魔源の禁龍を宿し者《リメイク版》 作:ドラ丸2号
鳶雄、鋼生、夏梅、黎牙、ラヴィニアの5人は鳶雄とかなり親しい仲である東城紗枝の自宅へ来ていた。彼女の親族は既に謎の引越しによってここにはいない。昼間なのに、雰囲気は暗く、生活感が全く伝わって来ない。そして、玄関には鍵がかかっていない。
「……すでに誰も住んでいないとは言えよ、鍵ぐらいは閉めるだろうよ。じゃなきゃ、この土地の管理者はとんだ無能だ」
そう皮肉を口にしながら鋼生の肩には白い猫を乗せており、いつ何かが起きてもいいように警戒を強めている。
「いや違う。この家を中心に人払いの結界がかけられている。俺たちの様な異能者以外の一般人は認識できなくされている。で、合ってるか?」
念の為としてラヴィニアに確認を取る黎牙に答えるようにラヴィニアも口を開く。
「バッチリなのです。ファングの言う通り、私たちの様に異能の力を宿している人にしか認識は出来ないので、ある意味でこの土地は、管理されていると言えば管理されているのですよ。日本の方術、神道、陰陽道は、この手の『隠す』『退ける』といった『祓い』の力に秀でているのです」
「よく気づけたな、黎牙」
感嘆の声を出す鳶雄。
剣を構えながら家の中にウツセミ達の異様な気配が探る黎牙に、夏梅と鋼生も感嘆の声を出す。
「この三日間、魔法の勉強と
「中々勤勉ヤローだな、お前?」
「勘違いするな。また暴走状態を引き起こして、死にかけるのはゴメンなだけだ」
「ファングはツンデレさんなのです」
「うんうん、ツンデレね」
「ツンデレだな」
「ツンデレかな?」
「殺されたいのかオマエら?」
割とガチトーンで言ってくるので、気を引き締め直して捜索を再開する。
魔法、方術、神道、陰陽道も其々似た仕組みをしているもので、三日間とは言え、まだまだ付け焼き刃でもキチンと感知できた。
家の中は、物などはそのままとなっていて、人だけがこの家からいなくなっている。今のところ、怪しい物は発見できていない。
「俺、二階のほうを調べてみる」
鳶雄の提案により夏梅と鋼生は一階の捜索を続けて鳶雄、ラヴィニア、黎牙の3人は上の階に上がる階段を上がろうとした時、人影らしいものが視界に捉えた気がした。一旦離れるため互いに連絡を取り合う為ラヴィニアの魔法で連絡をとり合えるようにした。
鳶雄は二人に視線を配らせれば、同様に上に目を向ける。
「………夏梅、シャーク、警戒しておいてほしいのです」
ラヴィニアの言葉の意味は戦闘を覚悟しろという通告。
これにより一気に住宅内を緊張の空気が支配し始める。
「………刃……」
鳶雄は、静かにパートナーを呼び先導させる。子犬の後に続く様に鳶雄、ラヴィニア、黎牙は階段を上がって行く。
子犬からのジェスチャーにより危険は無い事がわかった。
そして、階段を上がりきると鳶雄たちは紗枝の自室へと足を向ける。
扉のノブを回して入ると整理整頓がされていた綺麗な部屋だ。
鳶雄は大切な幼馴染である紗枝の机を調べ、黎牙は周囲や窓側に異変がないか、または敵がいないかを調べていた。
ラヴィニアは魔法を床に刻み終えると、紗枝の部屋を後にし、今度は紗枝の両親の部屋に足を向ける。
紗枝の部屋に異常がない事が分かった鳶雄と黎牙はラヴィニアに続き、紗枝の両親の部屋にもそれらしいものが無いかを調べた。しかし、結果は何もなかった。半ば諦めかけていた時、キィという扉が開く音が聞こえ、振り返るとそこには一人の少女が立っていた。
「紗枝!」
名を呼ぶ鳶雄。
今すぐに駆け寄りたい気持ちを必死に堪える。
再開を果たした幼馴染だが、紗枝の表情は不気味な笑みを浮かべてジッと鳶雄を見ていた事に黎牙は警戒心を強める。
「紗枝、俺だ。わかるか?」
鳶雄の呼びかけても紗枝に変化はない。
紗枝は薄く不気味な笑みを浮かべるだけだった。
紗枝がウツセミとなっているが鳶雄には簡単に刃に命令を出す事が出来ない。ラヴィニアと黎牙は鳶雄の心情を察して、静観していた。おいそれと、
「やはり、斬れないかね」
「そう簡単にはいくまいよ」
2つの声が廊下から聴こえてくる。部屋に入ってきたのは―――三つ揃いに背広を着た初老の男性と、スーツを着崩した金髪の三十代の男性。この2人には見覚えがある。童門に『姫島』『ギルバス』と呼ばれていた。
精悍な顔つきで『姫島』と呼ばれていた男が静かに口を開く。
「私は姫島唐棣というものだ。すでに知っているかもしれないが、『空蝉機関』という組織の長をやっている」
「続けて私はギルバス。姫島君達に協力者として覚えておいてくれ」
組織の長。
………いきなり親玉である姫島の登場に驚くも鳶雄がぼそりとつぶやく。
「………五大宗家」
それを聞いて姫島唐棣は興味深そうに顎に手をやった。
「ふむ、どうやら黒き翼の一団より情報は得ているようだ。ならば早い。ーーーー『四凶』を有するキミたち。それと
「なに!?」
驚きの声を上げる黎牙に視線を向けているギルバスが黎牙の疑問を払うか様に唐棣に続く。
「キミの中にいる力の源は邪龍だよ」
「彼…ギルバス君の上司はキミの力を求めているのだよ。だからキミに危害を加える事はないよ」
「人の腕を斬り落としておいてよく言える」
鋭い視線を向け、剣を構える。
「むろん、私はキミのことも欲しいと思っている。幾瀬鳶雄ーーーーいや、姫島鳶雄と呼んだほうがいいだろうか?」
五大宗家の一つの宗家である『姫島』。
その名字を持つ鳶雄に黎牙は内心驚愕していた。
鳶雄は初めて耳にする情報に驚くも唐棣は続けた。
「キミは知らないだろうが、キミのおばあさんーーーー朱芭は『姫島』宗家の一員だったのだよ。残念ながら姫島の望む力に恵まれず家を出されてしまったが……」
「……俺は幾瀬だ。姫島は祖母の旧姓に過ぎない」
「キミがそう思っても、この国の裏で動く者たちにとっては姫島の血は大きい。しかし、皮肉だ。宗家を追われた者の系譜に『狗』が生じようとは……」
視線を下に下げて刃を捉えるとその瞳は暗く、感情が一切乗せられていない。
「…………正直言うと、私の本懐は半ば果たされたと思っているーーーーーー幾瀬鳶雄…キミの登場でね。あの姫島から『雷光』の娘以上の『魔』が生れた。しかも、正確には『雷光』の一件以前に誕生していたことになる。これほどの喜劇はないのだよ。神道と『朱雀』を司りし姫島が『朱』ではなく『漆黒』を生みだしているのだから。キミを認知したあとの『姫島』宗主の顔を思い浮かべるだけで、私は十分に満たされているだろう」
「なるほど、貴様の目的は自分を追放した姫島家に復讐するチカラを創り出すこためだけに組織を作り上げたのか」
「やはり鋭いな。童門が警戒する様に促すのも身にして分かったよ」
黎牙の言動に否定はせず続ける。
「だが、我が同胞たちの心中はそうはいかない……最後まで『計画』に準ずるのがあの組織を束ねる者のつとめなのだよ」
「幾瀬鳶雄、私たちに力を貸してはくれまいか?いや、仮に私たちを斬り伏せたとしても、そのときはーーーーーー私たちに代わり、五大宗家のバケモノたちを倒してはくれまいか?」
「……勝手な言い分だ。しかも意味のわからないことばかり………っ!!」
一方的な物言いに鳶雄は不快感を露にしていた。
この期に及んでまだ力を貸せとまで言ってくるとは……っ!
何より紗枝の隣でその様な戯れ言を宣うのが鳶雄の感情をより逆撫でてた。
今にも飛び出しそうな鳶雄を手で制しさせ、ギルバスに質問を投げかける。
「オマエの上司は何故俺の力を求めている?俺の力は幾瀬達の様に独立具現型
「ああだが、キミのチカラは非常にデリケートでね。彼等が覚醒していなければ
《
「アジ・ダハーカだと!?」
ギルバスの口から出た邪龍筆頭格の一体の名が出た事に驚愕を露わにした。アジ・ダハーカは既に英雄スラエータオナに滅ぼされた筈だ。
「『
「「は?」」
その言葉に鳶雄と黎牙は驚愕した。
ギルバスの『ラヴィニアが黎牙が邪龍に呑み込まれた時は殺す』という言葉に。
黎牙は後ろにラヴィニアに振り返り問いかける。
「知っていたのか?最初から」
「……………ごめんなさい」
ラヴィニアは俯き申し訳なさそうに謝罪した。
「お前も……俺を………殺すのか…」
「それはーーー」
「彼女がそんな事をすると思っているのか……っ!!」
全てに裏切られたと読み取れてしまうほどの絶望の表情を浮かべいた黎牙を目の前に唐棣たちがいるにもかかわらず、鳶雄は会話に割って入り、黎牙を顔を殴った。
「……と、トビー!?なにを!?」
「おい、幾瀬……何のつもりだ!」
「バカな黎牙を殴っただけだ」
殴られた黎牙は怒りの感情を露わにし、鳶雄につめ寄ろうとしたが鳶雄が黎牙よりも先に詰め寄り、胸ぐらを掴んで、自分の言葉を黎牙にぶつける。
「いいか!彼女は暴走したキミを救うために命を賭けたんだ!!ずっと1人で俺達を殺そうした自分と戦っていたキミに寄り添って、キミを信じて、自分の命を危険に晒してまで黎牙を信じたんだ!!
だから、奴らの様な言葉なんかより彼女の…………言葉を!意志を!ココロを信じろ……………っ!!
俺達ーーーー仲間を信じろ!!」
あの時、自分の際で黎牙を暴走させていた時何も出来なかった自分とは違い、暴走する黎牙に寄り添う様にして、黎牙を救ったラヴィニアを信じて。
鳶雄は黎牙に自分の心を伝えたーーーが、今度は鳶雄が殴り返された。
「ふぁ、ファングっ!?」
「何をするんだ!?」
「お返しだ。敵が目の前にいるのに殴ってくるな」
「あんな顔していた黎牙に言われたくないよ」
「あ゛あ゛ぁ!?」
「くははははっ!!あ〜久々に笑ったよ。真実を言って此方側に来やすくしようと思っていたが、中々うまくいかないな姫島君?」
「全くだよ。異端は異端を呼ぶとはよく言ったものだ」
お互いの顔に殴られた跡が付いていながら、敵意を宿した瞳で鋭く自分達の敵を睨む。
「さて、キミの
それ程なまでに自分に宿る邪龍の危険性と兇悪さを認識させられた。
そんな黎牙にギルバスは次々とラヴィニアが隠していた黎牙の
「まぁコレは私の上司の言葉を借りたに過ぎないがね。そして、その
はじめて知った自身の
この
3つの内の2つはかなり口が悪いがそれは今は置いてく。
しかし、何故ギルバスの上司はそんな兇悪な邪龍が復活しかねないチカラを欲しているのかはわからない。
そんな黎牙の疑問を察したのかの様に唐棣は答える。
「わかるかね阿道黎牙?キミのチカラは確かに危険な物だ。使い方を誤れば自分の魂は喰われるか、各勢力のトップ陣による粛清の二択。だが、使い方を誤らなければ、
危険すぎるので私は手は出さないがねとつけて加えた唐棣の言葉に黎牙は黙り込む。あの時、暴走した時にはウツセミを一瞬で焼き尽くす炎の魔法、高位の転移魔法、斬り落とされた右腕の再生と変貌魔法。それぞれがアジ・ダハーカの力の一端に過ぎないのだ。
自分のちっぽけな魔法など足元にも及ばない程の強大な力をどうにかしようなどと無謀な真似をしていた事、ラヴィニアが何故自分なぞを生かしているのか……膨大な新情報に思考を停止させてしまいそうになるが何とか虚勢を貼るかの様に剣を構える黎牙。
そんな黎牙に何も言えず、パートナーたる刃にいつでも唐棣達に攻撃指示を出せるようにする鳶雄。
ずっと避け続けていたいつかは明かされる真実を知らされてしまった黎牙に何も言えず、俯いてしまうラヴィニア。
黎牙の虚勢を看破している唐棣はここに来て初めて感情の乗った笑みを愉快そうに浮かべ鳶雄に視線をむける。
「……キミを一本の禍々しい刃に仕立てあげるのが、私のつとめなのかもしれないな」
童唐棣が今まで静観していた紗枝に指示を出すと、紗枝の影は意思を持ったように蠢き、部屋全体へ広がっていく。広がった影は、やがて部屋の大半を埋め尽くすばかりの巨大な漆黒の毛並みの獅子へと変貌した。
肌につきささるようなプレッシャーから鳶雄と黎牙は思い知らされる……この獅子のウツセミは根本的な『作り』からしても桁違いのバケモノであると痛感させられた。
「……私達に協力してくれている魔術師の一団と共に開発しているものーーーー『
「これも《狗》が関係しているのかは私にも不明だがね」
唐棣が説明した黒獅子を横目で流し見ながら肩を竦めるギルバス。
そして、先ほどまで俯いていたラヴィニアが忌々しそうに獅子を睨みつけながら唐棣達に言う。
「……獅子…三体のうちの一本は既に顕現化できつつあるというのですか。
「…『
それを聞いたラヴィニアは心底不快そうな声音で漏らした。
「………不愉快な限りなのです」
「キミが言うかね?彼を殺そうとも考えていたキミが?」
ギルバスの言葉を受けてラヴィニアは又もや俯いてしまう。彼女の沈黙は肯定を言っている様な物だった。
不穏な空気が立ち込める中、鳶雄の耳に夏梅からの声が魔法で届いた。
『幾瀬くん!この家、囲まれているみたい!』
既にこの家は何十物ウツセミの軍団に取り囲まらていたのだ。
唐棣は自分に視線を向けてくる鳶雄に提案を持ちかけた。
「キミ達がよければ、我々の研究施設に案内しよう。キミ達が求める同級生もそこで全て待機しているし、彼らの肉親も健在だ」
付け加える様にあの獅子とウツセミ全てとやり合うかと、脅してくる。
どうする…かなりの数のウツセミとあの獅子にギルバス達を相手にするとなるとはっきり言って、恐らく犠牲は1人出る。敵のアジトへと連行されても、勝てる道理は無く、八方塞がりとなった。
ここは全員生き残る為に連行されるしかないと黎牙は考えていると、唐棣は鳶雄に見せつけるように何かの術式の文字が書かれた桐箱を取り出し、
「そこの金庫に入っていたものだ。先に拝借させてもらった。何、まだ、私も見てはいないよ。どうかね、幾瀬鳶雄くん?この中身と彼女ーーーーどちらも欲しいだろう?」
紗枝を指さしながら、相手の神経を逆撫でさせる様な事を口にする。
「……ここの判断はトビーとファングに任せるのです。夏梅もシャークもわかってくれるのですよ。不謹慎かもしれませんが、彼らの施設に物凄く興味があるのです」
黎牙に対しての申し訳なさそうな目は変わらないが、鳶雄の心情を察してラヴィニアは言った。鳶雄は黎牙にも意見を求めようとしたが、
「………お前が決めろ」
鳶雄に任せた。
というか、黎牙には鳶雄がどの様な選択をするのかは既に分かっていた。任せられた鳶雄は、鋼生、夏梅に連絡し、撤退する様に伝え、夏梅は了承しかねていたが、鋼生に押される様に撤退を受け入れた。
「なるほど、自分達だけ残って、『四凶』を逃がすか。懸命な判断だ」
「禁龍主の彼もそれをわかっていたみたいだね。まだ、ココロの曇りは晴れていないようだがね?」
「…………ちっ」
ギルバスに考えを見透かされた事に小さく舌打ちをする黎牙。
黎牙はまだ、自分のチカラとどのように向き合うかを決めかねているのだ。
そして、唐棣は印を結び、自分達のアジトへ通ずる『門』を創り出した。
「さあ、くぐりたまえ」
「歓迎させていただくよ。氷姫、狗、禁龍主」
そのまま3人は『門』を潜る。
その門は、黎牙達にとって、
破滅への門か、救済への門か、
それともーーーーーーー
しかし、既に賽は投げられた。
漆黒の《狗》と《邪龍》の行く末は
絶望か、希望か、
その答えは、もうすぐそこまで来ていた
『『『まだなのかぁぁぁ!!!!』』』
すいませんでしたぁぁぁ!!
でも名前は出ましたよ?
『名前だけで納得するか!!』
『舐めてんのか? あ゛あん?』
『殺すぞ?コラァァァ!!』
次回に登場する予定ですので待って下さい!!
次回《邪龍の目覚め》