新勇者バーバラの冒険 未熟時代の外伝置き場   作:ランスロス・マッキ

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 全ての外伝はバーバラとはほとんど関係がありません。時系列的にはこの遥か先にバーバラの物語もあるというぐらいで、筆者が思いついたまま書きたいだけの話たちです。読み飛ばしても本編に問題はありません。


リセット・カラーの誕生日(上)

 魔王の子達が魔王を倒す為の修行――――それは、想像以上に過酷なものだった。

 

「ぐっ……ひ、卑怯な……」

 

 最後まで生き残っていた二人、乱義が遂に倒れた。

 

「これで俺の勝ちだ!! がはははー…………」

「はい終了。馬鹿げてるでしょこんなの」

 

 最終勝者となったザンスもとっくに限界を迎えていたために倒れ込み、ミックスは足を緩めてザンスの方へ近づいていく。彼女は二人のせいで3回目の走破をする羽目になっていた。

 

「これで全員だね~。お疲れ様ー」

 

 4回目以降は免除となったリセットがとてとてと飲み物を渡しに駆けだす。お茶を最初に受け取ったナギが不平不満をこぼした。

 

「限界まで走り続けて、全員が倒れるまでやるって強さに関係なくなーい?魔法使いの私達までなんて」

「時には根性が必要だからな。限界も知らないと引き際がわからない」

 

 パットン・ヘルマンの徹底体力訓練によって、今日の魔王の子達は異界で持久走をやらされていた。少しづつ要求ラップは上がり、楽を許さない構成。回復したら最後の人間が倒れるまで2週目を走る。最終的にはいつも張り合う二人が残されて、精神的な限界を遥かに超えて走り続けた。

 

「ともあれ、俺が教えるものはこれが仕上げだ。後は他のメニューを継続するだけでいい」

 

 満足そうに、パットンは自分の訓練の終わりを告げた。

 

「あーっ! もうマジ無理! 俺なんて何度割れたかわかんねーよもう!」

「最後のはザンスが長田君を乱義に向けて蹴ったからでしょ……」

 

 愚痴を漏らしつつ、魔王の子達は疲れた身体を引きずってキャンプ地に戻っていく。ロッキーや死霊騎士団が用意した食事に手をつけつつ、雑談の時間となった。

 

「えーと、これでとーちゃん達が終わりだと、次はオイラ達は何をするのかなー」

「明日からはブリティシュ殿のチーム戦術をやる予定でござる。適当に戦ってるだけで連携がないとか」

「よくわからないけどボクも頑張るよー! ガンガン行っちゃうから!」

「どんなものであろうと飲み込んでくれるわ! ぐわっはははは!」

「…………この子達に教え込むの、無理じゃないかしら。一体いつまでかかるやら」

 

 魔王の子達は戦いとなったら好き勝手に暴れるだけだ。今までは志津香達のような年長組がフォローをすればどうにでもなったが、相手が魔人や魔王ならば連携は必須となる。

 ポリポリワンのモノクロな世界を――――もはや慣れ親しんだ異界を眺めながら、スシヌは気合を入れた。

 

「時間はたっぷりあるしレリコフちゃんも元就ちゃんも、私も出来るようになるよ!多分……」

「異界の時間は長すぎて日付が分からなくてちょっと怖い。それと布団が恋しい」

「えーと、今日は何日目だったっけ?」

「ポリポリワンに来てからちょうど70日目だね。そろそろ物資が乏しいから戻る必要が出てくるかな」

「70日目、元の世界だと7日後……なにかあったような気がするわね……」

 

 何かを思い出そうと首を傾げる志津香。だが、答えにたどり着いたのはナギの方が早かった。

 

「……あっ、リセットの誕生日って今日じゃん!」

「えぇっ!?」

「そういえばお姉ちゃんはこの時期だったよね。私も3年ぐらい前にお祝いした気がする」

 

 異界のせいで時間間隔はズレてはいたが、元の世界の暦ではリセットの誕生日にさしかかっている。

 

「ホントっすか!? リセットさんおめでとうございます!」

「ま、まぁこの年齢になったらそこまで嬉しくないし……気にしないで」

「そのとーりだ。今は魔王ランスを倒す為に一日でも惜しい。このままいつも通り修行するぞ」

「…………ない」

「……ん、今なんて言った?」

 

 ここまで疲れすぎて一言も喋らなかった冒険のリーダー、エール・モフスが顔を上げた。

 

「お姉ちゃんの誕生日を祝わないとかあり得ない。修行中止―!!」

「はぁっ!? 何言ってんだコイツ!?」

「明日一日はお姉ちゃんの誕生日を祝います。これはリーダーの決定! お姉ちゃん誕生祭は修行より大事!」

「え、エールちゃん……」

 

 呆然とする一行。この破天荒な悪戯娘は一度言い出したらほとんど修正は効かないことを長い冒険で知っていた。肩を落として、ミックスは折衷案を持ち出した。

 

「まぁいいんじゃない? 祝うだけならケーキでも持ち込めばすぐに済むでしょ」

「ダメ。お姉ちゃん誕生祭はキッチリ一日分使って盛大にやろう。もう修行ばっかりで楽しくないよー!」

「エール、確認するけどそれは魔王を倒す為の10日分を無駄にするってことだからね? 次は絶対に負けられない戦いだ。尽くせる手があるなら尽くした方がいい」

「大丈夫、ボク達が修行したんだから楽勝だよ! そんな事よりなるだけ派手でお姉ちゃんが喜ぶような誕生日にしよー!」

 

 もう身体を痛めつけるのは飽きた。そんな事より遊びたい。エールはこれ幸いと姉の誕生日という口実に飛びついていた。

 

「あーあー……エールがこうなったらテコでも動かないもんねー……」

「ふざけんな! 根性無しは放っておいてやれる奴は修行するぞ」

「臣下として二年間ご無沙汰なので、ウズメはリセット主君を祝いたいでござる」

「私は今回の冒険が終わって落ち着いた時でいいから。エールちゃんの気持ちは嬉しいけど、今はお父さんの方を大事にしよ?」

「お姉ちゃんが良くても、ボクがダメー! 絶対祝うー!」

 

 いつもの事だが、魔王の子達は個性が強く意見の対立が絶えない。今回はリーダーから持ち込んだ火種だった為に、収まる気配がなかった。テンションが上がった元就がレリコフに殴りかかり、乱闘会場と化しつつある。

 

「もうこれ収集つかねーよ……どうすんだよ……」

「はっはっはっ。こんなこともあろうかと、全能である余はどちらの願いも叶える修行も用意してあるぞ」

「マジっすか! ミラクルさんお願いします!」

 

 ミラクルは小さな杖を取り出して、騒がしい者達へと魔法を放つべく前に出る。

 

「スリープ!!」

 

 長田を除くパーティ全員の意識は、この言葉を最後に途切れた。

 

 

 

 次にリセットが目を覚ました時は、ソファーの上だった。周囲にいるのはザンス、乱義、スシヌ、深根、ミックス……概ね、修行したい派の魔王の子達が寝ていた。明るい方に目を向けると、ガラス張りの窓の向こうに外の景色が広がっている。高所らしく、かなり遠くの山々まで見渡せる。下に目を向けると、整理された区画にビル群がひしめきあって、それを縫うようにある道をたくさんの人間が行き来していた。

 周囲のインテリアは今まで見たことがない。ここまで整然と滑らかな加工はゼスでもない。周囲の物音を聞く限り、この階層が20も30も上下に連なっているようだ。机一つ、椅子一つ見ても洗練されて軽く、薄そうにまとまっている。明らかに、今の人類の技術力を越えている。

 自分も含めた魔王の子達は着替えさせられていた。リセットが着ている白のワンピースはカラーの服と違って防御力や耐久性は大きく落ちてそうだが、服飾に対して多少はあるはずのムラがない。一体どういう手法で作られたか想像がつかない。

 遥かに技術の進んだ国に、リセットは連れ去られていた。

 

「ここは……どこだろう?」

「スチールホラーの一国、日本の首都東京のマンション。そして余の自宅の一つだ。時間も惜しいし全員を起こすぞ。目覚めエモン」

 

 部屋の端に居たミラクルが銅鑼を叩くと、スリープで寝ていたザンス達はあっという間に目が覚めた。事態を認識したザンスは跳ね起きて、ミラクルに掴みかからんと迫る。

 

「俺を二度も寝かしつけやがったな! この糞ババ………ア……?」

「どうしたザンス・リーザス。余の姿が何か変か?」

「変に決まってんだろ……その姿はどうした」

 

 ミラクルは、ザンスと大して変わらない年頃の少女になっていた。茶色を基調としたブレザー姿の制服を着て、その上に白衣を羽織っている。ザンスは慣れない装いと全盛期の美女を前にして、怒りの矛を向けられなくなってしまった。

 

「この世界の流儀だ。郷に入っては郷に従えとな。……祖母様の服を着れないのは(しゃく)だが、これが一番なのだ」

「年齢や見た目に関してはこの女はやりたい放題だから気にするだけ無駄よ。しかし東京か……ベルリンとか、ロンドンがありがたかったんだけど」

「それでは他の者達の言語が通じないだろう」

 

 どの魔王の子もキョロキョロとあたりを物珍しく見回すなかで、ミックスだけは平常心で続けていた。日常の延長のように、ミラクルが沸かしておいたらしい湯を使って、コーヒーメーカーの中にパックを入れて人数分のコーヒーを作っていく。

 

「ミックスちゃんだけ慣れてるねー」

「余は数多の異界を発見、探索、調査してきた。特にこの世界、スチールホラーの調査は念入りだぞ。10年以上かけてこっそりと馴染んで、今では熟知している」

「その中であたしも幼い頃からこの世界に連れてかれてた。ちょっとだけこっち育ちよ?」

 

 さらりとした爆弾発言だ。心の中の動揺を置いておいて、乱義はミラクルの真意を問いただした。

 

「……それで、僕達を連れてきたのはどういう事でしょうか?」

「はっきりと言っておこう。エール・モフスら多くの魔王の子を置いて、貴様等だけを連れてきたのは意味がある。ここは最も危険な世界だからだ。だからこそ、いずれ各国の指導者になる貴様等はここの危険性を認識する必要がある」

「えっ……平和なように見えるけど」

「ここはな、地域によって違う。世界の全てどころか、異世界も欲しいという輩も多いぞ?そしてそれが可能なだけの強みを持っている。攻めて来られたらリーザスも一週間と持たないだろう」

 

 自国を引き合いに出されて、反骨心と共にザンスは鼻白んだ。

 

「なんだそりゃ、技術はそりゃ進んでそうだが俺様の敵じゃないだろ」

「総人口70億オーバー。数を揃えるだけで魔軍を一方的に虐殺出来る携帯武器。編隊を組むドラゴン。そして魔王のような破壊をもたらす兵器まで量産している。あのサイズの国家を解体するだけなら3日もあれば十分だろうな」

「……………………」

 

 最強国家であるリーザスの最盛期でも5000万ほどだった。その100倍以上の人口を持つ勢力――国力ともなると、どれほどの差が開くかわからない。全てを冷徹に告げるミラクルの物言いに、反論をする事も出来なくなっていた。

 

「余もカオスマスター率いる魔人討伐隊も戦いになったら逃げるしかなかったぞ。数と統率と広さで、質が良かろうが手も足も出ない。そんな世界だ」

「そ、そんな世界でわたしに何をさせるの!? 修行としても危険すぎない!?」

 

 不安げな表情をするスシヌに対して、ミラクルは柔らかく笑って数枚の紙と財布を魔王の子達に渡した。

 

「貴様等に命じる修行――――それは、おつかいだ。争いを起こさないように、この世界を楽しんでこい。5万は渡す。お釣りは好きに使っていい」

 

 

 

 

 リセット・カラー

品目 岩山書店で複数の書籍、雑誌。

 

 リセット・カラーは書店の中で見物をしていた。

 ミラクルが命じたお使いは、そこまで難易度の高いものではなかった。秋葉原という駅近くの本屋での買い物。人通りは元の世界ではお祭りかという目まぐるしさだが、マップを見たり考えたりというのは長い冒険生活の中で慣れている。麦わら帽子を目深に被り、クリスタルを隠しながら彼女は買い物を進めていく。

 

「月刊アメジスト、聖騎士団長殺し、ホモサピエンス全史、ライフシフト……ミラクルさん、難しい本多いなぁ」

 

 リセットは経済、宗教、歴史、価値観……ありとあらゆるジャンルの書籍の中でも、比較的新しい本を指定されていた。

 ミラクルの家――――高層マンション、その一フロアを丸ごと買い取ったらしいその家も本だけ、コンピューターだけというように、様々な用途別のフロアがあり(おびただ)しい数の情報が集められていた。どれだけこの世界に対して熱意をもって理解しようとしたのかが察せられる、ミラクルの勤勉で理知的な一面が凝縮されていた。

 

「後は好きに使えって言ったけど……一本だけで、後はザンスちゃんやスシヌちゃんの為にとっておこうかな」

 

 リセット・ザンス・スシヌの買い物は概ね同じ場所の指定だった。彼女は自分の買い物を済ませ次第、二人のところへ向かう予定だ。用事を済ませた彼女はとてとてと会計へ向かった。

 

「これお願いしますー」

「畏まりまし…………ん?」

 

 清算の店員から見て、声はすれど姿は見えなかった。横を見ても遠くを見ても誰もいない。

 

「ここですここですー! お願いしますー!」

「あっ……ごめんね。お嬢ちゃん」

「うう……もう慣れました……」

 

 下を見ると、麦わら帽子にワンピースを着た青髪の子供がいた。目いっぱいに背伸びして、本を上に掲げてもギリギリ死角に入っている。3歳ぐらいだろうか?いやにしっかりとした言葉遣いをしていた。

 

「一人だけ?お母さんに頼まれたおつかい?」

「親戚のおばさんに頼まれた本です。弟と妹も別のところでやっています」

(……この子より小さいのは無理じゃないかしら。後で迷子センターに連絡しておこう)

 

 はきはきとしっかりとした子供だった。清算の時にピン札を出すあたり、非常に裕福な家らしい。テンプレート通りの質問をしても、淀みなく答えていく。良くできた大人と変わらなかった。

 

「ありがとうごいました。お渡しの方は私が直接レジの外に出て渡させて頂きます」

「あ、最後にこの本を別の袋でお願いします。私の個人的な分です」

「…………本当にこちらの本で間違いありませんか?」

「はい!お願いします! えへへぇ……」

 

 明るそうな、嬉しそうな声色で、幼女は一つの本を差し出していた。

 <ナイスバディになる方法! 魅力的なオンナのカラダの作り方>

 確認をとったが間違いがない。本人は心から欲しいと思っている。もう書店の店員としては何も言えなかった。会計を終えて手渡す時に、しゃがみこんで目線を合わせて大人のお姉さんとして一つのアドバイスをした。

 

「あのね……その年で気にする必要はないから。お嬢ちゃんが今この本に書かれている努力をしても、きっと伸びないよ。10年早いと思うから、まず背丈を伸ばそうね。牛乳飲んでる?」

 

 そう言うと、ヤケになった表情で幼女は本をひっつかんで駆け出した。

 

「うわーーーーーん! 飲んでるもん! 毎日頑張ってるのにちっとも伸びないのー!」

 

 見た目と実際の年齢がアンバランスな少女は去っていった。10年後も、彼女はナイスバディにはなっていない。

 

 

 

 

 ザンス・リーザス、スシヌ・ザ・ガンジー

品目 漫画、ライトノベル、CD,DVD、画集

 

 二人は虎の穴本店に来ていた。この店はAとBがあって要求品目はそれぞれ広範に存在する。現代風の服に身を包んだ彼等は手分けして左右両店の買い物を済ませる事となった。

 

「新約禁書20、ブレーキワールド16、寄宿学園のロミオ……あいつ、何買ってんだ」

 

 ジーンズに赤色が混じったアロハシャツを着た長身の男、ザンスが買い物を進めていた。古く、今時の若者に受けそうなライトノベルや漫画も集めている。大した知識というものではなく、完全に娯楽目的な書物たち。それにしたって、低俗過ぎないか。

 

「ま、誰が何買おうがどうでもいい。それより問題は余った金と、アレだな」

 

 ザンスが目を向けたのはただ一つ。地下一階『成年向けエリア』別名、エロの集合地への道。

 

「ぐふふ……」

 

 最初にこの店を訪れた時点で、目星はつけていた。リセットもスシヌも別フロアに行っている。ここに行っても誰も気づかない。

 

「……これは異界の視察だ。この店を隅々まで調べて、異界について得られる機会があるなら利用するべきだ。これは将来王となる俺様のやるべき事なのだ!」

 

 勇気をもって、地下への階段への第一歩を踏み出した。ここよりは異世界人にとって前人未踏の第一歩。まだ誰も見たことのない景色へと進んでいく。

 

「うおおぉぉぉ~っ…………!」

 

 エルドラドはここにあった。ディスプレイに表示される女性のあられもない姿。エロシーン特有の嬌声。ほとんど裸と思うような水着がディスプレイに映る。

 

「すげぇ、すげぇ、すげぇよ!! うわっ……うへへへへ……」

 

 ザンスにとって望んでいたものがそこにはあった。しかもどれもが画質良く、レベルが高い。リーザスやラレラレ石では望めない高品質のエロの世界。声優も喘ぎのプロだ。男の興奮を誘うような声色で、購入を誘っていく。

 

(だが……買えん。買ったらバレる。悔しいが……眼に焼き付ける事しか出来ねぇ……)

 

 一階、二階で買ったものはカバーはあるが薄かった。あれでは中身がバレバレだ。裸の女を見せつけたまま往来を歩く事は出来ない。

 

「ありがとうございましたー。こちら、商品となります」

 

 その時、会計が袋を手渡しているのが見えた。

 

「あの袋、上のと違って、明らかに厚い、何も見えないな……まさかっ……!」

 

 そういった問題点を、異界の人間達は配慮していた。成人向けのものが売っているエリアでは袋の種類が違う。地下一階に至っては段ボールと見紛うような質感と厚さをもって、何を買ったかわからないようになっている。ザンスが先ほど渡されたものを見ても、何かはわからない。つまり、ザンスが何を買っても魔王の子達は分からない。

 

(すげぇ……! なんてすげぇんだスチールホラー! リーザスに帰ったらこれを取り入れよう……!)

 

 ブレーキは壊れた。ザンスは脱兎の勢いで自分の好きそうな書籍、DVD,ゲームをまとめていく。本気で頭を働かせて自分の好みを吟味、計算しつつ購入するものをつめこんでレジへと向かった。

 

「これだ! 店員、これをくれ!」

「9点で、計四万八千円となります」

 

 渡された額よりも低いが、ミラクルが頼んだものを買った分だけお金が足りない。

 

「ぐぅっ……!? どういうことだ!? 表示値段より高いぞ!」

「表示価格は税抜きです。消費税が入って若干加算されます」

(しまった……! どうすれば……!)

 

 異界には消費税がある。その認識が薄かった。そういえば、ミラクルの本を買った時も表示価格より要求は高かった。

 

「三千円……三千円足りねぇ……! この俺様が金で悩むとは!」

 

 既に店員は商品を手早く袋にまとめていた。後は厚手の袋を受け取るだけなのだが最後のステップでつまづいている。

 

「ザンスちゃんお金足りない? 私持ってるからあげるよー」

 

 上から大天使の声が聞こえた。救いの神だ。

 

「おおっ! リセットか、ナイスだ! こっち来てくれ!」

「はーい! お姉ちゃんに任せなさーい!」

 

 もう厚手の袋だ。問題ない。そう、今は屈辱だが後で宝石でも誕生日でもなんでも倍ぐらいで帰せばいい。異界の宝物は価値が違う。ぱたぱたとリセットが下りてきて、ザンスにお金を渡した。

 

「はい、ザンスちゃん」

「ふぅ~……」

「ありがとうございましたー。こちら、商品になります」

 

 そうして、戦利品は手に入れる事が出来た。もう自分の物で、誰も覗けない。リセットがひょこひょこと近くでのぞき込んでいるが、問題はない。

 

「ザンスちゃんザンスちゃん、そんなに高いもの買うなんてよっぽどいいものだったんだねー。何買ったの?」

「てめーには一生教えねーよ。最高の土産だ! がははははは!!!」

「む、じゃあ予想してみるよー。この手はジャンル別だから周囲のものからある程度想像できるんだからね。シンキングタイム、ちっちっち………………えっ?」

 

 周囲にはエロしかない。嬌声が聞こえる。裸の女が扇情的な恰好で媚びている。抱き枕に書いてある美少女が目の色をハートマークにして股を開いている。

 

「………………あっ」

「違う!違うぞコレは! たまたま会計をココで済ませただけだ!」

「う、うん、そーだねー! どの階でも出来るからたまたまここになっちゃっただけだよね! お姉ちゃんちっともわかんないや! それよりスシヌちゃん探してくる!」

 

 リセットは逃げ出すように階段を駆け上がった。ザンスも頭を抱えながらリセットの後を追う。

 

(畜生! もう買っちまった以上開き直るしかねぇ! スシヌを適当に虐めて場を誤魔化すか!)

 

 二人はスシヌ捜索へ階段を上がっていった。アニメ、CD担当の女の子を探しにB店へ。

 

 

 

 

 

 

 程なくして、ゼスの姫はB店6Fで発見された。

 

「執事×主人……執事攻め!? 立場の差があるのにそんな事がっ……!?」

 

 眼鏡を自分の熱気で曇らせていたスシヌが、そこにはいた。カゴの中には様々な肌色率の高い男の絡みが描かれている同人誌が積み重なっている。セミロングのスカートに、かわいらしいポーチ、今時の装いに整えられた服を着た少女は完全にこのコアな客層に同化している。

 僅かな時間にも関わらず、異界の毒にやられて手遅れになっていた。

 

「ス、スシヌちゃん…………」

 

 リセットとしても直視に耐えかねるような状況下で、スポンジのようにポンポンといけないものを吸い込んでいる。ザンスも、妹の醜態をこれ以上見ていられない。そっとリセットの麦わら帽子を押さえた。

 

「リセット……俺達は何も見なかった事にするぞ。アホのスシヌが狂気に染まっても、お前の手で戻してやってくれ」

「う、うん……あ、あんな、あんな、ひゃあっ……もう完全に隠しようがないものまで……」

「…………例え手遅れでも、家族だと救いたくなるんだな」

 

 そう言って、二人は踵を返す。だが、そのタイミングでザンスがすれ違う人と当たり、通行人が持っていたらしい戦利品が落ち、金物の大きな音がけたたましく鳴り響いた。

 

「げっ……」

「…………お姉ちゃん!?ザンスちゃんまで!?」

 

 見つかった、見つかってしまった。後はもうこっちが気まずいだけだ。

 

「あ、あ、あ、あ……」

 

 興奮で赤くなっていたスシヌの顔色が青ざめ、羞恥に炙られてまた赤に戻る。

 

「ご、ごめんね! お姉ちゃんそういうのに気づかなくて!」

「……その、なんだ。ミラクルの家でコーヒー飲んで待ってるから、ゆっくりやっててくれ」

 

 普段はここぞとばかりに弄るザンスの滅多に見せない優しさが、トドメだった。

 

「ああああああああああああああああああ!!!」

 

 スシヌの叫びが虎の穴に響いた。そして光と共に――――彼女は消えた。

残されたのは水晶玉、一つだけ。

 

「あのアホここで迷宮作って引きこもりやがった!」

「ま、万引きになっちゃうー! 商品だけでも連れ戻さないと!」

 

 目立たない位置に移動してスシヌ自作の迷宮の中に二人は飛び込んだ。どうやっても、騒がしくなる魔王の子達だった。

 

 




ダークランス lv260
 兄馬鹿な長男、20歳。LP3年1月誕生(公式)
 自分はどうでもいいが、弟や妹を祝うのが楽しくてしょうがない。全員の誕生日を把握しているが、冒険中に乱義、ザンスから釘を刺されて祝えなかったのを残念に思っている。ネプラカスを捜索中。

山本乱義 lv255
 しっかりものの次男、17歳。LP6年4月誕生(公式)
 実は兄弟との冒険中に誕生日を迎えているのだが本人は何も言わなかった。ザンスと喧嘩になりそうなものを自分から持ち込む事はない。

リセット・カラー lv253
 大天使な長女、17歳。LP6年6月誕生(公式)
 年齢を数えるたびに、他の子との差(特にナギや深根)を感じてコンプレックスが増大している。

スシヌ・ザ・ガンジー lv250
 引っ込み思案な次女、16歳。LP7年4月~9月誕生。
 年齢についてはあまり触れられたくない側面がある。
 ゼス第1応用学校の制服を着ている。つまりまだ中学生。
 スシヌに出会った時点でRA15年4月後半な為に残念ながら言い訳は出来ない。
 >そっとしてあげよう……

ザンス・リーザス lv255
 乱暴な三男、16歳。LP7年4月~9月誕生。
 年齢を意識するとどうしても乱義が兄であると認める必要があるため、冒険中に祝われたくない。

徳川深根 lv259
 なまけものな三女、15歳。LP7年4月~9月誕生。
 祝われたかったが、その前に冒険が終わってしまった(独自設定)

ミックス・トー lv258
 凄くいい子な四女、14歳。前話の独自設定準拠でLP8(RA0)年12月誕生。
 スチールホラー含む様々な異界に幼い頃からちょくちょく連れられており、その反動ですっかり常識人に。
 自分の誕生日はありふれた一日と価値は同じと考えているが、祝われると悪い気はしない。

ミラクル・トー lv66
 魔王と自分だけが使える魔法、異界を繋げるゲートコネクトを駆使して魔王の子を修行中。
今回の服装はアリスソフトブログ2014年3月13日号掲載、学園恋愛ゲーム『ランス』より。

 魔王の子全員駆使して物語作るという贅沢。元就をスチールホラー入りさせると祝うどころじゃなくなるので仕方ないね。下編でちゃんと出てきます。
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