この鬼畜姫に祝福を!   作:パイン村

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前回からまた時間が空いてしまい、申し訳ないです。
ちょっと、書きたいネタが思いついてしまい、ほかの小説書いてました。



第22話

 

 私が屋敷に帰るとめぐみんやアクアが満面の笑みで厨房に荷物を運び込んでいました

 

 「どうしたんですか、これ?」

 

 私が当然の疑問を聞くと、アクアは上機嫌で説明してくれます。

 

 「ダクネスの実家の人から、娘がこれからそちらでご厄介になるのならって引っ越し祝いにくれたの!

 泣いて喜びなさい、なんと中身は、あの超上物の高級ガニ、霜降り赤ガニよ!

 しかも、凄く高そうなお酒もでつけてくれたの!娘がいつもお世話になっているお礼だってさ!だってさ!」

 

 その霜降り赤ガニとやらはよほどの高級品らしくアクアは小躍りし、めぐみんはカニをご神体のよう奉り拝み始めています。隣にいるベルにいたっては感動の涙を流しています。

 

 「アンデッドになって、幾世霜。味覚をなくし、もはや美食などというものに縁がないとおもっていたが....。今日は、俺の全力を見せよう!」

 

 なんだか重いことを言いつつ、ベルは厨房に入ってしまいました。きっと、カニを使った料理の準備をするのでしょう。

 

 「めぐみん、めぐみん?このカニ泣くほどいいカニなんですか?」

 

 皆があまりに大仰な反応をするので気になってしまい、カニに五体投地までしていためぐみんに訪ねます。

めぐみんは立ち上がると手を広げ、まるで教義を熱心に伝える伝道師のように力説します。

 

 「当たり前です!このカニはまさにカニの王様といっても過言ではなく、毎年このカニを奪うために強盗事件が起きているほどです!

 私で分かりやすく例えるなら爆裂を我慢しろと言われれば、大喜びで我慢して、食べたあとに爆裂魔法をぶっ放します。それくらいの高級品なのですよ!」

 「めぐみんにそこまで言わせるなんて....!....うん?貴女、最後なんて言いました?」

 

 私とめぐみんのそんなやり取りもありつつ、皆で準備しながら待っていると、ベルが調理されたカニを持ってきます。

 

 「鍋、カニすき、焼きがに、カニグラタンとカニを余すとこなく楽しめるディナーだ。楽しむがいい」

 

 そう自信満々に広間の長机に並べられていく料理は素材のよさもあるのでしょうが、それはそれはとても美味しそうに調理されていました。

 見ただけで美味しいとわかるほどに。料理とグラスを皆で机に並べ終えると、皆、待ちきれない様子で早々と席につきます。

 そして、まずは鍋で煮た霜降り赤ガニをいただきます。カニの脚の殻を割り取り出した身は霜降りの名にふさわしく脂がよくのっているようで輝いて見えます。

 その紅白の身を酢に着けて頬張ります。

 

「!?」

 

 そのあまりの美味しさに私は驚愕します。いままでの人生で食べたカニの中で間違いなく最も美味しいです。

 そのまま他のカニ料理にも手を付けます。美味い、美味いです、どれこれもこのカニの味を最大限引き出した最高の料理です。

 自分の人生はこれを食べるためにあったのではないかと感じる程です。

 見ればいつもなら食事中でも構わずくっちゃべってるのに皆、料理に心奪われ、ひたすらに黙々とカニを食べています。

 ああ、これが幸せというものなのですね。私は食欲が赴くままカニを食していると、アクアが突然二マリと笑いかけてきます。

 

 「カズハ。私が今から、この高級酒の美味しい飲み方を教えてあげるわ。ちょっとここにティンダー頂戴」

 

 そう言ってアクアは、手鍋にいれた小さな炭を差し出してきました。私が言われるがままにティンダーで火をつけると、アクアはその上に金網をおきます。

 どうやら簡易的な七輪を作るみたいです。火が十分な大きさになると、アクアはもうすで中身を食べ終わったらしいカニの甲羅を金網におきます。

 それを器にし、高級酒だといっていった清酒をそそぎます。そして、甲羅に焦げ目が軽くつくとアクアは熱燗になったそれをすすります。

 

 「ほう....っ」

 

 どうみてのおっさんの飲み方ですが、アクアが顔を紅潮させ、とても美味しそうに飲むので皆ゴクリと喉をならします。

 ....いえ、こんなの絶対に美味しいに決まっています。たまらず、私もやろうとしたそのとき気づきます。

 

 ダメです!これは罠です!

 

 これからサキュバスのお姉さんがくるのですよ!ムゥさんがいってました、酒を飲んで泥酔したら夢が見れないと。

 そう、どんな夢だって自由自在なんです。私が色々と我慢していたあれやこれやだって....。

 そう、耐えるのです。ここを耐えれば楽園が私を待っているのです。

 

 「!?これはいけるな、たしかに美味い!」

 

 惑わされては行けません!

 あれは悪魔の声です!ダクネスがいくら美味しそうに飲んでいてもあれは罠です!

 あれを一度口にすれば、もう、絶対にとまりません、考えなしに飲み続けてしまうに決まってます。

 そうです、ここは同じように耐えている同志を見るのです。それをも見ることで強く自分を律するのです。

 そう思いベルをみると飲んでこそいませんでしたがよだれを滴し、顔を赤くさせ今にも飲みだしそうな雰囲気でした。

 だめです、あれはもう陥落寸前です!

 

 「ダクネス、私にもください!いいじゃないですか今日ぐらいは!私だって飲んでみたいです!」

 

 そんな私のことを知ってか知らずかめぐみんはお酒を飲もうとダクネスと言い合いをはじめました。

 

 「ダメだ、子供のうちから飲むとパーになると聞くぞ」

 

 ダクネスのその言葉に、一人上機嫌で飲むアクアへ全員の視線が注がれます。

 

 「....?何かしら」

 

 アクアはなぜ自分に視線が向けられているのかわからず首をかしげます。そういうとこですよ、アクア。

 ダクネスありがとうございます。いまので若いうちからの飲酒の危険性がよく理解できました。

 

「....どうした、カズハ?このパーティーではアクアの次に飲むお前が....もしかして、口に合わなかったか?」

 

 ダクネスが不安そうに聞いてきます。貴女のお陰で酒の誘惑がたてたのになんでそんなこと言うんですか!

 ええ、これは貴女の実家から私達へのお礼の品ですから、私にも喜んでほしいのはわかります。

 カニは美味しいですし、お酒だって、私とアクアはなぜか、お酒では趣味があうので、アクアがあんなに美味しそうに飲むってことは、私好み味に違いありません。

 でも今日は今日だけはダメなんです!

 

「いえ、口に合わないなんてそんなとても美味しいですよ、ダクネス。ただ今日は、ギルドで結構飲んでしまったんですよ。だから、今日はちょっと....。明日!明日もらいますから!」

 

 私のとっさの言い訳に、ダクネスはそうか、安心したようにホッと息を吐き、屈託のない笑みを浮かべます。止めて、止めてください。

 そんな純粋な笑顔を見せないでください、貴女はどんなときだってろくでもないことを考えている変態のはずです!

 なんで今日に限ってそんな純朴な少女みたいなんですか!まるで私が悪いみたいじゃないですか!

 

 「ふーん?あんた、明日までこのお酒が残ってると思ってんの?勿論私が全部飲んじゃうわよ?あーあ、もったいない!わーい、カズハの分まで私が飲もおうっと!」

 

 このバカは絶対に明日、痛い目に遭わせましょう。寝ている間にダンジョンでもおいてきますか。

 私がアクアへの制裁のことを考えている私にダクネスが再び笑いかけてきます。

 

 「....ん、そうか。それでは仕方ないな。せめて、じっくり味わってくれ。日頃の礼だ」

 

 ああああああ!胸が、胸が痛いです!これが良心の痛みというものですか!仕方なくなんてないんです、ダクネス。

 私はサキュバスの誘惑に負け....そうです、もうすべてを忘れて皆と楽しく飲み明かせばいいんです。

 そうです、サキュバスの婬夢がなんです、たかかが望み通りの夢がみれるだけです。この後来る予定になっているサキュバスの方には明日謝りましょう。

 そうです、そうしましょう。たかが、夢、文字通り夢のような体験ができるとしても、それを朝起きても忘れることがないとしてもたかが夢です。

 見なさい、ダクネスの笑顔を、そして楽しそうに食事をするみんなを、....一人だけなんか食欲と性欲の間で葛藤している、おっさん幼女もいますが。

 夢と今の光景どちらが大切なんて考えるまでもありません。

 

 私は、満腹になるまでカニを食べ終わるとたちあがり、

 

「では、ちょっとばかり早いですがお先に就寝させていただきます。ダクネス、カニ美味しかったです、では皆さんお休みなさい!」

 

 私はなにも迷うことなく部屋へと戻ることを決意します。

 

「すまんが、俺も今日は疲れたので部屋で寝ることにする。食べ終わった皿だけ厨房においといてくれ、朝起きたら洗っておくから」

 

 どうやらベルも決意を固めたらしくとても純粋で真っ直ぐな目をしていました。

 

 

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 私は部屋に戻ると特に意味はありませんが、きれいに掃除をします。そして、誰も入ってこないように扉に鍵をかけ、窓だけを開けます。

 サキュバスのお姉さんに開けるよう頼まれた訳ではありませんが余計なお手間を取らせないためです。

 時計なんて高級品を持っていないので時間はわかりませんが、月の位置をみるに、指定した時間まで一時間ちょっとはあります。

 それまでに、寝ないといけないのですが、普段の夜更かしや身体を動かしていないこともあって全く眠たくありません。

 仕方ないので、庭でも散策して眠気を起こそうと部屋をでます。庭にでると、雪が降っていたようで庭は真っ白なになっていました。雪に月明かりが反射し、まさに銀世界です。

 そんな、光景に目を奪われていると、ふと庭の片隅にある出っ張った雪のかたまりがあることに気がつきます。

 よくみるとそれはアンナとかかれた墓石でした。

 傘地蔵の昔話ではないですが、アンナちゃんが寒くないようにと、雪をどけると屋敷にあった傘を墓石にかけ、私は合掌しました。

 

 「この後、羽と角が生えたお姉さんが来ますけどアクアには言っちゃダメですからね」

 

 私はそれだけ墓石に向かって言うと寒くなってきたので屋敷に戻ります。

 まだ、時間もありそうですね。少し汗も掻きましたしお風呂にでもはいりますか。

 別に何かするわけでもないですが、こういう時はできるだけ体は綺麗にしておきたいですからね。エチケットというやつです、エチケット。

 お風呂場に向かう廊下は、静けさに包まれており、どうやら晩餐も終わって皆、寝静まっているようです。

 お風呂場につくと、私は備え付けられている魔道具に魔力を注ぎます。これは魔力で動かすガス湯沸し器みたいなものでちょっとの魔力で使えるので一般人も扱えます。

 まあ、ちょっと気だるさにおそわれますが。本来は高価な品なので一般人には手を出せる品ではありません。そんなものでもついてるんですから貴族の別荘って最高ですね。

 湯を沸かし終えると、お風呂場の扉に使用中の札を掛けます。

 別に、誰か入ってきても女同士ですし構わないのですが今日は一人で過ごしたい気分です。 

 ....いえ、ベルはダメですね。中身おっさんですし。もし入ってきたら、またもとの首なしに戻してやります。

 さすがに札を掛けてるのに入ってくるような礼儀知らずはこの屋敷にいないと思いますが。

 衣服を脱ぐと私は、浴場に備え付けられているランタンにティンダーで火をともすと、充分に暖まった湯船に肩まで浸かります。

 

 「はぁ~、極楽ですねぇ~」

 

 こうやって、一人でゆっくりと湯船に浸かるのも久しぶりです。つい、この前までは街の大衆浴場でみんなと入るのが普通でしたし。

 こうやってお風呂でくつろげる時間というのは久しぶりかもしれません。

 湯船の心地よさと魔力を使った気だるさもあり私はうつらうつらしてきます。

 さすがに、お風呂で寝るのは....とは思いいつつも私は浴槽にもたれ掛かりそのまま眠りへと誘われてしまいました。

 

 

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 どれ程そうしていたことでしょうか。カラン、という物音で私は目を覚まします。きっと何かの拍子にかけていた札が落ちたのでしょう。

 しっかりと懸けたと思うのですが?みると、浴場のランタンもいつの間にか火が消えてます。

 もしかして私、かなり熟睡しちゃってたんでしょうか?私は目をこすりながら伸びをし窓から月を見ます。

 今何時でしょう?あまりにも湯船が気持ちよかったですからね。まだ、サキュバスのお姉さんが来ていないといいのですけど。

 いえ、待ってください。私は湯船で寝てしまったということはもうこれが夢の世界という可能性もあるのではないでしょうか。

 たしか、私の要望では夢の中は広めの浴場としてたはずです。もし、そうならここで、誰かが...

 そう考えた瞬間、扉の開く音がし、誰かが脱衣所に入ってきました。やはりここで思った通りの展開が起こるということはやはりこれは夢に違いありません。

 きっと、指定した場所にいなかったので探してくれたのでしょう。こちらの不手際なのにここまでしてくれるなんて本当に素晴らしいサービスです。

と、サキュバスのお姉さんに感謝の意思をささげていると、脱衣所への扉が開きます。

 

「んっ。......今日は、本当に、月が......」

 

 そこにいたのは金髪で、美しい女性でした。夜闇のなか金髪が月明りに反射し、幻想的な美しさとなっていました。まあ、ダクネスなんですけどね。

 ダクネスはこちらを向き、私と目が合い言葉を詰まらせます。こちらに気づいたのでしょう。

 

「カズハではないか?どうした灯りも付けずに?」

 

 ...なんで、ダクネスなんでしょうか。確かに私、奇麗で清楚そうで、大人っぽさがある少しはずかしがり屋さんのお姉さんのような女性と書きましたが...。

 外見だけなら確かにあってはいますが中身が最悪なのですが。あれですか、こういうのって見る側の想像力に起因するんものなんでしょうか。

 それならウィズお姉ちゃんがよかったです私。ですが、こうなってしまった以上仕方ありません頼んだ以上は楽しまないと。

 私は首をかしげているダクネスに言います。

 

 「ダクネスお姉ちゃんそこで立ってないで早く一緒に入りましょう!」

 「ああ、そうだな.....?カズハ、今何といった?」

 

 うん?何だか頼んだ内容と微妙に違うような?私は優しいお姉ちゃんと一緒にお風呂に入って洗いっこしたりして目いっぱい甘えたり甘やかしてもらう夢をお願いしたのですが。

 現実だと私のイメージ的に人に甘えるとかなかなかできませんし、アクアのせいでなかなかウィズお姉ちゃんにも会えませんしね。

 でも夢ならどれだけ甘えて甘やかしてもらっても誰かに見られることもないと喜んだのですが...。

 

 「何をしているのですダクネスお姉ちゃん?早く一緒に洗いっこをしましょう?」

 

 私は湯船から出て、丸椅子に座って石鹸を用意します。一方のダクネスはキョトンし、目を丸くしています。

 いつもは変態みたいな顔と騎士然としたキリっとした顔が多いのでこういうのは新鮮です。何だかとても可愛いく思えます。

 あのダクネスに私がこんな感想を抱くなんてやっぱりこれは夢ですね、間違いありません。

 

 「おい、どうしたんだカズハ!?何か悪いものでも食べたのか!?カニか!カニが体に合わなかったのか!?」

 「どうしたんです、お姉ちゃんこそそんなに慌てて?それにカズハなんて何時ものようにカズちゃんと呼んでくださいよ」

 

 外見に引っ張られているのか、言うこともダクネスっぽいですね。ちゃんと呼び方の指定もしたんですけど。

 

 「いつも?私とお前はそんな風に呼び合う仲だったか!?」

 「そうですよ、私とお姉ちゃんはいつでも仲良し姉妹ですよ?」

 「これだけ強く言われるとそういう気がしてきた...。ここで強く否定できない自分が恨めしい...」

 

 ダクネスは何やらブツブツ言いながらこちらに近づいてきました。ダクネスは不思議がりながらも私の背中に回り、石鹸とタオルで体を洗い始めてくれました。

 

 「痛いところとかかゆいところはないか、...えっとカズちゃん?」

 

 心配そうにダクネスが聞いてきます。不器用ながらも一生懸命に洗ってくれるその姿勢はまさに妹思いのお姉ちゃん。わたしもですから妹らしく返事を返します。

 

 「ないです!流石お姉ちゃんです!」

 「そ、そうか」

 

 どこか恥ずかしそうな素振りでダクネスは頷きます。なんかどこかぎこちないですね?いや、恥ずかしがり屋とも書きましたしこれでいいのですか。

 ダクネスはあらかた私の体を洗い終わると風呂桶でお湯を組み、それを私にかけ泡を流してくれます。

 

 「これでいいか?なあ、カズ...ちゃん?明日はちょっと出かけよう、私の知り合いに医...」

 「だめですよ。これから私がお姉ちゃんを洗ってあげるんですから。上手なんですよ、私」

 

 私は、ダクネスいえ、お姉ちゃんから石鹸とタオルを奪うと立ち上がり、代わりにお姉ちゃんを椅子に座らせます。

 

 「さあ、どこからあらいましょうか?」

 「手をワキワキさせるな!なあ、今日のお前は本当におかし...」

 

 私が至福の時を味わおうとしたその時でした。

 

 「出会え、出会え!曲者よっ!この屋敷に曲者よーっ!」

 

 なぜか時代劇がかったアクアの叫び声が屋敷に響きます。

 なんですか!トラブルとかイベントが起きるような設定は頼んでないですよ!

 私はお姉ちゃんを見ると濡れた髪と紅くなった顔がどこか官能的です。もちろん私はそういう趣味があるわけではないですから、それ自体に思うところはないですが。

 このお姉ちゃんと洗いっこできないのはとても残念です。が、夢の中まで邪魔してくるあの駄女神に制裁をくだしてこないときがすみません!

 私は脱衣所で適当なタオルを手に取ると体に巻き付け廊下に飛び出します。

 そして、声がした大広間まで来るとそこにはアクアとめぐみんそして、サキュバスのお姉さん....ではなく幼げで小柄なサキュバスがいました。

あえて名前を付けるならロリサキュバスといったところでしょうか。その子がアクアに組伏せられさらにめぐみんに杖を向けられています。

 端的に言えばその子は絶対絶命の状況にありました。

 

 「カズハ、見て見て!私の結界に引っ掛かって身動きのとれなくなった曲者が....。って、こっちも曲者だわ!」

 「誰が曲者ですか!貴女が邪魔するからこんな格....。あれ?なんで、ここにサキュバスが?」

 

 おかしいです。いくらなんでも登場人物多すぎません?というか、こんなの頼んでないです。

 

 「多分野良サキュバスね。きっと冒険者にやられて迷い混んできたんだわ。でも残念だったわね!

 この屋敷には私お手製の強力な結界が張ってあるの!それも知らずに引っ掛かって動けなくなるなんて無様な悪魔らしいわね!今さくっと祓ってあげるわ!」

 

 アクアのその言葉にヒイッと小さく悲鳴をあげるロリサキュバス。というか、結界何て、いつの間にそんな勝手なことを。

 と、その時彼女を庇うように小さな影がアクアのに立ちはだかります。

 

 「こいつに手出しをさせるわけにはいかんな!」

 

 そこにいたのはパジャマ姿のベルでした。背中には勝手に借りたのかダクネスの剣が背負われています。

 

 「あら、アンデッドらしく悪魔を守ろうってわけ?いいわよ一緒に祓ってあげるわ!」

 「呼んだ以上こいつだけは守らなくてはいけない義務が俺にはあるからな」

 

 アクアは杖を呼び出し、それを手に構えベルに突きつけます。一方のベルも背中に背負った剣を抜きアクアと対峙します。正に一触即発といった様子です。

 

 「ベル、サキュバスを呼んだのは貴女だったのですね。今の貴女の容姿には親近感がわいていたので仲良くできると思っていたのですが、なぜこんなことを?」

 

 ベルはめぐみんのその言葉を聞く、苦笑しながら答えす。

 

「簡単なことよ、俺はな。生前、童貞だったんだ」

 

 

 その瞬間、場の空気が凍りました。なにいってるんですか、このオッサン幼女。

 

 「団長になったら童貞をもらってくれるというあの方の言葉を真に受け、三十こえても童貞を貫き続けた!

 だが、だが、俺は童貞を捨てることなく処刑された!....まだ、まだ....それだけならよかった。俺がアンデッドとなってよみがえったとき俺の相棒は腐り落ちていた」

 

 ベルはなぜから泣きながらに語っていますが、これ真剣に聞かないといけない話なんですかね。

 なんで、童貞かつ魔法使いのオッサンの慟哭を聞かないといけなんいんでしょうか。誰か知っていたら教えてください。

 

 「だが、魂に染み付いた性欲は消えることはなかった。わかるか!性欲はあるのにそれを発散するための手段がないのだぞ!

 これがどれほどの地獄だったか!そりゃあもう、頭ぶん投げてスカート覗いたりもするわ!」

 

 あれ、そんな理由でやってたんですか。魔王城にいるサキュバスに頼めばよかったじゃないですか

 

 「魔王城にいたサキュバスにたのもうにも、あのクサレ仮面悪魔に邪魔されるか、キモい、アンデッドには精気ないからイヤ、といわれ断られる!

 やっと、やっと、なんだぞ、俺の願いを叶えてくれるサキュバスが現れたのわ!誰にも邪魔をさせるものかッアア!」

 

 魂から慟哭を発したベルはアクアに切りかかります。アクアも杖で受け止め応戦します。めぐみんもアクアに加勢しようと杖をベルに振り下ろしますがベルはそれを剣ではじき飛ばます。

 

 「あまいわ!このベルディアに剣術で勝とうなど百年早い!」

 「いったわね、アンデッド擬き!私がケチョンケチョンにしてあげようじゃない!」

 「ぬかせ!」

 

 そんな感じでアクア&めぐみんとベルのガチバトルが繰り広げられているなか私は今の状況を整理します。

 えっと?サキュバスが結界に引っ掛かって動けなくなっていて?それでアクアが退治しようとしたところをベルが助けに来たと。

 つまり、サキュバスのサービスは未だ始まってもいなかったわけで。さっきまでのお風呂のあれやこれやは夢じゃなく現実なわけで....。

 サァーっと自分の体から血の気が引いていくのを感じました。私はとりあえず、近くあった火かき棒を手に取ります。

 きっとそれをみてベルに加勢すると思ったのでしょう。ロリサキュバスは私にこっそり耳打ちをしてきます。

 

 「お、お客さん、すみません!私のことはいいので、結界は予想外だったとはいえ、こんなことになっていしまったの私の不手際。

 サキュバスは誰にも気づかれずこっそりまくらもとにたててこそ、全ては私の未熟さが招いたことです。お客さんにこれ以上迷惑はかけれません。

 私は野良サキュバスってことで退治されますのでお客さんは何も知らないふりをしてください」

 

 私はこの子を助けようとしたわけではないのですが、その言葉を聞き、さっさと逃げるように玄関の方をさします。

 

 「お、お客さん?」

 

 私は戸惑うロリサキュバスを無視し、火かき棒を持って、お風呂場に向かおうとします。

 

 「カズハ!?一体そんなものをもってどこへ行こうと!?というかこの状況をどうにかしてください」

 

 私に気づいためぐみんがそんなことを言いますが、今私には何を押してでもやらなければいけないことがあるのです。

 

 「すみません、めぐみん。私はこれからダクネスの記憶をこの火かき棒で物理的に消してこないと行けないので」

 「何をいってるんですか!?真顔で本当に何を言っているんですか!!そんなのでダクネスの頭たたいたら、いくらダクネスでも死んじゃいますよ!」

 「大丈夫です、その場合は私も死にます」

 「全然大丈夫じゃないいです!なんですその無理心中!?」

 

 めぐみんがあわてた様子で止めてこようとしますが私は全力で抵抗します。あんな醜態、絶対に誰の記憶からも消さなければいけません!!

 しかも相手がダクネスとか、絶対に記憶に残してはいけません!何としてもすべてを消し去ってくれます!

 その時、廊下からダクネスが濡れた髪を振り乱しながら大広間に入ってきました。

 

 「今です、好機!」

 「あっ、しまった!ダクネス避けてください!」

 

 私はめぐみんの手を振りほどきダクネスに向け火かき棒を振り下ろしますが、たやすく受け止められてしまいます。

 チッ!不器用なくせになんでこういう捌きだけは上手いんですか、この子!

 

 「くっ!様子がおかしいとは思ったがやはりそういうことだったか!アクア、めぐみん、恐らくカズハはそこのサキュバスに操られている!

 さっきからわけのわからないのことを言ってたので間違いない!おのれ、サキュバスめ!カズハと私に何という辱めを!......ぶっ殺してやるっ!」

 

 あまりの気迫に気おされそうになりますが、ここで引くわけには行けません。お風呂での話が広まれば本当に死ぬしかありません!

 私は、アクアと壮絶な戦いをしているベルに目配せし、味方に付くことを伝えます。

 そして、まだ広間に残っていたロリサキュバスに手を振り、逃げるように指示します。

 そして、上手くアクアをいなしたベルと合流し、背中合わせになりにアクア、めぐみん、ダクネスの包囲網に対抗します。

 それ見たアクアたちは一歩下がり身構えます。

 

 「カズハ、アンタともそれなりの付き合いになったけど、今度こそここで本気で決着をつけないといけないようね...!

 いいわ、かかってきなさい私の全力を見せてあげるわ!そのあとにそこのサキュバスに引導を渡してあげる!」

 

 誰が相手だろうと私は負けるわけにはいきません。これには私の尊厳がかかっているのです。何を犠牲にしようとここで引き分けにはいきません。

 理由は違えど、背後にいるベルからも引かないという強い意志を感じます。そして私たちは強く、強く叫びます。心の底から。

 

「「掛かってこいやああああああ!」」

 

 

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 そしてそんな死闘の一夜が明け、私は無言の視線を感じつつ、また、庭に埋められ生首状態となったメイドをしり目に黙々と墓石の掃除に取り組んでました。

 

 「なあ、おかしくないか?なんで、俺だけこんな扱い?どう考えてもお前も同罪だろう。なあ?」

 

 しゃべる生首を無視しつつ、私はただただ掃除を続けます。

 

 「............」

 「ねえ、ダクネスいい加減、口きいてくださいよ。貴女だって恥ずかしかったんでしょうけど私だって死にたいくらい恥ずかしいんですから」

 

 無言だったダクネスがその瞬間キッと睨み付けてきます。そりゃあ、私が悪いですけど仕方ないじゃないですか夢だと思っていましたし。

 そのあとのことだって恥ずかしさやらなんやらで冷静さを欠いてたんですから。

 結局、私とベルは数の暴力の前にあえなく敗北しました。

 途中までは善戦いえ、むしろ皆を圧倒すらしていたのですが、途中で偶然、屋敷にサキュバスが向かうのを見かけていたクリスが乱入。

 拘束スキルのバインドを奇襲で仕掛けられ、あえなく私たちはお縄となりました。あのロリサキュバスはなんとか逃げたようですが。

 サキュバスを呼んだ主犯とされたベルは人に害をなすためではなかったと説明するも皆は納得しませんでした。

 多少は情状酌量の余地ありということで命こそとられませんでしたが、罰として首以外生き埋めの刑に処されました。

 私はというと何かサキュバスの魅力で操られていたと皆、勝手に思い込んでくれたので、その解釈に乗ることにしました。

 当然、ベルは私も共犯と主張しましたが私を道連れにしようとするベルの戯れ言とされました。

 さすがにかわいそうなのでほとぼりが覚めたらベルには謝罪がわりに高級酒でもプレゼントしましょう。

 

 「....本当に、昨日のことは覚えていないのだな?あのサキュバスに操られていただけなのだな?」

 

 ようやく口を開いてくれたダクネスが念押しするように聞いてます。

 

 「ええ、全く全然覚えていません。そんなことをしてしまったというだけで恥ずかしくてたまりませんですけどね」

 

 本当はバッチリ覚えています。というか今もそのせいでダクネスの顔もまともにみれません。

 せっかく都合のよい解釈してくれてるのですこれに乗らない手はありません。というか乗らないと今後の関係性に問題が生じそうですからね....。

 

「そ、そうか、ならよい。...事故みたいなものだからな、私も忘れることにしよう。......しかし、あの時のお前は強引でなかなか悪くなかったぞ」

「何言ってるんです変態。大体姉妹ごっこの何が...」

「おい、やっぱりお前昨日こと覚えているのじゃあないのか!?あれは本当にサキュバスに操られての行動だったのか!?」

 

 おっと、失言です。

 

 「何を言っているんですか。サキュバスに操られていたに決まってます。今のも適当に言っただけです」

 ダクネスじっーとこちらを見つめてきます。大丈夫です、ダクネスなら押し切れます。昨日のことからもそれは明らか。

 

 「おい、なんか蟻がたかって来たんだが、なめくじとかも来てるんだが」 

 なんか後ろの生首が言ってます私は無視し、黙々と墓石を掃除をし続けます。しかし、なんで札が落ちたりランタンが消えたんでしょうか?

 札はしっかりかけたはずですし、ランタンも確認したら油はたっぷり残っていたのに。...まさか?なんとなしに目の前の墓石を見ます。

 

 「もしかして、あなたのいたずらですか?全く、次やったらメっですよ」

 

 なんにせよこれで生活基盤は手に入れ、落ち着いて寝ることができます。衣食住さえあればあとはなんとかやっていけるでしょう。

 まあ、まだ、莫大な借金はありますが。冒険者をやっていればきっと一攫千金も夢じゃないはずです。そんな希望に夢をはせ、今日はゆっくりと休み、明日から...

 

 「ちょっ!口に!口に入ってきた!誰か、助けて!蟻、蟻があああ、ああ、ナメクジもおおお!」

 

 今日も今日とて私の日常は騒がしいようです。しかたないので私は、近くにあったスコップを片手に生首メイドの下へと走ったのでした。

 




次回はまたオリジナル回です。デストロイヤーさんはもうちょっとあとで。
もしかしたらまた時間が空くかもしれませんがご容赦を。

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