報告してくれる皆さんには感謝しかありません。
誤字脱字を完璧にチェックしてくれて創作の相談に乗ってくれる編集AIが欲しい...
冬の昼下がり、屋敷の暖炉の前で私は読書を楽しんでいました。まさにこの屋敷の主人にふさわしい優雅と気品にあふれた時間です。
豊かで平穏な生活というのはこういうものなのでしょうか。
私はチリンと手元にあったベルを鳴らしてメイドのベルを呼びます。
「お茶をお願いできる、ベル?」
私は彼女に優しく微笑みかけます。
「かしこまりました、主様....けっ!」
怨嗟のこもった目付きで唾を吐き捨てると彼女は厨房の方へと消えていきました。
「....」
今、メイドにあるまじき振る舞いをみた気をするが気のせいでしょう。もし、そうであっても私は彼女の主人。
寛大な心をもって接しなければいけません。そうこうしているうちに厨房から戻ってきたベルがティーポットとティーカップを私の目の前におきます。
そして、そのままカップにお茶を注ぎます。よいお茶はまずは香りを楽しみ、それから飲むのが作法というものです。
私は大きく息を吸い茶の香りを取り込むとそれを味わいそしてカップの茶を口内へと....
「あの、ベル?これ普通の麦茶なんですけど。普通、こういう御屋敷でお茶っていったら紅茶でしょう」
「そんなこと知らんわ。大体、この屋敷に紅茶なんて洒落たものないだろう。あと、さっきからやってるお嬢様ごっこ、はたから見てると痛々しいだけだからな」
「........」
私は手元にあったティーカップを机におく....「あっ、手がすべったああああ!」ふりをして中身のお茶がかかるようにベルの方へと落とします。
しかし、ベルはそれを華麗によけ、それどころか空中のカップを目にも留まらぬ速さで受け止め飛び散った麦茶さえも床に落とすことなくカップの中にもどしました。
「お気を付けください主様。...フッ」
こいつ私を鼻で笑いました! クソッ、悔しいですがこれ以上やっても私が恥をかくだけな気がしますし止めましょう。なんでこうなったのでしょうか...。
色々あって、我々の新パーティーメンバー兼屋敷のメイドになった元魔王軍幹部のベルディアことメイドのベルは予想に反して優秀でした。ええ、超をつけたいほどに。
掃除を任せればチリ一つ残さず、料理を任せれば少ない予算と食材で工夫を凝らした絶品料理を作り出し、ほかの家事も完璧にこなしました。
私を含めパーティーの皆が女子としての自信を失いそうになったほどに。
いえ、私は現代日本人ですし、家事は女子の仕事という前時代的、封建的考えは持っていませんので悔しくなんてないですけどね!
なぜここまで、使用人として能力が高いか本人に聞いてみたところ、「生前は近衛騎士団の団長を務めていたからな」とのことでした。
近衛は王族の護衛としての役割と同時に近侍として役割も担っているらしく、使用人としての技術は一級品らしいです、あくまで本人談ですか。
「おい、主よ。俺は出掛けたいのだがいいか?」
「仕事は....あなたが終わらせずにそういうこというわけありませんね」
「もちろんだ。洗濯、掃除はもちろん晩御飯の準備もある程度終えている。元魔王軍幹部をなめるな」
魔王軍幹部であることと家事をこなすことにどういう相関関係があるかわかりませんが、きちんとと仕事をこなしている以上外出を止める理由はありません。
仕方なく私はベルの言葉に頷きます。
「はいはい、あまり遅くならないでくださいね、ベル」
「子供扱いするな! あと俺の名はベルディアだと言っているだろう!」
そうやって憤慨する姿は子供以外の何者でもないのですが。
「まだ、言ってるんですか? さっきはベルって呼んだら普通にきたじゃないですか」
「仕事中だったからあえて言わなかっただけだ。大体、あくまで俺は貴様を仮の主としか認めていないからな。
いつかの日かこの服従の呪いを解き男の体を手にいれ、貴様らに復讐してやる。それまでは貴様に仕えてやるがな」
ベルは邪悪に笑いますが、その容姿のせいでどうやっても可愛らしくみえ、迫力に欠けます。
「せいぜい頑張って下さい。というか、デュラハンに戻るとは言わないんですね」
「誰が好き好んで生きる屍に戻るか。これでも俺は生き返らせてもらったことは感謝している。だから、貴様らの世話をしてやってるのはその礼だ。
その辺よく理解しておけよ、決して拷問云々にびびったわけではない!それでは俺は出掛ける。あと、腹がへったら厨房におやつがあるからそれを食べるがいい」
そういってベルは出掛けていきました。それにしても、あいつなにしに出掛けてるのでしょうか?魔王軍と接触したりしているわけではないようですが。
そんな私とベルを尻目に広間の中央ではめぐみんとダクネスがチェスのようなボードゲームに興じていました。
「フフ、我が軍勢の力をみるがいいです。このマスにソードマスターをテレポート」
「めぐみん、テレポートの使い方がいやらしいぞ。....だが甘いな、このクルセイダーで王手だ!」
なかなか白熱しているようで一進一退の攻防が続くなか、ついにダクネスが王手をきめたようです。
「テレポート」
そういってめぐみんは王様らしき駒を盤外に出しました。
「しまったその手があったか!」
......私、基本ゲームならアナログでもデジタルでも大好きですがあのゲームだけは絶対にやらないことに今決めました。
私は理解不能な光景を一刻も早く忘れるため再び本に眼をやろうとすると大広間に誰か入ってきます。
見ると寝巻き姿のアクアです。髪がぼさぼさなのを見ると寝起きのようですね。どうやら、真っ昼間まで寝ていたようです。
「おはよー、カズハ。おなかったへったんだけどなにかない?」
「おはようです、アクア。厨房にベルが作ったお菓子があるそうですからそれどうぞ」
「わかったわ。....ってベルは?」
アクアがベルがいないことに首をかしげます。
「あいつなら出掛けましたよ、なにか用事でもありましたか?」
「いや、なにもないけど。ねえ、カズハ?あの幼女、好きにさせといていいの?出掛けてる先でどんな悪巧みしてるかわかったもんじゃないわよ」
アクアが言わんとすることは十分にわかります。あれでも、元魔王軍幹部。あいつがさっきいったようにいつ逆襲をするかわかったものではないですが....
「まあ、もしものことがあってもあの体の限り私には逆らえませんし、魔王軍と接触したところであの体じゃ信じてもらえませんよ」
「それもそうね。心配して損しちゃった。それよりもカズハ。寒いからどいてくれない、私暖まりたいのだけど」
「あとから来て、暖炉の占有権を主張するとか、何様ですか、嫌ですよ」
「もちろん、女神様よ!わかったらその場所を私に寄進するのよ!さもないと天罰が下るわよ!トイレの水が流れないとか!」
これで譲ってもらえる、譲るのが当たり前と本気で思ってる辺りがこの子のすごいところだと思います。全く、見習いたくないすごさですが。
「ここがほしくば私を倒すことですね。大体、私はこう見えても貴女とちがってちゃんと借金返済のために商売をはじめるための勉強をしているんです」
今もって、私達の借金は返済できていません。この地獄から抜け出すためには商売をはじめて一攫千金を狙うしかありません。この読書はそのための第一歩というわけです。
「でも、カズハがさっきから読んでるの転生者が書いたパクリ漫画じゃない」
「....漫画から素晴らしいインスピレーションを得ようとしているんです」
「嘘よね、絶対嘘よね。いいわ、そこまでいうのなら相手してあげる。でもいいのかしらこの私は数々の闘いを乗り越えレベルも上がったわ。
みなさいこのレベルをあんたとは比べ物にならないでしょ?さあ降参するなら今のうちよ!」
そういってアクアは自分の冒険者カードをつきだしてきます。うっ、レベル21ですと。私たちのパーティーの中では最高の数値ではないですか。
考えてみればベルディアに止めをさし、ダンジョンでのアンデッド退治にリッチー浄化、ついでにこの前の浄化と、アクアは私たちのなかでは最もモンスターの討伐数が多いのでした。
このレベル差だと知略をつくしても力業で負ける可能性が....あれ?私はアクアの冒険者カードをみてあることに気づきます。
「....あの、アクア?貴女のステータス最初にみたときと変わってない気がするのですが?」
「そうりゃあそうよ!私を誰だと思っているの?ステータスはすべて最初からカンストしているわ!
スキルポイントだって宴会スキル全て習得した上でアークプリーストの全スキルを習得できるだけの量を最初から保有。そこらの冒険者とは格がちがうのよ!格が!」
私はその言葉を聞いて驚愕し、思わず崩れ落ちます。
「どうやら、格の違いを思い知ったようね!そう、それでいいのよ!ようやくカズハも私の偉大さがわかってきたようね!」
アクアが勝ち誇ったようにそんなことをいっていますが、もはやそんなことはどうでいいのです。
ステータスが全てカンストしているということはこの子はもうなにをどうしようと知力は一切上がらないのです。この子を産み出した神様はなんと残酷なんでしょうか。
「急に黙って、どうしたのカズハ?....何で泣いているの?」
私は、アクアに冒険者カードを返すと暖炉を譲り、ソファーにかけてあった毛布でくるんであげます。
「本当にどうしたのカズハ!?何でそんな優しいの!?というかなんで全てを諦めたような顔をしてるの?」
もはや、とても読書という気分ではありません。ギルドでいいクエストでもないか捜してきますか。
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「これもう一杯ください!」
ギルドにいく私はいつの間にかアルコール飲料に手をだしていました。違うんです、働かずにのむお酒が美味しすぎるのが悪いんです。
こんなに美味しいのに我慢できる訳じゃないですか。それに寒いですし。未成年で酒に手をだしたと日本の両親に知られたら説教ではすまないですが、ここは異世界。
なんと、お酒に年齢制限がありません。その代わり何があっても自己責任です。まあ、元いた世界でも私の年齢なら飲酒できる国もありますが。
そんなことを考えていると不可思議な組み合わせ酒場がいることに気づきます。
「....あれ?ダストとキースですよね。何であの二人とベルが?」
全く、接点も共通点も見いだせない組み合わせです。しかし、三人は親しげに話し、笑いあっています。
何です、あれ凄く気になるのですが。私がこっそりと近づくこうとしますが三人はあっという間にどこかに消えてしまいます。
本当になんなんでしょうか、臨時パーティーという風ではないですね。三人とも鎧どころか武器一つ持っていませんでしたし。
そこはかとなく犯罪臭がする組み合わせでしたが....さすがこの街の最底辺のゴミクズとはいえ、 幼女に手は出さないですよね。キースもいましたし。
....一応、後で警察に報告しておきましょう。たとえ、勘違いでもあのゴミクズなら問題ないでしょう。
変なものみたせいで飲む気分じゃなくなりました。しょうがないですから大人しく働くとしましょうか、そう思いクエスト掲示板をみます。
「簡単なクエストも日雇いの募集もないですねえ~」
私が肩を落とすと一つの依頼書が目につきます。それはまるで他の依頼書に隠されるようにはってあり、私の興味を引きました。
「えっと。町に潜むサキュバスを退治してください?」
報酬は三十万エリス、なかなかの高額です。サキュバスは人間の精気を吸う下級悪魔です。
本来はダンジョン攻略中のパーティーの寝込みや野営している人間を狙う雑魚モンスターです。プリーストさえいればそこまでてこずる相手ではありません。
ですからこの手クエストでは破格の報酬といえます。しかし....
「いくらなんでも、街中にサキュバスがいるわけありませんよね」
そうです、下級とはいえ、悪魔、そうそうこの街の警備を突破できるとは思えません。
魔王軍幹部であるお姉ちゃんがお店を出しているような町ですが、お姉ちゃんはそもそも冒険者として信頼もあったからこそ。そこらの悪魔がこの街に侵入できるとは思えません。
...とはいえ三十万エリスは引かれます。私は金に眼がくらみ、ついその依頼書を手に取ります。するとべちゃっとなにか液体のようなものが手につきます。
見るとそれは赤黒い液体でした。....私は嫌な予感がしながらも液体が付着しているであろう依頼書の裏をみます。
そこには....
あの人を返して、あの人を返して、あの人を返して、あの人を返して、あの人を返して、あの人を返して、あの人を返して、あの人を返して、あの人を返して、あの人を返して、あの人を返して、あの人を返して、あの人を返して、あの人を返して、あの人を返して、あの人を返して、あの人を返して、あの人を返して、あの人を返して、あの人を返して、あの人を返して
ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない
それは赤黒い液体で紙一杯にかかれた憎悪の文字でした。
「うわあああああああああ!!」
私は恐怖で依頼書を投げすて、叫びます! ふざけんなです、何でこんなもんそのまま張ってるんですか!
「サトウさん、どうかしましたか?そんな大声をあげて....ああ、これですか」
ルナさんが私の声を聞き付けようで受付から、急いで向かって来ました。反応をみるにこの依頼のことを知っているようですね。
「なんなんです、これ。内容もそうですけどこの裏面、依頼者とそのまま放置しているギルドの正気を疑うんですが」
「ははは....。面目ありませんね。実はこの依頼、ある貴族の方からでして....その方の妄想と断定するわけにもいかず、依頼書もそのままにというのが上からのお達しでして」
ルナさんは苦笑いしながら話を続けます。つまるところ上の人たちが貴族と揉めたくないからこのままにしていると。だから、こんな隠されるように張っていたんですね。
「あの、良ければその依頼受けませんか?失敗しても違約金は発生しませんし、ね?」
ルナさんの顔からは厄介ごとをさっさと誰かに押し付けたいという本音がありありとみえます。
「....まあ、どうせ暇ですし、いいですよ」
「本当ですか!?助かります、この依頼書のせいで苦情が殺到していたんです」
ルナさんの表情がパアッと明るくなります。よほど困っていたんですね....。
「そもそも、こんなアホな依頼出したのどこの誰さんなんです?」
「サトウさんも知っている方ですよ。以前、アクアさんに告戒をしたあの方です」
...あの人ですか。今更ながら安請け合いしたことを後悔します。というか、あの方がこうした行動にでるということは自然、あの男が関わっているということになります。
「あの、サトウさん?どうしました、苦虫を噛み潰したようなお顔をされてますけど....。本当に嫌でしたら今からで断っても構いませんが....」
「いえいえ、何でもないですよ。街の安全を守るのは冒険者の責務です。万が一ということがあるかもしれませんからね。喜んで受けさせてもらいますよ」
ゴミクズとはいえ、冒険者。さすがに街にサキュバスを侵入させるなんて考えられません。
どうせ何かの勘違いでしょうし、上手くやってあの貴族からお金をせしめることにしましょう。
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という訳で私は冬の街を一人寂しく歩いているわけですが、誰もいませんね。そりゃ、誰も好き好んでこの寒いなか出歩きませんからね。お陰ですぐに目的の集団を見つけられましたが。
「なんですか、あの怪しさ満点集団....」
潜伏スキル持ちの私には意味ありませんが、あいつらなんであんな警戒しているんでしょうか?まさか、本当にサキュバスを手引きしているのでは?いえ、さすがにそれは....。
そうこうしているうちに三人は周りに誰もいないと納得したのか店にはいろうとします。そして、店の店員らしき人が出てきます。
店員は髪の長い女性で頭に角があり背中には蝙蝠のような羽、拘束具のような露出度の高い革製の服――いわゆるボンデージですね――をつけています。
...うん、どこからどうみても、まごうことなきサキュバスです。エロいです。....どうしよう、とんでもない犯罪現場をみてしまった気がします。
まさか、あいつらベルと組んで本当に魔王軍の手引きを....?ベルを安全と見なしてパーティーに率いれたのは私です。
もし、それが街を危機に陥れているとするのならその責は私が負わなければ行けません。私は髪をあげ屋敷から持ってきた帽子を深くかぶります。
そして、この前眼鏡つけたら知的に見えるかなと思って買った伊達眼鏡を着けます。そして近くの窓で写った私を見ます。
まあ、中性的な少年に見えなくもありません。髪も伸ばしてないですし、服は基本的にズボンですから。それにそこまで胸もないですし....自分で言って悲しくなってきます。
そもそも冬なので厚着ですし、体型で気づかれることはないでしょう。これですぐ奴等に私とばれることなく店の中に入れるはずです。
本当ならアクアを呼んできたいところですが事は一刻を争います。それにサキュバス程度の下級悪魔であれば私でもなんとかできるはずですしね。
そして、私は意気揚々とその店に向かいます。喫茶
きっと店の中ではサバトのような狂乱が繰り広げられている違いありません。私は慎重に扉を開けるとそこはごくごく普通の喫茶店でした。
おかしなところといえば店員のサキュバス達が淫靡な格好をしていることと、客らしき人々が一心不乱に紙へなにかを書いていることだけです。
「あれ?」
私は拍子抜けし、首をかしげます。店に入ってきた私にサキュバス達は一礼し、そのうちの一人がこちらに近づいてきます。
「あのう、お客様。ご紹介か、お連れ様は?基本このお店は男性向けでして女性のお客様は紹介がなければご案内できないことになっておりまして」
...早速ばれてますね。いえ、ここはごり押しでいきましょう。
「私、中性的に見えますがれっきとしたとした男でして」
「あのう、分かりますから、私達、職業柄、男女の区別は大体みたら分かりますから」
ふっ、私の魅力は男装位では隠しきれなかったようですね。
「正直、男性にしかみえませんでしたけど、なんというか不思議能力でわかるんですから、って!なんで胸引っ張るんですか!?いたいです!?
やめてください!?と言うかなんで泣いてるんです!?」
「うるさいです!人のナイーブのところに触れるからです、この腐れ巨乳!大体不思議能力って淫魔としての能力でしょうが!」
サキュバス店員は私の言葉を聞き青ざめます。
「ば、ばれてしまいました!大変です!女性冒険者がカチコミに!」
「人聞きの悪いこというなです!」
というかその恰好でバレてないと思ってたんですか。私は助けを求めるサキュバスの声を聞きつつけた他のサキュバス達と冒険者に囲まれます。
「なんだ?なんだ!?この天国が街の悪魔達にばれたのか!?」
「ヤバイ、かみさんに殺される!」
「もう死ぬしかない...」
冒険者達の悲痛なこえやサキュバス達の怯えで店内は騒然とします。というか、何か私が悪いことしてるみたいなんですけど。
「おちつくのですぅ。お客様の前ですよぉ」
店内に甘ったるい声が響くとサキュバス達が一斉に静まります。みるとそこにはタキシードを着た女性....ではないですね。
外見こそ人ですがその頭に生えたヤギの角、背中の羽は女性が悪魔であることを物語っていました。
しかも、最弱職である私にもわかるくらい凄まじい圧を持っています。絶対にサキュバスのような下級悪魔ではありません。
「すみませぇん。私の教育が行き届いておりませんでぇ、ご不快な思いをされたでしょうぉ?つまらないものですがぁ、こちらをどうぞぉ」
そう言って喫茶白昼夢一回無料券と書かれた紙を渡してきます。何が無料になるかは書いてありません。なんか怖いんですが。
「え、えっと?ありがとうございます?でいいんですかね。...とにかく、私は冒険者をやっている佐藤和葉といいまして、...ここには何というか調査できたといいますか」
私はこの状況で何を言っていいのかわからず慎重に言葉を紡ぎます。しかし、悪魔らしき女性―年はウィズお姉ちゃんと同じくらいでしょうか―は微笑を返すだけです。
やはり、淫魔の一種なのか体形はムッチリとしており淫靡というかエロいというか、ダクネスを超える体つきです。
その癖、黒髪ロングで清楚さを感じさせる顔つきという何とも矛盾した要素がなぜか完璧に一つの体に整合性のとれた形で収まっていました。
「おっと、失礼しましたぁ。おいしそうな悪感...いえ、かわいらしいお嬢さんでしたのでぇ、見とれてしまいましたぁ。
申し遅れましたがぁ、私この店のオーナーをしておりますぅ、ムゥといいますぅ、以後お見知りおきをぉ」
そう言って彼女は妖艶としか形容できない笑みを浮かべました。
「そ、そうですか。では私はこれで」
身の危険を感じた私は店の外に逃げようとしましたが、ムゥに回り込まれてしまいます。
「おやぁ、どうしたんですぅ?そんなに青ざめてぇ?大丈夫ですよぉ?なにもしませんからぁ。恐らく誰かの依頼で街のサキュバスを退治されにきたんですよねぇ?」
やばいです、目的まで割れています。サキュバスだけと舐めて一人できたのが間違いでした。助けてアクア!
「本当に怖がらなくていいんですってばぁ。ただぁ、少しお話を聞いていただきたいんですよぉ?勘違いされてるかもしれませんがぁ、私達は人に危害を加える気はいっさいありませぇん。ましてやぁ、魔王軍の手先でもありませぇん」
「じゃあ、このお店は一体...?」
「ソープランドですぅ」
「は?」
今、何といいましたこの悪魔?
「昔ぃ、あなたと同郷らしき方に聞いた単語なんですがぁ、分かりにくかったですかぁ?風俗と言い換えた方がぁ、それとも売春宿とかぁ...」
「言い方の問題じゃないです!いや、サキュバスなんだからそういう店だというのは分かります。でもこの店何もないじゃないですか。
というか、この街は風俗や売春は人間だろうと魔物だろうと違法ですよ」
「問題ありませぇん、私達はここではなにもしませぇん。あなたも冒険者であるのならぁ知っていますよねぇ、サキュバスの能力をぉ?」
ま、まさか。サキュバス、人間の精気を吸う悪魔ですが、それは直接やって吸うわけではありません。相手にエロい夢を見せそれによって生じた精気をすうのです。
「お気づきのようですねぇ。そうですぅ。私達は冒険者の皆様に夢を見せることで精気とお金をいただくというぅ、共存共栄の関係を築いているのですぅ」
ムゥは身振りも加えながら説明します。なぜか店にいた男性客たちそれに合わせて拍手や歓声を送ります。大丈夫ですか、こいつ等。
「この街に多くいる冒険者の皆様はその多くが馬小屋暮らし。壁も薄く、周りに聞かれていると思うと何することもできません」
まあ、そうですね、私もまあ...一人でそういうことをしたときは...声を出さないよう苦労しましたし...。
「ご経験がおありのようですねぇ」
「ないです!」
私は強い声で否定します。なんでこんな人前でそんなこと聞かれなきゃいけないんです。こういうのはダクネスの役でしょう!ムゥはくすくすと笑いながら続きを話し始めます。
「ふふっ、真っ赤になって面白いですねぇ。でぇ、馬小屋で何もできない冒険者達がたまった性欲を仲間に向けようものなら周りの冒険者やその方にズタボロにされることでしょぉう?」
私なら間違いなく股間蹴り上げて、隠し持ってるダガーで汚いあれぐらいはちょん切りますね。多分この街の女性冒険者は大体そのくらいことはするでしょう。
「かといってこの街ではおっしゃられたとおりぃ、風俗は禁止ですぅ。そこで私たちはお金と精気を代価に皆様にお好きな夢を提供しているのですぅ。
夢の内容はこの用紙に描いていただきどのような内容でも叶えさせていただきますぅ。
美少女ハーレムでもぉ、あこがれのあの子ともぉ、はたまた想像上の人物でもぉ、どんなお相手でも可能ですぅ。
しかもシチュエーションも思うがままぁ、どうですぅ良いサービスでしょぉう?」
「最高!」
「この街に来てよかった!」
「俺はもうこの街で永遠に暮らすんだ」
「誰であろうとこの店はつぶさせない!」
ムゥの言葉に冒険者たちが続きます。こいつらどうしようもないですね。まあ、たしかに興味がそそられるサービスではありますが。
よく見ると中には不審者三人衆もいます。涙ながらに拳を振り上げてます。
「なにしてるんですか...」
私はあきれ果てますが、その様子を見て三人がこちらに喰いかかってきます。
「うるせえ!この店をつぶすんっていうならお前だって容赦はしねえぞ!」
「そうだ、そうだ!ここはこの街の男性冒険者、最後の希望なんだ!」
「そうだ、何人たりともこの聖域を奪せはしない!」
ダスト、キース、ベルは見たこともない気迫で戦闘態勢を取ります。いまなら、初心者殺しでも倒せそうです、ベルに至ってはベルディアだった時以上の脅威を感じます。
「色々、言いたいことあるんですが...。ベル、今あなた女でしょう、どうやってここに?」
たしか女性は紹介がないとは入れないのでは?中身がおっさんとはいえ、今のこいつは可憐な幼女です。
「もちろんこの二人の紹介だ!先日、食材の買い出しに出かけている時に偶然見かけてな」
「ああ、俺もこいつを見て一目でただものじゃないって理解したのさ」
まさか、ベルの正体がバレましたか?ダストも屑とは言え冒険者、魔王軍幹部を見逃すとは思えません。
「なんせ、あのパン屋のミアさんの巨乳を幼女といえあんな血走った目で見ていたんだ。一目で同志と理解したぜ」
「俺も最初はただのチンピラにしかこいつが見えなかったんだがな、話すと趣味があってな。今では友とまで言える関係になったのだ」
何やってるんですか、元魔王軍。というか、こいつ幼女になって女性に警戒されないからって好き放題やってますね。
「それでな、聞いたらベルは呪いでこの姿に変えられたっていうじゃねーか。さぞ、色々とたまっていると思ってなこの店を紹介してやったんだ」
どうやらダストには呪いで幼女になった冒険者ということにしているようですね。まあ、まさか魔王軍幹部がこんなことになっていると思うわけがないですが。
「なあ、カズハ。このサキュバス達は人に危害を加える存在じゃないんだ!むしろ男性冒険者たちの性欲を発散せることで街の治安維持にも貢献しているんだ!
だから頼むこの店のことは黙っていてくれ!」
キースはそう言って私を拝んできます。確かに、あえて退治する理由もないように思えますが。かといって放置するのも良心が咎めるというか...
あれ? そういえば無料券渡されたということは...
「ムゥさん、ここって私でも使えるってことですよね」
「ええ、基本サキュバスは男性の精気を好むのとぉ、女性の方には私達のような存在を目の敵されることが多いのでぇ、制限させていただいておりますがカズハさんなら構いませんよぉ」
「この店のことは一切口外しないと誓います。あとこれサキュバス退治の依頼を頼んだ方の情報です」
私はすぐさまムゥに例の貴族の情報を提供し、恭順の姿勢を示します。こんな素敵...いえ、素晴らしいサービスをつぶすなんてことができるわけがありません。
これは街のためであり、自分の私欲を満たすためとかでは決してないのです。
「こいつ自分が利用できるとなったら一瞬で態度を変えたぞ」
「ほら普段、男性冒険者から鬼だ、悪魔だと、恐れらてるからな。出会いもなく、たまってるんじゃないのか?」
「いや?あのタイプはヤバイ性癖を隠し持っててそうそう発散できないのだろう」
私は、隠し持っていたダガーをアホなことを言っている三人の後ろの壁に投げつけます。三人はあっという間に青い顔になります。
「すみません、ちょっと虫がいたもので」
「「「絶対嘘だ!」」」
私は騒いでる三人を無視してムゥに謝罪をします。
「すみません、お店の壁を傷つけてしまって」
「いえいえ、いいですよぉ。ああいう羽虫は分からせるのが手っ取り早いですからぁ。それにしてもぉ、なるほどぉ、お貴族様ですかぁ」
「で実はごにょごにょ...」
私はダストたちに聞こえないよう貴族がダストに並々ならぬ感情を抱いていることを伝えます。
おそらく依頼を出したのもダストがこの店に入れ込んでるのに嫉妬してのことでしょう。
「なるほどぉ、あのダストさんにぃ...ではぁ、この方にも無料でサービスを体験していただきましょぉう。
何ぃ、敬虔なアクシズ教徒だとしてもすぐに落ちますぅ。理解されない愛を抱いているのであればぁ、そりゃあもうぅたまっているでしょうからねぇ。
それでもぉ、お迷いになるのでしたらぁ、愛のためなら神もお許しなるとかなんとか囁けばいいですしねぇ」
ムゥがにたりと笑います。それはまさに悪魔のほほえみでした。あの貴族の青年をまた誤った道に誘い入れてしまった気がしますがこれは街を守るために必要な犠牲、仕方のないことなのです。
「ではぁ、サトウさん、こちらの紙に夢の内容のご希望などをぉ。あと今宵は飲酒はあまりなされないようにぃ。熟睡されると夢が見せられませのでぇ。
最後に就寝時間をお願いしますねぇ、その時間にこの子たちを派遣しますのでぇ。それではよい夢をぉ」
そうして、私は渡された紙に要望を書き終わるとダストたちと一緒に店を出ました。
時刻は夕方、まだ日は出てますが私たちはそのまま帰ることにしました。
「今日のことは誰にもいっちゃだめですよ」
「ああ、わかってるさ、じゃあな」
「おう、またな」
皆、なんとなくそわそわして早く帰りたそうです。というか私もそうですし。特に何かする必要はないのですが家に帰って早く寝てしまいたいです。
横を見るとベルも同じ気持ちのようで、顔を真っ赤にしながらニタニタしてます。
「変態ですね」
「お前に言われたくないわ!」
そんなことを言い合いながらも私達は寄り道することもなく屋敷へと帰りました。
ついに、オリジナルキャラクターまで出ましたが二次創作ということでお許しください。