この鬼畜姫に祝福を!   作:パイン村

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GWに少し休みをもらえたので投稿。


第13話

「この俺自ら、相手してやろう!」

 

 ベルディアはそう宣言すると大剣を構えこちらにゆっくりと近づいてきます。

 

 ...どうしましょう、低レベルの私ではベルディアの相手なんて無理です。

めぐみんは魔力切れですし、アクアの魔法でも、クリスのダガーでも奴に致命打を与えることは...ここは逃げるのが得策でしょうか?

 私がそんなことを考えているとベルディアの行く手を武器を持った冒険者達が遮ります。

それを見たベルディアは立ち止まり両手に頭と剣を持ちながら愉快そうに肩をすくめます。

 

「...ほーう、俺の狙いはそこにいるふざけた連中なのだが...…。...…クク、聞くところによれば、俺には五億の懸賞金がかけられているらしいな。...一攫千金を狙う駆け出し冒険者達よ。さあ、かかってくるがいい!」

 

 そんな、ベルディアの煽り文句に冒険者たちは色めき立ちます。

 

「数はこっちが上なんだ、囲んでやっちまうぞ!」

「そうだ、一度にかかれば死角ができる、いくぞ!」

 

 そう言って彼らはベルディアの周りに散開し、包囲します。相手は魔王軍幹部、こんな単純な手で倒せるのでしょうか...?

 

「心配しなくても大丈夫だ!時間稼ぎさえできればいい、すぐにこの街の切り札が来る!」

 

 心配そうに彼らを見る私を気遣ったのか、近くにいた目つきの悪い冒険者がそんなことを言いました。...この街の切り札?そんなすごい冒険者が?

 

「ほう、そんな冒険者がいるのか。…だが、そいつが来るまで持ちこたえれるかな!」

 

 そう言って、ベルディアは自分の首を空中へと投げ飛ばしました。何か仕掛ける気だと思ったのか、冒険者達もそれに合わせベルディアに攻撃を仕掛けます。

その時、私は気づきます。ベルディアの空中にある首が真っすぐ地面を見ていることに。

 

「だめです!行っちゃだめ!」

 

 あれでは、こちらの動きが丸見えです!

私は叫びますが、時すでに遅くベルディアは全方位からの攻撃をすべてさけ、そして、それを仕掛けた者たちを瞬く間に切り捨てました。

 

「え」

 

 それは誰の声だったか、切り殺された冒険者のものだったかもしれませんし、それを見ていた私の声だったかもしれません。

そうです、この世界がどんなにゲームみたいでもここはまぎれもない現実。当たり前に人が死ぬ。

そんな本当に当たり前の現実を今更ながらに私は思い知らされました。

この前のチート野郎をゲーム感覚でこの世界を生きている馬鹿だと思っていましたが、私も人のこと言えませんね、これは....。

 

「さて、次は誰だ?」

 

 ベルディアは何事もなかったかのようにそうつぶやきます。無理です、こんなの絶対に勝ってこありません、ここはみんなを連れて早く逃げるしか...

 

「あ、あ、アンタなんてミツルギさんが来たら一撃で切られちゃうんだから!」

 

 冒険者の女の子がベルディアに向かってそんなことを言いました。

 

 え?...ミツルギって、この前の?

 

「そうだぜ、あの魔剣使いの兄ちゃんが来ればお前なんて一撃でお陀仏だぜ!」

 

 すいません、多分その人この街にもういません。だって私が行商人に魔剣売っちゃったから、それ追いかけてます。

 

「さて、では次は自称勇者に手合わせしてもらおうか?」

 

 ヤバいです、本気でヤバいです。

ベルディアがゆっくりとこっちに向かってくるの見えます。早く、早く、逃げないと!

 

「早く逃げましょう、カズハ!今の私とカズハではあれの相手は無理です!」

 

背中からめぐみんのそんな声が聞こえます、私だってそうしたいのですが...

 

「ごめんなさい、めぐみん。怖くて足が動きません....!」

「なっ!」

 

 だって私、本当にただの引きこもりの女子高生ですよ!こんな状況で冷静でいられるわけないじゃないですか!

そうこうしてるうちに目の前にベルディアが迫ります。...あっ、これ死にましたね。

そう思い、私は目を閉じます。そして、私に強い痛みが襲い.......ませんね?

私が疑問に思い目を開けると....

 

「ダクネス!」

 

 ダクネスがベルディアの大剣を自身の剣で受け止めていました。その姿はいつもの変態ではなく、人々と神の教えを守る聖騎士そのものでした。

 

「無茶です、ダクネス!さっき見てたでしょう、そいつは鎧を着てた冒険者を切り殺したんですよ!いくら、貴女が固いといっても...」

「案ずるな!私は、固さならだれにも負けない!それに防御スキルは防具に反映される。こんな奴の攻撃、屁でもない!」

「言ってくれる!だがどこまで耐えられるかな?」

 

 そう言うとベルディアは大剣にさらに力を籠めます。

 

「やっぱり無茶です!貴女、防御ができても攻撃が...」

 

 そうです、ダクネスは超がつくほどの不器用。とてもベルディアほどの手練れに攻撃を当てられるとは思えません。

しかし、私の言葉を聞いてもダクネスは一歩も引きません。

 

「...聖騎士として...。守ることを生業とするものとして譲れないものがある!」

 

 ああ、もう!あの子は本当に頑固ですね!とは言え、今の私には見守ることしか...。

 

「そ、その剛腕で見せしめとして、みだらな責め苦を受けるさまを皆の目の前でさらすつもりだろうが...やれるものならやってみろ!むしろやってみろ!」

 

 この子、こんな状況でも平常運転ですね!一瞬カッコいいとか思っちゃったじゃないですか!

 

「へ、変な妄想はよせ!俺が誤解されるわ!」

 

 誤解されるも何も、この街における貴方のイメージは変態騎士で確定です。

そうこうしてる内も膠着状態が続き、しびれを切らしたベルディアが後ろに大きく引き仕切り直そうとします。

ダクネスはそれを好機ととらえたのかベルディアに向かい駆け出します。それを見たベルディアも剣を持ち、待ち構えます。

 

「勝負だ!ベルディア!」

「聖騎士が相手とは是非もなし!」

 

 そして、ダクネスがベルディアへとその剣を......叩き込むことなく、ベルディアの近くにあった岩に叩き込みました。

......ダクネス。動いていない相手に外すなんて私、恥ずかしいです!この子、私の仲間なんですよ!

ダクネスもさすがに恥ずかしかったのか顔がほんのりと赤くなっています。しかし、当たらないのはいつものことだといわんばかりにすぐに岩から剣を引き抜き、仕切り直します。

しかし、それを見ていたベルディアは。

 

「何たる期待外れ!もうよい!」

 

そう吐き捨て、ダクネスに剣を一閃させました。

 

「さて、次の相手は......へ?」

 

ベルディアは確実に討ち取った手ごたえがあったのでしょう。しかし、その攻撃はダクネスに致命傷を与えることはなく、ダクネスの鎧に大きな傷を付けただけでした。

 

「ああっ、せっかく新調したのに!」

「なぜ、俺の攻撃を受けてその程度で済む!?さっきのアークプリーストといい、あの頭のおかしいアークウィザードといいなんなのだ、お前たち!?」

 

 ベルディアはよほど信じられないのかダクネスを繁々と見つめています。

よし、今のうちに...。私はようやく動くようになった足を動かすと、近くにいた、いつものモヒカンおじさんにめぐみんを預けると、大声で叫びました。

 

「魔法使いの皆さん、今です!」

 

 魔王軍幹部にわざわざ一対一なんてしてやる必要はありません。しかも相手は近接攻撃中心の騎士、遠距離からやれば一方的なんですよ!

私の声を聞いた魔法使いたちが次々に魔法を繰り出そうと、詠唱を唱えはじめます。

しかし、それを見ていたベルディアはすぐさま彼らに指をつきだし叫びます。

 

「無粋な真似を!お前ら、まとめて一週間後に死にさらせえええええ!...これ以上俺の邪魔をしないというのならその呪いはあとで解いてやろう。」

 

嫌らしい手を!しかし、効果は抜群です。おかげで、魔法使い達はすっかり士気を失ってます。自分の命を人質に取られていては仕方ないですが。

 

「さて、邪魔者は消えたな。では続きと行こうか!」

 

ベルディアは大剣を握りなおすと、すさまじい速さの斬撃を繰り出します!ダクネスの鎧に次々と刀傷が刻まれていきます。...いくらダクネスでもこのままでは!

 

「ダクネス、もう下がってください!本当に死んじゃいますよ!」

 

しかし、そんな私の声を聴いてもダクネスは一歩も下がりません。

 

「クルセイダーはっ!背に誰かを庇っている状況では下がれない!こればっかりは絶対にだ!」

 

カッコいいですけど、それで死んでたら意味ないでしょう!私が生き残っても貴女が死んだらそんなの...

 

「それにだ!」

 

うん?

 

「このデュラハンはやり手だぞっ!こやつ、先ほどから私の鎧を少しずつ削りとるのだ!全裸に剥くのではなく中途半端に一部だけ鎧を残し、私をこの公衆の面前で、裸より扇情的な姿にして辱めようと……っ!さあこい、魔王軍の辱めとやらはそんなものか!」

「え!」

 

 ダクネスのあまりの変態性にベルディアもおもわず後ずさりします。あの変態は本当に、本当にっ!

 

「時と場所くらい考えて下さい!この筋金入りのド変態!」

「くう....! カ、カズハこそ時と場合を考えろっ! 公衆の面前で魔物に痛めつけられているだけでも精一杯なのに、これでカズハまでもが罵倒したら....っ! お、お前とこのデュラハンは、一体二人がかりでこの私をどうするつもりだっ!」

「どうもしねえよ!」

「どうもしませんよ!」

 

 思わずベルディアとハモります。この変態は、本当にどんな時でもぶれませんね...でも、おかげで少し冷静になれました。私は手に魔力を籠めます。

 

「くらえ!『クリエイト・ウォーター』ッ!」

 

 その叫びとともにダクネスとベルディアの頭上に水が現れます。そして、その水は重力に従い二人の下に。

...とはいかず、ベルディアは慌てて水を避け、びしょぬれになったのはダクネスだけでした。

うん?なんであんなに慌てて?...まあ、いいです。ベルディアが濡れていなくてもその下の地面が濡れていれば十分!

 

「突然こんな仕打ちとは......。こういうのは嫌いじゃないが、時と場所を考えてくれ」

「貴女にやったんじゃないので反応しないでください、ド変態。「くっ...」だから、反応するなって言ってるでしょうがっ!ああ、もう、これはこうするんです!『フリーズ』ッ!」

 

 ベルディアの足元にあった水が瞬く間に凍りベルディアの足に張り付いていきます。

 

「ちぃ!ぬかったわ!」

 

 これは水を凍らせる初級魔法。こうして使えば足止めに使えるというわけです。そう、動きさえ止めてしまえば、先ほどのような悲劇も失敗もないんですよ!

 

「《スティール》ッ!」

 

 しかし、私の会心のこの策は失敗でした。なぜなら、私の手には何も現れることはなかったからです。なんで、なんですか!

 

「なかなかの策だったな。だが残念だったな、レベル差という奴だ。そうしたスキルの成功率はレベル差に応じて変動する。駆け出しにはいい勉強になったかな?」

 

...結構、今のは自信あったんですがね。やっぱり、私程度じゃここまでということですか。

見るとベルディアが足の氷を破壊しこちらに近づいてきます。

 

「カズハ!...私の仲間に手を出すな!」

 

 ダクネスが思いっきり体当たりをしベルディアは倒れこみます。

よし、チャンス!

 

「スティールを使える人は今すぐこいつにかけてください!武器か鎧でも奪えばこちらが有利です!」

 

 私の声を聞いたクリスをはじめとした盗賊たちが、次々にスティールをかけます。何人か成功しているようですが...

 

「だめだ、こいつ、スティール対策してるよ!」

 

 彼らがとったのは小銭が入った小さな袋。なるほど、取られてもいいものをあの鎧の中にでも大量に仕込んでるってわけですか。

もっと成功率上げられれば、武器まで届く可能性もあるんですが...!

ベルディアがようやく立ち上がり、再び剣をダクネスに向けます。いくらダクネスでもまた、あの猛攻を受けたら...。

 

 ああ、考えろ!頭をまわせ、佐藤和葉!

私には特殊能力もチートも秘められた才能も何もありません。あるのは運の良さといつか小説書くんだとか嘯いて集めた無駄知識とゲームで培った知識くらい。

だめです!何の役にも立ちそうにありません!

そもそも私はただのヒキオタの女子高生ですよ異世界に来たからってこんなのどうにかできるわけ...。

 

「ダクネス!カズハ、ダクネスが!」

 

 目の前ではダクネスが再びベルディアの猛攻を受け、それを見ためぐみんが悲痛な叫びをあげています。

...グダグダ言うのはあとです、今は思考をあいつを倒すことだけに集中させなさい!相手はアンデットのデュラハン。何か伝承やゲームで弱点は...。

その時、ベルディアの大剣が地面をかすめ先ほどの魔法でできた水たまりの水を跳ね飛ばします。

つめたっ!まったく、何てことをする.....水?なんであいつはさっき、あんなに大げさに水をよけたんです?

水...水は古来から、汚れを払うものとして使われてきました。神社の浄水なんていい例です。

海外でだって聖水を使って悪魔祓いを...そうです、最初に誰か言ってたじゃないですか、聖水を持って来いって。アンデットの弱点のド定番じゃないですか!

 

「なかなかに楽しめたぞ、クルセイダー!元騎士として貴公と手合わせできたこと、魔王様と邪神に感謝をささげよう。その礼だ、貴公の命で今回の狼藉は許してやろう。ではさらばだ、勇敢で愚かなクルセイダー!」

「『クリエイト・ウォーター』ッッッ!」

 

 今、まさにダクネスに斬りかかろうとしていたとしていたベルディアは、すぐに剣をおさめ私が生み出した水から逃げるようにうしろに飛び跳ねました。

間違いありません。こいつの弱点は...

 

「水ですっ!こいつ、水が弱点です!」

 

 私の叫びを聞いた魔法使いたちは先ほどまで失っていた士気を取り直し、すぐさま水を生み出していきます。

 

「『クリエイト・ウォーター』!『クリエイト・ウォーター』!『クリエイト・ウォーター』ッッッ!

「くぬっ!おおっ!貴様ら!」

 

 だめです!当たりません!ベルディアは次々に放たれる水を見事にすべてよけていました。どんな回避能力してるんですか、あのデュラハン!

このままでは、みんなの魔力が先につきます。

 

「ねえ、いったい何の騒ぎなの。みんなで水遊びなんてやってるの?馬鹿なの?」

 

 後ろで回復要員として待機していたアクアが話しかけてきます。よし、後で絶対制裁!

 

「遊んでません!アイツは水が弱点なんです!貴女、水をつかさどる元なんちゃらなんでしょう、水の一つくらい出せないんですか!」

「カズハ、いい加減しないと罰の一つでもあてるからね!私は、元でもなくなんちゃらでもなく現在進行形で水をつかさどる女神アクア様ですから!洪水クラスの水だって出せるんだから...」

「出せるんですね!?それなら早く出しなさい、この駄女神!」

 

 私は、アクアに服従のスキルで命じます。

 

「ちょっと駄女神ってなによ!ってまた、命令したわね!どうなっても知らないわよ!…この世に存在するわが眷属たちよ…」

 

 周辺に霧が漂い、アクアの周りに集まり始めます。あれ、アクアってほとんどの魔法を無詠唱で使えるはずですよね?

そのアクアが詠唱するってことはよほど強力な魔法を使うってことじゃ...

 

「水の女神アクアが命ず...」

 

 嫌な予感がします。しかもこの大気の震える感じ、めぐみんの爆裂魔法の時と同じ。そう気づいた私は本能的に急いでこの場から離れようと走り始めました。

見ると、同じように逃げようとするベルディアが、倒れていたダクネスに足をつかまれて動けずにいました。

 

「はなせ、この!やばい、これはやばい!」

 

 よし、ダクネス貴女の犠牲は忘れません!私は急ぎ走り、この場を離れましたが...

 

「『セイクリッド・クリエイト・ウォーター』ッ!」

 

 そのアクアの声とともに天から注がれた膨大な水の前には、この短時間でとれる距離では意味はなく、正門近くにいたすべてを飲み込んでいきます。

ああ、そういえば言ってましたね、洪水レベルの水も出せるって...。

私は薄れゆく意識の中そんなことを思いだしてました。

 

 

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 そして私は気が付くといつか見たあの何もない空間に...

 

「って!こんなアホな死に方でまた死んでたまりますかッ!」

 

 ...良かった、生きてます。また、アクアが爆笑必死の死に方を遂げるところでした...。

どうやら、周りを見ると皆、四方八方に流されていますが無事のようです。

みると、アクアの生み出した水によって正門が崩れ、街の中に大量の水が押し寄せたことが伺えます。...私達、魔王軍よりもこの街に被害与えてません?

よし、細かいことはあとで考えましょう!今はベルディアです。しばらく探すと、ぐったりした様子で何とか立ち上がろうとするベルディアを見つけます。

 

「お前ら、馬鹿なのか?いくらなんでも限度というものがあるだろう...俺を倒すためにここまでやる必要、絶対なかっただろう...」

 

 自分でやってなんですが、本当にそう思います。もっと考えて細かい条件を指定して命じるべきでした。でもそれだとアクアが命令を理解できない可能性が...。

 

「今がチャンスよ!私のおかげで弱ってるんだから早くなんとかなさい!」

 

 貴女はこの惨状を見て、よくそんなこと言えますね。いえ、私の責任でもあるんですが。

そんなことを思いながら私はベルディアに片手を突きつけます。

 

「今度こそ武器を盗ませてもらいますよ!」

「弱体化したとはいえ駆け出しのスティールがこの俺に通じると思うなよ!」

 

 ベルディアは強がりますが、ここまで弱体化すれば私でも何かしらは取れるはず。

唸れ私の幸運、伊達にネトゲでレア運だけはあるカズハさんとか呼ばれてる訳じゃないでしょう!

私は全魔力を片手に籠め、叫びます!

 

「《スティール》ッッ!」

 

 その瞬間ずしりとした重い感触が私の手に現れます。勝った!

思わず、そう思いました。しかし、目の前のベルディアの手にはしっかりと剣が握られたままです。

これは今度こそ絶対絶命...?

....うん、あれ?しかし、ベルディアはいつまでたっても動こうとしません、どうしたというのでしょうか?

というか、私は何を盗ったのでしょうか?

そんな疑問を解決しようと視線を下に向けると、私は()()()()()と目が合いました。

 

「や、やあ」

 

 そう、私の手にはベルディアの首が握られていました。

 

「あっ、あの、その...元の場所に戻してくれません?」

 

 ベルディアのそんな願いに私は何も答えず、ただ笑顔を返します。

そしてゆっくりと首を持ち上げ、被っていた兜を回転させます。

 

「ちょっ!やめろ!何も見えん!首だけでこれはかなり怖いんだが!」

 

 さてと、これで万が一にも体は動かせませんね。私はベルディアの首を地面に置き、そして、思いっきり蹴り上げます。

 

「ぎゃあああああああああああああ!怖い!怖い!怖い!いったい何が起こっているのだ!」

「今日はみんなにおもしろい遊びを教えてあげます!サッカーといいまして、ボールを足だけで蹴る遊びです!」

 

 蹴り上げられたベルディア改めサッカーボールは冒険者達の前に転がると次々に蹴られていきます。

 

「やめろおおお!マジでやめてください!痛い!どうなってるんだこれ、だれか助けてええええ!」

 

 ベルディアは魔王軍幹部にも関わらずもはや子供のように泣き叫んでました。

まあ、何も見えない状態であっちこっちで蹴り飛ばされ続けるって人類が体験したこともない拷問でしょうからね、そりゃあ泣き叫びたくもなるでしょうね。

 

「カズハ...あまりにも哀れだから早く浄化してやってやれ」

 

 ダクネスがベルディアに同情したのかそんなことを言います。

え、あと一時間くらいやって精神的に弱らせ、魔王軍の情報を洗いざらい吐かせるつもりだったんですが...。いえ、相手は魔王軍幹部、油断は大敵ですね。

 

「アクア、お願いします!」

「待ってました!『セイクリッド・ターンアンデッド』ッ!」

 

 その声に気づいたベルディアが叫びます。

 

「待て!せめてちゃんとした勝負で...ぎゃああああああああ!貴様ら、許さんぞ!この恨み必」

 

 そんな恨み言すら言い切れずベルディアはこの世から消え去りました。

結局に何しに来たんでしょうね、このデュラハン?

 

 ベルディアが倒されたことによって冒険者たちはみな勝利に沸き返っています。

アクアはベルディアに切られた犠牲者たちを何やらぺちぺち触っていますが。

まさか、仏さまにいたずらしてるんじゃないでしょうね、あの子?

 

「あっ!ごめん、弟子ちゃん、ダクネス!私、急用が、今日はこれで!」

 

 なぜか、突然クリスがそんなことを言い出しあっという間にどこかに消えました。

せわしない子ですね、今日のお詫びくらいしたかったのですが。

 

「エリス!聞こえてるんでしょう!早くしなさい!先輩の言うことが聞けないの!」

 

 あの駄女神は一人で何を言っているんでしょうか、ついに頭おかしくなったんですかね。

私がアクアを憐憫の目で見ていると、ダクネスがベルディアが消えた場所で片膝をつき、両手を合わせ祈りを捧げ始めました。

 

「ダクネス、何をしているのです。」

 

 モヒカンおじさんから回収しためぐみんが私の背中からそんなことを聞きました。

 

「あのデュラハンに祈りささげている...。デュラハンは不条理な処刑で首を斬られた騎士がその恨みによってモンスター化したものだ。モンスターになりたくてなったわけではない、少しでも死後に安らぎを得られるようにな」

 

 同じ騎士同士、通じ合うものがあったのでしょうか?処刑理由は私が、聞いた限り自業自得だと思いますが。

 

「そうですか」

「それだけではない。あのものに切られたものたち...。私のことを鎧の下はガチムチなんだぜと大嘘を流してくれたセドル。おいダクネス、団扇代わりにその大剣で扇いでくれ! なんなら当ててもいいけど、当たるんならな! と、バカ笑いして私をからかったヘインズ。そして....。一日だけとはいえ、パーティを組み....。何でアンタはモンスターの群れに突っ込んでくんだと泣き叫んでいたガリル。今思えば、ロクでもない連中ながらも、私は連中をそれほど嫌ってはいなかったらしい....」

 

 そんな、ダクネスの言葉を聞きながら私は彼女の背後に迫る三つの影を見て何とも言えない気持ちになります。

 

「え、えっと....そうですか。ダクネス、話は後で聞いてあげますから早く街に戻りましょう。」

 

 あっ、めぐみんも気づきましたね。面白そう....じゃなかった、感動の再会のためにもここは黙っておきましょう。

 

「....あいつらに、もう一度会えるなら....。一度くらい、一緒に酒でも飲みたかったな....。」

 

 ダクネスは優しく呟きます。....だめですっ、今笑ったら、ダクネスに...。

そんな必死に笑いをこらえる私とダクネスに三つの影が声をかけます。

 

「「「お........おう...」」」

 

 そう、それは斬られたはずの三人でした。どうやらアクアはあの三人に蘇生魔法かけていたようでそれでついさっき彼らはよみがえったらしいです。

 

「そ、その........。わ、悪かったな色々と。お前さんが俺達に、そんな風に.......」

「あ........ああ。その、悪かったよ、腕相撲に負けたぐらいで変な噂立てちまって........。こ、今度奢るからよ........」

「剣が当たらない事、実は結構気にしてたのか? その、わ、悪かったな.......」

 

 その声を聞いたダクネスはすべてを察したようでダクネスは小さく震えだし、顔を赤くしていきます。

 

「私くらいになれば死にたてホヤホヤの死体なんてちょちょいと蘇生よ! 良かったね、これで一緒にお酒飲めるじゃない!」

 

 アクアは全く悪気はないんでしょうね、ただタイミングが悪かっただけで。

ダクネスは涙目になった赤い顔を両手で隠すと座り込んでしまいました。

私はそんなダクネスを元気づけるために明るく話しかけます。

 

「良かったじゃないかですか、みんなとまた会えて。ほら、飲みに行っ...プっ、やっぱ無理です、アハハハッハッ、げほっ、エホッ」

 

 私はそのダクネスの姿に、もう我慢ができず笑い転げむせます。

 

「...死にたい...」

「フフッ...カズハ、そんなに笑ってはかわいそうですよ。...プッ」

 

 そう言っているめぐみん、貴女も笑いがこらえられていませんからね。

私は立ち上がるとダクネスのそばに寄り彼女を喜ばせようとこう言いました。

 

「ダクネス、貴女は常日頃から攻められたがっていましたね。遠慮はいりません、これから三日間ぐらいはこの話で貴女をいじりますから」

「こ、こ、この羞恥責めは、私の望む羞恥責めと違うかりゃ...っ!」

 

 ダクネスは顔を真っ赤にして叫びます。私、はじめてダクネスに勝った気がします!

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 そんなこんなでベルディア討伐の翌日。

私はギルドに行く道すがらこれからの生活について考えていました。

一応、私は魔王討伐のため送り込まれたわけですが、はっきり言って最弱職の上、一般人の私にはベルディアみたいのを何体も相手していられません。今回の戦いでその事が身に染みてよくわかりました。

勇者とかそんな名誉や名声も、今回の魔王軍幹部討伐の功労者で十分。私は今回の報酬を元手に商売でも初めて安全で安定した暮らしを送るんです。

世界なんてきっとチート持ちのお人好しがそのうち救ってくれます。

 

 そんなことを考え、やっと着いたギルドの扉を開けます。

どうやら中では魔王軍幹部討伐の酒宴が開かれているようで熱気と酒の匂いですごいことになってました。

まったく昼間だというのに。冒険者らしいといえばらしいですが。

 

「待っていましたよカズハ」

「遅かったな、待ちくたびれてしまったぞ」

「遅かったわねぇ~。ウハハハ~!」

 

 私を見つけるとめぐみん、ダクネス、アクアが駆け寄ってきます。この女神、完全に出来上がってますね、酒臭いです。

どうやらすでに、ベルディア討伐の報酬は冒険者達分割して渡されているようで皆、その金で豪遊しているみたいですね。

 

「私たちの分はもう受け取ったんです?」

「いや、それがだな」

 

 ダクネスが説明しようとしたその時、受付のルナさんが現れます...

 

「お待ちしていました。サトウカズハさん、あなた達のパーティーには特別報酬が出ております」

「え、私たちにですか?」

 

 つい、そんな疑問が口を出ます。今回なんて本当、私運が良かっただけで大したことしてませんよ。

 

「ふっ、自分を過小評価するもんじゃねーぜ。魔王軍幹部を倒せたのは嬢ちゃんのおかげだ。まあ、俺は嬢ちゃんを最初に見た時からアンタの可能性という獣を信じていたがな」

 

 あなたはモヒカンおじさん!その彼の言葉の後から、次々に冒険者達が賛辞を私たちに送ります。

 

「お前らがいなければデュラハンなんて倒せっこなかったさ」

「カズハこそ今回のMVP、いや、この街の勇者様だよ」

 

 そして、酒場中から勇者コールが巻き起こります。さすがに勇者は恥ずかしいからやめてほしいんですが...。でもこういうのも、悪くないですね......。

 

「あっ、カズハが照れてるわよ、もう可愛いんだからぁ」

「アクア、もうからかわないでください!あと酒臭いです!」

「おっほん!」

 

 ルナさんのわざとらしい咳払いを聞き姿勢を正します。おっと、まだ話の途中でしたね。

 

「えー、ではサトウカズハさんのパーティーには、魔王軍幹部ベルディアを見事討ち取った功績を讃え、ここに金三億エリスを与えます」

 

 三億ってベルディアの懸賞金六割じゃないですか。本当にこれだけもらっても?

 

「三億ってなんだよ!」

「おごってくれよ、アクセルの勇者様!」

「奢れ、奢れ!」

 

冒険者達から次々の奢れコールが沸き起こります。しかし、そんなの今はどうでもいいです!

 

「ハイ、みんな集合!」

「何?分け前の話?それならこの功労者であるアクア様が9ってことで」

 

 アクアがアホなこと言っていますが今は無視です。

 

「皆に言っておきますが私は大金が手に入ったのでのんびりと安全に暮らします。気が向いたら冒険するかもしれませんのでその時はよろしく」

「おい、待て!」「待ちません!」

「強敵と戦えなくなるのは困るぞ!」

「私は困りません!」

「私も困ります、カズハとともに旅をし、魔王を倒し最強魔法使いの称号を得るんですから!」

「そうですか、じゃあほかの皆と頑張ってください」

 

めぐみんはそう言われると少ししょんぼりし、テーブルに盛られていた料理をがむしゃらに食べ始めます。そして最後に残ったアクアはというと。

 

「あんたがそんなんじゃ、私が帰れないじゃないヒキニート!」

自分の帰還計画がおじゃんになった怒りを露らにしてこちらに掴みかかってきます。

 

「何ですかこの駄女神!」

 

 私も負けじとやり返し掴み合いの喧嘩へと突入します。

 

「いつかあなたとは決着をつけねばと思っていたんです!」

「こっちもよ、いい度胸ね!相手したげるわ!」

「あのー、まだ話の途中なんですが...」

「「はい、すいません」」

 

 ルナさんから怒りのオーラが見えたので私たちはすぐに拳をおさめ正座します。

 

「いえ、そこまでする必要は...。というか、本当にこちらが悪者みたいになりますし...」

 

 何を言っているんでしょうかルナさんは?そう疑問に思っているとルナさんは私に一枚の紙を渡してきます。

なんか0がいっぱい並んでますね。この世界の小切手でしょうか?えーと、何々、損害賠償請求?...え?

 

「ええっと、ですね....実は、アクアさんの召喚した大量の水により、外壁や街の入り口付近の家に大きな被害が出ておりまして....まあ。魔王軍幹部を倒した功績もありますし、全額弁償とは言わないから、一部だけでも払ってくれ.......と....」

 

 ルナさんはそう言うとさっと姿を消します。私はあまりの現実に膝から崩れ落ちます。

逃げようとしていた駄女神はしっかりと手を握って捕まえていましたが。

それを聞いていたらしいダクネスが私の肩をポンと叩きます。

 

「報酬三億……そして、弁償金額が三億四千万か。明日は金になる強敵相手のクエストに行こう」

 

 そして、こちらも話を聞いていたらしいめぐみんしっかりその手に料理を握りながら私の方に向きなおります。

 

「血で血を洗う魔道の旅は、始まったばかりですね」

 

 ははは、二人ともいい笑顔してやがります。

こんなどうしようもない仲間たちと、このろくでもない世界で、一生暮らす?

......魔王を倒しましょう。そして、一刻も早くこの世界から脱出するんです!

 




ひとまず、一巻終了。
次回はオリジナル短編の予定。
また、二巻から独自要素が増える予定なのでご了承ください。
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