ソードアート・オンライン 神に裁かれなかった罪人 作:黒月 士
いやー、にしてもきれいなぐらいに受験番号ありませんでしたよ。もうほんとに、まあ結果は素直に受け止められたんでよかったんですけどね。これで泣き崩れてたら今頃この小説書くどころじゃなかっただろうな……
人界歴三七四年 某日 カーネル二等爵家 別荘
俺、ルシファー・カーネルは額から異常なほどの汗を流しその場に突っ立っていた。いや、そうすることしかできなかった。なぜならたった今ここで私の目の前で血を流しながら倒れている実の父を殺したのだから。
リーバンテイン家とともに北帝国騎士団剣術指南を任せられた三百年続くカーネル家当主である父は本当に救いようのない男だった。一族の繁栄を最優先にした、と言えば聞こえはいいだろう。しかし、奴が行ったことは自分以外を道具としか見ていなければできぬことだった。
娘二人を迷いなく嫁に出し、家を出る日には顔も出さず、妻は役目を果たしたとして離婚し、唯一家に残っている血縁者である俺には毎日毎日教育という名の訓練を行わせた。奴は俺の人生予定表などという馬鹿げたものをつくり、俺に渡してきた。その予定表によると俺は今年婚約する予定だそうだがそんなことはどうだっていい。
この一週間は別荘で山の獣を対象とした実践訓練だった、最初は奴がよこした教官が俺を見張っていたが途中から奴も参戦し、三人で競争が始まった。教官はすでに見失い、たまたま奴を見つけた。俺を視界にとらえた奴が口した言葉はこうだった。
「俺の獲物を横取りする気か?はっ、お前といいあの女どもといい横取りするのがそこまで好きか?」
その言葉に唖然とする俺に奴はさらにまくしたてる。
「知らんのか?一番目が最初婚約する予定だった奴とな二番目は交友関係を持っていた。そこでだ、一番目が婚約するはずだった男を二番目と婚約する話に変えてやった」
黙れ、黙れ。
「それを知った一番目は大泣きだった、あの顔は今でも覚えているさ、あの醜い顔はな!」
「別にセシリア姉さんがミイサ姉さんの婚約者を横取りしたかったわけじゃない!それは、ただのおせっかいだろ!?」
「知らん、そんな無駄なことを考えるほど俺は暇ではない」
「そんなこと……だと?身内だぞ!?自分の娘だぞ!?それを……無駄だと!?」
「そうとも、女など所詮は道具にすぎん。貴様まさかとは思うが女を人と見ているのではあるまいな?」
「人として見るのは当然だ!」
「まったく、お前が男でなければあの道具どもと同じように俺の屋敷から追い出したものを。とっととその考えを捨てろ、さもなくば貴様も廃棄だ、あの男として生まれてこなかった出来損ないどもと同じようにな」
その言葉は無視できなかった、抜いていた剣を背中を向けて森の奥に歩き出す奴に向ける。その瞬間、右目に激痛が走る、頭を槍が貫くかのような激痛に膝をつく。その間にも奴は遠ざかっていく。剣を杖代わりに立ち上がるがさらに痛みが増し、意識が飛びかける。遠ざかる奴の手前に【SYSTEM ALERT:CODE871】という奇妙な印が輪を作り右向きに回転している。痛みがなかった時にはこの印もなかったことや痛みが右目から発生していることを考えるとこいつが俺に痛みを与えている原因らしい。
しかし、こんなものがあるなど奴からも母上からも、姉上からも一切知らされていなかった。つまり、これは一族にかけられた呪いではないことがわかる。だとすればこんなものを仕掛けられるのは創世神ステイシア様をおいてほかにいない。
なぜ、なぜですか!?神は我々を守るどころかあの男を野放しにせよというのですか!?あの男は自分のことしか考えていない。母上も姉上も皆があいつに振り回され、統治している市民からは多額の税を搾り取る。あの男を殺してはならぬ理由は!?なぜ!?なぜ!?
憎い、何度も何度もこの感情を抱いたが今回は抑えきれぬほどの憎しみの炎。痛みよりも憎しみが俺を支配する。殺す、殺す、殺す!
最初の右足を出したとき、右目の視界が失われた。だが、そんなことはどうでもいい。今は奴を、この手で
殺すだけだ。
奴との距離を一気に詰め、俺は回転しながら上段に振りかぶる。のちにある友から知ったのだがこのとき俺が使った剣術の名は《シャープネイル》というそうだ。奴の胸から腹にかけて素早く剣を薙ぎ、縦三本のまるで獣の爪の跡のように斬った。
そして今に至る。
「ああ…ああ…ああああああ!」
血まみれになった剣は血で滑って地面に落ち、服は血だらけ。半狂乱になりながら俺は吠えた。
俺は、俺は、俺は!なんてことを…してしまったのだ!
地面にうずくまり、ただ祈った。俺という罪人を、ステイシア様に、最高司祭様に、整合騎士様、どなたでもかまわない。裁いてほしかった。いや、きっとステイシア様が裁きの雷を落とされるに違いない。なにせ、あの呪いをかけたのはステイシア様だからだ!
「ああ、創造神ステイシア様。どうか、どうか!この罪深き罪人を裁きの雷で滅していただきたい!」
祈った、祈った。それは一生分くらい祈っただろう。しかし、雷は落ちてこなかった。
「なぜ……なぜですか!?ステイシア様!」
そう天に居られる、いや居られるはずのステイシア様に吠えた。そう居られるはずなのだ、でなければ、でなければ……
いや、わかっている。今この瞬間に裁きの雷が落ちてこないことから。
「もしや……」
やめろ、口に出すな!
「ステイシア様やソルス様、テラリア様は……」
やめろ、やめろ。それ以上は……!
「存在しないのか……?」
そう思ったとき、何かが変わった。俺の中で何かが。
この世界に神はいない。
そのあとはトントント話が進んでいった。教官が俺が吠えた声を聴いて駆けつけ、獣の仕業だと断定したのだ。別荘のある家の領地である村からは村民が馬車を貸してくれて、棺に入れて運んだ。
葬儀、埋葬と行事が進んでいく中俺の頭は『この世界に神はいない』ことへの疑問と探求で満ちていた。あいつの葬儀などどうだっていい。ただ考える時間が欲しかった、神がいない。そうわかった以上13年生きてきた中で学んだもの(料理や剣術などは例外だが)全てに疑いを向けねばならない。となれば一番最初に疑うべきなのは《禁忌目録》だろう。なにせそれには殺人を犯してはならない、という旨の記述がなされていたり、人界を統べる教会を神が作ったとなれば胡散臭さしかない。よし、まずは《禁忌目録》から調べることに……
「ルシファー様?大丈夫ですか?」
はっと意識を戻すとそこは一族が代々埋葬されている墓地だった。すでに埋葬は済んだらしい、目の前には真新しい墓石に奴の名前が刻まれている。
「我々はお屋敷の整理やご主人様からルシファー様へ仕事の引継ぎの準備をこれからしますが……どうされますか?」
若干20歳にしてカーネル家のメイド長であるフラン・ミールシェはそう尋ねる。
「俺は……もう少しここにいるよ、いろいろ考えたいしな」
「そうですか……なら都合がよろしいです。我々は一足先にお屋敷に向かいますので、では」
足早に墓地をさるフランに聞きたかった、何の都合がいいのだろうか。まあ墓地で考えることといっても先ほどまでの続きだ。
そうしてまた深い意識の狭間に落ちようとしたとき、石を踏む足音が鼓膜を叩いた。
足音がした方向に視線を向けると、そこには花束を抱えてこちらに歩いてくる一人の少女がいた。
長く伸びたストレートの髪はパープルブラック、腰には黒く細い鞘が日の光を浴びて輝いている。
「君だよね?ルシファー・カーネルさんって」
「そう……だが?君は誰だ?」
「亡くなったお父さんから聞いてないのかな?なら、僕はユウキ。一応君の婚約者ってことになってるんだ」
どうやら奴は最後の最後にとんでもないものを残していったらしい。
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