ちょっと、実生活の方が急にバタバタしまして間が空いてしまいました。
なぜ、こうなったんでしょうか?
私の目の前には、突貫工事で作られた巨大な堀とバリケード。そして、フル装備状態の冒険者及び衛兵の皆様。
私は、それらをアクセル正門の見張り台から見下ろしながら自分の体にかけられているタスキをみます。
アクセル防衛隊長、そうかかれています、ついでに手には指揮をするためにと渡された拡声器のような魔道具。
そう、なぜか私は彼らの指揮を取りアクセルを防衛することになりました。
え?何から守るかですって?
「きたぞ!」
「想像以上にでけえし、早ええ!」
「もうダメだ!アクセルはおしまいだぁー!」
それを目にした人々から次々と怯声が上がっていきます。無理もありません。あんなものを目にすれば。
巨大な、小さな城ほどもある金属製の蜘蛛。端的な表現をすればそうなるでしょう。しかも、早さは馬車ほどもあります。
そんな化物がすべてを蹂躙しながらまっすぐこの街、アクセルと向かっていました。
そう、あれが。あれこそがすべてを蹂躙し、破壊する大災厄。機動要塞デストロイヤーなのでした。
...あんな、怪獣みたいのとどう戦えと言うのです。誰か、ウ◯トラマンを呼んできてください。スー◯ー戦隊でもいいですから!
本当、なんでこんなことになってしまったのでしょうか。
私はここに至る経緯を思い出し始めます。
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「逃げるのよ!遠く逃げるの!」
私は何が何やらわからぬまま、廃城からアクア達につれられ屋敷に戻っていました。
アクア、めぐみん、ベルは屋敷中をひっくり返し、片っ端から荷物を荷車に詰め込んでいます。そのせいで、屋敷は混沌の渦中にあるといってよい状況でした。
そして、それ以上にアクセルの街はひっどい状況になっていました。
『デストロイヤー警報!デストロイヤー警報が発令されました!機動要塞デストロイヤーがこの街に接近中です!
数時間以内にアクセルに上陸すると予測されます!冒険者及び警察、衛兵の皆様は直ちに装備を整え冒険ギルドへ!
それ以外の皆様は直ちに避難してください!繰り返します、デストロイヤー警報が――』
町中のスピーカーからそのような、避難警報が繰り返し流れ、住人達は右往左往の大混乱です。
あるものはアクア達と同じように荷物を持って街から逃げだす準備を、あるものは神に祈りを捧げ、あるものはもう終わりだーといいながら裸で町中を駆けずり回っています。
さながら、人類滅亡前夜といった様相です。
私は、状況が飲み込めず呆然とそれを眺めていると荷造りを終えたらしい、めぐみんが隣に来ます。
「残念ですが、この街はおしまいですね。すべてを失しなうのならいっそ魔王の城にカチコミにでもいきますか」
「いや、私は全く状況が飲み込めていないんですが。というか、ギルドに行かなくっていいんです?」
私は一応ギルドに向かおうと装備をつけたままなのですが。
「カズハなにいってるの?まさかデストロイヤーと戦う気なの?」
アクアは身体中に荷物を巻き付けながら呆れるように言います。
戦うと言うか、私は状況がわかってないからどうしたらいいかわからないだけなんですけど。
とにかくヤバいのが迫って来ていると言うことはわかりますが。
「カズハ、機動要塞デストロイヤーというのは通った後にはアクシズ教徒以外なにも残らないと言われている、最悪の大物賞金首ですよ。
あれはもはや天災の類いです。戦うとか無謀にすぎます」
「ちょっと待って、なんで私のかわいい信者達がそんな風に言われているの?ウチの子達ってそんなに怯えられているの?皆、普通のいい子達ばかりなのよ!?」
アクアが何かわめいてますが、あなたを信仰しているだけで普通じゃないと思います。
それよりも、めぐみんの説明だけではいまいちピンと来ないのですが。大体、機動要塞って何ですか。
「カズハは千里眼でみたんでしょう。蜘蛛型の巨大ゴーレムで作られた機動要塞、それがデストロイヤーです」
確かにあれはでかそうでしたし、強そうでしたけど。
「でも、めぐみんの爆裂魔法があれば大丈夫なんじゃないんですか?あれだけでかければ遠くから狙い放題じゃないですか」
「無理ですね。デストロイヤーには強力な結界が張られています、爆裂魔法の一発や二発防いでしまうでしょう」
「魔王城の結界もあれをモデルにして作ったと聞くからな。まあ、人類にあの結界を突破できるやつはいないだろうな」
私の言葉をめぐみんとベルが口々に否定します。強すぎませんか、デストロイヤー?そんなのどうすればいいんです。
「だから天災の類いなのだ。あれによって滅ぼされた街は数知れず。国ごと滅んだことすらある。
私は武装をととのえてくるから先にギルドにいっていてくれ」
ダクネスはそう言って、屋敷のなかに消えていきました。
え?ギルドって、まさかデストロイヤーと戦う気なんです、あの子?
「聞いて、皆!ウチの信者は皆いい子達なの!巷で流れる悪い噂は...そう、心ないエリス教徒の陰謀なの!
アクシズ教を陥れようとしているの!大体あの子だって結構やんちゃなんだから!悪魔には私以上に容赦ないし、結構自由奔放だし!
勝手に地上に遊びに行っているかもしれないわ!アクシズ教を、清く正しいアクシズ教をお願いします!」
「アクア、今それどころじゃないので黙ってくれます?」
「神を自称するだけで飽きたらずエリス様の悪口まで言うなんてバチが当たりますよ」
「カズハだけじゃなくめぐみんまでなんなのよー!」
私はわめいてるアクアを無視し、現状を確認します。
今、街には災害クラスの化け物が向かっていてこのままじゃ街が滅ぶと。
...うん、普通に逃げましょう。駆け出し冒険者の相手じゃないです。
というかこのまま、この街がなくなれば私の借金もうやむやになるのでは?
せっかく手に入れた屋敷は惜しいですが命には代えれませんし。
そんな私の皮算用を察したのかベルがこちらをみてきます。
「主のことだ、大方逃げる算段でも考えているのだろうが...だが、いいのか?
あの店は...サキュバスの店は他の街にはないんだぞ?俺はあの店のためならこの剣をいくらでも振るおう」
こいつはこれで本当に元騎士なのでしょうか?とは言えあの店は確かにとてつもなく惜しいです。
私、アクアのせいでまだ未体験ですし。あのサキュバス達が他の街で上手くやれるとも限りません。
「あと、おまえが目をつけている妹候補とやらのほとんどが家を失い路頭に迷うことになるぞ?」
「アクア、めぐみん!今すぐギルドに向かいますよ!街の危機を救うのは冒険者の役目です!」
「カズハ!?どうしたんです!?そんなに目を輝かして!?」
「そうよ!こういう時いの一番に逃げるのがカズハでしょうに!」
こいつら本当に私を血も涙もない鬼畜外道だと思ってませんか?
私が二人に言いかえそうとしていると、ダクネスが屋敷から戻ってきました。いつもの鎧の上に鎖を織り込んだマントに盾とかなりの重武装です。
「なんだ待っていてくれたのか。だがお前なら街の危機に立ち向かうと信じていたぞ」
さすが聖騎士ダクネスです。彼女には街を捨てて逃げるなどと言う選択肢はないようです。
「見なさい二人とも!これが騎士です!これが冒険者です!大体あなた達には長く過ごしたこの街とこの屋敷に愛着はないんですか!」
「私、この街に来てまだ半年もたっていないのですが...カズハもおなじくらいですよね?」
「屋敷に至っては住んで一週間もたっていないわよ?」
.........。
「愛とは時間ではないのです!さあ、いざギルドに!」
「あっ!ごまかして逃げた!」
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ギルドに着くと、中は重武装の冒険者達でごった返していました。やはり、皆、この街が好きなのですね。
...集まっている冒険者が男性に片寄っているのは気のせいということにしておきましょう。
「よう、カズハ。お前もやっぱりきたか」
そこにいたのは、アクセル逮捕歴ランキング一位のゴミ...いえ、ダストでした。
「まあ、あなたは当然来ますよね。あそこの常連ですし」
「ああ、当然だ!」
こいつ、悪びれるどころか誇らしげです。隣にいるキースも運命に導かれし戦士のような顔つき。
状況が飲み込めていないリーンとテイラーは二人を不思議そうに見てます。
「何で、今日に限ってこいつ、こんなにやる気なのかしら。世のため人のために働く様なやつじゃないのだけど...?キースも妙に気合い入ってるし...」
リーン、世の中に知らない方が幸せなことはいっぱいあるんですよー。
周りを見ると見知った顔は大体いますね。
うわ...。ミツルギもいますね。魔剣取り戻せたんですか。絡まれると厄介ですし、気づかれないように離れましょう。
と私が冒険者達に紛れようとしているとギルド職員達が酒場の中央に集まり始めました。
「お集まりの皆さん!本日は緊急の呼び出しに応えてく下さりありがとうございます。
ただいまより、デストロイヤー討伐の緊急クエストの開始と説明をさせていただきます。
本クエストはレベル、職業は一切関係なく全員参加の総力戦となります。
クエストの達成が不可能と判断した場合、街を放棄し全員で逃げることになります。
皆さんが最後の砦なんです!どうかよろしくお願いします!」
ルナさんがギルド職員を代表し、説明します。
そして、周りの職員達が長卓やアクセル周辺の地図を用意し作戦会議室のような空間をつくります。
用意ができると、ギルドの職員達に席につくよう促されます。
冒険者だけでなく街の治安機関の人員も駆り出されているようで百は軽く越える人数はいそうです。
こう一同に集まるとなかなか壮観ですね。お互いの顔もよく見え...あっ、やば、ミツルギに気づかれました。
「さて、まず現状について説明したいですが...デストロイヤーについて説明が必要な方は?」
「見つけたぞ、サトウカズハ!僕は君のせいで...」
「ハイハイ!私、なにもしりません!」
私はミツルギの声をかきけすよう叫びます。そんな私にルナさんは顔をしかめながら説明を始めます。
私につっかかろうとしていたミツルギもルナさんの説明が始まるとなると流石におとなしく席に戻りました。
...よし、厄介なことになる前にミツルギの行動を封じられましたね。
「機動要塞デストロイヤーとは古代の魔導大国ノイズで作られた巨大ゴーレムです。外見は...説明するより見てもらった方が早いですかね」
そう言うとルナさんは、隣で控えていたギルドの職員から水晶玉を受けとります。
「今ギルドの職員がデストロイヤーの監視のために使い魔を飛ばしてますのでその映像を写します」
ルナさんがそっと水晶に手をかざすと水晶に外の映像が映ります。そこには八本足の巨大な金属製の蜘蛛が猛烈な勢いで大地を駆けていく姿がありました。
よく見ると、足元には豆粒ほどの大きさにしか見えませんがジャイアントトードが逃げ惑っており、その巨大さがわかります。
「見ての通り、小さな城ほどもあるのですが特殊な魔法金属が使われておりこの巨体にも関わらず、馬車ほどの早さを出せます。
近付こうものなら巨大モンスターですら挽き肉にされます。さらにその周囲には常時強力な魔法結界がはられており、魔法攻撃は一切意味をなしません」
聞いている冒険者達の顔がどんどんと暗くなっていきます。何人かはその無謀さを理解したの顔がひきつり始めていました。
「ですからデストロイヤーに攻撃するためには、物理攻撃しかないのですが...金属製のため弓程度は跳ね返します。
大砲などの攻城兵器の類いは機動力の高さによってほとんど回避、または移動速度の早さで使用する前に破壊される始末でして」
「じゃあ、空からはどうです。この使い魔使って爆弾でも落とすとか...」
と私が言った瞬間、デストロイヤーから光のようなものが放たれ、水晶玉の映像が途切れました。
「...デストロイヤーにはバリスタや、魔光銃による自動迎撃装置がありまして、近づきすぎると関知され、このように撃ち落とされます。
さらになかには多数の警備ゴーレムが配置されており、内部からの攻略も難しいかと」
なんですこの無敵要塞。対空防御まで備えられてるとか中世ファンタジーの発想の代物じゃないんですが。世界観間違えてないですか、これ。
あっ、わかりました、こいつ動く城じゃないですね、ラ○ュタです。滅んだ古代王国に古代兵器、そして、うごめくゴーレム。
うん、まちがいなくラピュ◯、空とんでないですけど。...天の火とかさすがにないですよね?
「そして、なぜこの要塞が暴れているのかですが。言い伝えによれば研究開発を担った研究者が要塞を乗っ取ったからといわれています。
この研究者は当時のノイズの対魔王兵器の責任者で、当時の魔王退治の貢献の大きさから勇者とも言われていたのですが...。
自分の兵器が魔王を倒すためでなく、ノイズが他国を支配するために使われる姿をみて人類に絶望したのだといわれています。
彼はデストロイヤーを乗っ取ると大陸中の都市を襲い、人類に暗黒時代をもたらしました。彼はデストロイヤーの中枢頭脳と一体化し今も、人類への攻撃を続けているといわれています。
これを倒すために何度も諸国による連合軍も組まれましたがそのすべてが失敗に終わっています。
いまでは倒すのは不可能であり接近すれば街を放棄し、蹂躙されたあとでまた街を建て直すしかないとされ、もはや天災の一種として扱われています」
騒がしかった冒険者達は一言も発しなくなり、何人かは荷物をまとめ始めました。
「現在、デストロイヤーはこの街の北西部70キロの地点からまっすぐこちらに進攻中です。後、7時間ほどでアクセルの街に到達すると思われます。...では皆さん、意見をどうぞ」
よし、逃げましょう。こんなの大魔王に初期装備で挑むようなもんです。無理ゲーです。
私がこっそりとこの場を後にする算段を考えていると、冒険者の一人が手を上げました。
「あの、これを作った国はどうなったんです?これだけのもの作れる国なら対抗策とかあったんじゃ?」
「真っ先に滅ぼされました。本国の都市はほとんど焼きつくされ、かの国の技術のほとんどは散逸し、最早、誰にも再現できません」
「他には...」
希望にすがるように弱々しい声で他の冒険者が声をあげます。
「巨大な落とし穴を掘るとか?」
「やりました、ある国が国中の
しかし、機動性が半端じゃなくジャンプし、穴から這い出たそうです。
作戦では、待機させていたアークウィザード達に爆発魔法で山を崩させ、穴を埋める手はずになっていたそうですがその暇さえなかったと」
その後もいくつか案が出ますが、ここで簡単に思い付くような案はすでに過去行った事例が存在し、そのすべてが失敗に終わっていました。
「ねぇ、ベル。魔王軍はどうしてたんです?こんなの魔王軍にとっても災害でしょう」
私は近くにいたベルに他の冒険者達に聞こえないよう耳打ちしました。
「ああ、魔王城にはデストロイヤーですら破壊不可能な結界があるからな。こちらがやられることはないのさ。
進攻先がかち合うことはあったがそんなのは奴が蹂躙してくれるのを待てばいいだけだしな。
魔王軍の被害なんて先代の諜報、工作担当の幹部があれを乗っ取ろうとして自滅したくらいだ」
なるほど、むしろ魔王軍にとっては人類を攻撃してくれるありがたい存在だと言うことですか。魔法もダメ、近づいてもダメ、空からもダメ。これ勝ち目あるんですか?
「よし、やっぱり逃げましょう。街はいつか再建できます。大切なのは命です」
「ダメだ、この街が失われれば多くのものは食うにも困るだろう。...ここの領主は災害があろうと平気で税を取り立てるからな」
おっと、ダクネスはやる気のようです。こういうところだけは本当、騎士らしいですよねこの子。
「ダクネスは相変わらずだなぁ。本当は早く逃げて欲しかったんだけど...ねえ、キミ、なにかいい案はないの?」
といつの間にか、私たちの席の近くにいたクリスが期待したような目で聞いてきます。
「なるほど、カズハなら機転がきく、いい案がおもいつくかもしれないな」
目の前に座っていたテイラーまでがクリスの言葉に乗ってきます。そんな無茶ぶりされても困るんですが。
何をするにせよ結界がネックなんですよね。しかし、ベルいわくこの世界にはあの結界を壊せる人類はいないらしいですし.、うん?人類.....あっ!
いるじゃないですか、この世界の人間じゃない結界壊せるだけの力を持った女神が!
そうです、そうですよ!ウィズお姉ちゃんがいってました、アクアならデストロイヤー以上に強力な魔王城の結界だって維持する幹部の数が減れば突破できると!
「アクア!あなたなら、デストロイヤーの結界を...ってなんです、これ!」
私がアクアの座る机を見ると暇していたらしいアクアがコップにはいった水を使ってそれは見事な絵を書き上げていました。
それは天使が花を持って戯れる美しい、本当に美しい絵でした。芸術に疎い私にもわかります、これは人類の遺産にすべきレベルのもの!
と、私がその絵に感動しているとアクアはなんの躊躇もなく、その絵に水をぶっかけました。
「あっー!なんてことをするんです!じ、人類の宝が...」
「なに落書きひとつそんなに慌ててるの?で、なに結界?確かに私なら破壊できるかもしれないけど保証はできないわよ」
アクアのその言葉を聞いた職員は驚きの声を上げました。
「本当ですか!破れるんですかあの結界を!」
「もしかしたらですけどね」
一応付け加えた、私の言葉など誰も気にしないほどギルド内は歓喜に包まれました。まさに希望の光が射したといった風です。
「結界さえ破れれば魔法による攻撃や大砲で...。あ、でもこんな辺境の駆け出しの街ではろくな武装も魔法使いも...」
またも、雲行きが怪しくなってきたなか、ある冒険者がポツリといいます。
「火力のある魔法使いならいるじゃないか、頭のおかしいのが」
確かにいますね、頭のおかしい子が。
「そうね、いるわね。頭のおかしい子が」
「いるな、頭のおかしい姉妹の妹の方が」
おい、待ちなさい。頭のおかしい姉妹ってなんです。まさか、わたしが姉か、姉なんですか!
「おい、待て。それは私のことをいっているのなら、その略し方はやめてもらおう。あと、妹じゃなく姉にするがいい、これでも私、長女ですので。
さもなくば、いかに私が頭がおかしいか証明することになる」
私も長女なんですが。まあ、それはひとまずおいておいて、頭のおかしい姉妹とか呼ばれる原因になったベルは後で折檻ですね。
めぐみんの脅しが効いたのか冒険者達は一斉に黙り明後日方向を向き始めます。
めぐみんはめぐみんでいつもの勢いで言ったはいいものの自信がなくなってきたのか顔を赤くして、うつむき始めます。
「我が爆裂魔法でもあれだけの大物...一撃では...む、難しいと思われ...」
と声をだんだん小さくして、席に戻りました。爆裂魔法には一家言あるめぐみんですらこの様子だと、本当にあと一人は強力な魔法の使い手が必要でしょう。
しかし、そんな都合のいい人材が...
「遅くなりました!ウィズ魔法道具店の店主です!」
いました、いましたよ!魔王軍幹部にしてアンデッドの王たるお姉ちゃんが!
どうやら、冒険者としてのかつてお姉ちゃんの名声はアクセルでも有名なようで、次々と歓喜の声が上がります。
「氷の魔女だ!彼女がいれば、百人力、いや、千人力だ!」
「勝てる、勝てるぞ!」
「貧乏店主さん万歳!」
「いつも、夢でお世話になってます!」
さすが、お姉ちゃん。きただけでギルドの空気が一変しました。あと、最後のやつ顔覚えましたからね。夜道を気を付けるがいいです。
「ここまで人気なのになんで店は赤字なんですかね」
と私がぼやいているとキースが答えてくれます。
「ああ、そりゃあ簡単だ。あそこの魔道具はどれも性能がピーキーな上、高級品ばかりだからな。
駆け出しばかりのこの街じゃ買えるやつも、必要とするやつもほとんどいないのさ。だから、いつもあのはかなげな店主さんをガラス越しに見るだけなのさ」
それ、要は冷やかしですよね。来るんなら買いましょうよ。...私もお姉ちゃんの店で何か買ったことないですけど。
「ど、どうも。店主のウィズです。ウィズ魔法具店を、どうかよろしくおねがいします!...このままじゃ、また赤字で...また、食事がもやしだけに...!」
今度、差し入れついでに何か買いに行ってあげましょう...。
「さあ、ウィズさんこちらに!あなたがこの街の希望!作戦の要です!」
「は、はあ...?」
お姉ちゃんはギルドの職員に案内されるがまま、戸惑いながら中央の長机の上座に座らせられます。
「私の時と、様子が違いすぎませんか?たしかにウィズは凄い魔法使いでしょうけど...」
めぐみんはウィズの歓待ぶりをみて拗ねたように言います。普段の行いが物をいっているだけだと思いますが。
「はい、はい。拗ねないです。本番で大活躍すればいいんですから。めぐみんが爆裂魔法の練習を毎日、頑張っているのは私は知ってますから」
「...カズハのそういうところはずるいと思います」
とめぐみんはそれだけ言うと帽子を深く被って黙ってしまいました。何か余計なことをいってしまいましたでしょうか?
とそうこうしている間にお姉ちゃんへの説明が終わったようでした。
「なるほど結界を破壊したあとに爆裂魔法を...。それなら私とめぐみんさんで左右両方の脚に一発ずつ打ち込みましょう。脚さえ破壊すれば、あとはどうにでもできるでしょうし」
結界と機動力さえ奪えばさしものデストロイヤーもどうしようもないでしょう。動きさえ止めれば街が蹂躙されることもありません。
あとはゆっくりと時間をかけて破壊すればいいのです。というか、さすがにリッチー、爆裂魔法なんてものも使えるんですね。
とそこでめぐみんが突然立ち上がり声をあらげました。
「あ、あの、ウィズは爆裂魔法を使えるですよね!?数年前に紅魔族の里で小さな紅魔族の女の子を爆裂魔法で助けたことはありませんでしたか!?」
突然の発言に皆戸惑いを見せるなか、お姉ちゃんが答えます。
「いえ、私が爆裂魔法をおぼえたのは結構最近でして、とある方との因縁といいますか、約束を果たすために習得しようと温泉好きの神様に教えてもらったんです」
「そうですか...」
めぐみんは意気消沈してそのまま、椅子につきました。なんだったんでしょう。というか、温泉好きの神様ってなんです?
そして、このお姉ちゃんの案を基本とし、アクセル防衛作戦が立案されました。
万が一、の備えと時間稼ぎのために街の街の前に罠とバリケードをはるなどの案が出され。
「では、結界解除後、爆裂魔法により脚を攻撃。
万が一脚が破壊できなかった場合を考え前衛職の冒険者はハンマー等を装備し、魔法使いの皆さんは爆発系の魔法を即時に打てるよう準備していてください。破壊できなかった脚を攻撃してください。
また、要塞内部にいると思われるデストロイヤーの開発者やゴーレム達が何かする可能性があります。内部への突入ができるような装備も用意してください!」
そうして、作戦がまとまり、ギルドの職員達が冒険者達に次々と指示を出していきます。私も何かしようと立ち上がると会議の司会を勤めていたルナさんがこちらに近づいてきました。
「カズハさん、ちょっとよろしいですか?」
すさまじく嫌な予感がします、ルナさんがあからさまに作り笑顔です。こういう時のこの人は大抵厄介事を押し付けてくるんですよね。
「実はですね、カズハさんに現場指揮をとるアクセル防衛隊長に就任してもらえないかと」
「いや、なんでです?他に適任者はいくらでもいるでしょう?あそこで、サイン求められてる奴とか」
「...ああ、ミツルギさんですか。あの人は、男性冒険者からの受けが悪いので...」
肝心なときに役に立ちませんね、あの男。当て馬なら当て馬らしく、スケープゴートになってくれればいいものを。
「今回の作戦の要はカズハさんのパーティメンバーやお知り合いの方々ばかりですし、作戦立案に大きな貢献をしたカズハさんがふさわしいかとおもいまして。
...最悪、アクセルが滅んでもカズハさんになら責任押し付けても心は痛みませんし...」
「おい、今、きこえましたからね。生け贄か!作戦失敗した時のための生け贄しようとしてますね!」
「大丈夫ですよ!これだけの人達が集まっているんです、失敗なんて万にひとつもありませんよ!
それにです、防衛隊長になるのであれば報酬として、デストロイヤーの懸賞金20億のうちの三割をお支払」
「ぜひとも、受けさせてください!」
人間、金の魔力には逆らえません。
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「何故君が防衛隊長なんだ...?」
「いきなり、失礼ですね。ミツラギ」
「ミツルギだ!全くここのギルドはどうかしてるんじゃないのか...?たしかに、この子は悪知恵だけはよく働くけど...」
本当に失礼ですね、この男。
私が現場指揮官として、アクセル正門前の草原でバリケードや武器の用意の準備を指示していると暇なのか、この男、魔剣使いことミツルギが絡んできました。
よほど、以前私に負けたことが悔しかったと見えます。女々しいやつです。後ろにはいつもの取り巻きの女の子達もいますが警戒されているのかあからさまに距離をとられています。
「で、なにしにきたんです?再戦とかなら受け付けませんよ? 」
「さすがにこんな状況で君に勝負を挑む気はないよ。ただアクア様の様子が気になってね」
ああ、こいつアクアにぞっこんなんでしたっけ。アクアの本性を知らないとはいえ、奇特なやつです。
「アクアなら、防衛副隊長兼防衛線建設班長としてバリケードの建設を手伝ってます」
「君は相変わらず女神様に何をさせているんだ!」
よほど腹に据えかねたのか、ミツルギは怒号をあげてきます。
「アクアが自分もなにか役職がほしいっていたんですよ。それにあの子、建設現場バイトしてましたから今バリケード建設を手伝ってくれている人達となかがいいんですよ。
それにいいですか、街の危機ですよ?女神とか勇者とか言っている場合じゃないと思いません?」
「サトウカズハのくせに正論を...!」
こいつの中じゃ、私は悪鬼羅刹かなんかなんでしょうか。
「わかったらあなたも仕事してください。その取り戻した、魔剣とやらはなんでも切れるんですよね?ちょうどバリケードの木材が不足してきたところなんです。
あっちの森から千本位木を切ってきてください」
「まて、さすがにその数はおかしい...」
「いい加減付き合ってられないので、隊長命令ですつれていきなさい」
私の声と共にミツルギの後ろに屈強な冒険者が現れます。そして、彼らはミツルギの腕をつかむと、そのまま森へと運んでいきました。
「まて、ちょっと、まだ話は終わって...覚えてろよ、サトウカズハー!」
とミツルギは三下の悪役のような絶叫をあげ森へと消えていきました。
「「キョ、キョウヤー!」 」
そして、取り巻きの二人もそれを追いかけ森へ走り去っていきました。なんだったんでしょうね。
私は気を取り直し目の前の草原を見ます。そこでは冒険者や街の住人達が突貫のバリケードを築き、その周りでは《クリエイター》とか言う魔法職の人達が罠用の魔法陣を用意してます。
そして、その先頭には剣を大地に刺し、仁王立ちでまだ姿すら見えないデストロイヤーを睨み付けている金髪碧眼の騎士の少女がいました。まあ、ダクネスなんですが。
「ねえ、ダクネス?悪いこと言いませんから後ろに下がっていましょう?あなたがダイヤモンド並みに硬いと言っても無理がありますって、挽き肉になるだけですよ。
というか、そこにいると邪魔です。貴女のどうしようもない趣味はおいといて、後ろで私と一緒に偉そうふんぞり返っておきましょう、ね?」
私は何度めかわからない説得をダクネスに行います。この変態クルセイダーがここから動かないと言って聞かないからです。
ダクネスは、私の言葉を聞くだけでしばらくじっと黙っていましたが、やがて口を開きました。
「カズハ。...普段の私の行いでそう思うのも仕方がないが...。私がこんな時にも自分の欲望を優先する女だと思うか?」
「思いますけど」
「なっ!」
ダクネスは奇声をあげてのけぞります。
「貴女は基本、自らを省みず変態的嗜好を優先する真性です」
「お前は本当にどんなときでも口さがないな。流石だ、これからもそうであってくれ」
やっぱり、真性じゃないですか。
「...それはさておきだ、カズハ。この私は聖騎士だ。そして、それ以外にも、私にはこの街を守る理由...いや、義務があるのだ。
まあ、この街の連中が気にするとも思わんが、...少なくとも私はそう思っている。だから、無茶だと言われようと此処からは一歩も引かん」
ダクネスのこの街にこだわる理由とやらがなにかは知りませんが、本人とってはよほど大切なことなんでしょう。
だからあえてそれがなにかを聞くつもりはありません。言いたい時にいってくれればいいですし。
「あなたはどうしようもなくワガママで頑固な騎士さまですね」
「ワガママで頑固な仲間は嫌いか?」
「どこかのプリーストのワガママは聞いてると顔を引っ張ったきたくなりますが。
でも、まあ、今の貴女の様なワガママは嫌いじゃありませんよ」
「...そうか」
少しだけ安心した様にそう呟いたダクネスは再び、デストロイヤーの方に向き直りました。
私は誤魔化すように頭を掻きながらめぐみん達のもとへと戻りました。
「残念ですが、説得は失敗です。アクアにすべてを押し付けて逃げる計画が台無しです。あの頭と防御だけは硬い変態を守るためにも全力で成功させますよ」
「そ、そそ、そうですか...!絶対に失敗できない、わ、わわ、私がやらなきゃ...!黒より黒く、闇よりくらき...」
「早いです、早いです。落ち着いてください」
めぐみんはあまりの大役にかなり緊張しているようです。いつも自分の事を大魔導師などとの賜っている彼女も私とそう年も変わらない少女なのだと感じさせられます。
いえ、わたしよりも幼い分、その肩に乗る重圧はより思いのかもしれません。
「ねえ、今、おかしなこといわなかった?ねえ、いったわよね?見捨てるとかなんとか!」
一方緊張とは無縁な女神様は今更ながら私が副隊長に任じた思惑に気づいたようで、何やら一人で騒いでます。
「まあ、いいじゃないですか。どっちにしろもう、この街が守れなかったら一蓮托生。アクセル防衛の責任を仲良くとらされるんですから」
「カズハがなにも言わず、私の言うこと聞いたからおかしい思ったけど...!」
「さあ、めぐみん時間がちかいですよ!見張り台の上に待機しましょう!アクアはウィズと隣の見張り台にお願いしますね!」
そう言って私は逃げるように、正門の見張り台をめぐみんをつれ、かけ上りました。
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
迎撃は正門の左右にある見張り台から行われます。十分な高さから攻撃することで、距離をとって狙いをつけようとの算段からです。
そして、二つに攻撃地点を分けたのは左右の脚が狙いやすいようにと最悪一つが潰されても片方が攻撃できるようにとの考えです。
そんな最悪は想像したくもないですが。しかし、それもうちの駄女神の結界破り次第なのですが...。
「ねぇ、あんた頭から煙あがってるけど大丈夫なの?ねぇ、貴女に私とこの街の命運がかかってるのよ!」
「これは長時間、お日様の下にでてるせいで.....これでも、私もリッチー。最上位のアンデッドなのですから、お任せください。...失敗したら、皆で仲良く土に還りましょう」
「冗談じゃないわよ!冗談じゃないわよ!」
よく聞こえないですがなにやらアクアが騒いでいるようです。なんか、お姉ちゃんからは謎の煙がでてますし、本当に大丈夫なんでしょうか...?
と、その時、魔法で拡大されたルナさんの声が響きます。
『機動要塞デストロイヤーを視認!直ちに防衛隊の皆さんは直ちに戦闘体制に入ってください!また、まだ避難が終わっていない住民の皆さんは直ちに街から離れてください!』
そして、
機動要塞デストロイヤーとかいうふざけた名前はどこぞの転生者が冬将軍や初心者殺しと同じく適当につけた名らしいですが、これに関しては正確にその姿を表した名前だと言えるでしょう。
私、めぐみんの爆裂魔法による破壊力だけは信頼してますけど、その上で思います。これ、爆裂魔法で壊せますか?
やっぱり、無理です逃げましょう!と逃げ出そうとした時、あるものが目に入りました。
あんなにでかくて早い化け物が迫ろうとしているのに一歩も動かない騎士、緊張と恐怖から震えまくっているくせにしっかりと杖をあの怪物に向けている魔法使い、神なのに、なにかに祈り始めた女神。
そんなのを見たら逃げられるはずもないじゃないですか。...最後のはともかく。
私はため息を一つつくと、言います。
「しょうがないですね」
そうして私は、前を向き、この街を襲おうとする災厄をしっかりと見定めます。
さあ、一丁やるとしましょう!
まあ、私、特にやることないんですけどね...。