平穏な平日の昼下がり、夜神加奈は人入りの少ない喫茶店で流れているJAZZを聴きながら1人読書を楽しんでいた。紅茶を片手に読書をする姿はとても絵になっている。
普段軍人としてこの国の国防に務め、日々泥まみれになりながらも鍛錬を重ね、時には命をかけて任務に当たる。そんな忙しい日々も、読書を楽しむこの瞬間だけは忘れることができる。
稀にある平日休みの日に読書をして過ごすのが最近の日課だった。2日以上繋がる休みでも許可を得て射撃練習をしたり、私有地の森で数人の仲間達とエアーガンを用いて戦闘訓練をしたりなど。あまりの情熱に同僚からも若干引かれ気味だ。
しかし、私とて好きで日夜訓練に励んでいる訳では無い。本当ならば好きな本に囲まれて音楽を聴きながらゆっくりと過ごしたいと思う。だがしかし、夢半ばで倒れて行った仲間の事を考えるとどうしても体が動いてしまう。
そんな彼女が現在読んでいる本は四聖武器書というタイトルの本で、この喫茶店に向かう道中の古本屋で掘り出したものだ。物語の中でもとりわけファンタジー系の本が好きな加奈は、有名所の本は全て読み終えてしまい、こうしてマイナーな本を探すのが趣味になっていた。
四聖武器書という全く聞いたことの無いタイトルに古ぼけた表紙、極めつけに溜まりに溜まった埃を見てなにか引かれるようにこの本を購入した。加奈は現在本の3分の1を読み終えた所だが、近年ではあまり見ない中々に癖のある本に夢中になっていた。終末の予言をされた異世界で度重なる災厄の波を退けて行くストーリー。在り来りなストーリーだが、かなり昔の本のようだし当時は珍しい内容だったのだろう。まあ、それが売れなかった要因でもある気がするけれども。
強いて欠点を上げるとしたら可愛らしいヒロインが一向に出てこないところだろうか。王女らしきキャラはいるのだがセリフの節々に見える腹黒さにヒロインとは思えない。ヒロイン不在という悲しみはあったが、それを差し引いても主義主張の異なる勇者達の立ち振る舞いは読んでいて面白い。
次々出てくる化け物を倒す剣の勇者。仲間思いで情に厚い槍の勇者。ロビンフッドさながらの活躍を見せる弓の勇者。そして最後に盾の勇者だが...
「あら? 書き忘れかしら」
ページを捲った先に文字は無く、白紙のページだけが続いていた。
「残念ね、せっかく面白かったのに」
本を閉じ紅茶のお代わりを頼もうとした加奈だったが、その行為は行動に移されること無く加奈は意識を失ったのだった。