新勇者バーバラの冒険 未熟時代の外伝置き場 作:ランスロス・マッキ
アコンカの花が、咲いていた。
魔人討伐隊と人類の首脳陣は、総統ランスの命令を受けてCITYに避難していた。その際、ランス城に備え付けられていたこの花を一房持ち込んだ。普段は白くて美しい花というだけだが、今日の人類にとっては重要な意味がある。咲くのが非常に希少なのだ。たった一日しか咲かず、目的を果たすとつぼみに戻る。その花が今日は咲いている。
アコンカの花は、魔王か勇者が誕生した時だけ咲いて喋る。世界の在り方が変わる時を伝える花だ。人類の首脳陣が注視して見守る中、アコンカの花が遂に声を発した。
「世界の変革をお知らせします。新しい魔王が誕生しました」
事務的で機械的な声だ。大きくはないが隅々まで通る声で命じられた事を伝えていく。花が喋るという時点で異様であり、まるで神々からの託宣であるように感じられた。
「まだ正月早々ですが、LP歴は8年で終了となります。来年からRA1年となります。お間違えなきように」
仕事を終えたアコンカの花は、ゆっくりとつぼみへ戻っていった。
「RA、ランスか……」「これで、確定ですか」「ああっ……そんな……」
この託宣に対する反応は様々だった。年表の頭文字の意味を理解して、苦々しく噛みしめるパットン。事実を事実と受け止めて、なお前を向くウルザ。絶望して崩れ落ちるセル。ただ、最も多い反応は無言だった。ほとんどの人間がこれからどうすればいいのかわからない。
今日まで主と仰ぎ、人が魔に勝利するという史上初めての偉業を成し遂げた男、ランスが魔王に転じた。人類王が魔物の王になってしまったという衝撃は甚大だった。アコンカの花によって、神に認められた真実であると突き付けられて、人類司令部のほとんどは何も考えられなくなってしまった。
それでも各国の軍師達は前を向き、これからどうするべきかと口を開く。
「深夜にミラクルさんが戻ってきた時点で、ランス総統が魔王になったのは判明していました。その状況の裏付けが取れただけです」
「魔王リトルプリンセスのように、おじ様をヒラミレモンで抑える事は可能でしょうか?」
「いや、カオスマスターは完全に覚醒していた。そこまで行けばヒラミレモンの効果はないな」
「魔王に覚醒しておきながら正気を保っているという話が信じがたいのですが……」
「今は余の推測に過ぎんが……恐らく、魔王の血の破壊衝動に対してなんらかの耐性があったのだろう。…………法王がいれば、もう少し詳しく分かったのだろうが」
法王特典の一つ。相手の才能、技能が分かる神魔法。それ以外にも博識な魔物、神に関する知識。クルックー・モフスがこの場におらず、情報が少ないことで魔人討伐隊の二の足を踏ませていた。cityに一目散に駆け込んでいった魔物に対しても、静観を決め込む事になったのもそれが理由だ。
「このまま……ランス兄様が魔王というだけで、何も変わらなければ……」
「それはない。魔王はそんな甘いものではない」
香姫の儚い願望を、ばっさりと魔剣が切り捨てた。
「……美樹ちゃんは頑張っていましたが、それでも暴走する事はありました。あれですら覚醒前です。覚醒後のランス総統にかかる破壊衝動は比べ物にならないでしょう」
「あの馬鹿がどれだけ耐えたとしても、10年もすれば元の人格は消え去って魔王に支配される。あいつはもう儂等の敵だ。完全に魔王の血に飲まれる前に殺した方がいい」
「っ…………そう、ですか……」
実の兄が魔人になった時は、信長である内に楽にさせてあげるべきだった。
同じように、もう一人の兄は魔王によって消されてしまう。どうしてこうなるのか。
やるせなさに、香姫は唇を噛んでうつむいた。
「誰でもいいから儂を使ってあいつを殺せ。油断してる今しかチャンスはないぞ」
カオスの言っている事は正論なのだろう。だが、正論だとしてもそれを実行出来る『勇者』はいない。出来るわけがなかった。ランスがどれだけの事を為してきたかを皆が思い知っている。魔王になったからというだけで、殺すべきだと思える者はいなかった。
どうするべきか決めかねている間に、一人の兵士が駆け込んできた。
「報告します。ランス城にいた魔物達が動き始めました! 北登り口からパラパラ砦に向かう模様です。総統閣下の姿は見えませんが、魔人シルキィ、ホーネットが魔軍を先導しています」
「……戦争をこれから始める動きではありませんね。ランス総統は正気のようです」
「そう。じゃあダーリンに会うのは今しかなさそうね」
そう言うと、リアが立ち上がった。矢継ぎ早に指示を飛ばして、これまで固まっていた人類の首脳陣に活を入れていく。
「バレス。今一番戦力を持ってる私達が魔軍を見張るわ。北登り口の展開を急いで」
「畏まりました。突発的な戦闘が絶対に起こらないよう、皆に言い含まておきますぞ」
「ダーリンを見つけたら知らせて。私とかなみだけで会いに行くから」
「お、お供します」
女王の決定を受けて、リーザスの指揮官達は次々と動き出した。一拍遅れて、それぞれの国主達もやるべき事に取り組んでいく。魔王ランスとの面会を求めて。
「私もランス兄様と話をしたいです。cityから降りるには3つの道があります。リーザスが東口を抑えてくれるので、私達は正面山道の方で待ちましょう」
「ほなウチも正面の方に行くわ。1兆億ゴールド溜まった事伝えんとな。魔王を買ったるでー!」
「ゼス組は東登り口に行くわよ。スシヌの事とか聞きたい事山ほどあるんだから!」
「東側は横道も多いですし、漏れの無いよう私も展開に加わります」
自由都市とjapanは中央、ゼスは東。にわかに魔人討伐隊は活気を取り戻し、出立への準備を整えていく。ヘルマン組では、シーラ大統領だけが準備を整えつつも軍隊を指揮するような事はしていなかった。たまりかねてパットンはシーラに問いかけた。
「シーラはどの道に行くんだ?」
「……私はランス城に向かいたいと思います。大事な、やらなくてはいけない事があるような気がするので」
「分かった、ただし俺も連れていけ。魔物が残っていたら心配だしな」
「……ありがとうございます」
やがて、ヘルマン組は少数精鋭でランス城へ向かった。残されたのは、cityを守るいくらかの兵士と指揮官だけとなった。居残り組だったクリームが、最初から最後まで一切口を挟まなかったカラー女王に問いかけた。
「……パステル様はどこにも行かれないのですか?」
「あいつが魔王になった以上、出来ることなどないじゃろ。言いたい事もないし、去るなら勝手にすればいい。妾は魔物が去ったら帰る」
茶を飲みほして自室に戻ろうとしたパステルは、一つの異変に気付く。
「……あ、あれ? リセットはどこにいるのじゃ?」
アコンカの花が喋るよりも早く、ある3人は姿を消していた。
少し前のことだ、ランス城では魔軍、魔物界の重鎮達と魔王の謁見が行われていた。
「てめぇらの略奪や戦争行為、一切を禁じる! 全員、魔物界の奥地に引っ込んでるように!」
新たなる主の命は下され、どよめきと驚愕の声が渦巻く。絶対命令権によって徹夜で人類軍の本拠地まで呼びつけておいて、帰れと命じられた。彼等は疲労した体に鞭を打って、帰り支度をすることとなった。
「がはははははははは! こんなところまでわざわざご苦労。さあ帰れ! 途中で俺様のものに手を出したら殺すからな!」
「今回の魔王様は、魔物使いが荒らそうだな……」「ここからアダムの砦まで戻るのか……」「お前は脚速かったからな、同情するわ……」
魔物達の不平不満を受け流しつつ、ランスは魔人達に魔物の処理を丸投げした。シルキィは嬉しそうに魔軍の荷物運びを手伝っている。
「……魔人なのに、なんで魔物の手伝いをしているんだ」
「魔王様の方針が嬉しくて仕方ないんでしょう。あそこまで上機嫌なシルキィは初めて見ますね」
「あとは全部私がやるから先に戻ってていいからねー!」
大きな荷物を運ぶ事はシルキィにとって苦ではない。絶対命令権に操られた指揮官に同情したような発言をしているが、終始笑顔になってしまっている。時折スキップまでしているあたり、ここ1000年でもないような喜びを全身で表現していた。
「……シルキィちゃん、本当かわいいな。次から普通に口説いたら落ちそうだな」
「絶対命令権あるんだからいつでもヤレるだろ」
「いいのだ。心からメロメロにした方がハーレムの甲斐がある。……次から魔人共に絶対命令権使うのやめるか」
暫く時間を潰していると準備が整ったらしく、ホーネットが出立前の挨拶として頭を下げて来た。
「これより残った魔物兵達をまとめて、魔王様の意を魔軍に伝えに行きます。魔王様はどうされますか?」
「俺様はこれから旅に出る。残った城はビスケッタさんに任せるから、お前らも後は好きにしろ」
「それについてですが……供にサテラを連れて行ってくれませんか?」
「ふえっ!?」
魔王の近くにいたサテラは驚愕して、変な声を出してしまった。ホーネットが魔王の行動に意見を挟むのは、今までにないことだった。
「今回の戦争もサテラの功績が大きかったと思います。本人も魔王様と共にいたいようですので、従者として連れ添ってあげては如何でしょうか?」
「んー……まあいいか。サテラも行きたいのか?」
「……っはい! サテラは魔王様とどこまでも一緒に行きたいです!」
「がはははは! いいだろう! それじゃ早速行くぞ!」
ランスは城を飛び出した。サテラも幸せそうな顔をしてついていく。
「まず山を登るぞ。俺様が支配する世界をゆっくりと見てみたい」
「はいっ!」
そうして二人は下山ではなく、登山道へと進みだした。北の山、LCM連邦の一角の頂上へと続く道へ。
登山道を進むと若干開けた花畑があり、そこには3人の小さな女の子が立っていた。魔想志津香、ナギ・ス・ラガール、そしてランスの娘であるリセット・カラー。リセットはランスの姿を認めると、駆け寄ってきた。
「おとーーーーさーーーん!」
「おおっと……」
リセットはランスに抱き着いた。足を離さないようにしがみついている。
「…………なんでここにいるんだ」
「なんとなく」
「お姉様が朝方私達をこっちに連れて来たの」
「えへへへへ……おとーさん、こっち来たー……サテラちゃんも……」
リセットは祝賀会の日、誰よりも早く寝ていた。祝賀会の前日に初めての徹夜をし、昼過ぎにランスが帰って来たのを見てじゃれついた後、安心して眠った。彼女は祝賀会も魔王もシィルの死も、何も知らない。朝早く起きた時に、志津香が彼女をここに連れて来ていた。きっと、ランスに会えるからと。
「こ、こら……魔王様から離れろ! 失礼だろうが!」
「魔王? ……おとーさん目が赤いよー?」
「そうだ。俺様は世界で一番偉い魔王様になったのだ! もう俺様は総統閣下ではない。全世界を統べる超王様だ!」
「すごーい! おとーさん、かっこいいー!」
子供心からすれば、何もわからない。魔人が大変なのは魔人討伐隊の日々で分かっているが、前の魔王はリセットから見れば優しいだけのお姉ちゃんだった。ナギが近づいて、ランスの目を覗き込んだ。
「ラーンス♪ 冒険をするなら私達も連れてってよー!」
「ガキ共を連れて冒険へ行けるか、アホ。10年早いわ」
「どうしても?」
「……どうしてもだ、今回は駄目だ」
絶対に今回は連れて行かない。口調はいつもと変わらないが、目は真剣だった。
「ちぇー……」
「はいはい、ナギはもういいでしょ。後はリセットに任せて行くわよ」
志津香はナギの手を取り、ランス城へと引っ張っていく。
「お前は何か言う事ないのか」
「…………魔王になるなんて、馬鹿でしょ」
もう背中を向けているのだから表情は見えない。分かっていてもなお、志津香は帽子をより深く被りなおしていた。
「親子でごゆっくり。私がしたいのはそれだけだったから。それともリセットと会わない方が良かった?」
「ぐりぐりー、ぐりぐりぐりー♪」
「……………………」
じゃれついてくるリセットを見ると、毒気が抜けてくる。昨日から少しささくれだった心が、なごんだ気がした。
「……最後にちょっとだけ遊んでやるか。ちょっとだけだぞ。サテラも少し先行ってろ」
「は、はい!……魔王様は忙しいからな! あんまり迷惑かけるんじゃないぞ!」
サテラが去ると、ランスはリセットを持ち上げた。
「えへへ……おとーさん♪」
「…………………」
リセットはにこにことしているが、ランスは何も語らない。ただじっと、しっかりとリセットを抱き上げた。包み込むように、離すまいと。
「えへへへへ…………」
リセットの方からより強く抱きしめてきた。より密着して、父と共にいるのが楽しくて仕方がないと思っている。ランスはこうなると、多少は身を捩ったり、気恥ずかしさから離れろと言うのだが、今日はそれをしなかった。ランスは全く動かない。何かを言うより、この温もりを味わっておきたかった。
……ずっとそうしていて、5分だろうか、10分だろうか。やっと体を離して、ランスはゆっくりとリセットを降ろした。
「……今日の遊びはこれで終わりだ。俺様は忙しいからな」
「おとーさん、ありがとー! 大好き―!」
「…………むぅ」
離れる時、いやにゆっくりとしていた。明らかに、未練がある動きだった。だからこそ、離れた後はひらりとリセットから走り去っていく。
「俺様はこれから魔王の力を使って楽しく冒険するのだ。じゃあな! がーっはっはっはっはっは!」
「おとーさん、がんばれー! がはははは……!!」
ランスがサテラが居たところに追いつくと、道を塞ぐように巨大な岩があった。ここ数日の間に落石が起き、登山道を塞いだらしかった。
「魔王様。サテラがすぐにどかしますので!」
「いやいい。ちょっと試してみたい事があったしコイツに使ってみるか。魔法実験だ」
魔王は燃えろと思った。すると、ありとあらゆるものを溶かすような炎が生じて、巨大な岩も瞬く間に溶け落ちた。次に、動けと思った。溶岩を巻き込んだ強烈な竜巻が発生して、溶岩を残らず巻き込んでいく。最後に凍れと思った。巨大な竜巻は下から次々と動きを止め、凍り付き……先ほどまでにあった巨大な岩だったものは、奇怪なオブジェになった。
「ふふふ……すごいぞ、俺様。魔法も自由自在だ。なんでもできるな」
ふと、冒険の日々であった奴隷とのくだらないやり取りを思い出す。
「俺が魔法を使えるようになれば最強だ。というわけで、使えるようにしろ」
「ええっ……それは無理です……魔法は素質のない人にはどうやっても……」
(……あるではないか、やはりあの奴隷はダメダメだな。まったくもってダメな奴隷だ)
後ろを振り返れば、ピンク髪の奴隷はいない。でも赤髪の魔人はいる。長い髪に手を突っ込んでくしゃくしゃとしてみれば、弄られるのが嬉しいように朗らかな笑顔を浮かべてくれる。
「魔王の力を使って面白おかしく遊ぶぞ。サテラ、ついてこいよ!」
「は、はいっ! 魔王様!」
「がーーっはっはっはっはっはっはっは!魔王様のお通りだーーー!!」
魔王ランスは、失ったものを取り戻す為の冒険に旅立った。
「がはははははー……」
父親は、あっという間に遠くへ行って見えなくなってしまった。後は帰るだけだ。戻れば魔想姉妹が待っていて、二人でランス城に向かうことになる。
「リセットには言ってなかったけど、これから嫌な事あるから」
「……いやなこと?」
「……私も見たくないものだけど、見ない方がもっと後悔するだろうから、受け止めて」
ランス城に戻った時に、そう不吉な言葉を志津香は漏らした。
「お待ちしておりました。リセット様、志津香様、ナギ様」
「……シィルちゃんはどちらにいますか?」
「地下一階、教会におります。セル様とシーラ様が、もうほぼ整えております」
「ありがとうございます」
有無を言わさず、無言で大人達が下へと降りていく。リセットもそのまま喋らずに、不安になりながらも降りていった。
――ランス城、地下教会。そこにシィルはいた。
「シィルおねーちゃん……?」
棺に入って、顔だけが出されている。リセットにも経験はある、死者に対する形式だった。ここまで来ればリセットでも分かる。シィルは、息をしていない。死んでいる。だから葬儀が行われようとしている。
「な、なんで……昨日まで、一緒にいたのに……おとーさんが、魔物をやっつけたのに……」
「昨日の祝賀会によからぬ人が来て、彼女を殺したわ。だからお別れをしなくちゃいけないの」
リセットはシィルに触れてみた。身体の傷はヒーリングによって治されている。だからいつもと変わらない。でも、冷たい。息をしていない。やはり、死んでいる。
「あ…………あああ……」
ペンシルカウが襲われた事はあった。魔人討伐隊や冒険で命を奪った事もある。だけどこれはリセットにとって、初めての身内の死だった。
「――――――――ッ!」
受け入れられずに、教会から逃げ出した。そのまま走って、ランス城から出て、cityの街に向かい……
「リセット! ここにおったか!」
「っ……おかーさん!」
リセットは、母の胸の中に飛び込んだ。もう涙でくしゃくしゃになった顔を母に押しつける。
「シィルおねーちゃん、いないの……い、いや……ひっく……」
「ああ……そうか、知ったか……」
「うえええーーー……」
もう涙と嗚咽を止められない。わんわんとパステルの胸の中で泣く。
「ひっ……うう……」
「…………誰でもいつかは通る道じゃ。今は、母の胸で泣くがよい」
「うえええーーーん……」
パステルは、じっと娘が泣くに任せていた。リセットにとって、シィルは父の恋人だった。父が一番好きな人だった。自分もすぐに好きになり、笑顔が素敵で、実の娘のように仲良くしてくれた。涙の中で、一つの疑問が生まれた。
「おとーさんの恋人がいなくなって……おとーさんはなんでいなくなったの?」
「…………リセット。父のことは、もう諦めよ」
「えっ……」
「もう会えると思うな。むしろ会うな、探そうとするな」
「なんで……おとーさん悪い人じゃないよ!?」
パステルは難しい顔をしている。だが、娘を守る為に、伝えるべき事を伝えなければならなかった。
「今まで言っていたリセットの言う事は正しかったのかもしれん。でも、もう手遅れじゃ。魔王になってしまった。じきに魔王に心を乗っ取られる」
「魔王って……おとーさんどうなるの!?」
「いずれ近づく人を誰であろうと殺す。妾だけじゃない。リセットの友達であるナギも、何よりもリセットまで、娘とわからずに殺すじゃろう。あやつはもう、人としては死ぬ」
「…………………いや、やだやだやだ!!」
駄々をこねようが、いくら泣こうがこれは変わらない。泣く事がより酷くなっても言わなくてはならなかった。
「もうどうにもならないんじゃ。妾と一緒に、生きていこう」
「手立てならあります」
二人のいるところに法王クルックー・モフスが現れた。
「……いつからおった、貴様」
「今、来たところです」
本当に、全力で駆けて今間に合ったところだった。ジフテリアから全力でうし車を飛ばし、山道に入ったところはレベルに任せた走りの方が速いからここまで駆け抜けた。今も汗が滴っている。
「私達人類は、昨日迎えるはずだった大団円を奪われました。ですが、取り戻せます。リセットさんの力があれば」
「えっ……」
「法王……!無駄な希望をリセットに持たせるな! こんな幼子を、死なせる気か!」
「私は諦めません。ランスの好きな世界を、彼に壊させません」
クルックーは譲らない。表情は乏しいが、パステルから見ても強い決意が込められているように感じられた。
「何かリセットに出来る事があるとでもいうのか! 言ってみい!」
「リセットさんの手は、恐らくは魔王にも有効です。ランスが破壊衝動に、魔王の人格に飲まれつつあったとしても、クラウゼンの手なら正気に戻せるでしょう」
「わたしの、手……」
「それだけか?出来たとしても、ただの時間稼ぎじゃろうが!」
「……………………」
クルックーは、何も答えない。今は語るわけにはいかない。ただ頭を下げるだけだった。
「……お願いします。私が知る限りでは、今ランスを助けられるのはリセットさんだけです」
「魔王にビンタするというのがどれだけ無謀な事かと分かっているのか! 貴様は……!」
「……わたし、がんばる! おとーさんを、元に戻してみせる!」
リセットはそう言うと、母の腕の中から抜け出してクルックーの手を取った。涙を拭きとる事もせずに、真っ直ぐクルックーを見つめている。
「リ、リセット……!」
「お願い。クルックーさん。わたしこそがんばるから……おとーさんを一緒になんとかしよう!」
「…………ありがとうございます。リセットさん」
手を――魔王を止める唯一の希望を強く握りしめる。
こんな悲しい事を少なくしたいと。もう失いたくないと。
リセット・カラー、ランスの長女でカラー姫、今では魔王の子。
父を救う為に、これから彼女の長い長い物語が始まる。
リセット・カラー lv42
この世界の3人の主人公の一人。
15年もの長い長い間、魔王になってしまった父を救う為に奔走することになる。
魔王にとってのブレーキであり、救いとしてあり続けた。
魔王ランス lv??
第八代魔王。リトルプリンセスの覚醒を阻止するため、美樹を死なせないため、そしてなによりも、自分にはない力を求めて魔王となった。
目的の為にありとあらゆる手を尽くしても、手立てがない。少しずつ心を黒く染めて苦しむことになる。
クルックー・モフス
AL教の法王。この世界を変えた人間。神異変の主犯。
RA0年からリセットビンタを作戦に織り込んでいた。
年表RA0年の再現。文章力に対して用意した題材が勝ちすぎている。学生がフォアグラやキャビアを使って料理を作る気分。
シィルとの会話はランス01より。ザンスやら小ネタが多くて魅力的ですよ。
うーん未熟、でもこの頃の方がランスシリーズの文章には寄っているんだよね。