Fate/Gorgeous Tango †隔離楽園都市・冬木†   作:ログインできた

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2-2 百の貌のハサン

 

 

 

「実は行きたいところが――」

 

 太陽は沈み屋上は夜の闇に包まれるまで話は続いた。それが一段落ついたところで、あなたは切り出した。

 誘われた以上なんとなく行っておいてほうがいい気がする。そう考えると、あなたは自分が大鎌の女に襲われた時のことを話した。あなたのアサシン、橙のアサシンにも話させた。あの時アサシンはそれぞれの主従があなたと同じ陣営だと知ると気配を遮断し静観していたらしい。見てないで助けてよと言うとあなたの側にも居ましたよと言われた。あの幼い少女も橙のアサシンだったのか……

 

 

 

 

「そのサーヴァントはあなたを守ったようにも見えますね。令呪の色で同じ色だと判断して接触しようとしたのでは。」

「てことは、アタシらとは敵だな。色もクラスも違うんだろ。」

「そうですね、穂群原学園に行くメリットがあるのはあなただけです。」

 

 二人はあなたに冷ややかな目を向けてきた。損得じゃなくて人として行ったほうがいいと思ったからだが、二人に誤解させてしまったようだ……

 

「行くならアサシン一人で行かせろ。アンタには人質になってもらう。」

「私達はまだあなたを信用したわけではない……それでよろしいですね?」

 

 あなたは釈明した。しかしそれも虚しく二人は通告してきた。こんなことになるなんて……

 あなたは困惑した。しかし二人が自分に手を出すことはないだろうとも感じていた。その気になれば二人は、あなたが気絶している間にいくらでも攻撃できたはずだ。たとえあなたのアサシンが分身できたとしても、二人のアサシンも宝具なりの切り札を持っているであろうから、一対二ではやはり不利だ。だがそれでも今まで生かされているのなら、今度も大丈夫なはずだ、たぶん。

 あなたは二人の提案に応じた。二人の善意を信じることとした。

 三人のマスターと三騎のアサシンとの手短な交渉の末、アサシンを二つに分身させ、片方はあなたと共に病室に軟禁、もう片方が穂群原学園に向かう、という条件で話が纏まった。さて、時間がない。アサシンには急いでもらおう。

 

「任されよ、マスター。我らの中でも選りすぐりを残します。」

 

 そういうとアサシンは二つに分裂した。いい体してる男の声のアサシンは……*1弱いな。弱い方のアサシンは闇に消えた。そしてあなたの下には、あの時あなたが助けた幼い女の子がいた。いちおうこっちもステータスを見てみよう。*2こんな姿だが意外に強いようだ。こっちが本体なのだろうか?

 

「ここから学校までけっこうあるぞ。その分身そこまで行けるのか?」

「……」

「おい、そんな顔すんなよ……」

「……」

 

 そして、赤のアサシンのマスターから話しかけられた幼いアサシンはあなたの背中に隠れると服にしがみついた。ステータスはともかく行動は子供としか思えない。

 あなたはアサシンを分析した。アサシンはあなた以外の二騎も含めて体格は違えど皆引き締まったいい体をしている。そして纏う雰囲気は同様に掴みどころがない。一方、今あなたの膝をロックするように後ろから抱え込んでいるアサシンは見た目も行動もまるっきり子供としか思えない。これがアサシンの宝具なのだろうか?

 既に時刻は夜と呼べる頃だ。あなたは夜景を見た。街には星のように光が瞬き、その彼方には海がある。二十一世紀初頭の日本ではよく見られたものだが、それにしても美しいと呼べるものだろう。その陰で聖杯戦争が行われていることなど誰も知りはしない。奇妙な聖杯戦争の舞台に、あなたは本格的に降り立つこととなる。

 あなたは病室へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

【一方その頃】

 

 

 

 

 夜の穂群原学園近くを通るバスには、通勤帰りのサラリーマンで椅子が埋まっている。

 

 その屋根の上で最寄りのバス停まで張り付いていたアサシンは、学園近くになると音も無く飛ぶ去り、少しして学園の敷地内に現れた。

 

橙のアサシン(しかし、我らだけで行動か。今回は殺しは無しだな。)

 

橙のアサシン(サーヴァント相手ならともかく、マスターならばどうとでもなろう。)

 

橙のアサシン(この人数では包囲もおぼつかぬ。相手も魔術師だろう、足を掬われるぞ。)

 

橙のアサシン(なに、その舞踏ならば正面からでも翻弄できよう。)

 

橙のアサシン(……なんだァ……貴様……?)

 

橙のアサシン(……先の女とは違うようだな。)

 

橙のアサシン(フン……仕事にとりかかるぞ。)

 

 アサシンは脳内会議を取り止めると分裂する。

 

 目的の人物は見当たらないが、校庭には剣戟の音が響く。

 

 アサシンは鍔迫り合うサーヴァントを尻目に霊体化のままマスターの捜索を始めた。

 

 校庭を迂回して二つに分かれ、ある者は木々の間を通り抜け、ある者は校舎を駆ける。

 

 その速度は極めて迅速、彼らはものの一分で戦況を把握すると、校舎裏で落ち合った。

 

橙のアサシン(校舎にマスターらしき赤髪の少年が一人。ベッドに寝かされている。令呪は手の甲、色は青、形は剣の如し。首筋から上半身全体が血に濡れていたが止血されている。あの乾き方からすると、一時間以内に刺され、それを魔術で治したか。)

 

橙のアサシン(奇妙だな、魔術で治せるのならそれほどの出血は。)

 

橙のアサシン(同盟相手が治したのだろうよ。こちらでもマスターを見つけた。黒髪に黒い服のアジア人だ。令呪の位置は明らかではないな。)

 

橙のアサシン(校庭で戦う三人だが、一人は青を基調とした鎧の女騎士。服装から考えるにケルト人だろうが、十字軍が好む意匠も見られた。一見透明な武器を持っているようだが、あれは風の魔術によるものだな。私は詳しいんだ。)

 

橙のアサシン(風の魔術? 騎士らしくないな。)

 

橙のアサシン(古い時代の騎士なのではないか? ケルト人が栄えたのは今より――ああ、今は昔か。)

 

橙のアサシン(うぅむ……保留だ。他は?)

 

橙のアサシン(あとの二人は?)

 

橙のアサシン(見たことのない装束だ。少なくとも十字軍ではない。片方は風変わりであることを除けば凡百の鎧姿。片方は、鎧と武器が瞬時に変わる。どちらも、いや三人とも年若い。)

 

橙のアサシン(変わる?)

 

橙のアサシン(変わるのだ……剣を持っていたと思えば、槍を。かと思えば斧を。宝具だろうか。)

 

橙のアサシン(そのような逸話の英霊など聞いたことがない。我らより未来――ではなく、あー……)

 

橙のアサシン(そして、弱いのだ。)

 

橙のアサシン(なんと。)

 

橙のアサシン(あれならば我ら全員でかかれば正面からでも殺せると思えるほどに弱いのだ。三つ巴の戦いゆえに捨て置かれているが、女騎士と個性が薄い騎士との一騎打ちだな、実態は。)

 

橙のアサシン(……ところで、奴はいつ来る? 死んだか?)

 

橙のアサシン(基底達か。遅いな――いや、来た!?)

 

 アサシン達の間に動揺が走る。一人遅れてきたアサシンの手には、少年と思しき首が抱えられていた。

 

橙のアサシン(基底よ! 貴様先走ったな!)

 

橙のアサシン(違うのだ。この男この私に勘づいて――)

 

橙のアサシン(ハサンである我らに気づくマスターなどいるわけなかろう!)

 

橙のアサシン(殺しは無しと言ったのはお前だろうに!)

 

橙のアサシン(やむを得なかったのだ、この男、令呪を使おうと……)

 

橙のアサシン(気づかれたにしてもなぜ首を刎ねた!)

 

橙のアサシン(刎ねねば傷口からアサシンだと露見しよう! それにこの男、目に令呪がある。魂喰いするなりすれば魔力の足しにもなろう。)

 

橙のアサシン(そんな言い訳が通じると思うか!)

 

橙のアサシン(……いや、一理ある。)

 

橙のアサシン(なんだと?)

 

橙のアサシン(考えてみろ。今この場にいる我々は、あのマスターを認めていないものが多い。)

 

橙のアサシン(それはそうだろう。だからこちらに回された。)

 

橙のアサシン(翻意があるのは数名程度だが、しかし認めていないのはもっと多いだろう。)

 

橙のアサシン(中立が過半数だが、マスター替えに同調するのは十名はいるな。)

 

橙のアサシン(そうだ。あのマスターは我らを使うに足るか未だ判断がつかぬ。ならば、この首級で試そうぞ。)

 

橙のアサシン(なるほど意味がわからん。)

 

橙のアサシン(首を見せて人となりを見ようというのか? 悪趣味だな。)

 

橙のアサシン(そうだ。我らに相応しいマスターならば、独断専行を諌めよう。だが人並みならば、首そのものに動じるだろう。)

 

橙のアサシン(マスターを試すような真似は不審を買うぞ。)

 

橙のアサシン(私は賛成だ。この聖杯戦争、マスターと一蓮托生というわけではない。)

 

橙のアサシン(乗り換えるなら早い方がいいぞ、どうする?)

 

橙のアサシン(どちらにせよこの場からは離れよう。長居は無用。)

 

橙のアサシン(然り。基底よ、お前がマスターに首を出せ。)

 

橙のアサシン(首を落とされるのはお前に任せた。)

 

橙のアサシン(ぐぬぬ……叱責も褒賞も一人で受けよう。)

 

橙のアサシン(褒賞があればいいな。)

 

 アサシンは最後に校庭を一瞥すると、闇に駆け出す。

 

 校庭では一人のサーヴァントが光に包まれていた。

 

 

 

 

 橙のアサシンがマスターの暗殺に成功しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あなたはマスター達と夕食を摂っていた。夕飯の時間が過ぎていたために、赤のアサシンのマスターが買い出しに行って買ってきたコンビニ弁当だ。「レシート別にしといた」と言われながら差し出されたものだ。後で払えということだろうか、無一文なのだから奢ってほしい……

 軟禁されている間、会話は乏しかった。二人とも無駄口はしないようだが、名前すら教えてもらえない。あなたは抗議したが、

「名前をトリガーに発動する術を持っている可能性がある」と白のアサシンのマスターに言われれば引き下がるしかない。たしかにマスターと言えど真名を明かすのは問題だがいい加減呼びにくいので、「白マスター」と「赤マスター」と呼ぶことにした。

 

「紅白でおめでたいですね。」

「馬鹿言ってないで食え。」

 

 ちょうど夕食を食べ終わったところで、二人の持つ携帯電話に着信が来た。警察からだ。穂群原学園で、首の無い少年の死体が見つかったらしい。同じ学校の生徒が通報したそうだ。

 

「上手くやったな。」

 

 赤のマスターはそう言うと、白のマスターと二人のサーヴァントと共にあなたの部屋から出ていった。軟禁はこうして、一時間足らずで終わった。

 

 あなたの下にあなたのアサシンが戻って来たのは、それから間もなくのことだ。ビニール袋を手に提げ、窓から入って来た。血の匂いがした。

 あなたは、首を見た。

 少年らしき首には、眼鏡のように令呪があった。

 

「戻りました。」

 

 アサシンはそう言った。

 続けて、大鎌の女は居なかったと言った。

 これがあなたの二日目の聖杯戦争だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運E

*2
筋力C 耐久D 敏捷A 魔力C 幸運E

あなたの意思とは無関係に、聖杯戦争はあなたを当事者とした。既に一人の血は流され、その下手人はあなたのサーヴァントだ。まだ血の滴る生首を前に、あなたは橙のアサシンに対してどのような対応をする?

  • 糾弾、殺人を批難する
  • 容認、理解を示す

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