深夜、室内の暗闇に紛れ、五人一組の武装集団が動く。
彼ら5人は一様に、厚手の黒服の上にプロテクトを着込み、ヘルメットとゴーグルで顔を防護している。その両手には1メートル程度の小銃を所持していた。
彼らは周囲を警戒しながら、一個の生き物であるかのような動きで、建物の奥へと進んでいく。そして一際開けた部屋の前で、武装した一群は止まった。集団の一人が静かに室内を伺う。
彼らの獲物はそこに居た。
15歳程度であろう少年は、殺風景な部屋で窓の外を眺めている。
武装集団の誰かが息を飲んだ。
少年の服が多量の血に汚れていたからだ。
その内、少年自身の血は横腹に刻まれた裂傷以外はなく。そのほとんどは返り血によるものと見て取れた。
少年の肌は幽鬼のように青白く。
身に着けた胴衣は赤黒く染まり不吉で。
少年の右手には何より眼につく凶刃、美しい和刀が握られていた。
彼の少年こそは現代日本において稀に見る殺人鬼。
この一昼夜で何十かの死傷者を築き上げ、老若男女を無差別に切り捨てた狂人。
彼を捕えようとした警官は、皆一様に切り捨てられた。
躊躇すればこの武装集団も同じ末路を辿るだろう。
彼のために結成された特殊部隊5人は、そのことを心に刻み込み、踏み込もうとした。
その前に。
ゆらりと、何の前触れなく、少年は彼ら5人が隠れ潜む方へと振り向いた。
武装集団の誰もが、全身に総毛立つ不吉な気配を感じた。
だが動きを止める者はいない。
次々と室内に突入し銃を突き付ける。
「クッハ――」
乏しかった少年の表情に、犯罪者が浮かべるような笑みが張り付いた。滑空するように動き出す。
「撃てぇ!!」
連発する発砲音。
幾つもの弾丸が少年に殺到し、しかし悉くの弾丸を躱し切った。相手の挙動より未来を先読みしたような動きで、一切速度を落とすことなく武装集団まで駆け抜ける。
体重を乗せる一歩を踏み込み、連動して腰を捻り、肩口より肘へ力を伝達し、理想の軌道で刀を振るう。
全て淀みなく駆動させた斬撃は、相手が認識するよりも早く、武装集団の先頭にいた男の首を刎ねた。
ぐちゃり、と首が地面に転がり、首のない死体が倒れる。
残り4人。
「隊ちょ――――」
呆然と呟く誰かを、次の瞬間には切り捨てた。
恍惚とした愉悦の笑みを浮かべる。
残り3人。
「……!」
一早く持ち直した男が小銃を突き付け、その両手が切り飛ばされる。二の太刀で首を落とされた。
転がる人体の部品は、瑞々しく滑らかな断面を晒している。
残り2人。
「くそったれが!」
銃を捨て、軍用ナイフに持ち替えた男が懐に飛び込んできた。紙一重で突きを躱しながらカウンターで抜き手を放ち、首を掻っ捌く。
残り1人。
武装集団の中で仲間より一歩引いた位置に居た男は、ひたすら自らの仕事に殉じ、少年に小銃の銃口を向ける。
少年が男の方へ振り向くも既に遅い。
4人の仲間の犠牲の末、彼らの特攻が生んだ一瞬の隙を男は見逃さない。
(死んじまえよ、イカレ野郎……!)
目を見開く少年に、ありったけの殺意を込めて銃弾を放った。
音速を超えて飛来する弾丸。それを視界に捉えた少年は――――ありったけの狂笑で迎え入れ、振り向き様の一閃で弾丸を真っ二つに斬り裂く。左右に別たれた弾丸は、少年を傷つけることなく通過する。
「――――」
理解ができない。
銃弾切りなど、男にとって思慮の外で。我失し、それ故に致命的な隙を晒した。
あれだけの魔技を成した少年は、残心もせずに上段の構えを取る。
「……まっ」
一心不乱に、刀を振り下ろした。
その刀身はこれまで何人もの血肉を吸い、切れ味が鈍化していたにも関わらず。
その剣撃は雷のような冴えを見せ。
脳天から股座まで、ヘルメットやプロテクターを一切考慮せず、あらゆる骨や筋肉線維を断ち切り、滞ることなく男を両断した。
最後に残ったのは、血塗れで嗤う一人の剣鬼。
それ以外の全員が死に絶えた。
かくして剣鬼は、彼の前に現れる誉めての人物を斬り捨て続ける。
貴賤なく平等に、最期まで人を斬ることを止めなかった。
肉を斬る感触に取り憑かれ、快楽に溺れた剣鬼は、過去を顧みることなく、己の終着点まで駆け抜け――――そして、あっさりと死ぬ。
死因は、失血死。傷を放置したが故の帰結。
それが現代社会にて、記録に残るほどの大罪を犯した剣鬼の顛末だった。
彼の不幸を述べるなら、生まれる時代を間違えたこと。
その一点に尽きるだろう。
その少年は剣術道場の一人息子として生まれ、流されるままに剣術を学び、家柄ゆえ真剣を手に取る機会に恵まれた。
斬る相手はそこ等中にいた。
だから初めの一振りは、ただ魔が差した程度の出来事で。
最悪なのは、そこで人斬りという特殊過ぎる趣味に憑かれたことであろう。
もし少年が生まれたのが戦国時代なら、己の性分に折り合いを付け、あるいは将兵として名を挙げていたのかもしれない。
だが彼が生まれ落ちたのは現代の日本だった。
当然ながら、そんな人間を現代日本は許容しない。
だから刹那の至福を追い求め、短い生涯を駆け抜けた。
そんなどうしようもない剣鬼を前世に持つ少年がいた。
名前はアリア・グリエルミ。
性別は男。
年齢は15歳。
生まれは『HUNTER×HUNTER』世界。
職業はプロハンター。
いわゆる転生者である。
黒髪に黒い目、肌の色や童顔など無駄に前世の日本人成分を引き継ぎ。
人殺しはいけないだとかの日本的な道徳観や良識を、前世以上に引き継ぎ。
しかし前世の自分と今世の自分は別人だと、そう認識するアリアは常々思う。
前世と今世、生まれる世界を交換すべきであると。
割と平和的な人格のアリアは、現代日本でこそ生活したかったと。
血反吐を吐く思いで剣術修行に明け暮れながら、アリアは運命を呪った。
なおここで剣術修行をする必然性はまったくない。
ただの実利を兼ねた趣味である。
逆に考えるんだ。
転生前なら何やっても良いさ、と。