銃の勇者の成り上がり   作:夜神 鯨

5 / 8
エピソード4

 アンファに案内され加奈がたどり着いたのは森の奥にある断崖絶壁の崖、下を除けば先が見えない闇が見える。そんな崖を降りた中程にある横穴だった。まだ日が出ているにも関わらず穴の中は暗く先が全く見えない。人や動物の気配もしないただの空洞だった、しかしよく観察をすれば僅かだが、比較的新しい足跡や痕跡があり、人がいた事がわかる。

 

「アンファ、私を謀ったのかしら?」

 

 先程信頼すると言ったばかりだが、明らかに罠の気配しかしないこの横穴に加奈は警戒心を強め、マスケット銃をいつでも撃てるように準備する。

 

「違いますわ、ただ認証が必要なんです」

 

 アンファが一呼吸いれて「蒼き正常なる世界の為に」と呟くと、どこからもなく男の声が聞こえてくる。

 

「認識番号」

 

「A193、アンファ」

 

 アンファが言い終えると同時に足元が一瞬光る。すると先程までいた真っ暗な洞窟とは違い人工的に造られた辺りは広い空間へと変わっていた。

 

 壁や天井は水平直角になるように削られていて、天井には均等に配置された光源がある。加奈には光源の原理まではわからなかったが、現代科学的なものではなく、この世界特有の技術によってできたものとだけは分かった。

 

 光源のおかげで周囲もよく見える。その雰囲気に加奈はよく見知っている地下研究所や地下司令部などと同じような印象を受けた。

 

 そうして加奈が周囲を見渡していると遠くから馬に乗った集団が近付いて来きた。集団は性別も種族も別々だったが、見た目だけは皆等しく比較的若めで全員が武装をしていた。

 

 集団は加奈とアンファの手前で下馬すると綺麗に整列した後に集団のリーダーらしき男が1歩前に出てアンファに話しかけた。

 

「突然の訪問に驚きましたが、アンファ様いったいなんのご要件でしょうか?」

 

 男は慣れた様子でアンファへ要件を聞く。彼の様子からアンファの訪問が初めてでは無く、過去に何回かあった事がわかる。そして武装して整列している彼らの表情が少々強ばっているのを見れば武力を行使した前歴がある事まで察する事が出来る。

 

「突然の訪問すまないわね、早速で悪いけど通信珠を借りるわ」

 

「了解しました。ではこちらへ」

 

 アンファの言葉を聞いた男は一瞬安堵した表情を見せるが、すぐに表情を戻した後、整列している部下達と共に来た道を歩いて戻り始めた。

 

 それを見たアンファは満足そうに頷いた後男の後を追う。そしていまいち状況が呑み込めない加奈だったが、アンファに促されて後に続いた。

 

 加奈達がいた広い空間を抜けると、車両が余裕で通れそうな広い通路が続いていた。通路は先程の部屋と同じくしっかりと整備されている。

 

床も壁もレンガのようなものを敷き詰めた造りをしていて、洞窟と言うよりかダンジョンや遺跡に近い形をしていた。

 

「....アンファここは?」

 

「ここはブルーコスモス第0支部。世界に点在する支部の中でも最も古い拠点です」

 

加奈は内心驚きながらも冷静にいつもと変わらないように質問をした。アンファもそれをわかっていながら少しドヤ顔をして答えた。

 

 はるか昔、今よりも差別が激しかった時代にブルーコスモスは誕生した。昔は今よりも差別が酷く、慰めモノにされたり殺されたり等は日常茶飯事。激化する戦争や混乱で地上に居場所を無くした者達が続出した。

 

 それを嘆いた10人の魔導師がブルーコスモスを創ったのだ。彼らは地下に空間を造り、そこで生活が出来るような環境を整えた。彼らは自らの叡智を絞り、地上には無い楽園を地下に創っていた。そして差別を嘆き、差別のない平等な世界を望む人達を招き入れて仲間としたのだ。

 

「そして、その始まりがここ第0支部。ここ以外にも全部で15個の地下拠点が世界中に点在していて、それぞれ拠点を転送陣で結んで行来がしやすいようにしているのです」

 

「なるほどね、じゃあ先程からすれ違ってる人達がここの住民ってわけね」

 

 先程から通路ですれ違う人達は加奈達を最初に迎えた者達と同じように人種や性別が全然違う。更に違う所は元気に走り回る子供から杖をついて歩くお年寄りまで年齢の幅が広い所だった。

 

「ここに住む人の数は約400人程度、そのうちの7割がこの施設の維持運営の為の人員です」

 

 アンファに代わって説明するのは案内をしてくれている男性。鍛え抜かれた肉体と体に残るいくつもの傷が場数を踏んでいる一流の戦士だと物語っている。立派な尻尾と時々除く犬歯、一部が欠けてもなお存在を誇張する獣耳が彼に更なる威厳を産んでいる。

 

「残りの3割はここで生まれ育った者や職員達の家族、そして迫害され追いやられた者達と元奴隷になっています」

 

彼らは地上では生きられない。出れば敵に狙われるような者もいれば、地上にトラウマをもって出れない者もいる。

 

「この支部はどうやって食料を供給しているの?」

 

 この拠点は地下にある。加奈は実際に確認した訳では無いが地下独特の雰囲気ですぐに分かった。そしてすぐに疑問が生まれる。食料の問題だ。この問題は地下で簡単に解消できる問題ではない。加奈も昔地上に出れなかった時はコウモリやネズミを食べて空腹をしのいだものだ。

 

「丁度見えてくると思いますが....。あちらをご覧下さい」

 

 加奈質問に答えたのは屈強な男。男が示す方向を見ると通路の先に一際明るい部屋が見えた。よーく目を凝らして見ると部屋には緑が溢れ、子供達の楽しそうな声と一緒に動物たちの鳴き声も聞こえる。

 

「あれは、家畜?」

 

加奈は信じられないものを見るような目でその光景を見た。天井に穴が空いてそこから太陽光が降り注いでいるのか、と考え見に行くがそこには穴など空いておらずサンサンと輝く白色の球体があるだけだった。

 

「それだけではありません。野菜や小麦など食料の全てをこちらの農場で飼育しています。その為ここの食料が無くなる心配はまずありません」

 

 それは魔導師達によって産み出された奇跡の産物。一際高い天井に設置された魔道具から出る光には太陽に似た温もりがあり、外と何ら変わらない陽の光が辺りを照らす。そして同じく錬金術によって生み出された食物はどんな環境でもすくすくと育ち一定の恵みをこの地に与えていた。

 

「なるほどね....しかし、これだけの技術があれば世界なんて簡単に手に入るでしょうに」

 

 この世界に来て日の浅い加奈は実際にその目でこの世界を見た訳では無かったが、アンファから聞いた情報と、メルロマルクから逃げる時に見た景色から、この世界の技術がそこまで進んでいない事は知っている。

 

 一方、現代社会に負けず劣らずの技術を持つブルーコスモスがその気になれば世界征服など簡単なものだと加奈は感じてしまう。

 

「武力による主義の押しつけは亀裂を生みます」

 

 加奈の言葉を聞いたアンファは静かに語った。

 

「それでは駄目なのです。亀裂は不安を呼び、不安は新たなる火種となります」

 

 長い歴史をもつブルーコスモスでは過去に何カ国か、武力によって差別の撤回を行った事がある。しかし、その国全てが互いを再び憎しみあい、どちらかを滅ぼすまで決して止まらない、憎しみに駆られた地獄を繰り広げてきた。

 

「だからこそ、私達は武力ではない、ほかの手段で差別のない世界を作りたいのです。別に世界が欲しい訳ではありません。ただこの世界に住む者たちが平等に過ごせるそんな世界を作りたいのですよ」

 

「...そんな世界をつくりたいわね」

 

 静かに、しかしアンファから語られた言葉にはしっかりと重みが篭っていた。決して理想ばかりを追いかけている訳では無い。真に平等な世界を懇願する彼らに加奈は昔の自分を重ねてしまった。

 

「お話中のところすいません。目的地に着きました」

 

 話がいい所だったが、男に言われ加奈達は前を見る。そこには鋼で出来た扉が1枚鎮座していた。扉や壁にはなんの表記も無く、床や天井は今までと何ら変わりはない。此処だと言われなければ通りすぎてしまうだろう。

 

「案内ありがとう。それでは加奈さん行きましょうか」

 

 アンファはお礼を言うと鋼の扉に手をかけ、扉を押す。すると扉はアンファを招き入れるように開いた。扉を開けたアンファは1人スタスタと中に入っていった。それを見た加奈は案内人にお礼をい言った後アンファの後を追って部屋の中へと入って行く。

 

 中に入るとそこには人が1人暮らせそうな生活道具が1式揃った小綺麗な部屋があった。高価そうな物は一切無くただ機能性を追求した家具や道具が置いてある。

 

 アンファはテーブルを挟んで向かい合っているソファーに腰をかけると部屋を調べている加奈に向かって手招きをした。

 

「安心してください。あまりいい部屋ではありませんけど、罠なんかはありませんよ」

 

「──分かってはいるんだけど..ついクセでね...」

 

 バツの悪そうな顔をしてゆっくりとソファーに座る加奈。どれだけ信用をしても初めての場所ではどうしても周囲の警戒してしまう。戦闘で長い間、命のやり取りをしてきたせいでついてしまった習慣だ。

 

「さてと、定期報告の日では無いので何人出るかは分からないですけど、とりあえず始めてみますよ」

 

 そう言うとアンファは机の上にあった人の頭くらいある水晶玉を操作し始める。すると途端に水晶玉が青い光を放ち周囲に複雑な模様を描き始めた。

 

 水晶玉から描かれた模様は、水晶玉を中心に半径2mの綺麗な円形を作る。模様が完成すると円を囲うように半透明の薄い壁が現れた。壁は9個に分かれていて、しばらくすると半透明の青い色をしていた壁が色々な景色や風景を写し始めた。壁と言うよりかディスプレイに近いそれは加奈が知っている現代の技術と酷似していた。

 

『おやおや、アンファさんからの通信とは珍しいですね』

 

『確かに、定期報告以外ではほとんど連絡が取れないと言うに』

 

『という事は急を要する案件ですわね。メルロマルクでは勇者召喚が行われたと情報が入っておりますし...』

 

『さてと、では要件をお願いしますよアンファさん』

 

「.....」

 

 9個のディスプレイ全てに人の姿が映りそれぞれが反応を示す。その様子を見たアンファはつい呆れてしまった。

 

「まさか全員がいるとは思いませんでした」

 

 この支部に着いたのが朝早くだった為、通信をする時間には皆それぞれの仕事等をしていると考えていたアンファは最悪の場合、誰も連絡に出ないかもしれないととまで考えていたのに、蓋を開けてみれば拍子抜け。

 

 ブルーコスモスの幹部と呼ばれている者達は通信宝珠を起動した瞬間に応答し、当たり前のように通信宝珠の前に座っている。思わずお前ら暇人か!! と叫びたくなってしまったアンファだったが、日々の諜報員生活で鍛えた演技力を駆使してなんとか感情を抑える事に成功した。

 

『最近では魔物の増加や波の問題で組織としても忙しかったですからね....』

 

『それにメルロマルクでの勇者召喚の情報も掴んでいたので連絡があると思い待っていたのですよ』

 

 やはり幹部であるだけあって無能では無かったとアンファ少しホッとする。そして、いつも忙しく世界中を飛び回っている私が異端なのだろうかと真剣に悩んだがすぐに疑問が思考を切り替えて本題に移る。そして一呼吸置いた後に加奈の紹介を始めた。

 

「皆さんもうご存知かと思いますが、メルロマルクが昨日勇者召喚を行いました。今回異例ながら一国に4人の勇者が召喚され各国でも頭痛の種となっている事でしょう。しかしメルロマルクがもたらしたのは何も面倒事ばかりではありません」

 

 アンファはそう言うとディスプレイの外、通信宝珠の範囲外にいた加奈を手招きで呼び寄せ他の幹部達に紹介した。

 

「こちらにいるのが今回召喚された4人の勇者と共に召喚された5人目の勇者様である加奈様です。彼女は私達ブルーコスモスの思想に理解を示し、協力する事を約束してくれました。彼女が入れば今まで出来なかった共存への道が示せます」

 

 アンファに紹介された加奈はその場で一礼をすると静かに喋り出した。特に何かを語るつもりでは無かったがディスプレイ映し出された幹部達の顔を見ると自然と口が動き出していた。

 

「私はこの世界に来てから日が浅い、その為この世界の事もアンファから聞いた情報でしか知らない、この目で見た訳でも実際に声を聞いた訳でも無い」

 

『.....』

 

 先程までの賑やかな騒がしさはなく、静かになった部屋で加奈だけが淡々と喋り続ける。ディスプレイの先にいる幹部達は加奈を見極めるかのように聞いている。

 

「しかしそれでも確かに差別をされている人はいるのでしょう。理不尽な暴力に怯え、抗うことの出来ない民もいるのでしょう。ならば平等な世界を望む貴方達の考えを私は理解する事ができます」

 

 そう言う加奈の脳裏に思い浮かぶのは、過去の記憶、戦友たちと共に駆けた戦場の記憶だ。新たな出会いと辛い別れを繰り返した記憶。思う事は色々あれど加奈達が戦った理由は自由と平穏な日々を守る為だった。自国だけでは無く世界中が1つになる為に。その為に戦った。

 

「生まれ育った世界は違えど、自由無く苦しむ者達がいるのなら、私は再び武器を取り戦いましょう....」

 

 かつて戦友たちと駆けた道。あの世界では結局1つになる事なんて出来なかった。しかしこの世界ならば理想に近付けるかもしれない。加奈は一呼吸置いて肩に背負っていた銃を手に取り天に向かって掲げて力強く言い放つ。

 

「──蒼き正常なる世界の為に」

 

 その動作には一切の不自然さも無く、水のように流れる様に自然な動きであり、各動作の節々できっちりと止まる。その動作を全く知らない者でさえも、そうあるべきだと感じさせるほど美しい動作だった。

 

 加奈が行う動作が全て終わるまでその姿を見ていた者は誰も動かず黙って静かに動作が終わるまで見ていた。

 

 まず最初に動いたのは狼の耳をつけた初老の男だった。騎士と言うよりも軍人に近い服装をした男は、ただ一言呟いた。

 

 蒼き正常なる世界の為に...と。

 

 そしてその男が呟いた後に続々と呟きが続く

 

『蒼き正常なる世界の為に』

 

『蒼き正常なる世界の為に』

 

「蒼き正常なる世界の為に」

 

 目を閉じ胸の前で手を握る幹部達、彼らも加奈の全てを認めた訳ではない。しかし、それでも我々を我々たらしめる旗としてこれ程相応しい人物はいないだろう。

 

それを見た加奈は再び一礼をすると映像に映る範囲から出ていく。そして自分が言った言葉に恥ずかしさを覚えながら意識を失ったのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。