新勇者バーバラの冒険 未熟時代の外伝置き場   作:ランスロス・マッキ

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 全ての外伝はバーバラとはほとんど関係がありません。時系列的にはこの遥か先にバーバラの物語もあるというぐらいで、筆者が思いついたまま書きたいだけの話たちです。読み飛ばしても本編に問題はありません。


魔王就任(上)

 魔軍総大将、魔物王ケイブリスを討った魔人討伐隊は本拠地cityに凱旋した。総大将を失った魔軍はその数膨大なれど、統制は失われた。少しばかりの時を要するだろうが、いずれは魔物界にほとんどを追い返せるという目途が立ちつつある。凱旋と時を同じくして、祝賀会が開かれる事となった。

 しかしその祝賀会の最中、二つの悲劇が起こった。世界総統ランスの奴隷であるシィルの死と、来水美樹の魔王への覚醒だ。

 特に後者は深刻だった。魔王は魔物達の絶対君主であり、血の衝動によって人類に対して破滅的な破壊を繰り返す。魔王リトルプリンセスが誕生すれば、人類は滅ぶ。現場では様々な対処療法が試されたものの効果はなく、方法は違えど結論としては『誰が魔王になるか、資格があるのか』ということになった。

 

「あ゛あ゛あぁあぁあ゛ぁああ゛ぁああ!!!!!」

 

 世界総統ランスは自室で心臓を抑えてもがき続けていた。自身が望んで血の継承を受けてから既に一時間。今も魔王の血と戦っている。

 継承が無事に済み、これだけの時が経っても叫び声が聞こえる時点で、ランスが魔王の資格者であった事は疑いようがない。問題は、来水美樹の時からあった覚醒が止まらない。まるで神が未覚醒な状態というものを許さないかのように、ランスを魔王という存在に作り変えていく。

 

「新しい魔王様は、どのような方かしら……」

 

 人がほとんどいなくなった、ランス城の客室でハウゼルが呟いた。

 継承を受けた直後のランスの命令もあって、既に魔人討伐隊、及び城内のほとんどの人間は退避している。パイアールロボに至ってはルートと一緒に遥か彼方へ消えた。残っているのは死ぬ覚悟のある者か、魔人、使徒、魔物ぐらいだった。

 

「魔王になると性格変わるし、元も酷い口デカ男だから人類にとっては良くないでしょ」

「ランス総統はワガママな子供みたいだけど、強い意思を持つ人だったから……あの人に似た魔王様になってくれるかもしれない」

「……どのような方であろうと、魔王様の意に私達は従うだけです」

 

 サイゼル、シルキィ、ホーネット。それぞれが新しい主の誕生を待つ間に各々の思いを口にする。この世界では絶対的な力を持つ彼女達も、魔王にとっては多少便利な手足でしかない。頭を思っても、出来ることはない。

 

「ま、それはともかくとして……あいつはどこへ行った?」

「魔王様の近くにいるのでしょう」

「……いてもどうにもならんだろ」

 

 タハコをぷかぷかと吹かしながら、レイは上を仰いだ。

 

 

 

 ランス城6階、ランスの自室。サテラはその部屋の扉に、耳を傍立てるように寄りかかっている。苦しみながらも自室に駆け込むランスを追っていたが、入る事を禁じられた。新しい魔王だからというより、ランスに言われた事が、サテラの足をそこで止めている。

 

(…………ランス、ランス、ランスぅ……!)

 

 サテラは祈っているが、何を祈っているのかは自分でもわからなくなっている。魔人や魔王というものは抜け落ちた、想い人を案ずる一人の少女になっていた。もがき苦しむ声を聞き続けて、それでも誰よりも近くにいたかった。

 先ほどまでの叫び声は少しづつ収まり、今では物音がほとんどない。それでも少しでもランスの声が、生きてる証が聞きたくて、より強く体を扉に押しつける。そうしたところで扉は内に開かれて、支えを失ったサテラは頭からランスの部屋へとなだれ込んだ。

 

「あうっ!?」

「……何やってんだ、お前」

「ラ、ランス!? いや、これは……」

「ふっふっふ…………」

 

 ランスはいつもとは違う服、鎧を着ていた。

 黒を基調とした色合いのインナー。それに合わせるように重厚な厚みのある鎧。そして、足先まで伸びる長いマント。身体も変わった。爪が尖り、人を傷つけやすい鋭利な刃物のように尖っている。元々茶色だった目の色が、赤に染まっている。

 魔人の本能で察した。目の前の人が、新しい主、魔王となっていることを……

 

「がはははははは! 俺様は魔王になったぞ!!!」

「あ……あ……あ……」

 

 少し呆けたが、主を迎える態度ではないと気づき、サテラは慌てて跪く。

 

「ま、魔王様はその、以前とお変わりは……ありませんか?」

「くだけた敬語が似合わんなあ……まあいいか。俺様は俺様だ。さっきまで魔王の血とやらがちょーっとうるさかったが、俺様が一括したら逃げだした。魔王の力は完全に俺のものだ!!! がーっはっはっはっは!」

「あっ……」

 

 馬鹿笑いと、その明るい声色を聞き、歓喜の感情に染まった。この人と共に歩める事が、たまらなく嬉しかった。

 

「魔王様……! おめでとうございます! サテラは一生懸命、魔王様に仕えていきます!」

「うむうむ。では魔王として最初の命令をサテラに与える」

「ああっ……なんなりと!」

 

 魔王としての最初の命令。それを受ける立場である光栄に心が躍り、なんとしてでも完遂しようという決意に満ちる。

 

「うむ、重要な命令だぞ。その命令とは……セックスだーーー!」

「ひゃああああ!?」

「がはははは! 魔王になった俺様を満足させろ! とーーーーー!」

 

 ランスはサテラに襲い掛かり、その身体を思うままに貪った。

 

 

 

 

「んゆぅ……ランス、すき……だいすきぃ……」

「態度は変わってもサテラはサテラだな。中々気持ちよかったぞ!」

 

 ランスは萎え知らずで、まだまだいくらでも出来そうだ。ただ、あまり張り切り過ぎるとこの後に堪えるかもしれない。そう思って自室から出ようとする。魔王の服を着ようと思ったところで、絡みつくように服の方から魔王としての衣装を整えていく。

 

「おお……これは便利だな。脱ぐのも着るのもあっという間か」

 

 精力増強。肉体強化。全てが至れり尽くせり。魔王として与えられる特典に、ランスは深い満足を感じていた。

 

「御主人様。全て手筈は整いました」

「うむ。屋上から行くか。サテラも落ちついたら玉座の間で待っていろよ」

 

 残っていた数少ない人間、メイド長のビスケッタが部屋の前に待機していた。ランスはサテラの相手をしている一方で、彼女に大雑把な命令を飛ばしていた。魔王の新しい部下を集めろと。

 ランスはそのまま、ランス城の屋上に上がり、一息に城下へと飛び降りる。

 

「とー!」

 

 全く衝撃を感じないようにふわりと城下に降りる。魔王の元では自然法則の方が捻じ曲がる。魔王の思い通りに、一切衝撃を感じさせないように柔らかく城下に着地した。

 ランス城下は、にわかに騒がしくなっていた。魔王軍の結成。そこに馳せ参じるチャンスが沸いたのだ。魔人討伐隊だった魔物達や、ホーネット派だった魔物兵の捕虜。ケイブリス打倒時に参戦したマエリータ隊。ストーンガーディアンや絶魔物まで、ありとあらゆる魔物達が、ランス城下に集結していた。

 

「あと一時間もあれば、現時点で魔王軍として動かせる戦力として形になります」

 

 これらの編成を命じられた暫定魔物大元帥、学者は降りてきた新しい主に報告した。

 

「多すぎるわ。解散! 城には女の子以外入れるな!」

「……そう言ってくるのは分かってましたよ。落ちついたら、私も玉座の間に向かいますので」

 

 以前と全く変わらぬランスを見て、学者は思わず軽口を叩く。絶対君主に対してはあまりに迂闊な言動だったが、何故かそちらの方が相応しいように感じられた。

 

「グズグズしてたらクビにするからな。キリキリ働け」

 

 ランスは自分の城へと戻っていく。他には目もくれずに、誰もいなくなった2階の祝賀会場へと向かった。

 ……そうして、一時間以上の時が経ってからランスは玉座の間に戻ってきた。それと共に、そこに集っていた魔人、使徒のほとんどが拝跪して主を迎える。

 

「がはははははははははははははははは! 壮観だな、これが全員俺様の奴隷か!」

「余は違うがな」

 

 残っていた数少ない人間、ミラクル・トーが胸を張ってランスの隣にいた。

 

「……ミラクル、お前なんでここにいるんだ」

「この世界の王である余ならば、魔王を見ないわけにはいくまい」

「こ、こいつ……魔王様になんて不遜な……!」

「こいつはこういう奴だ。気にするな」

 

 大して意に介さずに玉座にランスは座った。ぐるりと改めて周囲を見ると、魔人討伐隊に参加していた魔人、使徒全員がいる。人間と同じところに避難していたニミッツやオーロラまで連れ戻されていた。恐らく、復活したサテラがシーザーと一緒に連れ去ったのだろう。戦力過剰の一座に、放り込まれて涙目になっている。

 多数の魔人、使徒。魔物代表の学者、ミラクル、カオスを持った日光、元魔王の美樹、メイドのビスケッタ。そして魔王ランス。以上が玉座の間にいる全ての人と魔だ。

 魔王ランスの魔王就任式が始まった。

 

「新たなる我らが主。その誕生を心よりお祝い申し上げます。我ら魔人、使徒一同は貴方様に忠誠を誓い、手足となって魔王ランス様の為に働き、この世界の秩序を守っていきます」

 

 魔人筆頭ホーネットは、新たなる魔王の誕生を言祝ぐ。

 

「うむ。だが堅苦しいのはもういいぞ。それより魔王ってのは何が出来るかって話をしたい。美樹ちゃんを救う為に魔王になったが、魔王についてはなんも知らん」

「魔王は全ての魔物、使徒、魔人に対しての絶対君主です。絶対命令権を持ち、この世の全てを支配できる存在です」

「その絶対命令権ってのはなんなんだ? ビリビリブス専が跪いてるのもそれが理由か?」

「……そうだ。俺達は魔王に死ねって言われたら死ななくちゃならねぇ。自分の意思関係なく身体が勝手に動く」

「ほほーう……面白そうだな。よしビリビリ、試しに自分を殴ってみろ!」

「嫌に決まってんだろ」

 

 レイは跪いたまま、魔王の言う事をあっさりと拒否した。自分を殴る事もない。

 

「……ん?どういう事だ。ついさっき言った事なのに何も起きんぞ」

「私達にも分かりませんが、魔王様には絶対命令権を使った言葉と、そうでない言葉があるようです」

「つまり、普通に喋るのと絶対命令権の言葉とやらは別と……ん?」

 

 そのように考えている内に、ランスの中に一つの『力』があるという意識が生まれた。魔人の血、使徒の血、魔王の血、あくまで自分の血の延長であるように、操作が出来そうだ。

 

「うむ、俺様もわかった。恐らくは『これが絶対命令権』なのだろう。なのだろうが……」

(……使い辛いな。とりあえず試してみたいんだが、魔人連中は進んで跪いてるし、大体の事は自分からやってる事と見分けがつかない。だからやりたがらない事をやらせるべきなのだが……)

 

 ホーネット、シルキィ、レイ、サイゼルハウゼル、ユキに火炎書士……どれもこれも一癖も二癖もあるような魔人や、使徒達だ。人間であったランスとの価値観がズレているところも多い。誰に何を言うべきか悩んでいる内に――ペルエレが目に入った。

 

「あ、こいつでいいや。おいペルエレ」

「ひぃっ!?」

 

 使徒ペルエレ、つい最近まで人間だった少女。人間側にいたのだがシーザーに連れ去られてランス城に戻されていた。哀れな犠牲者は彼女に決まった。

 

「光栄に思えよ。魔王の最初の絶対命令権を使用する相手はお前だ!」

「かかか、勘弁してください、魔王様……私忠誠誓ってますから。頭だって下げてたでしょ?」

『ペルエレ! 裸踊りをしろ!』

「ぎゃーーーっ!」

 

 ペルエレはマリオネットのように跳ね起きて、自分の手に服をかけていく。あっという間にすっぽんぽんになり、踊り始めた。

 

「がはははははははは!! これはいい! これは便利な能力だなー!」

「ふざけんなこのクソ魔王ー! だから存在感消してたのにー!」

『もっとエロく踊れ! ポールダンスのねーちゃんみたいに!』

「くたばれー! 地獄の業火にその身を焼かれてもがけー!!!」

「がーっはっはっはっはっはっは!!」

 

 ペルエレがどれだけ悪態をついても、彼女の体は踊るのをやめない。複数の視線がある中で、ポールの無い状態のポールダンスを懸命にやっている。厳かな雰囲気は、無茶苦茶になった。

 

「うむ。絶対命令権とやらについては把握した。色々面白い事が出来そうだな。くくく……」

 

 そう言うと、ランスは玉座の間から外に飛び出して、『力』のボリュームを最大に設定して大声で叫んだ。

 

『この近くにいる魔物で偉い奴。魔王様であらせられる俺様のところに来い! 明日の朝までにさっさと来い!』

 

 どよめきが、どこか遠くで起きた気がした。満足したランスは戻ると、学者に問いかけた。

 

「……さて、これでどうなる?」

「今ので魔物将軍、魔物隊長はこちらに来るでしょうね。不可能な命令は解除されたはずですから、そこまで遠方からは来ないでしょう。それでも、パラパラ砦に集結していた魔軍は大混乱かと。可能でしょうから」

「夜通し急げばか、それはいい! 今の一声で徹夜か! がはははは!」

 

 悪しき企みを含んで、それでもなお陽気に笑うランス。今のところは、身内に大迷惑なだけの魔王だ。

 

「うむ。とりあえずはこんなところでいいか。他に魔王で出来る事って何かあるのか?」

「私達魔人は、魔王様から血を貰うことで魔人となりました。つまり、魔王様には好きな方を魔人に出来る力があります」

「それはわかるぞ。だが枠が狭いな……残り二つみたいだ。せめて5つは欲しいな」

「今大戦で、魔王様は多数の魔人を討ち取られました。彼等を、私達もどうしようとも魔王様の御心次第だと思います」

「女の子は皆可愛いから手放す気はないぞ。真っ先にクビにしたいのがとりあえず一体いるし、そいつだな」

 

 そう言って、ランスは呆けている健太郎に掴みかかった。

 

「ぐぅっ!?」

「健太郎君!?」

「こいつのせいで美樹ちゃん攫われるわウザいわ役に立たんわ……俺様の奴隷なんて受け入れられるか、クビだクビだ」

 

 そう言って、ランスの容易く魔人を引き裂ける手を、頭へと持っていく。

 

「や、やめて……ください。健太郎くん、殺さないで……ランスくん……おねがい……!」

「もう終わったぞ」

 

 そう言って手を放すと健太郎が崩れ落ちた。胸と口から、多数の血が抜き取られたような跡がある。

 

「健太郎くん! 健太郎くん!」

「美樹ちゃん、ごめん……でも、君を守れたから良かった」

「かっこつけてないでとっとと起きろ。魔人の血を抜いただけだ」

「「えっ」」

「…………そんな事が、可能なのですか?」

「お前ら魔人殺し共は分かるだろ。どうなんだ?」

「うそーん…………マジだ。魔人じゃなくなってる」

 

 日光も、カオスも、自分の機能から察したが、未だに信じがたい。魔人を人間に戻す事が出来る。このような事をあっさりとやるあたり、ランスは完全に魔王の力を使いこなしている。

 血の衝動を完全に封じ込めて性格が変わらず、力は十全に利用する。就任一日目でこの有様は、まるで魔王をやる為に生を受けたような才能があったように感じさせた。

 

「俺様は出来た。他は知らん。殺しても良かったが、美樹ちゃんが悲しむしなー」

「ランスくん……」

「お代は前にたっぷりと頂いたからな。ベッドの中で初々しくてよかったぞ」

「も、もう!馬鹿馬鹿ー!」

 

 来水美樹はぽかぽかとランスを叩く。その力は魔王の頃からは違って、年頃の少女相応になっている。当時の全力でも、ランスに大きなダメージは与えられないだろう。

 

「他に魔人や使徒を辞めたい奴はいるかー? 俺様も無理強いしてまで奴隷が欲しいわけじゃない」

「あ……わ、私もお願いしてもいいですか?」

 

 眼鏡の、この場の頂上戦力に萎縮されていた少女が手を上げた。

 

「ニミッツか、いいぞ。ちょいちょいちょーい。フィーッシュ!」

「あ、ああっ!?」

 

 もはや触れる事もせず、魔王が手を上げるだけでニミッツの魔血魂は口から出て行く。これで彼女は魔人ではなく、ただの一人の女の子に戻った。

 

「もういないか?」

 

 誰も答える者はいない。永遠の命を捨てられると言われても、すぐにはその決断は出来ない。

 

「男には、特に僕には厳しいから……ランスさんは僕を殺すと思っていました」

「男の奴隷なんていらん。美樹ちゃんは元の世界が良いんだろ。……今度はさらわれるなよ。3回目は許さんぞ」

 

 ランスは後ろを向いたまま、そう言った。どんな顔をしているかは、健太郎達には見えない。

 

「ミラクル」

「はっはっは。こうなると思っていたからスチールホラーへのゲートを開いておいたぞ」

 

 二人は人間に戻り、帰る為の道も用意されている。美樹がホーネットに視線を向けると、彼女は頭を深く下げていた。日光も口元を緩めて二人を眺めている。

 

「さて、どうでもいい事は済ませた。後は本題だけだ」

「……本題? 魔王様がこれからどうするか、という事でしょうか?」

「そのとーり、俺様の華麗な魔王様一日目だぞ? 素晴らしい計画がある」

 

 魔人、使徒に緊張が走る。彼等は魔王の下僕。魔王の示した方針に従うしかない。どれだけ破滅的なものでも、絶望的なものでも。

 

「その計画とはどのようなものでしょうか?」

「その計画とは――――――今日は俺様が魔王になった記念日だ! よって、魔人使徒大乱交だ!がーーっはっはっはっはっはっはっは!」

 

 ランスは魔王の鎧をすぽぽーんと脱ぎ全裸になった。

 

「ああ……」「魔王様ならそうなるよね……」「グロい顔の火炎ちゃんもですか!?」

「念願の魔物界ハーレムだ! 拒否権はないぞ! 『女の子は全員服を脱げ! 男部屋から出ろ!』  

 

そして、魔王の命令に操られて恥ずかしいことを晒す悲鳴が続く。

 

「……見てられんな。さあ、とっとと行け」

「う、うん」

「お世話になりました、それじゃあ失礼します」

「来水美樹、小川健太郎。余の世界にとっても興味深い客人であったぞ。さらばだ」

 

 騒がしい声を背景に、二人はスチールホラーへのゲートをくぐった。

 

 

 

 

 

 

 

 気がつくと、小川健太郎と来水美樹はとあるビルの前に立っていた。今まさに祭りの時らしく、はっぴを来た子供達がはしゃいでいる。横から神輿も来るらしい。人だかりに、大型のカメラまで見える。天神祭というはっぴを着た少女は、サイダーを脇に置いて、踊りの練習をしている。

 二人は元の世界に、人間として戻ってきた。

 

「うわー……蒸し暑い……」

「ひょっとして、日本は真夏だったのかな?」

「そうみたい……」

 

 人間の身としては、それなりに辛く暑い日だった。日本特有の湿度の高さが主因の暑い日だ。少し歩くと、どうしても汗が出て身をつたい、それが不快感を増やす。

 

「お金もないから、どうしようかなー……」

「結構歩くと地下街があるから、とりあえずそっちで涼もうか?」

「それにしようか。食い倒れとかも見てみたいよ」

「それは結構方向違うよ?」

 

 この日も、熱中症で多くの人が倒れるような暑さだった。それでも、二人とも平和な日本人とは鍛え方が違う。8年に及ぶ旅で、基礎的な根性や体力は比較にならない。

 日が中天から消えて、影が増える頃には地下街に入っていた。

 

「こういう所、マッピングはあるけどダンジョンより複雑だよね……」

「うーん……こっち行くと大阪駅?そうすると戻れるのかな?」

 

 大阪の地下街は、慣れぬ人間にとっては難解なダンジョンも同じだ。地下鉄の走る線の切れ目がところどころで行きたい道を断ち、容易には解けぬ迷路と化している。二人は迷いつつも、質屋で多少のお金を手に入れていた。金塊はこの世界でも強い。足元を見られた気がしたが、それでも行動に支障はないだけの軍資金にはなった。

 

「はふはふ、はふはふ。おいしいねぇ……」

「おいしいねー。やっぱり日本はこうでなくちゃ」

 

 味の強いお好み焼きを二人は食べていた。ソースとマヨネーズの味で食感以外全てを塗りつぶしたようなものだが、それが大阪の味として出ている。

 

 その後も大阪を練り歩いた二人は……公園で花火が打ちあがるのを待っていた。

 

「帰るつもりだったのに、どうしてこうなったんだっけ?」

「どうしてなんだろうね?まぁ、花火いいところで見られそうだしいいかな」

 

 既に日は沈み、後は花火が打ちあがるの待つのみとなっている。

きゅぽんと、看板娘が書かれたラベルのサイダーを開けて、喉を潤す。普通のソーダだが、こういう場面で飲むというのは、状況の方がこの上ない価値を与えてくれる。

 

「…………美味しいねぇ」

「…………………うん」

 

 口数は少なく、想いは多く。そうこうしてる間に、花火が上がった。歓声高く、様々な色の花火が一面を支配する。

 8年の冒険を振り返って、彼はぽつりと言葉を零した。

 

「美樹ちゃん守れて、こうして一緒に戻れて、良かったよ」

 

 花火よりも、綺麗でかっこいい人に眼を奪われる。この人から目を離せない。

 

「健太郎くん。……本当に、ありがとうね」

 

 祭りの中、誰もが花火に夢中な桜ノ宮公園。来水美樹は、好きな男の子の頬にキスをした。

 

 小川健太郎、異世界から来た来水美樹のボーイフレンド。

 こうして、一人の少女を救う彼の物語は終わった。




小川健太郎 lv99
 この世界の3人の主人公の一人。
 8年もの長い間、魔王になってしまった女の子を救う為に奔走することになる。
 魔王にとってのブレーキであり、救いとしてあり続けた。

来水美樹 lv1
 異世界から連れてこられて、魔王の血の継承を受けた第七代魔王の女の子。
 ヒラミレモンと精神力で魔王という破壊の権化になる事を拒否し続けた。
 ワーグに記憶を一時弄られて、ランスを恋人と誤認。初めてを捧げている。
 魔王覚醒における過程で、ワーグの記憶操作は解けた。

カミーラ
 実は唯一いなかった魔人。ランス城にいたとしても、絶対命令権使用しないと来ないし、サテラも流石に言う事聞かせられない。

ニミッツ・リーク lv3
 魔血魂と不完全な融合を果たした魔人。取り合いになれば負けるしかないので、不発弾処理。取ったものの吸収を忘れて使徒二人の手に。


天神祭コラボ、ハニービルの時に撮った写真達を参考に。せっかく大阪行ったし……
寝取られてから魅力が出るのが健太郎君だと思うので恋人美樹ルートです。


 うーん懐かしい天神祭、今年もあったら行こうかな。
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