シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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欲しいゲームがいっぱいあって、プレイ時間もいっぱい欲しいです。


12.傲慢のベラトリックス・レストレンジ Ⅲ

 

「っだーーーー!!!!!こっち全っっっ然死喰い人いないじゃーーーーーん!!!!!」

 

 道間違えたー!!と唸る金髪の日本人女性。

 その名もミカグラ・タマモ。ヴォルデモート討伐に派遣された海外の闇祓いの内の一人で、魔力を弓矢状にして束ね、放つ魔法を得意とする実力者だ。

 好戦的な性格の彼女は、ひたすらに死喰い人(首級)のありそうな方へと走ってきたが……アテが外れたようだ。

 

 タマモはヴォルデモートや死喰い人に直接的な被害を受けたわけではない。そりゃあ、根が優しいコージローはイギリスの友人を放って置けなかったのだろうが、タマモやハヤトは違う。

 首だ。

 戦だ。

 血色の狼煙が上がったとあっては、そこに行かずはいられない、そういう性質(タチ)の戦餓鬼。

 クズはクズらしく、屍の上に墓標など立てられず、首を抱いて眠るのが性に合っている。だからこそこの戦場に来たのだから。……個人的に、外国の美少年や美少女を“食べてみたい”という性癖もあったのだが。

 

「流石になァ〜、大した首級も獲ってないのに酒池肉林するのも憚られるしなァ〜。いや、いつ死ぬか分からないんだからできる時にすることするのもアリかな?取り敢えずこの戦いが終わったら暫くは大きな戦はないだろうし、そうしたら────

 

 ────誰だ」

 

 

 

 やや幼さを残している女性の顔は、たちまち獲物を狙う捕食者のソレに切り替わる。

 威圧感……とも少し違う。それは、肉を前にした獣と同じだ。警戒や敵意の中に混じるのは、狂気的な戦への食欲である。

 眼力一つで人を殺せそうなほどの、不気味、かつ悍ましき視線とは不釣り合いに、漸く現れた『敵』への期待が高まっていた。

 

 

 

「──待ってくれ。味方だ。識別番号B025、ジキル・ブラックバーンだよ。分かるだろ」

「ブラックバーン……ああ!イギリスの闇祓いのお兄さんでしょ?知ってる知ってる。救助活動で活躍したって聞いたよ」

「お、おう」

 

 最近ようやく顔の厳つさに年齢が追いついてきた男、ジキル・ブラックバーン。アレンやエミルとは違い、派手な活躍こそ少ないが、裏方を中心として着実に実力や経験を積み、第一線で戦っている。

 そして顔に似合わず、女性が苦手という側面も持ち合わせているのがジキルという男だ。

 タマモが近付くと、一瞬狼狽えたような声を出した。

 

「うぉっうぉ……ぉぅ」

「?なに、絞首刑にかけられた罪人みたいな声出して……ああ、女の人が苦手なんだっけ?あんまり近寄らない方がいい?」

「い、いや!変に気を遣わないでくれていい!俺の都合で君に遠慮させるのは道理に合わないし、何より、今は戦いの最中だしな」

「そう?……ね、ところでなんだけど」

 

 タマモは逡巡すると、

 

「……活きの良い獲物とか、見なかった?」

「…………なに?なんて?」

「せっかくの戦場なのに中々倒せなくってさー。死喰い人の奴等、質は良いんだけど引き際も良いからあんまり歯応えなくってねー」

(……ううむ、たとえ死喰い人であっても命の価値を尊重するべきという意見もあるし、そういう価値観で育っているだろうから変に否定するのもな……という意見もあるな……)

「……んっ!?あっ、ごめん。引いた?」

「えっ!いや、人それぞれで良いんじゃないか!?」

 

 あはは、と苦笑するタマモ。

 血生臭い場所でこそ最も輝く彼女は、闇の城の中で心の昂りを抑えられる筈もなかった。

 

「まぁ私がクズってのは事実だしね。あんたとか、他の闇祓いみたいに、正義とか平和のために戦うって人は、皮肉抜きに尊敬するし、かっこいいとかすごいなって思うよ」

「……そんな立派なもんじゃないさ。俺の家の連中はイギリスの貴族連中に良いように使われる立場でな、それが嫌で……そんな風に、なりたくなくて。そんな、誰かを食い物にする連中なんかには……。

 だから、連中をしょっぴく仕事を目指したって、それだけの話さ。女手一つで育ててくれた母親にも、親孝行したかったしな」

「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『フウマ家って代々妖狩りや暗殺を生業にしてる家で、子供の時から生きるか死ぬかの鍛錬をさせられる一族なんだっけ?都合が良いから、魔法省も黙認してるっていう……』

『ん、ああ、まあな。フウマの忍として認められるのは鍛錬で死ななかった人間だけだ』

『でも、コージローはその家が嫌なんでしょう?そんな家なら出て行けばいいのに』

『……きょうだい達のことを捨て置けん、というのもあるが。……父が、子供の頃に粥を作ってくれて、一晩中看病してくれたことがあってな。

 本質的には優しい者も多い。心無いだけの家、というわけじゃないんだ。放ってはおけなくてな』

『呆れた。ご飯をくれた人は皆んな良い人なわけ?コージローはそんなに食い意地張ってるの?』

『うはははは!一宿一飯の恩とも言うしのう!』

『茶化すなよ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんたみたいな奴は、生き残らせたいな」

 

 ふと漏らした呟きは、しかし掻き消された。

 気配のする方を見てみると……何人か、闇祓いが集まっているのが見えた。見覚えのある顔だ。

 そのうちの、ややふっくらとした一人は……ネビル。

 ロングボトム家の青年は、闇祓い達に医療処置を受けている最中のようだ。

 とは言っても、ネビルの傷はそれほど酷くはない。

 呪いと焔の痕はあれど、この程度ならば傷が残ることはないだろう。

 

「!タマモに、ジキルか……」

「ネビル、無事か?何があった」

「……ベガとベラトリックスが、今、戦ってる。ベガに限って負けはないとは思うけど……一緒に様子を見に行ってくれないかな」

「分かった。一緒にベガのサポートに努めよう」

 

 ネビルの示した方向に向かって走る、と……すぐに焼け焦げたような臭いに気付く。紅い力持ちが暴れても耐えられるように、この空の城の壁や床は高い魔法耐性を持つ素材で出来ているが……その殆どが焼け爛れ、崩れ落ちている。

 しかし、世界でも五指に入る火炎魔法使い同士の衝突と考えれば、これでも被害は小さな方だろう。

 ……察するに、ベラトリックスの攻撃の余波がネビルや他の仲間の所に向かってしまわないよう、ベガが気を遣いながら戦っていたことが見て取れる。

 

 

 

「よう、お前ら」

──かくて、男は立っていた。

 

 

 

 昏い床の上に燃え広がる宝石のような焔。ベガの蒼炎と、ベラトリックスの翠の焔だろう。元の装飾など跡形も残らぬ残骸の上で、男は一人、勝利に酔う。

 ベガ・レストレンジ。

 美しい髪を靡かせる青年は、地面に膝をつく火焔の魔女を見下ろしていた。

 細かな傷はあれども、ベガの受けたダメージは微々たるもの。反対にベラトリックスの肌は焼け焦げて、血を吐き項垂れて──これ以上の屈辱があろうか?

 世界最高峰の魔法を扱う若き天才に、ベラトリックス討伐という偉業が刻まれようとしていた。

 

「が……ッ、ハァ…………」

 

 ぴんと張り詰めた空気。

 いつもは口喧しく皮肉の一つでも飛ばしていたであろうベラトリックスも言葉らしい言葉を発せず、ベガもその舌を回すことはしない。

 その光景が、あまりにも、綺麗すぎた。

 “最強の交代”としてこれに相応しいものはない。

 ネビルも、ジキルも、タマモでさえも、ベラトリックスを罵ることも、ベガを讃える言葉もなく、重たい空気を呑み込むしかできなかった。

 

 これが一つの終わり。

 そして始まりだ、新たなる最強の。

 

(これで──終わったのか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──けれど静寂は破られた。

 

「クククク………ハハハハハ…………」

 

 

 

 笑って、いた。

 

 ベラトリックスが笑っていた。

 

 おかしくてたまらないと言わんばかりに、華奢な身体を折り曲げて、笑っていた。

 自身の敗北を悟り、狂っているのではない。

──あれは喜びの笑い声だ。

 確信しているのだ。自身の勝利を。

 

 醜く焼きさらばえて、汚泥を啜り屈辱に身を委ねる生き方は、美しさとは遥か縁遠い。けれどベラトリックスは敢えてその道に目を向けた。

 配られた手札(カード)は強力だが最強(ジョーカー)でも絶対(エース)でもない。

 積み上げた経験と実力は、あと一歩で及ばない。

 

「────」

「まずは賞賛を。そして感謝を!アタシが直接戦った相手の中で、最も強い男は、ベガ、貴様を於いて他にはいない。本当に……強かった。掛け値なしに、そう思う。

 強大すぎて、磨くことすらできなかった真域……その本領を掴んだのさ……!」

「そいつは死に際にいい思いできたな」

「終わりはここからで、そして始まりさ。アタシのな」

 

──だが、勝ちは譲らない。

 譲れない!

 

「私に足りないのは強敵だった……真域の肝心の使い道……それを教えてくれたのはお前だ。

 『似たタイプの魔法使い』……お前のお陰で、私は更なる成長ができる──!!

──次のステージへ!!!」

 

 

 

 瞬間、ベラトリックスを蒼焔が包む。

 ベガの火焔……ベガによる視点発火。弾劾の殺意が魔女の肉を焼いていく。

 ベラトリックスが何かを仕掛ける、その前に。

 死喰い人は追い詰められてからが最高に意地汚く、そして厄介だということを、ベガは知っている。

 

「──!?おい、ベガ!」

「…………ッ!」

 

 が……ぬかった。

 ベラトリックスは、ドラゴンの状態の時に脱皮して、抜け殻で攻撃をやり過ごすという戦法をとる。

 だがまさか、人間状態でも脱皮ができたとは。

 蒼炎の中で焼けているのは、人の殻。

 ベガの未来視──魔力の流れを読み取り、戦闘経験則と照らし合わせて『次の手』を計算し、弾き出す能力。それを意識してか、『殻』に今ある魔力の殆どを詰め込んでいたようだ。

 

 何処に──

 

 

 

 

 

「──アクシオ!来るが良い我が(しもべ)

 我が血となり肉となる許可を与える!

 暗澹の城を貴様の墓場にしてやる!破滅をもたらす雲よ空を覆い、呪いの言葉を乗せて飛翔せよ!この身をわが火焔で包むのだ!!!

 夜の闇よ──月さえも呑み込むがいい!!!!!」

 

 

 

「『紅い力の更なる解放』ォオオオ!!!!!!」

 

 

 

 

 

──いた。いた。少し離れた所に、いた。脱皮のせいで魔力は出涸らし程度しかない。けれどプレッシャーはこの場の誰よりも強い!

 火焔の竜がベラトリックスを護るようにとぐろを巻いて喝采し、どこからともなく現れた黒い鎧がベラトリックスの覚悟に哭く。

 ……解放?解放だと。

 紅い力はその者の特性に合わせて様々な力を授け、そして極めれば『更なる解放』というもう一段階上の能力を使用することができる。

 ベラトリックスのそれは、『十三の火焔の竜を呼び出して操ること』。竜はそれぞれに固有能力があり、状況によって使い分けていた。

 

 それとは、違うのか?

 それでは、ないのか。

 

 

 

──解放した(目覚めた)、のか。

 新たなる力に。

 

(まずい──!)

「──視点発火!!」

「アレナス、弓よ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──魔・鎧・着・装」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 揺蕩う(ほむら)

 一切の命が祓われて、寂寞の大気の中を闊歩と歩く、一体の黒色の影がそこにあった。

 真域の焔を羽衣のように傅かせた、黒い鎧。

 先刻の、竜人形態の時に見せた甲冑貴人鎧(バトルドレス)とは違う。

 今回の鎧は、完全重武装(フルアーマー)……(ヘルメット)から(サバトン)の先まで、全ての部位を鎧が覆っている構造をしている。

 そしていっとう目を引くのは、尾骶骨(キュレット)の辺りから生えている巨大な尻尾。

 竜を模した鎧、というよりも、竜が人の姿を模倣したような風貌だ。関節駆動部を焔のブースターで補い、活動に不便はない。太く捻れたツノは後ろ向きに流れており、ベヒーモスが如き威容を称えていた。

 

 全体的に──流線的なデザイン、と言えよう。

 竜人形態の鎧は華美な装飾に彩られた、中世的、耽美的なものであった。17世紀初頭のゴシック様式をベースに大胆なアレンジを加えた、オリジナリティをふんだんに盛り込んだ逸品で、己の力を誇示するための意匠が施された“芸術”をメインに置いた鎧だ。

 今回のはむしろ近代的……空気抵抗と熱耐性を意識したシャープなもの。実用性を意識した機能美で、無駄という無駄を排除した滑らかな玉体。装飾よりもシルエットで見せるタイプのものだ。

 

「なっちまったねェ……とうとうこの姿に……」

 

──歩く。

──歩く。

 一歩が重く、威を放つ。

 竜の歩進(ドラゴンマーチ)

 絶大な力をで持つ身でありながら、茨の魔女はその身の刻んだ日々に述懐した。それがどこか物悲しく、哀れに思えたのは錯覚だろうか。

 カチャカチャと、まじまじと己の肉体を見つめる女王の心は、鎧越しでは推し量れそうになかった。

 

「……随分とまあ、お洒落になったな」

「この鎧はね、特殊な魔法技術で作られた特別製。ゴブリンやら何やらの持つ技術をふんだんに盛り込んだ、世に二つとない魔の外装さ。

 魔力に対してほぼ完全の耐性を持ち、柔軟かつ強靭な鎧には傷一つさえつけられはしない。機動性にも優れ、全ての分野において一流の逸品……」

 

 ベラトリックスがそう断じるのならば、そうなのだ。

 恐らくは、きっと。

 紅い力の持ち主を比べた際、単純な能力値だけで言えばベラトリックスが一番だろう。ハリーのような超絶技巧も、ペティグリューのような生存能力も、グレイバックのようや俊敏さも、グリンデルバルドのような頭脳も彼女は劣っている。

 けれど最強は、“最低値の高さ”はベラトリックスだ。

 あらゆる場面に適応でき、あらゆる能力が高水準で纏まっている隙のなさ。ある意味での『完璧』が、形を為して奔り出す。

 

「“無敵”をコンセプトに基礎性能をとことんまで追求したこの外装は、ひとつだけ……しかし致命的な、恐ろしく燃費が悪いという欠点があった。

 紅い力の魔力を以ってしても、すぐに魔力切れしてしまうのさ。我が君に次ぐ魔力量を持つ私ですらこの鎧の性能を常時引き出せないほど、消費は激しい。まァ欠陥品もいいとこだが……、

 『真域を使える者に生涯装備させること』でのみその欠点を補える。真域は無限のエネルギーだからね」

 

 当然と言えば、当然の制約。

 ペティグリューを死体の王(ホーンドキング)とするなら、こちらは生ける暴君(イヴィルエンプレス)だ。ペティグリューが恥も外聞も捨てて生き物らしい行動を取るだけの肉体になったのなら、ベラトリックスは人間性を捨てて勝利を掴む。

 

「一度身に付ければ脱ぐことはできない。少なくとも向こう百年は解呪できないと言われた曰くつき……

 身に付けたが最後、十二時間で完全に人体と融合し、癒着し、そして一生この鎧のまま生き続けなくてはならない。

 分かるだろ?生命としてどん詰まりなんだ。最早子を望めず、人としての生を一切合切望めず、畏れられて生きていくしかない。“元には戻れない”」

 

 鎧を装備する……というよりもむしろ、人体に鎧の形をした呪いを埋め込み、寄生させるようなもの。

 魔導生命体、というやつだ。魔力によって生き存え、動く存在。血の代わりに魔力が全身へと行き渡り、肉体を躍動させる。

 まだ“馴染んでいない”ため、人と鎧の部分が完全には混ざりきってはいないのだが……それも時間の問題。

 完全に馴染んでしまえば、人間に戻る手段は──存在しない。少なくとも、向こう百年の魔法の発達スピードでは、とても。

 

「が……マシさ、敗北よりは。それで我が君の副官としての矜持が保てるのなら、人としての生き方など、捨て去ってやるさ……名は重い、命よりも」

「……お前、ベラトリックス・レストレンジだろ?」

 

 

 

「後悔するぞ、その遺言。考え直せ」

「それは命令かい?命令したのか?私に?大それたね」

 

 

 

 魔力を軋ませる人型の竜。散るスパーク、焼けついた呼吸音。カシャカシャと規則的な音を立てて、太く鎮座していたツノは形を変え、上を向き、まるでその威光を表すかのような王冠の姿へと変形する。

 同時、鋭利に尖る籠手部分には噴射口が現れた。

 マッチが擦れたかのような着火音。

 頭部から、腕から。天を貫かんばかりの勢いで燃え上がるは真域の火焔──!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間。

 ベラトリックスの爪が、眼前に迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 ベガがそれを躱せたのは、生来の反射神経の良さと、未来視による絶対的な後の先があったからだ。実際、遠距離から火炎を放つのが基本のベラトリックスの戦闘スタイルとは似ても似つかない、あまりに単調な一撃。

 彼女をよく知る者からすれば、そのスピードは不意打ちも良いところだろう。

 

 厄介なのは──そのシンプルな攻撃の魔力の余波が、鉄壁を誇る魔城の壁を抉り、僅かに星を覗かせるほどの威力を持っていたこと!必滅の一撃。

 

 ベガ達は即座に距離を取り、戦意をギラつかせる。

 攻撃の一部始終を少し離れた位置で見ていたタマモが真っ先にその仕組みに気付いた。ベラトリックスの肉体にはブースターが内蔵されている!

 真域の焔というエネルギーを使って彼女はパワーとスピードを得たのだ。防御なら鎧が担ってくれる。

 ベラトリックスが真域の焔を使い、鎧を動かして、鎧がベラトリックスを活性化させる。無限のサイクル、永久機関の爆誕だ!

 

「ま……やる事は変わらねえか」

 

 ベガは即座に攻撃態勢に移っていた。

 二つの杖を使用した接骨魔力、魔力の共鳴によるクリティカルヒット。それこそがベガ本来の魔力出力を大きく上回る交差衝撃現象を引き起こす。

 更には──ベガを上回る反射を越えた速度でタマモは矢を番えていた。先の先。生涯に於いて味わったことのない得難い獲物を前にして、タマモの思考は戦闘の愉悦の一色に染まり、思考せずとも攻撃できる一種のバーサク状態に陥っていたのである。タマモ自身ですら、己が攻撃したことすら自覚していない。

 

 空間が呑まれ、悲鳴を上げる。

 拓かれる火焔の十字架が、その惨劇を物語る。

──然して。

──敢えて。敢えてベラトリックスは攻撃を受け、そして悠然と火焔の中を闊歩した。

 

「がッ……はは……、あァア……耐えられる。

 耐えられる!耐えられるぞ、この鎧なら!!!」

 

 ベラトリックス自身、それを受けられるかどうかは賭けに近いものがあった。如何なるものか、と。そして事実として、自身の成長と未来と人としての生を捨て去って尚、ベガの攻撃を防ぎ切れた訳ではなかった。

 鎧越しでも確かに感じる魔力熱(ちから)。熱く、痛い。

 

 だがこそ、断言できる。

 ベガの攻撃が通ることはあっても、その牙が命に届くことはない。決して!

 

(──ああ、理解した。

 こいつは強くなったんじゃねえ。弱さが消えたんだ)

 

 最低値の底上げ。限界値の上昇。

 魔法使いに限らず、生き物というものは常にフルパワーで動いているわけではない。生物が生物である以上、大きすぎる力で自滅しないようにセーブしながら戦う必要がある。“強くなる”とはセーブした状態で使える強さの上限を上げることであり、“紅い力”もまた、魔力のリミッターを上げている行為。

 壊れない肉体などない。

 壊れない物質などない。

 だからベラトリックスの鎧は、限りなく頑丈で、限りなく壊れにくく、そして再生に限りがない。

 人狼も、鼠の腐肉も、ホムンクルスも吸血鬼もドラゴンよりも頑強、頑健!生物としての格が違う。

 

 

 

「この姿に堕ちた私に敵はいないッ!だがベガ・レストレンジ貴様だけは、貴様だけはここで仕留める!我が君に次ぐこの誇り高き名だけは守り倒す!!!」

 

 

 

 放たれた矢のようにベガを狙うベラトリックス。だがジキルは既に盾を展開していた。即席の杖を五つ使用した五重防壁。

──竜の牙はそれすらブチ抜く!

 ベガは即座に自身を守るように守護悪霊を展開するもベラトリックスの連撃はあまりにも重すぎる。弾かれて宙を舞い、地を転がり、そしてすぐに立ち上がる。

 視界の中に──ベラトリックスは──いない!

 

「ベェェェェエエエガァァァァァア!!!!!!」

「ッ、止まれええええええええ!!!!!!」

 

 竜の魔女が現れたのは上だ!

 断頭台のギロチンよろしくベガを狙い──すんでのところでネビルが剣で受け止める!

 紅の剣による身体強化、そして魔力強化!騎士に相応しき贅力とタフネスを持っているのが今のネビルだ。そしてそれ以上のパワーで叩き潰せるのが今のベラトリックス!

 ジェットさながらに飛来する姿は、まさに竜!

 魔力を吸収する剣により火焔は耐えられても、その物理的圧力までは消し去れない。

 ほんの数秒の膠着状態──ただの人間であるネビルにはあまりにも長すぎる時間。苦痛の苦悶の数秒間。

 だからこそ剣に宿る獅子(グリフィンドール)は、宿主たるネビルを生かす選択を取り、それは反撃の一手へと繋がった。

 剣から魔力を放出しながら受け流し──地面へと叩きつける!近接戦闘の経験が多くはないベラトリックスは出力を間違え、その勢いのまま地面を割り、沈む!

 

「お前にできることは俺にもできんだよ!!!」

 

 守護悪霊が頭蓋を掴み、地面に叩きつけ、引き摺りながら低空飛行する。向かう先はジキルと、闇祓い二人が用意した魔法の罠!

 悪霊はその中心──結界の最も効く位置へと魔女を投げ飛ばした!

 顕現する槍がその鎧を串刺しにせんと、何十本もの殺意となりて魔女に迫り──弾かれ、折れる。

 それで構わない。本命はそこではなく、ジキルが用意した魔力フィールドに引き摺り込むこと──!

 

(俺の強みは、何十人分もの杖を生み出せること……それだけの兵力を生めること!

 事前に俺が作った魔石と杖のエリア……すなわち結界の中にブチ込んで、収束する一撃を喰らわせてやることが俺の役目だ……ッ!!)

「この結界は……私の火焔結界の真似事か……!!」

 

 呪われた力も、ドラゴンの討伐には役に立つ。

 湧き上がる十三の火柱。ジキルが場を用意し、タマモが魔力の指向性を持たせ、ベガが火力を担当する。

 魔法使い達が織りなす三位一体のアンサンブル。

 構築式が面倒なため、本物のような完成度は求めず、ガワだけ真似した劣化品。

 ベラトリックスの奥義の真似事に過ぎないが……例え劣化版であろうと、足止めできたなら御の字。何故なら火焔結界による副次効果、“杖を焼く”という現象こそが狙いだからだ。

 魔力あるものを優先して焼く……それはベラトリックス自身が言っていたことだ、ならばあの鎧に対してもこの攻撃は有効な筈!少しでも削れないか……!!

 

「ハ、ハ、ハ──流石は私が作った魔法だ、例え劣化コピーだろうと動き辛くなるね!!!!」

「うそ。待って。どれだけ硬くて頑丈なの!?ちょっと嘘でしょう、サービス精神旺盛すぎない?アハハァ!」

 

──顕在!顕在!未だ顕在!

 軋みはあれど!実質的にはノーダメージ!

 鎧による絶対防御──結界内の魔力を焼き刻む術式であっても、食い敗れないほどの硬さ!

 

 更には──鎧の全身からブースターが飛び出して、真域の火焔の熱量で魔力をオーバーライド!

 “魔力を焼く焔”──

 その余りある魔力特性から、相手の魔力に干渉し、魔力ごと嬲り殺すなどという真似ができるのは、紅い力の中でもベラトリックスとハリーのみ!

 鎧を焼く筈が、むしろ、押し返される……!

 ベラトリックスは、ただ、焔を噴出しているだけ。

 基礎というにはあまりにもシンプル、技ですらない、その通常攻撃があまりにも必殺……!!

 

 

 

 三度、結界は破られた──!!

 

 

 

 爆炎が舞い、火花が散り、空気が焼け焦げる最中。

 強き魔女は惨劇の中を女帝さながらに闊歩する。

 防御こそ──最大の攻撃。

 無敵の防御力が、より大きなスケールでの魔力の放出を可能としていた!

 

 

 

(うっそ)じゃ〜〜ん!?

 やばいやばい、最高のサンドバッグ見つけちゃった!

 殺そうとしたら殺し返してくれる機能がついてるなんて最ッ高ォ……!」

 

 闘争本能から来る悦楽に思考を委ねながらも、身体までは委ねず──冷徹な弓使いとしてタマモは獣の姿へと既にそのカタチを変えていた。

 紅の鎧兜を身に纏う、金色の狐。

 魔力をふんだんに込めた剛弓でそのままシンプルに、頭部目掛けて太い矢を放つ。人狼の頭蓋くらいなら容易く持っていく威力はあるのだが、今回ばかりは分が悪いと言わざるを得ないだろう。

 だが、放つ。

 目眩しにしかならない、その筈の一閃。

 ベラトリックスもまた、その一射が通用するとは露にも思ってはいなかったが、半ば反射的に左腕を出して防御の姿勢を取っていた。未だこの無敵状態に慣れていない証左である。

 

 魔力の矢はつつがなく防がれて──しかし、視角から現れた何十本の矢が、寸分違わず眼の部分を狙ってきたことに、流石の魔女も動揺で動きが硬直する。

 “軌道変化”──タマモによる恐ろしきまでの精密射撃は角度を選ばない。攻撃力はシェリーに劣り、射程距離ではエミルに劣る。けれども彼女の技量を持ってすれば状況に合わせて凡ゆる角度からの攻撃が可能!

 人間状態の時の戦いの癖がまだ残っていたベラトリックスは、思わず体勢を崩しかけた。

 

「今のは驚いた!たまにいるんだよね、使う魔法は大したことないくせに使い方はイカれてる奴!与えられた武器がショボい分、練度が気持ち悪いんだよねェ!まっ!所詮は雑魚の戦い方、効きはしないけどね!!!」

「アハッ、効かない効かない!そんじゃまあ……

絶え間なく矢を頭にぶつけて脳を揺らしてみよっか!」

 

 「脳震盪、ってやつ?」そう無邪気に笑いながらも、決してタマモが手を緩めることはなかった。何十、何百もの弓の雨。傷はつかないにせよ、汚れはせぬにせよ。

 衝撃はある。それだけでタマモはその勝ち筋を通すことを決めていた。

 タマモは瓦礫や障害物を利用して、一人で偏差射撃をこなすことのできる近〜中距離型の弓使い!矛盾しているような魔法の使い方はすなわち、強さの証……!

 

(ああ……やっぱり効かない。私じゃこの人に、いやこの鎧に致命傷なんて負わせられる訳もない。私の火力はここ止まりだ……無理だ……。

 やばいなぁ……やばいなぁ……!

 世界の危機だったいうのに、こんな時なのに……私、ゾクゾクしちゃってる……!楽しいっ♡)

「アレナス・サジタリウス!!射殺せ!!!」

 

 放つ、放つ、放つ。

 蜂の巣よりも細かく、虫の大群よりもうざったく。

 脳内を侵食する快楽物質のまま、タマモは射る。

 腕で防ごうとしても、あまりにもあり得ない軌道を描いて鎧のどこかに直撃する。

「邪魔臭いね……!」

 気持ちが悪い。気味も悪い!痛みがない分余計に不快感は倍増する。挙げ句の果てに、ジキル達が茶々を入れ始めてくる始末……使い捨ての杖だから躊躇がない!

 不快感も露わに、ベラトリックスを中心として、太陽が如き火炎が発せられる。その範囲攻撃で震撼させ、弓矢を余す事なく焼き切った……!

 

「控えてな……ッ!塵は塵らしく!視界の隅で!心配しなくとも後で殺してやるからね!!!」

「がッ!!」

 

 火炎による範囲攻撃、それを剣の特性により物ともせず突っ込んできたネビルの首根っこを掴んで、布でも振り回すみたいに放り投げた。

 ジキルが即座にカバーに入り、事なきを得たものの、当のベラトリックスはまるで眼中にないかのように背を向けてベガへと向かっていく──。

 

(クソ……なるべくベガを消耗させずに戦わせるのが俺達の仕事だってのに、肝心のベラトリックスがベガを最優先で狙ってくるんじゃあな……!)

 

 この戦いのキーを握っているのはベガだと、ベラトリックスは正しく理解している。先程ベガは一対一で魔女を斃す寸前まで行っていた。逆に言えば、ベガさえ仕留めてしまえば、この戦いは総崩れだということを知っている。タマモもジキルもネビルも闇祓いの二人も、補助はできても決め手には成り得ない。

 が──だからと言って、何もしないという選択肢はハナから存在していない。放っておいても噛み付くタマモは元より、ジキルも、この若者二人も、勿論ネビルも、食らいつくのを止めはしない──!

 

「ネビル、無事か?不死鳥の炎の回復があるから即死はしないだろうが……このままダラダラ戦ってもダメだ。

 お前達も聞け!俺達は完全に足止めに徹して、ベガを闇の帝王の所へと行かせる!いいな!」

「は、はいっ!」

「了解です!」

「………ッ」

 

 ネビルは頷きを返したが、内心で燃え上がるのは、ほんのちっぽけだが嘘のつけぬプライド。あの女には怨みはあるが、そんなことじゃない。

 『敵が親友を殺そうとしている』

 『ベガを自分達の安否を心の片隅に抱えたまま闇の帝王との決戦に挑ませる』

 ……どれも、ネビルにとって、到底赦すことのできぬ所業でしかない。……眼中にない?それは、奴が、塵と侮っていた自分達ですら念入りなまでに潰そうとしていたベラトリックスが、天秤の比重をベガに傾けたことの何よりの証……!

 獅子は群れて狩りをする。牙が、煌めいた。

 

 

 

 

 

「ベガ、ベガ、ベガ!!!お前だ!!!

 我が君のステージに!!!私達の領域に!!!お前が登るその前に!!!!今、ここで!!!!」

(助かるよ……今更死の恐怖くらいで動揺するほど弱くはねえが……仲間を殺されて平静なほど強くもねえ……)

 

 拳と脚とがぶつかり合う。

 手甲から噴き出す火炎が、ベラトリックスの連続多段攻撃の一発一発を致命に至らしめているのは、見るまでもなく明らかだった。

 ベガは守護悪霊の蹴りのラッシュでいなし、致命傷を不死鳥の炎で癒やし、そしてまた蹴り飛ばす。

 しかし……どれだけ蹴っても、終わりはない。ベラトリックスがやっているのは、無限のエネルギーが織りなすただの連打でしかないが……その攻めが終わることはなく、強引に体勢を変えさせたりすることでしか中断はできない。

 本来であれば遠〜中距離戦をメインとするベラトリックスだが、鎧を纏ったことにより、このような殴る蹴るといった近接戦闘か、体内の炎の魔力を放出するくらいしかできなくなったようだ。ようだ、が……その分、下手な小細工どころか、攻撃さえ通用しなくなった。

 シンプル故に、かえって難しい。

 普通に早く、普通に硬く、普通に強い。

 だから躱して躱して、やり過ごして、たまに攻撃を入れるしかない。それも何度も繰り返すと、段々と息が切れるのはベガだけ……。

 

「──なんて風に思い上がってんのかよ?

 たかだか鉄屑纏って随分嬉しそうだな、オバサン!」

 

 ベガはこの攻防の中で、魔力の髄を掴んでいた。

 事ここに至って。ベガはしかし、自身の才能に歓喜と感謝を抱いていた。当て嵌めることをしなくていい、その強さの可能性の無限さに!

 

「真域は無限のエネルギー……それを聞いてピンと来たんだよ。アンタはその鎧を真域で動かし、鎧による恩恵をその身に受けて、真域を使う力を得ている。

──その無限サイクルも、俺ならコピーできる」

「…………ッ!!」

「──“魔力もあくまで身体機能の一つ”──使うほどに消耗する力……だが、真域のエネルギーを使えば……。

 魔力も、癒やせる。回復できる」

 

 

 

 

 

 不死鳥は炎を浴びて蘇る。

 治癒するのは、生命力──そして生命は、魔力の源。

 

 『似たタイプの魔法使い』……ベガもまた、ベラトリックスから着想を得ていた。その本質を掴んでいた!

──次のステージへ、死神は飛翔する。

 

 

 

 

「真域の次元に在る不死鳥の炎、その本質は──

──無限の、魔力か!」

 

 

 

 

 

 

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