ゆかりん、子育て始めるってよ   作:エスカルゴ・スカーレット

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ゆかりん、たまにはのんびりするってよ

複数に渡るお漏らし騒動を経て、どうにかお昼を迎えた紫達。藍が昼食を作っている間に、茜には母乳を飲ませ、完成してからは、茜を抱っこしたまま藍に昼ご飯を食べさせてもらった。

茜は、眠っている時に母から離れると泣き出してしまうタイプの赤子だ。入院していた頃とは違う環境なので、退院してやっとそれを知ったのだ。紫は内心で「折角ベビーベッド買ったのに…」と少し勿体なく感じてはいるが、無理に寝かせても泣かれるだけなのは目に見えているので、決して口に出して文句は言わないし、実行もしない。

 

「ごちそうさま。いつも通り、美味しかったわ」

 

「お粗末さまでした」

 

乳で腹が脹れた茜は母の腕でずっと眠っており、同じく昼食を摂って腹が脹れた紫も、大きく息をついた。

 

「やっと大人しくなってくれたわ。飲みっぷりもいいし、何だかいい感じじゃない?どうかしら」

 

「大人しくなったのは眠っているからでしょう」

 

藍は台所で食器を洗いながら淡々と言葉を返す。あまりにも当然な返答に紫は頬を膨らませ、少し投げやり気味で、答えが単調であることに対する不満も込めた言葉を返す。

 

「そんな事は分かってるわよ〜…。でもこの子、いつまでこうして眠ってるのかしらね。それと、お漏らししないように、オムツの確認はこまめにしといた方が良いかもしれないわね」

 

「全く…紫様は慌て過ぎなんですよ。もう少し、落ち着いて事に当たっては?」

 

「ええ、分かってるわ…。分かってるんだけど、どうしてもね…。あーあ、まさかお漏らし如きであんなに慌てるなんて、末代までの恥ね」

 

「………」

 

「そこは否定してよぉっ!」

 

「あんまり大きな声は出さない方が良いかと…。起きてしまいますよ」

 

「それもそうね。…何か、私より藍の方が詳しくない?私の式になる前に育児経験でもあった?」

 

「いえ。ただ、自分が寝てるのに傍で騒がれたら誰だって起きるでしょうし…それは赤子も我々と同じだろうと思ったまでです」

 

「う…その通りね…」

 

声量に気付かされた紫は、ボリュームを落とし、エプロンで手を拭きながら居間に戻ってくる藍に引き攣った笑みを向ける。

 

「あと、吸われてる時にわざとらしく声漏らすの止めて下さい。気が散ります」

 

「あら、気付いてた?うふふふっ♪」

 

「やはり意図的でしたか…」

 

「興奮しちゃった?」

 

「しないです」

 

「んもう…少しくらい興奮しても良いじゃない」

 

「…はぁ…」

 

「あー、今露骨にため息ついた〜。酷いわねぇ」

 

「そういう事に興味は無いので」

 

ツンと澄ます藍だが、その言葉は紛れもない本心である。紫はそれを分かってる上でカマをかけ、藍もまたカマかけである事を分かっていて軽口を叩いている。イラついていそうな口調の藍だが、紫がそれを咎めたり、藍がキレないのも、互いに軽口を叩きあっていることが分かってるからこそなせる会話だ。

 

「ちょっとトイレ行ってくるから、茜の事抱っこしててくれないかしら」

 

「分かりました、ごゆっくり」

 

けれども、眠っている茜を藍に抱かせたその時。ピッタリ閉ざされていたはずの目が、パッチリと開かれた。そして目の前に母の顔を確認し、次に自分を抱き上げる藍という存在を確認した。

 

「「あっ……」」

 

「ゔ……ゔぅあぅぅぁあ〜〜っ…!!」

 

「いっ、急いで行ってくるからお願いねッ!!」

 

「お任せ下さい!」

 

…そこからはもう、茜が泣き出すのに時間はそうかからなかった。背を向けた途端に泣き出して、藍は慌ててあやすものの、全く意味を為さない。

落ち着いて事に当たってはどうかと進言した筈の藍だが、少しずつ焦りの色が表れ始めた。あやすためにガラガラを渡してみるも、妖怪に人間製のオモチャを渡しても、大して遊べないうちに破壊してしまう。変顔をしようと思いついた藍だが、羞恥心が勝り、中々実行に移せない。

 

「あぁもう、早く戻ってきて下さい紫様…!まだ私には荷が重かったようです……んぶっ!?」

 

藍の腕の中で暴れる茜は、藍の腹を蹴ったり顔を叩いたりと好き放題する。どうにかして大人しくさせたい藍だが、主人の子故にあまり手荒な事は出来ず、されるがままになっている。

 

「はいはいはいはい、お母さんが大急ぎで帰ってきたでちゅよ〜!茜ちゃん茜ちゃん!お母さん、お母さん来たでちゅ〜!」

 

「…!あぅあぁ〜、たぁ〜っ!」

 

わざとらしいくらいに高い声、満面すぎる笑み。けれども自分の子を落ち着かせるにはそれで十分だったらしい。現に、茜は笑みを覗かせて、母にその小さな手を伸ばしている。

 

「お〜よちよち、お待たせちまちた〜♪」

 

「助かりました、紫様…」

 

茜が紫の手に渡ると、茜は母の胸に顔をうずめ、再び眠りについた。それも、泣き疲れたからか、小さくいびきまでかいている。

 

「…ね?中々に大変でしょ…?」

 

「ええ、予想よりも遥かに……。何をしても泣き止まなくて、苦戦してました…」

 

「何故か私が抱っこしてると落ち着くのよねー…何でかしら。母親だから?」

 

「そうなんじゃないですかね…。そうじゃないと何か悔しいですし…」

 

「あらあら、正直ね。…じゃあ、このままここでお昼寝しましょうか…おなかいっぱいになったら私まで眠くなってきちゃったわ」

 

「すぐそばに居るなら茜も寝ますしね。18時頃に起こしますよ」

 

「お願いするわ…」

 

結局、そのまま畳に寝転がって、時間管理も含め家事などは全て藍に任せ、2人は束の間の休息をとり始めた。…だが、休める時間は本当に短く、すぐに子育てに奮闘する事になるのだった……。

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