銃の勇者の成り上がり   作:夜神 鯨

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エピソード1

「んん...」

 

 加奈が目覚めるとそこはさっきまでいた喫茶店では無くどこかヨーロッパの建物を彷彿させるような、しかし全く見覚えのない建物の中で倒れていた。加奈は素早く起き上がり周囲を確認すると周りにはローブを着た男達が立っている。床には蛍光塗料で書かれたものか、淡く発光したファンタジーによく出てくる魔法陣らしき模様が描かれていた。

 

 不審に思いつつもまずは自身の身体を最優先で確認する。特に欠損や異常は見られないが、何故かマスケット銃を持っている。しかも手から離そうとしても離れない。

 

「ここは?」

 

 加奈が自身の状況確認に勤しんでいると剣を持った男がローブを着た男達に質問をしていた。

 

「おお、勇者様方! どうかこの世界をお救いください!」

 

「「「「はい?」」」」

 

 未だ状況の整理が着いていないがなんとか声を出すことには成功した。

 

「それはどういう意味ですか?」

 

 今度は弓を持った男が質問をしている。

 

「色々と込み合った事情があります故、ご理解する言い方ですと、勇者様達を古の儀式で召喚させていただきました」

 

「召喚……」

 

 一連の流れを見る限りどうやら召喚されたのは5人、しかもどうやら加奈以外は全員が男のようだ。

 

「この世界は今、存亡の危機に立たされているのです。勇者様方、どうかお力をお貸しください」

 

 ローブを着た男が深々と頭を下げている。情報の少ない今軽率に判断してはいけないと判断を悩んでいると。

 

「まあ……話だけなら──」

 

「嫌だな」

 

「そうですね」

 

「元の世界に帰れるんだよな? 話はそれからだ」

 

 加奈以外の4人がそれぞれ話初めてしまう。

 

「人の同意なしでいきなり呼んだ事に対する罪悪感をお前らは持ってんのか?」

 

 剣を持った男の子、見た目高校生くらいの子がローブを着た男に剣を向けた。

 

「仮に、世界が平和になったらっポイっと元の世界に戻されてはタダ働きですしね」

 

 弓を持った子も同意してローブの男達を睨みつける。

 

「こっちの意思をどれだけ汲み取ってくれるんだ? 話に寄っちゃ俺達が世界の敵に回るかもしれないから覚悟して置けよ」

 

 何故か好戦的な3人に対して加奈ともう1人盾を持った男は明らかに置いていかれている。

 

「ま、まずは王様と謁見して頂きたい。報奨の相談はその場でお願いします」

 

 ローブを着た男の代表が重苦しい扉を開けさせて道を示す。

 

「……しょうがないな」

 

「ですね」

 

「ま、どいつを相手にしても話はかわらねえけどな」

 

 悪態をつきながらも3人はローブの男達に導かれるまま扉の奥へと進んでいった。

 

「あんたはどうするんだ?」

 

「どうするもついて行くしかないんじゃないかしら」

 

 取り残された盾を持った男が加奈に質問をしてきたが、加奈はそう言い残して先に進んだ。

 

 先へと進みと暗い部屋を抜けると石造りの廊下が続く。時より窓から見える青い空とオレンジ色を中心に質素で鮮やかな街並みは何処と無く中世のヨーロッパを彷彿させる美しいものだ。

 

 足を止めて景色を楽しみたい気持ちもあるが、残念ながらそんな時間は無く、加奈達は足速に廊下を進み謁見の場へと到着した。

 

「ほう、こやつ等が古の勇者達か」

 

 加奈達が大きく頑丈そうな扉を潜り謁見の場へと着くと王座でふんぞり返っている男がいた。彼こそがこの国の王であるオルトクレイ=メルロマルク32世だ。彼は頭を下げない勇者達に苛立ちを覚えながらも王として平然とした態度で名を名乗った。

 

「ワシがこの国の王、オルトクレイ=メルロマルク32世だ。勇者共よ顔を上げい」

 

 突然連れてこられた勇者達は訳も分からずにただ王を見ていた。だがしかし、それも仕方ない事だと加奈は思う。何せ王族に謁見する機会など民主化が進んだ現代ではありえない。それにここの流儀もわからないのだ起こした行動が不敬と見なされ処刑でもされようものなら目も当てられない。幸いにも暴言や失言をする者は居ないようだ。もしそのような者がいたなら私が助かる為に攻撃を仕掛けなければならない所だった。

 

「さて、まずは事情を説明せねばなるまい。この国、更にはこの世界は滅びへと向いつつある」

 

 メルロマルク32世が唐突に始めた話を纏めると。

 

 1、現在、この世界には終末の予言と言うものが存在しており、いずれ世界を破滅へ導く幾重にも重なる波が訪れ、その波が振りまく災害を撥ね退けなければ世界は滅んでしまう。

 

 2、その予言の年が今年であり、予言の通り、古から存在する龍刻の砂時計という道具の砂が落ちだしたらしいのだ。

 

 3、この龍刻の砂時計は波を予測し、一ヶ月前から警告する。伝承では一つの波が終わる毎に一ヶ月の猶予が生まれる。

 

 4、当初、この国の住民は予言を蔑ろにしていたが、予言の通り龍刻の砂時計の砂が一度落ちきったときメルロマルクに厄災が振り降りた。突如発生した亀裂から、凶悪な魔物が大量に這い出て街を襲ったのだ。その時は辛うじて国の騎士と冒険者が退治することが出来たのだが、おそらく次に来る波は更に強力なものとなるとの事。

 

 5、このままでは災厄を阻止することが出来ない。

 だから国の重鎮達は伝承に則り、勇者召喚を行った。

 

 と纏めるとこんな感じになる。厄災の旅に騎士や冒険者を駆り出していたのではコストもかかるしリスクもそれなりに大きい。ならば古の力を頼り勇者を召喚した方が効率が良いだろう。

 

「話は分かった。で、召喚された俺たちにタダ働きしろと?」

 

「都合のいい話ですね」

 

「……そうだな、自分勝手としか言いようが無い。滅ぶのなら勝手に滅べばいい。俺達にとってどうでもいい話だ」

 

「確かに、助ける義理も無いよな。タダ働きした挙句、平和になったら『さようなら』とかされたらたまったもんじゃないし。というか帰れる手段があるのか聞きたいし、その辺りどうなの?」

 

 加奈以外の4人はメルロマルク32世の話に食って掛かる。確かに報酬も提示されていない状態で急に召喚されたのだ怒りが湧いてきてもおかしくは無いだろうが...

 

「待ちなさい! そう喧嘩腰では交渉になりません。まず国王の方から条件と報酬の掲示を、話し合うのはそれからでもいいでしょう」

 

 こちらの都合もお構い無しに勝手に召喚をしたのはこの国の人間だ。しかし何も知らない状態で頭ごなしに相手を批判するのはおかしい。国防に携わっていた人間だからこそ加奈はつい叫んでしまったのだ。

 

「ああ、そうだな」

 

 加奈の一言で勇者達は萎縮して場は静まり返る。時間にして数秒、重く居心地の悪い静寂が場を覆ったが、王メルロマルク32世が静寂を破った。王としての責任がそうさせたのかメルロマルク32世は部下に命じて追加の説明をさせる。

 

「も、もちろん勇者様達には十分な説明と報酬を用意しております。更には活動しやすいように物資の提供や援助金のご用意もしております」

 

 その情報を聞いた勇者たちは拳を握り嬉しそうに頬を緩めた。

 

「へー……まあ、約束してくれるのなら良いけどさ」

 

「俺達を飼いならせると思うなよ。敵にならない限り協力はしておいてやる」

 

「……そうだな」

 

「ですね」

 

 未だこの国の国力も分からず、もっと言えば国際情勢等この世界の事は全く知らない状態なのに、よく上からものを言えるものだと加奈は素直に関心をする。しかし同時にこのままでは何もせずとも勇者たちは自壊していくかもしれないなぁと一抹の不安が胸をよぎる。

 

「では勇者達よ。それぞれの名を聞こう」

 

 この流れさっきまで読んでいた本と似ている言うことに加奈は気づく。セリフが一言一句同じ訳では無いが大筋は似ている。確かにさっき読んだ本は四聖武器書と言うタイトルで勇者は4人しか出てこなかった筈だか...と思考に耽ていると勇者たちの自己紹介が始まる。

 

「俺の名前は天木錬だ。年齢は16歳、高校生だ」

 

 初めに自己紹介をしたのは剣を持った小柄の男。おそらく彼が剣の勇者だろう。名は天木錬。外見は、美少年と表現するのが一番しっくり来る。顔のつくりは端正で、体格は小柄の165cmくらいだろうか。

 

 女装をしたら女の子に間違う奴だって居そうな程、顔の作りが良い。髪はショートヘアーで若干茶色が混ざっている。切れ長の瞳と白い肌、なんていうかいかにもクールという印象を受ける。

 

「じゃあ、次は俺だな。俺の名前は北村元康、年齢は21歳、大学生だ」

 

 次に自己紹介をしたのは槍を持った男。おそらく彼が槍の勇者で名は北村元康。外見は、なんと言うか軽い感じが印象に残る。

 

 最初の彼に負けず、割と整った顔立ちをしている。持ち前の性格から女性関係には苦労しなさそうだ。いや逆に苦労思想ではあるか。髪型は後ろに纏めたポニーテール。細身の身体も相まって男がしているのに妙に似合っている。

 

「次は僕ですね。僕の名前は川澄樹。年齢は17歳、高校生です」

 

 次は弓を持った大人しそうな男の子。弓の勇者、川澄樹。最初の天木より年上の筈だか彼より幼く見える。儚げそうでありながら確固たる意識を感じる。かなり癖が強そうな感じがする。髪型は若干パーマが掛かったウェーブヘアー。

 

「次は俺だな、俺の名前は岩谷尚文。年齢は20歳、大学生だ」

 

 加奈の前、最後に挨拶をしたのは盾を持った男。おそらく彼が盾の勇者、名は岩谷尚文。前の3人ほど活動的では無さそうだ。しかし先程からやけに周囲を観察している事からただの間抜けでは無さそうだ。髪型は黒髪のショートヘヤー。

 

 さてこれで本に出てきた4つの武器を持った勇者は全員が出揃ってしまった。

 

「さて、最後は私ね。名は夜神素子。年齢は21歳、大学生よ」

 

 加奈は慌てず平然と嘘の情報を語る。加奈が嘘をついた理由は3つ。

 

 まず1つはここがおそらく地球ではない何処か他の星である可能性が高い事。

 

 そして2つ目は私達が召喚と言う未知の方法で連れてこられた事、そしてこの世界には未知の力があるであろうという事。

 

 最後の3つ目、他の4人は兎も角おそらく私は歓迎される人間では無いという事だ。

 

「はて、盾の勇者はさておいて何故、5人目の勇者がおるのだ? ...」

 

 ローブを羽織った男達の動揺、そして国王メルロマルク32世の発言から察するに私が呼ばれたのは手違いだろう。

 

「モトコとやら貴様は何者だ? 先の行動には感謝するが、返答次第ではタダでは置かんぞ」

 

 王の言葉と同時に謁見の場にいた兵士達が剣を引き抜きその刃先を加奈へと向ける。4人の勇者達も加奈と距離をとっていた。

 

「モトコよ、己がステータスを確認しその情報を開示せよ!」

 

「ステータス?」

 

「なんだ気が付かなかったのか? 視界の端にアイコンがあるだろそれに意識を集中させれば確認出来る」

 

 ゲームの中でしか聞いたことの無い言葉に戸惑っていた加奈だったが錬の言葉通りに視界の端にあるアイコン意識を集中させるとピコンと軽い音が鳴るととも視界に文字の列が現れる。まるでパソコンのブラウザの様だ。そして、その中には加奈の情報が書いてあった。

 

 

 夜神加奈

 

 職業 銃の勇者 Lv1

 

 装備 マスケット銃(伝説武器)

 

 異世界の服

 

 スキル 無し

 

 魔法 無し

 

 成程、王の反応を見るに4勇者以外の勇者が現れるのは異常なのだろう。おそらくこの情報を伝えたら良くて投獄最悪死刑も考えられる。

 

「私は賢者です」

 

「ふむ賢者とな? そのヘンテコな武器も魔法を放つものか...」

 

 メルロマルク32世を上手く誤魔化す事が出来たようだ。変に勇者を名乗らず賢者とする事である程度融通が聞くだろう。

 

「あんた本当に賢者か?」

 

「な!?」

 

 槍の勇者元康は加奈に1歩近付き加奈が持つマスケット銃を遠目から観察している。

 

「モトヤスよ何故、そう思う?」

 

 元康の言葉に反応したメルロマルク32世が詳細を聞こうと質問をする。実際メルロマルク32世はモトコが勇者出なかった場合、彼女を奴隷にして使役させるつもりだったので元康の言葉にあまり興味は無かったが、もしモトコが嘘偽りを述べていたのであれば無駄な手続きをせずに王族に対して嘘を並べた不敬罪としてモトコを好き勝手できる。

 

「だって、あんたが持ってるの銃だろ?」

 

「チッ! 余計なことを」

 

 元康の言葉を聞いた加奈の行動は早かった。銃と言

 単語が出ると同時にマスケット銃を元康へと向けてその引き金を引いた。途端大きな破裂音が謁見の場に響きわたる。突然の音にその場にいた全員が驚き瞬時にしゃがみ込んだ。

 

 元康も例外では無く、彼の胴体に向かって放たれた弾丸は元康がしゃがんだ事により照準がずれ、元康の持っていた槍に当たり跳ね返る。跳弾した弾丸は近くにいた兵士の脇腹に突き刺さりそのまま貫通して更に壁へと突き刺さった。

 

「うぐっ...痛てぇよ...痛てぇ.....」

 

 弾をくらった兵士はその場に倒れ込み腹を押さえて蹲る。弾丸が臓器を傷付けたのだろうか傷口からは大量の血が溢れ出し血溜まりを作っていた。

 

「なっ....」

 

「撃ったのか?」

 

「そんな馬鹿な」

 

 突然の出来事、ついさっきまで平凡な日常を送っていた彼らは目の前で人が撃たれるという光景に脳が処理できず。呆然として動けないでいた。周りにいる兵士達も同様で初めて聞く破裂音に驚き呆然として動けないでいる。

 

「全員その場から動くな!!」

 

 未だ全員が立ち直れていない中、謁見の場に怒号が響きわたる。畳み掛けるように起きた状況に全員が戸惑いながらも声のした方を見ると、先程大きな破裂音を立て兵士を1人負傷させたその武器が今度は国王に向けられていた。

 

「決して誰も立ち上がるな! 誰かが動いた瞬間、王は死ぬぞ!」

 

 引き金を引いた加奈は一瞬できた隙を見逃さず、自分を包囲しつつあった兵士たちの間を抜け即座にメルロマルク32世を拘束した。

 

 残念ながらこのマスケット銃マッチロック式の為、一発撃ってしまうと直ぐに次弾の発射が出来ない。その為こうやって王を人質にとって盾にして脱出を試みるしか無かった。

 

「ではメルロマルク王よ城の外まで案内を頼みますよ、まだ死にたくはないでしょ?」

 

「貴様..!!」

 

 加奈はメルロマルク32世の耳元でそう優しく囁くと王の案内で白の外へ向けて歩き出した。

 

 喧騒に包まれた場内を王と加奈の2人だけが歩き続ける。自分の選択で王を殺してしまうかもしれない。そんな可能性を孕んでいるのであれば誰も動くものなどいなかった。唯一動こうとした勇者達も兵士達に止められて謁見の場から動くことが出来ないでいた。

 

「それではメルロマルク王、さようなら。願わくばもう二度と会いませんように」

 

 誰にも邪魔されず無事に城の外へ出た加奈は王にそう言い残すと城下町方へと消えていったのだった。

 

 

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