シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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11.ドラコ・マルフォイ、良き旅を

「五〇点減点します」

胃の中に冷たいものが落ちた。

「一人五〇点です。五人ともしかと反省なさい」

「ハーハハハー!思い知ったかグリフィンドール!五人とも……ごにん?一、二、三、四、五………ゴフォイ!?も、もしかして僕も!?」

「当たり前です!ええ、あなた方三人がいくら友の為を思っていたとしても、あなた方の帰りが遅いのを心配して出てきたロングボトムも、三人の行動をアーガスに報告したマルフォイも!全員が規則破り!夜中に出歩いていた事には変わりありません!」

「そ、そんなぁ……」

 

マルフォイの抵抗も虚しく、グリフィンドールからは二◯◯点、スリザリンからは五○点差っ引かれた。

おそらくは、ハロウィーンでちょっとした冒険を経た事で浮かれてしまったのかもしれない。これでグリフィンドールが優勝杯を獲る可能性は限りなく低くなってしまった。

せめてもの救いがスリザリンからも点数が引かれた事だが、そんな事は頭の片隅に行って消えてしまった。

 

「あー……その……ゴメン。ネビル、僕達のせいで……巻き込んじゃって」

「いいんだ、僕の方こそ、ごめんよ……僕が、僕が余計なことしなけりゃ………」

「誰もあなたを責めたりしないよ、ネビル。えっと……あー、少なくとも、私達は」

「他の人はそうは思わないでしょうね。スリザリンからは勿論、ええ、グリフィンドールからも……」

思考回路がどんよりと暗い方向へと向かってしまう。全員が落ち込んでしまっている。

その雰囲気にロンは思わず立ち上がった。

 

「……と、とにかく!来週また罰則があるわけだしさ、今日はもう寝ようぜ。落ち込んでても仕方ないさ!また挽回するっきゃないよ!」

「でも、授業点数が一切加算されないのよ?それなのに挽回だなんて」

「それを言わないでくれよ!」

「………はは、ありがとうロン。僕、もう寝るね。じゃあ……」

「ネビル………」

 

それからは各々、入学してから最も暗い表情でホグワーツを過ごした。

ハーマイオニーは授業で自信満々に手を挙げる事はなくなり、ネビルは以前よりも大分げっそりとするようになった。

ダーズリー家でストレス耐性を得ていたシェリーは幾分マシに見えたが、内心、獅子寮とネビルへの申し訳なさで消えて無くなりたかった。クィディッチの練習中に、このまま空の向こうへ行ってしまえたら。と何度も考え、細々としたミスが目立つようになった。

 

意外にも、三人をいつも元気づけていたのはロンだった。女の子二人と接しているせいか幾らか人間的に成長したらしく、誰かが暗い顔をすればすかさず声をかける。

グリフィンドールの友人からも、スリザリンが奪われるのを楽しみにしていたハッフルパフやレイブンクローからも冷遇されて参っていたシェリーやハーマイオニーはそれに救われた。

 

彼女達を励ましたのはもう一人いた。ベガ・レストレンジだ。

「ひでえツラしてんな、お前達」と飄々と話しかけては、「まさかハーマイオニーさんが減点されるとはなぁ」「これでお前達も『こっち側』だ。仲良くしようや」とゲラゲラ笑う。単に揶揄っているだけかもしれないが、そもそも他人との会話自体少なかったシェリー達には有り難かった。

そういえば彼は自分が減点された分は自分で稼ぐという特殊なポジションにいた。そもそも点数自体に興味が無いのだが、世間体のためにマイナスにはしない。そんな彼が、寮対抗杯が取れないからといって消沈する筈もないのだ。取り巻きの女の子を侍らせるよりも、親友のネビルとの付き合いを大切にしているようだった。

 

同様の理由で、ウィーズリーズやパーシーの態度も大分柔らかだった事で、シェリー達の心の鎖は緩くなっていった。

だが、罰則その日は流石にキリキリと締め付けられるような思いだった。

 

禁じられた森の前で、フィルチとハグリッドが待っていた。フィルチはギチギチと気味の悪い笑みを浮かべているのに対し、ハグリッドはすっかり小さくなってしまっていた。

どうやら彼自身、マクゴナガルに随分と絞られていて、ノーバートをルーマニアのチャーリーの所へと送った際に涙の別れがあった事をこの時シェリー達はまだ知らない。

 

「すまん、すまんなあ、俺のせいで、お前さん達に迷惑をかけっちまって……」

「まーだ泣いとるのかこいつは」

「元気だせよハグリッド。僕達皆んな運がなかったのさ」

「そうだよ。僕、僕がちゃんとしてれば…」

「これから皆んなで罰を受けるんだし、もう誰が悪いとかはやめよ?」

「そうね、これ以上ネガティブな事は言いっこなしだわ」

 

「………………。良いんだ、僕は寮に戻ったら友人は沢山いるし。こいつらは別に友達じゃないし……」

「クヒヒヒヒヒ……罰則は、禁じられた森で行う。そこでユニコーンを探してもらうぞ」

「ユニ……森で!?そんなの幾ら何でも度が過ぎてる!」

「だまらっしゃい!どうせ人間、生きて百年!生きてる間は動く糞袋でも、死に様さえ良けりゃ英雄になれるんじゃい!」

「死ねっていうのか!?」

「死にそうな目に遭え!死んだ事も無いくせにいっちょ前にびびりおって!」

暴論すぎる。が、ハグリッドがいる以上は危険な目には合わせないだろう。

 

罰則の内容はこうだ。

近頃、夜な夜な禁じられた森に現れてはユニコーンを傷つけるなり殺すなりしている『何か』がいるそうだが、そいつを引っ捕らえるまたはぶっ殺す。

……というのは一年生にしては流石に荷が重いので、弱ったユニコーンがいたら助けてやる、というものだ。十分過ぎるほど荷が重いような気もするが。

フィルチはこれで森から五体満足で帰ってこれたら見込み違いとか言い出すのだから、もはや殺す気である。

涙目になっていたドラコとネビルは、ハグリッドの「俺とファングがついとりゃあ森のモンは手は出さん」という言葉に安堵の溜息を漏らしていた。

 

「組み分けはこうだ。俺、シェリー、ハーマイオニー。ファング、ロン、ネビル、ドラコだ。何かあったら赤い花火を打ち上げろ、いいな」

ハグリッドは真剣な表情で言った。

女子二人を屈強な大男が守り、男子三人を大型犬が護衛する。妥当な組み合わせだろう。

森の中をおっかなびっくり歩くと、闇の中でキラキラ光るものを見つけた。……流動性の溶けた銀のようなもの。なんだ?これは。

 

「もしかして、ユニコーンの血?」

「そうだ。ユニコーン、一角獣とも言われちょるが、そいつらは純粋な生き物でな。角や毛くらいはお前さん達も授業で触った事があろう?ユニコーンの魔力が最も秘められているのが血だ。血を飲めば死ぬ間際の命でも生き長らえる事ができる」

「それは………」

とんでもない話だ。

まるで、お伽話の中の生物ではないか。命欲しさにその血を求める者は、さぞ多かろう。

 

「うんにゃ。その血を飲んだ者は、不完全な命になっちまう。美しく穢れなき生き物を殺し、あまつさえ冒涜した罰だ。生きながらに死ぬ。それはもはや呪いだ。いくら腹が減っとる肉食動物でもそんな事はせん」

「………怖い……」

「うん?心配すんな、俺がいればーー」

「そうじゃないの。そんな事をできる力があって、そんな事を躊躇なくやった存在がいるって事に……」

「……そうか、そうだな。無くなった命と、呪われた命はどうあがいても救えんーーーッ!!」

 

見れば、紅い光が煌々と空に輝いている。

「そこで待っちょれ!」低く鋭い声でそう唸ったハグリッドは、石弓を構えてずんずんと森の奥へと消えていく。

月明かりだけが照らす暗闇の中、シェリーとハーマイオニーは無意識のうちに手を繋いでいた。お互いの手の震えは、爆発しそうな心臓の音で気づかなかった。

皆んなは無事だろうか?

ロンは?ネビルは?マルフォイが死んでいても寝覚めが悪い。

ハグリッドは、三人に合流できただろうか?

最初のうちは、そういった考えがぐるぐると頭の中を駆け巡っていた。

 

ーーしかし、数刻もすると彼等四人の無事よりも自分達の恐怖が強くなる。化け物がでたらどうしよう。怪人がでたらどうしよう。倒したトロールのゾンビが出たらどうやって逃げればいいだろう?嫌な想像は尽きない。

どのくらい時間が経っただろうか。

ごくりと唾を飲み込んだ数が数えきれなくなってきた時、茂みを掻き分けてハグリッドがやってきた。良かった。三人も無事だ。

 

「聞いてくれよ!マルフォイの奴が悪ふざけでネビルを後ろから驚かせて、びっくりしたネビルが花火を上げたんだよ!」

「マルフォイ………」

「まったく。これは組み分けを変える必要があるな。俺、ロン、ハーマイオニー、ネビル。ファング、シェリー、マルフォイだ」

ハグリッドの第二案は猛反対された。主にロンとハーマイオニーに。彼等はシェリーにとっての兄や姉のポジションであり、最近は非常に過保護になったのである。

 

「シェリーは断れない子なんです!浮世離れしてるんです!危なっかしいんです!マルフォイなんかと一緒にいたら何されるか!」

「大丈夫じゃて。ファングはなんか俺以上に懐いちょるし」

「ファング、おいでー」

「わふん」

結局、シェリー・ドラコ・ファングの組み合わせで探索する事になった。

ファングを先導として、その後にシェリーが続き、その後ろをドラコが挙動不審気味についてくる。

 

「ドラコ?」

「ど、どどどどどどうしたポッター。怖いのか、え?」

「えーっと、ドラコは大丈夫なのかなって思って」

「大丈夫に決まってるだろう!?見て分からないのか!?」

「ご、ごめんなさい」

言いつつも、脚の震えが尋常じゃない。自分より怖がっている人を見ると落ち着くと言うが、今がまさにそれだ。さっきまでの恐怖はどこかへ吹き飛んだ。

 

「ええっと、ドラコ。何かあったらすぐに紅い光を鳴らして、ファングと一緒に逃げてもらっていいからね。私のことは気にしないでいいから」

「は?」

「貴方が危険な目に遭う前に、早く逃げてほしいんだ。ほら、貴方はスリザリンのシーカーだし、怪我すると困る人が沢山いるし」

「……それは君もじゃないのか?まあいい。兎も角僕は逃げないぞ、男子たるもの女子を守るべし、レディファーストだ。ん?これ使い方あってるのか?」

一応彼も、立場上は貴族の端くれの端くれ。マルフォイ家の誇りがそれを許さなかった。

 

「男の子だね、ドラコ。良いと思う」

「ふん、グリフィンドールに褒められても嬉しくも何とも……ん?お、おおおおおい、あれ、あれっ」

「え?………え」

 

ずぢゅる、ずぢゅる。

ーー闇が蠢いていた。

人の形をしたソレは、ローブを身に纏い、銀色に輝くユニコーンの血をぼどぼどと喰らっているではないか。

見ただけで分かる、やばい、と。

恐慌。狂いに狂った行い。

ーーソレは、生き物なのか?だとしたらあまりに現実離れした惨虐さだ。

それとも、冥府から迷い込んだ亡者か何かなのか?その方がよほど、説明はつく。

 

『ーーシェリー・ポッター……』

 

一瞬、自分の事だと気づかなかった。

意外にも英語を喋れたようだ。高度な知性の持ち主ということか?

ーーそもそも、生き物なのか?

何か言いたいのに、金縛りにあったかのように、手足が痺れて動けない。

叫び声は出なかった。喉がカラカラに乾いていたからだ。隣のドラコも同様だろう。ファングはとうに逃げた。

 

『ーー僥倖である。この身に受けた苦しみと痛みを忘れた事はない……少しばかし嬲って殺し、死体を操って石を取らせるとしよう』

石?石と言ったか?

『応報せねばなるまい。貴様が赤子だろうと少女だろうと関係ない』

その瞬間。

焼けそうなほどの痛みがシェリーを襲った。

 

「きず、が、痛む……!いたい、いたいいたいいたいッ!ああああああああ!!!」

「ポ、ポッター!?」

 

こんな痛み、ダーズリー家でも味あわなかった。なんだ?この……魂の奥底から流れてきてそうな、苦しみは。

 

「あ、あ、ああああああ」

 

悪意の塊が、額から飛び出してくるような感覚。塩漬けのナイフで傷口を弄ばれているようだった。

ただの痛みなら我慢できる。

だがーーこれは、それ以上のーー。

 

痛い。

 

痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイいたいたいたいたいたいたいいいたいたくるしいくるいしいおねがいやめて。

たすけて、たすけて、おかあさんおとうさんここからだしてごめんなさいもうしっぱいしませんぶたないでごめんなさいごめんなさいわたしじゃないのおねがいしんじてやめてなぐらないでみないでおねがいやめてーー

 

「いやああああああああああ!!!」

『ん〜〜〜んんん………響く怨嗟の声、暫くぶりの快感。久しく味わっていなかった苦痛の叫び……心地良きかな』

ローブの化け物は満たされたように笑った。

ユニコーンよりも、よっぽどこっちの方が栄養になっていると言わんばかりに。

『有象無象、生きとし生けるもの遍く全てが我が心一つなり。ーーその身を我が贄として捧げよ』

ぼとり。

シェリーはその場に跪き、惚として動けなくなった。

彼女の身体が、化け物が放っていた魔力に耐えきれなかったのだ。無理もない。悍ましいほどの、凶々しい魔力。黒のキャンバスに黒の絵具を塗りたくったような、底知れぬ闇。

 

「ーーーッ、ポッター!こっちだ!」

マルフォイは、半ば引きずるような形でシェリーを引っ張り、放たれた矢の如き勢いで走って逃げる。

実を言うと、彼はさっきから逃げる算段ばかり考えていたのだが、シェリーに女を見捨てて逃げたりしない!と宣言した手前、引っ込みがつかなくなって逃げられなかったのだ。

だが、彼のみみっちさがシェリーを救うのだ。

 

『何をしている?俺様に殺される事を誇りに思うべきだ。頭を垂れて屈服して死ね。痛みなく殺してやろう。それとも無様に土を舐めながら後悔と失意の中で死ぬのか?』

「ーーステューピファイ!」

『なあに、しょせん死ぬだけ。身体を使わせてもらうだけよ……』

「エクスペリアームス!フリペンド!ステューピファイ!スコージファイ!インカーセラス!」

 

言いつつ、マルフォイはヤケクソで当てずっぽうに呪文を放つ。が、所詮彼の呪文の能力は学年トップのベガやハーマイオニー、勉強熱心なシェリーには到底及ばない。それにロンは優秀な兄貴と勉強好きの友達の影響で、少しずつではあるが呪文の腕は向上しつつある。

マルフォイはーー彼は、ごくごく一般的な、温室育ちの普通の少年に過ぎなかった。

魔法は全て腕の一振りで弾かれた。ならばとマルフォイは逃げる事に集中するが、木の根を掻き分けつつ意識のない人間一人を引っ張って逃げるなど、不可能に近い。

それでもまだ追いつかれていないのは、化け物も身体を引きずるようにして追いかけているからだ。だが、それも時間の問題。

 

(……、まてよ?あいつは避けないんじゃなくて避けられないんじゃないか?僕の攻撃は当たってはいる……というより、あの身体を引き摺るような体勢じゃあ避けようがないんだ。つまり、こっちの攻撃は全部当たるって事か??……でも、あんな風に弾かれちゃあ意味がない!もっと、もっと火力を……)

「ディフェンド!」

『ーー小賢しいーー』

風を切る鋭い刃の連撃も、化け物にとってはそよ風同然だ。

 

(糞、どうすればーーと、とにかく知ってる呪文をありったけ使うしかーー!)

「インセンディオ!」

『ム……』

細い炎が渦を巻いて化け物へと向かう。一年生レベルとしてはこれでも上出来だ。しかしこれも、化け物は容易に防ぐ。

全身から放たれた魔力の奔流。風を巻き起こし、燃焼元を絶つ。みるみる内に、マルフォイの炎は消火された。

(どうしようどうしようどうしよう!魔法は効かない、火を使っても打ち消される!こんなの聞いてないぞ!早くあいつらと合流しないと殺される……ん?)

 

そこで、マルフォイは気付いた。相手が抱える矛盾に。

おかしくないか?

化け物には魔法は通用しない上、今やったように火も打ち消された。

反対に言えば、化け物に魔法は効かないのに、火はわざわざ打ち消したのだ。

そういえばそうだ。エクスペリアームスも、ステューピファイも、ディフェンドも、魔力による攻撃だ。

しかしーーインセンディオは、魔力で発火させる呪文。炎自体は自然界にあるソレと何ら変わらない。炎には魔力はないのだ。(つまりーー物理攻撃なら効くという事の証左ではないか)

こうなればヤケだ。

 

「うおおおおッ、インセンディオ!インセンディオ!インセンディオオオオオオ!」

『ーー猪口才な!』

炎、炎、炎!

めくるめく炎の世界に、流石の化け物も身動きが取れなくなる。やはり!と文字通り暗闇の中に一筋の光明を見出す。

幸い、周りには木や草など可燃物のオンパレードだ。寧ろこんな森燃えてしまえ!

「燃えろ、燃えろ、燃えろおおおお!!!」

とにかく遠距離からとにかく炎を放つ。それが一年生にとっての最適解、最善なのだ。

 

「ああああああ、インセンーー」

『それ以上は魔力の無駄だな、え?そうだろう?マルフォイの倅』

「っ!?」

 

その言葉に身がすくんだ。何故自分の素性を知っている?恐怖が全身を支配する。

いやーーこいつの話に耳を貸すな!こいつがもしかして新聞を読んでいて、マルフォイ家の事について知っていたのか果たして疑問ではあるが、耳を貸す必要はーー

『お前の攻撃はもう通用しない』

「え………」

 

いつまでも化け物はその炎を馬鹿正直に受けてはくれなかったという事だ。

異変は既に起こっていた。

「ほ、炎が、消えていく!?」

化け物に届くより前に。

燃え盛る炎は種火となり、化け物の周りに後に残るのは炭と灰。

ーーなにが、起こっている?

 

見れば、放たれた炎はゆっくりと収束し、小さくなり、消えていくではないか。

『魔力の指向性を操作して、風を吹かせれば炎など大した問題ではない……』

簡単な話だ。

空気を燃焼する事で炎は存在できる。その空気の流れを操り、圧縮し、滅する。

しかしそんな微細なコントロールをこの戦闘中に行うのは不可能に近い。

魔力の力が大きいからこその、力業。

イかれてる。正真正銘のーー化け物。

 

屈服するしか、ない。

『娘を置いて去れ。蛇の同胞を、ましてやマルフォイの息子を殺すのは忍びない……』

「う、」

『さあ、さあさあさあさあ。俺様を困らせるな。お前はまだ若い。帰ったらこう言えばいいのだ。『必死で闘ったが、シェリーは化け物に喰われてしまった』と。そうすればお前は安心して眠れる……』

「うわああああああ!!!」

 

マルフォイは、たまらず走りだした。

それは勇気ある男の顔ではなかった。

恐怖のあまり顔は引きつり、歯はガチガチに震え、バクバクと鳴る心臓の音がうるさい。

汗まみれになりながら、情けなく、みっともなく、ばたばたと手を振って彼は走った。

 

『ーー血迷ったかーー』

化け物の、方へと。

 

「そんな事を、してもーー」

マルフォイはめたらやったらに呪文を放つ。化け物は身構え、火なら消せるように。魔法は打ち消せるように。捨て身のパンチなら殺せるように、姿勢を整える。だがそれはーー攻撃のためのものではなかった。

それは変化のためのものだったのだ。

(ーーー………???)

その予想外の動きに、化け物の動きが一瞬止まる。

何だ、これは?

粉っぽい灰がドロリとした液体へと変わる。

この、甘い匂いは。

「ーー安眠できるのは、今夜だけだ!!」

酒……?

 

「くらえ燃えろッ!インセンディオオオオオオ!!!」

『ぬぐ、うおおおおおおおおおッ!!』

酒は消えない。変化したものは、消せない。

ローブについた火は簡単には消えないだろう!あとはもう、逃げるだけ。

じき、あの大男もやってくるだろう。さあ、逃げて、逃げなければ、さっさとベッドに入って寝てしまいたい……

 

肉が蠢く音がした。

火を肉で強引にに消していると気付いた時には、もうマルフォイは動けなかった。

恐怖、それ以上に……疲労。

もう彼に一歩も動く力も残されていない。

化け物は、彼を、見下ろしていた。

『素晴らしい才能………技術ではない。その発想と機転。何より度胸がある。それを私は才能と呼ぶ。誰にでもできる事ではない』

ローブで隠された向こうに、ぎちぎちと笑った顔が見えた気がした。蛇のような……ぎらついた瞳。

 

『よくやった。よくやったよお前は。特別だ、冥土の土産に俺様の魔力をほんの少し解放してやる………第二形態ってやつだ』

絶望。

腕が見えた。色白だが筋肉質で、黒々とした牙ーー骨?ーーいや、鱗が浮き上がっている。ああ、こいつは本当に……凄まじい……化け物なのだ。

『せめて安らかにーー眠れーー』

化け物は凶々しい手を振り下ろしたーー

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおッッッ!!!」

 

気配を感じてか、化け物はその場から大きく跳躍。化け物がいた地点に、石弓の矢の群れが襲いかかった。

今まで見たこともないくらいギロリとした目つきを浮かべたハグリッドと、打って変わって冷静そのもののケンタウルス族だ。

キレている。

温厚そのもののハグリッドが、顔を真っ赤にしてブチ切れている。まともに顔を見れば失禁しそうなものだが、化け物は涼しい顔で(と言ってもローブに隠れて顔は見えないが、そういう顔をしているように感じた)受け流す。

 

『くっくく……邪魔が入ったか。それもまた一興。だが、残念ながら。これでは目的を果たすのは無理な話よなあ?負けはしないが、小娘はその間に逃がされて、私の勝利は無くなる』

「何をーーゴチャゴチャとーーくたばれ」

ハグリッドは吼えると、怒りの形相で化け物へ突進し、なんとそのままぶん殴る。

化け物はその一撃をひらりと躱すと、闇に溶けるように森の奥へと消えていった。

 

『ここは退こう!だが、この借りはいずれ返そうーー』

「待て、このーー」

「待つのはあなただ、ハグリッド」

「このヒトの子とシェリー・ポッターの手当をしなければ」

「ーーおっと!いかん!すまんな、フィレンツェ、ベイン!…………大丈夫か!?マルフォイ、シェリー!」

ハグリッドは打って変わって眉を八の字に曲げると、両者の体を揺する。マルフォイは内心やめてほしいと心の底から願った。首がもげる、千切れる!

 

(ケンタウルス族が、何で?ーーそういえば、父上が言っていたような。昔はプライドが高く中立を貫く一族だったが、ある期を境にホグワーツに仇なす者を護るようになった、とか……)

マルフォイの思考がそこで途切れた。

ぐっすりと。始めての修羅場。始めての戦闘。シェリー達にとってのトロールを、彼は今日経験したのだ。その代償は大きかった。

ドラコ・マルフォイ。

泥のように眠った彼は、今後も立派な魔法使いへと成長していく。

 

その切っ掛けとなったのは、間違いなくーー今日だ。




禁じられた森でエンカウントした魔人が大幅強化。大物感出せてるといいな。そんでもってドラコが覚醒。
ドラコは(たぶん)できる子なのです。早いうちにドラコのヘタレが直ったらこうなるよ、というのを書きたい。窮地に追いやられると人は嫌でも成長するもんです。

おまけ
ヴォルデモートラップ
「帝王の恐慌♫ホグワーツへ強攻♬俺達の友情♫(YEAH)この街でのし上がるぜTOKYO♩(メーン)」
おわり。
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