Aqour(s)   作:ナメクジ次郎

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第2話、なんとか投稿できました。
今回は部長の話がメインなので思ったよりサンシャイン要素薄くなってしまいましたね……
ソルキャ要素は群馬編を予定してるのでそこでマシマシになるはずです


桜の音

「……それで」

 

 目の前に居るのは、Aqoursの面々。それぞれが何やら吹奏楽部の部長であった私に思うところがあるらしく、その声からは少しだけ嫌な匂いがする。

 疑念、疑問、そんなものが向けられているときにする匂い……あまり好きではないものだから、腹の探り合いなんかしていても嫌なことだけ。だから私は手っ取り早く疑念に答えることにした。

 

「どうしてかは知りませんけど、皆さん私に、聞きたい事があるんじゃないですか? よっぽどでなければ答えられますから、どうぞ」

「じゃあ、私から」

 

 まず始めに私の言葉に答えたのは、桜内さんだった。最初に私が元部長である事に気付いた様子だったのも彼女だ、やはり思うところがあるのだろうか。

 

「どうして吹奏楽部を辞めたのに、ここで練習していたの?」

 

 その質問は、やはり来るとは思っていた。

 どうして練習していたのか? そんなもの、一つしかないじゃない。

 

「別に……吹奏楽部は辞めましたけど、吹奏楽も音楽も、嫌いになった訳じゃないですから。ただ私はもう、あの部には居られないだけです」

「その理由は、やっぱり教えてくれないの?」

 

 そう言ったのは、渡辺さん……やっぱりというのはどういう事だろうか? と一瞬考えたけれど、そうか、そういえば生徒会長が親戚でしたね。

 

「教えられませんね、それに多分答えたとしても誰にも理解できない理由ですよ、きっと……」

「そっか……」

「常人には理解されぬ苦しみ……わかるわよ、その気持ち」

「善子ちゃん、多分そういう話じゃないから今は黙っておくずら」

「ヨハネよ!」

 

 Aqoursを追っていれば何度か見たであろうやりとりを目の前で見られる、それはまあありがたい事なのだけれども、脱線しそうだから話を戻さないと。

 

「しかし、もう話が漏れていたとは、生徒会長も意外とお喋り……」

「違うよ!」

 

 私が思った事を言う前に飛んできたのは、高海さんからの否定の言葉。その音に乗っていたのは少しの……怒りの匂い。

 しまった……気をつけていたのに、どうしてここで、地雷を踏んでしまうんだろう。

 

「月ちゃんが私達に吹奏楽部の事を言ったのはね、春祭りに、吹奏楽部の代わりに出てくれないかって頼みに来たからだよ」

「部長が辞めて吹奏楽部がバラバラになってしまいそうだからって」

 

 ……今、耳を疑う言葉を聞いた気がした。

 吹奏楽部の代わりに? 春祭りに? どうして?

 だってあの子に部長も任せて、練習メニューも、各パートや個人の課題を研究したものを渡しておいたのに。

 私が居なくても大丈夫なようにしたはずなのに?

 呼吸が早くなる、心臓の音がうるさい、私が? だって……でも、私が?

 私が吹奏楽部を壊してしまった……?

 

「氷川さん……凄い汗だけど、大丈夫?」

「えっ……あっ、ご、ごめんなさい。取り乱しました」

 

 そうだ、落ち着け私。

 だって覚悟していたはずじゃないか、何て言われようとも何を失おうとも、もう皆と会えなくなっても。

 私はもう吹奏楽部には居られない、私は一人であの音を目指すんだって。

 でもこの人達は吹奏楽部じゃないし、弱音を吐いたって……いいよね?

 

「すみません、私のせいでご迷惑をおかけしているみたいで……流石に、そこまで話が行っているのならば、お話するしかありませんね」

 

 嘘だ。別に話さなくったっていい事なのに、私は、少しでも楽になりたいから。

 あの子達だって大変だと、たった今聞いたはずなのに、私だけ楽になりたいから。

 

「私は……」

 

 ずっと胸にしまい込んでおくと決めていたその言葉を言ってしまうのだ。

 

 

 ******

 

 

「私は……桜の音を演奏する為に吹奏楽をやっていたんです」

「桜の音……?」

「厳密には桜の匂いがする音、ですけど」

「でも、桜には匂いはないずら……」

「そうなの? 花丸ちゃん」

「桜味とか桜風味とか、今の時期あるじゃない」

「うん、そうなんだけどね。あれは後から手を加えて強い香りを出してるのであって、本来桜自体からする香りはほとんど無いくらい微弱ずら」

「じゃあ、桜の匂いがする音って桜味って事?」

「多分、そういうことじゃないんじゃないかな……」

 

 千歌ちゃん達が桜の匂いについて話し合っている中、私は一つの可能性に辿り着いていた。

 最初に言っていたAqoursやμ'sの音がいい匂いがするという話と、桜の匂いがする音。

 それって多分……。

 

「共感覚、ですよね」

「シナスタジア……?」

「必殺技かしら」

「善子ちゃん」

「うっ……わかったわよ」

「例えば、音を聴いて色を感じたり、ふわふわした形から甘い味を感じたり、そういう特別な感覚を持っている人が居ると言われているの」

「正解です……」

「それで……その桜の匂いのする音がする音を探す為に吹奏楽部に居たのに、どうして辞めちゃったの?」

 

 彼女は、千歌ちゃんのその言葉に一瞬気まずそうな顔をした後、何度か深呼吸をして、真っ直ぐと私たちを見た。

 

「話すと長くなるんですけどね、静真に入る前に行われた部活動紹介、そこで吹奏楽部の演奏を聴いた時に、それを感じたんです」

「それまでいい匂いのする音なんて無いと思っていました、この世界の中でずっと、嫌な臭いを感じて生きていかなければならないって思っていました」

「まるで全てが変わったみたいでした、あの音をもっと聞きたい、あの香りを感じていたい! その思いで今まで部活なんてやったことないのに、吹奏楽部に入っていました」

 

 そこまで一息で話した彼女は、少し息を乱しながら、顔に影を落とした。

 

「でも部活に入った後、その音を聴くことはできませんでした、先輩達に何があったのか、全然分からなくて、ただもうあの音は聴けないんだと気落ちしましたけど、だったら自分でやってやろう、とそう思ったんです」

「それからは努力して努力して努力して努力して、先輩が卒業しても努力し続けて、気づけば先輩達が越えられなかった壁を、越えていました」

「そこで気づいたんです、先輩達が桜の音に到達したのに越えられなかった壁を超えたのに桜の音とは違う音だった、だったら私が目指した音はコンクールでは評価されないんじゃないかって」

「だったら、そんな音を目指している私が部長で居たらみんなの味を引っ張ってしまうじゃないですか……だから、私は一人になろうって、決めたんです。後悔はしていませんよ」

 

 後悔はしていないと言い切った彼女の顔は、私から見たらそういう風には思えなくて、とても悲しそうに見えた。

 

「じゃあ、どうして?」

「何がですか?」

「どうしてそんなに、悲しそうな顔してるの?」

 

 千歌ちゃんが、ただただ真っ直ぐな瞳で、彼女を見てそう言い放った。

 きっと、思うところがあったのだろうと思う、もしかしたらAqoursの事を思って悩んでいたあの時の私の事と重ねているのかもしれない。

 

「吹奏楽も、吹奏楽部も嫌いになった訳じゃないんだよね? だったら、諦める事なんてないよ! だって……」

「私は!」

「私は……あなた達みたいに真っ直ぐは、生きられませんから!」

 

 千歌ちゃんの言葉を最後まで聞く事なく、氷川さんは走って行ってしまいました。

 

「あんなに、綺麗な音色だったのに……キラキラ、輝いてたのに」

 

 その言葉は、波の音にかき消されて。私達以外は誰にも、聞こえる事はありませんでした。

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