シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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2.ベガの復讐 Ⅱ

 ヴォルデモートの城は『迷宮』になっている。

 極めて高度な空間拡張魔法やそれに類する術式が使用されており、騎士団達は分断を余儀なくされ、紅い力を持つ幹部達が各個撃破する手筈となっている。

 

 ベガとヤックスリーの邂逅も、また運命。

 

 刃が鍔迫り合い、ぶつかる音が響き渡る。

 魔法剣……魔力を圧縮してひとところに固定し、剣として使用する技術。使い熟すにはそれなりの練度が必要が、単純な魔力の消耗は、魔力弾よりは少ない。

 消耗を抑えたいベガは近接戦闘をけしかけていたが、どうも攻撃の通りが悪い。防御系……いや回復系の能力を保有しているのか。

 ヤックスリー、なるほど紅い力に選ばれるだけの実力はあるらしい。

 ……しかし、解せない。

 

「俺と曲がりなりにも打ち合えるだけの実力はあるみてえだが……あんたの俺の両親を殺した以降の記録は、どこを探しても無かった。ヴォルデモートの癇癪でとっくに殺されたモンだとばかり思っていたが、今まで何してやがった?」

「当然の疑問だな。私はデネヴとアルタイルのたった二人に自慢の軍団を半壊させられたことであの方の怒りを買ってな、惨めな生活を余儀なくされたのさ」

 

 笑いながら言い放つヤックスリーは、しかしどこか狂気を感じさせる。

 何だかんだ言っても、強欲を冠するだけはある。

 己の欲をベガ一人に向けることで限界以上の力を発揮しているのだ。グリンデルバルドがダンブルドア相手にだけは法外な力を発揮できたように。

 

「その後、コツコツと下っ端の仕事をこなして何とかお許しを得たが……あァ、やっぱり駄目なんだ。あの時の屈辱がどうにも消えない。美味い飯を食うには、まずい要素を取り払わなきゃならないんだ。

 デネヴとアルタイルは満たされた顔をしながら死んでいったが、俺の渇きはまだ癒されちゃいない……!

 満たしてくれよ!お前の血でさァ!!」

 

──つまるところ、復讐。

 自分が満足するために、ベガという障害を取り払う。

 実にシンプルで愚かな願いだろう。

 が、ベガも、人のことは言えない。顔には出さないが内心では腑が煮え繰り返っているからだ。

 強く噛み締める。

 ……ムキになるな。いくら相手がこちらの対策をしているとはいえ、魔法剣で斬りかかって、体内に魔力を流せばいいだけだ。

 ベガは一歩、勢いよく踏み込んで──

 

「……ッ!」

 

 違和感を感じて、動きを止めて正解だった。

 すぱり、と。

 杖腕に大きな剣の跡が刻まれた。

 

「流石の反射神経だな……それが噂の絶対回避か。だがもうお前は私の手の内にあるのさ!今、お前の周りには魔力で形成された不可視の刃が張り巡らされている!少しでも動こうものならたちまち刃はお前を斬り飛ばすだろう!

 もう少し注意深く観察していれば見抜けただろうが、親の仇を前にして動揺したな、ベガ・レストレンジ!」

「…………チッ」

 

 魔法の系統としては罠魔法に近いものがある。

 魔力を設置し、遠隔で操作して攻撃する……まんまとその罠にハマってしまったというわけか。

 無様な話だ……紅い力の幹部を少しでも削ると息巻いておいてこのザマ。言い訳のしようがない。

 自分自身に、腹が立つ。

 

「じわじわと、嬲るように殺してやる。そうしてやっと私の復讐は果たされる」

「──復讐?……」

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

『オスカーは僕に任せてくれないか』

 

 夜の騎士バスに色々と書いた際、出し抜けに、ロンがそう言ったのを思い出す。

 おや?と、関心と疑惑の目が彼に向けられる。

 

『僕には奴を倒す策がある。最低でも足止めくらいはできると踏んでる。だから奴の相手は僕に任せてほしい。決して分の悪い賭けじゃないと思ってる』

『……倒すのはいいけど、何で私達にそんなことを?』

『あいつに復讐したいと思ってる人がいるんじゃないかと思ってね。ハーマイオニーは両親に危害を加えられ、マルフォイ兄妹は人狼の秘密を暴露され、ベガは兄弟同然に育った子を殺されたんだろ。シェリーに至っては自分のルーツに関わる相手だ。仇を前にして冷静な判断ができると思うかい?』

 

 それを言われると弱い。

 感情に身を任せても生き残れるだけの能力があるなら復讐もアリだと思うが、困ったことに、復讐に身をやつしたり本懐を遂げられなかった例がほとんど。シェリーが良い例だ。

 

『関係ない僕ならできる。あいつに何された訳でも無いからね。安い駒で紅い力一人足止めできるなら儲けものだろ?』

『……それは作戦が成功したらの話だろ』

『成功させるさ、必ず』

 

 君達の代わりに僕があいつをぶん殴ってやるさ、そう笑うロンが、何だかすごく眩しく見えた。

 

『君達の怒りは、一旦僕に預けてほしいんだ』

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

(──そうだよな。俺も割とムキになりやすい性格してるもんなあ……!)

 

 復讐は、一旦置いておけベガ・レストレンジ。

 俺の信頼する人が、俺が馬鹿しねえよう気を遣ってくれたんだろうが。赦す必要はないけれど、ムキになる必要だってない筈だ。

 今、この場で、確実にヤックスリーを倒すこと。

 それが今できる最良の行動なんだ。

 

「お前一人殺すのに、指一つ動かす必要は無えよ」

「────ッ!?」

 

 突如として、ヤックスリーの身体が蒼く燃え上がる。

 予想だにしていなかった出来事に瞠目する。ベガは杖すら、指すら動かしてはいない!誰か他の騎士団が合流した気配もない!だというのに何故、どうしてこの身は燃えている……!?

 

「くそ、アグアメンディ!……消えぬッ!?」

「そりゃさっきまでの焔とはスケールが違うぜ。無限の領域に至ったもう一つ上の段階……『真域』だ」

 

 真域……、技術に裏付けられた、魔法の技術の極地とも言える領域……!

 奴は、まさか。既にそのレベルの魔法使いに成っていたというのか……!?

 痛みで無様に地面を転がるヤックスリーは、血走った目でベガの方を睨んで、……そして、見た。ベガの澄み切ったブルーライトカットの異質な瞳。奴が、もう自分とは異なるスケールの存在へと変貌したことが、一目で分かった。

 

(何だ!?あの宝石のように蒼い瞳は……!?)

「アイオライト、開眼せり」

「っ、ハハハハ!それでこそ殺し甲斐があるというものだァ!!『グラディオ・レガリア』!!」

 

 ヤックスリーはこれ以上苦しめるよりも倒すことへとシフトした。展開した不可視の刃は、定めたルートを旋回して高速で切り刻む。無差別高速範囲攻撃──距離こそ短いが、剣速だけならグレイバックにも次ぐ。

 動くことのできないベガ相手にも油断することなく、離れた位置から飛び道具を使い攻撃したのは、賢明な判断と言えよう。

 その剣圧は、周囲の空間ごと切り裂くほどに鋭利。ただ通過するだけで城内部の柱や設備が両断され行く。

 刃は一陣の風となってベガへと迫り来る──

 

「燃え尽きろ」

 

 瞬間、魔力の刃は衝突する寸前で焔に包まれ消える。

 ギョッとするヤックスリー。無理もない、杖を振るう先から魔法剣は火焔に呑まれて消えて行くのだから。

 

(無言呪文とか、そういうのとは違う……杖すら振るうことなく対象を燃やす、視点発火……!?そんなことができるなら、視界に入ったものを自動で発火させる究極のカウンターになる……!!)

「──なら、視界に入った時点で、私はもう……」

「詰んでるよ。この魔法は魔力の消耗が激しいから使いたくなかったんだがな」

 

 もはや炎は肩まで燃え上がり、立っていることさえできなくなった。炎耐性を付与した肉体がこのザマだ、その火力は計り知れない。一か八か、不可視の剣で暗殺を狙った方がまだ殺せる可能性があったか……。

 ……やらないだろうな。

 そんなことで、飯は美味くはならない。

 

「……どうせ死ぬ身だ。せめて首一つ持っていかないと強欲の名折れだぜ」

「やってみな」

「──『グラディオ・レガリァアア』!!!!」

 

 全魔力を、一刀に込める。

 ヤックスリーの魂震の一撃は瞬きよりも早くベガの心臓目掛けて飛来する。

 一切の抵抗を受け付けず飛ぶ魔法剣はしかし、ベガへと当たる直前で発火し、焼き尽くされ、消えて行く。より強い魔力によって食い破られて消滅する。

 そよ一刀はついぞ届かなかった。

 それで終わり。

 力を使い果たしたヤックスリーは、ばたりと、うつ伏せに力無く倒れてしまう。残念そうに、脱力して苦々しく笑っていた。

 

「……ハハ、人ひとり殺すのにあれもこれもと注文つけて、上手くいくはずないわな。強欲すぎだ」

「……全くだ」

 

 復讐など、大抵は上手くいかないもの。

 上手くいかせるためにはそれ相応の代償が必要だ。

 ……要らない。デネヴとアルタイルの最期は幸せなものであった筈だから。自分が今こうして生きていることこそが彼等の幸せである筈なのだから。

 そう結論付けて──ヤックスリーへと向き直る。

 

「何かあるか?」

「……無念だ」

 

 蒼い魔力が迸った。

 銀髪をたなびかせて、ベガは前へと進む。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 ロンとルーナは暗い廊下をひた走る。

 死喰い人達にいくら時間をかけようが時間の無駄、肝心のヴォルデモートと最高幹部に戦力を投入する。そう判断して極力戦闘は避けてきたものの……本当にこの作戦でよかったのかと、ロンは心の内で何度も反駁する。

 もっと良い手があるんじゃないのか。

 もっと旨い手を選べたんじゃないのか。

 アバーフォースやキングズリーを除けば実質的な前線指揮官のような立ち位置にいる彼だが、正直言って自信はない。ムーディーにしごかれて多少は戦術を鍛えられたが、死喰い人の前では全てが水泡に帰すような、そんな恐怖があった。

 

「ロン、落ち着いて」

「ッ──」

「アンタが不安そうにしてると皆んなにも不安が伝染するよ。胸を張るのも作戦のうち、そうでしょ?」

「……、でも」

「大丈夫だよ。あんたが策を読み違えるのなんてよくあることだし、皆んな知ってることだから。無理にハーマイオニーの前でかっこつける必要ないんだよ」

「……ありがとう。けど何でそこでハーマイオニーの名前が出て来るんだい──」

 

 苦笑しながらルーナの方を見て、気付く。

 ルーナの死角、緑の閃光が瞬いている。

 反射的に身体が動き、彼女を地面に押し倒しながら盾の呪文を展開。間一髪のところで死の呪文の直撃は回避することができた。

 

「いい反応だな」

 

 柱から、上等な革靴が現れ、次いでアッシュグレーのスーツが生え、最終的に細身の男が登場する。

 透過能力。

 魔法だろうが物質だろうが全てすり抜けて無効化してしまう、嘲笑うかのような紅い力の能力。『死なない』という観点から言えばまさしく破格の力と言えよう。

 

「オスカー・フィッツジェラルド……!!」

「あまり睨んでくれるなよ、ロナルド・ウィーズリー」

 

 蒼と琥珀のオッドアイが、悪辣に弧を描いた。




ヤックスリー 死亡
死因:ベガに敗れ、引導を渡される

ヤックスリーの能力は「見えない魔法剣」「火炎耐性」「遅効性の幻惑魔法」などがありまして、特に魔法剣は罠としても設置できるので好んで使用していたようです。罠を仕掛けながらじわじわ削っていくのが本来のスタイル。
紅い力を得てから殺した人数が少ないのでそこまでの脅威はありませんでした。
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