本当に久しぶりに書いたので文体、構成等ごちゃごちゃかもしれませんが温かい目で御覧頂けるとありがたいです。
ここからは作品についての注意書きを。
本作品は都合上、主人公以外のオリキャラを出すこと(例、さとりのペット等)があるやもしれませんがあくまでそれは脇役です。
本筋のストーリーに関わりがほぼありませんのでご容赦のほどを。
それでは東方化悌録、よろしくお願いします。
pro:後ろ手で幻想への鍵を開けて
「……はぁ」
窓の外をぼんやり眺めながら『私』は思わずため息をついてしまう。
今は高校の期末試験の真っ最中だが、そんなことはどうでもいい。授業をそれとなく聞いていれば何を説明してるかなんて分かるし、教師側とて徒らに赤点候補を増やして補習を受けさせたいわけじゃないから試験は難しくする気もないらしい。教科書と同じ問題か数字を変えただけの問題だけでは生徒の習熟度なんて測れないだろうに。
半分以上も試験時間が余っていてとても退屈……いや違うな。多分。『私』はこの現代の生活というものに退屈しきっている、ということなのだろう。もちろんこの世に希望が持てないから死にたい!ということでもない。友達と遊ぶのは楽しいし音楽や映画、ドラマといった芸能を楽しむのも好きだ。
……うーん、なんなんだろう?
2次関数の問題だったはずのスペースにはいつのまにかX軸とY軸を額縁のように見立てた花と動物の絵が出来上がっていた。その出来に少しだけ満足感を覚えて再び時計を見やる。が、ほとんど時間が進んでいないことに気づき、諦めて素直に寝ることにした。
〜〜〜〜〜〜
『まったく、貴方はいつまでも変わらないのね。私は少し心配になるわ。貴方は最近の子らしくないわね』
『そうなの?最近も昔も子供は子供じゃないの?』
『そういうところよ。うーん、この子使おうと思ったんだけどなんか違うわねー。まだ暫くはあの二人に頑張って貰おうかな』
『なんのこと?』
『いいえ、なんでもないわ。』
うふふ、と口元を隠して笑う
『それじゃあ、私は行くわね』
『えっ、どこに?』
『そうねぇ…。目で見えるくらい近くて、そのくせ遠いところよ』
『なにそれ、言葉遊びなの?おちょくってるの?』
『そういうわけじゃないんだけど…』
『ふーん、よくわかんないの。また会える?』
『どうかしらね?会えるかもしれないし会えないかもしれないね』
『またそうやってはぐらかすー!』
何を聞いてもしっかり答えてくれない
『じゃあ、本当に行くわね』
『えー!寂しくなるなぁ…』
『まったくもう、そうやっていつまでも私を困らせないの。じゃあ、またね』
『……!またね!おきなさん!』
『えぇ、きっと』
そう言って手を振りつつ、何も入ってなさそうな手荷物を持っておきなさんはどこかへ歩いていった。
それ以来、『おきなさん』は『私』の前には現れなかった。
〜〜〜〜〜〜
キーンコーンカーンコーン。
聞き飽きたチープな鐘の音が鳴り響き、『私』は微睡みの中から引きずり出された。そういえば試験を受けていたんだったか。
……それにしても随分と懐かしいものを見たな。寝る直前にあの人のことを思い浮かべたからだろうか。あれは『私』が小学校入ったころのことだったっけ。小さいころの記憶だから曖昧だけど、おきなさんは高校生から大学生くらいの感じの金髪のお姉さんで色々なことを知ってる人だった。公園でみんなと遊んでいるとたまに来て一緒に遊んでくれたっけ。運動神経も良くて、ドッジボールでは当てられたところを見たことがない。
そんなおきなさんに1番懐いてたのが多分『私』。色々な妖怪が出てくるおとぎ話とか月の話とかを毎日のように話してくれて、それをずっと聞いていた。時々何言ってるのかわからなかったけど。
そんな幼い頃の思い出に浸っている間にどうやら答案の回収が終わっていたらしい。この試験で今回の期末は終わりなため、部活に行く準備をしてる人やお昼ご飯を食べる用意をしてる人が色めき立っているのが分かった。『私』もせっかくだし屋上でご飯食べようかな。
周りから「すごいマイペース」と称される『私』は友達がいないわけじゃないけど食事を一緒にとるのはあんまり好きじゃない。だからこうして屋上にこっそり来たわけなんだけど…。
「……そりゃあそうか。試験期間中に会わないって人たちは試験終わったら当然一緒にご飯食べるよねぇ…」
…うん。すごい気まずい。屋上に行ってドアを閉めたのはいいんだけど、すごい気まずいねこれ。というのも、屋上についた『私』が一番最初に見た光景は右を見ても左を見てもカップルが一緒に食事しているものだった。あちゃー、選択ミスかぁ。どっか別のところに行こう。
そう思い、後ろ手で扉を開けて階段に戻ろうと後ろ歩きで抜け出そうとした。ガチャリ、といつも通り音を立てて扉は開いたのでそのまま後ずさって行こうと左足を下げると……?
「あれっ?」
確かに階段に繋がる扉を開いたので左足は地面を踏む感触があるはずなのだが、ない。それでも体重移動は既になされているので踏ん張りが利かない。
急いで背後を振り返ると、そこには全く見覚えのない黒というか、紫というかを基調としたたくさんの扉がある空間が広がっていた。いや、なんだそれ。
なんとか屋上に戻ろうとするけれど、バンジージャンプと同じ原理で一度降りたら元に戻ることなんて到底無理なわけで。
「あれええぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」
そのまま『私』は訳のわからない空間に落ちていった。
「……本当にどういうことなの……?」
訳のわからない空間に閉じ込められて結構経ったと思う。思うっていうのは時計を見ても逆回りに回ったり、ものすごい勢いで回ったりしてあてにならない。スマホを見ても意味をなさない光が漏れるだけで時間がわからないから体感でしかわからないのだ。正直今立ってるのか浮いてるのかもわからない。
とりあえず何か状況を打開しないと。とはいえ何から手をつけたらいいものかさっぱり見当もつかない。どうしたものかと考えを整理しようとするや否や、声が響いた。
「おお、よくぞ来られた。とはいえ二童子からは何も聞いていないぞ.人間」
……ん?なんかすごい尊大な感じな声だけどすごい聞いたことのある声のような気がするぞ?とりあえず歓迎はされてるみたいだし話をしてみよう。
「いきなり不躾で申し訳ございませんが貴女は誰ですか?」
「私は摩多羅 隠岐奈。後戸の神であり、障碍の神であり、能楽の神であり、宿神であり、星神であ「おきなさん!」…る?えっ?」
「私です!覚えていませんか?10年くらい前に遊んでもらった…」
「む…?その姿、よもや…?」
どうやら勘違いではなかったらしい。声が響いた後に出てきた姿は前に見た時とは大きく変わっていて、頭に冠を被り、北斗七星みたいなものが書かれている昔の人の服、確か狩衣って言ったっけ?それを着て緑のスカートを履いている。靴だけは昔見覚えのあるロングブーツのような奴だ。だけど相変わらずその日本人に見えない髪と目はあの日最後に見たものと一緒だった。
この人はあのおきなさんだ。何がどうなってるのかは全くわからないけどあのおきなさんだ!
おきなさんは『私』をまじまじと見て、得心がいったかのように話し始めた。
「随分と大きくなったわね。見違えたわ」
「こんな訳のわからないところで何をしてるんですか?」
「ここは私の国よ。後戸の国って言ってね、私はここで色々なものを司る神さまをやっているの」
「…はい?」
ここまでの状況を整理すると、『私』はなぜかはわからないが、いきなり後戸の国というところに転移した。そこにはおきなさんがいて、実はおきなさんは神さまだった…???整理したところで全く理解が追いつかない。
おきなさんもとい、隠岐奈さんは面食らう『私』を他所になにやらうんうん唸っている。
「うーん、おかしいわね。あそこの世界の扉はしっかり閉めたはずなのに、どうして貴方がここに来ちゃったのかしら」
「学校の屋上から戻ろうとしたらそのままここに落ちてきちゃいました。理屈はわからないです」
「ふむふむ……。となると、もしかして後ろ手で扉開けたりした?」
「確かそうですね」
そう伝えると隠岐奈さんはまたしばらくなにかを考えるかのようにして瞳を閉じて、やがて何か思い当たったかのように左目を開けた。
「もしかして…だけど。ちょっとここまで来てもらえる?ただし、足を使うことは禁ずるわ」
「…えっ?」
足を使わずに隠岐奈さんのところに来いって言われてもどうすればいいやら分からない。そんなのテレポートでもしないと行け…もしかして?
そう考えると1つのイメージが浮き上がった。それはさっき解いていた関数の問題。2次関数はそれが0になるという解を最大2つ持つことができる。その2つの解を『私』が今いる場所とこちらから見て隠岐奈さんの左隣と仮定して隠岐奈さんの方の解に行こうと少し思う。
すると思った通り私の体は隠岐奈さんの左隣に移動した。ってええっ?すごいな、『私』。
「思った通りだわ。貴方に『程度の能力』が宿ったのね。だからこんなことになったわけね」
「点と点を繋げる程度の能力…」
なんとなく口に出してはみたものの、合ってるような違うような不思議な感覚がした。
「でも、そうなると1つ問題が発生するわね…」
「問題、ですか?」
「そう。端的に言うと、貴方を元の世界に戻すわけにはいかないのよね」
「と言いますと?私を殺しますか?」
「まさかそんなことするわけないじゃないの。貴方にはそうね、幻想郷に行ってもらうわね」
戻すわけにはいかない、か。それはそうだろう、と思う。なにせ元いた世界にはこういう能力を持っている人なんていなかったはずだから。
……正直言ってこの後戸の国に入ってから、一度も元の世界に戻れるなんて思っていなかった。それはまぁあんな落ち方したら戻れると思う方が不思議だ。だが、全く未練は無い。最近は面白いこともなくただ退屈だったし渡りに船と言うわけではないが、その幻想郷とやらに行くことで面白いことが増えるならウェルカムという気持ちが強い。
「わかりました。その幻想郷、とやらに行かせていただきます」
「話が早くて助かるわ。それじゃあもう一つ、悪いんだけど貴方には人間をやめてもらうわ」
「わかりま…えっ?なぜですか?人間だと不都合でもあるんですか?」
「不都合というほどのものじゃないんだけどねー。勝手に人間持ち込んだとか言ったら彼奴がまたうるさく言いそうだし、しかもそれが能力も持ってるとなるとちょっとね」
なるほど、隠岐奈さんの言う『幻想郷』という土地でも人間は基本的に人間らしい。正直まだピンときているわけではないが、『私』の能力はかなり有用なものな気もするし、そこら辺も関係があるのかもしれない。
…とはいえ人間をやめる、か。考えたことなんて全くないけど人間以外になりたいものって何だろう。そういえば昔隠岐奈さんが色々話してくれたっけ。天狗とか鬼とか、あるいは妖精とかの話もしてもらったな。
その中で一番食い入るように聞いたのは多分……
覚になる、と言葉にするのは簡単だ。だけどそれは本来知るはずのない他人の感情を知るということ。その人が持つ痛みや弱みを勝手に握るということ。その覚悟が『私』にはあるのだろうか。
…正直わからない。わからないから『私』は考えることを放棄した。その時その時でなんとかやればいいんじゃないかな、なんて未来の自分に問題を放り投げて思考をまとめに入る。
「正直まだ飲み込みきれてはいませんが、選べるのなら覚になりたいです。きっと『私』にとって、それが正解だから」
「覚、ねぇ。また厄介なのを出したわね。ま、いっか。じゃあちょっと目を閉じてじっとしててね。痛くはないけど、体が変わるから感覚が少しおかしくなるかもだけどじきになれるわ」
「結構軽い感じでやるんですね…。もっと仰々しいのかとばっかり思ってました」
そう言いつつ静かに目を閉じる。おそらく『私』の人間としての最後の時間なのだろうけど死ぬ時の感覚とは違うんだろうなぁとぼんやり思ってたら眠くなってきた。目が覚めたら覚になっているんだろうなぁ。
「あーそうそう。目が覚めたら目線が変わってると思うけどそれ、仕様だから気にしないでね」
「……んぇ?今なんて……」
隠岐奈さんがなんか言ってたような気がするけれど、『私』は眠気に耐えられずにそのまま深い眠りに落ちていった。
〜〜〜〜〜〜
少女を私の力で転生させた後、私は久しぶりに物思いに耽っていた。あの子が力を持つ可能性があったのは10年前から把握していた。開花するか否かは少々分が悪いと見ていたが人間とはやはり面白い。いや或いは私と会ったことが引き金になったのやもしれない。
「彼奴なら『ようこそ幻想郷へ。幻想郷は全てを受け入れるのよ。』なんて言うかもしれんな」
呟く言葉は誰の耳にも届いていない。秘神の言葉なんてその程度でいいのだ。たまに目立てばその程度で。
ちなみにタイトルの読み方は「とうほうかていろく」です。