シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

100 / 145
100話達成!!
そして連載三周年です!!
ここまで長かった…しかしあと僅かなのでお見逃しなく!


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The deathly hallows

──シェリー達が必死の思いで逃げる中で。

 ゴーレムの崩落をいち早く嗅ぎつけ、瞬く間に遁走せしめた魔法使いが一人いた。

 アントニン・ドロホフ。

 シェリー達がネロの蘇生やオスカーの妨害で時間を取られていたのに対し、ドロホフはフリー。彼はまんまと逃げ果せたというわけだ。

 

「あ〜あ、ホンット、好き勝手やってくれちゃったなァオスカーの野郎め」

 

 先程まで破壊神として地上を進んでいた超巨大ゴーレムは今や物言わぬ岩石の群れと化し、破壊の痕だけが痛々しく大地に刻まれていた。

 その惨状を面白がるかのようにドロホフは安物の煙草をふかし、これからのことについて思案を巡らす。

 彼の傍らにはダンテから盗んだ戦闘人形が二十体ほど無造作に転がっており、新たなる主人の指示さえあればたちまち冷徹に動く無慈悲な殺戮機械と化すだろう。

 問題は、その力の矛先をどこへ向けるかだ。

 

「このまま闇の大将の所へ戻るってのも悪かないが……どうやら奴さんとは考え方が合わねえらしい。絶対的な個の強さで勝っても、何の面白味もねえ。

 かといって騎士団へ寝返るのも無いな。ロナルドとはもう一度闘りてえ。ありゃ良い軍師になる」

 

 くつくつと、ドロホフは愉快そうにホグワーツでの激戦を思い返す。良くも悪くも個人主義の強い魔法界ではああいう指揮官タイプの魔法使いは珍しい。

 

「よし!オジサンは魔法大戦からは一抜けだ。軍隊集めるところからやり直しだな!ハッハッハッ」

 

 パンパンと砂埃を払うと、戦争狂は戦闘人形をぞろぞろ引き連れて夜の闇へと消えて行く。

 まずは戦闘人形を複製するところから始めるかと、呑気にドロホフは戦場を後にした。ひっそりと闇に消えた彼が表舞台に再び現れるのは、まだ先のこと──。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 フォード・アングリアのタイヤが切り裂くのは、アスファルトではなく空の静寂だった。

 魔法がかけられた空飛ぶ車は、ダンテとの戦いで疲弊した戦士達を乗せて、緩やかにホグワーツへと運ぶ。

 

「バカ……!バカ!!前から思ってたけど貴方って本当バカね!!私がっ、ジニー達がどれだけ心配したと思っているの!!バカ!!」

「ごめん、ごめん、ハーマイオニー、ごめん。勝手にいなくなってごめん。ごめんねぇ」

 

 酷い顔で抱き合い、ぐしゃぐしゃに泣いた。

 戦いの終わり、敵を気にしなくてもいい状況で、こうして友達と再び逢うことができる日が来るなんて、思いもよらなかった。

 夜空の傍観者は月だけだ。

 恥も外聞もかなぐり捨てて、ただただ泣いた。

 

「ロン、運転変わるぞ」

「……いや僕は」

「いいから行け」

 

 「悪いな」と苦笑を返すと、精悍に育った赤毛ののっぽは、堰を切ったかのように気の抜けた声を出した。

 ああ──…良かった。本当に、無事で。

 また会えた、シェリーと。

 他愛のないくだらない話を沢山した。

 どこに行っていたのとか、何をしていたのとか。ロンやハーマイオニーが語るところによると、ホグワーツは魔法省と並ぶ最重要拠点として機能しているらしく、引っ切りなしに人が出たり入ったりしているらしい。だから懐かしの人と会えるとは限らない……と、ハーマイオニーは懸念していたが、すぐにその懸念は晴れた。

 

 懐かしき母校へと凱旋する。

 ホグワーツの校舎は美しく、少しばかり破損している箇所もあったが、未だ顕在な威容を殊更に伝えていた。

 到着すると同時、保健室にリラが連れ込まれる。空間拡張呪文を使用しており、かつポンフリーを始めとする腕利きの癒者達が詰めているので、治すだけならば聖マンゴにも匹敵するレベルだ。

 

「ひどく衰弱している……早く手当てを!」

「あ、兄を、よろしくお願いします!!」

 

 ダンテが繋ぎ止めた命だ、そう容易く灯が消えることはないだろうが……後は任せるしかない。

 

「──シェリー?」

 

 確かめるようにかけられた声に振り向いた。

 髭もじゃの大きな図体は、今も健在のようだった。

 

「オーッ!シェリーだ!!」

 

 ハグリッドの、相も変わらぬ銅鑼のような声に迎えられて、シェリーはようやくホグワーツに帰ってきたのだと実感した。その様子に、喜色と驚愕をないまぜにして見知った顔が駆けてくる。

 フレッド、ジョージにもみくちゃにされ、がしがしと頭を撫でられた。逞しく育ったネビルはおんおんと泣いて、ジニーとルーナは肩を叩いた。

 不安と恐怖をかき消すような馬鹿騒ぎは、グリフィンドール寮での生活を想起させてくれた。

 マクゴナガルが優しく抱擁し、モリーは感涙に咽びながら包み込んだ。溢れた涙の分だけ憑き物が落ちていった気がした。

 

「……シェリー……」

「!リーマス……」

「──全く、君が死んでしまったら、君の親友達に顔向けできないところだった!困った娘だよ、本当に。無事で何よりだ、心臓が止まるかと思ったさ。ああ」

 

 冗談めかして笑うリーマスに、何て返せばいいのか分からなかったので、胸の中に飛び込むと、少し驚いて、そして……強く抱きしめた。

 少しすると、騒ぎに気付いたのか大人連中も雪崩れ込んでやって来た。目の下の皺と隈が増えたアーサーおじさんに、少し生傷の目立つビルに、それ以上に身体中に傷を負ったチャーリーに……それに……パーシー!

 出会い頭、しどろもどろに「あの時はすまなかった。根拠もなく君を中傷したりして……」と言われたが、正直シェリーはそんなことよりもパーシーが“こちら側”についてくれたことの方が嬉しかった。

 シェーマスやディーン、パーバティにラベンダーはそれぞれ立派に成長を遂げていたようだったし、コリンやデニスの出歯が目ぶりは変わらずのようだ。

 アンジェリーナとは、シェリーがクィディッチを一方的に辞めたことでいざこざがあったのだが、どうやらアンブリッジの首根っこを掴んで飛行していた場面をたまたま見ていたらしく、「あんなに清々しい姿を見せられちゃあね……」と許してくれた。

 アリシアとケイティも再会を喜んでくれた。

 

「コルダーッ!!無事だったか!!」

「はいっお兄様無事です!」

「そしてハッハー!四年ぶりだなポッター!」

「どっかいってんじゃないですよコノヤロー!!」

「うん、久しぶり、二人とも。……ふふっ、このやり取りも懐かしいなあ」

 

 コルダはといえばやっぱり兄といつもの漫才を繰り広げていた。変わらないものだなあ……。

 

「おい、あれって狼人間の……」

「ああ知ってるぜ。マルフォイ家の子女だろ」

「…………!」

「あんなやつが純血だなんだ偉そうにしてたんだよな。おー怖い怖い」

「狼人間って牙が生えてんだろ?俺、見に行ってこようかな」

 

 たまさか、シェリーの耳はこちらを遠巻きに見ていた者達の陰口を捉えた。兄妹も聞こえたらしい。

 激闘続きで頭の中から抜け落ちていたが、そういえばコルダの人狼の秘密は死喰い人によって曝露されているのだった。数年前にゴミ箱で拾った新聞で読んだので知っている。

 あの時は精神に余裕がないのもあって、記事の内容に怒り死喰い人に憎しみを滾らせていたのだが、あの時のコルダはとても冷静ではいられなかったであろうことは察するに容易い。コルダの体質は、今でも解決はしていないのだろう。

 

「コルダ……、」

「……いいんですよ。私にはお兄様と、支えてくれる仲間がいますので。まあ以前よりものすごーくマルフォイ家の力は減りましたし、縁談の話も軒並み無くなりましたけど、例のあの人の討伐で出る恩赦と勲功と報奨金で返り咲いてやるんですから!聖28一族で一番の功労者になって再び上流貴族になってやりますとも!」

「それは……なんというか、狡猾、だね」

「最高の褒め言葉じゃないか。なあ?コルダ」

 

 不安もある。

 恐怖もある。

 それでも、今この時だけは、混じり気のない優しさの中に浸っていたかった。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 冷たい眼光が、シェリーを射抜いていた。

 

 シェリーが戻って来たことで、モリーおばさんが「簡単なパーティー」を開いてくれたのだが、少し夜風に当たろうとパーティーを抜け出して中庭のベンチに行ったら、バッタリその人物に会ってしまった。

 チョウ・チャン。

 五年生の時に会話して以来ロクに話してなかったが、なんだか、物凄いしかめっ面でこっちを見ている。

 え、何だろう。怖い。

 

「──あなたの周りにはいつも人がいるから、二人で会う機会なんて中々ないし、楽しくお話でもしてみる?」

 

 何だか有無を言わせぬ迫力に、生唾をゴクリしながら彼女の座るベンチへと腰を沈めた。

 そして沈黙。

 遠くでふくろうがホーホー鳴いてる以外は特に音らしい音もない。……な、何だろうこれは。何か話した方がいいのだろうか。

 

「……な、何見てるの?」

「セドリックから貰ったロケット。誕生日になると蓋が開く仕掛けになってて、オルゴールでバースデーソングが流れて、手書きのバースデーカードが出てくるのよ。凝ってるでしょ?

 ……本当、女友達に渡すようなものじゃないわ。勘違いしちゃうもの」

(……付き合ってなかったんだ……?)

「今変なこと考えた?」

「えっ!いや……」

「まあ、対抗試合の頃は私もセドリックにべったりだったし、そう思われても仕方ないのかもね。けど彼は私をそういう対象として認識してすらいなかったわ。このロケットだって本命の女の子に渡す予定だったのかも。

 ……そんなのを貰って、素直に嬉しがってる自分がいることにもムカつくけどね」

 

 不意に、ぴり、と肌に伝う敵意を感じた。

 嘲りとも、怒りとも違う、ただただ暗くて黒い瞳。

 

「……ごめん。色々考えたけれど、やっぱり、あなたのことはどうも好きになれそうにない」

 

 温度を感じない声に、シェリーの心は震えた。

 

「私の好きな人を、セドリックを、復讐の動機に使ったあなたを、私はずるいと思ってるから」

「────」

「セドリックが赦しても、私が赦さない。セドリック・ディゴリーを救えなかったあなたを赦さない」

 

 俯くシェリーの視界に入り込むように、チョウは下から苛烈な眼で彼女を睨んだ。……いつの間にか彼女達の身長は逆転していた。

 いつだかのクィディッチではむしろ、彼女の方が背が高かったのに。

 

「……たった数年だけれど、一番近くで、あの人に恋する女としてセドリックを見てきた。彼のことを一番──女として好きだったのは私。だからこそ、セドリックに愛されたあなたは赦せない」

「…………ぇ」

「赦せない、赦せないわよ。私が欲しかったものを全部掻っ攫っていって、出した結論が復讐なんだから。

 セドリックは優しいから、あなたのことを最後まで心配していたでしょうね。彼はそういう人。そんな彼が愛した人が、不甲斐ない女でいいわけがない──」

 

 何やらサラッと重要な情報が出て呆けたシェリーに、容赦のない言葉の嵐が浴びせられる。

 

「セドリックのことを想うなら、シャキッとしてよ……知ってるんだから。あなたが本当はかっこよくて、素敵で、強いひとだってこと」

 

 ……チョウだって、シェリーに魅了されたうちの一人だった。セドリックの心を掴めなかったことは、そう、とてもとても悔しいけれど。相手がシェリーなら、まあ納得はできた。彼女は可愛いから。どこぞの馬の骨とも知れぬ女に拐かされるよりかは断然マシだ。

 それが何だ?

 復讐だと?

 違う。かの英雄は、シェリー・ポッターは、目一杯悲しんで、その後に立ち上がれるような人だ。セドリックはそういうひとを好きになった筈だ。筈なのだ。そう、彼女の目は物語っていた。

 

「あなたが自分を赦せないなら……私があなたを赦さないであげるから……だから笑っていて。グリフィンドールらしく傲慢に、セドリックの分まで笑って」

「……チョウはセドリックのことを……、」

「寝る。明日も早いし。おやすみ」

 

 ふらふらと自室に戻っていくチョウ。

 ……物凄い爆弾を落としていったのではないか。

 数年越しにセドリックの本心を知ったことで、妙によそよそしかった彼の態度の謎がようやく解けた。

 ……そういうことだったのかアレ……!?

 ああ、やばい、頭がぐわんぐわんする。さっき飲んだバタービールが今更効いてきたような。

 

「よ、シェリー」

「……ベガ」

 

 チョウと入れ替わりで現れた銀髪の美丈夫。

 恋愛マスターの彼なら、セドリックの抱いていた想いについつも知っていたのではないだろうか。

 

「え?セドリック? ああ、まあ、セドリックとは男同士喋る機会も多かったし?対抗試合の時は一緒に作戦考えてたし?チョウとはまあその、……ちょっと恋愛のことで色々相談されたこともあったし。まあ、色々聞きはしたよ。色々と」

「……そっかぁ……うわぁ……当時は恋愛とか縁のないものだって思ってたけど……今にして思えばあの頃の私って……うわぁ……」

「まぁ、あいつを振り回してはいたよな」

 

 セドリックからの好意を前提に考えてみると、あの時不可解だった行動の数々が鮮明になっていく。その度に物凄く申し訳なくなる。あの時何も考えずに発した言葉がセドリックを傷つけていたのでは……。

 チョウが怒るのも無理はない。彼女は物凄く真剣にセドリックを慕っていたのだから、気持ちに気付かないくせにセドリックと近かったシェリーのことは相当気に食わなかったろう。ああ言う風に言ってくれるだけ優しいものだ。

 それにしても……何というか……自分は……

 悪い意味であざとい女なのでは……?

 

「あぁぁあ」

(叫びながら膝抱えて丸まってる……ちょっと面白……)

「私は蛹になる……」

「早く羽化するといいな」

 

 その後数分ほど悶えた。

 え、じゃあ。セドリックがあの時期ものすごーく話しかけてきたり、一緒にダンスしたのはそういう……セドリックが最後の試練の時に言い掛けた台詞って、もしかしてアレって告白的なヤツだったのでは──

 ……もう考えたって仕方ないな!

 

「そっそういえばベガは何でここに来たの!!」

「うおっびっくりした。お前にちょっと報告しておくことがあってな。空、見てみ?」

「……綺麗な夜空」

「あの空の向こうに、闇の帝王の居城がある」

 

 驚くシェリーを尻目に、ベガは指を指す。

 

「認識阻害の幻術こそかかってるが、あそこには空飛ぶデカい城が浮かんでる。中にいる死喰い人達も独自の空間魔法で移動するから城がどこにあるか分からなかったらしい。だから発見が遅れたが……クリーチャーって屋敷しもべが、独自のルートで何とか居所を突き止めた」

 

 思わず二度見した。

 あの空にヴォルデモートがいる……嫌だ……。月明かりに照らされた良い雰囲気がぶち壊された気がした。

 いや、そういうことを言ってる場合じゃない。

 あれだけの大人数がどうやって見つからずに移動していたのか、疑問が解けた。空の上を浮かんでいたからこそ国境など気にせずにあちこち移動できたのか。

 

「死喰い人陣営も、強力な駒のハリーが死に、第三勢力のダンテが死んだことで、これ以上長引かせるつもりはなくなったらしい。各地の死喰い人の動きがパッタリと止んでやがる。多分城の中に集めたんだ……。

 俺達も戦力をかき集めて突入する。まっ、紅い力の攻略法もこの数年で嫌というほど考えたし、やってやれねえことはねえだろ」

「……戦力……そうだ、ネロの容態は……、」

「ネロの容態は安定してきてる……が、身体に負荷をかけ過ぎたらしい。水をいくら注いでも肝心のコップが割れてちゃ意味がない。ゆっくり休んで自然回復するのを待つしかねえな」

「……治るの?」

「マダム・ポンフリーだぞ?」

「じゃ大丈夫か……」

 

 彼女の医療技術は折り紙付きということは、シェリーが一番よく知っている。保健室には何度世話になったか分からない。もう保健室の域を越えてる気もする。

 

「死の危険はないそうだが、今はともかく絶対安静だ。兄貴があんな様子だし、リラはホグワーツに残って拠点防衛の方を担当してもらおうと思ってたんだが……あいつも作戦に加わりたいらしい。……希望制だし止める権利はないけどよ」

「リラが?あの子が……まあ、敵討ちとか考える子ではないと思うし、その点は大丈夫だと思うけども」

「ああ、ネロとリラだがな、体内の魔力成分を調べてみた結果、紅い力の劣化版とも言うべき『黒い力』の魔力が検出されたそうだ」

「黒い力……ごめん、何だっけそれ……?」

「クィレルが持たされていた力のことだ。ホグワーツの一年生の時、クィレルと戦っただろ?その時クィレルは紅い力を渡されていたが上手く適合できず、黒い力で戦っていたんだそうだ」

(そういえばそんな話を聞いた気がする)

 

 正直ちょっと忘れていた。

 

「ネロやリラには黒い力の魔力が込められた魔法陣が刻まれてあって、それがあいつらの特異体質の原因だったってワケだ」

 

 結局ダンテは、寿命を削る力を子供達に植え付けることも、自分が使うこともなかった、ということか。彼の強さは賢者の石による生命能力のブーストと、その黒い力とやら、そして彼自身の技量だったわけだ。

 ネロやリラと初めて会った時に何だかざわざわした気分になったのは、彼等の中に眠る黒い力を薄々感じていたからかもしれない。

 

(ネロは周りの様子を探ったり囮にできる魔法、リラは自分を守る魔法……ダンテさんは無意識のうちに、そういう魔術を施していたってことか……いややったことは最低だけども)

「親……か……」

 

──あの空の向こうに、ジェームズとリリーがいる。

 あの二人は愛し合って、誰からも尊敬されて、そしてシェリーという愛娘を授かった。

 けれどその娘は殺され、こうして偽物のホムンクルスが彼女の人生を肩代わりして生きている。

 ……ハリーなら、それでも自分の価値を認めさせてやると宣言したのだろうけど……私は……。

 ……ベガになら、相談してもいいかな。

 

「……誰にも言わないでほしいんだけど……私、ね。この期に及んで、自分が死んだところで構わない、なんて思ってるんだ」

「────」

「私は、私自身に価値を見出せずにいる」

 

──ああ、やっぱり、そんな顔になるよね。

 自分を犠牲にして仲間を救う……言葉にすれば簡単だがそれはとても難しい。この身を持って学んだことだ。

 一人じゃ上手くいかなくて、仲間に頼ることを覚えて、皆んなの力を合わせて……。そういうプロセスを進んだけれど、だからといって自分に自信が持てたわけでは、ない。ないのだ。

 もう、そういう性分なんだ。

 シェリーという根っこの部分が、もうそういう風にできてしまってるんだ。

 

「きっと生まれつきなんだろうね、こういうの。まず人に頼ろうって思ってても、ついつい自分を省みないやり方ばっかり考える。

 けど……こんな私のことを信じて待ってくれている人達がいたんだよ。ロン、ハーマイオニー、ネビル、ルーナ、ジニー、ハグリッド、マクゴナガル先生、ウィーズリーの皆んな、グリフィンドールの皆んな、リーマス、ドビー、バーティ、クィレル、ロックハートさん、他にもたくさん……

……そして勿論、ベガもね」

「……ああ」

「……これだけのひとに支えられて生きていたんだって今更気付いたよ。こんな私の命を大切に思ってくれている人がいる。だから私の命は、私だけのものじゃない」

 

 わたしは、ひとりでなんて生きちゃいなかった。

 いつだって、そばにはいのちがあった。

 支えてくれる人が……。

 

 だから、死ねない。

 

「ベガには、死喰い人がいなくなった後に私が自殺したら全部解決……って話を前にしたことがあったから、言っておこうと思って。

 あの時は、ごめん。死ぬなんて簡単に言って。

 神様に嫌われてたって、生まれてきちゃいけなくったって、関係ない。シェリー・ポッターを想ってくれる人のために、私は生きることにするよ」

 

「…………そか」

 

 とても……、

 とても長い間絡まっていた糸が、ようやく解けた。

 

「まあ、えと、長くなったけどそんな感じです!……

 何でだろ、ベガには聞いてほしかったんだよね」

「境遇が似てるからかもな」

 

(シドに生きろと言われなかったら……俺は一生後悔したままぼんやり生きてたろうしよ……)

 

 だからかもしれない。

 初めて会った時から、シェリーのことを放って置けない危なっかしい奴だと思っていたのは。

 シェリーのことを目で追うようになったのは。

 目を離せば、どこかへ行ってしまうような気がした。

 ……実際にどこかへ行ってしまったし。

 優しいだけのヤツなら、ここまで意識しなかっただろうけど、こいつは捨て身で物事に取り組むし、平気で禁忌を破るような異常性の持ち主だし、いつもは皆んなに合わせるくせに変なところで意固地だし……。

 こいつがいない三年間、ずーっとモヤモヤしてた。

 その理由が分かった。

 

 

 

(俺、お前のこと好きだったんだな)

 

 

 

 ……少し冷えてきたか。

 そろそろ戻るか。そうベガが呟くと、シェリーは短く頷いた。月は煌々と輝いていた。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

「何やってんのお前等?」

「おー、シェリー!」

「ついでにベガも」

「俺はおまけかよっ」

 

 しばらく中庭を歩いていると、若者の集団が見えたので何だろう……と近寄ってみると、ロンやネビルやウィーズリーズといった悪ガキ達が集まって、何やらよからぬことを企んでいるようだった。

 いやもう大人なのだから悪ガキじゃなくて……悪いお兄さん……?

 

「おい、僕もいるんだが。君からしたら僕も悪ガキのくくりなのか?」

「あ、ドラコもいたんだ」

「いまくるわ!……まあ確かに、今から貴族としてはあるまじき行いをするわけだが……」

「?」

 

「シェリー、これ見てみ?」

「え、これって……夜の騎士バス?」

「そっ。親父がこれをちょっくら改造して、空を飛ぶ機能を搭載したんだよなー」

「あはは、相変わらずだねアーサーおじさんは。車の次はバスかぁ」

「何笑ってんだ、これに乗って例のあの人の城まで行くんだぞ」

「え っ !?」

 

 聞いてない!

 全然聞いてない!

 各自、箒か何かで行くものだと思ってたのに!

 

「箒じゃ魔法で撃ち落とされて終わりだからなー。それこそ虫みたいに潰されちまうよ」

「でもこの騎士バスならあんしん!最新鋭の防御魔法を重ねがけしてるから大人数で乗り込めるってわけよ!我らがスタン・シャンパイクもやる気十分だしな!」

「奴さん、途中まで嫌がってたけど『闇の帝王の居城に一番槍として乗り込んだ男になれる』って言ったらあっさり承諾したしなぁ」

「……ちなみにあの人の運転するバスに乗ったことは」

「ぶっ飛んでるよな、ああ」

「サイコーだね」

「えぇ……?」

 

 聞いたところによるとこの夜の騎士バス、他にも何台かフェイクを用意してあるらしく、数多くの偽物に紛れて帝王の居城へと乗り込む予定なのだとか。

 おそらく次が最終決戦になる、それを見越してこのような決戦兵器をいくつも用意したらしいが……。

 

「それにしても、よくこんな短期間で……」

「あー、ホグワーツの卒業生にマグルの作ったものにやたら詳しかった人がいたみたいでね。そいつが残したメモを参考にして、こういう乗り物を作ったんだって。

 名前は、そう……確かデネなんとか」

「………………」

「その人すごいんだよ!ハグリッドのオートバイも元はその人が作ったって言うし、センシャ?とか、よく分かんないけどとても大きくて強いマグル製品を魔法で再現したんだって!」

「戦車……?ん?その話どっかで聞いたような」

「それで、お前達はここに集まって何してんだ?」

 

 シェリーの言葉を遮るようにベガが声を上げた。

 そんな様子をロン達は一瞬不思議に思ったが、しかしすぐに「待ってました!」という顔に変わる。

 

「言っちゃえば、『落書き』しに来たんだ」

「はぁ?」

「おっと、俺達が学校の壁にやるようなものとはひと味違うぜ。もうちょっとばかし神聖な儀式さ」

「大昔の船乗りは船に航海の無事を祈って文章を書いたそうだ。『幸運を』ってな」

「進水式、ならぬ、進空式ってやつさ。どうせ乗るのは俺達なんだ、ゲン担ぎにそのくらいやったっていいだろ?」

「うーん、でも皆んなが使うものだし……」

「面白いじゃねぇか、俺も混ぜろや」

「あれぇー?」

「しっかし意外だな、ドラコもこういうのに興味があったなんてよ」

「……まあ、せっかくだしな。少しくらいいいだろ」

 

 というわけで。

 杖を筆に見立て、魔法の塗料でめいめいに自分の好きな文章をぺたぺた塗っていく。これが思いの外楽しいというか、ワクワクする。

『勝つぜ』

『生きて帰る』

『勝利は最も忍耐強い者にもたらされる』

『幸運を』

 ……ここまではよかったが、段々悪ふざけがエスカレートしていき、

『夜露死苦』

『喧嘩上等』

『ウィーズリー参上』

『ヴォルちゃん圧倒』

『フォイフォイフォフォイフォイ』

 ……みたいな、最早当初の目的を忘れているとしか思えないような文字まで書いてしまった。その場の空気にあてられてシェリーもちっちゃく『最強』と書いてしまった。それ以外に思い付かなかった。

 

「何やってんのあんた達!」

「やべっ」

「うわあっごめんなさい!」

 

 後ろからピシャリと放たれた言葉に身を竦ませる。

 ハーマイオニー、ジニー、ルーナ、コルダ。男性陣の姿が見えないので探していたのだろう、明らかにお冠といった様子でずんずんやって来る。

 

「あーあー、もうこんなに書いて……!」

「こ、これはだねハーマイオニー、強大な敵を前にして一致団結をと」

「私達が書くスペースが無くなるじゃないの!」

「えっ?」

「こんな面白そうなことに混ぜてくれないなんて、兄さん達は薄情だわ!私だってウィーズリーなのに!」

「ハーマイオニーもその内ウィーズリーだモンね?」

「何のことかしらぁー!!」

「うぎぎ……お兄様がやるなら私も……!!」

「すごい顔になってる!」

 

 どうやら、馬鹿をやりたいのは男連中だけではなかったらしい。杖を逆手に持つと、女性陣も白色の魔法のインクで文を書いていく。

 

『悔いを残さないように』

『光ある路を』

『運命とは最も相応しい場所に魂を運ぶ』

「すげえ……俺等より内容のIQが高いぜ……!!」

「流石は優等生組は違うよなぁ!」

 

『例のあの人のお家にナーグルいるといいな』

「……ルーナ本当にこれでいいのぉ!?」

「ウン!空の上ならもしかして、だしね!」

(ナーグルはいなかったけどニーグルムならダンテさんがやってたなぁ)

 

「ね……ねえ、私、やっちゃっていいかしら。私がこれまで積み上げてきた真面目な女性というイメージをぶち壊すことになるのだけど、やっていいかしら!」

「いやぁ……ここに落書きしに来てる時点で……」

「よしやるわよ!おらーっ!」

『ハーマイオニー参上』

「「うおおおおおおやりやがったああああああ!!」」

 

 それから一時間、元が分からなくなるまでひたすら文字やら絵やらを書き殴って、時には手形とかもべたべた付けまくっていたのだが、いい加減疲れてきたので芝生の上に寝っ転がった。

 何だかこの雰囲気も懐かしい。

 

 ……ホグワーツ在学以来か?こんな馬鹿騒ぎも。

 見上げると、数えきれんばかりの光。

 あれらは全て、星なのだ。

 

「天の光は全て星……魔法使いってのは人間に空から落ちてきた星がぶつかって生まれた突然変異種、なんつう噺もあるくらい星は身近なもんだ。

 ブラック家なんかもそうさ、あいつらはギリシャ神話や星座にちなんだ名前をつけるがよ、元々は星に祈りを込めてつけられてたんじゃねえかって言われてる」

 

 ブラック──すなわち、夜空。

 今でこそ名門たる純血一族として名を馳せているが、元々は、信仰深い星詠みの一族だったのでは、という考察も存在する。信仰が一種の狂気へと変貌したのだと思うと皮肉なものだ。

 星、といえば。

 満ちた月はそのエネルギーを地上へ伝え、ある者を狼の姿へと変えるのだが……それに関してもまだ研究が進んでいない。一説によれば月は意思を持った魔力物質でその狂気を地上に伝えるとされているが……眉唾だ。

 普段は隠れているくせに、夜になるとそのような現象を引き起こすのだから、星とはとかく厄介なものだ。

 

(……星、か)

 

 ……両手から溢れてしまったいのちは、やがて星へと変わるのだろうか。

 どんなに手を伸ばしても届かない星。

 こんなに近くにあるのに遠すぎる星。

 死んでしまった彼等が、遠くに行ってしまったことはとても寂しいが……星として見守ってくれるというのならば、こんなに頼もしいことはない。

 いつだって、星は宙の上にあるのだから。

 

──シェリー・ポッターは未だ神に呪われていれど。

──成長を遂げ、もう既に少女にあらず。

 

「私達はもう守られるだけの少年少女じゃなくなった。これからは──私達がこれからの子供達の未来を守っていくんだ」

 

 星の夜、その女は宙を駆けていく。

 

「行こう、皆んな──全ての決着をつけるために」

 

 

 

 

 

ー【The deathly Hallows』end──

 

──シェリー・ポッターと神に愛された少年

最終章『神々との戦い』へ続く

 




難易度変更:ルナティック→ヘル

映画死の秘宝がパート1、2あるのでね!シェリポタもパート2作るよね!
すごく前から考えていた展開なので書くのが楽しみです!!!
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