銃の勇者の成り上がり   作:夜神 鯨

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エピソード2

「それであの女はどうなった?」

 

 加奈の脱出騒動から一夜明け、城内は普段通りの平穏な生活を取り戻していた。幸いにも国王の身に怪我は無い。しかし跳弾が不運にも当たってしまった兵士は残念ながら手当が間に合わずに死亡してしまった。

 

「それでは報告させていただきます。ヤガミモトコを名乗る人物は王都メルロマルクを出た後消息が途絶えています。おそらくですが近辺にある魔物の森へと逃げ込んだ様子です。現在は影の者達が追跡しており状況がわかり次第ご報告いたします」

 

 報告を聞いた王は「そうか」と呟くと目をつぶり深く思考をした後に神妙な顔で口を開いた。

 

「....やつは見つけ次第殺せ」

 

「..宜しいので?」

 

 勇者は全滅した場合で無いと呼び直すことが出来ない。それを知っていた男は王に問掛けるが、王は何も答えずに沈黙をしている。

 

「かしこまりました。影にはそのように伝えておきます」

 

 沈黙を肯定と受け取った男は確認を取ったのち、王座を後にした。

 

 男が去った事で今この場にいるのは国王のみとなっている。勇者達も昨夜の件で疲れたのだろう。今も部屋でゆっくりと休んでる。

 

 彼らが顔を合わせるのは食事の時のみ、それ以外の時間は基本的に部屋で休養をしている。波が迫っている中で余り時間的猶予は無いのだが、王の状態を考えて明日もう一度説明を行い、勇者達はこの城を去る手筈になっている。

 

「王よそろそろ昼食の時間ですが、どうなさいますか?」

 

 時刻は正午になろうとしていた。給仕の人間が王の食事を聞きに来る。疲れからなのか王は昨日の夜と今日の朝も食事を取っていない。

 

「部屋で貰おう。そうそう、勇者達には良い食事を振舞ってくれ。私も自室に戻らせてもらう」

 

 やはり昨日の疲れが抜けていないであろう、王はそう言った後、フラフラとした足取り王は自室へと戻っていた。給仕の男も今聞いた事を忘れないよう、速やかに厨房へと戻って行った。

 

「お父様も随分と弱ってますわね...フフ..さて、どの勇者から壊しましょうか...」

 

 誰も居ないはずの広間にいつからいたのか、柱の影には女性の姿が映っている。女性は誰も聞こえないほど小さな声で言い残すとスッと消えていった。

 

 食堂を見ると勇者達が昼食を取るために集まって来ているのが見える。昨夜の光景が忘れられないのか全員の表情は暗い。

 

「なあこの世界ってゲームの中じゃないのか?」

 

「昨晩の話の続きですか...」

 

 集まって早々に元康が口を開く。加奈が去った後、4人はこの世界について話し合っていた。当初同じ世界から来たと思っていた4人だが、話の食い違いと首相の名前が違った事でそれぞれ異世界の人間であると認識をしていた。そしてその話し合いでこの世界はゲームの中であると結論づけたのだが、元康はその結論に疑問を持っているようだ。

 

「俺が知ってるエメラルドオンラインにはあんなリアルな流血表現なんて無い。それにあの血の匂いゲームと考えるにはリアル過ぎる」

 

「ですが、このアイコンはどう説明するんですか? .....それにそうでも思っていなければやっていけないでしょう..」

 

 樹が必死に反論をする。彼はこの世界が怖かった。召喚された当初はこの世界で勇者として好きに生きようと思っていた。しかもシステムは大好きなディメンションウェーブによく似ている。ここならばと思ったのだが..突然として目の前で人が死んで行ったと言う現実を受け止めることが出来なかった。ならばゲームの世界だと思えばいい。ゲームの世界ならば何が起きても現実ではない。そしてそれは樹だけでは無く他の勇者達も同じような考えを持っていた。

 

「全てはあの女がいけないんだ! あいつがいなければ少なくとも死者は出なかった」

 

 錬は加奈へ強い憎しみを向ける。彼だって気楽にこの世界を謳歌するつもりだったのだ。それを加奈が台無しにしてしまった。唐突に起こった殺人、初めて人が死ぬ瞬間を見てしまった。あれを見てしまってはこの世界をゲームとは思えなかった。

 

「どちらにせよ、だ。判断をするのは明日の説明を受けてからでもいいだろ? 俺達は今できることをするだけだ」

 

 尚文はそう言って昼食をとり始める。それに続いて勇者達も食事を始める。食事を取り終えた者から順に誰も話すこと無く部屋へと帰っていったのだった。

 

 *****

 

 城を抜け出した加奈は夜通し走り続け、街から離れた森へとやってきていた。道中襲いかかってきた化け物共を自前の銃で倒しながらだったせいで、時間はかかったがこの世界での戦闘方法をある程度理解する事も出来た。更に使い慣れないウィンドウの操作もなんとか要領を得ること成功した。

 

「しかし、招かれざるものになるとは思わなかったわー」

 

 そうボヤきながら加奈はつい先程倒した猪のような化け物を捌く。日が落ちる前に火起こしも終わり、周囲の探索も余裕をもって終わらせているおかげで、多少体の疲れがあるもののある程度時間にゆとりをもって行動をすることが出来る。

 

 よく血を抜き、皮を削いだ猪の肉をよく焼いてから口へと運んでいく。お世辞にも美味しいとは言えないが何も食べれないよりはマシだ。それに残念ながら身一つの状態では料理と言うほどのものも出来ない。しかし地獄の様な戦場での生活に感謝する時がくるとは思わなかった。あの日々のお陰で今のこの状況が天国に感じる。

 

「しっかし、本当に妙な世界ね、この妙なウィンドウとかはゲームみたいなのに、この世界のものはしっかりと生きている」

 

 日も完全に落ち月明かりだけが照らす夜の中誰もいない森で加奈は銃を触りながら1人ぼやく。触っている銃は最初のマッチロック式のマスケット銃からフリントロック式へと変わっている。どうやら前のマッチロック式戻すことも出来るようだが、あえて戻すつもりも無い。しかしホイールロックを飛ばしてフリントロックに行くとは更に謎は深まるばかりだ。

 

 フリクトロック事態は最初に撃った兵士が死亡した通知と共に解除された。他にも化け物共を撃ち倒していくうちに銃剣も解除された。これだけでも約200~300年ほどの技術進化が起こっている。しかしそんな事は加奈にとっては重要では無く。彼女にとっては重要なのはこれでリロードをする必要も無く継続的に戦える点だった。

 

 どちらの方式にしろ、マズルローダー(前装式)なのには変わりなく、これではどう頑張っても継続的な攻撃が出来ない。しかも有効射程は単体を狙うのならば精々75m程度であり、移動力の早い敵であれば2発撃てるかどうかといったところだ。複数体に狙われてしまえばそれでお終い。その点銃剣さえあれば、近距離で戦い銃声に驚いた獣達に優勢をとることが出来る。

 

「かと言って決して効率がいいとは言えないけれどね」

 

 そう言いながら加奈はステータスを見る。見るとスキルと言う欄があり、そこを開くと武器の進化系列を見ることが出来た。加奈の進化系列は木の様な形になっていて途中までは縦1本ずつアイコンが並んでいて後半から枝分かれするようになっていた。その中で下二つのアイコンは半透明から白色に変わっている。

 

 おそらくこの2つが今持っている武器なのだろう。そして半透明なアイコンの下には同じく半透明のバーがありその下に67と数字が書いてある。67は私が殺した敵の数。それから察するに解放の条件はおそらく私が生物を殺した数だろう。

 

 フリントロック式の武器アイコンをさらに選択するとアイコンが蜘蛛の巣上に広がり、剣のアイコンだけが半透明から白に変わっていた。そして真ん中のアイコンの下に同じくバーが書いてあり、その下の数字が34となっている。34は私がマッチロック式の銃で殺した敵の数だ。同じ銃で敵を倒すと習熟度と言うか熟練度と言うか、どうやら武器の性能が上がるみたいだ。

 

 しかし早々に銃剣が来てくれたのはやはり有難い。銃剣での攻撃はある程度心得がある。何度も言うが、マズルローダーであるマスケット銃は装填時間がかかりすぎて正直一発目を撃ってしまったら次の攻撃に30秒程はどうしてもかかってしまう。

 

 と言ってもマスケット銃を扱ったことの無い私がこの速度で撃てるのもスキルのお陰なのだが。兎も角にも隊列を組んで発射するのならまだしも1人で運用するには余りにも隙が多すぎる。一刻も早くブリーチローダーの銃を解放しない事には戦いにならない。

 

 

「はぁ...そろそろ寝ようかしら」

 

 加奈は焚いていた火を消すと近くに生えていた太い木に近付き、頑丈そうな枝を見つけて飛び乗る。加奈は枝の上で銃を抱えたまま眠りやすい体制を整えると直ぐ瞼を閉じて睡眠に移った。

 

 加奈が眠ったのと同じく時刻、森の外で動く影がある。全身をなるべく音が出ないように工夫された黒い服を着た影の様な人物は遠目から焚き火のが消えたことを確認すると、静かにそして素早く森へと近付いていった。

 

 素早くしかし慎重に森へと近づいた影は草原から森へと入る境界線に達した所でより慎重に焚き火のあった方へと近付いていく。本来ならばもっと近くで監視をするのだが、加奈の尋常ではない警戒心と観察眼のせいで何度か発見されそうになっている為、影は距離を置いて監視をしていたのだ

 

 焚き火があった付近まで接近した影は、体の自由を奪う毒が塗ってあるナイフを取り出すと逆手に構えてゆっくりと焚き火へと近付いていく。

 

 焚き火の後を見つけた影は、加奈の姿を探して周囲を見渡すが、誰もいない事に気付くと少し落胆したように肩を下げ、焚き火周辺の探索に移ろうとする。だが影が少し気を抜いた瞬間、上空から襲いかかる物体があった。

 

「なっ...!?」

 

 影は回避をしようと試みるも気付いたのが遅かった事と、一瞬気を抜いた事が合わさり、回避をする事が出来ずに上空から落ちてきた物体にそのまま押し倒されてしまった。

 

「ふーん....女性ねぇ..しかも1人。いや、うーんいやでもあの城から続いていた妙な視線が無くなった事を考えるとやはり追っては貴方1人みたいね」

 

 上から落ちてきた物体もとい加奈に押しつぶされた女性は押さえつけられたまま、植物のツタを編んで作られた紐で素早く縛られ拘束されてしまう。

 

「....な、なるほど、王を人質にとり無傷で街から出た実力は伊達ではないという事ですか」

 

「さてと、それで...貴方は誰かしら?」

 

「....私はメルロマルクに所属する諜報員のレイです」

 

 圧倒的に有利な状況の加奈だが、素直に所属と名を明かしたレイに対して更に警戒心を強める。レイの動きに注意しながら彼女が身につけているものを一つ一つ丁寧に剥いでいく。

 

「そんなに警戒しなくても、王から差し向けられた刺客は私1人ですし、その私も動けない」

 

「敵の言葉を鵜呑みにすると思うのかしら?」

 

 加奈はレイから武装や装備等を剥ぎ取り、彼女の手足から届かない位置に剥いだ物を置く。

 

 レイは着るものが無くなって寒いのか顔を赤くしながら足をモジモジと動かしている。そんなレイを横目に加奈は持ち物の精査を始める。レイが持っていた物の中には毒の塗られた投擲用ナイフを始め、同じく毒が塗られた短剣などや拘束用の頑丈な紐が入ってた。

 

「成程、確かに殺す気満々の装備ね。念入りに毒まで塗って...」

 

 この世界での毒が分からない為、確実な事は言えないが加奈はこの毒が体の自由を奪う神経毒の部類である事が今までの経験から分かった。

 

「さてと後は身体の中を調べるだけね」

 

 相手は自称諜報員、身体の中に武器なんかを隠していても不思議ではない。加奈は1度離れたレイに向かって再び近付く。

 

「ちょ、ちょっと待って! 身体の中には何も隠してないわ!!」

 

 レイは加奈の発言と尋常ではない雰囲気に顔を青くして必死に逃げようとするが、そもそも拘束されているので走る事は疎か、立ち上がる事すら出来ない。

 

「わーわー、わかった! わかりました。全てお話するので痛いことはしないで下さい!!」

 

 加奈が近付き触れようとすると、レイは子供の様に叫び、赤子の様に縮こまって震えている。先程まで余裕のあった事が嘘だったかのように豹変してしまっている

 

「それも演技かしら?」

 

 豹変したレイを警戒して少し距離をとった加奈はそう問いかける。

 

「....違います。ですがお願いです私の身体に触れないで下さい。約束してくれるのであれば貴方の知りたいことを全てお話します」

 

「...はぁ、分かったわ貴方が大人しく話すのであれば触れないことを約束しましょう。ただし、怪しい動きをした場合即刻その首をはねるわ」

 

 加奈がレイの事を信用した訳ではない。ただこの世界で信用出来る人間がいないのも事実。レイに尋問して情報を吐かせようと考えていた加奈だが、その情報が正しいのか判断する材料も持っていない。素直に話してくれるのならばそちらの方がいいだろう。

 

 加奈はレイから奪った衣服だけを返す。そして一時的に拘束を解き服を着させた後に、再び手足を拘束する。一時的にでも拘束を解いて服を着る事を許した事が、加奈が出せる最大限の温情だった。

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