「あんた誰?」
抜けるような青空をバックに,謙吾を上から覗き込んでくる少女が口を開く。謙吾よりも年下だと思われる。黒のマントの下に,白いブラウス,グレーのプリーツスカートを着た体をかがめ,謙吾を呆れたように覗き込んでくる。
顔は・・・・・可愛い部類に入るだろう。桃色がかったブロンドの髪と透き通るような白い肌を舞台に,くりくりと
しかし,彼女が着ている物はどこかの学校の制服だろうか・・・・・・なぜ,戦場にこんな少女が。
それより体の痛みが消えている,どういうことだ?
どうやら俺は仰向けに地面にねているようだ。
顔を上げてあたりを見回す。
服装は黒の戦闘服に
弾は
なぜ自分はこんなところにいるんだ。周りには黒いマントを着けて自分を物珍しそうに見ている人間が大勢いる。豊かな草原が広がっており,ヨーロッパのような石造りの城までも見える。ここは,地獄なのか・・・・・・。
頭痛がする。本当にどうなっているんだ?
「どこの平民?」
そうだ,この子を忘れていた。平民? 俺が? 間違っちゃいないが・・・・・なんか腹がたつ。周りを囲んだ少年少女たちも彼女と同じような格好をして,手に何か棒のようなものを持っている。
「ルイズ,『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうするの?」
誰かがそう言うと謙吾を覗き込んでくる少女以外の全員がどっと笑った。
「ちょ,ちょっと間違っただけよ!」
目の前の少女が鈴のようなよく通る声で怒鳴った。
「間違いって,いっつもそうじゃん」
「流石は,ゼロのルイズだ!」
誰かが,そういうとどっと爆笑する。
謙吾の顔をまじまじと覗き込んできた少女はどうやらルイズというらしい。
とにかく俺がさっきまでいたぼろぼろの建物はないということは・・・・・・あの光のせいなのか。謙吾は光に取り込まれるまでの記憶がしっかりと残っていた。
「ミスタ・コルベール!」
ルイズと呼ばれた少女が怒鳴った。すると,人垣が割れて中年の男性が現れた。
この男・・・・・元軍人か。
謙吾はコルベールをみて本能的に察知した。
大きな木の杖を持ち,真っ黒なローブに身を包んでいる。
まるでお伽話に出てくる魔法使いだ。
謙吾はとりあえず様子がわかるまでおとなしくしている事にした。
ルイズと呼ばれている少女は,必死になってまくし立てる。もう1回やらせてください,とか,お願いです,とか,腕をぶんぶん振っている。
「なんだね。ミス・ヴァリエール」
「あの! もう1回召喚させてください!」
召喚?
俺がここにいる事と関係がありそうだな。
ミスタ・コルベールと呼ばれた,黒いローブの男性は首を横に振った。
「それはダメだ。ミス・ヴァリエール」
「どうしてですか!!」
「決まりだよ。2年生に進級する際,君たちは『使い魔』を召喚する。今,やっている通りだ」
使い魔?
使い魔ってあれかよくファンタジーかなんかで出てくるものか?
「それによって現れた『使い魔』で,今後の属性を固定し,それにより専門課程に進むんだ。一度呼び出した『使い魔』は変更する事は出来ない。何故なら春の使い間は魔召喚は神聖な儀式だからだ。好むと好まざるにかかわらず,彼を使い魔にするしかない」
「でも!! 平民を使い魔にするなんて聞いた事もありません!」
ルイズがそう言うと,再び周りがどっと笑う。ルイズは人垣を睨みつける。それでも笑いは止まらない。
意味がわからない。こいつらはさっきから,何を言ってるんだ。
は~~,本当に困った事になった。
「これは伝統なんだ。ミス・ヴァリエール。例外は認められない。彼は・・・・・」
コツベールは謙吾を指差した。
「ただの平民かもしれないが,呼び出された以上,君の『使い魔』にならなければならない。古今東西,人間を使い魔にした例はないが,春の使い魔召喚のルールはあらゆるルールに優先する。彼には君の使い魔になってももらわなくてはな」
「そんな・・・・・・」
ルイズはがっくりと肩を落とした。
「さて,では,儀式を続けなさい」
「え―,彼と?」
「そうだ。早く。次の授業が始まってしまうじゃないか。君は召喚にどれだけ時間をかけたと思っているんだね? 何回も何回も失敗して,やっと呼び出せたんだ。いいから早く契約したまえ」
そうだそうだと周りからも野次が飛ぶ。
「ねえ」
ルイズが謙吾に話しかける。
「話はまとまったか?」
「ええ・・・・・・。しょうがないけど,我慢するしかないわね。あんた,感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて,普通一生ないんだからね」
貴族か・・・・さっきの平民といい,ここでは貴族階級が存在しているのか? 確かに現在でも貴族はいるということは聞いた事はあるが。
ルイズは諦めたように目を瞑る。
手に持った,小さな杖を謙吾の前で振った。
「我が名は,ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え,我の使い魔となせ」
浪々と呪文らしき言葉を唱える。
すっと,杖を謙吾の額に置いた。
そして,ゆくりっと唇を近づけてくる。
「いったい何をするんだ?」
「いいからじっとしてなさい。それと,その奇妙な被り物もとって」
そういえば,ずっと
目出し帽を自分で取ると周りにいる人と目の前の少女も何故か固まる。
あれ,なんでこんな静かになるんだ。
謙吾は髪が銀色で輪郭が整っており,世間で言えばイケメンの部類に入る。しかも,かなりのイケメンだ。
その顔を改めて全員が見る。
「「「「「・・・・・・・・」」」」」
沈黙が周りを包み込む。
「それで,これからどうすればいいんだ?」
「えっ・・・・・えっと,ちょっとしゃがみなさい」
いったいこれから何するんだ。まさか・・・・・キス? そんなはずはないよな?
「こうか?・・・・・・!」
「ん・・・・・・」
ルイズの唇が謙吾の唇に重ねられる。
なんで,キスしてくるんだ・・・・・・
そういえばさっき契約をしろって言ってが,これの事なのか。
ルイズは唇を離す。
「・・・終わりました」
ルイズは顔が真っ赤だ。それはそうだろう人がいる前でキスをしたのだから。
「『サモン・サーヴァント』は何回も失敗したが,『コントラクト・サーヴァント』はきちんとできたね」
コルベールは嬉しそうに言った。その時,謙吾の体が熱くなった。
「くっ!!」
「すぐ終わるわ。『使い魔のルーン』が刻まれているだけよ」
熱いのはほんの一瞬で,すぐに体はもとに戻った。謙吾にコルベールと呼ばれている男が近づいてきて,謙吾の左手の甲(こう)を確かめる。
そこには,中東にいた時もあまり見慣れない文字が刻まれていた。
「珍しいルーンだな」
これがルーンと呼ばれるものなのか。
「さてと,それではみんな教室のほうに戻りなさい」
コルベールは踵を返すと宙に浮いた。流石(さすが)の謙吾でも驚いた。コルベールだけでない他の生徒たちもいっせいに宙に浮いた。周りはただの草原で,どこにも種や仕掛けのようなものが見当たらない。
「ルイズ,お前は歩いて来いよ!」
「あいつ『フライ』はおろか『レビテーション』さえまともにできないんだぜ」
口々にそういって笑いながら飛び去っていく。
残されたのは謙吾とルイズと呼ばれていた少女だけとなった。
ルイズはため息をつき謙吾のほうに振り返り,大声で怒鳴った。
「あんた,何なのよ!」
何って? 人間ですけど。
「俺は黒木謙吾。それで,なんであいつらは飛べるんだ?」
「クロキケンゴ? へんな名前。それに飛ぶのはあたり前じゃないメイジが飛ばなくてどうすんの」
「メイジ?」
「そう,メイジ。そしてここはかの高名なトリステイン魔法学院!」
魔法学院? ここでは魔法なんてものが存在しているのか・・・・・・それならさっきの現象も証明できるな。
謙吾は今見た出来事は魔法によるものだと納得させる。
「私は2年生のルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。今日からあんたのご主人様よ,覚えておきなさい!」
これが俺の新しい運命を作ってくれたルイズとの出会いだった。
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