銃の勇者の成り上がり   作:夜神 鯨

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エピソード6

「なるほどね、貴方のため息の理由が分かった気がするわ」

 

「....すいませんこういう人達なのです」

 

 加奈が席に戻ると先程の4人は加奈達の座っていた席に座って机に運ばれてきていた料理を片っ端から食べていた。

 

「すまない、ここまで休息なしで来たから皆、腹が減っているのだ許してくれ」

 

「はぁ.....取り敢えず席を移動しましょう、ここでは私と加奈様が座れません」

 

 メアリーが店員に掛け合い、

 大きめのテーブル席へと案内をして貰う。席に着いた4人は座った途端に、一緒に運んできた料理を食べ始めた。

 

 次々と絶え間なく運ばれてくる料理。それを喋ることなくただ黙々と食べ続ける4人を見た加奈とメアリーは自己紹介を求めることを諦め彼らと同じく食事を堪能したのだった。

 

「それで、何故、貴方達がここにいるんですか?」

 

 食事を終え、ゆっくりお茶をしている4人にメアリーが質問をした。元々、彼等とはメルロマルクを出た後、ブルーコスモスの拠点で落ち合う予定だった。

 

「何故って、次の波がこの国で起きるからだ。私達のリーダーに会う次いでに、メルロマルクの下見を行いにきたのだ。誰もこの国には来たことが無かったからな」

 

 お腹いっぱいご飯を食べたルドルフは満足そうな顔をしながらメアリーの質問に答える。

 

「なるほどね、と言うことは貴方たちがブルーコスモスから派遣された戦士ね」

 

「いかにも、我々はヘルヴォル。ブルーコスモス所属の対災害用部隊だ。よろしく頼む」

 

「ああ、こちらこそ」

 

 ルドルフから差し出された手を握り返しながら加奈はルドルフの体をよく観察した。短く切り揃えられた金髪に引き締まった肉体、傷だらけの皮膚。差し出された手も硬く皮が厚くなっている。かつての仲間達の様によく鍛えられた兵士の肉体だ。

 

「自己紹介がまだだったな、私はハンス・ルドルフ。ヘルヴォルの隊長兼、フォーブレイの特務隊隊長で空挺魔導師をしている」

 

「そして僕がルドルフのバディを努めますエルヴィン・ヘンシルです。同じく空挺魔導師です」

 

 ヘンシルと名乗った男はルドルフと同じく短く切り揃えられた金髪をした優男だった。しかし引き締まった肉体と立ち振る舞いはれっきとした兵士のものだ。

 

 空挺魔導師とは最近フォーブレイの軍部で秘密裏に新設された兵科でどうやらブルーコスモスが関わっているらしい。空を縦横無尽に動き一方的な攻撃を加える魔導師をコンセントに設計されていて、飛行や攻撃の殆どを魔道具に頼っている。

 

 強力な兵科ではあるが、飛行するだけでも尋常ではないほど魔力を使い、攻撃までこなせるには莫大な魔力が必要になる。更に制御するのも非常に難しく、上手に動けなければ宙に浮くただの的でしかない。実際戦闘が可能なのはルドルフとヘンシルしかしない。

 

「次は私ですね、私はフローレンス・ナイゲル、フローレンスとお呼びください。職業は医者です」

 

「医者? 治癒師では無く?」

 

 アンファはこの世界には医者がいないと言っていた。なんでも魔法が発達しているこの世界では治癒師が医者にとって変わっているそうだ。

 

「はい、治療魔法以外にも医学を修めていますので医者で間違いありません」

 

 フローレンスは琥珀色の瞳で加奈を真っ直ぐと見る。その力強く透き通った瞳を見た加奈は少し気圧されながら彼女を観察した。

 

 琥珀色の瞳に淡い色をした長い赤髪、医者と言ってはいるが、纏っている服はルドルフ達と同じく軍服だ。体付きは女性らしい華奢な体をしているが、重心の置き方と足運びから戦闘訓練を積んだ者だと理解出来る。

 

 フローレンスもルドルフ達と同じくフォーブレイの特務隊に衛生兵して所属している。更に転生者や転移者によって葬りされてしまった医学を修めている。

 

 医学の知識自体は大昔の転生者が残したもので、決して途絶えさせてはならない知識として一族に代々伝えられているものらしい。

 

 その為、平和な世界を目指し文化や文明を保護しているブルーコスモスとも深い関わりを持っている。

 

「最後は私だな、私はシモ・ハユハ、シムナと呼んでくれ。所属はルドルフ達と同じく特務隊で狙撃手をしている。よろしく頼む」

 

 自己紹介をしたシムナはルドルフ達よりも2回りほど小柄で、丈に合わない長銃身の銃を抱えているのが印象的な男性だった。帽子を被っている為よく見えないが灰色の髪を持ち、青い瞳をしている。

 

 全員の自己紹介を聞きまず加奈が思った事は...

 

「私のよりもいい銃を持ってる...」

 

 そうシムナが持っている銃だ。シムナが持つ銃はボルトアクション方式のライフルで、加奈が持っている銃よりも2、3世代先の銃だ。

 

 加奈が銃をジーっと見ているとシムナは銃を肩から下ろして銃を差し出してきた。

 

「勇者にはウェポンコピーという能力があると聞きます。この武器もコピーして見たらどうでしょう?」

 

 ウェポンコピー、加奈は初めて聞く単語だったがどうやら同じ種類の武器をコピー出来るという勇者の能力だそうだ。知識として情報を認識すれば使う事が出来るらしい。

 

 正直フリントロックの銃では再装填までに時間がかかりすぎて戦いにならない。ほぼ一撃で敵を倒せるのはいいが、正直な話銃剣で刺突した方が戦果を出せる。

 

 しかしこの武器を手に入れれば話は変わる。使い慣れないフリントロック銃ではなく、使い慣れたボルトアクション式の銃だ射程も連射力も比べるまでも無いほど差がある。

 

「それでは遠慮なく」

 

 加奈はシムナから受け取った銃を己の銃に当てる。話ではこれで武器が追加されるらしいのだが。

 

「.....あれ?」

 

 いくら待っても武器は追加されなかった。何度試してもステータスを確認しても加奈のステータス欄に武器が追加されることはない。

 

 意気揚々とシムナの武器を自分の武器に当てていた加奈だったが、時間が経つと共に行動の無駄を悟り徐々にテンションを落としていった。今では完全に意気消沈して机に突っ伏している。

 

「正規の勇者達とは違うイレギュラーなのです、多少システムも違うのでは?」

 

「そうね、まあ早々にパワーアップは出来ないわよね」

 

 メアリーの言葉を聞き思考を切り替えた加奈は前向きに考える事にした。可能性はゼロでは無い他の勇者達に会えばなにか変わる可能性もあるのだから。

 

「さて、ではこの後どうするかね?」

 

「先ず優先すべきなのは、龍刻の砂時計への登録ですね。この国では行っていませんし」

 

 加奈はアンファと世界中を飛び回りブルーコスモスが関係している各地の砂時計に登録を終わらせたが、ここメルロマルクにある砂時計への登録は済んでいなかった。

 

「この国は確か三勇教会が龍刻の砂時計を握ってるんだったな」

 

「それは、厄介ですね。我々とは相容れないあの教会では人員の確保も難しいでしょう」

 

 そう話すシムナとフローレンスは嫌そうに顔を顰めた。

 

 この国で龍刻の砂時計を管理しているのは人間至上主義の集団である三勇教。その為全種族の平等を目標に掲げているブルーコスモスとは相性が悪い。

 

 それに加え3勇教の教皇が大きな力を持っている為、人員を送り込んでも直ぐに使えるようにならない。

 

「教会の内部ですと動かせる人員は0。外部でしたら即座に5人、1晩あれば20人まで集められます」

 

 最低限の人数でも、集めた5人とここにいる6人を合わせれば11人となる。決して多い数では無いが、国を落とすわけでも無ければ大抵の事はできてしまう人数だ。むしろひっそりと動くのならば多すぎるくらいである。

 

「まあ妥当な数だな...よし、それでは今夜、教会を急襲する。目的は加奈を砂時計に触れさせることだ。指示は追って伝える。それでいいですかな? 加奈殿」

 

「ええ、構いません。必要な事であるならばやりましょう」

 

 すっかり蚊帳の外だった加奈だが、ルドルフからの声掛けには即座に反応し即答した。それを見たルドルフは満足そうに頷いた後に席を立った。

 

「それでは一先ず解散にしよう」

 

 そう言いながらルドルフは席を立つと悠々と店から出ていった。ルドルフの後を続くようにヘルヴォルの面々は各々、席から立って店を後にする。

 

 そうなると店に残されたのは加奈とメアリーの2人だけ。会計をしている様子も無かったのでここは2人のどちらかが支払う事となる。

 

「...すいません..お会計なんですけども...」

 

 気を利かせた店員が伝票を持ってくるがそこに書かれていた数字を見て2人ともド肝を抜かれた。

 

「....なにこれ?」

 

 伝票に書かれていた金額は金貨10枚。これだけでそこそこいい装備が買える額だ、貴族御用達の高級料理店ならまだしも城下町の飲食店で見る額では無い。

 

「迷惑料でも含んでいるのか? それとも私達に対する挑戦?」

 

 アンファにこの世界での金銭基準を教えられている加奈は馬鹿げた値段を見てぼったくられているのだと感じ、強気に値段を確認した。

 

「えぇッと...いえ、そうではなくてですね....あの..単純に注文数に応じた値段となっています...ハイ」

 

 そう言いながら店長が指した方向を見ると4つのテーブルいっぱいに積み上げられた空の皿がその圧倒的な存在感を主張していた。

 

 いつの間にあんな量を食べたのだろうか、等と積み上げられたタワーのような皿を見た加奈は半ば放心状態になりながらも、先程の非礼を謝罪をした後に金貨10枚を支払って店を出る。

 

 加奈達が店を出るとヘルヴォルの面々は誰もいなかった。今から追った所で誰1人にも会えず無駄な時間を過ごす事になるだろう。

 

「私達も宿に入りましょう加奈様。ルドルフの事ですので明朝には行動を開始すると思います」

 

「はぁ、性格は問わないと言ったけど....まさか...はぁ...」

 

 加奈は言葉を最後まで言うことなくため息をついた。あちらの世界に居た部下達も酷かったがここまででは無かった。あいつらはまだまともだったんだなぁとしみじみ思いながら、加奈はメアリーと共に宿へと向かった。


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