ったのです。ですので、私に任せて欲しいのです」
「ふざけんな!!明日の朝には、俺の身体もある程度は回復しているはずだ!だったら、明日自分で洗う!」
「明日もどうなるかは分かりませんので、今洗うのです!」
取りつく島もないとは正にこのことだな。
尚も胸を張るラヴィニアはとうとう下着も取り払り、魅惑的な裸体を露わにする。いくら、色々と面倒くさい性格をしているとは言え、年頃の男子である黎牙には刺激的なスタイルをするラヴィニアは色々大変である。そのため、逃げようと立ち上がるのだが、身体中に痛みが走った隙を突かれ、
「つーかまえたのです!さぁ、お風呂にlet's goなのです!!」
「ままま待て待て待て!!おい、おいおいやめろ!!マジで………頼むから!!大人しく寝ておくから、やめろ!!おい、バカや、やめ!あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!」
バスト100ものある未知の感触を背中全体に感じながら、黎牙は
一方その頃。特訓中の鳶雄達は。
「何か黎牙の助けを求める声が気がしたけど」
「気のせいでしょ。気のせい」
「どうせ、あの魔女っ子とよろしくやってるだろぉ〜よ」
「そ、そうかなぁ〜」
ある意味で鳶雄の感は当たっていたが、鳶雄達には黎牙の叫びは届かなかった。
* * * * * * * * * * * * * * *
綺麗にされた体、しかし、その瞳は虚ろ…まさに虚無であった。
昨日の戦闘よりも、激戦を繰り広げような気がする黎牙とは反対にラヴィニアは満足そうにしていた。
「…………アリガトウゴザイマシタ」
「はいなのです!!」
やり遂げた感のあるラヴィニアは、黎牙の虚な瞳に気づかず、カタカタの礼に対して眩しいくらいの笑みを浮かべる。そんな彼女を置いて、黎牙は両手で顔を隠しながら、答えのない自問自答する。
もし、自分が本能に忠実な性格をしていたら、きっと大変なことが起きていただろう。少なくとも、幾瀬や鮫島の様な普通の男性なら耐えることができないと断言できる。というか簡単に出来ないと言わせはしない。
「ファングは、自分の
「オマエには何の関係がある」
「どうしても知りたいのです」
「………………」
「教えてほしいのです」
先程と打って変わり、まるで捨て犬の様な不安げな瞳をし始めるラヴィニアに耐え切れなくなったため黎牙の方が折れることとなる。
「分かったから、そんな目で見るな。あくまで大まかだぞ。まず基本的な能力として、『付加』『吸収』『解放』の3つなのは把握出来る。だが、あの暴走状態の俺が使っていた力はどれもよくわからない。肉体の変革か、魔法のチカラなのか」
黎牙は自身が抱く疑念を解消する為にも正直に話した。
「だが、俺は死ぬの間際、死にたくない。童門のクソをぶった斬るチカラがほしい。と
「3つの声なのですか?」
「ウチの2つは口が悪いが、俺がチカラを望む待っていたかようだった。その後は、幾瀬達が話していたように黒いバケモノになっていた」
「ファング……チカラを強く望み過ぎると身体がついていかず、壊れてしまう恐れがあるのです。だから、無茶はしないで欲しいのです」
「俺の身体だ。俺がどう使おうがお前には関係ない」
「私は……ファングに消えてほしくないのです」
「何だと?」
心の底から黎牙の身を案じるラヴィニアに自分の奥底にある苛立ちを隠せる事が出来ず、顔を顰める。
「このまま、あのチカラを望み続けてしまえば、もうファングは、ファングではなくなってしまうのです」
「…………」
「ファングの力は、ファング自身が思っている以上に危険な力なのです。制御の効かない力を使い続けてしまうと、優しいファングはもう……いなくなってしまうのです」
真剣な声音で真っ直ぐに見据えるラヴィニアの青い瞳に黎牙は、
「いい加減に俺にそんな言葉をかけるな!………ッ!!」
「え?」
自分の中にある苛立ちの焔を爆発させた。
「自分が自分で無くなる事なんか、親を殺した時に味わってんだよ!!そんな俺に『優しい』なんて言葉をかけるな!! 」
ベッドから立ち上がり、痛む身体なぞどうでもいいかの様に黎牙は正面にいるラヴィニアに続けた。
「そんな親殺しのバケモノの俺なんて!消えた方がいいんだよ!!」
「ち、違うのです! 私はファングの事をそんな風に思ってないのです。ファングはバケモノではないのです!」
「知らない筈がないだろ!暴走した俺は、斬り落とされた腕が龍みたいなバケモノに変貌させてみせたり、お前達を何の躊躇もなく殺そうとしたんだぞ!!」
「それでも…ファングは無防備となった私を殺そうしたもう1人のファングから助けくれたのです。だから、ファングは優しい人なのです」
「ふざけるな!そんな優しい奴がいくら虐待し続けて来たとは言え、実の両親を殺し、殺した後に達成感しか感じなかった奴ではない!!いいか!俺は、自分が殺されないために両親を殺し、罪悪感も、殺人に対する嫌悪感も抱かないバケモノだ!!そんなバケモノに何でお前は構うんだ!!」
ココロの中にある今まで溜め込んでいた闇を吐き出し続ける黎牙。だが、ラヴィニアは黎牙の手を掴み、黎牙のココロと向き合おうと歩み寄る。
「ファングは絶対にバケモノではないのです!私は……もうこれ以上ファングが傷ついて欲しくないのです。友達を心配してはいけないのですか?」
黎牙のココロに語りかけるラヴィニアは掴んでいる手に力を込める。
「ファングは優しくてともていい人なのです。そして、誰よりも最悪の事態を想定して、周りの人間の事を考えてくれる凄い人でもあるのです!暴走した時も自分が助かりたいだけではなく、トビーたちを助ける為にチカラが欲しいと願ったのではないのですか? そんな人がバケモノではないのです!」
暴走の時にも見せた暖かな笑みを浮かべ、黎牙の頰を優しく撫でる。
「それにファングは……ファングのお父さんとお母さんを殺してしまった自分に、暴走し私達に剣を向けてしまった自分に、そこまで嫌悪を露わにするというのは、ファングの中に人を愛するココロがあるからなのです。だからファングは、優しい人で間違いなのです」
変わらない優しい微笑みのままラヴィニアは告げる。
「……なんで…なんで…………オマエは……そんな事を…………言うんだよ…………?」
「私達が友達だからなのです」
「……………俺は……俺は自分が怖いんだ…」
ラヴィニアの言葉は黎牙に響き、彼の瞳に涙を浮かべ始めさせた。
そして、黎牙は己の中に誰にも明かした事の無い恐怖を吐き出す。
「俺には分からない自分がいる事がいるんだ。あの時、気がつくと俺の手は両親の血で汚れていたんだ。いくらクズだったとは言え、何の躊躇もなく、殺人に恐怖を感じない俺が……怖いんだ。知らない間に手を汚していく俺が………恐ろしいんだ」
「ファング……もう一人で恐怖に耐える必要も、孤独に戦い続ける事も、抱え込む事も必要もないのです。だから、次にみんなが危なくなって暴走してしまったら、一番はじめに私を殺して欲しいのです」
「………いやだ…………オマエを…オマエ達を傷つけたく無い……」
普段の黎牙とはかけ離れているが、黎牙のその言葉はたしかに弱々しく、怯えながらではあるが、しっかりとした否定の言葉だった。
そして、優しく微笑みかけるラヴィニアは、そんな黎牙を胸の中に抱き寄せた。
「だから、その強くて優しいココロで、私を……私達…チームのみんなを守って下さい。それに、自分を制御出来なくなってしまっても、私達チームが止めてみせるのです」
氷のように冷たくなってしまっていた黎牙の心にラヴィニアの暖かさが伝わる。
「だからもう1人で自分と戦う必要はないのです。私は、1人で傷ついていくファングを見るのがとても辛くて悲しいのです」
その暖かさはとても優しさに満ち溢れて、居心地がよく、黎牙の苦しみを包み込んでいく。
「ファングはもう1人ではないのです……私達…チームのみんながファングを支えるのです」
「だから…絶対大丈夫なのです」
その暖かさは氷で覆われた黎牙の心を溶かす様に黎牙の双眸から涙が落ちる。
「………うるさいバカが」
その悪態にラヴィニアの微笑みの中に含まれる眩しさは一層、その輝きを増した。
そんな彼女の微笑みを受けた黎牙は、まるで幼子に戻ったかのように
「う、ううわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
大粒の涙を流し続けてしまう。
「よしよしなのです」
そんな黎牙を優しく抱き締め、黎牙の頭を撫でて続けた。
「大丈夫、もう大丈夫なのですよ」
黎牙の涙が止まる。
その時まで