わたくし、上条当麻には妹がいる。
いや、この表現は正確ではないな。訂正しよう。
わたくし上条当麻には妹ができた。
高校二年生の春、上条当麻は兄という肩書きを得たのだ。
だが、ここで一つ勘違いしてはいけない。俺は別に血の繋がった妹が出来たのではない。血の繋がっていない義理の妹なのである。
なにそれ?どんなラブコメ?
皆はそんなこと思ってるんだろうな。期待してくれちゃってるんだろうな。本当に思い期待だよ。重圧にしかなってないよ。
突然だが、上条当麻は不幸な人間である。
道を歩けば、なにもないところで転ぶし、道端の糞を踏み抜くし、自販機にお金は飲み込まれるし、なにもしてないはずなのに、居候には噛まれ、爪楊枝で刺され、鋭い爪で引っ掛かれる。
そして、そんな俺はいま住んでいる学園都市ではなく、実家の前にいる。
これを説明するには、昨日まで遡らなくてはいけない。
昨日は丁度春休み初日だった。
御坂のおかげで、補習と留年を免れた俺は一週間自由という貴族特権を使ってダラダラと……
「とうま、朝ごはんはまだなのかな。もう待てないんだよ」
なんてことは出来るわけもなく、朝から暴飲暴食シスターの世話をしなくてはならなかったのだ。
彼女の名前はインデックス。10万3000冊の魔導書をその記憶のなかに内包するシスターであり、訳あって俺の家に居候している。
と、説明している間に朝食が出来たので運んでしまおう。
「ほ~れ、今日は野菜炒め肉入りだぞ~」
「肉入り!?おぉ、ちんまりとだけど肉が入ってるんだよ、とうま!!どういうことなのかな!?」
「そうだろ、そうだろ、なにせ父さん達が進級祝いに仕送りをくれたからな。これから春休みは毎食肉か魚が食べれるぞ~」
「ほんとなの!?わーいなんだよ」
「おい、人間。私の分はまだか」
家のもう一人の居候である、全長15cmの元魔神オティヌスが自分の朝食を急かす。弁当の仕切りに使うアルミの皿に野菜炒めを乗せて出す。米も同じように出している。
そして、飼い猫であるスフィンクスにもキャットフードを差し出し、異音同口でいただきます、と言いながら食べ始める。
インデックスは速攻で食べておかわりを取りに行き、オティヌスはその少ない量を一口一口を噛み締めるように食べる。
「とうま、これからどうするのかな?」
「んー、そうだな。特に予定もないし、皆でどっか遊びにでも……」
プルルルルルル
なんだよ。こんな時に電話かよ。
箸を置いて、受話器をとりながら無難な対応をとる。
「はい、上条ですけど」
『当麻か。父さんなんだが……』
「父さん?なんだよ、急に?」
『いや、家に戻ってきてくれないか。もう手続きはほとんど済ませてあるんだが……』
「え、なんで?」
珍しく少し動揺した様子で、俺の父、上条刀夜は俺に帰郷するように求める。
そして、俺の言葉で会話が途切れてから数秒後、覚悟を決めたように一言を告げた。
『当麻、お前に
「──────────────────────────────────────────────────────────────は?」
は!?えっ、えっと……その……は!?
いやいやいやいやいやちょっと待て。夢かこれは夢なのか、よし、一回ほっぺたつねってみよう。夢じゃない、そうか……夢じゃないのか……
ってことは、なんだ、なんなんだ妹って、妹ってあのいもうとか!?あのいもうとってどのイモウトだ!?
頭が混乱する。
うまく思考が纏まらない。おそらく落ち着くだけで数秒、思考を取り戻すのにさらに数秒くらい掛かったと思われる。
やっと言葉にできる頃には、先程とは逆に洪水のように言葉が流れ出てきた。
「おい、おい、ちょっと待てコラァ!てめぇ、自分がいま何歳なのか自覚してんのか!?いや『そういうの』に子供が口出すべきではないけど、アンタその年になってまで母さんに……」
『あ、いやすまんすまん。別に『そういうの』とかではないんだ。いや、私としては、別に『そういうの』でもいいんだが……』
「ちょっと待て。さらっと聞き捨てならないこと言ったよな。それについて小一時間追及させろクソ親父」
そして、俺の制止という名の暴言を振り切って、電話のスピーカーから、父さんの口から今度こそ、正真正銘意味不明な単語が聞こえてきた───────
『当麻、お前の「従兄弟」が『
は?………………へ?
ポカン、と口を開けたまま立ち尽くして、およそ十三秒。
「なんじゃそりゃぁぁぁあああああああああああああ!!!???」
絶叫した。