ゆかりん、実は親バカだってよ
「ただいまぁ〜……。疲れたよ、お母さぁん…」
「おかえり、茜♪」
「おかえり」
紅魔館で繰り広げられた、ある戦いから帰還した茜。彼女は帰宅するとすぐに畳に倒れ込み、疲労困憊した様子を見せる。藍は「大丈夫か…?」と訊ねるが、茜は黙って頷くのみ。紫は、心配するような素振りは見せず、ただ一言、こう訊ねた。
「魔界旅行選考会、どうだった?」
「負けちゃった…。全然勝てなかったよ」
「何ですって?茜が…全然勝てなかった…?」
「うん…」
「3人の中に入れなかったの?」
「うん…」
「そう……残念ね…」
重苦しい空気が漂う。紫が溜め息をつく事自体は多々あれど、心から悲しそうで暗い顔をするのは珍しいなと紫と長年連れ添っている藍は感じた。そしてそれは、紫の娘である茜も同様だった。
「ごめんなさい…」
「大丈夫よ。茜は精一杯頑張ったんだものね…。見てなくても分かるわよ、それくらい。だって、そんなにボロボロなんだもの…」
「ん……」
「そっかぁ〜…茜も負ける事があるのね…。何か新鮮ねぇ、こういうのって」
茜に寄り添うように畳に寝転がり、ふっと笑みを零す紫。怒ってはいない、もう残念がっていないだろうと考えた茜も、少しばかり表情を緩める。
「そだね…」
「…悔しい?」
「悔しいよ…。魔界、行きたかったもん…」
「まぁあのお父さんの事だから、また別な機会に連れて行ってはくれるんでしょうけどね」
「うん、そう言ってた。でも…やっぱり、最初に行きたかったな…って思って…。お姉ちゃん達、すっごく強かったんだよ。巫月お姉ちゃんと霊愛お姉ちゃんで、私達皆を相手に無双してたし…」
「あの2人はズバ抜けて力が強いわよね〜……。混血の力とでも言うのかしら、アレ。穹ちゃんもこれから大きく伸びそうで怖いわ…」
「私も混血…」
「そうね。大丈夫よ。あなたには、他の皆じゃあ味わえない、特別な経験をさせてあげようと色々考えてる所だから。ね、藍?」
「…ええ、まぁ…。それが何年後になるのかは、分かりませんがね」
「ほんと!?」
勢い良く体を起こし、母と藍の顔を交互に見やる茜。藍はそれに対して黙って頷き、紫は脅しとも受け取れそうな、幼い子供にとっては真の意味が計り知れない、意味深な言葉を付け足す。
「でもそれには、あなたの成長が不可欠なのよ。強さの意味でも…精神的な意味でも…。何より、肉体的な意味の、ね」
「肉体的な…?おかぁ…さん……何か…怖い事、しようとしてる…?」
「怖くは無いわ。簡単に言うとね?健康に、強く優しく、スクスクと育ってほしいっていうだけ。だから…頑張ってね、茜♪」
「…うん…。私、頑張るよ…っ!」
満足気に頷いた紫は、茜の頭にポンと手を置く。だが、手を離すと同時に再び不機嫌そうな表情になり、大きな溜め息をついた。
「…それにしても…茜が負けるなんて全く納得がいかないわね。誰か、何かしら汚い手を使ったんじゃないでしょうね?」
「それは無いもん…」
「戦績は?何勝何敗?」
「2勝5敗…」
「…妖舞くんと樹里愛ちゃんに勝ったのかしら」
「うん」
「霊麗ちゃんは…流石にキツかった?」
「イケそうだと思ったんだ。でも…力不足で…。その前の戦いで力を無駄に使ったからだなって、負けた理由はもう分かってるよ」
「あなたも、まだ力に振り回されているようね。霊麗ちゃんほどじゃないんだから、配分くらいは出来るようになりましょうね」
「はぁい…」
その後、みっちりと力の使い方や応用方法などを教え込まれた茜。能力に関する事とはいえ勉強が嫌いな彼女は、勉強から逃げ出したくすら感じていたものの、強くなる為だと自分に繰り返し強く言い聞かせ、しっかり勉強に臨んだのだった…。
戦いについては本編309話参照。
次の話は22日22時22分に予約投稿です。まさかのあの方が登場します。