シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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3.怠惰のオスカー・フィッツジェラルド Ⅰ

 オスカー・フィッツジェラルドは怠惰である。

 楽しいとか、面白いとかの感情が存在しないので、何をやっても人生に楽しみを見出せない。何でも一流にこなすだけの素養はあるのに、やる気がないせいでせいぜい「ソツなくこなす程度」の能力しか発揮できない。

 何に対しても情熱が湧かない怠惰な男、それがオスカーという人間だった。

 

 ……その筈、だった。

 

 オスカーは死喰い人と出逢い、親殺しをしたことで絶対の悪としての素質を開花させてしまった。彼は人の苦しみを好ましく思う外道だったのだ。

 他の感情はないくせに、人が絶望した時だけ、心の底から嘲笑う歪んだ性格。人を嬲り、苦しめることでしか幸せになれない。

 

 誰が言ったか、彼は『煙草の煙のような男』と評された。一見するとどこにでもあるような、存在感の薄い煙のような男だが、その実きわめて有害な男。煙に惑わされて近くに寄ろうとすると、少しずつ死が近くなる。

 今宵、死喰い人が勝とうが負けようがどうでもいい。ヴォルデモートの生き死にすらどうでもいい。

 オスカーは、ただ、愉しいだけ。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

「粘るものだ、存外に」

 

 オスカーの放つ魔弾に、ロン達は苦められていた。

 奴の魔法──それ自体は何ら驚異ではない。奴のすり抜ける能力は死なないことに特化しているが、逆に攻撃魔法の類はほとんど強化されていない。

 よく見て動けば、相殺できるレベルだ。

 しかしオスカーは壁内や天井の上など、あらゆる場所をすり抜けて、死角から攻撃を放ってくる。それが実にいやらしいのだ。常に気を張っていなければならない。

 幸い、ロンが持つマジックアイテムで敵の位置を知ることができるので、何とかいなせているのが現状だ。

 火消しライター。

 普段は灯を消すだけの魔道具に過ぎないが、迷える者をあるべき場所へ導き、道を示す特性がある。これで攻撃を探知しているのだ。

 

(といっても、捌くのも流石に限度がある……!!集中力が持っていかれるぞ、これは……)

「──ロン!!下っ!!」

「!?」

 

 迫り来る攻撃を、無様に転がって躱す。

 置き弾。他の魔弾に気を取られて、遅れて放たれる攻撃を考慮していなかった。転がった先で、またも設置されていた置き弾に襲われる。咄嗟に盾の呪文を使うことで事なきを得たが──相手はやはり、力押しだけの魔法使いではないのだと実感させられる。

 

「中々上手いな?無様に踊るのが」

「……フー……ルーナ、ごめん。助かった」

「いいよ」

 

 屈辱はない。

 こうやって泥の中でもがいて油断してくれるのなら、いくらでもやってやる。今のはどちらかと言えば此方のミスなので、怒るのなら自分に怒るべきだ。

 時間を稼がねばならない。

 自分達がオスカー打倒の決め手になるが、同時に、自分達だけではオスカーは倒せない。駒が足りないのだ。

 駒が揃うまで、時を稼ぐ。

 

「それにしても、だ!実に愉快だな。ハリーとダンテの危機が去ったことで、私達が倒せるとでも思い上がっているのか?それは実に、オモシロイ。そういう連中こそ最期に決まってこう言う、『何でこんな事に』とな!

 お前達はどのような慚愧を見せてくれる?死に際の冗句は考えておくといい」

 

 どこまでも馬鹿にした口振りで、オスカーは嗤う。

 まさに、人の生きる世に生まれ落ちた悪魔。

 

「何が面白いの」

「うん?」

「貴方は……喜びも、怒りも、悲しみもなくって。人と同じように笑えないことが嫌で、自分より幸せな人が妬ましくって──不幸な人を見て安心しているようにしか見えないよ」

「…………」

「この世に生まれたことの喜びが──誰かと喜びを分かち合うことの愛しさが分からないんでしょう。それってとっても可哀想」

 

 オスカーは神妙な顔をした。

 動揺とも少し違う、不可解そうな──何を言っているのか分からない、というよりも、言われた言葉の意味を理解できない、そんな顔。

 喜び、怒り、悲しみ、それらを一切切り捨てられて生まれ落ちた人間。それはある意味で憐れですらある。オスカーに同類はいても、共感者はいないのだ。

 考えた後、オスカーはゆらりと杖を動かして──

 

 

 

 

 

「『爆音呪文』いくぜいくぜいくゼェエエエ!!!!」

 

 

 

 

 

 炸裂。

 反射的にオスカーは耳を塞いだ。

 反対に、ロンは安堵の溜息をつく。オスカーの紅い力を突破できる可能性のある者達が来た!三人組は、特殊な魔道具を媒介として魔力を音に乗せる!

 

「サーベラス!!」

「遅れてすんませんッス。で……あれが噂のオスカー君ですか」

「ああ、あらゆる魔力、物質をすり抜けることのできる魔法使いだよ」

「『すり抜ける』……厄介な能力ッスけどね、話が通じるってことは、音は……振動はすり抜けてるわけじゃねえんだろォ!!!」

 

 雷鳴のようなつんざめく音は、しかし不快ではない。

 バーニィ達が奏でる音楽はロックの中でもとりわけ大音量で演奏される代物であるが、不思議とうるさいと感じることはない。魂が揺さぶられるというより、こちらの魂の躍動に合わせてリズムが発せられる……とでも言えばいいのか。

 故に、攻撃魔法として使用した時でさえ、全身に魔力を浴びているのに敵は恍惚と満足感を得て倒れ行く……というわけだ。

 そんな素晴らしいロックンロールも、オスカーの前では雑音と化す。彼は音楽を聴いてその種類や特徴、良いところは分かっても、実際に美しいと感じたり、好ましく思う感性がないからだ。バーニィ達も、少しばかり複雑な顔で演奏している。

 

(オーディエンスがここまで盛り上がらないなんてこれが初めてッスよ……!!尋常じゃないほどに屈辱だッ)

「ぐ……」

 

 たまらず、身体全体を透過させて床をすり抜けるオスカー。ひとまず射程外へ逃げるという算段か。しかし、既にバーニィは守護霊の呪文を詠唱していた。

 モヒカン姿のニワトリが現れると、バーニィ達に共鳴してけたたましく叫声を上げる。彼女達の爆音呪文に指向性を持たせ、一本の太い音の線とするのだ。

 爆弾でも炸裂したかのような音と共に、床そのものを豪快にぶち抜く!下の階へ避難していたオスカーはギョッと目を見開いた。

 溜めて、放つ。

 速度や連射性はともかく、攻撃力だけならシェリーに次ぐ音の攻撃。耳を中心に盾の呪文で魔力ガードして事なきを得るオスカーだが、びりびりと、痺れるような感覚を味わった。

 

「音魔法……何とも恐ろしいものだ。私のもっとも鬼門とする魔法かもな」

「そりゃどうもよォオオ!」

「……スゥー……」

 

 続けざまに放たれる音の砲撃。少しでもここでダメージを稼ぎたいところ……だったが、オスカーは最早、躱すそぶりすら見せずに正面からそれを喰らう。

──いや、確かに喰らってはいるが、想定していたよりも格段にダメージが少ない。

 わずかにでも、音魔法をすり抜けた……!?

 

「ぐッ……、ふふ、成程。分かってきたぞ……!」

 

 紅い力は物理的攻撃すらも無効化できる。故に音や振動をシャットアウトすることもできるのだが、それではあちこち動き回って奇襲するオスカーの基本戦法が取り辛くなる。

 よって、音魔法を解析して『音は聞こえるが、攻撃は無効化する』という状態までもっていくことにした。魔法の撃ち合いでは後手に回りやすいオスカーは、自然と解析能力が鍛えられていた。

 サーベラスはなおも音魔法を放つ。完璧に解析される前に削り殺す、オスカー突破にはそれ以外にない。

 

「撃ってくれるのなら好都合……、……なるほど」

「させるかよ」

 

 オスカーの脳天が、魔法弾によって貫かれる。ロンとルーナの攻撃だ。ダメージを与えるためでなく、一瞬でも視界を塞ぐことで動揺を誘ったのだ。

 奴の身体が跳ねる。まともに音魔法を喰らった!追撃狙いでロンは魔法弾を放とうとして、オスカーの杖先に魔力が篭っていることを察知し、盾で防御した。

 顔や身体は嘘をつく、魔力では嘘をつけない。死喰い人との交戦ではまず杖先を見よ、とは、ムーディーの教えである。

 重い攻撃を防いだロンではあるが、攻防の状況は決して芳しくない。サーベラスの音魔法の効きが弱くなっているからだ。

 

「で、お前達の策とやらはこれでお終いか?であればいささか拍子抜けだな。もう少し足掻くものだと思っていたが」

(………)

(狙いは私の足止めなのだろうが、もう飽きたな。

──殺すか)

(…………!)

 

 来た、とロンは内心で舌を舐めた。

 オスカーの興味が、他のものへと移っている。

 時間は稼げた(・・・・・・)

 欲を言えばもう少し集まってからにしたかったが、もういいだろう──十分だ!

 オスカーは瞠目した。

 それもその筈、ルーナの空いている方の手が青く光り輝いたかと思うと、一点に凝縮してカタチを為したからである。強いというよりも異質な魔力。不気味なまでの存在感が、オスカーの首筋を撫でた。

 

「──その剣は」

「ご存知、レイブンクローの剣だよ……!」

「報告にあった『創設者の魔道具』か。使えたのだな」

 

 ルーナがこのレイブンクローの剣を使用するのは、ホグワーツ戦線以来だ。創設者の遺した剣は『本当に必要な時』しか使用できない縛りがあり、役目を終えるとどこかへ消え去ってしまう。

 だが──ある日の夜、髪飾りとなって再びルーナの手元に現れた。オスカーを倒すべき敵だと認識したのだ!

 

(貴方も、戦ってくれるんだね──お願い、もう一度、私達に力を貸して)

『計り知れぬ英知こそ、われらが最大の宝なり』

(何をしてくる?ひとまず全身を向こうに飛ばして──)

「──翔べ!オスカーの世界へとッ!」

 

 全身を透かして対処しようとしたオスカーは、何やら引っ張られるような感覚を覚えた。重りをつけられたような、手錠を嵌められたような。

 全身に違和感を感じる。

 部下からの報告では、レイブンクローの剣とは空間に影響を与える魔剣。それがこの不可思議な現象を生んだということか?

 

 オスカーの『すり抜ける力』は……厳密に言うとすり抜けるのではなく、自分の身体の一部を他の世界に飛ばしている、というものだ。

 攻撃を受ければ、受けた部分だけが異世界に飛ぶ。

 その部分的な空間転移があまりに正確かつ速やかに行われるので、あたかもすり抜けているように見える。

 実に便利で強力無比な、無敵の能力。

──だが。

 オスカー以外に異世界に飛べる者がいれば、話は別になってくる。

 

 結果としてオスカーは自身の肉体を異世界へと飛ばすことへと成功した。虚構の空間の中を転がる。

 ただし、本来オスカー一人の空間である筈のここに、予期せぬ来訪者があった。言わずもがな、ルーナとそれに引っ付いていたロンとサーベラスの計五人だ。

 ……いや、招かれざる客が不躾に押し掛けてきたことはまだいい。にわかに感じる、生理的な不快感。まさかと思い試してみると、……やはり、使えない。阻害されている。

 『現実世界に戻れない』。

 すり抜けられない。……閉じ込められたと悟った。

 

「成功だッ……!レイブンクローの剣は空間へと働きかける力、オスカーの紅い力にもどうやら効くみたいだ!

 普通の空間魔法や封印じゃ、お前の紅い力には干渉すらできない!

 だが、かの創設者の遺したマジックアイテム!その全魔力を封印に特化させればお前を縫い止めるくらいはできるぞッ!」

 

 もしこのルーナの授かった力が、この時使えなかったとしたら。オスカーに通じなかったとしたら。いや、そもそもルーナとオスカーがぶつからなかったら。

 不確定要素があまりにも多い、ほとんど賭けに近い作戦のため、上手くいかなかった時のプランの方を多く考えていた。つかず離れずの中距離戦で、誰かヴォルデモートを倒すまで足止めすることも視野に入れていた。

 が、レイブンクローの髪飾りはオスカーの力を知識として吸い取り、解析した。そして剣となり、無理矢理にでも干渉した。

 であれば──後はもう倒すしかないだろう。

 オスカーの決着はオスカー自身の空間でつける。

 草一つない不毛の大地。

 濁り切った灰色の曇り空。

 グレースケールで描かれたような、鉛筆デッサンの中に迷い込んだような、そんな鉛色の空間。何の生物も物質もない、ある種、空虚で質素で何もないこの場所は、なるほどたしかにオスカーらしい場所といえよう。

 性質としては結界に近い。見たことのない、存在するかも分からない物質で構築された場所。オスカーの魔力によって形作られたそこに、呪いも祝福も持ち込むことはできないのだ。

 

「あんたの魔力でこの空間を創ってるのか、この空間にアクセスして間借りしてるのか。それは知らないけど、私達はこの空間にとって異物みたいだね。生き物のいない世界なんて……」

「不気味なとこだが、あんたが死ねばこの空間も解除される。それまでの辛抱だ」

「そう上手くいくかな?」

「…………」

「私が紅い力の魔力の殆どを特殊能力に費やしているのは、ああ、事実だとも。故に、直接戦闘は幹部の中では一番苦手でね、負けはしないが勝つこともできない。

 魔法の腕がどうこうより、あの怪物連中の息の根を止める手段が私には殆どないのさ。すり抜ける力がなければただの魔力が多いだけの男でしかない。

 が……君達から見れば私も十分『怪物』側だろ」

 

──否定はできない。

 先だってのハリーとの戦いでは、弱り切った状態の彼をただ“その場から動けなくさせる”ためだけに何十人もの人間が犠牲になった。

 オスカー相手に、さてどれくらいいることやら。

 

「そのレイブンクローの剣は言うなれば重石だ。船でいう碇の役割。君達がこの世界に留まるために、私をこの場に縫い止めるために、その剣は地面に突き刺しておかなくてはならない」

(バレてる)

「さて?どうするね諸君?五人で必死こいて戦えば、もしかしたら私の首を獲れるかもしれんぞ?さあ、どうするのだ?」

「数に頼るよ」

 

 瞬き一つの呆然。

 ロンは天高くコインを放り投げ、続けざまに火の点かないライターを鳴らす。ぴかぴかに磨き上げられた金貨に火消しライターの姿が映り込んだ。

 瞬間。

 宿主以外は誰も寄せ付けぬ筈の異界に、ロン達以外のイレギュラーが宙から光となって飛来する。一つや二つではない。幾重もの光がロン達を護るようにして空より落ちると、それらはすぐに人の姿へと変わる。

 

「呼び掛けに応じたのはざっと三〜四〇人ってとこか」

「来てやったぜロン、頼もしい兄貴達がよ」

「あら、麗しい妹が抜けてるんじゃない?」

「僕達で紅い力を倒すのか……!」

「ここで最高幹部を落とせば大金星ですよ。マーリン勲章勲二等は固いですね」

「ダンブルドアが没収されてたやつだろ?そんなもんに価値なんてあるかよ。貰えるんならありったけのガリオン金貨と蛙チョコレートに載れる権利がいいね」

 

 かつて、人よりちょっぴり強い好奇心と勇気を持つ学生によって組織された、ダンブルドア軍団。そのメンバーを中心としたうら若き魔法使い達が集っている。

 静寂だけが満ちる筈のこの場所に、こんなにも人が。

 動揺も、驚嘆も、まして焦燥もないけれど。

 興味深いものでも見るかのように、オスカーは双眸を見開いていた。

 

「これでやっと戦いのテーブルに着けた。ここからが戦いだぞ、オスカー!」

「──玩具がいっぱいだ」

 

 

 




おまけ
『ホグワーツに入学したグリンデルバルド』
アル「どの寮に入りたいかって?ウーン、僕が尊敬してる偉大な先人達が多くいるグリフィンドールかなぁ。あと赤好きだし」
ゲラ「じゃああそこだね。ところで髪の毛を赤く染めようと思うんだが、君の意見を聞かせてくれ」
当時の校長「まだ組み分けしてないのにさも当然みたいにテーブルに着くんじゃないよ!!!!!」

おわり。

グリンデルバルドは手段の一つとして闇の力を振るうことはあるけど、基本的には口八丁で人の心を操ろうとする(=手段を選んでる?)し、曲がりなりにも正義を掲げてはいるし、もしホグワーツに入学していたらグリフィンドールに入っていた世界線もあったかもしれませんね。
いや…ヴォルが手段選ばないから比較的そう見えるだけかも…。


不死鳥の騎士団編の時の前書きで、「DA組織しても戦力として役立たないですって?HAHAHAそんなことないですよ、むしろこいつらがいないと詰みます」みたいなこと言ったと思うんですが、今がその時です。
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