「…う〜ん…」
「どうしましょうか、紫様…。いっそ、茜の事も結界の見回りに連れていきます?」
「ダメよ藍、それはダメ。あまりに危険すぎる」
「ですよね…」
「あーうーのー!あかね、おとーさんにあうー!あってみたいのぉ!」
「お父さんに会う」と言って中々紫達の言う事を聞いてくれない茜。多少は話ができても、中身は赤ん坊そのもので、ワガママさはとんでもない。同じ言語こそ話すが、自我の中途半端な芽生えがこうも面倒な事になるのかと、紫は内心溜め息をついている。
「茜?もうお母さんは仕事に行かなきゃなのよ。いつも通りお昼寝しましょ?ね?」
「やーだー!おひるねしたくないー!」
「…参ったわね…」
「コラ。ワガママを言ってお母さんを困らせてはいけないぞ?大人しくお昼寝して待ってなさい。大きくなったらお父さんにも会わせてやるから」
「やだっっ!!」
「「………」」
喋り始めたと思ったらこの有り様である。2人が繰り返し溜め息をつくのも、仕方の無いことだ。意思疎通が出来るようになった反面、このように娘とぶつかり合う事も、これから増えていくことだろう。しかし、多少の分別はつけさせなければならないと考えた紫は、茜の好きな玩具を出す。
「ほぉ〜ら、茜ちゃんのだーい好きな、ガラガラでちゅよ〜♪ ガラガラ〜♪ ガラガラ〜♪」
「………」
ガラガラを揺らしてそんな言葉をかけるものの、茜からの視線は鋭く突き刺さるばかりで、興味を示してくれない。まるで言葉を覚えたのと同時に性格までもが変わってしまったかのようだ。
「あかね、ねない!ねむくないもん!おかーさんねればいーの!」
「お母さんはこれからお仕事なのよ〜…」
「ならあかねはおとーさんとあそぶっ!おはなししてみたいもん!」
「だーめ」
「なんでだめ!?あかねのおとーさん!」
「それはそうだけど…ねぇ…?」
茜が納得出来そうな理由が思いつかない彼女は、藍に視線を向けて助け舟を求める。しかし、藍も適当な理由が思い付かないらしく、先程から頭を抱えてうーんうーんと唸っている。
「いーもん!あかね、おとーさんにあいにいく!おかーさんはどっかいっていーよ!」
「!?」
まだ服の場所も教えていないにも関わらず、茜は自分の服が仕舞ってある場所へ向かって、適当な服を引っ張り出した。動けない頃から、紫や藍の動きを見ていて、ある程度の場所は把握しているらしかった。
「お、お父さんがどこに居るのか、どんな格好の人なのか、茜は知らないでしょう?」
「しってるもん!げんそーきょーでゆいーつの、おとこのきゅーけつき!」
「…っ!」
「あと、まえにおうちにきてた!わかんないけどあのひとでしょ!あかねのおとーさん!」
「…………」
「どういう事ですか?茜が産まれてから奴が来たことは一度も無いはず…。まさか紫様、別な男を連れ込ん…」
「そんなワケないでしょ!何をそんなバカな事を言ってるのよ藍っ!」
「じゃあどうして、いつの間に奴をここに?」
「…こっ、この前はっ…その……えっと……///」
顔を赤くさせ、照れて指を絡ませる紫。しかし、藍と茜は同じようなジト目で主を…または母親を見つめる。そんな2人を見て、追求を逃れるのは不可能だろうなと判断した紫は、意を決して、2人に話すことにした。
「…あの時はちょっと……ムラムラ…しちゃってね…?」
「あっ……」
「…?」
察した藍は口元を手で押さえ、何の事か知らない茜は首を傾げて、暴露した本人は縮こまる。紫がそういった事を話すのは彼と霊夢以外では初めてなので、どうにも羞恥心が抑えきれないらしい。
「と、とにかくっ!お父さんに会うことは、まだ許せないわ!また今度にしなさい!」
「どーして!」
着替えが中途半端で、上下ともに下着姿の茜は、ドンドン足を踏み鳴らして苛立ちを露わにした。子供らしい地団駄に思わず頬を弛めそうになった紫だったが、ここでニヤケては意味が無いので、必死に真顔を作る。
「どうしてもよ。今、お父さんは凄く忙しいの。同時期に子供が3人も生まれたからね…」
「しかも次は守矢の巫女ですしね…」
「あぁ、そういえば早苗もだったわ…。神の子がどうなるのか、よく観察しなければ…」
「…?むずかしーこと、あかねわかんない!でもおとーさんにあうの!」
「ダメったらダメよ。もう少しだけ待ちなさい、あなたなら待てるはずよ」
「やだ!!」
「ワガママ言わないの!」
「やだっっ!!!」
一段と大きな声で叫ぶ茜。するとその場に多くの空間の歪み…スキマが発生し、様々なものが落下してきた。ナイフ、古びた壺、大量の本、誰かの衣類、食材、そして水。
「きゃあああああああ!!!藍!らぁぁぁん!!どういう事なの助けてええええええぇぇ!!!」
「紫様ぁぁぁぁ!!部屋が水浸しに!!このままでは家が腐って…あうっ、足が滑っ…ブクブクブク」
「藍、まずいわ!濡れた服が重くて動けな……」
「ブクブクブクブクブクブク……」
「ぷはっ……あぁぁもおおおおおっ!!どうしてこうなっちゃうのよおおぉぉぉぉぉぉっっ!!?もう嫌ぁぁ…ブクブクブク……」
完全に混乱する紫と藍。そして、大量のスキマの中から翼が生えた男が1人、瓦礫の山にポトリと物のように落ちてきた。
「うぉっ!?な、何だこれ、何だこれ!?何で俺紫さんちに居んの!?しかも部屋滅茶苦茶じゃん何だこりゃ!?」
「おとーさんきたぁ♡」
偶然?にも父親に巡り会えた茜は、キョロキョロ周囲を見回す父親に飛び付いた。が、状況がまだ分かっていない彼は、娘が普通にしゃべっていること、娘がびしょ濡れであることすら忘れ、ただただこの状況に困惑する。
「あ、茜?紫さんは?藍さんは?ていうか、この状況は何なんだ?痛っ、手になんか刺さった…。うわ、なんかツボ割れてる…」
「そんなことより、あかねとあそぼー?」
「お、おう…?それは別に構わんが、まず部屋を片付けてからな?」
「いーの!おかーさんがやってくれるからっ!」
「えぇ…流石に、こんなゴミ屋敷になってるのは見過ごせないぞ…」
「あかねがべつにいーっていってるからいーの!いっしょにあそぼ!おそといこ!おさんぽしよ!おはなししよ!」
「わ、分かった分かった…。茜ってば、よっぽど遊びたかったんだな…。そーだな…とりあえず、博麗神社にでも行ってみるか?」
「はくれー…じんじゃ?うん、いってみよー!」
「よし、行くかー」
(偶然とはいえ、本当に父親を呼ぶなんてね…。全く、茜ったら……能力がこんなに早く目覚めるなんて、完全に計算外だったわ…。っていうか、引越ししなきゃかしらね…これはもうダメよね、家がダメになっちゃうわ………あ〜も〜……)
茜達が去っていったその後、スキマにて排水した紫は、藍と共にゴミ屋敷と化してしまった家中の片付けに追われることになった………。
茜0歳編はこれで終わりです。次は4歳編です。あのイベントやこのイベントの裏側を晒します。短編なので、そんなに長くは続けませんよ。