シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

106 / 145
オスカーが全力を出したのはロンとの槍合戦の時が人生で初めてです。
基本的にすり抜ける能力と性格的な問題で本気を出した経験がなかったのだと思われます。


6.嫉妬のピーター・ペティグリュー Ⅰ

 

「……ッ!」

 

 耳の半分を失って気絶していたジョージが、勢いをつけて飛び起きる。戦闘中に気を失っていたなんて、笑い話にもなりやしない。

 ここは……先刻までのモノクロームな空間ではなく、ヴォルデモートの居城か。いつの間に戻ってきたのか。

 皆んなは……皆んなは無事なのか?

 

「落ち着けよ兄弟、オスカーは倒した。俺達の誇るべきお兄様と、可愛い末弟がな」

「……マジか?マジか……やったな。ロン、パーシー」

 

 口角を吊り上げるジョージ。

 それだけで全身に激痛が走ってしまう。……受けたダメージも、消費魔力も激しい。もう全力で戦闘できるだけの余裕は残ってはいないだろう。

 もっとも、それはDAのほとんど全員に言えることだろう。ジョージが見渡すと、DAのメンバー同士で治癒呪文をかけ合って、何とか肉体を保たせようとしている最中のようだ。

 それでも殆どは満身創痍といった状態で、魔力を使いすぎて体調が悪くなっている者や、疲労困憊している者が散見される。まだ戦えるのはルーナやチョウ、あとはせいぜいジニーくらいのものか。

 

「ジョージ、バーニィったらすごいのよ!音魔法で相手の注意を引きつけて皆んなを守ってくれて……!」

「ジニーこそ、絶え間なく全員をサポートしてたじゃあないっスか。オスカー戦のMVPは間違いなくロンとパーシーでしょうけど、ジニーも準MVPくらいは貰っていいんじゃないスか?」

 

 

 

「……?そのロンとパーシーはどうした?」

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

「──なあロン、お前が探し回らなくたっていいんじゃないか?」

 

 決して少なくない傷を負ったロンを気遣うように、パーシーは声をかける。

 ロンの肉体には、文字通りの呪いが刻まれ、暫くは動き回るのも困難なほどのダメージが残っている。ふらつくロンの肩を支えつつ、二人はゆっくりと歩を進めた。

 

「あれだけしぶとかったオスカーだぜ。まだどっかで生きてるんじゃないかなと思うのは当然だろ」

 

 そう、オスカー。

 奴の死体を、ロン達はまだ確認していない。

 オスカーの能力は異界を創るのではなく、正確には異界と繋がる能力だった。だから紅い力を失った今、オスカーもまた現実世界へと戻ってきている筈なのだ。

 ロンが警戒しているのは、奴の能力そのものよりも、直に浴びた底無しの悪意。追い詰められた奴が何をするか分からない。だから、ロンはパーシーを頼って城内部を探索していた。パーシーには……色々と酷い裏切りを受けてきたので、文句を言いながらも言うことを聞いてくれる唯一の兄だった。

 

「探すのはいいが、お前の身体の心配をしてるんだ。他の奴に任せていいんじゃないかってことだ」

「…………」

「…………」

「……ああ、クソ。兄貴の言う通りだよ。その通り、ではあるんだけどさ」

 

 叱られた仔犬のようにバツの悪そうな顔をした。

 パーシーから怒られるのは久しぶりだ……。

 調子が狂う。

 

「オスカーはさ、人間の悪いとこを煮詰めたみたいな存在だった。目先の私利私欲に囚われ、自分の快楽のために生きて、他者は全員蹴落とすような……。それが行き過ぎてて一周回って人間じゃなくなったような奴だ。

 だからこそ、怠惰を貪ってきたアイツの末路を見て、確認したいんだよ。自分のためだけに都合良く生きてるとこうなるって。

 ……僕は、とても調子に乗りやすいからさ」

「…………。そういうことなら、僕も賛成かな」

 

 ロンも、パーシーも、弱いところがある人間だ。

 そのために過ちを犯すし、間違った方へと進むし、目先の幸福のために馬鹿なことをやらかしてしまう。

 その度に何度も仲間や家族のことを思い出して、踏み留まることもしてきたが……オスカーはそれができない存在だったのだ。

 いずれ、大切な人達からも呆れられて、本当に大事なものを失ってしまう前に、踏み留まりたい。

 オスカーを探す動機などそんなもの。

 結局は、これからの人生を楽しく生きるために安心したいだけなのだ。

 

「──ふ、はははぁは、はははは……」

 

 そして、オスカーは見つかった。

 仰向けに、吊られた男のタロットのような姿勢で、瓦礫の上に寝そべっていた。呼吸は荒く、か細い。鼻より上が血塗れで、潰されているようだった。

 魔力も感じられず、杖も見当たらない。ごぽ、と血を吐くだけの肉塊と成り果てていた。ヒュー、ヒューと音を発するそれは、ぴくぴくとまだ息をしていた。

 

英雄の槍(ロンゴミニアド)との衝突で押し負けた後に、異界との接続が完全に切れて現実世界へと帰還し──そしてその衝撃を紅い力抜きでモロに喰らってしまったんだ。だから、周囲に瓦礫や破壊の痕跡が残っているってわけか」

「柱が壊れてる。しばらくすればここも崩落するぞ。早いとこ離れなきゃ……」

 

 思えば哀れな生き物だ。都合の良いことを言って自分から人の信頼を裏切るような真似をして、アンブリッジを唆し、彼を慕っていた生徒の気持ちを踏み躙り、死喰い人として好き勝手に自由気ままに生きていた。彼の言うことが本当なら親殺しだってしているらしい。

 その結果が、これだ。オスカーに復讐したいと思う存在とは戦えず、彼の人生最後の決戦では取り立てて因縁もない男に負け、自らの紅い力にも見放され、こうして敗者として転がっている。

 助けてくれる者もない。そのような生き方をしてきていないから当然だ。

 人を殺す、否、害することでしか幸福を得られない。

 普段は合理性に基づいて稼働する人形は、他者を害した時にのみ人間へと戻るのだ。

 

「そこにいるのか?ロン……そこかぁ……?」

「!目が……?」

「何処だ……いやに静かだがここはまだ私の世界の中なのか……?一体、何なのだ?ここは……何だ?」

「…………耳もやられちまってるみたいだな」

 

 致し方あるまい。

 英雄の槍(ロンゴミニアド)は仮にも一族相伝の魔術奥義。

 全霊燃やして貫き通す決戦術式をその身に喰らって、ただで済むはずもない。オスカーはもう死に体だ。

 このまま放って置いても死ぬ身だが──

──今殺せば、仇打ちもできるか……。

 

「はは、ははぁはは……そこに誰かいるのなら私を殺してみろ……くくく……私はお前達の家族を殺し、蹂躙した人間だぞ……殺したいだろう?くくはは……」

 

 オスカーの狙いは分かっている。

 誰かに殺してもらうことで、その人の怒りと苦しみを直に感じたいのだろう。

 オスカーに負けという概念はない。死ぬまでちょっかいをかけ続けて、それに怒ったり憤ったりするのを見て面白がるような性格だ。

 人の神経を逆撫ですることばかりを考えて、自分はゲラゲラと笑い転げる男──それがオスカーだ。

 

 

 

 

 

 だから。

 もうこいつには構わない。

 

 

 

 

 

「もうあんたには何もしないし、何もされたくない。僕達はあんたを見て、弱い自分を忘れないようにしたいだけだ。……じゃあな先輩。

 取り入って情報を得るためだったとしても、魔法省で浮いてた僕の面倒を見てくれたのだけは嬉しかった」

 

「生憎と、僕はくだらない日常を過ごすのに忙しくってね。復讐だの何だのはやりたい奴がやってくれ。そんで僕達に関わらないでくれよな」

 

 二人は踵を返して、さっさとその場を後にする。

 オスカーという害悪……有害な煙は窓を開けて放置するに限る。この世から完全に消し去ることができないならせめて、たまに窓を開けて霧散させるしかないのだ。

 人の闇とは、煙のようなもので、放っておくと籠ってしまう。窓を開けっぱなしにすると今度は別の災いが降りかかるだろうが、閉じっぱなしも良くないのだ。

──きっと誰しもがオスカー・フィッツジェラルドのような凶悪な精神性を心の何処かに飼っている。

 奴の全てを否定はしない。

 が、奴のようにだけはなりたくない。

 確認はできた。

 心の中に棲まう怠惰の怪物と訣別したらもう、末路まで見届けてやる義理もない。

 

 後はもう、帰るだけ──。

 

 

 

 

 

「──おぉい、何処だ……何処だ……?誰か、誰かいないのか……?誰でもいい……誰か……」

 

 

 

──最期は断罪の丘で独り死んでいく。

 

 

 

「誰か、私を殺したい奴はいないのかァア──……?」

 

 

 

──オスカーは復讐と悪意によって死ぬのではなく、見放されて孤独に死ぬのだ。

 

 

 

「誰か……誰か……」

 

 

 

 或いは、もう少しだけ時間があれば、オスカーが自分自身の境遇そのものを面白く思い、自らを侮蔑し、度し難いまでの救えない男としてその生涯を終わらせることができたのかもしれないが。

──そんな暇すら彼には与えられず。

 

 

 オスカーの顔面に瓦礫が落ちた。

 

 

 

 

 

「ぁぎゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

──オスカー・フィッツジェラルド『死亡』──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ……」

「おいロン、やっぱお前の傷癒えてないんじゃないか。結構無理を推して来てたんじゃないかおい」

「無理しないと勝てない相手だったろぉ!?もうお説教はその辺にしてくれよ」

「あぁ……畜生、かく言う僕もさっき変なとこに頭をぶつけたみたいでな……正直言うと、歩くのもちょっとキツくなってきた」

「嘘だろ!?……あぁ、クソ」

 

 

 

 

 

「ぐだぐだだな、僕達」

「まったくだ」

 

 頭から倒れそうになるロンとパーシーは、誰かに支えられて踏み留まった。

 背の高いハンサム顔とがっしりした筋肉……ビルとチャーリーだ。二人の兄に支えられて、どうにかバランスを取り戻した。

 

「よ、お疲れさん」

「兄貴……」

「聞いたぜ、我が弟達が幹部を倒したってな。まさか、ってやつだ。この間まであんなに小さかったのになぁ」

「いつの話をしてんだよ」

 

 ぐしゃぐしゃに頭を撫でられたけれど、別段、悪い気はしなかった。

 ビルとチャーリーは別働隊で戦っていて、オスカーとの戦いには参加していない。先程、DA連中と合流して事情を聞きつけてロン達を探しに来た、らしい。

 

「何だ何だ、元気ねぇなぁ」

「生意気な。せっかく首級を上げたんだ、もう少し嬉しそうにしろよ」

「アー…」

「……なあ、二人とも。オスカーは魔法省時代、確かな仕事ぶりと細やかな気遣いで一目置かれていたんだ。

 そりゃあアンブリッジの金魚の糞扱いする奴もいたし、立場上嫌う奴もいたけど、実際にあいつの近くで仕事をしていた人は少なからずオスカーを評価していたし、やりやすいって言ってたよ。

 ……でもあいつにとってはそれは退屈な演技でしかなくって、奴の空虚を満たすための要因には成り得なかったんだ。周りからあれだけ信頼されてたのに……その幸せに最後まで気付けなかったんだ」

「…………」

「僕はそれが、哀れでならない。ロンも同じ気持ちじゃないか?何かきっかけ一つ違えば……僕等もあいつみたいに歪んで……間違えて……目先の欲に溺れて、どうしようもない馬鹿に成り下がってたかもしれない。

 あいつに同情する訳じゃないけど、その一点だけは、哀れだって思うよ。本当に」

 

 ロンも、パーシーも、劣等感に押し潰されて欲に溺れた経験があるからこそ……私欲のまま生きるオスカーが自分の写身のようで、怖かったのだろう。

 もし、シェリーやハーマイオニー、ホグワーツの皆んなと出会わなかったら。そんなイフを考えると、ぞくりと身震いがする。

 

「その発想ができるってことは、お前さんは人の痛みや苦しみを分かってやれる人間だってことさ。

 間違えたっていいんだよ、二人とも。馬鹿やらかしたっていいんだ。その度に俺達が体張って止めに行ってやるからさ。同じ失敗さえ繰り返さなきゃ、人間どうにかなるもんさ」

「ロンも、パーシーも、あいつとは違う。ウィーズリー家の誇るべき一員だ。俺たちの誇るべき男は失敗から学べる人間だって、俺達は知ってるからよ」

「……兄貴」

「さあ!いっちょ次の指示を出してこいよ、リーダー!」

 

 背中を叩かれ、二人は皆の下へと戻っていく。

 愛しくも馬鹿らしい、仲間の下へと。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

「のらりくらりと……勝負を引き伸ばしてばかりでは熱も冷めるぞ?アバーフォース。俺様を倒そうという気概もなしに、俺様を相手取れるとでも思ったか?」

「ハーッ、ハーッ……」

 

 ゼイゼイと、肩で呼吸をするアバーフォースに、容赦なく夜の海風が吹き荒ぶ。北海に浮かぶこの闇の帝城の最上階とも言うべき──屋上フロアにて、二人の魔法使いは激戦を繰り広げていた。

 いや……その実、消耗しているのはアバーフォースの方だ。ヴォルデモートの第一神器は数の暴力、界域の物質的支配である。純粋に魔法の技量が高いアバーフォースであるからこそここまで保っているともいえるし、ここ止まりであるともいえる。

 ダンブルドアにグリンデルバルドといった天性の怪物にはどうしてもあと一歩届かないし、最強に興味は無かったのでその一歩を埋める努力もしなかった。

 まさか人生も終盤に差し掛かって、こんな……埒外の強敵と命のせめぎ合いをしなければならないなど、全くもって悪い冗談だ。

 

「……。なあ、アバーフォースよ。あの小僧どもにそれだけの価値があるか?お前ほどの男の命を賭ける価値があると?」

「価値があるから守るんじゃねえ。ジジイがガキ守らねえで何守るんだマヌケ」

「こりゃ驚いた。隠居爺かと思いきや、経験を積んだ老兵ときたか!お前がそれほど連中に入れ込んでいるとは思わなんだぞ。兄弟揃って教育者の資質があるのやもしれんな!」

「俺は先公にはなれねえよ」

 

 アバーフォースの心にふと過ぎる、一条の思い出。

 愛し合い、別れて……そしてここによく似た彼の地にて奇跡の出逢いを果たした愛しいあの息子。

 あの子が笑える世界を創ろうなんて大望を嘯くつもりも、その気力も残っちゃいない。だからせめて、あの子が誇れる土産話を持って行ってやらねばなるまい。

 俺が不甲斐ない男として一生を終えちまったら、あの子の名誉に傷がつく。何も与えられなかったぶん、何も奪わせやしない。

──そのついでに、ガキどもを守ることができりゃあ、それはもう万々歳ってもんだろう。

 

「貴様には貴様なりの流儀があるようだが、俺様の思想には合わんな!……」

「思想だあ?お前に大層な目的があるようには到底思えんがな。世界征服するにしちゃあ動きがノロいし、革命を起こすにしちゃあちと必要な犠牲とやらが多すぎだ」

「好きなことを、好きな時に、好きなようにやる。最大限のこだわりを持ってな。俺様にあるのは、言ってしまえばただそれだけ……楽しめればそれで良い」

 

 世界を揺るがす力を持っていながら、片田舎の孤児院に縛り付けられ、一生を終えるなんて嫌だ。

 もうあの埃とカビの匂いの蔓延する場所に戻りたくはない。自分が、最高に楽しめるステージに立ちたいし、無いのなら創ってしまえばいい、とすら思っている。

 唯我独尊。

 天地雷鳴。

 ヴォルデモートの、ある意味で正直でサッパリした生き方を、しかし対するアバーフォースが認めるわけにはいかない。いかないのだ。

 

「業腹だが……俺様に比肩し得る才能の持ち主は、時折ひょっこりと現れる。アレンやダンブルドアがそうだったようにな。俺様が絶対悪として君臨し続ける限り、正義の側にも必ずそういう天才は現れる!

 せいぜい未だ見ぬ勇者との戦いを王の座にて楽しみに待つとするさ……!」

「何だお前、戦いたかったのか」

「たわけ!俺様の数ある娯楽の一つに勇者との戦いがあるというだけよ!俺様の無二の目標は世界最大の極悪として君臨することのみだ」

 

 そう──何処まで行ってもヴォルデモートは、暗闇にて苛烈に燃え盛る悪の帝王になりたいだけ。

 イレギュラーこそ多々あれど、世界を蹂躙するという当初の目的は果たされつつある。だが、まだまだ極悪の魔王には程遠い。

 何者にも縛られず、何者よりも強く──そんな存在として生を謳歌する。魔法界はヴォルデモートにとって最高の遊び場なのだから。

 

「おっと……オスカーの奴めしくじったな?紅い力が消えてやがる。グレイバックは安定しているな。ベラトリックスは少し面白いことになっているか?

 ……ペティグリューの馬鹿はまだウダウダしてるか」

 

 腹立たしげに、ヴォルデモートは展開した数多の杖の内から無造作に一本を手元に引き寄せ、紅い力と腕のタトゥーを通じてペティグリューに指令を出した。

 異国の言葉に窮鼠猫を噛むというものがあるが、さてペティグリューは、何を見せてくれるか。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

「ヒィィィイ……来ないで、来ないでくれリーマス!やめてくれェエエエ!」

「まるで私が悪者みたいじゃないか、ワームテール」

 

 オスカーの激戦とはまた違う場所、帝城の廊下。

 スペックだけでいえば数多の魔法使いを無双してしまえる程の魔力を持つペティグリューは、しかし驚くほど無様な醜態を晒していた。

 脂汗をかき、みっともなく脚をバタつかせて、ペティグリューは必死の形相でルーピンから逃げている。息も絶え絶えで、まさしく哀れな逃亡者そのものの走り。

 到底、紅い力を与えられた絶対無敵の魔法使いとは思えぬほどの、もはや清々しいまでに醜い姿。

 

 

 

 だが、ペティグリューの動きは意外にも俊敏だった。

 

 

 

 逃げ回ってこそいるものの、相手の罠や攻撃を的確に躱し、避け切れないならばキッチリその部分だけ集中防御して防ぐ。基礎がしっかりしているのだ。かつて……ジェームズ達と鍛えた時の経験が活きている。何とも、皮肉なものだ。

 対するリーマス・ルーピンも自分がペティグリューを仕留められると思っているほど自惚れていない。逃がさないための動きで、殺すための動きはしていなかった。

 互いが互いに消極的な追いかけっこは、しかしある時終わりを告げる。

 ピタリと、ペティグリューは脚を止めた。

 

「どうしたピーター。追いかけっこは終わりか」

「我が君……戦えと、仰るので……?あぁ、分かりましたとも。死にたくない、戦いたくない。けど戦わなければ殺される……クソッ、クソクソクソォ……!」

(……戦闘態勢に入った。これは気をつけなければ一撃で死も有り得る……)

 

 ピーター・ペティグリューの地力はよく知っている。

 直接的な戦闘能力こそジェームズやシリウス、スネイプらに一枚劣っていたものの、決闘クラブの勝率は決して悪くない。十回やれば三、四回は勝っていたし、コンディション次第で勝ち越しもしていた。

 ピーターは自分を弱く見せることで相手の油断を誘っていた節がある。劣勢に見せかけ調子付かせてきたところを不意の一撃でズドンだ。

 それが、紅い力という純粋な魔力強化の手段を得たことによって余計タチが悪くなった。リーマスはいつでも全方位に動ける姿勢へと移行する。

 

「……なあ、リーマス。ここは手を引いてくれないか?私を見逃してくれ……なあ頼むよ……親友だろ?」

「悪いな。君だけは見逃すことはできないよ」

「……私のことなどどうでもよくなったのか?……」

 

 ピーター・ペティグリューの思考回路は裏切りの時から破綻している。オスカーのような生まれついての異常者はある意味で理知整然な物の考え方をするものだが、ペティグリューのそれはとっ散らかってぐちゃぐちゃ。

 歪みに歪んで、物事を自分の都合の良いように捉えてしまっていた。そうでなければ生きてこれなかった。

 今、目の前にいるリーマスは別人だ。

 だって、あの優しかったリーマスがそんな言葉を吐くわけがないのだ。酷い。酷過ぎる。こいつはリーマスの顔をした別人なのだ。

 現実逃避の極地。歪んだ解釈と認知。

 二つの混ざり合いが異常な発想を産み落とす。

 

「お前は……お前なんてリーマスじゃない……偽物め、私が退治してくれる……!」

「────ッ、魔力刃!!」

 

 ワームテールが迫る。

 何か魔法を仕掛けてくるのだろう。何が致命傷になるか分からない、リーマスは魔力刃で牽制しつつ、バックステップで距離を取る。

 実に綺麗な回避だったが、ひとつ考慮すべきだったことは、ワームテールが孕んだ狂気はもはやリーマスの想像の埒外の、その遥か先を行っていたこと。

 ペティグリューは義手で無理矢理に魔力刃を受け、生身まで伝わる痛みと衝撃を意に介さず、そのまま殴り抜けたのだ。

 ギョッとするリーマスの横っ面に衝撃が走り、地面へと叩きつけられる。血を吐く彼を見下すかのように、ペティグリューはギラついた瞳を血走らせた。

 

「紅い力、解放──」

 

 

 

 

「ぶち殺すぞ!!!!!」

 

 

 

 




オスカー・フィッツジェラルド 死亡
死因:致命傷を受け仰向けに倒れていたところに、顔面へと瓦礫が直撃した。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。