「ねぇ
「儂とて憂いておる所よ…。よもや、幼子6人に我が天狗軍が蹂躙されようとは予想もしまいて」
「やだもう、『軍』なんて言い方…。幻想郷には合わないわよ」
「まぁまぁ、紫様…」
子供達が紅魔館にて寝泊まりをしている中、紫の屋敷では、先程行われたばかりの天狗と子供達の戦いについて紫と天魔が講評していた。が、その意見の大半は、ただの天狗達への愚痴であった。
「鬼が山に居た頃とか、もっとしっかりしてたと思うけどねぇ…。さっきなんて何よ、紗那が話をしてるのに、後ろの方ではお喋りしてみたりね。あれは無かったわ。正直言うと、子供相手にボコボコにされている姿を見て、スッキリしたわ」
「あれは酷かったのぅ…。見ていて辛かったよ。そして幼子だからと舐め腐っておった。…それであのザマじゃ。儂とて擁護しようがないほどに、ダラケておる。どうしたものかの、ゆかりんよ。エスカルゴとの決闘以来、厳しくしとるのだが」
「厳しくしててアレは無いわよ。もう天魔交代の時期かしらね?」
「おいおい…。が、長として必要な統率力が儂に無いのは認めよう。だからこそ、部下の大天狗は勝手に行動を起こして、問題に発展して…挙句の果てに山に災いを齎し…絶大な力を持つ吸血鬼や紅魔館の連中を敵に回してしまった。今でこそ、彼奴とは和解しておるが…正直、儂は不安じゃ。またあのような凄惨な事件が起こらないか…な。
あの事件に加担していなくとも反抗的な大天狗はまだまだおる…。ヒック……嫌なものよのォ…。これもまた、儂の力不足故か…」
藍の用意した酒に口をつけ、グチグチと己を卑下する天魔。それを聞き「まぁまぁ…」と繰り返し宥める藍と、何も言わず酒を煽る紫。
アルコールを摂取した2人は、その力も借りて、普段よりも饒舌に話を続けていく。
「…ま、紗那の統率力の無さはこれからどうにかするとして、と。今は部下の方よ。いくら相手が吸血鬼の血を継ぐ子供6人とはいえ、白狼天狗と烏天狗が1000人近く居たのよ?幻想郷が平和でもあれは酷すぎるわ」
「今回は白狼天狗が500+烏天狗が500人、合計
1000人じゃ。…こっそり後から参加させたから、表向きは700人くらいじゃがの」
「あ、汚い。裏ではそんな手を使ってたのね?」
「儂ら天狗は、鬼とは違ってたまに嘘をつくぞ。そんなのは、今に始まったことでも無いだろう。
…それなのに、だ。それなのにあのザマだ…儂が頭を抱えるのも分かるだろう?人数を足したのは後半戦に突入してからだ…吸血鬼の血を引く子供とて、力や体力、共に消費はしておるはずじゃ。それでも、我が軍はあのように蹂躙されたのだ。赤子の手を捻るように。この意味が分かるか?」
「エスカルゴの子供達は絶大な強さだけではなく持久力もある。若しくは、あの天狗達がただ単に力不足だったから。…或いは、その両方かもね」
「両方だと思うよ、儂は…。のうゆかりん、また鬼を山の頂点に据えるというのはどうかの…?」
「鬼が山から居なくなって一番喜んでたのって、あなた自身じゃない。もうシメられなくて済む、もう無駄な酒盛りに付き合わなくて済む…って」
「あぁ、天狗の長だから毎度毎度引っ張りだこになっていたよ。それでも尚、部下共の気は今より引き締まっていた。少しでもダラけると、キツい拳が待っているからな。鬼の手加減の下手さは、ゆかりんとて知っておるだろう?肉体の強い妖怪とて散るぞ、アレは」
「…成程ね。幻想郷全体というより、鬼が消えたことによって、山の天狗社会は平和になったと。そういう事ね?」
「そうだな……平和になったという点では、特に否定はしまいて。訂正すると天狗社会というより山全体だろうな。麓の河童達も、昔よりもずっとイキイキしとるような気がしてならん」
「あぁ〜…。にとりを筆頭に、着々と活動範囲を広げてるしねぇ。あの子、リーダー的なところがあるし…これからも活躍が期待出来そうね」
「そうじゃな。…もしも、河童が本気で反逆するなんて事になったら…今のダラケきった我が軍で対応できるのだろうか?出来ないような気がするのは儂だけかの?」
「子供に負けたからって不安になりすぎよ紗那。河童如きに負ける天狗じゃないでしょ」
「12歳以下の幼子
「まぁ、水辺の近くでしか活動できないだろうし警戒には値しないでしょう」
「いいや…。ヤツら、川を捨て
「へぇ…!」
「しかもサバイバルゲームと称して戦いごっこをしてたりする。その技術が実戦に生かされたら…考えただけで身震いがするわい。見慣れぬ武器に困惑し討ち取られる天狗達……。これでもかってくらい鮮明に想像できる。瞼の裏に浮かぶよう、という比喩がピッタリだな」
「ふーん…案外厄介そうねぇ。だけど、こうして身近の心配を出来るってことは、それだけ周囲が平和になった…ってことよねぇ」
「まぁそうとも言えるが…。儂はな、ゆかりん。別に天魔は儂じゃなくても良いと思っとるんだ。だからクーデターを起こされ地位を奪われようとしても、この天狗社会が崩れるくらいだったら、
『はい、どうぞ』で地位を譲ろうと思っとった。
…が、脆弱なあの天狗共を見たら…なぁ。社会が崩れる恐れがあるからな、そう甘ったれたことも言ってられなくなった。参った参った…」
「え、急に何の話よ?支離滅裂で何言ってるのかよく分からないわよ。お酒飲みすぎ?」
「あ〜?まぁ、つまりだなぁ…河童にすら下克上されかねない弱き天狗共じゃあ、儂以外の誰かが長となろうとも今のような安定した社会の形態は築けないじゃろう…と思っての?仮に実力で儂を倒した者とて、社会をまとめられないだろうなと思ったのじゃよ」
「あぁ…そういう思考だったのね…。そういえば天狗社会、半ば実力主義な所があったわねぇ…。スペルカードルールは完全な実力主義を否定するものなんだけど…」
「仕方ないだろう、もしも今の幻想郷に合わせて天狗社会にスペカを導入してみよ。どうなる?」
「まとまりの無い天狗共じゃ…社会崩壊かしら。
『乱れる』ってレベルじゃ済まなそうよね」
「そう。儂が危惧しておるのはそれじゃ。だから儂自身がスペカを作らん事で下々に示しておる。本当なら、スペカ作って暴れたいんじゃがのぅ…社会を思えば、これも仕方あるまいて。射命丸や姫海棠…犬走…。外の社会に上手に溶け込もうとしておる者は、そちらに合わせて己を磨いておるようじゃがな。他にもおることじゃろう」
「そうねぇ…。まとまりがあるのって、あくまで紗那の周辺だけだものねぇ。文みたいに協調性があって、周囲に溶け込めるのってごく一部よね」
「ああ…。困ったものだよ、本当に」
お猪口では足りないと思ったか、一升瓶を掴んで一気に酒を飲み干す。過去には鬼の酒盛り相手をしていただけあって、天魔もまた、蟒蛇である。
一升瓶の中身を飲み干し、「ぷはっ」と息をつく天魔。紫はそんな彼女に追い討ちをかけるようにたった今思い出したある言葉を告げる。
「………今思い出したんだけどね?エスカルゴ、前にこう言ってたわ。『支配する者は自らの支配する物に使役される。だから俺は支配せず、ただ君臨する』…って」
「くははっ……まんま今の儂じゃないか………。社会を支配するために、その『社会』に使役され犠牲になっている今の儂だ…」
「紗那……」
「天魔様…」
度重なる苦労などからくる疲れからか、不幸にも涙を潤ませた天魔。しかしそれを袖で拭い、更に瓶を数本開ける。
「どれ、茜が帰ってくる朝まで飲み明かすぞ!!付き合え紫、藍!!」
「わ、私もですか…」
「はいはい、分かったわよもう。茜が帰ってくる前には帰ってよね?」
「あたぼーよ!」
…が、結局そのまま酔い潰れた3人は深い眠りに落ちてしまい…朝になって帰宅した茜に、醜態を晒すこととなってしまったのだった…。
天狗軍vs6人の子供達は、本編の341話を参照。
何で3000歳をゆうに超えてる(って設定にした)天魔の名前が紗那なんてキラキラネームなんだ?名前設定した時の俺は何を考えていたんだろう。まぁいっか。
因みに由来は灼○のシャナからです。