ゆかりん、娘に名前をつけるってよ
──────そろそろ、「特別な経験」をさせてもらえる…いや、させられる日が近付いてきた。
茜本人が望んでいようと望んでなかろうと、明日からはそのように過ごすしかない。これはもう、決定事項なのだから…。
「私と藍で、ありとあらゆる準備は整えたわよ。だから、茜ちゃんは何も心配しないで、大人しく流れに身を任せてね」
「うん。…何だか寂しくなるね…」
「そうね…。もしかしたら、お父さんはそっちに行くかもしれないけど…接触する時はくれぐれも周囲に気を付けるのよ」
「分かってるよ、お母さん」
茜は明日から、幻想郷を出て外の世界で暮らす。と言うのも、紫は茜に見聞を広げてほしいのだ。未来の賢者として凝り固まった思想は良くない。
…それが紫の思想である。なので外の世界で生活して、見聞を広げ勉学以外の事も学んでほしい、と言う意味も含められている。
要は「外の世界へ留学に行く」という事である。
「確認するわよ。茜ちゃんは今何歳?」
「6歳」
「じゃ・な・く・て?」
「あっ…えっと、18歳!で、今年19歳になるの!
…あれ…合ってる?」
「そうそう。『設定』だけは何があっても絶対に忘れちゃダメよ?」
「はぁーい…」
これから留学生として学生生活を送るにあたって
「6歳」はおかしすぎる。ましてや彼女の見た目だけはほとんど大人なのだから。これは、紫が昔彼女に施した遺伝子操作モドキが関わっている。数が増えまくった腹違いの姉妹達と比べてみても茜の大人らしさは飛び抜けている。長女の巫月はレミリア同様まだまだ幼女で、半妖の霊愛は少しばかり少女らしさが出てきた。生まれつき成体のここあ・シガレットは、相変わらず少女である。
数年前までは赤子同然だったあのレイチェルも、今では普通の幼女になった。
「ちゃんと皆にお別れの挨拶は済ませてきた?」
「うん」
「お父さんにも?」
「勿論だよ。…泣かれちゃったけどね」
「あらら…。まぁ、エスカルゴにはギリギリまで隠しておきたかったからねぇ…急に知ったら泣くのも無理は無いかもね」
「隠してたのって…やっぱり反対されるから?」
「そう。お父さんは外の世界出身だからね、外の良い所も悪い所も、実際に見て聞いて、体験して知ってる。一部だけとはいえ…ね。だからこそ、茜ちゃんを外に行かせたくないと考えるだろうと最初から分かってたから…ある意味予想の範囲内かしらね」
「まさか泣かれるとは思ってなかったよ…。少し申し訳なくなっちゃった」
「あなたは優しすぎるわ。そういう所はやっぱりあの人に似ているのかもね」
「お父さん、優しいもんね。一部の人に対して…かもしれないけど、それでも私達にとっては凄く優しくて…良いお父さんだもん」
「…そうね」
父親を泣かせてしまった事により、茜の心中には少しばかり暗い気持ちが芽生えてしまった。だがそれを払拭するかのように、父親をただただ褒めちぎる。それが、この会話を聞いてもいない父へ向けて、「悲しませてごめんなさい」と遠回しに謝罪しているかのように、紫の目には映った。
「いよいよ『外』かぁ…なんか緊張するなぁ…」
「なら『設定』の確認をするついでに自己紹介の練習してみましょっか。私相手に練習よ!」
パチンと可愛らしくウインクし、ガッツポーズをとる紫。藍は、相変わらず紫に任されて見回りの仕事中なので、現在は母娘2人きりだ。
「分かった。……留学生の八雲茜ですっ!日本の文化を学びに…」
「ちょっと待って」
「ん…?」
「留学生を名乗っておきながらガッツリ日本名はどうなのかしら…。本籍は外国にあるハーフっ子でも説明はつくと思うけど…」
「でも、色々と準備する時に『八雲茜』で手続きしたんじゃ…?」
「うっ……。そうだけど、そこら辺は力を使えばどうにでもなるのよ。コンピューターは私だって使えないことも…ないし…。いや、私というより藍の方が得意かも?」
「えぇ〜…」
「そんな瑣末な問題は置いといてまずはこっち。問題は、『違和感をどうやって払拭するか』よ。説明はつくけど、少し難しいじゃない?」
「まぁねー…」
「それから、あなたの口調も少し幼すぎるから、そこにも気を付けないとね。大丈夫だろうけど」
「うん、口調の練習はしてあるから大丈夫だよ。
でも、どこ出身か聞かれたらなんて答えよう?」
「あーーーーー……在り来りだけど、アメリカで登録したのよね…。あなたはどこが良かったとかあるかしら?」
「ギリシャかなー」
本来なら、こういった手続きはキチンと相談して決めていくべきだ。しかしそうしなかったのは、茜は勉強をするのでいっぱいいっぱいだったからなのである。故に、準備は紫達がそれぞれ独断で動き…結果として、茜本人の意見とズレが生じてしまったのだ。
「あら、オシャレで良いわね。でもどうして?」
「小泉八雲…ラフカディオ・ハーンがギリシャの生まれだから、八雲繋がりでかな」
「流石、外の雑学系も勉強した甲斐が有るわね。良いわよ、あなたの国籍はギリシャに書き換えておくわね」
「書き換えって…。ホントに大丈夫なの?」
「……………………………………」
あからさまに宙に目を泳がせる紫。わざとらしく見えるが、表情筋がピクピクと動いていて、更に変な汗をかいていることから、恐らく本気で何かあるのだろう。
「お母さん?」
「…何でもないわ。絶対上手くやってみせる…」
「なんか不安になってきた…ハーフっ子設定でも良いんじゃないかなぁ…。実際にハーフだしね。吸血鬼と、通称スキマ妖怪との」
「ダメよ、やるからには徹底的にやらなきゃ」
「最初からそうしておけば…いや、お母さん達に任せっきりにしてた私のせいでもあるけど…」
「…せめて、食事の時とかにこういう話しておくべきだったわね」
「そうだね。でも、何とかなるんならそれで別に良いかな。細かい事気にしなくて済むし」
「そうね、そう思うことにしましょうか。あまり細かくしすぎると、後からボロが出たりどこかで矛盾が発生しかねないわ」
「うん。それじゃ、修正はお願いね。今は明日に向けて練習しないと」
「ええ、そうね。銀行の利用の仕方は覚えてる?振り込んでおいたお金で暫く暮らせる筈だけど…無駄遣いだけはダメよ?」
「覚えてるし、無駄遣いする心配は無いよ。娯楽には興味無いし、本は家から持っていくもんね」
「なら良いんだけど…。あと、変な男に騙されて買わされたりするんじゃないわよ?」
「そういう時はこっそり警察呼ぶもん」
「強姦魔とか痴漢が現れた時は…」
「スキマで野良妖怪の前に送る、でしょ」
「そう、分かってるわね。くれぐれも、殺してはダメよ。今の外の世界は科学が発展してるから、どんな方法で足がつくか分からない」
「もー、お母さんったら心配しすぎっ!」
「そう…?それなら良いんだけどね……。あと、提出物は絶対に期限を守ること!」
「分かってるってばぁ…そんなの基本じゃん…」
幾度と無く繰り返される紫からの注意事項に茜は若干呆れ気味になっている。しかしこれは、父に負けず劣らず自分を心配してくれているからこそ、こうも注意してくるのだと分かっている。だから、呆れつつも一応返事はするのだ。
「あっ。修正する時ってさ、日本名じゃない方にするんだよね?なんて名前にするの?」
「そうね……修正する手間や時間も考慮すると、今すぐに決めないとダメそうね…。ん〜……」
暫く腕組みをして悩みに悩んで、悩み抜いた紫。
しかしその数分後、思い切ったように顔を上げ、茜に新しい名前を授けた。
「明日からあなたは…マエリベリー・ハーンよ」
はい!というわけでですね、今回で「ゆかりん、子育て始めるってよ」完結となります!
続きは茜(マエリベリー・ハーン)主人公とした短編で、という感じになります!
茜の目は紅ですけども、メリーもバージョン?によっては目が紅の事もあるんですよね。良いな。
俺の作品の世界観では「メリー=紫の娘」の説で書いてますが、俺的にはまた別だと思ってます。だってゆかりんに子供とか嫌だもん。
ただ、「そういう設定で書きたい」んですよね。
茜の名前は父親がつけて、マエリベリーの名前は母親がつける。なんか良いですね。(俺だけ?)
完結はしますが、たまに番外編投稿するかも…?
それと、勿論本編と同じ世界のことですからね、いつかは本編にも関わってきます。それではまた次の作品でお会いしましょう!