シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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最低でも月に一度の投稿ペースは崩してたまるかよぉ…!


8.嫉妬のピーター・ペティグリュー Ⅲ

 

「…………死んだのか」

「首の骨を砕いた。これで死んでないなら化物だ」

「そうか……」

 

 コージローの淡々とした報告に、ルーピンは悲しいような、虚しいような……そんな微妙な顔をした。

 念のためルーピン自身もペティグリューの脈を測ってみたのだが、やはり血が流れている様子はない。心臓が完全に停止して、僅かな魔力さえ感じられなかった。

 

「簡単に人は死ぬんだったな……そういえば……」

 

 親友ピーターの青白い顔に手をやり、眼を閉ざす。

 実際のところ……事がここまで上手く運ぶとはルーピンも思っていなかった。ペティグリュー討伐のキーとなるのは頭抜けた身体能力を持つコージローか、紅い力を持つシェリーだろうと鷹を括っていた。

 事実そうなった訳だが……早すぎる決着に、ルーピン自身も感情が追いついていなかった。

 しかし、心の準備はとうに終わっている。

 何をすべきかは分かっている。

 

「すまない。時間を取らせた。行こう。腐食を抑える呪文だけかけておく。……それが私ができる、こいつへの最大限の弔いだろう」

「……戦える?リーマス」

「問題ないさ」

 

 ピーター・ペティグリューは……思うに、強すぎる光と闇を一身に浴びてしまったことで歪んだ男なのではないだろうかと、今になって思う。

 二つの側面の両極端な部分を互いに見たことで、認知が歪んでしまった部分は少なからずあるのだろう。そしてペティグリューはスネイプのように、曲がりなりにも強い想いを、信念を持つような男ではなかった。

 何色にも染まりやすい子供は子供のまま、大人になれずに狂ってしまったのだ。

 

「デカすぎる挫折……強すぎる希望……後付けの見栄やプライドを取っ払ってしまえば、こいつの中にあるのは浅ましい生存本能だ。

 掲げた信念が自分のものになる前に、狂ってしまったんだと思うよ。……もう少し話を聞いてやればと、何度思ったことか」

「……色々因縁があるようだが、俺がとどめ刺して良かったのか?」

「彼と因縁があるのは私だけではないさ。あちこちの人間を殺してきたんだ。すまない。もう大丈夫だ」

 

 ふぅ、と息を吐くと、誰からともなく次の戦いに進まんと歩き始める。

 身も蓋もない言い方をしてしまえば、ペティグリューをあまり消耗せず倒せたのは良かったと言えよう。怪我も致命的なものではない。

 

 ごそりと音がした。

 ちらりと振り返った。

 ピーター・ペティグリューの死体が動いていた。

 

 

 

 

 

 ピーター・ペティグリューが、動いていた。

 

「え?」

「他の部隊はどうなってる?」

「迷宮の中じゃ伝達系の魔法がよく働かないんだ」

 

 ピーター・ペティグリューの死体はぐわんぐわんと折れた頭を揺らしながら、何かを呟いていた。

 

「……?どうしたのシェリ…………ッ!?!?」

「──『止マレ』」

 

 びたりとシェリー達の歩みは静止する。

 服従の呪文……その速攻版だ。一定範囲の相手の行動を縛り、簡易な命令を施すというもの。

 見えない空気に掴まれたかのように、肉体の動きが阻害される。何もないのに窮屈な感覚だ……!

 

「──『紅イ力の更ナル解放』」

 

 光を失った瞳が、禍々しい魔力によって色彩を取り戻した。血が止まって腐敗する筈の肉体が、しかし確かな魔力の鼓動を感じさせる。

 この事実に最も震えたのは、下手人たるフウマ・コージロー本人である。

 仮にも彼は代々傭兵稼業を営む忍の家系。マホウトコロに入学する前から人体を壊す技術は叩き込まれているのだ。その彼が美しいまでに綺麗に首を折り、即死させたのだ。任務に感情や私情を挟まないフウマの殺人の報告は、この世の何より信頼できる。

 まして、死体の確認をしたのはコージローだけではない。その場にいた全員が、ピーター・ペティグリューの死亡を確かに確認した。脈も、心臓も、確かに完全に機能を停止していた。その筈だ。

 過去にポルターガイストが短期間死体を動かした例はあるものの……そのような気配さえなかった。

 

 だからこそ、何の脈絡もなく動き出したペティグリューの死体は、イレギュラーと言う他なかった。

 もう、魔法というひと言で片付けてしまっていいものなのか……背筋が凍るような想いだ。

 今奴が、どんな状況なのかは分からないが。

 場合によってはあるいは──死をも、超越した存在に変貌してしまったのではないか?

 

 人ならざるモノが、何かが、ざわめいていた。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

──同時刻。

 魔城の屋上にて、ヴォルデモートとアバーフォースは相対していた。

 

「『紅い力の更なる解放』……紅い力を使い熟せるようになった者には、そういう一段階上のステージが用意されてるんだ」

 

 ヴォルデモートは高笑いしながら、歌うように語る。

 紅い力でリンクしているペティグリューが力を解放した気配を感じ取ったのだ。

 それはアバーフォースも同じ……ざわざわと、得体の知れぬ魔力が膨れ上がっていくのを感じた。

 

「そりゃ大層な力があったもんだな」

「まなんてことはない……自身の能力を凝縮して放たれる必殺奥義って奴さ。

 ハリーの『白い薔薇(デルフィーニ)』は無限毒ガス爆発を繰り返す自動魔力人形……

 オスカーのは他の紅い力を駒に劣化コピーして、同時に操作する能力……

 紅い力が馴染むと、そいつの戦い方や能力に適した魔法に目醒めることがあるのさ。それを仰々しく『更なる解放』などと呼んでるだけさ」

「お前達が戦闘の最初からそれを使わねェのは、俺達を舐め切ってるからか」

「プライドに障ったかな?別に能力に目覚めたからって勝てるわけでもない。死の呪文は使えば必ず相手を殺せるが、相手に当てるのがそもそも難しいだろう?お前達相手に軽率に使えば命取りになるのはこちらだ。

 あくまで最後の切り札……奥の手……そういった位置付けの魔法さ。お前達にもそういう魔法の一つや二つあるだろう?あれの紅い力版さ。シェリーも既に目覚めているかもな」

 

 

 

「──だが、ことピーター・ペティグリューに関しては話が少し異なってくる。奴のそれは最も特異、魔法界においてもイカれたモノさ。

 お前、たかだか一個人が自分の魔力だけで不死になるって信じるか」

「…………!?」

「ペティグリューのはそれだ。死んでも蘇る魔法、自分の死体を操る死霊術の一種でな……。

 自我という自我はなくなり、生前の感情だけがあの世を通して模倣され、自衛のために自動で死体を動かす。そんな術式が組み込まれていやがった。流石に俺様もああいう形での不死はごめんだね」

 

 有り体に言えば、ゾンビのようなもの。

 ヴォルデモートが一度死に限りなく近付いた時ですら自我は保たれていたし、何かにへばりつくことで何とか生き永らえることはできた。

 が……ペティグリューの紅い力は、そんな生易しいものではない。悪魔に肉体を空け渡し、狂おしき怨念と妄執が突き動かすのだ。

 覚醒というにはあまりに苦痛が過ぎる。

 堕ちた、という表現すら生ぬるい。

 

──ペティグリューは最早、人というカテゴリには収まらない何かに変貌していた。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

「何だ……アレ」

 

 トンクスが悲鳴ともつかない呻き声を出した。

 ピーター・ペティグリューが苦しみ出したかと思えば肉という肉が腫れ上がり、血管という血管が浮かび上がり、そして肥大化していく。

 巨大な肉塊は、ゆうにシェリー達の身長を越え、子供の巨人程度の高さにまで成長する。しかし特筆すべきはその横幅だ。壁のように広がった赤色の肉に、目玉や歯牙がくっついている。

 もはやペティグリューの原型はない。

 ただ呼吸活動を行うだけで肉全体が揺れ、麻痺性ガスが漏れ出る。グロテスクな風貌は、人ではない何か。

 後にも先にも、あのような生物は魔法界にもマグル界にも存在しないだろう赤い肉塊。

 

「ピーター……なのか、お前」

「『吹キ飛べ』」

 

 シェリー達の肉体が弾かれたように飛び上がり、くるくると宙を舞った。

 受け身を取り、ペティグリューの肉体を見る。

 ……おぞましい、の一言だ。

 人体を裏返して雑巾搾りしたとしても、これほど生々しい姿にはならないだろう。

 

「ぶふぅぅうううう〜〜〜うぅぅううあぁあぁぁあ」

 

 幾多もの口の中から、魔法無効化ガスが噴き出した。

 凄まじい嫌悪感と共に、ほんの少しの安堵があった。

 もしもこの怪物が、他のメンバーのところに行っていたとしたら……その被害は計り知れない。奴と相性の良い面子であればこそ、対処できるのだから。

 

「……おいおい、腕が生えてきやがる……いや触手か」

「肉体変化……!吸血鬼でもあんな極端な例は見たことないけど……」

 

 嫌な音を立てて、巨大な肉塊から仰々しく肉が伸び、凄まじい質量を伴ったそれへと変化していく。

──一閃。

 横薙ぎに振るわれた触腕にいち早く反応したのは、シェリーとコージローだった。片や高速の早撃ち、片や魔力刃による斬撃。

 それらを払うだけでも、肉体にかかる衝撃は想像の域を越えていた。重くて速い。ただの腕の一振り一振りがこちらにとっての必殺の一撃だ。

 その腕が──

──目視できるだけであと十本。

 

「──ッ!!」

 

 当たれば即死の質量攻撃、肉量に任せた力押し。

 避けてばかりでは埒が開かない。

 躱しざまにトンクスは魔力弾を肉塊に放った。それは容易く肉を削り取り、千切り、血飛沫を上げる。

 

「やっぱり!肉自体はぶよぶよとしていて柔らかく、攻撃は通りやすい……!風船割るみたいに簡単に弾けた!

 なるほど自重に潰されないように脚部はずっしりと固いけれど……きちんと喰らってくれる相手ではあるみたいね。でも……」

「……肉が再生していくな」

 

 肉の奥の方から、新しい肉がせり上がるように傷穴が埋まっていく。大気中から魔力を吸い上げて、肉へと変えて……子供が粘土をくっつけるみたいに継ぎ足されていく。

 異常な新陳代謝で治しているというより、魔法でその都度肉を生み出してくっつけている。再生ではなく、補充といった方がいいだろう。

 

「ええ、そもそも、これだけの巨体を動かすためにはそれなりのエネルギーが必要なのよ……!ドラゴンは一日に約数百トンから数キロも食べるらしいけど、ペティグリューの場合は魔力をエネルギー源にしてる。

 そして多分……今のペティグリューに生命保持のためのエネルギーは必要ないから、ああいうゾンビみたいな形態になってるのよ……」

「……!?よくわからんな。ペティグリューは生き返ったんじゃねえのか」

「アレに自我があるように見える!?生き返ったんじゃなくて、死体が勝手に動いてるのよ」

「成程」

 

 謂わば暴走状態──自我が霊体と化したものがゴーストと呼ばれているのとは反対に、自我が消え肉体のみが動いているのがアレだ。

 ペティグリュー自身の心臓は止まり、魂も召されたことだろう。今はこびりついた怨念が炉心となって動いているにすぎない。

 確かに、様々な感情を包括している“嫉妬”は、人間の負のエネルギーそのもの……最も無意義で、最も醜い感情と言えよう。だがそれが形を持つと、こうまで醜悪になるものなのか。

 

「そうまでして否定したいのか……!!!」

 

 かつての友の成れの果てを見て、リーマス・ルーピンは激昂した。あの小男は、

 

「醜いぞワームテール!!!私はそんな弱い男と友だった覚えはないぞ!!!愚か者!!!!!」

 

 中身のない空っぽの怪物。

 召され損ねた魂の残り滓。

 ピーター・ペティグリューという男がただ生き永らえたいだけの男ならこうはなっていない。ジェームズとシリウスと別の道を行くことで、あの日の選択の是非を見極めたいと願っているのだ。

 

「紅い力、再び解放!!!」

 

 シェリーの髪の毛が逆立ち、魔力が迸る。

 直後、紅の弾丸がペティグリューの肉体を貫通した。

 

「ァァァアアアアアア!!!!!!!!!」

「……やっぱり点の攻撃じゃ無理か……」

「シェリー、君は先に行くべきだ!私達の最終目標は例のあの人!ここでペティグリューに時間も魔力もかけるのはよくない!

 ましてや相手は不死身の怪物、私達が足止めするから君は先に──」

「それには及ばないよ、トンクス!策はある……ハリーの時も、こういう再生能力にしてやられんだ。同じ轍は踏まない……!!」

 

 シェリーのギアは一段階上昇し、血管に熱いものが通り抜けていく。やるべきことが分かっているのなら、迷わなければ前へ進める。

 

 

 

「丸ごと全部──吹っ飛ばせばいい!!!!!」

 

 




ピーターの今の見た目はノトーリアスBIGとかオストガロアを想像していただければいいかなと思います。
ヴォルデはペティグリューに「死んだら発動する魔法」が宿っていることに気付きましたが、こいつの場合言わない方がいいかなぁ…と思い本人には伝えていませんでした。
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