この鬼畜姫に祝福を!   作:パイン村

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4月17日づけの日刊ランキング入りしてました。
うれしさを超え、なぜか恐怖を感じました。
本当に評価、登録、ありがとうございます。
これからも読んで楽しんでくだされば幸いです。


第11話

「クエストに行きましょう!キツくてもいいから、クエストに行きましょう!」

 

魔王軍幹部襲撃から一週間が経ったある日、アクアがまた駄々をこね始めました。

 

「嫌です。」

 

私ははっきりと拒絶します。今、私は臨時のギルドのバイトで懐はそれなり潤ってます。命をかけてまで高難易度のクエストを受ける必要はありません。

それに、最近ギルドに来ると「よっ、勇者さま」「勇者さま、おごってくれよ」と皆があの勇者宣言をいじってくるのでできるだけバイト以外でギルドに長居するのは避けたいのです。

ギルドでのバイトがなければずっと馬小屋で引きこもっていたいくらいです。

 

「私も今はお金がありますし、無理してクエスト受けなくてもいいかなと」

 

めぐみんも私に賛意を示します。これで二対一ですが...

 

「私は構わないが、...私とアクアでは火力不足だろう...」

 

ダクネスがこちらをチラチラと見てきます。ダクネスは変態とはいえ、正義感だけは強いですからね。自業自得とはいえ金欠で困っているアクアにつきますよね。

 

「お、お願いよおおお!もう、キャベツ売りは嫌なのよおお!キャベツが売れ残ると店長が買い取れっていってくるの!」

 

アクアがついに泣き落としをしようとしてきます。

といかそのバイト、いわゆるブラックバイトというやつでは?そういえばこの子幸運値が人より低いんでしたね。

一応、この子には幹部襲撃の時に助けてもらいましたし、しかたないですか。

 

「ああ、もう、しょうがないですね。わかりました。....じゃあ、良さそうだと思うクエストを探してきてください。悪くなければついていってあげます」

 

アクアは私の言葉に嬉々として駆け出しました。

そんなアクアを不安そうにめぐみんとダクネスが見ています。

 

「...一応、カズハも見てきた方がいいんじゃないですか?アクアに任しておくととんでもないの持ってきそうです...」

「...だな、まあ私は無茶なクエストでも構わないが」

私とめぐみんは構います!

 

というか二人がそんなこと言うから私も不安になってきたじゃないですか。確かにあのアクアですからね。

心配になった私はクエスト掲示板で請け負うクエストを探しているアクアの背後に忍び寄ります。

 

「よし!」

 

アクアは掲示板のクエストを見終わると一枚の紙をはがします。...超高難易度クエストと書かれた紙を。

 

「よしじゃありません!いったい何を...」

私はアクアの持っていた依頼書を取り上げ、見てみます。

 

 

【魔王軍幹部ベルディアの討伐】

街から北の廃城に住み着いた魔王軍幹部のデュラハン、ベルディアを討伐してください。

※デュラハンは大変危険なモンスターです。複数のパーティーで挑むことを推奨します。

報酬 五億エリス

 

 

「貴女、アホですか!」

 

なぜ、この子はわざわざ魔王軍幹部に喧嘩売りに行こうとするんです!

というかこのギルドもこんな無茶な依頼書を貼らないでくださいよ!勘違いした馬鹿が突っ込んで死にますよ、本当に。私は依頼書を丸めてくずかごに捨てます。

 

「なんでよ!アンデッドなんて私がいれば一発で浄化してやるわ!しかも五億よ、五億!これだけあれば一生遊んで暮らせるわ!」

この駄女神、完全にお金に目が眩んでやがります。

 

「貴女が浄化する前に私達が殺されますよ!まったくですね、もうちょっと物事を考えて....」

「ちょっと!これ見て、これよ、これ!」

 

 ...こいつ、人の話聞いてねえですね。いっそのことアクア一人であの廃城に送り込んでやりましょうか。そんなことを考えながら私はアクアの指差した依頼書を見ます。

 

【湖の浄化】

街の水源の湖の水質悪化でブルータルアリゲーターが住み着き始めました。湖を浄化出来ればモンスターは生息地を移すので浄化を依頼したい。討伐はしなくてもよい。

※要、浄化魔法持ちのプリースト。

報酬 三十万エリス

 

「貴女、宴会芸の神様なのに水の浄化とかできるんですか?」

「誰が宴会芸の神よ!水の女神よ、水の女神!」

 

 はい、はい、そうでした、そうでした。

しかし、確かに浄化だけで三十万は美味しいです。しかも、討伐はしなくてもいい、これならアクア一人でもできるんじゃないです?

 

「じゃあ、それでいいんじゃないです?浄化だけなら貴女だけでも大丈夫でしょう?報酬も独り占めですし、ではそういうわけで私は帰って寝ます」

 

 私が帰ろうとするとアクアが服の袖をつかみます。

 

「待って。湖を浄化してるとモンスターが邪魔しに寄ってくるわ。だから私を守って」

 

 ええ...帰って寝たいんですが。しかも、ブルータルアリゲーターって名前からしてワニ系モンスターじゃないですか、危険な匂いしかしません。

 

「...浄化ってどれくらいかかるんです?」

「....半日くらい?」

「長いわ!」

 

 短時間ならめぐみんの爆裂魔法でなんとか出来ると思いましたが、半日も湖でアクアを守っていたら、全員仲良くモンスターの餌です。

あり得ません。私が呆れて帰ろうとするとアクアが泣きながらすがり付いてきます。

 

「お願い、お願いよおおお!後でシュワシュワあげるから、協力してよカズハさーん!」

「いりません....アクア、浄化ってどうやってやるんです?」

「へ?...私が水に手を触れて浄化魔法をかけ続ければいいわ」

 

ふーん、なるほど、水に触れてればいいんですね。この前ギルドのバイトで見たあれが借りられればこの手で行けますね。

 

「アクア、アクア。安全に浄化できるいい方法があるんですが、やります?」

私は笑顔でそうアクアに囁きました。

 

 

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 という訳で私たちは街から少し離れた所の大きな湖に来ていました。

巨大な鋼鉄製の檻と一緒に。

 

「...ねえ?...本当にやるの?」

 

アクアの不安の声が聞こえてきます...檻の中から。

 

「なにが不安なんです?この檻はモンスター用の特別製、そう簡単には壊れません。これならモンスターが寄ってきても安全に浄化できます。一分の隙もない完璧な作戦じゃないですか」

 

 しかも、万が一に備え檻には鎖がついており、ここまで檻を運んできた馬を使いすぐに引きあげることも可能。

ここまで万全の対策をしているというのに何が不安だというのでしょか。

 

「そうだけど...というかさっきからカズハ、楽しそうじゃない?」

「気のせいですよ、気のせい」

別にお金返さないから檻に閉じ込めて、少し懲らしめてやろうとか思ってないですよ?

 

「文句無いなら投下しますよー。ダクネス、めぐみん、手伝ってください」

「えっ?ちょっと!待って!心の準備が....」

 

 私達は三人でなんとかアクアの入った檻を持ち上げます。

 

「「「せーの!」」」

「あー!」

 

 アクアが入った檻が勢いよく湖に落ち、しばらく水の上を滑ると丁度よい浅瀬で止まりました。

 

「本当にあれでいいのですか、カズハ?これ、他の人に見られたらヤバい絵面になってませんか?」

 

めぐみんが人間を檻に入れて湖に放り込むという行為に罪悪感を感じたのか、私に心配そうに聞いてきます。

 

「説明すれば大丈夫でしょう、多分。それに捕まるときは一緒ですよ、めぐみん」

「カズハ!?」

 

 大丈夫、大丈夫、決して不要な女神を不法投棄しに来たわけでは無いですし。

最悪、人が近づいてきそうだったらアクアを湖に沈めて逃げましょう。本人いわく、水の中でも息をせず生きていけるらしいですし。

ギルドにはアクアは借金取りに連れ去られたと証言すれば私たちは助かります。...もちろん後でアクアは回収しますよ?

 

「カズハ?顔が怖いんだが、何か邪悪なことを考えていないか?」

「何をいうんですか、私は常にパーティーの為になることを考えてますよ」

 

 ダクネスがすごく微妙な表情でこちらを見て来るんですがなんででしょうね?

 

「...私、出汁をとられている紅茶のティーバッグの気分なんですけど」

 アクアのそんな悲しげな一言が湖に響きました。

 

 

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 そして一時間が経ちました。

ふむ、少し濁った水が綺麗になった気がしますね。

アクアいわく、女神の力とやらで浄化魔法がなくともアクアが水に浸かってるだけで綺麗になるというのは本当だったようですね。

しかし、それにしてもモンスター、来ませんね。檻を借りたのは無駄だったかも知れません。

 

「暇ですね。カズハなにかいい暇潰しはないですか?」

「それなら私がボードゲームを持ってきているぞ」

 

そう言ってダクネスとめぐみんは遊び始めます。まあ、暇ですからね。

私もなにか暇を潰せるものはっと...おっとこんなところに黒猫がいるじゃないですか。少し戯れるとしましょうか。

私はその辺に生えていた猫じゃらしをむしり、猫の前で左右に揺らします。

猫はそれにつられる様に動き、...口から火を吐いて猫じゃらしを灰にしました。

 

「は!?」

 

「どうしたんですか、カズハ?...それ、ちょむすけじゃないですか」

めぐみんが私の声に驚いてこちらに来ます。って、ちょむすけ?

 

「これ、めぐみんの猫なんです?」

「はい、ちょむすけといいます。今日は安全なクエストみたいでしたし、連れてきました」

 

 ちょむすけって。

相変わらず、紅魔族のネーミングセンスは理解できません。

そういえばこの黒猫、何回かめぐみんの周りをチョロチョロとうろついてた気がします。しかし...

 

「猫って火を吐けるものなんですね」

キャベツが飛ぶ世界ですからね、今さら私もこんなことでは驚きませんよ。

 

「何をいっているのです、カズハ?猫が火を吹くわけ無いでしょう」

めぐみんはおかしな子を見る目で私を見て来ます。.....もう、いいや。深く考えないようにしよう。

私はさっき見たものを忘れめぐみん、ダクネスとボードゲームで遊びました。

 

「ねぇ、ちょっと、私のこと忘れてない!ねぇってば!」

 

 

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そしてさらに一時間後

 

「アクア、大丈夫ですかー?トイレとかいきたくなったら言ってくださいねー!引き上げますからー!」

私は湖のアクアに呼び掛けます。

 

「大丈夫よ!後、トイレなんて余計なお世話よ!アークプリーストはトイレなんていかないわ!」

....大丈夫そうですね。後でトイレ行きたいと言っても絶対に引き上げてあげませんが。

 

「どうやら、大丈夫そうですね。ちなみに紅魔族もトイレにはいきません」

めぐみん、それは何を張り合っているんですか。貴女達は昔のアイドルかなにかですか。

 

「クルセイダーも....トイレには....トイレには....うっ、う....」

「そこの変態も張り合おうとしない!いい加減にしないと今度、長期間のクエスト請けて一切トイレいかせませんからね」

「紅魔族はトイレにいきませんが、謝るので許してください。....それにしても平和ですね。ここのモンスターもあの幹部を恐れ隠れているのでは?」

「確かに、そうかも知れ....」

 

 噂をすればなんとやら、湖の中から何体もの数mはあろう巨大なワニが現れます。ワニって集団行動しないはずなんですけどね。さすが異世界、常識が通用しません。

 

「カ、カズハー!なんか、いっぱい来たんですけど!」

「大丈夫、大丈夫、その檻なら平気ですよー!クスクス」

「あ!今、貴女笑ったでしょう!やっぱり、この状況楽しんでるわね!」

 

 

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そして、浄化開始から四時間後。

 

「『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』ッッ!」

 

最初は女神の浄化能力だけで余裕ぶっていたアクアも数mはある巨大なワニに囲まれている恐怖からか、今は一心不乱に浄化魔法を唱えています。

 

「アクアはギブアップならいってくださいねー!助けてくださいカズハ様って言って、バイトの給与も飲み代に使わず私への借金返済に使うと約束するならちゃんと助けてあげますからー!」

「嫌よ!誰がヒキニートごときに敗けを認めるもんですか!それにここで諦めたら報酬がもらえないじゃない!ああ!今、メキッていった!今、檻から鳴っちゃいけない音が鳴った!」

 

全く、頑な子ですね、世の中引き際が肝心だというのに。まあ、私は安全地帯からアクアがどれだけ耐えられるかゆっくりと拝見させてもらうとしましょう。

 

「カズハがものすごく邪悪な笑みを浮かべてます。...あれ、悪魔とかそういう類いですよ、そう思いませんかダクネス?」

「....あの檻の中、ちょっとだけ楽しそうだな....」

「ダクネス!?」

 

そして、浄化開始から七時間が経ちました。

湖は青く澄んだ色を取り戻し、ブルータルアリゲーターもどこかに去っていきました。

そして、湖にワニの歯形でボロボロになった檻だけが残されています。

....一時間ほど前からアクアの声が聞こえなくなったんですが、生きてますよね、死んでませんよね!?これ、死んでたら、本当に湖に沈めるしか....!

私達は檻を急いで引き上げ、中を確認します。

 

「うぇ....ぐず....ひっく」

 

檻のなかではアクアが膝を抱えてうずくまっていました。

これは...、完全にやり過ぎです。さっさと途中で引き上げてあげるべきでした....。

 

「ア、アクア、さっき皆と話し合ったんですが今回の報酬は全てアクアのものです。だから、ね?早く檻から出て街に戻りましょう?」

アクアは一瞬だけ肩を震わせますがうずくまったまま動こうとしません。

 

「アクアさーん?」

「連れてって....」

 

アクアが虚ろな表情で小さく呟きます。

 

「あの、アクアさん?」

「....檻の外の世界は怖いから、このまま街まで連れてって」

 

....どうやら、私は女神にまたトラウマを植え付けてしまったようです。

 

 

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 私達はアクアを馬車に載せると、ギルドに向け出発しました。しかし、街に入ってもアクアは一向に出てこようとしません。

「....出涸らし女神が運ばれていくよー。....きっとこのまま売られていくよー」

「アクア、謝りますからその歌やめてください。ただでさえ街の人がさっきからすごい目で見てきてるんですから...お巡りさん!?違うんです!本当に違うんです!」

 

 危うく、前科者になるところでした。ダクネスが取り成してくれなかったらどうなっていたことか。

というか何故、あの警官はダクネスの顔を見るなり納得して帰っていったのでしょうか?

 

「もういい加減出てきてくださいよ、アクア。これ以上、檻に貴女を入れて歩くと、またお巡りさんに捕まります。私達も檻に入るはめになりますよ」

 

 アクアはやはり動こうとせず、虚ろな瞳をこちらに向けてきます。

 

「檻?...カズハも檻に入りたいの?ここはいいわ、あらゆる危険から私を守ってくれるの。...こここそ、私の聖域....」

 

 完全に正気を失ってますね。これ元に戻るんでしょうか。

....うん?誰か近づいてきますね。

 

「め、女神様じゃないですか!こんなところで何を!今助けます!」

急に出てきた謎の男はそう叫んだかと思うと、モンスターですら破壊できない檻をいとも簡単にねじ曲げます。

 

「って、なにあなた人のもの壊してるんですか!それ借り物なんですよ、私がルナさんにしかられるじゃないですか!」

 

ちなみにルナさんとはいつもの受付のお姉さんです。最近、バイトで仲良くなりました。怒るとすごく怖いです。

 

「女神様、貴女の勇者が助けに来ましたよ」

 

 完全に自分の世界に入っちゃって私の言葉を聞いてないですねこの男。器物損壊って犯罪ですからね。

しかし、あの男アクアに手を差し伸べているようですが、当のアクアは唖然としています。

 

「おい、私の仲間に馴れ馴れしく触るな。貴様、何者だ?知り合いにしてはアクアがお前に反応していないのだが」

 

 ダクネスが男に詰め寄ります。この姿だけを見れば仲間を守ろうとする立派なクルセイダーなんですがね。

謎の男はため息を一息を付くと首を振ります。いかにも自分が厄介事に巻き込まれたという風です。

借り物の檻を破壊しておいてこの態度はあり得ません。あ、ダクネスも明らかにイラッとしてますね。

あの性癖以外なら冷静なダクネスを怒らせるとはある意味尊敬に値します。

とはいえ、このままほっておくと騒ぎになりかねません。ここは元凶に解決してもらうとしましょう。

 

「女神様、あれ貴女が適当言って送り込んだ勇者の一人でしょう。何とかしてくださいよ。」

 

 私は檻の中のアクアに呼び掛けますが、アクアはキョトンとした顔でこちらを見ます。

 

「女神?...そうよ、女神よ!カズハたら女神たる私に助けてほしいって訳ね!」

 

 え、まさか、本気で自分が女神だと忘れてたんですかこの子。

 

「とにかく、貴女の知り合いなら事情を話してください」

 

 しかし、アクアは

「誰それ?」

貴女の知り合いじゃないんですか。

 

「女神様!?何を言っているんです!御劔です。あなたに魔剣グラムをいただいた、御劔響夜です!」

 

ああ、やっぱり私と同じ日本から転生させられた人ですね。年は私と同じくらいでしょうか。

青く輝く鎧を身に纏い、腰には黒い鞘に入った立派な大剣、後ろには戦士風の美少女と盗賊風の美少女がいます。

....いかにもな転生系主人公ですね。

 

「ああっ!いたわね、そういえばそんな人も!すっかり忘れてたわ。毎日、結構な人数送ってたから忘れたわ、ごめんね」

 

 ミツルギとか言う男もあんまりなアクアの扱いに顔ひきつらせていますね。アクアの適当な言葉信じて勘違いした犠牲者って結構いるんでしょうね。

 

「ええっと、お久しぶりですアクア様。貴女に選ばれた勇者として日々頑張っています。職業はソードマスター、レベルは37になりました。....アクア様はなぜここに?というか、なぜ檻の中に?」

 

 そう言いながらミツルギがこちらをちらちら見て来ますね。私がアクアを閉じ込めて売ろうとする奴隷商人にでも見えましたかね?

...いえ、普通そうとしか見えないですね。さっきもお巡りさんに誘拐犯として捕まりかけましたし。

取り敢えず、説明して誤解を解きましょうか。

 

「はあああ!?バカな、あり得ない!?女神様を所有物とした上、この世界に引きずり込んだ!?しかも、檻に閉じ込めて湖に浸けた!?君は一体、何を考えているんですか!?」

 

私はいきり立ったミツルギに肩を捕まれます。

 

「君にも事情はあるのだろうがこんなやり方は人として間違っている!仮にもこの方は女神様....いや、そもそも檻に仲間をいれるという発想が間違っている!」

 

 なんで私は初対面の、しかも人のもの壊した男に偉そうに叱られなきゃいけないんでしょうか?

この優男は、その魔剣とやらで高難易度のクエストも楽々とクリアできるのでしょう。

一方で私はこのろくでもない仲間と一緒に知恵を絞ってなんとか日々を生き抜いているんですよ。

今回にしたって普通にやっていたら私たちなんて、今頃ワニの腹の中です。

あー、なんか腹立ってきました。殴りましょうかね、殴っていいですよね。

私が拳に力をこめていると、そのことにきづいたのか、アクアが私とミツルギの間に割って入ります。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと!?いや別に私としては結構楽しい毎日を送ってるし、ここに連れてこられたことももう、気にしてないわ。それに、魔王倒せば帰れるんだしね。今日クエストだって怖かったけどカズハのお陰で楽に終わったわけだし」

 

 ミツルギはアクアを憐れむような目で見ます。

 

「アクア様、この女性にどう言われたのか知りませんが、貴女の扱いはどう考えても不当です。あなたは女神なのですよ!....ちなみに今はどこに寝泊まりを?」

 

 言いたい放題ですね、この男。

どうせ、美人で綺麗なアクアに一目ぼれでもしたんでしょうが。

...アクアの上っ面しか知らないくせにムカつきます。

 

「馬小屋だけど。」

「はあ!?女神様を馬小屋に!?」

 

 ミツルギがもう我慢できないとばかりに睨み付けてきます。

見かねたダクネスが私の前に立ちます。

 

「おい、いい加減にしろ。さっきから何なのだ。初対面の女性に対して、礼儀知らずにもほどがあるだろう」

ダクネスの沸点がいよいよ臨界に達しつつありますね。 見ればめぐみんも杖を構えミツルギを威嚇しています。

 

「ちょっと撃ちたくなってきました。撃っていいですよね?」

めぐみんやめてください、私も死にます。

 

そんな、二人の様子を見てミツルギは私から離れ、彼女達を見ます。

 

「君達はクルセイダーに、アークウィザードか。....なるほど、パーティーメンバーに恵まれているんだね。それなら尚更だよ。君だって仮にもアクア様に選ばれた勇者だろ?女性の身とはいえ、こんな優秀な仲間がいてアクア様を馬小屋で寝泊まりさせるなんて恥ずかしいと思わないのか」

 

優秀な仲間?そんなものどこにいるのでしょうか?いるのはへっぽこ聖騎士とポンコツ魔法使い、そして、駄女神。

なにも知らないこの男には優秀なパーティーに見えるんでしょうが。

チートで楽してきたこの男に十分の一でもいいから、私の苦労をあじわってもらいたいものです。

 

 そんな苦労知らずのチート野郎は憐れむような笑みで話しかけてきます。

「君たちも今まで苦労したみたいだね。これからは僕と一緒に来るといい。馬小屋なんかで寝かせないし、高級な装備品も買いそろえてあげよう。それに、パーティー構成的にもバランスがとれているしね。アクア様との再会も含めてこれは運命に違いない!」

 

 うわー、よくここまで自分に都合よく話を考えられますね。皆が賛同する前提で話してますよ。正直、引きます。

 

「君も、一緒にどうだい?色々あって螺くれてしまったんだろうが、僕が君を更正させてあげよう」

 

 この男、女と見れば見境なしなのでしょうか?しかも超上から目線です。こっちからお断りと言いたいところですが、確かに高レベルでお金も持ってそうですし一考にあたい...やっぱないですね。

これと仲間にとか、生理的に無理です。想像しただけでもゲロ吐きそうです。

 

「ちょっと、ヤバいんですけど。あのひと本気で引くくらいヤバいんですけど。ナルシストも入っている系で怖いんですけど。」

「どうしよう、あの男はなんだか生理的に受けつけない。攻めるより受けるのが好きな私だが、あいつだけは何だか無性に殴りたいのだが」

「撃っていいですか?あの苦労知らずの、スカしたエリート面に爆裂魔法撃っていいですか?」

 

皆さん、同意見のようですね。ダクネスとここまで意見があったのは初めてです。

これ以上関わり合いにならない方がいいですね。用事を済ませて、さっさとギルドに行きましょう。

 

「私達は満場一致であなたのパーティーに行きません。というかそんなことよりも檻、弁償してください。」

 

檻の弁償だけは絶対にしてもらわないと。こいつの壊した物の責任なんて、絶対とりたくありません。

 

「そうか...しかし、アクア様をこんな境遇においておけない。君には絶対に世界を救えない。何故なら僕が救うからね。だからアクア様は僕と一緒の方が絶対にいい。....どうあれ、アクア様は君の所有物なんだよね」

「ええ、そうですが....」

 

私はイライラしながら返事をします。

ああ、こいつは人の話を聞かない猿なんですね。もう、なんか次の展開が見えてきました。こういう痛い人が次にとる行動と言えば...

 

「なら、僕と勝負をしないか?君も選ばれし勇者なんだろ?僕が勝ったらアクア様を譲ってくれ。君が勝ったら何でも一つ、いうことを聞こうじゃないか。」

 

 敵と見れば男女平等に喧嘩を売るその姿勢は、評価に値しますね。

まあ、こいつは悪しき偽勇者を倒して女神を救うイベントだとか思ってるんでしょうけど。

仕方ありません、こういう馬鹿は痛い目に遭ってもらいましょう。

 

「...わかりました。その勝負受けましょう」

 

そう言うと私はニッコリと微笑み、ミツルギに近づき右手をを差し出します。

 

「...?ああ、成る程、勝負の前の握手か。なかなか礼儀をわ....」

「じゃあ、スタートです!」

 

ミツルギが手を差し出した瞬間、私はそう言って、彼の股間を思いきり蹴りあげました。

 

「ぐぎゃあああ!!」

 

 ミツルギが情けない声をあげ、のたうち回りますが、さすが高レベル冒険者だけに経験を多少積んでるのか、直ぐに立ち上がり鞘から剣を抜こうとします。

しかし、遅いです。私はミツルギが完全に立ち上がる前に右手をつきだし叫びます!

 

「《スティール》ッ!」

 

 さすが、私。いきなり当たりです。私は、右手に握られたグラムとか言うらしい大剣を見ます。

目の前では、ミツルギが信じられないという様子で唖然としてます。

全く、隙ありありです。

 

「えいっ!」

「ぎゃん!」

 

 私がグラムを振り下ろすとまたもや情けない声をあげてミツルギは倒れます。

気絶したみたいですね。白目向いて面白い感じになってます。

あー、スマホでもあれば今すぐ写真にとって弱みを握れるんですが残念です。

 

「卑怯者!卑怯者、卑怯者、卑怯者ーっ!」

「アンタ、最低!正々堂々と勝負しないさいよ!」

 

 ミツルギの後ろにいた少女達が私を罵倒します。

いや、一般人とチート持ちの喧嘩に正々堂々とか言われましても。

しかも、自分から喧嘩を売っておいて油断するアホが悪いと思います。

 

私は彼女達を無視し、倒れたミツルギから財布を剥ぎ取ります。

 

「じゃあ、勝ったのでこの剣はもらいます。あと、この人が壊した檻の弁償代も払ってもらいますね。」

 

 私がさっさと帰ろうとすると後ろにいた少女の一人が立ちはだかる。

 

「ま、待ちなさい!お金はともかく、その剣は主であるキョウヤにしか使えないわ!返しなさい!」

「え、そうなんですか、アクア?」

せっかく、これで私もチート持ちになれると思ったんですが。残念がる私にアクアが答えます。

 

「本当よ、その魔剣はその痛い人専用よ。選ばれた人が装備すると限界を超えた膂力が手に入り、鉄でも岩でも切れ、神すら屠れるわ。でもカズハが持ってても少しよく切れる剣よ。」

 

魔剣の使い手とかカッコよくて憧れだったんですが、...まあいいです。せっかくですし、もらっておきましょう。

 

「取り敢えず勝ったのでもらっておきます。じゃあ、さようならです。その人が起きたら、そもそも、あなたが持ちかけたんですから恨まないでくださいねと、お伝えください。」

 

私が今度こそ立ち去ろうとすると、またもや少女達が立ちはだかります。

 

「待ちなさい!私達はこんな勝ち方、認めないわ!」

「そうよ、そうよ!」

 

あくまで邪魔をするわけですね。こういう人達は何言っても聞きそうにありません。

 

「そうですか。....《スティール》ッ!《スティール》ッ!」

 

 私は両手を突き出し、彼女達に窃盗をかけます。何故か、私のスティールは女性にかけると高確率で....。

 

「....あ、あなた!私のパンツ返して!」

「あ、私のも!」

 

パンツがとれるんですよね....。

 

 彼女達は顔真っ赤にして私に抗議します。

私だってこんなことしたくありませんがいつまでもしつこい貴女達が悪いんですからね。

私は息を吸い込み、おもいっきり叫びます。

 

「大変です!!ここにノーパンの痴女がいます!!」

 

彼女達は一瞬、唖然とし、そして泣きながらに叫びます。

 

「アンタ、何てことをするのよ!お覚えてなさいよ!」

「貴女、次あったらただじゃおかないからね!」

 

 そう言って彼女達は逃げていきました。あっ、ミツルギはおいていかれましたね。

....これ以上、面倒事に巻き込まれるのはごめんです。先手を打ちましょう。

おっ、丁度いいところにさっきのお巡りさんが。

 

「お巡りさん!この男がこの檻を破壊した上、襲ってきたんです!」

私は事の経緯の前半だけを説明し、それを聞いたお巡りさんはミツルギを連れていきました。

 

「これでしばらくは会うこともないでしょう。さあ、いきましょうか」

私が皆の方を向くと悪魔を見るような目で私を見ます。なぜか、ダクネスだけは嬉しそうですが。

 

「カズハ、アンタすごいわね....」

「カズハ、あなたは悪魔なのですか....?」

「ふっふっ....ひひっ、最高だ、最高だぞ、カズハ!それでこそ、それでこそだ!」

ダクネスがいつも以上に気持ち悪いです。そして、誰が悪魔ですか。私ほど心優しい人間はいないというのに。

本当に私が悪魔ならミツルギの身ぐるみ剥いで街の外に捨ててます。

 

「めぐみん、アクア、私は振りかかる火の粉を払っただけです。それに、私は一度、敵と見定めた人間には容赦しないと決めているんです。相手が泣いて土下座してこようが私が勝ったと思うまで絶対に手を緩めません。」

 

私は子供の頃からの信条をにこやかに仲間に語ります。

 

「私、何があってもカズハだけは敵には回しません。死ぬよりもひどい目に遭わせられそうです」

「そうね、パンツ剥かれるわ....」

 

 暴漢からパーティーを守ったというのになんですかね、この扱い。普通、称賛されていいのでは?

 

「ハア、ハァ、カズハ、私にも…」

 

この変態に関しては考えたくもないです。

そのあと、私達はギルドで報酬を受けとると壊れた檻についてルナさんに説明し、こってりとしぼられました。

 

 

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 そんな、最悪な日の翌日。私は少々小金を手にいれたのでギルドで少し豪勢な昼食をとろうとしていました。

勇者いじりは嫌なのですが、ここの食事は間違いなく街一番なんですよね。あれを我慢してでも食べる価値があります。個人的に星三つあげたいところです。

 

「おや、カズハじゃないですか。おはようございます」

「カズハか。おはよう」

 

 まあ、この二人は当然いますよね。今日は一人で食べたい気分だったのですが、仕方ありません。会ったのに誘わないのも悪いですからね。

 

「おはようございます、めぐみん、ダクネス。今から朝食ですがせっかくですしどうです?」

「いいですね、今日は唐揚げ定食が食べたいです」

「ああ、いいな。ご相伴に...」

 

「な、何でよおおお!アンタどういうことよ!」

 

そんな、会話に水を差すように聞き覚えのある声が聞こえてきます。

 

「聞き覚えのある声ですね」

「聞き覚えのある声だな」

「言わないでください、めぐみん、ダクネス。あれはきっと知らない人の声です」

 

 あの子は毎回騒ぎを起こさないと気がすまないのでしょうか?

声の方を見るとアクアがルナさんにつかみかかってました。

 

「ですから、檻の修理代はこれだけじゃあ足りないんですよ」

「そんな!じゃあ私あれだけ頑張って十万エリスしかもらえないの!?」

 

 どうやらあの...あの人、名前なんでしたっけ?まあいいです。あの男の財布だけじゃあ檻の代金に足りなかったようですね。

しばらくアクアは粘っていましたがやがて諦めて私達を見つけるとこちらに向かってきました。

 

「....あの檻のレンタル代と修理費で三十万だって。....特別な金属と製法で作られているから高価なんだってさ....」

 

さすがに今回は同情しますね。あの男の被害者ですし。やっぱり身ぐるみ剥いでおけばよかったですかね。

 

「あの男、今度会ったら絶対にゴッドブローをくらわせてやるわ!それで残りの檻の弁償代も払わしてやるわ!」

 

アクアは怒りを露にしながら席につきます。まあ、もう会うこともないでしょう。今ごろ彼は留置所の中....

 

「ここにいたのかっ!探したぞ、佐藤和葉!」

 

 うわー、聞きたくない声が聞こえます。恩情で被害届出さなかったのが間違いでした、こんなに早く出てくるとは。

えっと、名前は....たしかミツ....取り敢えずミツなんとかさんは取り巻きの少女二人とまっすぐにこちらに向かってきます。

 

「あなた、留置所にいるはずじゃあ?どうやってでてきたんです?というか、何で私の名前知ってるんです?」

 

私、名乗った覚えないんですが。

 

「やっぱり君の仕業か!起きたら財布はないし、牢屋だったからね!仲間に保釈金持ってきてもらって、ギルドの人にも説明してもらってなんとか出れたよ、高難易度クエストを何個か受けたお陰で信頼されてたからね」

ということは、まだこいつ金持ってそうですね。よかったですねアクア、修理費とれますよ。

ミツなんとかは話を続けます。

 

「君のことは留置所で向かいの牢屋にいた金髪の冒険者に聞いたよ。パンツ脱がせ魔の真性百合の変態だってね!他にも女の子をいじめるのが趣味の子だとかいろんな人の噂になっていたよ。アクセルの鬼畜姫だってね!」

 

 金髪のゴミには心当たりがありますね。というか、また捕まったんですかあのゴミ。あのゴミはあとで燃やしておきましょう。

問題はそれ以外です!私のあらぬ噂が定着しつつあります、本当に何とかせねば....!

おや、アクアが鬼のような形相で立ち上がりましたね。

 

「唸れ、女神の怒り!ゴッドブロー!」

 

 見事なストレートパンチがミツなんとかに叩き込まれます。おおっ、パンチで人が吹っ飛ぶなんて現実で始めて見ました。

 

「「ああ、キョウヤ!」」

 

 あわてて取り巻きの二人が吹っ飛んだミツなんとかに駆け寄ります。

ミツなんとかは唖然としていて何故殴られたのかわからないのでしょう。アクアは、そんな彼に近づくと胸ぐらをつかみあげます。

「ちょっとあんた、あの檻ちゃんと弁償しなさいよ!私が弁償するはめになったのよ!六十万よ、六十万!とっと払いなさい!」

 

 なんか、修理費が倍になってますが特に指摘する理由もないので黙っておきます。

というか、アクアに言われて素直に出してますが躊躇もしないあたり、彼にとってはこれでもはした金なんでしょうね。ムカつきます。

 

「しゅわしゅわとカエルの唐揚げ一つ!」

アクアはお金をもらうと上機嫌に店員へ注文をします。まず先に、私への借金を返しなさい。

 

「で、なんの用なんでしょうか?ってか名前なんでしたっけ?キモルギさんでしたっけ?」

「ミツルギだよ!昨日会ったばかりだろう!」

「すみません私、興味のないゴミ....いえ、人間の名前は覚えられなくて。」

「今、ゴミって言ったか!?」

全く、いちいちうるさい人ですね。朝ごはんが食べれないじゃないですか。

 

「....まあ、いい....あんなやり方でも、負けは負けだ。だが、頼む!あの魔剣だけは返してくれないか?あれは君が持っていても役に立たない物だ。なんでもいうことを聞くといった手前虫がいいのは理解している。....剣がほしいならこの街で売っている一番いい剣を買ってあげるから。」

 

 本当に虫のいい話です。

要らない子とはいえ、アクアは私の転生特典としてついてきた下僕です。つまり、私とミツルギは互いに特典を賭けたことになります。

彼にとって魔剣とアクアが等価だというのなら言うことはないですが。

 

「私を勝手に景品にしておいて、負けたら良い剣を買ってあげるから魔剣返してって、虫がいいと思わないの?それとも、私の価値は街で一番高い剣と同等って言いたいの?無礼者、無礼者!仮にも女神様を賭けの対象にするってなに考えてるんですか?顔も見たくないのであっちへ行って!」

 

 アクアは持ったメニューでシッシと手をふりミツルギを追い出そうとします。

アクア、本気で怒ってますね。勝手に話を進められた挙げ句にこれでは無理もありませんが。

そんなアクアを見たミツルギはみるみると青ざめ、必死にアクアに言い訳をしようとします。

 

「ままま、待ってくださいアクア様!決してあなたを安く見ていたわけではなくこれは....なんだい、お嬢ちゃん?僕は大切な話をだね。」

「....すでにカズハが魔剣を持っていない件について。」

「へっ!?」

 

 話の邪魔をしためぐみんのその一言を聞き、ミツルギは私を見ます。

ショートソード以外なにも装備していない私を。

 

「あの、佐藤さん!?佐藤和葉さん、魔剣は!?ぼぼぼ、僕の魔剣グラムは!?」

 

 ミツルギは顔中に脂汗を浮かべひきつった面白い顔で聞いてきます。

私はその質問を笑顔で返しました。

 

「売りましたが」

「ちくしょおおおお!」

 

 私の言葉を聞いた彼は泣きながらそう叫び取り巻き二人とギルドから飛び出しました。

 

朝食前の余興としてはなかなか面白かったですね。私はそう思いながら運ばれてきたカエルの唐揚げを手にとって食べました。

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 「ところで。先ほど、アクアが女神だとか呼ばれていたが、一体何の話だ?」

朝食を食べ終わるとそんなことをダクネスが聞いてきました。

....あの魔剣の人、さんざん女神、女神言ってくれましたからね、ダクネスも気づきますか。仮にも神に仕える聖騎士ですしね。

 

「この際です。めぐみんとダクネスには話してしまいましょう」

私はとなりにいたアクアにささやきます。アクアは「わかったわ」と一言いうと珍しく真剣な表情でめぐみんとダクネスに向き直ります。

そんなアクアを見てダクネスもめぐみんも真剣に耳を傾けます。

 

「今まで黙っていたけれど、あなた達には言っておくわ。...私はアクア。アクシズ教団が崇拝する、水を司る女神。....そう、私こそがあの、女神アクアなのよ....!」

「という妄想に取りつかれた可哀想な子なのです」

「なんだ、そうなのか。....可哀想に」

「違うわよ!本当に、本当なんだから!」

 

まあ、こうなりますよね、所詮アクアですもん。

 

「コントも終わったところで、めぐみん。爆裂魔法を撃ちたくないです?」

「撃たせてくれるんですか!?」

後ろから「コントじゃないわよ!」とか言う声が聞こえますが無視です。

 

「ええ、ちょっとこの世から完全に消滅させたいゴミがありまして、加減は一切要りません。完全に消し飛ばしてください」

「....やっぱりいいです。犯罪の片棒は担ぎたくないので」

 

 何を言うんでしょうか。留置所にいるであろう社会のゴミクズを焼却する立派な奉仕活動だと言うのに。

....まあ、いいです、人のあることないことを広めたあのゴミクズはまた別の方法で処分しましょう。

私がゴミへの報復方法を考えていた、その時。

 

『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってくださいっっ!』

 

もはや、お馴染みとなった緊急事態を告げるアナウンスが流れてきました。

 

「最近、多いですねぇ。面倒です。行きたくないです」

 

そんな私の言葉を聞いて、責めるような目でダクネスがじーっと見てきます。

....ちゃんと行きますよ、ギルドに登録している冒険者の責務ですし、行かなかったらペナルティもありますしね。

まあ、ゆっくりと一番最後に行きますが。

 

『繰り返します!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってください!....特に、冒険者サトウカズハさんとその一行は、大至急でお願いします!』

 

「....えっ」

 

....私、何かしましたか?

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

そのときのゴミクズさん

 

 俺の名前はダスト!この街じゃあちっとは名の知れた冒険者さ!今日は一体どんな冒険が俺を待っているのやら....。

 

「署長、あのゴミがさっきから一人でぶつぶつと気持ち悪いこと言っているのですが燃やしていいですか?」

 

「やめておけ、面倒なことになるだけだ」

 

「そうだぞ。俺に手を出した奴は大抵、ろくな目にあわねぇ」

 

「金がなくて、飯目あてに軽犯罪おかして留置所に来たクズは黙っていろ」

 

 そう言って、警官二人は去っていった。

チッ、適当に煽って手を出したら慰謝料請求してやろうと思ったのによ。

...うん?向かいの牢屋に誰かいるな、新人か?

 

「....はっ!女神様、今助け....どこだここは!....あれ、魔剣がない!しかも、財布もない!」

 

 なんだこの兄ちゃん?身なりも整ってるし、見たところこんなところに来るような人間に見えんが。

....しかし、どこかで見たことあるような?あ!生意気にも女囲っていたから、絡んだら俺をボコボコにした奴じゃないか!

よくわからんが逮捕されたようだな、ザマーみろ!

 

「そこのあなた、いったいここはどこです?あと、青い髪をした美しいアークプリーストをつれた冒険者の少女についてなにか知っていたら教えてほしいのですが。」

 

 青い髪のアークプリースト?冒険者?....あ、カズハの奴のことか。よめたぜ、理由はわからんがこいつカズハに喧嘩を売ってはめられたな。

よし、こいつにあることないこと、吹き込んでカズハにけしかけよう。

こいつがカズハにボコボコにされようが、カズハがやられようが、両方に恨みがある俺からすればどっちに転んでも最高だ。

よーし、そうときまったら。

 

「アンタもあの女にはめられたのか。あの女はな....」

 

 

 

 

その後、あることないこと吹き込んだ上、留置所に入っていて街の危機にも駆けつけなかったゴミクズは、出所と同時に怒り狂った、とある少女のドロップキックを顔面に食らった。

 




ちょっと最近忙しい上GWも休めないので次遅れるかもしれません。
なんとか来週には投稿するつもりですが。
書きたいたいネタはあるのでそれを書き切るまでは絶対に書き続けますので今後もよろしくお願いいたします。

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