新勇者バーバラの冒険 未熟時代の外伝置き場 作:ランスロス・マッキ
cityを出立した高速うし車はシャングリラを経由して、スードリ、マイクログラードを抜け――バーバラはラング・バウに到着した。
「あ~~っ、窮窟だったぁ。数日で着くのは凄いけど乗り心地は最悪ね」
狭い車内で荷台として過ごしたバーバラは、固まった筋肉をほぐしつつ、故郷の風土と開放感を味わっていた。
他国民に石と評されるヘルマンパンをガリガリと食べつつ、ラング・バウ城内へ向かう。
アポイントメントを取っていないので、本来ならば入城には面倒な手順を済ませる必要があるが、通行券なら用意があった。
「ここより先は目的と身分を告げて頂きます」
「大統領秘書のペルエレにお願いします。ねーさんにバーバラが会いに来たと伝えてください」
「ああ、この手袋は……了解致しました。少々お待ちください」
ヘルマン帝國の刺繍が入ったメイド手袋を渡し、程なくしてバーバラは大統領府に案内される。 指定された一室に入ると、15年前から全く変わらぬ少女、ペルエレ・カレットが座っていた。
「ねーさん久しぶり! こんなに早く案内されると思わなかった」
「私目当ての来客だからね、仕事はちゃっちゃと終わるからそっちを先にするのよ。どんな人でもすぐ会えるようにしてるのよ」
(シーラに仕事ぶん投げてサボるチャンスだしー)
「おお……ねーさんかっこいい…………」
憧れにキラキラと目を輝かせているバーバラ。バーバラにとって、ペルエレは鬼畜王戦争の時期に知り合って以来最も尊敬している人物だ。
貧民から立身出世して国の中枢を担い、自分のような庶民にも立場の差なく接する。
バーバラは、彼女のような女性になりたいと思って家を飛び出していた。
「しっかしあんたも呼び方変える気ないわね……実の姉妹でもないのに」
「ねーさんはねーさんだから。会ってからちっとも変わらないんだもの」
「そりゃ使徒になったからね。第二次魔人戦争の活躍は話したでしょ?
スパイと悟られずに、魔人の懐に潜り込んで戦況をコントロールした時のおまけ」
「ついでで永遠の命なのがかっこよすぎるよー!」
ペルエレ・カレットは第二次魔人戦争時代に、魔人四天王ケッセルリンクのところへ単身潜り込んで使徒となった。
作戦決行の際には、他の使徒を無力化して、人類総統ランスがケッセルリンクを討伐した際の決め手になっている。
その後のリーザス大戦、勇者災害、鬼畜王戦争、ヘルマンの分裂等々、ヘルマンを襲った災難や戦争を、ときには魔王軍に寝返ってヘルマンに必要な情報を流していた。
これらのペルエレが語ったホラは、ある程度は正しいのだが、大幅に脚色されているものをバーバラはすっかり信じ込んでいる。
気を良くして、シーラが煎れてくれたコーヒーを飲みながら、サボり魔は話を進めることにした。
「ま、茶飲み話をしにわざわざ来たんじゃないんでしょ? 手紙で冒険者始めたって送ってたからもう暇じゃないだろうし」
「あ、うん。翔竜山について来て欲しいの。写真取ったらお金くれるって任務が来たから。
ねーさんは今でも魔王軍の関係者で、定期的にスパイしてるんでしょ?」
「あぁ……まーね! 有能だから魔王軍でもひっぱりだこよ! もう裏切っても切れないって感じ?」
(ビスケッタさんがやってくれって言うからやらざるを得ないのよ……
一回ヘルマン離れて逃げたのに、わざわざ報告を聞きに逃走先まで来たし逃げられなかった。
あの人魔人よりこわい)
実際は、どちらにもいいように使われている連絡用のコウモリだった。
本音は身の危険しかないから諸々の立場から開放されたい。
しかし鬼畜王戦争以降、人類圏で彼女の生きられる立ち位置は西ヘルマンしかないため、詰んでいる。
「まぁ、そろそろ定期報告の時期だし連れていくぐらいはいいか。ちょうどあのアホいないし」
「あのアホって?」
「魔王ランスよ、シーラが言うにはビンタが成功してどこぞへ雲隠れだと。
……わかんないだろうけど、要は魔王はいなくて比較的安全ってことよ。気分いいわー」
ケタケタと笑いながら、ここ最近の不安の解消をこぼす。
ペルエレが漏らした情報は、本来バーバラのような庶民に伝えていいものではなかった。現在もアサシン組織である闇の翼が懸命に捜索中なのだが、愚痴のついでに漏らす時点で秘書としては優秀ではない。
「魔王をアホって言える使徒がいるんだ……何にせよ、いないのは丁度いいね」
「ほっとんどの使徒にはボロクソよあいつ。オーロラと私はくたばれって思ってる。魔王城のメイド達もそうなんじゃない?」
使徒には使徒同士の交流と立場、立ち位置がある。ペルエレは反魔王派のグループだ。
以前からそれなりに悪縁があるせいか、魔王に染まった時だけでなく、シラフの時でも絶対命令権でこき使われてきた。
本来魔王ランスは絶対命令権を使うことを好まない。魔人も、魔物相手にもほとんど使わない。何故かペルエレだけは、こいつならいいやと使いまくっていた。
魔王になった夜の裸踊りから始まり、アメージング城の建築、愛人作りの身分の誤魔化しまで。絶対命令権の使用回数は、二位と桁が一つ違うほど使われていた。そうなっては、ペルエレが反魔王になるのも当然だ。
「魔王軍のドロドロな事情は怖いだけだよ……それより、どうやって翔竜山に向かおうか?」
「ここから二人で歩いて行くのも面倒ね。シーラに高級うし車を用意させて、それで行きましょ」
「大統領に!? 豪華なの用意させていいの!?」
「へーきへーき、最新式の高級うし車まで頼むから。魔物も振り切って翔竜山のすぐ近くまで行ける最高速の旅を見せてあげる」
「う……ただの冒険者のつきあいでこれって良いのかな……」
「私一人でもやるけど。最近都市を離れた移動とか徒歩でやってない」
シーラの甘さに付け込んだ、権力の濫用だけは秘書として成長していた。
一方、それだけの信頼を得ているのかと、バーバラはペルエレに対する尊敬の念を強めた。
「明日の朝にランク・バウの正門に待ち合わせね。現地で写真はいいけど、標高3000超えると魔王軍から文句出そうだから諦めて」
「す、凄い……これが、15年以上も信頼を受けている大統領の秘書……」
とんとん拍子で話がまとまる手際に感動し、バーバラはペルエレに抱き着く。
「ねーさん大好きー! 愛してるー!」
「はいはい、あんましひっつくな。あと儲けは6割私だからよろしく」
「……………………」
バーバラはフリーズしたのを機に、ペルエレはニヤリと笑ってデコピンをかまして引きはがす。
「あうっ」
「当然私が儲けないと受ける気ないわよ、私がいないと成立しないし6割は優しいでしょ。
精々良い写真たくさん撮ろうじゃなーい。こっちもた~っぷりネガ持ってくから」
「ねーさん抜け目ない……くうううぅ…………」
こうして、小心者コンビの翔竜山登頂が決まった。
うん、酷い。これは特にひどい。
小説形式とゲームの違いが分かってないんだよなあ……