新勇者バーバラの冒険 未熟時代の外伝置き場 作:ランスロス・マッキ
全ての外伝はバーバラとはほとんど関係がありません。時系列的にはこの遥か先にバーバラの物語もあるというぐらいで、筆者が思いついたまま書きたいだけの話たちです。読み飛ばしても本編に問題はありません。
山本乱義、徳川深根
品目 ケーキ用食材、チョコレート、砂糖類。
二人の買い物はさして時間がかからなかった。冒険中はマッピングを担当していた山本乱義にとって、異世界だとしても地図があれば迷う事はなかった。買い物も間違いがないように店員に頼る事で、全ての品目を素早く購入することが出来た。
「こちら商品になります。ありがとうございました」
「こちらこそ。何から何まで手伝って頂いてありがとうございます」
「……っはい」
この白のポロシャツ姿の若者はどこかの学生なのだろうか。短い受け答え、所作の中でもしっかりとした礼儀正しさがある。精悍で理知的な顔つき。それでいて笑顔も柔らかい。短い期間の付き合いだったのに、すっかり彼の魅力にやられている。熱くなる頬と胸の高鳴りの中、店員は勇気を出した。
「……あのっ。ラインのIDを教えて頂いてもよろしいでしょうか?当店コラボイベントを実施しておりまして……」
「いや、申し訳ないがそのようなものを知りません。ラインとはなんですか?」
「えっ……でしたら電話番号だけでも教えてくれませんか!?」
「すいません。そちらについても僕はわかりません」
困惑した表情を若者は浮かべているが信じ難い。今の時代、どちらも持ってない学生なんて有り得ないだろう。という事は、教える気がないのだろうか。
「遅い。買い物終わったら行こ?」
どう言葉を繋ぐべきか悩んでいる内に、白いセーラー服の少女が店に入ってきた。するりと若者の手を掴み、店外の方へと引っ張っていく。
「ああ、深根……すいません。連れが急いでるもので」
「こちらこそお止めして申し訳ありませんでした。デート中では、野暮でしたね」
店員は頭を深く下げた。短い期間で彼女持ちに惚れた事故だった。そう言い聞かせてもズタズタになった心はどうしようもなく、恨み節が出てしまう。
「あそこまで美男美女を絵にかいたようなカップルだったら、最初に二人で入ってきてよぉ……」
今日はストロングゼロを飲もう。そう店員は心に決めた。
学生服の二人、山本乱義と徳川深根は町を練り歩いていた。行きから深根は誘っていたが、乱義は用事を済ませてからと言って断っていた。結果、その分行くところが増えた。
「次こっち、次こっち行こう」
「前の店と同じようなところじゃないか?……まあ、いいんだけどね」
今までは目的値に向かって真っすぐ向かった分、その道をS字上に縫うように進んでいく。その度に、一つか二つ、様子を見て何かを買ったり、楽しんだりする。甘えん坊っぷりではトップクラスの末っ子がその本領を発揮していた。
「VRイベントでーす!一回1000円で最新のVRゲームを先行で楽しめまーす!このゲームはマルチプレイ、二人一組で楽しめるゲームですよー!」
「最新……行こ?」
「僕も最新というのは気になるね。これぐらい技術の進んだ国の最先端は見てみたい」
そう言って、二人はゲーミングPCを販売してるショップの上階へと上がっていった。廃スペックPCに繋がれた2台のVRゴーグルがあり、それを被る事で視界全部で楽しむものだとの説明を受けて、二人は視界を塞がれた状態になった。
「それじゃ、始めますよー。日頃のストレスを晴らすのに最適だと思いますので楽しんでいってくださいね」
目を塞いだ暗い暗闇だったものが、奥行きの深く広い空間になった。
「……これは異界を再現するものか。ミラクルさんもやってたけど、こっちは視点を変えればついていく。拡張現実と言うだけはあるな」
「わくわく」
そうして拡張現実が光を取り戻し世界が表れて――ふざける気満々の少女が飛んできた。ゴシック調のドットロゴがせり上がってくる。
【冒険者のくせになまいきだ】
「二人は魔王とその嫁じゃ! 魔王を倒そうとする猪口才な雑魚共を退けて、世界を滅亡させるのがお主の使命じゃ! ガイド役は妾、QDでお送りするぞー」
「「………………………」」
空気が凍った。たまたま、魔王討伐隊がやるべきものではなかった。
「このゲームは適当にパンチ、キックをしただけで屈強な冒険者や魔法使いが次々とスプラッタに死んでいくのを楽しむのが醍醐味じゃ! チュートリアルなので難しかったらQDコマンドがあるから押すが良い! 妾が対象のステージをグチャグチャにしてやるわ! ステージ名はJAPANじゃ!」
「もうこれ止めないか……」
「兄様、何事も楽しもう?あくまでゲーム、現実じゃないんだから」
そうしてゲームは始まった。見事に、拡張現実とは思えないほどに忠実に再現されていた。敵意を向けてくる軍隊の家紋は、山本家の家紋だった。旗も、大将の兜も山本家の家紋。
「僕は一切拳を振るわない。この戦いに負けるよ。深根も戦わないでくれ」
「…………わかった。兄様、可哀想」
負けず嫌いの男が清々しく負けを認めた。拡張現実の世界を見ていると、城は燃えている。鬼が人を食い、周囲は地獄絵図だ。その状況でも折れない心で武将率いる軍隊は戦っている。後ろの方には彼等が守るべき家族がいる。次々と斬りかかってくるがダメージは3桁、そして自分達に表示されていた体力は六千万。
「日が暮れちゃうよ?」
「いいんだ。魔王に殺される山本家なんてやってたまるか!」
義憤に燃えて、山本乱義は立ち続けた。しかし元から地獄絵図の劣勢。鬼が他からも出現し、彼等の守るべき家族に襲い掛かり、食い殺される。武将も鬼に囲まれて傷が増え、少しずつ嬲られていく。劣勢から蹂躙へ、最早攻撃する事もなく残虐に嬲られるショーと化した。
「せめて、戦え……この卑怯者っ……!」
軍隊は全滅し、武将の最期の呪詛と共にステージクリアの文字が出現する。
「ゲームクリアじゃ、おめでとう! こうしてjapanは滅びた。武将殺害スコアは0じゃ! お主、魔王になっても無能じゃのう!」
ファンファーレと共に、10分程の地獄絵図は終わりを告げた。
「はい、お疲れ様でした。終了になりまーす!スコア0って事は、最初の刺激が強すぎました?」
現実世界に引き戻された。残されたのは異様な後味の悪さだけ。乱義はダメージが強すぎて目の焦点が合っていない。
「僕達が失敗したらこうなる。山本乱義は完璧であらねばならない……」
「次行こう次!もっと楽な気持ちになれるの探そ?」
深根は自分が楽しむ為ではなく、乱義の心を癒す為に全力で遊ぼうと決めた。真面目な部分を少しは忘れた方がいい。
ミックス・トー
品目 普通の食材たち、おつかい。
「…………なんで、あんたもいるのよ」
「はっはっは、愛娘が心配だからに決まっているだろう」
ミックスはいつもの姿で――――白衣を着ていない、ゴシックロリータな服装で秋葉原を歩いていた。ミラクルもブレザー型の制服を着ているが、代わりに白衣を羽織っていては不自然に感じる。この世界に溶け込むと言っておきながら、自分達の世界を崩す気がない。
ただし、今日この日、この場所では耳目を引いても違和感はなかった。二人は休日、秋葉原の歩行者天国を堂々と闊歩している。その広い道を利用したコスプレイヤーがいるなど日常茶飯事だ。ミックス達親子はその美貌も相まって数あるコスプレの中でも目を引いていた。道を歩いていると、勇気のある小太りの男が一眼レフを前に出して声をかけてきた。
「デュフフ、そこの美しいお嬢さん一枚よろしいですかな!?」
「……ああん?」
「うっ……なんでもないです」
ミックスは絶対零度の目線と凄みによってカメコの意思を挫いた。しかし、もう一人の目立ちたがり屋は違った。
「……せめてそこのお姉様だけでも、どうか一枚!一枚だけでも!」
「ふはははは! 余の美しさに見惚れたか! 許そう! 世界を統べる王の姿をしかと残すがいい! 愛娘と一緒にな!」
そう言って、がっしりとミックスの腕を抱き寄せた。巻き込むようにホールドして逃げられないように。
「ちょっ……!? はーなーせー!」
ミックスの叫びも虚しく、お使いの途中で撮影会が始まった。
高貴な気品を備えた目、珠のような肌、この世のものと思えぬ美貌。服装自体はブレザーと白衣というあり合わせの組み合わせだったが、却って素材の良さが際立つ。カメコが次々と群がり、ミラクルは一切逃げずに道路のど真ん中で堂々立ち続ける。身体をよじる娘を手放さない。そうして、あっという間に美少女を撮る為の輪が出来上がった。
「ああもう……撮るな撮るな撮るなー!」
シャッターを切る速度は止まらない。むしろ目線を動かすごとに色めきたち、様々な角度からミックスの可愛さを写し取ろうとする。全てが逆効果な事を悟り、ミックスはどうしたらいいかわからなくなってしまった。
「昨今はこの通りのコスプレは露出度の高い煽情的な服装が増えている。だが、コスプレというものは日常の中に非日常を加える事で良さが引き出されるものだ。むしろ余の場合は現実に近づけた方がいいだろう。――――このように」
勿体をつけてミラクルは眼鏡をかけた。白衣のポケットの中に両手を入れて、実験動物を見るようにカメコを上から目線で睥睨する。多くのレイヤーは媚びた目を撮影者に浮かべるものだが、異端の行動なれどあまりにも似合っていた。
「「「うおお~~~~~~~~~~っ!」」」
ローアングラーならずとも跪いた。丈は長いため見えるものではない。むしろそこに近づく方が憚れるように感じた。スカートではなく全体像を収めておきたい。まさしく、コスプレ通りに現れた王だった。
「ククク……ふっふっふ……はーッはッはっは!!!!!」
「もう…………やめてぇ……」
母の奇行に巻き込まれた娘は顔を真っ赤にして俯いている。もう人だかりで逃げ場はない。
カメコ達には二人は姉妹に見えた。日常的な服の組み合わせにも関わらず女王様な姉。ゴスロリ姿で常識人な妹。着ている服と取るべき立場の逆転が最高のギャップ萌えを醸し出していた。
逃げ出そうとしたり、へたり込んだりする妹。求めれられれば見事な演出で答える姉。この撮影会はカメコにとって至福の一時だった。
「さて、そろそろいいだろう。臣民ならば王の道を示せ」
「「「ははぁっ!!!」」」
人垣が割れた。ようやくミックス達は歩行者天国、コスプレ通りから解放される。
「さっき通った青髪スーパーロングも最高だったし、今日は大当たりでござる……生きててよかったぁ……!」
「王様……! 王様……! 踏まれたいぃ~!」
コスプレ王に心酔した臣民の声を受けつつ、二人は去っていく。
「はっはっは。この世界で王となるのも簡単かもしれんな。自撮り専用でツイッターとインスタグラムでも開設するか」
「あたしは静かに暮らしたいのに……ママはどうしてこうなのよ……」
ミックスは王の気持ちがわからない。ミラクルは娘の可愛い画像をたくさん残したいからという親馬鹿な動機でやっていた。派手な演出に隠れて、自分の分をしっかりと撮っていた。
ただのお使いの前に撮影会などを挟まれては、穏やかな買い物など望むべくもない。ミックスは指定にあったスーパーを使わずに、なるだけ母親から距離を取りやすく広い店を選択した。どうせついてくるし振り払えないが、気分の問題だ。
店内は午前中ということもあって閑散としていた。いくらかの客はいるが地元民だろう。ほとんどは主婦や老人だった。ミックスは母親を振り払うように足早に店内を駆け巡る。
「卵4パック、次」
ゴスロリ姿の少女が、可能な限りのハイペースでカゴの中に荷物を積み上げていく。急いでいるため雑に見えるが、スペースを有効活用して荷物が痛まない置き方がされている。スーパーの店員が入れ替える必要がない整然とした配置だ。このあたり、ミックスの几帳面さが出ていた。
「生鮮食品も終わったし、この果物で全部ね」
広い店内を無駄のないルートで駆け回り、10分もしないうちに二つのカゴは一杯になっていた。地頭の良さと、この世界に対する慣れ。ただのお使いだからこそ、魔王の子の中でも彼女特有の長所が出ている。
レジに立ったところでミラクルが寄ってきて、カゴの中から一つの商品を取り出した。
「何故リストにはないワインを入れた?まだ飲む年ではないだろう」
「出かける前にチェックしたらこの品種だけ状態が良くなかった。今日の料理に使うでしょ?」
「……新品を仕入れたのだがな。流通のミスか」
ミックスは人がいるならどんな世界でも溶け込んで暮らしていける。そして人を助けられる。器用万能とは、彼女の為にあるような言葉だ。そして、今日はこの場所で彼女が必要とされる日だった。
エスカレーターを上がってきた熟年の夫婦らしき二人。男が足をもつれさせて前のめりに膝をついた。ありふれた光景だが、ミックスの目には少し気になる症状があった。顔色が良くない。
「……ママ、会計済ませておいて」
ミラクルの返事を聞く事なく、ミックスは夫婦に近寄った。
「足腰立たなくなるのはまだ早いでしょう。早く起きなさいよ」
「ここ最近仕事続きだったからかな……思ったより疲れてるみたいだ。あ、あれ……?」
手にも力が入らない。踏ん張ろうとしても膝が笑ったまま言うことを聞かない。どうにも立ち上がるのは難しそうだった。
「はいちょっと見せて。立つの辛そうね。返事出来る?」
「……君は?」
「…………医者じゃないけど知識がある人間」
ミックスは若干目を逸らしてそう答えた。この世界では資格がなければ医者を名乗れない。当然、ミックスは持っていないモグリという扱いになる。
「その年では無理でしょうね……心配してくれてありがとうね。店員さんを呼んでくるから」
「お恥ずかしいところを見せてしまったな。ただの疲労だから大丈夫だよ」
(……大丈夫かどうかはあたしが決めるって言いたい)
顔面蒼白、手足の冷え……ミックスにあるこの世界の知識では貧血と診断する。疲労の蓄積とも言えるだろう。しかし、今はもう一つの世界の知識が――――彼女の中で警鐘を鳴らしていた。
「アナライズ、――――ッ!?」
ミックスは自分が使える技能の一つ、「アナライズ」を使った。すると異変が露わになる。HPが、生命力が緩やかなれど確実に減っている。そしてそれは止まらない。毒でも呪いでもなく、原因不明の減少。
この病気は彼女の中で覚えがあった。初期症状の貧血。遅効性なれど気づかず、止める手立てなく数多の人を殺した病魔。最後には体中の血、生命力を残らず吸い取る寄生術。
魔人ワルルポートが振りまいた数多の毒と病、その内の一つだ。
「確定。あんたは患者で私が医者」
「…………っは?」
ミックスは仕込んでいた薬品を晒した。緑、青、紫……その中からどす黒いものを取り出して注射器のシリンダーに入れていく。
「き、君、何をする気だ…………!?」
「とりあえず生命力の上薬注射してから輸液。そこから移動して治療に入るから」
淡々と医者としての説明責任を果たす。しかし一般人から見ればそこにいるのは医者ではなくゴスロリ少女だ。注射器に詰めてるものも怪しげな薬品としか思えない。ごっこ遊びにしても過激過ぎた。
「ちょっとやめてあげてください。何をしているんですか」
「っ!?」
周りから見ても明らかに不穏なものだったため、遠巻きに見ていた人がミックスの腕を掴んで止めに入った。
「離して! これはちゃんとした治療よ!」
「そういうのは医者に任せればいいでしょう。そこまで悪いわけでもなさそうだし、焦る必要はないですよ」
「……っああもう!」
店員も気づいて近づいている。このまま医療機関に任せる流れになるだろう。そして明日には死んでいる。ミックスは自身の力を行使してでも流れを変える覚悟を決め――――
「スリープ」
突如、ミックスを除く全ての人間の意識は消失した。
「…………は?」
「このスーパー全ての人間を眠らせた。必要だっただろう?」
荷物を一杯にしたレジ袋を持ち、小指ほどの杖をつまんでいるミラクルが近づいてきた。
「なんであたしが起きてるのよ……」
「お前だけ対象から外したからな。魔法に関して余に不可能はない」
単体指定であるはずのスリープで広範囲を眠らせるだけではなく、特定の相手だけを避けて発動できる。希代の大魔法使いは伊達ではない。
「さあ、お前のやりたいことをするがいい。余の愚娘にして愛娘、ミックス・トー」
ことさらに上機嫌な表情で、ミラクルは娘の頭を撫でた。
「……決まってる。医者は患者を治すもの。こんな病気は3年前に撲滅済みだから」
メス等の不穏な道具を展開して、自分の本業に取り掛かるミックス。彼女によって解決済みの病魔は、30分も経たずに患者から取り除かれた。
日が少し傾き、異界を探検していた魔王の子達がミラクルの家へと帰ってくる。リビングルームはテレビがつけられており、アナウンサーが今日のニュースを読み上げている。
「トップニュースです。カード大統領の躍進が止まりません。今回の日本のサミットで、日米中露の太平洋合同演習が正式決定しました。壁を無くすというスローガンを有言実行し……」
「今戻りました……ぐすっ……ひっく……」
「いつまでウジウジしてんだてめー!ここまで引きずるつもりか!」
ザンス達書籍購入組が帰ってきた。彼等は本屋よりもスシヌ作成の迷宮で過ごす時間の方が圧倒的に長い。装備無しでZガーディアンと戦い、パニックになったスシヌをなだめる頃には昼過ぎになってしまった。
ミラクルは新聞を読んでいる。ミックスは何をするでもなく、ぼーっとミラクルの隣で座っている。
「……なんだありゃ。あんなの見たことねえぞ」
「うーん……あんな風になるミックスちゃんは、よっぽど良い事があった時ぐらいだろうねえ」
「おらおら、どうした妹。喋れんのか」
「……あたしはいつも通りよ」
ザンスは軽くミックスを小突いたが反応が薄い。いつもはガンを飛ばしてくるはずの目の隈が取れている。そもそもミラクルと隣同士で大人しくしている時点で異常と言えた。
ミックス達も少し前に帰ってきていた。患者を治療した後、荷物を家に置いてからの親娘はごく普通の生活をした。一緒にご飯を食べ、映画館で映画を鑑賞し、批評しつつ帰宅。家事を手伝い、落ち着いたところでテレビをつけ……日常に、平和で穏やかな暮らしに浸っている。
「ふふふ……良かったねぇ、ミックスちゃん」
リセットは自分の事のように喜んでいる。人が楽しい事で、自分も楽しくなれる姉だ。雰囲気そのものが弛緩し、ザンスも毒を吐く気になれなかった。
「首相の経済政策の効果は著しく、支持率もストップ高。今回の憲法改正によって権力集中による懸念の声もありますが……」
「戻ったよ。深根を本気で遊ばせると大変だった……」
「大満足。むふー」
乱義、深根達japan組も到着した。頼まれたものよりもゲームセンターのぬいぐるみや景品、ストラップといった装飾品がスペースを取って、紙袋がはちきれんばかりに膨らんでいる。積荷を降ろした乱義はリセットに問いかけた。
「こっちは穏やかに終わったよ。ザンスは騒ぎを起こさなかったかい?」
「大丈夫、みんないい子だったよ。スチールホラーって面白いところ多いねー」
迷宮攻略程度ならリセットにとっては騒ぎにカウントされない。心から楽しかったと、その笑顔が物語っていた。
「おいコラ、なんで俺指定なんだよ」
「売られた喧嘩は全部買う狂犬だからな。この中で争いを起こすなと言われてやるのはザンスぐらいだ」
「上等だ! だったら今買ってやろうか!」
「むー。二人とも今日ぐらいは抑えてくれないかなぁ……」
ザンスと乱義が喧嘩になり、リセットが止めに入る。いつもの流れだが、今日喧嘩を止めたのは別のきっかけがあった。
「続いてのニュースです。本日10時頃、秋葉原でケミカルテロじみた事件が起きました」
「秋葉原って……ここだよね」
「………………あっ」
ようやくミックスは現実世界に引き戻された。テレビにはエスカレーターと倒れた熟年の男、そしてゴスロリの少女が映し出される。
「こちらの監視カメラの映像をご覧ください。黒衣の少女が薬品を取り出してからほどなくして、全ての人間が一斉に倒れてしまいます。他の監視カメラの映像も見ればわかりますが、フロア内のほぼ全員が昏倒しています」
「これは酷いですね。一体どんな化学薬品を使えばこうなるんでしょうか」
「その後も少女は倒れていた男に対して残酷な行為を続けていきます。ちょっと刺激が強すぎてこの先は地上波には流す許可が下りませんでした」
場は凍り付いた。目線は地上波に流された二人、ミラクルとミックスに注がれている。
「ふははははは! 監視カメラの方は考えが及んでいなかったな。文明の利器、やるではないか」
「てめーら騒ぎ起こすなって言っておいて自分から起こしてるじゃねーか!」
「う、うるさい!」
顔を真っ赤にしてミラクルは立ち上がった。慌てて窓から眼下を見れば警察車両が何台か止まっている。
「幸いにも一時的な昏睡状態に陥るだけのガスらしく、被害は昏睡時の転倒等の軽傷のみでした。警察当局は監視カメラに映った二人を、毒性物質等発散罪容疑で捜査中です」
「……来てる。10分もしない内にこっちに来るでしょうね」
「も、もうこれわたし達も危ないんじゃ……!?」
「買うべきものは買ったし、戻ろうか。捕まると厄介な事になりそうだね」
「そうだな。エール・モフスも痺れを切らしてそうだし急ぐとするか」
ミラクルは立ち上がった。この世界から去るべく魔法の詠唱を開始する。
「お天気の前に、最近熱中症による倒れる人が増加しています。今年の夏は非常に熱くなりそうです。この2週間で首都圏だけでも400名近くが搬送。死者も既に……」
「ゲートコネクト!……さて、急ぐとするか」
そう言って、ミラクルはTVの電源を消した。術者である以上、最後まで残るミラクルは後始末をする役目になる。その一方で、展開されたゲートコネクトに魔王の子達は次々と飛び込んでいく。
「ふふ……あっちもあっちで中々に愉快な事になっているだろうからな。エール・モフスがどんな反応をするか楽しみだ」
全てを終えたミラクルもゲートコネクトの先へと向かう。
サウルスモール、怒髪天となっているエールのところへ。
魔王ジル
スチールホラーに来ている魔王。
オルブライト派を影で操り、暗躍中。
魔王であるため、ゲートコネクトを使える能力者。
5%ではあるが完全復活している。
病気周りは独自設定です。中編が何故かあるせいで自分の首を絞める。主に本編のストックに
これもケイブリスって奴が悪いんだ。まずはケイブリスしばく。絶対命令権と魔人健太郎や使徒って使い方によると凶悪だよね。
ネタ8割、やるならこれぐらいやらかすだろうな2割で出来ています。
こっそり黒塗り解除したりして。
彼女達の出番はいつになるやら。