1.ベガの復讐 Ⅰ
──地獄の坩堝。
ヴォルデモートが再び台頭して以降の魔法史を語るならばその一言に尽きる。
闇の帝王は手始めにイギリス魔法省を半壊させ、その翌年には隠れ潜んでいたダームストラングの城で精鋭揃いの不死鳥の騎士団を迎え打ってみせた。
アルバス・ダンブルドア、ニコラス・フラメル、レックス・アレンという時代の象徴たる生きる英雄達が敗れていき、イギリスのみならず世界中を恐怖させた。
その後、四年にわたりヨーロッパの人々を気まぐれに虐殺し、奪い、糧とした。マグルも魔法使いも、男も女も子供も大人も関係ない。手当たり次第、行き当たりばったりだ。
そこに大義はない。
あるのは圧倒的に力に任せた暴力だけだ。この世界の構造が気に入らないから破壊しているだけで、壊した後の世界にはまるで興味を持たない。
夢も、野望も、志もない彼等が、どうしてここまでのことをしでかせたのか。彼等を突き動かすものは、一体何だというのか。
「簡単だ。この世界は愉しいからだ」
事もなげに、ヴォルデモートはそう言った。
彼の人生観はその悲惨な出生が基軸となっている。
ヴォルデモート──いや、トム・マールヴォロ・リドルはマグルの母と魔法使いの父を親に持つ。
母親のメローピー・ゴーントは極めて有名な純血一族に生まれた娘だったが、家は純血を重視するあまりすっかり落ちぶれており──イギリスの隅っこの、リトル・ハングルトンの近くの小さな小屋で、ひっそりとした暮らしを余儀なくされていた。
言わずと知れた大魔法使い、サラザール・スリザリンの血を引き、蛇語使いが度々現れる一族……それがゴーント家。偉大すぎる先祖の影響なのか、彼等はとかく血を守ることに執着した。
その結果、近親同士での婚姻を繰り返し、暴力的で精神に異常をきたした者がとても多かった。メローピーの父のマールヴォロと兄のモーフィンもその例に漏れず、日常的に彼女を痛めつけた。
「メローピー、お前のせいで俺の今日の朝飯が悪かったぞ!どうしてくれるんだ!」
「ごッ……!」
「おおっ、モーフィン!そのくらいにしておけ!薄汚いスクイブがうつる!」
メローピーは生まれつき魔法が使えず、スクイブとして扱われていたため、純血であることが誇りの父と兄から度を越えた暴力を受けた。
しかしある日、メローピーの地獄は終わりを迎える。
元からマグルの前で頻繁に魔法を使うなど問題の多かった一家なのだが、とうとう魔法省役員と揉め事を起こしてしまい、メローピーへの虐待も白日の下に晒され、二人はアズカバンに投獄されたのだ。
父と兄から解放されたことで、メローピーの人生は転機を迎える。
──トム・リドルというマグルと結婚したのだ。
近所に住む金持ちのハンサムなマグルで、彼に恋していたメローピーはすぐさま彼と結婚に漕ぎ着いた。
一見すると、家族から解放された少女が、素敵な旦那と新しい人生を歩むシンデレラストーリーのように見えるが……この結婚には一つ致命的な点があった。
メローピーは魔法を使ってリドルを籠絡していた。
スクイブかと思われていた彼女は、精神を病んでいて魔力を抑圧していただけだったのだ。それを解放し、愛する男を振り向かせるために魔法を使って操った。
当然ながらこんな生活が上手くいく筈もない。
罪の意識に耐えられなかったのか、夫の愛を確かめたかったのか、ある日魔法を使うのをやめる。正気に戻ったリドルはアッサリと妻とお腹の中の子供を捨てて、実家へと逃げてしまう。
夫に見捨てられたショックからメローピーは再び魔法が使えなくなり、生活に困窮してしまう。実家から持ち出したスリザリンのロケットを売り払ったりもしたが、それもぼったくられた。
結果、雨の中ロンドンの孤児院に辿り着くと、息子を産み落としてほどなく死亡した。息子のために生きる気力もなく、遺したものは『トム・マールヴォロ・リドル』という名前だけだった。
──これが後に、ヴォルデモート卿という最強最悪の闇の魔法使いに変貌するというのは、知っての通り。
いわば、魔法界の闇の象徴とも言える存在。
世界の歪みから産まれ落ちたリドルは、孤独に、他の孤児達にも気を許すことなく寂寥な日々を送っていた。
抜きん出た才能とエネルギーがありながら、何者にもなることができない現実を嘆いていた。
(それが……あの老いぼれがやってきたことで全てがひっくり返った。何もかもが面白く思えた。魔法なんてものが本当にあるだなんて。今まで使っていた不思議な力に法則性があったなんて!
退屈が期待へと変わっていく高揚感!魔法界は俺様を最高に愉しませてくれる素晴らしい箱庭だ!)
魔法界は本当に、最高に楽しかった。
子供の頃に夢見た絵空事が本当に叶ったのだ。
最強最悪の帝王になり、自由に生きてやる。
俺様は誰にも束縛されないし、誰にも強制しない。
自由に、あるがままに、やりたいことをやりたいようにやりたい時にやりたいだけやるだけ。
俺様を殺したいのなら殺しに来ればいい。
俺様が壊した後に国家を築きたいなら築けばいい。
こっちが自由にやっているのだから、お前達も自由に生きていいのだ。自由に生きられないのなら、力がない弱者だったというだけだ。
弱者は適応できず、神に縋る他ない。
ありもしない希望を抱いて沈む選択肢しかないのだ。
──然して、奇跡は降りてきた。
シェリーの存在だ。
幾度となく我が覇道の前に立ち塞がった奇跡の子。
力だけは信用していたハリーを討ち滅ぼし、警戒していたダンテにも勝ち星を上げてみせた。
これを奇跡と言わずして何という。
そしてホムンクルスは第三の奇跡──ヴォルデモート卿の打倒を現実のものにしよう、という。
いいだろう。被造物たる身で何ができるのか、何が成せるのか知りたくなった。
魔王はいつだって勇者の挑戦を受けて立つもの。
──世界の悪として君臨し続ければ、必ず、何度だって懲りずに俺様を倒しに来る者が現れる。
それが楽しい。
それが嬉しい。
全てが思い通りではつまらない。技と魔術の最奥に至りし者達による頂上魔法合戦を繰り広げたい!
魔法を、魔法界を、もっともっと楽しみたい!
支配するのも面白いが戦いも大好きだ!生死を賭けた戦いがしたい!その上で絶対に勝つのが至福よ!
「来い!来てみろ不死鳥の騎士団どもよ!自らを英雄と謳うのならば、先ずは巨悪を滅ぼさんことには始まるまいよ!俺様は不落たる帝王として迎え打ってやる!」
魔法界では古来よりキリンという魔法生物が純正な心を持つ指導者を選ぶとされているが、ヴォルデモートの心はある意味でどこまでも純粋だった。
そして、刻限は来た。
星の降る夜──魔力と神秘が最も漲るとされる天候、それが今宵の流星群だ。
ヴォルデモートは各地に散らばっていた紅い力の幹部と死喰い人をかき集め、万全の態勢で天に浮かぶ城の中で待機していた。かつてグリンデルバルドがこの世を表から牛耳らんとした法と正義の地を参考にした空中庭園がここである。
ハリーとダンテの死後の騎士団の動向や人員の動きを見て、今日の夜に騎士団が来ると踏んだ。最も、何となくそう感じただけの勘でしかないが、間違っていたとしてもそれでいい。その時はこちらから攻め込むだけだ。
「──来たか!」
やはり、勘は外れてはいなかった。
がくんと、宙に浮く城そのものが揺れる感覚。
地から伸びる、クラーケンすら締め上げてしまえそうな程に巨大な鎖が城へと巻き付いたのだ。よほど優れた術師がいるのだろう、瞬く間に結界は強度を弱め、魔力防壁を食い破る。
大方、得体の知れない魔力を持つオダ・ナギノ辺りが鎖を構築しているのだろう。
死喰い人達の動揺が手に取るように分かる。
ヴォルデモートという勝ち馬に乗った筈の自分達が、追い詰められているという事実への恐怖。
「──狼狽えるな。命乞いするも良し、逃げ出すのも俺様は止めん。が、勝ち馬はこちらだ。死にたくないなら俺様の指示を聞くんだな」
「──はっ!我が君!」
「連中はこの城には姿現しはできん!空より来るぞ!」
「我が君!イギリス上空に、空飛ぶ汽車が……!?」
「全砲門、開錠!魔砲で以って叩き潰す!」
煙を蒸しながらヴォルデモートの城へと吶喊する紅の汽車は、ホグワーツ特急を改造したものか。大人数を纏めて運ぶにはうってつけだが……いかんせん的が大きすぎると言わざるを得ない。
ヴォルデモートの住まう城には幾多もの魔力砲門が設置されており、予め注力していた魔力が指示一つで撃ち出される仕組みになっている。
今、魔力は解放され──雨のように汽車へと降り注ぎ装甲を削っている。あの巨体では細かな魔弾は弾くことはできても、躱すことはできはしない。玉砕覚悟で空を爆走しているが、それもいつまで持つか。
「駄目押しだ……城よ変形せり!主砲降臨!
──撃てェェェェエエエ──────ッ!!!」
城に内蔵されていた超巨大な魔砲の大火力が、太い光線を生み出して空気を燃やし尽くしながら汽車へと迫り──長い胴体を貫通して、大破させる。
その大爆発は、死喰い人達の勝利を祝う祝砲のように思えたが……諦めの悪い不死鳥の騎士団が、こんな破れかぶれの特攻で終わるわけがない!
爆炎の中から現れし黒い影──
夜の騎士バスが、何十もの数となって現れる。
なるほど、本命はこっち。先程の汽車よりも小粒で小回りが効く。数も多くて魔弾が命中しない。しかもいくつかは無人運転で動いているフェイクだろうから、落とし損も混じっているのがいやらしい。
(……あるいはこれこそがフェイクか?汽車にバスと派手で目立つもので注意を引きつけて……!)
空の上という、三六〇度見渡せるという利点を潰しに来ている。そのことに気付いてももう遅い。
──紅い弾丸は既に迫っているのだから!
「周囲警戒!」
「……ッ、南東に高速接近中の物体があります!」
「箒か……!この速度……シェリー!!」
箒で高速接近し、魔砲を破壊する。それが真の狙いと言うわけか。シェリーが搭乗するのは故・クリムゾンローズの後継機、速度に特化してセーブ機能を撤廃した、もはや人類には扱えぬ化け物箒だが、肉体が頑丈な彼女ならばぎりぎり負荷に耐えられる。
が……分かっていれば対処は容易い。
その方角にありったけの魔弾を撃ち込めばいいだけ。
シェリーへと幾重もの弾丸が放射されんとして、
「──遅いな」
一閃。
思考する間もなく、魔砲は全て貫かれた。
何故か?……単純だ、反応さえできぬ速度で一条の光が城を貫通したからだ。
シェリー以上の速さ。圧倒的な速度と、天才的なセンスが可能にする、“魔力を使わない魔法”。
人の身に余る奇跡──天上の技術!
実行者は、ビクトール・クラム!
「この程度、速い内には入らない」
世界最高のシーカーの、音さえ置き去りにする飛行。
いとも容易く行われし絶技が、魔砲を、いや、城そのものを崩落させ行く!
「──!!迎撃形態解除!これより城は自律浮遊形態へと移行する!各員持ち場につけッ!」
(ニホンの特殊な術式と魔力で編まれた呪縛の鎖……天才箒乗りの卓越した技……やられたな。侵入を許した)
舌打ちするも、内心の高揚を抑えきれない。
侵入されたなら、誅伐を下すまでのこと。
我が者顔で城を荒らす盗人どもに、灸を据えてやらねばなるまい。……紅い力の幹部は配置に着いた。
どれ、一丁揉んでやるとしよう!
▽▽▽▽▽▽
「突入ゥゥウウ──!!」
スタン・シャンパイクの雄叫びとともに、夜の騎士バスは城内部へと不時着した。
悪辣で、あまりに絢爛華美な内装……ヴォルデモートが好きそうな、ダークで目が疲れる様相だ。
先程城を固定した鎖は、魔力を乱し締め上げることに特化したものだ。ニホンの呪術という呪術が練り込まれた特別性……暫くは城は動かないだろう。
何より、ヴォルデモートがそれを許さないだろう。騎士団が束になってやって来たのだ、ここで決着をつけてしまいたいと思う筈……。
これが正真正銘、最後の戦いということになる。
「行くぞ皆んな!!ヴォルデモートはここで倒す!!」
「どうかな」
心臓を掴まれたような感覚。
ヴォルデモート卿が、散歩でもするかのように、騎士団達の間を縫うように歩いていた。数瞬遅れで汗が噴き出した。
早い。早すぎる。最初からそこにいたのかと錯覚するくらいに早く、奴はやって来ていた。ぽん、とフレッドの肩を叩く。フレッドは顔面蒼白になっていた。
「オイオイ、ビビるなよ。俺様を殺すんだろ?」
「──ああっ、そうだ……」
然して──矜持からか。口角を吊り上げて、悪戯仕掛け人は気障ったらしく笑みを浮かべた。
「お前をッ、倒すのは、シェリー・ポッターだ……!」
「──よく言った、若いの」
蒼炎が、ヴォルデモートを襲う。
慈愛の焔は勇敢なる青年を守り、闇の帝王だけを吹き飛ばした。焔を撃ち出したるはふさふさした髭の男──すなわちアバーフォース・ダンブルドアである。
傷一つ負ったそぶりもなく、ひたすらに歪んだ笑みを返すヴォルデモート。強者との邂逅は、彼にとって最上の愉悦と化していた。
続けざまに、自身を焔と化して超高速で連続攻撃を加えるアバーフォース。あまりの速さ、あまりの巧さ。二人がぶつかるごとに城全体が揺れるほどの衝撃が発生していた。
「今のうちだ!」
「今度こそ行くぞ!アバさんが派手に陽動して時間を稼いでる今がチャンスだ!!」
「各員散らばって紅い力の幹部を撃破しろ!!」
「了解!!」
一度決まれば、騎士団の動きは迅速だった。指示系統に無駄がない。恐怖さえ噛み殺してしまえばもう、彼等を阻むものなどない。
いや……ただ一つだけ、あった。
死の仮面を被った、闇の衣を纏いし物どもが、画面の下から覗く狂気を隠そうともしないまま、緑の魔力を激らせながら、待ち構えていた──!
「殲滅しろ!!」
「──生き残れ」
▽▽▽▽▽▽
「クソ、しくったな」
死喰い人達との乱戦で、ベガは他の騎士団メンバーと逸れてしまった。死喰い人側が明らかにベガを警戒した動きをして、他より少しだけ遅れてしまっている。
ベガ・レストレンジの今作戦における役割は大きい。
向こうのメインとなる戦力は五人。ヴォルデモート、色欲のグレイバック、傲慢のベラトリックス、怠惰のオスカー、嫉妬のペティグリューだ。
対して、こちらのメイン戦力は三人。
紅い力が使えるシェリー、ダンブルドアにも引けを取らない戦闘力を持つアラーフォース、そして自分。この三人は最低でも最高幹部を一人は倒すノルマがある。
アバーフォースがヴォルデモートの足止めに向かった以上、自分もあまりウカウカとはしてられない。一人くらい軽く捻るペースでなければ……、
「……また新手かよ」
「フッ、ククククッ、ハハハ。直接会うのは初めてだなレストレンジの」
「──『インセンディオ』!」
問答する暇も惜しい。杖を横一線に振るうと、全てを焼き尽くさんとする炎が死喰い人を呑み込んでいく。
たちまち死喰い人は苦痛に喘いで……、いや、爆炎の中から事もなげに現れる。
「あ?」
「フフフッ、ククク。お前の手は知ってんだよ、ベガ・レストレンジィ!炎攻撃は対策済みだ!」
(こいつマジか、耐えやがった)
ベガが放ったのは単純な炎魔法……しかしこの三年で幾度も死戦に参加し、経験を積んだベガは今や世界最高峰の魔法の使い手にまで成長している。
だから、ベガの魔法は耐えようと思って耐えられるような代物ではない。単純に耐えられるだけの魔力が無いからだ。プロボクサーの右ストレートを喰らって立っているためには、それなりの
……この男、中々やる。
(ヴォルデモート戦まである程度魔力は温存しておきたいところだが……あん?この魔力まさか……)
「気付いたようだな。かのダームストラング城でグリンデルバルドが敗れて以降、強欲の席は空いたままだったが……つい先日、私がその力を勝ち取ったのだ」
ぴくり、とベガの片眉が持ち上がる。
紅い力持ちであるならば警戒のレベルを数段階上げる必要がある。元より油断はしていなかったが、敵地においては、何が起こるか分からないものだ。
「クク、気を張っているな。ひとくちに紅い力と言っても使い手によって能力に個性が出るものな……!初見の敵であるなら尚の事!その警戒は正しい。
だがそれは無意味な行為と言わせてもらおう。私の全能力はお前を殺すために特化しているからだ……!!」
「…………?」
ぎらぎらと光る目に、危険なものが宿る。
肉親の仇でも見るかのように怨みの籠った瞳。
……そも、死喰い人とはこれまで何度も戦ってきたがこんな奴は見たことがない。情報が該当しない。
誰だ?こいつは……?
「私の名はヤックスリー!かつてお前の両親と戦い、そして勝利した者だ!」
「!……そうかい、そりゃ良かった。お陰で最悪の気分だよ」
……、そうか、こいつが。
杖を握る手に知らずと力が篭もる。
デネヴとアルタイルの二人を殺した……
両親の、仇。
おまけ
『まだ打ち解けていない頃のローズブルーシェリー』
ローズ(お姉様が言うからこいつも一緒に行くことになったけど…気に入らないわ…)
シェリー(電車乗ったけど…全然会話ないなぁ…、ッ!?)
ローズ「なに?」
ブルー「…吐きそうになったら言ってよ、躱すから」
シェリー「えっ……ああ……うん……ダイジョビ」
ブルー「うわ、顔色最悪じゃない。やめてよね、こんなところでグロッキーとか」
ローズ「…………」
ローズ「なんで私が痴漢抑えてんのよ!!!!!!」
ブルー「されてたのなら早く言いなさいよ」
シェリー「……ご、ごめっ、わたっわたし……」
ローズ「はー!?泣くなっつのこいつはもう!!!!!もう!!!!!!」