シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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オフ会楽し過ぎる。


11.傲慢のベラトリックス・レストレンジ Ⅱ

 

 ひと口に闇祓いと言っても玉石混交だ。

 強くて経験のある者、強いが未熟な者、あまり強くはないが経験のある者、あまり強くない上に未熟な者。

 厳しい試験を突破したプロゆえに精神的には頑丈ではあるのだが……それでも過酷な戦場に長く身を投じる内にその多くは篩い落とされる。経験と、才能と、理想と現実とのギャップという篩に。

 しかし……僅かに心に“迷い”が生じた闇祓い達には、それを克服するために希望制で受けられる制度がある。

 その名もムーディーブートキャンプ。

 あらゆる理不尽、様々な試練。けれど逃げることは許されない。心身共に鍛えるのにうってつけの、地獄の釜の中へ突き進むような……。

 世界最強の闇祓い、レックス・アレンとその部下達もこのプログラムの履修者だったと言われている。

 

──ベガがエミル経由でこのキャンプを受けたのは、彼が七年生の時のことだ。

 ダンブルドアも、アレンも、フラメルもいなくなった魔法界に必要なのは、象徴だ。けれども今の自分ではまだ足りない。紅い力に匹敵するくらいの強さを……いやそれ以上の実力がなければ、最強を目指すことすら烏滸がましい。

 腹を括るや否や、引退したとは思えぬほどの覇気を放つ男へと弟子入りを志願した。

 

「儂の前で今後一切『頑張る』『努力する』などといった軟弱者の言葉は使うなよ。それと謝るな!何があろうと言い訳するな!その覚悟ができたら着いてこい!」

「はい!」

 

 そこから、半年が経った。

 時には血反吐を吐くまで戦わされ、時には聞いたこともないような古代の魔法を叩き込まされ、時には前線に投入され、経験を積まされた。

 そこから更に三年と半年。

 スラグホーンとクリーチャーの二人から甲斐甲斐しくサポートを受けながら、ベガは、活かした経験を下に自身を見つめ直し、尚も最強の座に拘り続け、死喰い人達との戦いを続けた。

 知らなければ。

 識らなければ。

 推し量るのだ。

 限界を越えるには──限界値を上げるにはどうする。

 己の全盛期を、長く、永く、確実なものにするため。

 しわくちゃに醜く老いさらばえて死ぬ最期の刹那まで玉座に君臨し続けられるような、そんな極みに立ち続けられるような。

 そんな不確かな何かを欲している。

 言葉には言い表せない何かを。

 

 そして届いたのさ、ベガは。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

「ベガ・レストレンジクゥン、ご両親元気ィ〜?」

「おう元気元気!あんたを早く連れて来いってあの世で首を長くして待ってるぜ!」

 

 狂っているのに、イカれているのに、それでも黒魔女は美しい。黒い服と髪と陶器のような肌のコントラストはどこか倒錯的ですらある。

 対する白銀の魔法使いは、目も冴えるような秀麗で端正な顔立ちで小気味良く笑う。蒼炎どもが、彼に従僕しているかのようだ。

 二つの頂点のぶつかり合い。

 対の火焔の激突はつまり、どちらが強いかを証明する決闘でもあるのだ。

 

「あ!ちょっと待てお前ら」

 

 両者の激突に巻き込まれまいと、負傷したネビルを連れて一刻も早く離れようとする若い闇祓い二人を呼び止めたのは、あろうことかベガだった。

 ネビルとは親友の間柄であり、判断力に長けているベガが、ネビルの撤退に待ったをかけたことに、闇祓い達は訝しげな反応を示した。

 

「な、何だ?どうした」

「おまじない」

 

 言うと、ネビルの肉体が蒼い焔に包まれる。闇祓い達は思わずギョッとするが、それは荒々しく焼き焦がす音ではない、優しく包み込むどこか静謐な音だった。

 ややあって──ネビルに刻まれた黒い呪いが消滅していくのが目に見えた。蒼炎越しにも悪い顔色が徐々に血色を取り戻すのが分かる。わずか数秒の後、まるで風呂でも入ってきたかのようにネビルは回復し、たちまち飛び起きた。

 

「ネビル」

「……ベガ!これは……」

「“貸し一”だぜ?返せよ」

 

 ベガはくるりと振り返る。ネビルはその背中に力強く頷くと、闇祓い達とその場から退避した。

 

(……おいおい……レストレンジの坊ちゃんよ、あんた今何をしやがった?あんなのまるで……まるで……)

「丁度良いや、あんたには聞きたいことがあったんだ。

 シシーとドラコの坊や、コルダのお嬢ちゃんを唆したのは誰だ?あの子達はいずれ分かってくれると思っていたのに……」

「……?唆しただぁ?」

「ずっとボケるんじゃないよ!私のナルシッサが私を裏切るわけがない!愚かなルシウスは死に、コルダもあのザマだ。マルフォイ家はもう終わってる……だのに一向に目を覚ましやしない……

 こっちに来れば力ある魔法使いがそれ相応の地位と名誉を与えられる。あの子達はシシー譲りで中々筋が良いし聡明だ、きっと上手くやれる!

 もう馬鹿にする奴はいない、私ならシシーもコルダも守ってやれる!ドラコ坊ちゃんならそれが分かってると思ってたんだがね」

 

 良くも悪くも突き抜けているベラトリックスの、意外とも言える述懐に、片眉が上がるのを抑えられない。

 

「あんなに頭が良くて、優秀で、可愛かったシシーが、こんな馬鹿をやるなんて……犬っコロは我が君の命でまだ殺せないけどね、この戦いの後なら許可を貰ってる。

 邪魔者はいない!これまでの諸々は流してやるから私達のところに連れてきな、ベガ」

「そりゃあおたく、あいつを舐めすぎだ」

 

──身勝手で独りよがりな理屈は、ベガの誇りが許しはしない!

 

「聖28一族のリストなんてのは、当時のノット家が権威を主張したいがために作った『持ち上げておけば政治的に都合の良い一族のリスト』だろうが。

 血の繋がりだの、魔法が使えるだの使えないだの、そんなもんに価値はねえのさ。俺も含めてな……ドラコもそれは理解してる」

「薄汚れた血を一族に入れるくらいなら、いっそのこと滅びればよかったのさ!穢らわしい……魔法使いとしての品性を疑うね。誇りを失って醜く生きるくらいなら、せめて美しく死ぬべきさ」

「心配しなくともあいつはそうしてるぜ!だから騎士団側で誇り高く狡猾に生きてやがる!

 矜持は、血に宿るんじゃねえ。紡がれてきたものに宿るもんなんだよ!もう今までのマルフォイ家じゃねえ!あいつらの脚をもう引っ張んじゃねえよ」

 

 ベガはこの女を通さんとする決意を新たにした。ベラトリックスをドラコやコルダに会わせてはならない。おそらくは、英国魔法界という貴族社会に染み付いた癌そのもの。典型的、その極地。故に醜悪。

 無論『最強』としても──負けるわけにはいかない!

 

「ああ……そう。じゃ残念だが殺さなくちゃならない」

 

 悲しそうに、本当にショックを受けたかのように、魔女は瞬きのほんの一瞬、悲嘆した。しかしすぐさま目を開くと──覚醒。灼熱は産声を上げる。何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も焼き尽くす。

 無限の焔──すなわち神域。

 窮極の界──つまりは真域。

 遍く魔法使いがいずれ辿り着く最高到達点にて待ち受ける至上の炎。それを放つ。ベラトリックスには容赦と呵責のブレーキが存在しない。通常攻撃がすなわち、必殺攻撃である。

 うねる業火の凝縮体──黒い太陽!ベラトリックスが持つ文字通りの必殺魔法。再度浮かび上がる光源は、本来のソレとは真逆にも、色彩を昏く沈ませる。

 しかも先程吸収されたものよりも遥か大きく、強く、禍々しい死の十三連戒!異音ひしめき唸りを上げて、諸手を振って出迎えん!

 

 対してベガは守護悪霊を黒い太陽目掛けて飛ばした。

 その姿はさながら太陽に羽を焼かれたイカロスを思わせるが──ここにいるのは天使ではなく、最強の魔法使いに使役される死神である!

 守護悪霊の行動は単純だ。右脚を直線に振り抜いて太陽を蹴り飛ばす、ただそれのみ。然してその威容は聖人に釘を打ち付けるが如し!あまりの衝撃に太陽は悲鳴を上げ、聴くに耐えぬ断末魔と共に爆散する!

 

「なッ──!?」

 

 精密な計算で成り立っている守護悪霊も霧散するが、それも織り込んで済んでいることだろう。

 数ある奥義の一つにしか過ぎぬとはいえ、ベラトリックスが持つ魔法の中では『黒い太陽』は最高位に位置する魔法だ。それをよもや正面から蹴り砕かれたとあっては黒い魔女といえど動揺は隠せない。ましてや今回はより魔力を込めた特別製だというに──!!

 が、ベガはあくまで冷静に、蒼い焔をベラトリックスに放つ。半瞬遅れて、舌打ちと共に魔女も業火を焔にぶつけた。相殺された魔力は派手な火花を上げる。

 

「悪霊の焔!!!」

 

 最高位の魔女が操る火焔は普通の魔法使いの使うそれとは比ではない。竜を模した焔は直線上にしなりながらベガを喰らわんとその口を大きく開き──ベガの目前で炸裂し、視界を奪う。更に死角から、ベラトリックス手ずから魔炎を振るい、猛攻を仕掛ける。

 しかしそれすらも囮。蛍のように淡く燃ゆる焔の粒はベガの背後から忍び寄っていた。不規則な火花が細かく炸裂すると──その杖腕を噛み殺す!

 

(あんたの弱点は回避に頼り過ぎなとこさ!なまじ反射神経と身体能力が織りなす絶対回避があるが故に、死角からの攻撃には弱い……まそのくらいあんたなら克服してるだろうが……

 私が狙ったのは『回避の誘導』!!ベガ、あんたは攻撃を受ける際に必ず回避行動を取るかどうかが頭をよぎるだろう!癖というより反射に近い……本来有利に働くそれを逆手に取らせてもらったよ!!!)

 

 もっとも、そのような反射を見抜き、更には搦手でカウンターを決める芸当ができるのは、今の魔法界には、脱獄してからも常に最前線で戦い続けたベラトリックスだけだろう。

 ベガが対策を行なっているように、ベラトリックスも戦闘技術を学んでいるのだ。もしもこの魔女をこのまま野放しにしておけば、世界最強の魔女、未完の最強という恐ろしい化け物が誕生してしまう。そのポテンシャルが彼女にはある!

 人呼んで──最高にして最強の副官(最悪にして最強の魔女)

 

(殺った、畳み掛ける!)

 

 勢いづいた彼女は、悪霊の火炎を叩き込まんとして、

 

 

 

「は?」

 

 

 

 困惑した。

 瞠目。驚愕。浮かぶクエスチョンマークに翻弄されながらもその攻撃を防いだのは流石としか言いようがないのだが……異常な光景に、答えが出ない。

 ベガが、魔法を使っていた。

 杖を使ってベラトリックスを攻撃した。

 それがおかしい。

 ほんの数秒前に千切り取った筈のベガの()腕。

 それが元通りになっていた。

 

──治っているのだ。

 切断した筈の、ベガの腕が。

 

 服の袖は破られている……攻撃を当て損なった訳でもなければ、幻覚を見たわけでもない。

 やがて脳は、一つの答えを導き出す。

 

「腕が、再生した………………?」

「痛ってぇな畜生め、ご明察」

 

 有り得ない話、ではない。

 たとえ腕の骨を失ったとて、適切な処置を施せば完治するのが魔法界だ。高度な錬金術の分野になるが、肉体の再生自体はできなくはない。

 が、有り得ないのはそのスピード。

 魔法界最高峰の癒者と謳われたヘルガ・ハッフルパフでさえ、失った肉体の再生癒療には高額な設備とそれなりの時間、最大限の注意を払って臨んで行った。いかに魔法使いとはいえベースは人間の肉体。そう簡単に人の身体が治せるのならこの世に癒者はいなくなる。

 故に……ベガのその異常なまでの肉体の再生スピードは“有り得ない”。

 

 極めれば一方的に死の概念を押し付けられる攻撃性と相反するように、魔法使いの肉体の脆弱性は際立っている。ならばこそ攻撃特化のシェリーや回避能力の高いベガが若い内から活躍できたのだ。

 防御力を高めるには盾の呪文などの防御系を極めていくか……それこそ、そういう生物の肉体を取り込んで自身を改造していくしか……。

 

(──────ッ!)

 

 その生物の名前を想像した時、脳裏に雷が轟いた。

 

「不死鳥の……炎…………?」

「うお、すげえな……もう理解しちまうのかよ」

 

 その意味を、ベラトリックスは理解した。ダンブルドアの不死鳥がここに来ているのではない。不死鳥の特性を一個人が再現したのだ。

 ハリーならば、前に一度バジリスクの毒を再現したことはあったが……あれは紅い力を使っての話。それを一個人の力にまで……。その特異性と異常性は、火炎のスペシャリストだからこそまざまざと突き刺さる。

 神話は日常へと変わりゆく。

 その技巧、間違いなく真域。

 

「私の破壊の炎に対する再生の炎……ッ!人間がそんな芸当をできるわけが……」

「ハ、俺にできねえことなんざねえんだよ!それにツラの良さと諦めの悪さは親譲りだ!それに自然界に存在する火炎、まったくのゼロからじゃねえ……やってやれねえ理屈は存在しねえ!!」

「なんていう思い上がり!その極まった愚かさは性急に、正し清め潰さねば申し訳が立たないね!!!!」

 

 より苛烈さを増したベラトリックスの魔力は破壊の様相を帯びて、地を這い怨嗟が蛇行する。闇の奥に翠の炎が乱れ咲き、ドラゴン・ファイアと相なった。

 不遜なる威容の城郭を思わせる、想像を絶する火炎の結界。その効果のほどは先程も見せた通りだ。足を踏み入れたが最後、愚かなる罪人は赦しを乞う暇さえ与えられず、杖は灼熱の絶叫を上げて燃え尽きる。

 それがベラトリックスの紅い力の更なる解放──裂帛の気合いも、鉄の覚悟も、立ち所に溶かし尽くす火炎の柩にして悠久の檻!

 罪の度合い(魔力の多さ)に応じてギロチン(消費魔力)は肥大化する。

 もはやベガは、袋の中のネズミも同然!

 

「腕がダメなら──杖を燃やすまでさ!!

 喰らいな火焔結界を!!!アハハハハハ、杖を使えるもんなら使ってみろ!!」

「なら遠慮なく」

 

 言葉通り、一切の躊躇を見せず魔力を放つベガ。どこまでも自信に満ち溢れた顔とは対照的に、動揺したのはむしろベラトリックスの方。

 火炎結界において、起こる現象とは『たちまちのうちに燃え尽きるか』『少し杖が燃えた後に消え果てるか』の二つしかない。

 二つの違いは、その時の杖の頑丈さや使用した魔法に起因している。丈夫な素材をふんだんに使ったタフな杖なら、杖が燃え尽きるまでに二〜三秒はかかる。また、極めて稀な例だが、杖先を魔力で覆ったまま結界内に入った場合も同様で、杖先の魔力を焼いた後に杖本体を焼くという仕組みになっている。

 

──が、今回の場合は極めてイレギュラーな反応としか言いようがない。今、ベガの杖に込められた魔力に結界が反応し、焼いている──その真っ最中。

 そこで終わり。そこで止まっている。進むこともなければ、後退もない。

 業火が杖を包み込んでいるのだが、陽炎はベガの杖に干渉できていない。

 いくら火炎を注ぎ込んでも、一向に燃え尽きる気配がないということ……!有り得ない。遍く杖を焼失させてきた真域の檻を、禊せずして立っていられるなど……術式が狂っているかを確認するも、正常に作用している。

 となれば必然、杖の方に何かが──…

 

「────ニワトコ?」

「それも正解。まァ知ってるよな……」

 

 忘我の呟きは、しかしながらも的を射た。

 或いは、最強の杖。

 或いは、死の杖。

 或いは、宿命の杖。

 かつて闇の帝王がその唯一性と悪名高さ(ネームバリュー)に興味を抱き一時は探していたものの……結局、『他の出来事より優先する程ではない』と判断し、保留としていたモノ。

 これがシェリーとの戦いで『侮っていた小娘に魔法が通用しない』などといった現象が起きていれば、闇の帝王もニワトコ捜索に心血を注いでいたかもしれないが、そうはならなかった。

 

 悪人エメリック──

 極悪人エグバード──

 闇のゴデロット──

 その息子ヘレワード──

 魔法戦士バーナバス・デベリル──

 凶悪なるロクシアス──

 アーカス、或いはリビウス──

 杖職人グレゴロビッチ──

 

 そして、世界最悪の魔法使い、ゲラート・グリンデルバルド、その男相手に決闘で勝利した世界最強の魔法使いたるアルバス・ダンブルドア。

 闇の最奥に相応しい、殺戮が絡んだ奪い奪われる宿命にある文字通りの『呪われた杖』。

 血塗られた歴史、鮮烈なる記憶。

 その実態は、ペベレル三兄弟の長男、アンチオク・ペベレルが作った魔道具と言われている。杖と呼ぶにはあまりにもおぞましく、特異性の違いもの。

 それが何故ベガの手に渡っているのかは、ベラトリックスには最早知る由もないが……しかし、重要なのは杖の効果のほど。ニワトコの杖は決闘に勝った者に忠誠心が移ろいやすいと言うが……杖は、杖腕を失った程度で敗北を断じないとするならば。

 猪口才な小細工は、ベラトリックス自身の首を絞めることと同義ではないか……?

 

「クソッ……、クソ!!」

「左の杖が魔力を受け止め……そして!」

 

 右手のブラックバーンの杖が、炎を両断する。

 結界は一つの杖を燃やした後に他の杖を燃やすようプログラムされているが、次の杖を燃やすまでのタイムラグはあってないようなもの。が、今回の場合、ニワトコという不死身の杖のせいでバグが起きた。

 ニワトコを燃やし切らねばブラックバーンを燃やせないというのに、ニワトコが消滅しないせいでブラックバーンの杖を燃やせない、という。

 ベガが杖を一度に二本使ったのも想定外だ。本来あれは特異体質が生み出す稀な現象……確認されている限りではハヤト他世界中に数人程度しか使えない、再現も現状不可能なものだが。

 敗北しない限りは所有者に絶対従順の杖と、

 どんな所有者でも一定の能力を保証する杖。

 イレギュラーな取り合わせが、杖の同時使用という世界の歴史を見ても限りなく報告例の少ない想定外を生み出すことに成功した……!!

 結界は再び破壊される。視界は開けた!

 ニワトコを覆っていた火炎は晴れる……!!

 

「そして視界に接続した……アイオライト、開眼」

「!?うぎゃああああああああ!!!!」

 

 激しい苦痛が肩を焼き尽くす。

 『視点発火』──真域の炎が可能にした、杖に頼らない古代の魔法技術。泪の海を思わせる淡く鈍い瞳は、僅かな時間だけ、宝石のようなブルーライトカットへと変化せしめる。

 その輝きはまるでダンブルドア──

 奴は既にその領域に『成っている』。

 攻略する側が逆転する。

 どう料理して喰ってやろうと、俎板の上で包丁をくるくる回していたベラトリックスだったが……捕食される側はむしろ、彼女の方……!

 真域の焔で肩の焔を相殺し事なきを得るが、抉れた肉とひりついた痛みが矜持に障る。百戦を経て錬磨してきた技術と魔術を、目の前の男は踏み台(通過点)としてしか認識していないであろう事実に。

 奴の見据える先はたった一つ。世代最強の座。

 世界最強の魔法使いという称号を獲るという強い目的意識が心臓となって鼓動している。その音が、確かに聴こえてくる。

 

「ベガ・レストレンジィ……!!いくらお前でも我が君と並び立つなんて烏滸がましい!!あの御方の後ろを歩く人間はいくらいてもいいし、前は蹴散らすまでだが、横は駄目だ!!彼こそ世界を統べる者!!玉座は一つだからこそ玉座なんだ!!!!」

「薄汚れた椅子なんざぶち壊してやるよ」

「黙れ!!!凡百どもは我が君の贄に過ぎん!!!黙って首と魂を差し出せ、それが紅い力を強くする!!!」

「……この四年間、まァ色々なことが起こった」

 

「ムーディーブートキャンプで元闇祓いのおっさん共にDA共々しごかれて、スクリムジョールの学徒導入制度で後方支援に入って……毎日一人は怪我を負い、最悪の場合死も有り得る環境だった。そんな中でもネビルの奴は諦めやがらねえし、他の奴も当てられやがる。スラグホーンの爺さんは(打算もあるだろうけど)古代魔法の本をわんさか用意してくるし、ウインキーは命懸けの任務でもこなすしよ……

 だったら俺も落ち込んでる余裕なんざねえし、あの人達に報いなきゃ恩知らずってもんだろう」

「雑魚どもに絆されたかい……!!お前の強さはお前の才能由来のものさ、その他一切の衆愚どもは何らお前の強さに影響してないんだよ、ベガ!!」

「俺はいつも助けられてる。この城に来て少しなりとも魔力を消耗してたんだが、疲弊して魔力を減らした仲間が俺に少しずつ分け与えてくれた。

 戦えなくなったらほんの少しでも魔力を託す。だからあいつらは足手纏いになんてならねえ。要らねえ人材なんていねえ。強い弱いでしか物事を測れねえやつがよ、俺の仲間を語るんじゃねえ」

 

 そして、とベガは人差し指を上げる。

 

「人には役割がある。

 俺は戦闘担当だから……最強の魔法使いになるさ」

「思い上がりが二つあるね!最強は我が君だし……そもそも……何で我が君の所まで拝謁できるだなんて勘違いしてんだよ!!」

 

 羽のよりも軽やかに宙を蹴り──醜くも美しい闇夜の黒い魔力が空を覆い、夜は月を喪った(ムーンレスナイト)

 そして鮮血が如き紅い魔力がベラトリックスを包んでとぐろを巻き、炎をともなった咆哮を、我ここに在らんと叩きつけた。

 ドラゴン──ベラトリックスは竜形態へと移行!

 最大火力の焼却殺意は、悪逆を噴き出し、ベガを消さんと肉薄するッ!

 

「紅い力解放ォオオオ!!!」

「悪霊の炎!!!」

 

 翠と蒼の火炎のぶつかり合いは、煌めくクリスタルが散りばめられたかのようだ。単純な最大火力はベラトリックスのが上だが、ベガの狙いは魔力を研いで澄ませることにある!

 火炎男爵・炎魔大帝!

 螺旋する神速すらも越える超圧縮!

 即ち、解脱!魔力のクリティカルヒット!杖を二本同時に使用することで起こす魔力特異点!ニワトコの杖で業火を放ち、右手のブラックバーンの杖で魔力を強靭でしなやかな紐状に凝縮、火炎の連鎖を引き起こす!それによりほんの一瞬だけ魔力同士が共鳴しあう現象を引き起こすわけだが……

 それには熟練した技術と精密性が必要。他の魔法使いに杖を二本渡したところで、この現象を引き起こせる人間は“運が良くても”数えるほどしかいない。かく言うベガほどの男であっても、通常ならば『魔力を均等にして共鳴させる術式』を構築するところから始めるだろう。

 だが相手はベラトリックス──そんな暇はない!!

 

 黒き魔女もベガの思惑を察知する。下手を打てばベガ自身が傷つく諸刃の剣。口角が俄かに釣り上がる。単純な火力と魔力量ならばこちらが上……、このまま火炎放出を続けるだけで勝てる!

 ニワトコを持ちパワーアップしたベガ相手であっても、魔力量と出力はベラトリックスのが上だ!!

 

 

 

 

 

──竜は確かに、恐怖した。

──死神が、見えた。

 

 

 

 

 

 元来竜形態とは、極めて軽く、極めてしなやかで丈夫な繊維質で形成された魔力受肉体だ。高分子で衝撃に強く引張強度も極めて高い筋肉に、鱗はチタン合金並みに硬く、火炎は元より酸などにも強い。それが風船のように浮遊し、体内は魔力が循環しているわけだ。並の魔法使いでは傷一つ付けられない。

 だがベガの、異なる魔力同士がぶつかり合い共鳴して引き起こされたるは極めて高濃度の力場フィールド!

 魔力出力だけならばベラトリックスがベガの倍の数値を持っているだろうが……この時、瞬間最大火力がベラトリックスのそれを上回る。その計算式は魔力の足し算でなく掛け算だ!

 本能か、或いは戦闘経験が生んだ勘か、はたまた性格無比な分析なのか。

 兎に角、黒い魔女はその業火がぶつかる寸前、竜の姿を囮に脱皮して、人型となり地上へと降り立った。

 

──遅れてやって来る交差衝撃(クロスショック)

 焼く、というよりも空間ごと“呑む”。世界そのものに傷がついているのだ。悲鳴を上げて哭き叫ぶ空間の苦しみが死神に届くことはない。できるのは悃悃と首を晒して祈るのみ。

 宙空に火炎の十字架が刻まれる。

 ゾッとする。炎の撃ち合いは先程まで圧倒していた筈だ。しかしベガは二つの杖の魔力を交差させ、ほんの一瞬だけベラトリックスを上回るパワーを生成した。二つの魔力のクリティカルヒットは狙って出せるものではない。恐ろしいまでの技量が為せる神業…!

 

──危なかった。

 

 あと一歩遅ければアレに巻き込まれていた……胸中に湧いたほんの僅かな安堵。

──それが、ベラトリックスは何より許せない。

 

「……はっ、はっ、ハァ!ハァッ!!!」

 

(安心?安心しただと、この私が!『何とか攻撃を躱せて良かった』だなんて!苛立ちが天に登りそうだ!!いつからそんな腑抜けになった!?危険と危機は乗り越えるためにある……踏み潰してこそ火炎の魔女!!)

「竜・人・形・態!!移行!!!」

 

 竜の鱗を衣服に付着!息をする筋肉を荊のしもべに。

 通常の人形態をベースに、大きくも威厳なりしツノや尻尾や爪がベラトリックスの一部となる。

 黒い荊がドレスとなり、そして鎧となる様はまるで女王のようだ。長いスカート状の衣服の下からは荊が生えて不気味に鎌首をもたげている。

 竜の装飾(オーナメント)姫冠(ティアラ)

 攻防長けた竜人形態!外典礼装!

 その様は麗しくも気高き甲冑貴人鎧(バトルドレス)だが、決して白銀の美しい白騎士というわけではない。むしろ──堕ちた闇の魔竜騎士(ダークナイト)

 見れば、瞳は蛇のように縦長に切れ、口元には恐ろしいほどに白い牙が覗く。ベラトリックスの魔性の美しさに原生的な凶暴性が増した……!

 

「攻防一体!あんたの火力でも完全には焼き切れない、あらゆる攻撃に耐え得る構造!魔術的・物理的問わず害あるモノをシャットダウンする形態さ!!!機動力は削がれるが万能に対応できる!!!

 荊が貴様を締め上げ殺す!!!震えなァア!!!!」

「──受けに回ったな、ベラトリックス」

 

 この火炎の応酬の中にあって、ベガの声はどこまでも冷ややかだった。魔女の狂笑がぴたりと止んだ。普段の彼女であらば、話も聞かず殺しに行くか、軽く流して殺しに行くかのどちらかだったろうに。

 

「あんたの強みは“攻め”だろうによ……俺という存在にビビっちまってんのさ」

 

 荊のドレスがその証拠。

 僅かずつではあるが、思考が『どのようにしてベガに勝つか』から『どのようにしてベガの攻撃を防ぐか』という方向にシフトしてしまっていた。

 それは負け犬の思考。よほど実力差が離れていない限りは、勝つ思考をしなければ勝ちには行けない。

 受け身の対応策はベラトリックスの勝ち方ではない。

 図星を突かれた魔女は、顔の筋肉をぴくぴくと屈辱に震わせる。

 

「……許さんぞその侮辱行為ッ!私は傲慢のベラトリックス・レストレンジ……この世界に於いて上位者として君臨する魔女!!裁きが炸裂するぞ!!!」

「いいから、来てみろよオバサン」

「うるさいね──私がビビってるかどうか──その綺麗な顔が焦げた後でよーーーく考えな!!!!!」

 

 縦横無尽に駆け巡る荊。

 一つ一つが人間なぞ紙細工のように切り落とし、千切り破く威力を持っている必殺の刃。

 そして荊には火炎が付与され……火炎の竜となりて暴虐の限りを尽くす!逆巻く火炎の渦、蛇行する邪王!

 すなわち“逆鱗”──凡ゆる角度で、遍く全てで、この手が届かん場所が領地だと言わんばかりに、傲岸に地を炎上させていく!

 それはまさしく、地獄だった。

 見渡す限りに火炎が広がり焼けている。おそらく、この天の城でなければ炎を受け止めることすら敵わない。

 軋み・哭き、痛み震える。

 ベラトリックスの最大火力を全方位にぶつけてできるものは、どん詰まりの地獄でしかない。嘆きすらも許されはしない。彼女に残火は存在せず、燃えなくなるまで焼き尽くすのみだ。

 だが。まだ、ここで終わりではない!

 荊をひとところに束ねて超圧縮!獄炎と化して──鳴り響く邪竜行進曲(ドラゴンマーチ)!無双なり!

 連鎖的増強火焔弾!右肩上がりの豪熱血!

 

 ややもはや、畏敬の念すら湧いてくる。

 ベラトリックスの御業は人の域に在らず。紅い力など彼女を押し上げるための道具に過ぎず、強さの本質はその圧倒的自信から織り成される魔力の革命連鎖だ!

 銀髪の青年は、憎悪とは別に、一人の魔法使いとして敬服の念を覚えた。それは尊敬であり、それは畏敬でもあり、そして越えてみせるという覚悟の表れであった。

 

「ベラトリックスの野郎、出し惜しみしねえ気だな。ならこっちも決着はここでつけてやるッ。受けて立ってやるよ、先代さん」

 

 蒼の乱舞、焔の狂想。

 魔女が放つ火炎逆鱗は、しかしベガには届かない。

 一八五センチはある長身が縦横無尽に駆け巡り、銀の軌道を描きながらベラトリックスに肉薄する。

 容易いことかのように死を躱していき、恐れることはないかのように危険に足を踏み入れる。

 信念は恐懼を超克した。

 馬鹿なと、魔女は憎らしげに見る。

 屠れなかった相手などいない。倒せなかった相手などいない。それに裏打ちされたプライドが、今度はベラトリックス自身を苦しめる。

 絶対回避──究極の後出しジャンケン。

 つまるところは後の先読み。不死鳥の炎は使わない。

 ベガが今使っているのは『開心術』!

 焔のゆらめきで動きを察知し、精神を読む、闇祓いならば必須のスキルだが……ベガのその精度は無意識下の揺らめきまでも察知する!

 ベラトリックスほどの魔法使いであれば、開心術を使った相手に違う心を見せてフェイントを仕掛けるなど造作もないこと。それではない。その次元にないのだ、ベガの魔法は。

 

 ベガが練習でドラコ・マルフォイに開心術をかけた時に術を弾かれたことがある。理屈としてはシンプルに閉心術で防がれたというだけだが……戦いの中であればともかく、正面から術をかけて防がれるなど、ベガの経験上ほとんどなかったことだった。

 そう……ドラコは閉心術の天才、その分野にかけては他の追随を許さないほどだった。ヴォルデモートでさえも凌ぐほどに。

 そこで負けず嫌いなベガはドラコの閉心術を破るための魔法を考えた。その者が考えているか考えいないかに関わらず、魔力の動きを読んで反応する、という。心を開く開心術とは相互互換に当たるこの術は、対人戦において絶対的な効力を持つ。もっとも時間は短いが……!

 ムーディーによって磨かれた魔術的戦闘理論と、特殊な開心術の合わせ技!

 生物限定の未来予知!

 わずか五分間!けれどもベガは絶対の針を刻む!

 

(な、ぜ──当たらない!?)

 困惑。焦燥。

 未来でも見ているかのように正確に、己の攻撃を悉く躱していくベガが、恐ろしい。

 悪寒が魔女の体を駆け巡る──勘違いだ!こんなものは脅威ではない。何より、次の火焔弾は躱すことさえできはしない範囲のもの!不死鳥の炎も間に合わず、先程のように火炎の交差衝撃も狙えばしまい……!

 だが、ベガの出した答えは、予想を大きく上回るものであった。

 

 蒼い焔に包まれた、巨大な球体状の魔力物質。幻想的に光るそれは──色こそ違えど、ベラトリックスの使っていた黒い太陽。

(……こ、こいつッ、私の黒い太陽を──)

 不規則なアルゴリズム。不快なりし魔力の波。

 顕現させられた死の世界は、不愉快そうな苛立ちをおよそ隠そうともせず、広範囲に渡る火焔弾を吸収しては噛み殺して息絶える。

 黒い太陽は曲がりなりにもベラトリックスの大魔術であり、長い修練のもと編み出した地獄の火炎球。それをベガが、使ったのだ。

 沽券が泥を被った感覚。

 汚泥に顔面から突っ込まれたような──!

 

「これでも“天才”でな──火炎系の魔法なら、一度見れば大体コピーできちまうんだ」

「ベガ・レストレンジ……」

 

──来る。来る。

 死神が名を指し示す。

 

「まあ、俺流に言うなら──」

「貴ッ………様ァアア!!!」

 

 墓碑銘に名が刻まれる。

 蒼い目の轆轤は、確かに女に微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺にできねえことはねえんだよ、だ」

 

 

 

 

 




仮にもハリー・ポッターの二次創作なのに…
100話以上も書いてきたのに…
杖の設定が…一部のキャラ以外はまったく決まっていなかったことを…ここに懺悔します…。

でも自分は書いていくうちにキャラの設定やら何やらを変えたり追加することが多いのでむしろ今のタイミングで作ったのはよかったのかな…?
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