真域の魔法。
遍く魔法の最高到達点、人の身が出せる凡そ規格外の超過魔力、人理の極み。その域に辿り着いたならばそれ以上は存在しない、魔法の究極の結実。
ベラトリックス・レストレンジとベガ・レストレンジが扱っているのは、そのレベルの無法。神業同士の戦いに常識は通用しない。
真域という武器を手に、どちらが巧く扱えるか、どちらがより優れた使い手なのか。そういう勝負だ。発想のスケールで負けた瞬間、勝敗は幕引かれる。
ベラトリックスは経験が。
ベガには才能が。
それぞれ与えられていた。ベラトリックスの戦闘は、どこまでも乱雑なように見えて、恐ろしく技量が高く、そして正確無比だ。慣れない接近戦がメインだからか、少し手こずっているようだが、それでも、彼女の戦闘経験値からなる攻撃に、一切のブレはない。
強い──強すぎる。ベラトリックスは。
(──あァ。分かってる。紅い力はあくまで魔力の底上げをする力……ベラトリックスの火炎魔法の腕は、奴自身の能力が一流だからだ。
紅い力だけじゃないんだ、こいつの強みは。
だが──……)
それでも死神は、ニヒルに笑う。
「お前の魔力が無限なら──
俺もまた無限だァ──!!」
命を運ぶ黒山羊。
祈りと福音の不死鳥。
終わりの鐘を告げるブラックドッグ。
──なんとなしに理解した。真域は、あるいは神域は、死を実感した者でないとその真髄に気付けない。
『生死を超越した力なのだから、命を懸けるのが最低限の代価』という傲慢な神の理屈。だからこそベガも、ベラトリックスも、真域の条件を満たせたのだろう。
女は求めた。傷つくことのない鎧を。
男は求めた。倒れることのない焔を。
そして──ベガは得た。無限の魔力を、決して尽きぬことのない魔力を。失った魔力を、片っ端から『再生』していく無法。出し惜しみはしない。する必要がない。
──同じ真域使いの魔女は、ベガが、より一層の飛躍を見せたことを嫌でも理解した。
過ぎる一抹の不安。
ベガ・レストレンジは闇の帝王にも届き得る牙を持ち合わせており、その牙を突き立てられたとして、果たして生きていられるのか──という。
インクの染みのように、じんわりと広がる絶望。
搾取する側だった筈のベラトリックスの役割が回る。
ベガがいるそこは、本来、私がいるべき──。
「──ははっ、笑える!」
「あ゛………!?」
魔女の渇望を、魔法使いは一笑した。
「まあそう怯えることはねえよ。今まで散々人を殺して甘い蜜を吸ってたんだろ?絶望を味わわせてからぶち殺したんだろうが?今回もそれと同じだよ。
“つぎはおまえだ”」
死神の死刑宣告。
心臓を、冷えた手で撫でられたような不快感。
無敵の鎧を得ても、真域の火焔を使おうとも、覆すことのできない立ち位置。最強の座。ベガが、深淵の狭間で笑っているかのような、言いようのない気持ち悪さ。
優っているはずだ。奴の全てに。
勝っているはずだ。奴の総てに。
──では、何だ、このぞわりと総毛立つ淀みは!!!
鎧を身に纏ってなお、拭いきれぬ焦燥。
積み上げたものを壊してまで、人間らしさを捨てて、勝利にこだわったのだ。これで勝たなければ、ただの愚か者だ。凡愚だ!両手の火焔ブースターを起動、舞うが如く流れる如く、焦熱殺意を両手に乗せて、噴煙で切り裂き殺さんとする。
対するはベガの未来視だ。特殊な開心術により相手の魔力の揺らぎを感知し、その僅かな挙動から予知するように動きを読む。見てから動ける、神速の神経衝撃が為せる離れ業。ただし、全ての生物の良いとこ取りをしたベラトリックスの鎧の動きには、見ることはできてもついていくことはできない。
だから、ベガは魔力の膜を全身に貼っていた。
その膜に攻撃が触れた瞬間にカウンターで魔力を解放し身を守る。この場合の魔力とは、すなわち守護悪霊による蹴打である。
圧巻のセンスによる、秀逸なる対応遍歴!
──殴打と蹴撃。
荒唐無稽の断末魔、享楽と狂気の混沌地。
驚天動地の
「強くなったモンだね、ベラトリックスさんよ。もっと強くなってくれていいぜ?世界二位の女を倒したとあれば箔もつくってモンだ」
「やめろ──やめろやめろ、お前が一番であるかのような物言いはやめろ!!!私が、私こそが、我が君の隣に相応しいんだ!!!」
「俺は才能と経験だけでここまできたけどお前は?
プチプチ殺してたんだっけ?精が出るな」
「〜〜〜ッ、貴様……ッ!!!貴様、貴様ァア!!」
ベガの調子は、これ以上ないくらいに絶好だ。
彼はもう決めている。もう、うだうだ悩みはしない。
目の前で死なせない、殺させない。目が届くところにいない人達は、仲間達が見てくれていると信じる。
それでもどうしたって、死んでしまう人はいる。
だから──せめて、死ぬ前に。抱え切れないくらいの花束を渡して送り出す。
「もしかして──…『命懸けでパワーアップすれば、相手が格上でも倒せることができる』なんて風に思ったわけじゃねえよな?そんな都合の良い世界じゃねえって、お前自身が証明してきたろうに」
「私を見下すな……!!」
「それとも何か?
ほんの僅かにでも、立てたと思ったのか?
俺の
「違う……そこは、お前の場所じゃない!!!
必ずもって、謝罪させてやるからね……!!!」
「…………。
ふえぇ〜ん!怖いよぉ〜!ごめんなさ〜いベラおばさ〜ん!ゆるしてくださ〜い!」
「黙りなァア!!!!!!!!!!」
これまでの鬱憤を晴らすかのように。魔女を苛立たせるために、ベガは暴君のフリを演じる。
最初に意図に気付いたのはネビルだった。
いくらベラトリックスに苛立っていたとはいえ、ベガの煽りはやや度が過ぎている。本音もあるだろうが、アレは魔女を自身に引き付けるため、口八丁で彼女を苛立たせているのだ。
「あいつ……まさか」
「ああ、ベガはベラトリックスを挑発して怒りを逆撫でして、冷静さを失わせようとしてるんだよ。ベガは自分から強さを誇示するタイプじゃないけれど、ベラトリックスの強さは否定したがってた」
殺して強くなる力──守るために強くなるベガとは対極に位置するもの。認めてたまるか、そんなもの。ほんの少しでも価値を見出してやったりするものか。
その挑発が、ベラトリックスを苛立たせる。
ベラトリックス・レストレンジは、強い。間違いなく、この世界の頂点の一角だ。
だが、その強さ故に、彼女は追い詰められている。なぜなら、どんな敵でも一方的に蹂躙できてしまえるようになった彼女は、圧倒的な力で叩き潰すことに慣れすぎてしまっている。それが彼女にとって、最大のストレスとなっていた。
ベラトリックスにとってこれは、強さを示す戦い。
ベガにそれはない。何故ならば、彼は本質的に強さというものに価値を見出していないから。あくまでツールの一つであり、道具でしかない。必要であって大事ではないのだ。
ベガにとってこれは、勝つための戦い。
(僕達を守るため…じゃないよな、ベガ。一番危険な役割をやりたがりはするけれど、僕達に一緒に戦おうって言うヤツだ。君はそういう男だ…!)
全てをノーダメージにする鎧と、
体力も魔力も全てを癒せる焔。
最強の盾と盾がぶつかった時に生じる綻びは、あくまでネビル達が入れねばならない──!
「マジで人間の動きじゃねえな。不死身か?
なあ、その鎧で何年生きれる?
それとも死なねえのか?」
「我が肉体は別の生物に昇華された!
天元の怪物たる私に寿命など存在しないんだよ!」
「知っておきたくてさ。生き恥を晒す年月をさ。
向こうウン十年“恥”を抱えたままなのは可哀想だろ?介錯してやるよ、今のうちにな!!」
来る!仕掛けてくる。ベラトリックスは構える。奴の腹の底から湧くような自信はどこから来るのかと。
悪霊の炎。
真域の焔。
守護霊の強化版、守護悪霊。
一年のインターバルを必要とする時間簒奪。
不死鳥の炎による再生能力。
不死鳥の炎による魔力の回復。
心を読む開心術による未来視。
この内の二つを、ベガは確かに使用してくる。
選択肢の中から常に最適を選ぶしかない。
最低限、これらを常に対処できるようでなければ勝利の芽は見えてこない……ッ!
(だがそのどれも、私に致命傷は与えられないだろう!?
何を狙ってる!?何を──…)
「──ハッ!?ジキル……ッ!!??」
「気付くのかよ……ッ!!」
意識の外より現れた男に、むしろ反応できるのは流石は腐っても戦闘巧者たるゆえんか。
何千何万という攻防の最中に生じる、僅かな隙。
その間隙をジキルは逃さなかった。
事前の打ち合わせはない。ベガですら、予測不能なタイミングで…それ故に突けた隙なのだ。
ジキルの、ブラックバーン家としての特質──触れたものを即席のマジックアイテムとして扱える能力──により、彼は透明マントを生み出していた…!
数秒しか保たぬ、オモチャのような効果であっても、効果はこの通り覿面だ。彼の手が、ベラトリックスの鎧に触れる!
「先祖から紡がれた血の誇りは、俺が継いでる。
そして純血は、ここで終わりだ!!」
「ッ──!!」
『魔力侵食』──半ば強制的に魔力の主導権を奪うその力が、鎧に作用する。
鎧の魔力をこちらのものにしようという判断か!
バチバチ、と稲妻が如き魔力反応音。重っ苦しい感覚が空気中に伝播して。
──そして、弾かれる。
結果が分かっていたかのように、余裕たっぷりにベラトリックスは咆哮した。
「アハハハ!残念だったねジキル!私があんたの能力に対策の一つも講じてないとでも!?残念!
この鎧は肉体と融合している!ブラックバーンの魔力侵食なんてあるものか!無駄な──」
「狙いはそこじゃねえよ、バカ!」
ジキルが主導権を奪おうとしたこと、それ自体が囮。
既に床はジキルの魔力侵食により簡易的な結界となり果てていて、彼女の足を掬う。
力を誇示することに頓着してしまった魔女は、そうであるが故に喰らってしまうのだ。
「──だからどうしたァァァアアアアアア!!!」
全て効かない──ということを証明するために!
元々、この程度の罠など効くべきもないが…。
たとえ身動きが取れなくとも、ベラトリックスには炎がある。全身から発せられる熱が、城を灼く。
魔女は魔力を右目に溜めた。
兜の下から覗く、火焔を帯びた瞳から、質量を持った熱光線が放たれる。近距離に特化した『鎧』だが、ベラトリックス生来の魔力を以てすれば、遠距離攻撃など容易いことこの上ない!魔力をひとところに凝縮したらばそれは、破壊のための光線となる!
崩落に次ぐ崩落!熱線が床や壁に赤い染みを線状に描いたかと思えば、そこから破壊されて、崩れ行く!
「陽動だの、罠だの、せせこましい真似を!あんた達がどれだけ足掻こうが無駄なんだよ!!……ああ、これを言うのも何度目だ!?」
(蜘蛛を散らすようにビビって逃げちまえば楽なものを!恐怖ってモンがないのか、こいつら…!!)
ベラトリックスが苛立つもう一つの理由。
絶対的な存在になった筈の自分に恐怖しない、という腹立たしさ。強さを疑われること、それ自体が自分への、ひいてはヴォルデモート卿への侮辱である。
魔女は天井に向けて火炎弾を放ち、破壊し──そしてふわりと夜空へと浮かぶ。火炎をジェット代わりにして飛んでいるのだ。
外は──流星群の光が瞬いていた。
降り注ぐ星の中、煌々と光る月明かりの下、竜の鎧は焔と共に舞う。
一人一人、嬲り殺していく算段だった。そうすれば心の安寧を得られるから。しかし、奴等の顔を見るだけで心が乱されるくらいなら、いっそのことソラから全てを消し去ってやる!
「
インセンディオ──単純ながらも強者が使えば右肩上がりに破壊力の増す、火の魔法。
痛いくらいに右の拳を握りしめて、一つずつ開く。
指が上がると同時、蝋燭のように小ぶりな焔が指の先に発火する。それを繰り返すこと五回──、全ての指を合わせると、掛け合わされた魔力は太陽と成る──!
あまりの熱量に空気が巻き上がり、城は溶けゆく。
呼吸が苦しい。全身に魔力を纏わなければ、火の傷が全身にできていたであろう。
神話だ、まさしく。
ただし、厄災の。
「全身の火焔エネルギーを凝縮してッ!全てを消し去ってやるッ!!もうそのツラを見せるな!!私をこれ以上否定するなァア──!!」
呪いを唱える様は、泣き喚く童女のようで。
しかし火焔はこの世の何よりも美しい線を描く。
太陽をその手に従えて、今にも業火の渦に沈めんと、高らかに右手を天に突き出した。
描かれる地獄絵図の中を、箒で単身、勇者は飛ぶ。
ネビル・ロングボトムは、片手にグリフィンドールの剣を持ち、片手でブラックバーンの箒を操作して、魔女の下へと飛んでいく。災いの焔を殺さんと、それだけのために。
「さあ、来い!」
彼は叫んだ。自分の声が届くように。
「僕を見てみろ、ベラトリックス!そして忘れるな!君の憎しみを切り裂いてやる!!!」
彼の声が届いたか、それとも気にも留めなかったのか。彼女は最大火力をぶちかます。ただひたすら、怒りに任せて焔を振り撒き続ける。
ベガの魔力のクリティカルヒット、火焔の十字架の方が瞬間的なパワーは上だろう。上だろうが──もし、ベラトリックスが無限に焔を浴びせ続ければすれば、いずれ根負けするのはベガの方!
その、前に──!!
「──その前に私を仕留めようってワケか!で、私を仕留める算段は見つかったのかい!?」
「これが答えだ!!!」
ネビルが剣を振りかざすと、そこから焔が放たれる。
蒼い焔…ベガが魔力を剣に込めていたか。
…だからなんだと言うのか?
ネビルの背後より、タマモの何百発もの援護射撃が放たれて、ベラトリックスを貫かんとする!
…だから、なんだと言うのか!
「奥の手があるんなら!!さっさと出しなァ!!
何を出し惜しみしてやがるんだい!!!」
──許せない。
己が牙城に踏み込んでくるこいつらが……、こいつらを、全力でないと勝てない相手だと認識してしまっている自分自身が……!
嫌だ、全力を出したくない。効率的な勝ち方をしたくない。それは心の敗北だ。ほんの僅かにでも相手を認めてしまうことこそが、すなわちヴォルデモート卿への背信と知れ。
無慈悲に、残酷に──それこそがベラトリックス・レストレンジの在り方だ!!!
「どうするつもりだ!!やってみな!!!!」
「うおおおおおおおおッ!!!」
吼えるネビルの声とともに。
焔の中から現れる『真打ち』──真っ黒い呪いの塊!
グリフィンドールが吐き出したのは焔だけではない。そのドス黒い魔力の矢を、彼は放ったのだ。
そして装填したのは、言うまでもなく──!
「メルム・メンス・メトゥス──
──殺生石、顕現!!」
タマモの『死の呪い』──その凝縮体!
ニホンが誇る、殺すためだけの怨念の呪い!使用者に代償を要求する死ぬ気の一矢……ッ!
なるほどあらゆる魔力を無効化する鎧だろうと、死の呪いを受ければ僅かばかり機能は停止するだろう。
「あんまり命を懸ける、だなんて言葉、使いたくはないけどさぁ〜!命を懸けないと楽しくないからね!!!」
タマモ渾身の呪いの一撃が、ベラトリックスを穿たんと迫る。しかし。残念なことに、真正面から喰らってくれるほど魔女は甘くない。
「ハッ、喰らってやる価値すらないね!!」
魔女は嘲笑った。呪いなど、当たらなければ意味はない。この身に届くほどの威力もスピードもないのだ。
ネビルが剣から放つ攻撃は、強力な分コントロールが難しく、隙も大きい。ベラトリックスほどの強者なら躱してカウンターまで入れる余裕がある。
ベラトリックスが回避行動を取ろうとしたその時。
──彼女の背後から、新たな刺客が現れた。
「……!?」
魔女は目を疑う。
あれは……名も知らぬ闇祓い……!!
「いっけええええええ!!!!」
闇祓いは乗っていた箒をベラトリックス目掛けて突進させて、衝突の寸前、彼は箒から飛び降りる。
箒で体勢を崩して、ネビルの放ったタマモの矢を当てる算段か──!!
「コンフリンゴッ!!!」
しかし悲しいかな、魔女の反射神経が勝った。
右手に上げた太陽を爆散させて、箒も何もかもを、一切合切焼き尽くす。その上で咄嵯に身を翻して、間合いを外す。
こうすれば、箒で飛ぶなどという小細工はもう彼女に通用しない。天を目指したイカロスがその身を焦がしたように、愚か者には相応の処罰が降る。
結局──ベラトリックスに届いたものは何一つとしてなかった!タマモの矢も、闇祓いの箒も、彼女に当たることはなく……!
「……」
魔女の視界の端。闇祓いが宙を落ちるのが見える。間一髪のところでジキルともう一人の闇祓いに助けられたようだ。運のいいやつ……、
「ベラトリックスゥゥウウゥゥウウ!!!」
「がッ!!!???」
ベラトリックスの首元に、ネビルの剣がぶち当たる。
カキン──鎧と剣が弾けて、金属音が高らかに鳴る。
何故だ、箒は焼いた筈……ッ!?
「ハッ……守護悪霊……!?」
ネビルを抱えるようにして、ベガの守護悪霊がベラトリックスを睨みつけていた。ここまで飛ばしたのか!?
グリフィンドールの剣は、とうとう、ベラトリックスの首筋まで辿り着いた。ライオンが、魔女の喉笛を食い破らんとしている!!
「タマモ──君が『二発』も呪いの矢を込めてくれて助かったよ、本当に!!!」
「!?まっ、待てッ!!」
「喰らえええええええ!!!!」
至近距離から飛び出したその呪いを、魔女は躱す術を持ち合わせてはいない。何十もの怨念を凝縮したニホン産の死の呪い。鎧を着ていなかったら軽く十回は死んでいるところだ。
落ちていく。ブースターを制御できず、燃え盛る火焔を維持できず、ただ落ちていく。苦痛と苦悶と悔しさで脳が千切れそうだ。
太陽は、洛陽する!
いや──いや──!
違う!まだ負けてない!!
(私は死んでいない!!死んでいないぞ!!あれだけの呪いを喰らってまだ生きてる!!真域の無尽蔵のエネルギーと鎧が私を守ったんだ!!!)
あらゆる書庫を漁り、錬金し、いくつもの禁術を施して創られた金属でできた鎧だ。想像以上の防御性を持っていたのだ、この鎧は!
感覚として理解できる。
手脚が石のように動かないのも、鉛のように重たいのも、あくまで一時のこと。少し待てば、動けるようになるだろう。鎧とヒトの中間の生命体になった私なら、それができる!
待っていろ!!すぐ焼き殺してやる!!
ベラトリックスに再び闘志が宿った瞬間、視界の端に何かが映った。
それは銀色に輝く、小さな何かだった。
あれは……? 銀色の小さな物体は、落下するベラトリックスの懐に飛び込んできた。
そして、彼女は見たのだ。
銀色に輝く美しい髪の男の姿を。
静かに燃ゆる、その
「ベ、ガ……!!!」
「簡単な理屈……、鎧が死の呪いすら弾くのなら、鎧の内側に攻撃すりゃあいい。なあに、視点発火と要領は同じだぜ」
右手に、最大限の焔を。
左手は、飛ばす術式を用意する。
「俺は見ていた。戦って、弾き出した。あんたがどういう行動に出て、どういう動きをするのか……俺はずっと見ていた。分かるんだよ」
「ベガァァァアアアアアア!!!」
何かがまずいと思った。
理屈ではなく本能が、彼女を突き動かした。
動かぬ身体に鞭打って、無理矢理焔を噴出して。肉体が動かなくとも、鎧ならば動かせる。爪を振るうことはできずとも、体当たりくらいならできる。ベラトリックスは残った力を振り絞って、最後の抵抗を試みた。
ジェット噴射のように、一直線に。鎧ごとベガの所へと飛ばんとする。
しかしもう遅い。
何もかもが遅すぎる。
何故なら計算は済んでいる。先刻の戦いの中から思考を読み取って、そして狭めて、次の行動すらも読んで、後はその位相に用意するだけだから。
全てを見透かす蒼き瞳は、既にベラトリックスを捉えている。それは、死を告げる悪魔のような。
「──終撃、
ベラトリックスの内側から、火焔が噴き出して。
絶対無敵の鎧は、火を吹いて弾け飛んだ。
名前のない闇祓いさん滅茶苦茶頑張ってない?