生まれてから一番うれしかったです。
本当にありがとうございます!
私がギルドに戻る、と何やらおかしなことになっていました。何故か、アクアの周りに人だかりができており、彼女を一目見ようと押し合っていました。
「アクア様!どうか、どうか、もう一度!」
「アクアさん、このシュワシュワを受け取ってくだせえ!」
「いえ、この一万エリスを!」
何事ですか!?まさか、アクアの正体がばれましたか!?
「嫌よ。ウケたからって何度も同じ芸をやるのは三流の芸人よ!それに私は芸人じゃないから、芸でお金を受けとるわけにはいかないの!これは芸をたしなむもの最低限の覚悟よ、わかったら諦めなさい」
なぜ、この女神は芸道を説いているのですか...。
どうやら、アクアの《花鳥風月》に感動した人達が再演をお願いしてるだけのようですね。
もう、女神も冒険者もやめて、芸人になればいいんじゃないですかね、この子...。
「あっ!カズハ、やっと戻ってきたわね。...って、その子どうしたの?」
アクアは人だかりを押し退けながら、私の隣で落ち込んでいたクリスに興味を抱きます。
「あぁ、この子はですね...」
「クリスはパンツを剥がれたうえ、有り金全部をむしられたので落ち込んでいるだけだ」
私が説明する前に、ダクネスがとんでもないことを口にしました。
「何をいっているのですか!待ちなさい、語弊があります、語幣が!」
私はあくまで、勝負の対価を正当な交渉で売却しただけであって、ダクネスの言い方だとまるで私がパンツを剥いだ上、お金を奪った鬼畜外道みたいじゃないですか!
ダクネスの話を聞いた、アクアとめぐみんがひいていますが本当に違いますからね!?
「ひぐっ、パンツを返して欲しかったらだせるだけのお金をだせって...さもないと、私のパンツをギルドに飾るって」
「カズハ、あんた...」
アクアとめぐみんがごみを見るような目で私を見ています。心なしか、他の冒険者からも冷たい視線を感じます。
やばいです、このままでは私の名誉が!
私が周りの視線に怯えていると、クスクス笑う声が聞こえてきます。
「このくらいの復讐はさせてね?じゃあ、お金もなくなっちゃったし、適当に稼いでくるから。じゃあね、ダクネス」
とクリスはダクネスに手を振るとギルドのクエスト掲示板にいってしまいました。
...見事にやり返されましたね。悔しいです。とはいえ、スキルを教えてくれた恩人です。今度会ったら、お礼の一つぐらいはしませんと。
「そういえば、カズハ、無事にスキルは覚えられたのですか?」
めぐみんのそんな言葉に、私は不適に笑います。
「ふっふっ、その言葉を待っていましたっ!!これが新たなる、私の力!『スティール』ッ!」
そして、私は手の中に確かな感触を得ます。どうやら成功したようです。
「....」
めぐみんも驚きのあまり、声もでないようですね。さすが、私です。そうです、そうですよ、私はこういうのをずっと待って...
「なんですか?レベルが上がって冒険者から変態にジョブチェンジしたんですか?」
うん?なんか、めぐみんの反応が思ってたのと違います。
というか、この手の感触、さっきも感じたような?私は疑問をはらすために手を開きます。
そう、そこにあったのは
「あ、あれっ!?おかしいですね、ランダムでなにか奪い取るってスキルのはずなんですがっ!」
私は、慌ててめぐみんにパンツを返します。
気のせいか周りの私を見る目がさっきよりも冷たい気がします。
早く、何とかしないと変態の百合っ子という評判が定着してしまう!一体、どうすれば....
その時、バンっという音がギルドに響きます。音の主は椅子を蹴って立ち上がったダクネスの様でした。
「こんな幼子の下着を公衆の面前で剥ぐなんて、なんという鬼畜...っ!是非、私にも...」
「変態は黙っててください。そんなにパンツが剥がれたいなら路上で花でも売ってきたらどうですか、ド変態」
「んんっ....!くっ....!」
うわぁ、罵倒されて喜んでます。引きます。こんな変態といると、ますます、私の評判が悪くなるではないですか。
何とかしてパーティーから追い出しませんと。なにか良い手は...。よし、これで行きましょう。
「...話があります、ダクネス。実は、私とアクアはこう見えて魔王を倒し、本気で世界を救おうと思っています」
パンツを穿き直しためぐみんも深刻な表情でこちらを見ています。これは、好都合。二人には悪いですがここで貴女達とおさらばして、私は新しいパーティーを結成させてもらいます!
「丁度いいです、めぐみんも聞いてください。実は私とアクアは魔王を倒し、世界を救うという使命を果たすために冒険者になったのです。ですから、私たちの冒険はとても過酷なものになるでしょう。特に女騎士なんて、魔王にとんでもない目に遭わされるに決まっています。ですから、今からでも...」
「ああ、全くその通りだ!昔から、魔王にエロい目に合わされるのは女騎士の仕事と相場は決まっているからな!それだけでも行く価値がある!」
しまった!変態には逆効果だった!ええい、とりあえずこっちは後回しです。
「めぐみんも聞いてください。相手は魔王。世界最強の存在ですよ?そんなのに挑もうなんていう危険なパーティーに無理して残る必要は...」
めぐみんはそれを聞くと椅子を蹴り上げ、マントを翻し
「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操りし者!我を差し置き最強を名乗る魔王!そんな存在は我が最強魔法で消し去ってくれましょう!」
と高らかに魔王に宣戦布告しました。
だめだ、この子もこういう子だった...。でも、こいう時にむしろカッコつけたいという気持ちはちょっとわかります。
しかし、二人がむしろやる気に、どうしたものでしょうか...
「ねぇ、ねぇ、カズハ...」
私が頭を悩ませているとアクアが服の袖を引っ張ってきます。
「カズハの話を聞いてたら、なんだか私、腰が引けてきたんですけど。何か、楽して魔王討伐できる方法とかない?」
なぜ、あなたに一番効いているんですか...。
というか、多くの日本人を魔王退治に送り込んどいて、それはないのでは....?
と、その時。
『緊急クエスト!緊急クエスト!街の中にいる冒険者は、至急街の正門に集まってください!繰り返します。街の中の冒険者は、至急街の正門に集まってください!』
街中に大音量のアナウンスが流れます。魔法で音を流しているのでしょうか。
そのアナウンスと共に冒険者達は正門に駆け出し、街の人々は急いで家に戻り、窓を閉めはじめます。
「何事です、モンスターの襲撃ですか!?」
「皆は私が守る、カズハも私から離れるな」
私は訳もわからぬまま正門まで来ていました。一体何が起こるというのでしょうか?
「あー、カズハは知らなかったわね。キャベツよ、キャベツ」
「は...?」
何をいっているのでしょうかこの駄女神は?
「えーと?キャベツってモンスターの名前か何かです?」
私の質問を聞いためぐみんとダクネスは可哀想な人をみる目でこっちを見てきます。
なんですか、ちょっとムカつくんですが。
「キャベツは緑色の葉野菜のことです」
「サラダによく使われるシャキシャキとした、美味しい野菜のことだ」
「そんなことは知ってます!そんなものになんで冒険者が駆り出されているのかということをですね...」
とその時でした、一陣の風が舞い砂ぼこりで視界が遮られます。
そして、それが晴れると、空が緑色に染まっていました。いいえ、違います。
それは無数のキャベツでした、無数のキャベツが空をとんでいました。
「なっ、なんですかあれはー!」
私が空を飛ぶ緑の物体に唖然としているとアクアが厳かに語り始めます。
「この世界のキャベツは飛ぶわ。味が濃縮され収穫の時期が近づくと、簡単に食われてたまるかとばかりに。街や草原を疾走する彼らは大陸を越え、海を越え、最後には人知れぬ秘境の奥地で、ひっそりと息を引き取るというわ。それなら、私達は彼らを一玉でも多く捕まえて美味しく食べてあげようというわけよ」
何がというわけですか。この世界の野菜がこんな非常識なものだったなんて....。
しばらく、野菜は食べられそうにないです。
「みなさーん、今年もキャベツの収穫時期がやって来ました!今年のキャベツは非常にできがよく、キャベツ一玉につき一万エリスが支払われます!人数と額が額ですので支払いは後日になりますが」
ギルドのお姉さんのその言葉に冒険者達から歓声が上がり、士気がたかまります。
しかし、私はもう帰りたい気持ちで一杯でした。何が悲しくて、異世界でキャベツと戦わなきゃいけないんですか....。
私がそんな様子で空飛ぶキャベツを眺めていると、ダクネスが話しかけてきます。
「カズハ、いい機会だ。私の実力、しかとその目で確かめてくれ」
そういうと、ダクネスは剣をかまえキャベツに向かって駆けて行きました。そして、その剣でキャベツを真っ二つに....。
あれ?...ダクネスの剣はキャベツに掠りもせず空を切っています。ダクネスはそれでも剣を降り続けますが一撃も当たりません。
...あれだけの数のキャベツを前に一撃もあてられないって逆にすごいです。最早、ある種の才能ではないでしょうか。
しかし、あの早さであの大きさのキャベツが飛んでくるというのは結構な脅威ですね。街の人々が急いで帰路に着いたのも、冒険者が集められたのも、納得です。
あれ、当たりどころが悪ければ普通に死にますよ。
すでに何人かの冒険者は直撃を喰らって倒れてますね。
あ、また犠牲者が...
「あぶない!」
そうダクネスが叫び、キャベツによって倒れた冒険者をキャベツ達からかばいます。ダクネスの体に数十玉ものキャベツが突進し、鈍い音が鳴り響きます。
「ダクネス!貴女、死ぬ気ですか!早く逃げてください!」
「バカをいうな!倒れたものを見捨てられるものか!」
バカなのですか、いくら変態でも限度があるでしょう!人を庇って自分まで死ぬ気ですかあの子は!
ダクネスの鎧がキャベツによって破壊され、周りに散らばっていきます。もう、我慢できません。ひっぱ叩いてでも連れて...
私はその時、気づきます。ダクネスの顔が紅潮していることに。そして、あれだけのキャベツがぶつかっているのにも関わらず、体には傷一つ付いていないことに。
...耐久力には自信があるとか言ってましたね、そういえば。
心配した、私がバカでした。というか、よくみるとあれだけのキャベツが当たってるのにも関わらず満面の笑みですよ。キモいです、怖いです、変態です。
わかってましたけど、あの子、真性のマゾヒストさんです。
そんな、ダクネスの本性に気づいていない、周りの冒険者達は口々にダクネスの献身を褒め称えています。
「あんなになってまで私達を守るなんて!あの子は聖女よ!」
「なんという、気高き姿。あれこそ、騎士の鑑」
違いますよー、ただの変態ですよー。あれが騎士の鑑なら騎士というのは変態の集団ですよー。
その時でした、丘の上から見たことのある影が現れたのは。
そう、我らが宿敵ジャイアントトードです。
「なんですか!十体やそこらじゃ、きかない数ですよ、あれ!」
私の叫びにいつぞやのしたり顔のモヒカンおじさんが答えます。
「ジャイアントトードは栄養価が高いキャベツを好んで食べるんだ。だから奴らもキャベツを追いかけてここまで来る。しかし、今年は例年にもまして多い。やつらが異常繁殖しているという噂は本当だったか!」
キャベツの相手だけでも手一杯なのに、さらにカエルの相手なんていやですよ、私。本当に帰りましょうかね...。
そうこうしていると、めぐみんが冒険者達の先頭に立ちます。
「我が必殺の爆裂魔法の前に何者も抗うこと叶わず!」
めぐみん?なにをしようとしているの?
「あれだけの大群を前に爆裂魔法を放つ衝動をおさえられましょうか?いやない!」
いや、ありますけど!?
「めぐみん!こんな至近距離で爆裂魔法なんて、放ったら私達も巻き込ま...」
「『エクスプロージョン』ッ!」
めぐみんのその声と共に総てが光に包まれました。
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納得いきません。
私は、ギルドから慰労として振る舞われたキャベツの野菜炒めを食べながら思いました。
何故、たかがキャベツの野菜炒めがここまで美味しいんですか?
結局、お金につられてキャベツを捕まえましたが、後悔しかありません。
私は、魔王を倒す勇者になるために異世界にきたはずなのに、何が悲しくてキャベツを捕まえているんでしょうか?
「ダクネス、貴女、さすがね!貴女の鉄壁の守りにはキャベツ達も攻めあぐねていたわ」
「なに、私などただ固いだけの女だ。誰かの盾になることしか取り柄がない」
ええ、そうですね。攻撃力皆無ですもの、この変態聖騎士。
「アクアの魔法や《花鳥風月》も見事でした。冒険者の士気を高めつつ、『クリエイト・ウォーター』で作った冷水でキャベツの鮮度を保つとは。」
それ、冒険者の仕事なんですか?
「それほどでもあるわね!」
すぐに調子にのりますね、この子は。
「めぐみんの魔法もすさまじかったぞ。あのジャイアントトード達を一撃で吹き飛ばしてたではないか」
「ふっふっ、紅魔の血の力、思い知りましたか!」
一緒にキャベツも数十玉は消し炭になりましたけどね。
「ああ、あんな威力の魔法の直撃、はじめてだった!」
なんで、あれが直撃して生きてるんですかね、この変態?ゴキブリかなにかなのでしょうか?
...カエルと一緒に消え去っていればよかったのに。
「カズハも、なかなかのものだったぞ。私がキャベツに囲まれ袋叩きされたときも、颯爽と現れ、瞬く間にキャベツを捕獲していってくれた。助かった、礼をいう」
...別に、助けた訳じゃないですよ。ボコボコにされているのに、笑顔なのがキモかったので邪魔しただけです。... 本当ですよ?
「私も、爆裂魔法を放って動けなくなったあとすぐに背負って回収してくれて大変助かりました。それに潜伏スキルを使って、気配を消し、敵感知でキャベツを捕捉し、窃盗で強襲するその姿は、鮮やかな暗殺者のごとしでした」
誉めてくれているんでしょうが、キャベツの収穫について誉められても嬉しくともなんともないです。
めぐみんの私の評価を聞いてたアクアが立ち上がり私を指差します。
「カズハ....女神、アクアの名において、貴女に【華麗なるキャベツ泥棒】の称号をあげるわ!」
「...アクア、もし、貴女が私をその称号で呼んだら、裸で街を一周させますからね」
アクアは手のひらの服従のスペルを見て黙って座りました。まったく、そんな、ふざけた二つ名で呼ばれてたまりますか。
「では改めて、私の名はダクネス。職業はクルセイダーだ。一応、両手剣を武器にしているが戦力としては期待しないでくれ、不器用過ぎて攻撃がほとんど当たらん。だから、遠慮なく、私を囮や盾がわりに使ってくれ。なんなら、捨て駒にしてくれても構わん!」
「ええ、遠慮なく」
「んくっ....。即答とは、さすがカズハだ!」
満面の笑みで喜んでますねこの子、キモいです。
しかし、どうしてこうなったのでしょうか。表面だけ見れば、あらゆる回復魔法を操るアークプリースト、最強の魔法を使うアークウィザード、鉄壁の守りを誇るクルセイダー、上級職ばかりの最強パーティーなんですけどね、中身は...。
はぁ....、私の冒険者生活は一体これからどうなるんでしょうか?
正直、キャベツの時のダクネスとカズハのやり取りが書いてて一番楽しかったです。