これは見るしかないですね。
どこまでも青く透き通った空、こんな日はどこか木陰で日向ぼっこでもしたいですね...。
「助けて!助けてください、アクア!」
こんな状況でなければ。
私は買ったばかりのショートソードを握りしめ、巨大なカエルから必死に逃げ回っていました。
「プークスクス、カズハったら超必死でうけるんですけど!」
よし!絶対、あとで制裁ッ!
というか、そんなことより早く助けて!カエルに食べられて死ぬなんて乙女的に絶対に嫌です!
私たちは最低限の装備を揃えると早速クエストを受け、街から少し離れた草原地帯にいました。
あの巨大ガエル、ジャイアントトードを倒すために。
このモンスターはただでかいだけのカエルとはあなどれません。
その大きさは牛を優に超え、人など簡単にひとのみにできます。
特に繁殖期に当たるこの時期は産卵のために栄養を求め、人里にまでおりてきて、農家の家畜を襲うらしいです。
それだけではなく、この時期は子供や農家の人が行方不明になるのだとか。
...このままだと私もその仲間入りですね。
「ちょっ!本気で助けて!これほんとうに死ぬ!!」
アクアはそんな私を見て笑いをこらえながらみています。
「いいわ、助けてあげる!その代わりこれから私を毎日崇めなさい!まずは、そうね私をさんづけ...」
「わかりました、アクア様。...命令です、私を助けなさい」
「えっ?カズハもしかして怒ってる? あっ、体が勝手に!たす、助けて!ごめん、ごめんてば!」
よし、これでカエルはアクアにひきつけられましたね。あれだけ自信満々だったんです、なんとかなるでしょ。
...あれ、そういえばアクアって女神が武器を振るうなんてありえないんですけどー、などと、バカなこといって無装備だったのでは?
私がそう気づいてカエルをみたとき、その口から青いものが生えていました。
「ア、アクアー!なに、食べられてるんですかー!」
私は、手にもったショートソードでカエルに飛びかかった!
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「な、なんとか倒せました...!人間死ぬ気でやればなんとかなるものですね...。」
まだ、心臓がバクバクいってます。カエルって大きくなるだけであんなに怖いものなのですか。
「うわああん...また、カズハがいじめたぁぁ...生臭いよぉ...。」
私の目の前ではアクアが粘液まみれで泣いていました。
「ご、ごめんなさい、アクア。あとで晩御飯のおかず好きなのあげますから」
「...シュワシュワもつけて」
「わかりました、わかりましたから」
全く手のかかる女神様です。いや、今回は私が悪いんですけれども。
「とにかく、今日は帰って寝ましょう。これ、私たちの手に負える相手ではないです。クエストの達成にはほど遠いですが仕方ありません」
このカエル、金属が嫌いらしく装備さえ整っていれば食べられることもなく倒せるらしいのですが...。
買えた装備ってショートソードだけで防備なんてなく、ジャージのままなんですよね。
ああ、なにもかも貧乏なのが悪いのです。
私が黄昏ていると、アクアが拳を握り立ち上がります。
「...いえ、カズハ、ここで引き下がるわけにはいかないわ。たかがカエルごときに引き下がったと知れたら、女神アクアのなが廃るわ!そんなの、私の信者達にも面目がたたないもの!」
...日頃大喜びで労働に勤しみ、酒場で楽しそうにおっさん達との酒宴に混ざり、馬小屋でヨダレを垂らして平気で寝るアクアに立てる面目なんてまだあったのですか。
あれ?...というか、一緒に生活している私も女子としてはヤバイのでは?
いや、私はきっとまだ、大丈夫...少なくとも、アクアよりはましなはず、きっと。
と、目の前の女子力ゼロの生物を見ると...あれ、いない。
「思いしれ、神の力!ゴッドブロー!」
いつまにか、アクアはカエルに向かって殴りかかっていました。私はギルドのお姉さんに教えてもらったことを思い出します。
『ジャイアントトードは分厚い脂肪を持っていて、打撃系の攻撃は効かないので気をつけてくださいね。』
...アクアの拳は見事にカエルの腹にめり込みますが、カエルには全く効いていません。
そして、それを見たアクアは
「...カ、カエルってよくみるとかわいいと思うの」
と無意味な命乞いをし、飲み込まれました。
「ほんとうっに!手のかかる子ですねえ!」
私はアクアを飲み込もうとして動けなくなったカエルをショートソードでなんとか切り倒しました。
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私とアクアはあの後、二人ででなんとか街まで帰ることができました。
そして、いの一番に浴場に駆け込み、あのカエルの粘液やら血やらなにやらを洗い流しました。
...本当、ひどい一日でした。
そのあと私たちはギルドで晩御飯を兼ねたはじめての冒険の反省会を開きました。
ちなみに、おかずはあのカエルの肉です。なかなかに淡白で味もよく、カロリーも低そうですし、女子的には嬉しい食べ物です。
ええ、あのカエルのものだと考えなければ...。まあ、美味しければなんでもいいですけれど。
あんな目にあったアクアも平気でばくばくと食べてますし。
カエルの死体はあの後ギルドの人に頼んで売却してもらいました。
しかし、倒したモンスターの死体の移送もやってくれたのは助かりました。
あんなのまともに運んでいたら朝になりますからね。
で、その辺の処理費用込みでカエル二匹の売却額が一万エリス。
....命がけでこれでは土木作業の方がまだましです。
しかも、受けたクエストは三日でカエル五匹の討伐、このままでは確実に失敗で成功報酬はもらえません。
「わかったわ、そもそも二人でやろうとしたことが、間違いだったのよ。仲間を募集しましょう」
「確かに、仲間がいればもう少し上手くやれるかもしれませんが、私たち駆け出しですよ。こんな私たちと組んでくれる奇特な人なんていませんよ」
アクアはカエル肉を頬張りながら
「ふあいじょうぶよ、わたひがいるのよ。」
となんの根拠もないことを言ました。
「食べてからしゃべりなさい」
まったく、子供ですか、この子は。
「私は最上級のアークプリーストよ、どこのパーティーも喉から出るほどほしいはず!ちゃんともう求人の張り紙も用意してるのよ!」
そう言ってアクアは落書きのようなものを手渡してきました。
急募
アットホームで和気あいあいとしたパーティーです。美しく気高きアークプリーストアクア様とともに旅をしたい方はこちらにご連絡を!
仲間になった方たちの声
「アクア様のお陰で宝くじに当たりました!」
「アクア様と旅をしたら病気も治って美人の彼女ができました!」
採用条件:上級職の方に限ります
当方、へなちょこ最弱職が一名に、超優秀な美人アークプリーストが一名
なんでしょうね、このバカみたいな内容。というか、転生の時もそうでしたが、この子は詐欺まがいの勧誘しかできないのですか。
あと、最後の一文についてはお話が必要ですね。制裁決定です。
「みてなさい、これで明日には仲間にしてほしいって人が列をなしてくるわ!勧誘までできるなんて、なんて素晴らしい女神なのかしら、私!カズハも私の偉大さがわかったなら約束通りおかずを寄越しなさい!」
「はい、はい、アクアはすごいですよー。約束ですからどうぞ」
アクアは私の皿から、からあげを取るとそれを喜んで頬張りました。そんなアクアに呆れつつ、私は彼女渾身の求人を見ます。
...魔王退治が目標とはいえ上級職限定、しかも駆け出しパーティーにってハードル高すぎますよね。加えて、このアクアの渾身の宣伝文句。
これで来るのはよほどのアホだけでしょうね...。まあ、張るだけ張っときましょう。
来なかったら、残念ですが明日もアクアには囮としてカエルの餌食になってもらいましょう。
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「この邂逅は世界が選択せし定め...私はあなた方のような者達の出現を待ち望んでいた!我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操るもの...!上級職募集のパーティーはここで良いのでしょうか?」
...アホが来ました!
あの内容で来る人が本当にいるとは...!
私はめぐみん?と名乗った目の前の少女、いえ、ちびっ子を見ます。
年は12、3 といったところでしょうか、この年頃で働くのもこの世界じゃ普通なんですかね、子供なんて近代にできた概念ですし。
黒いローブを羽織り、黒いマントに、黒のブーツ、手には指ぬきグローブと身長よりも大きな杖、頭には三角帽、片目には眼帯、所々痛いたしいですがいかにも魔法使いって子ですね。
うん...言動、格好、どれひとつとっても嫌な予感しかしません。
「...残念ですが、今回貴女は弊パーティーの選考に落選されました。貴女の今後のご健康とご活躍をお祈りするので、早く帰ってください」
「いきなり、帰そうとしないでください!」
いや、だって嫌な予感がビンビンするんですもの。
あの募集内容で来たということは、よほどのバカなのか、冷やかしで来たかの二択しかありません。
どちらにしたってお断りです。だいたい、めぐみんってなんですか、めぐみんって。
「カズハ、勝手に決めないでよ。せっかく来てくれたのよ。貴女、その紅い瞳、もしかして紅魔族?」
「いかにも我は紅魔族随一の魔法の使い手、めぐみん!我が爆裂魔法は山をも崩し、岩をも砕く...」
言い終わる前にめぐみんはフラフラっと倒れます。
「ちょっ!だいじょうぶですか!?」
私が急いで駆け寄ろうとした、その時、彼女のお腹からキューと切ない音がなります。
「もう、3日もなにも食べてないのです...なんでもいいですから、食べさせてもらえると嬉しいです」
うーん、ちょっとかわいそうになってきましたね。話くらい聞いてあげますか。
「昼食くらいならおごってあげますよ。あと、その眼帯。怪我をしているのなら、そこの彼女に頼むといいですよ。回復魔法だけは得意ですから」
「だけって何よ!カズハなんてなんの取り柄もないヒキニートじゃない!」
後ろでわめいてる女神は、とりあえず無視です、あとで制裁ですが。
「これは、我が強大なる魔力の暴走を押さえるためのマジックアイテム...!これがはずされる時、この世に大いなる災厄がもたらされるあろう...!」
「封印みたいなものですか...?」
ちょっとカッコいいです。闇の力をもつ魔法使いとか憧れません?
「まあ、嘘です。ただ、オシャレでつけてるだけ...あれ、なんで無言で近づいてくるんです?あっ、ごめんなさい、引っ張らないでください!」
やっぱり冷やかしでからかわれてるのでしょうか、私。
「カズハ、彼女達、紅魔族は生まれつき、高い知力と魔力を持っていて、大抵は魔法使いのエキスパートになれる素質を秘めてるわ。彼らは名前の由来になっている紅い瞳と...へんな名前を持っているわ」
なるほど、からかっていたわけでは無さそうですね。私はめぐみんの眼帯を離してあげます。
眼帯をつけなおしめぐみんは気を取り直します。
「へんな名前とは失礼な、私たちから言わせれば、あなた達の名前の方が変わっていると思うのです」
「そうですね。価値観というのはその地域によって変わるもの。互いに理解し、尊重し合うことが大切です...ちなみにご両親のお名前は?」
「母はゆいゆい、父はひょいざぶろー」
...悲しいですが、世の中には理解できない文化というのもあります。
「....とりあえずどうします、この子はアークウィザードなんでしょ?」
「おい、私の両親の名前に文句があるなら聞こうじゃないか」
文句なんてないですよ、ただ理解できないだけです。
「私は採用で、冒険者カードは偽造できないから、彼女がアークウィザードなのは間違いないわ。しかも魔力値もなかなかよ」
アクアが手渡して来たカードを見ます。確かにこれは期待できますね。
「それに爆裂魔法は最上級の攻撃魔法よ、すごい戦力になるわ。」
能力値も悪くなく、最強の魔法の使い手...最良の人材に思えるんですが、どうも嫌な予感がするんですよね。
悪い子ではなさそうなんですけど。
ふと、なぜか転生初日に助けてもらた黒髪の少女のことを思い出します。
そういえばあの子も紅い瞳をしてましたね。もしかして、あの子も紅魔族だったんでしょうか?
結局、あの子とはまだ会えてないんですよね。
あの子が言った世の中助け合いですという言葉が頭をよぎります。....しょうがないですね、これも何かの縁ですか。
「では、仮採用で。アークウィザードさん、好きなのを頼んでよいですよ。」
と側にあった酒場のメニューをめぐみんに渡します。
「ありがとうございます。...なんでさっきから、名前で呼んでくれないんでしょうか?」
....明日はあのカエルどもに逆襲です!
めぐみんとカズマって似た者同士だと思うんですよ。だからカズハさんはこんな感じです。
後、遅くなりましたが、誤字報告ありがとうございます。