「..さ..どの..」
意識がぼんやりとする、声が聞こえる気がするがはっきりとは聞こえない。
「...少佐.どの」
だんだんと声が大きくなってきた。それと同時に視界も明るくなってくる。
「..少佐殿!!」
肩を揺すられ耳元で叫ぶ大きな声によって覚醒する。
「...状況..は..?」
「意識が戻られましたか、草薙少佐」
意識を取り戻した加奈の耳元で叫んでいたのは副官である加藤大尉だった。彼の姿は満身創痍いつ動けなくなってもおかしくない程の怪我を負っている。
「大尉..すごい怪我では無いか..衛生兵は..何処だ..ゴホッゴホッ..」
「何を言っているのですか少佐殿! 貴女の方が重傷ですよ!」
加藤に言われ自分の姿を見た加奈はその姿に驚愕する。欠損する部分は無いがような事は無いが全身血まみれ、傷づいいていない所を見つける方が難しい。こんな出血で死に至らないのも体内にあるナノマシンのおかげかと加奈は苦笑いをする。
加藤が呼んだ事ですぐさま衛生兵が駆け寄り両名の処置を開始する。
「ゴホッゴホッ..それで大尉、状況は?」
「はい。状況は最悪です。撤退する敵を追撃していた我が大隊は後方より飛来した迫撃榴弾によって攻撃を受け被害甚大。榴弾の直撃を受けた我々、大隊本部は壊滅。各中隊も人員の半数が重軽傷を負っています。更に撤退していた敵が反転し進撃して来ている模様です」
「くっそ! 確かに最悪だ! それで敵後方の迫撃砲部隊は未だ健在なの!?」
加奈は傷付いた拳で力強く地面を殴る。そうもしなければ正常を保っていられなかったからだ、軍司令部直属で軍の中から優秀な人材を集めた決戦部隊であるピースメーカー隊をこんな所で半壊させてしまった自分自身を責めずにはいられなかった。
しかし、状況は最悪だがまだ策が無い訳では無い。何故なら砲撃さえなければ後退自体は不可能ではないからだ。そしてその指揮をする自信が加奈にはあった。それが出来るからこそ若くして少佐の地位を貰いピースメーカー隊と言う特殊な部隊で指揮を取っているのだ。
「...少佐..誠に申し上げにくいのですが...」
報告をしようとする加藤の顔は青白く、加奈から視線を逸らしている。
「何? 報告は、はっきりしなさい」
加奈のその言葉に加藤は大きく息を吸うと覚悟を決め、報告をした。
「砲撃は敵方からでは無く我が陣営の後方から飛来したものであります!」
「はぁ?」
加奈自身でも驚くくらい間抜けな声が出た。それもそうだ、この事態はそれほど驚愕な事実であった。本来、部隊に飛んできてはいけない方向から砲撃が飛んできたのだから。
「何処の馬鹿がそんな真似をしたッ!!」
加奈は我が部隊をこんな有様にした愚か者の首を今すぐにでも引きちぎりに行きたい気持ちでいっぱいになる。
そしてそんな思いの篭った加奈の怒号を近くで聞いた加藤は勿論のこと、付近で装備を整え集合しつつあった兵士達ですら怒号を聞いて固まった。しかしさすがは長い期間加奈の副官としてやってきた加藤は、すぐさま正気を取り戻し言葉を続ける。
「作戦本部からの情報では共和国と連合国が一斉に裏切り連合軍側に着いたそうです。そのせいで戦線は崩壊し我が軍は包囲されつつあるとの事です!」
加藤の報告を受けた加奈は再び拳を震わせた。
「...なぜ..何故裏切るのだ..我々は植民地の解放を誓った同志では無かったのか?」
そう呟いた加奈の声は震えていた。そして衛生兵の治療が終わったばかりで、本来ならば動かすべきではない体に鞭を打って、無理やり立ち上がる。
「...大尉、私の機体は動くか?」
「砲撃により多少の損傷はありますが動きます」
そう言って加藤は加奈の機体がある方を指し示す。
「そうか、ならば出るぞ! 出撃だ!」
機体を視認した加奈はそう言い無理やり歩きだそうとするが大怪我の為バランスを崩してしまう。バランスを崩した加奈の肩をすかさず加藤が支える。
「しかし無茶です! 航空優勢は未だ我が軍にありますがそれが覆るのも時間の問題! 更に敵の数は我々の3倍はいます! この状況でどうするおつもりですか!?」
加奈は加藤の目を真っ直ぐと見るとこの場にいる全員に向けて言い放った。
「それがどうした?」
「ど、どうした..です..か?」
あまりにも力強く強い意志の宿る瞳に見つめられた加藤はそのあまりの迫力に尻込みをする。
「あぁ、そうだ。それがどうした? 我々はピースメーカー隊だこれくらいの危機を乗り越えなくてどうする?」
「しかし、どうするおつもりですか?」
加藤の疑問はもっともであった、いくらピースメーカー隊が優れていようとこの数の敵に包囲されたらひとたまりもない。
「追撃に向かってきている連合軍主力の中央を強行突破する。その後急速反転した後連合軍主力を局地的に包囲して各個撃破する」
「奴らだって疲弊している。それにさっき裏切ったばかりの人間と密な連携は取れないだろうし、しかも連合軍は戦力が増えた事で油断している。我々が攻勢に出るとは考えてもいないはずだ」
加藤に支えられながら自分の機体。3m程ある真っ黒なパワードスーツにたどり着いた加奈は機体の損傷を見て異常がない事を確認した後に命令を下す。
「各隊に伝達、これより我がピースメーカー隊は敵主力を壊滅させる。敵中央を突破した後に急速反転、混乱している敵主力を局所で包囲し各個撃破する。私以外は必ずスリーマンセルで動けよ! 各人エースとしての意地を見せろ!」
『第一中隊了解! 務めを果たします』
『第二中隊も同じく了解、勝ちましょう大隊長』
『第三中隊了解、被害が1番少ない我々が殿を務めます』
「大隊本部も了解です。最後までお供しますよ少佐殿」
周りを見ると既にパワードスーツに身を包んだ隊員達が用意を完了させていた。
「悪いな私の我儘に付き合わせてしまって」
「今に始まった事ではありませんので、それに我々が打って出なければ我が軍主力は全滅してしまいます」
「ああ、だから行かなければ。通信兵! 各部隊に伝達しろ。これよりピースメーカー隊が道を開く死にたく無い部隊は我に続け、と」
「了解です」
加奈の命令を聞いた通信兵が全部隊に通信を流す。
『これよりピースメーカー隊が道を開く死にたくない部隊は我に続け。繰り返す我に続け』
「さて、では行こう。皆、死ぬなよ」
その言葉と共に再び加奈の意識が途絶える。
後にアリシアの奇跡と呼ばれたこの戦いは、戦争終結に向けてのターニングポイントともなりアリシア勝利に大きく貢献した。