シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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13.傲慢のベラトリックス・レストレンジ Ⅳ

 

 真域の魔法。

 遍く魔法の最高到達点、人の身が出せる凡そ規格外の超過魔力、人理の極み。その域に辿り着いたならばそれ以上は存在しない、魔法の究極の結実。

 ベラトリックス・レストレンジとベガ・レストレンジが扱っているのは、そのレベルの無法。神業同士の戦いに常識は通用しない。

 真域という武器を手に、どちらが巧く扱えるか、どちらがより優れた使い手なのか。そういう勝負だ。発想のスケールで負けた瞬間、勝敗は幕引かれる。

 ベラトリックスは経験が。

 ベガには才能が。

 それぞれ与えられていた。ベラトリックスの戦闘は、どこまでも乱雑なように見えて、恐ろしく技量が高く、そして正確無比だ。慣れない接近戦がメインだからか、少し手こずっているようだが、それでも、彼女の戦闘経験値からなる攻撃に、一切のブレはない。

 強い──強すぎる。ベラトリックスは。

 

(──あァ。分かってる。紅い力はあくまで魔力の底上げをする力……ベラトリックスの火炎魔法の腕は、奴自身の能力が一流だからだ。

 紅い力だけじゃないんだ、こいつの強みは。

 だが──……)

 

 それでも死神は、ニヒルに笑う。

 

「お前の魔力が無限なら──

 俺もまた無限だァ──!!」

 

 命を運ぶ黒山羊。

 祈りと福音の不死鳥。

 終わりの鐘を告げるブラックドッグ。

 

──なんとなしに理解した。真域は、あるいは神域は、死を実感した者でないとその真髄に気付けない。

 『生死を超越した力なのだから、命を懸けるのが最低限の代価』という傲慢な神の理屈。だからこそベガも、ベラトリックスも、真域の条件を満たせたのだろう。

 女は求めた。傷つくことのない鎧を。

 男は求めた。倒れることのない焔を。

 

 そして──ベガは得た。無限の魔力を、決して尽きぬことのない魔力を。失った魔力を、片っ端から『再生』していく無法。出し惜しみはしない。する必要がない。

──同じ真域使いの魔女は、ベガが、より一層の飛躍を見せたことを嫌でも理解した。

 過ぎる一抹の不安。

 ベガ・レストレンジは闇の帝王にも届き得る牙を持ち合わせており、その牙を突き立てられたとして、果たして生きていられるのか──という。

 インクの染みのように、じんわりと広がる絶望。

 搾取する側だった筈のベラトリックスの役割が回る。

 ベガがいるそこは、本来、私がいるべき──。

 

「──ははっ、笑える!」

「あ゛………!?」

 

 魔女の渇望を、魔法使いは一笑した。

 

 

 

 

 

「まあそう怯えることはねえよ。今まで散々人を殺して甘い蜜を吸ってたんだろ?絶望を味わわせてからぶち殺したんだろうが?今回もそれと同じだよ。

 “つぎはおまえだ”」

 

 

 

 

 

 死神の死刑宣告。

 心臓を、冷えた手で撫でられたような不快感。

 無敵の鎧を得ても、真域の火焔を使おうとも、覆すことのできない立ち位置。最強の座。ベガが、深淵の狭間で笑っているかのような、言いようのない気持ち悪さ。

 優っているはずだ。奴の全てに。

 勝っているはずだ。奴の総てに。

 

──では、何だ、このぞわりと総毛立つ淀みは!!!

 

 鎧を身に纏ってなお、拭いきれぬ焦燥。

 積み上げたものを壊してまで、人間らしさを捨てて、勝利にこだわったのだ。これで勝たなければ、ただの愚か者だ。凡愚だ!両手の火焔ブースターを起動、舞うが如く流れる如く、焦熱殺意を両手に乗せて、噴煙で切り裂き殺さんとする。

 

 対するはベガの未来視だ。特殊な開心術により相手の魔力の揺らぎを感知し、その僅かな挙動から予知するように動きを読む。見てから動ける、神速の神経衝撃が為せる離れ業。ただし、全ての生物の良いとこ取りをしたベラトリックスの鎧の動きには、見ることはできてもついていくことはできない。

 だから、ベガは魔力の膜を全身に貼っていた。

 その膜に攻撃が触れた瞬間にカウンターで魔力を解放し身を守る。この場合の魔力とは、すなわち守護悪霊による蹴打である。

 圧巻のセンスによる、秀逸なる対応遍歴!

 

──殴打と蹴撃。

 荒唐無稽の断末魔、享楽と狂気の混沌地。

 驚天動地の馬鹿騒ぎ(ヒアソビ)を!

 

「強くなったモンだね、ベラトリックスさんよ。もっと強くなってくれていいぜ?世界二位の女を倒したとあれば箔もつくってモンだ」

「やめろ──やめろやめろ、お前が一番であるかのような物言いはやめろ!!!私が、私こそが、我が君の隣に相応しいんだ!!!」

「俺は才能と経験だけでここまできたけどお前は?

 プチプチ殺してたんだっけ?精が出るな」

「〜〜〜ッ、貴様……ッ!!!貴様、貴様ァア!!」

 

 ベガの調子は、これ以上ないくらいに絶好だ。

 彼はもう決めている。もう、うだうだ悩みはしない。

 目の前で死なせない、殺させない。目が届くところにいない人達は、仲間達が見てくれていると信じる。

 それでもどうしたって、死んでしまう人はいる。

 だから──せめて、死ぬ前に。抱え切れないくらいの花束を渡して送り出す。

 

「もしかして──…『命懸けでパワーアップすれば、相手が格上でも倒せることができる』なんて風に思ったわけじゃねえよな?そんな都合の良い世界じゃねえって、お前自身が証明してきたろうに」

「私を見下すな……!!」

「それとも何か?

 ほんの僅かにでも、立てたと思ったのか?

 俺の領域(ステージ)に」

「違う……そこは、お前の場所じゃない!!!

 必ずもって、謝罪させてやるからね……!!!」

「…………。

 ふえぇ〜ん!怖いよぉ〜!ごめんなさ〜いベラおばさ〜ん!ゆるしてくださ〜い!」

「黙りなァア!!!!!!!!!!」

 

 これまでの鬱憤を晴らすかのように。魔女を苛立たせるために、ベガは暴君のフリを演じる。

 最初に意図に気付いたのはネビルだった。

 いくらベラトリックスに苛立っていたとはいえ、ベガの煽りはやや度が過ぎている。本音もあるだろうが、アレは魔女を自身に引き付けるため、口八丁で彼女を苛立たせているのだ。

 

「あいつ……まさか」

「ああ、ベガはベラトリックスを挑発して怒りを逆撫でして、冷静さを失わせようとしてるんだよ。ベガは自分から強さを誇示するタイプじゃないけれど、ベラトリックスの強さは否定したがってた」

 

 殺して強くなる力──守るために強くなるベガとは対極に位置するもの。認めてたまるか、そんなもの。ほんの少しでも価値を見出してやったりするものか。

 その挑発が、ベラトリックスを苛立たせる。

 ベラトリックス・レストレンジは、強い。間違いなく、この世界の頂点の一角だ。

だが、その強さ故に、彼女は追い詰められている。なぜなら、どんな敵でも一方的に蹂躙できてしまえるようになった彼女は、圧倒的な力で叩き潰すことに慣れすぎてしまっている。それが彼女にとって、最大のストレスとなっていた。

 ベラトリックスにとってこれは、強さを示す戦い。

 

 ベガにそれはない。何故ならば、彼は本質的に強さというものに価値を見出していないから。あくまでツールの一つであり、道具でしかない。必要であって大事ではないのだ。

 ベガにとってこれは、勝つための戦い。

 

(僕達を守るため…じゃないよな、ベガ。一番危険な役割をやりたがりはするけれど、僕達に一緒に戦おうって言うヤツだ。君はそういう男だ…!)

 

 全てをノーダメージにする鎧と、

 体力も魔力も全てを癒せる焔。

 最強の盾と盾がぶつかった時に生じる綻びは、あくまでネビル達が入れねばならない──!

 

「マジで人間の動きじゃねえな。不死身か?

 なあ、その鎧で何年生きれる?

 それとも死なねえのか?」

「我が肉体は別の生物に昇華された!

 天元の怪物たる私に寿命など存在しないんだよ!」

「知っておきたくてさ。生き恥を晒す年月をさ。

 向こうウン十年“恥”を抱えたままなのは可哀想だろ?介錯してやるよ、今のうちにな!!」

 

 来る!仕掛けてくる。ベラトリックスは構える。奴の腹の底から湧くような自信はどこから来るのかと。

 

 悪霊の炎。

 真域の焔。

 守護霊の強化版、守護悪霊。

 一年のインターバルを必要とする時間簒奪。

 不死鳥の炎による再生能力。

 不死鳥の炎による魔力の回復。

 心を読む開心術による未来視。

 

 この内の二つを、ベガは確かに使用してくる。

 選択肢の中から常に最適を選ぶしかない。

 最低限、これらを常に対処できるようでなければ勝利の芽は見えてこない……ッ!

 

(だがそのどれも、私に致命傷は与えられないだろう!?

 何を狙ってる!?何を──…)

「──ハッ!?ジキル……ッ!!??」

「気付くのかよ……ッ!!」

 

 意識の外より現れた男に、むしろ反応できるのは流石は腐っても戦闘巧者たるゆえんか。

 何千何万という攻防の最中に生じる、僅かな隙。

 その間隙をジキルは逃さなかった。

 事前の打ち合わせはない。ベガですら、予測不能なタイミングで…それ故に突けた隙なのだ。

 

 ジキルの、ブラックバーン家としての特質──触れたものを即席のマジックアイテムとして扱える能力──により、彼は透明マントを生み出していた…!

 数秒しか保たぬ、オモチャのような効果であっても、効果はこの通り覿面だ。彼の手が、ベラトリックスの鎧に触れる!

 

「先祖から紡がれた血の誇りは、俺が継いでる。

 そして純血は、ここで終わりだ!!」

「ッ──!!」

 

 『魔力侵食』──半ば強制的に魔力の主導権を奪うその力が、鎧に作用する。

 鎧の魔力をこちらのものにしようという判断か!

 バチバチ、と稲妻が如き魔力反応音。重っ苦しい感覚が空気中に伝播して。

──そして、弾かれる。

 結果が分かっていたかのように、余裕たっぷりにベラトリックスは咆哮した。

 

「アハハハ!残念だったねジキル!私があんたの能力に対策の一つも講じてないとでも!?残念!

 この鎧は肉体と融合している!ブラックバーンの魔力侵食なんてあるものか!無駄な──」

「狙いはそこじゃねえよ、バカ!」

 

 ジキルが主導権を奪おうとしたこと、それ自体が囮。

 既に床はジキルの魔力侵食により簡易的な結界となり果てていて、彼女の足を掬う。

 力を誇示することに頓着してしまった魔女は、そうであるが故に喰らってしまうのだ。

 

 

 

「──だからどうしたァァァアアアアアア!!!」

 

 

 

 全て効かない──ということを証明するために!

 元々、この程度の罠など効くべきもないが…。

 たとえ身動きが取れなくとも、ベラトリックスには炎がある。全身から発せられる熱が、城を灼く。

 魔女は魔力を右目に溜めた。

 兜の下から覗く、火焔を帯びた瞳から、質量を持った熱光線が放たれる。近距離に特化した『鎧』だが、ベラトリックス生来の魔力を以てすれば、遠距離攻撃など容易いことこの上ない!魔力をひとところに凝縮したらばそれは、破壊のための光線となる!

 崩落に次ぐ崩落!熱線が床や壁に赤い染みを線状に描いたかと思えば、そこから破壊されて、崩れ行く!

 

「陽動だの、罠だの、せせこましい真似を!あんた達がどれだけ足掻こうが無駄なんだよ!!……ああ、これを言うのも何度目だ!?」

(蜘蛛を散らすようにビビって逃げちまえば楽なものを!恐怖ってモンがないのか、こいつら…!!)

 

 ベラトリックスが苛立つもう一つの理由。

 絶対的な存在になった筈の自分に恐怖しない、という腹立たしさ。強さを疑われること、それ自体が自分への、ひいてはヴォルデモート卿への侮辱である。

 魔女は天井に向けて火炎弾を放ち、破壊し──そしてふわりと夜空へと浮かぶ。火炎をジェット代わりにして飛んでいるのだ。

 外は──流星群の光が瞬いていた。

 降り注ぐ星の中、煌々と光る月明かりの下、竜の鎧は焔と共に舞う。

 一人一人、嬲り殺していく算段だった。そうすれば心の安寧を得られるから。しかし、奴等の顔を見るだけで心が乱されるくらいなら、いっそのことソラから全てを消し去ってやる!

 

“I”“G”“N”“I”……“S”(イグニス……業火よ)!」

 

 インセンディオ──単純ながらも強者が使えば右肩上がりに破壊力の増す、火の魔法。

 痛いくらいに右の拳を握りしめて、一つずつ開く。

 指が上がると同時、蝋燭のように小ぶりな焔が指の先に発火する。それを繰り返すこと五回──、全ての指を合わせると、掛け合わされた魔力は太陽と成る──!

 あまりの熱量に空気が巻き上がり、城は溶けゆく。

 呼吸が苦しい。全身に魔力を纏わなければ、火の傷が全身にできていたであろう。

 神話だ、まさしく。

 ただし、厄災の。

 

「全身の火焔エネルギーを凝縮してッ!全てを消し去ってやるッ!!もうそのツラを見せるな!!私をこれ以上否定するなァア──!!」

 

 呪いを唱える様は、泣き喚く童女のようで。

 しかし火焔はこの世の何よりも美しい線を描く。

 太陽をその手に従えて、今にも業火の渦に沈めんと、高らかに右手を天に突き出した。

 描かれる地獄絵図の中を、箒で単身、勇者は飛ぶ。

 ネビル・ロングボトムは、片手にグリフィンドールの剣を持ち、片手でブラックバーンの箒を操作して、魔女の下へと飛んでいく。災いの焔を殺さんと、それだけのために。

 

「さあ、来い!」

 彼は叫んだ。自分の声が届くように。

「僕を見てみろ、ベラトリックス!そして忘れるな!君の憎しみを切り裂いてやる!!!」

 彼の声が届いたか、それとも気にも留めなかったのか。彼女は最大火力をぶちかます。ただひたすら、怒りに任せて焔を振り撒き続ける。

 ベガの魔力のクリティカルヒット、火焔の十字架の方が瞬間的なパワーは上だろう。上だろうが──もし、ベラトリックスが無限に焔を浴びせ続ければすれば、いずれ根負けするのはベガの方!

 その、前に──!!

 

「──その前に私を仕留めようってワケか!で、私を仕留める算段は見つかったのかい!?」

「これが答えだ!!!」

 

 ネビルが剣を振りかざすと、そこから焔が放たれる。

 蒼い焔…ベガが魔力を剣に込めていたか。

 …だからなんだと言うのか?

 ネビルの背後より、タマモの何百発もの援護射撃が放たれて、ベラトリックスを貫かんとする!

 …だから、なんだと言うのか!

 

「奥の手があるんなら!!さっさと出しなァ!!

 何を出し惜しみしてやがるんだい!!!」

 

──許せない。

 己が牙城に踏み込んでくるこいつらが……、こいつらを、全力でないと勝てない相手だと認識してしまっている自分自身が……!

 嫌だ、全力を出したくない。効率的な勝ち方をしたくない。それは心の敗北だ。ほんの僅かにでも相手を認めてしまうことこそが、すなわちヴォルデモート卿への背信と知れ。

 無慈悲に、残酷に──それこそがベラトリックス・レストレンジの在り方だ!!!

 

「どうするつもりだ!!やってみな!!!!」

「うおおおおおおおおッ!!!」

 

 吼えるネビルの声とともに。

 焔の中から現れる『真打ち』──真っ黒い呪いの塊!

 グリフィンドールが吐き出したのは焔だけではない。そのドス黒い魔力の矢を、彼は放ったのだ。

 そして装填したのは、言うまでもなく──!

 

「メルム・メンス・メトゥス──

 ──殺生石、顕現!!」

 

 タマモの『死の呪い』──その凝縮体!

 ニホンが誇る、殺すためだけの怨念の呪い!使用者に代償を要求する死ぬ気の一矢……ッ!

 なるほどあらゆる魔力を無効化する鎧だろうと、死の呪いを受ければ僅かばかり機能は停止するだろう。

 

「あんまり命を懸ける、だなんて言葉、使いたくはないけどさぁ〜!命を懸けないと楽しくないからね!!!」

 

 タマモ渾身の呪いの一撃が、ベラトリックスを穿たんと迫る。しかし。残念なことに、真正面から喰らってくれるほど魔女は甘くない。

 

「ハッ、喰らってやる価値すらないね!!」

 

 魔女は嘲笑った。呪いなど、当たらなければ意味はない。この身に届くほどの威力もスピードもないのだ。

 ネビルが剣から放つ攻撃は、強力な分コントロールが難しく、隙も大きい。ベラトリックスほどの強者なら躱してカウンターまで入れる余裕がある。

ベラトリックスが回避行動を取ろうとしたその時。

──彼女の背後から、新たな刺客が現れた。

「……!?」

 魔女は目を疑う。

 あれは……名も知らぬ闇祓い……!!

 

「いっけええええええ!!!!」

 

 闇祓いは乗っていた箒をベラトリックス目掛けて突進させて、衝突の寸前、彼は箒から飛び降りる。

 箒で体勢を崩して、ネビルの放ったタマモの矢を当てる算段か──!!

 

「コンフリンゴッ!!!」

 

 しかし悲しいかな、魔女の反射神経が勝った。

 右手に上げた太陽を爆散させて、箒も何もかもを、一切合切焼き尽くす。その上で咄嵯に身を翻して、間合いを外す。

 こうすれば、箒で飛ぶなどという小細工はもう彼女に通用しない。天を目指したイカロスがその身を焦がしたように、愚か者には相応の処罰が降る。

 結局──ベラトリックスに届いたものは何一つとしてなかった!タマモの矢も、闇祓いの箒も、彼女に当たることはなく……!

「……」

 魔女の視界の端。闇祓いが宙を落ちるのが見える。間一髪のところでジキルともう一人の闇祓いに助けられたようだ。運のいいやつ……、

 

 

 

「ベラトリックスゥゥウウゥゥウウ!!!」

「がッ!!!???」

 

 

 

 ベラトリックスの首元に、ネビルの剣がぶち当たる。

 カキン──鎧と剣が弾けて、金属音が高らかに鳴る。

 何故だ、箒は焼いた筈……ッ!?

 

「ハッ……守護悪霊……!?」

 

 ネビルを抱えるようにして、ベガの守護悪霊がベラトリックスを睨みつけていた。ここまで飛ばしたのか!?

 グリフィンドールの剣は、とうとう、ベラトリックスの首筋まで辿り着いた。ライオンが、魔女の喉笛を食い破らんとしている!!

 

「タマモ──君が『二発』も呪いの矢を込めてくれて助かったよ、本当に!!!」

「!?まっ、待てッ!!」

「喰らえええええええ!!!!」

 

 至近距離から飛び出したその呪いを、魔女は躱す術を持ち合わせてはいない。何十もの怨念を凝縮したニホン産の死の呪い。鎧を着ていなかったら軽く十回は死んでいるところだ。

 落ちていく。ブースターを制御できず、燃え盛る火焔を維持できず、ただ落ちていく。苦痛と苦悶と悔しさで脳が千切れそうだ。

 太陽は、洛陽する!

 いや──いや──!

 違う!まだ負けてない!!

 

(私は死んでいない!!死んでいないぞ!!あれだけの呪いを喰らってまだ生きてる!!真域の無尽蔵のエネルギーと鎧が私を守ったんだ!!!)

 

 あらゆる書庫を漁り、錬金し、いくつもの禁術を施して創られた金属でできた鎧だ。想像以上の防御性を持っていたのだ、この鎧は!

 感覚として理解できる。

 手脚が石のように動かないのも、鉛のように重たいのも、あくまで一時のこと。少し待てば、動けるようになるだろう。鎧とヒトの中間の生命体になった私なら、それができる!

 

 待っていろ!!すぐ焼き殺してやる!!

 

 ベラトリックスに再び闘志が宿った瞬間、視界の端に何かが映った。

 それは銀色に輝く、小さな何かだった。

 あれは……? 銀色の小さな物体は、落下するベラトリックスの懐に飛び込んできた。

 そして、彼女は見たのだ。

 銀色に輝く美しい髪の男の姿を。

 静かに燃ゆる、その()を。

 

「ベ、ガ……!!!」

「簡単な理屈……、鎧が死の呪いすら弾くのなら、鎧の内側に攻撃すりゃあいい。なあに、視点発火と要領は同じだぜ」

 

 右手に、最大限の焔を。

 左手は、飛ばす術式を用意する。

 

「俺は見ていた。戦って、弾き出した。あんたがどういう行動に出て、どういう動きをするのか……俺はずっと見ていた。分かるんだよ」

「ベガァァァアアアアアア!!!」

 

 何かがまずいと思った。

 理屈ではなく本能が、彼女を突き動かした。

 動かぬ身体に鞭打って、無理矢理焔を噴出して。肉体が動かなくとも、鎧ならば動かせる。爪を振るうことはできずとも、体当たりくらいならできる。ベラトリックスは残った力を振り絞って、最後の抵抗を試みた。

 ジェット噴射のように、一直線に。鎧ごとベガの所へと飛ばんとする。

 しかしもう遅い。

 何もかもが遅すぎる。

 何故なら計算は済んでいる。先刻の戦いの中から思考を読み取って、そして狭めて、次の行動すらも読んで、後はその位相に用意するだけだから。

 全てを見透かす蒼き瞳は、既にベラトリックスを捉えている。それは、死を告げる悪魔のような。

 

 

 

 

 

「──終撃、(モルス)

 

 

 

 

 

 ベラトリックスの内側から、火焔が噴き出して。

 絶対無敵の鎧は、火を吹いて弾け飛んだ。

 




名前のない闇祓いさん滅茶苦茶頑張ってない?
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